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佐山初音と東沢健二 [Lento 2,夏]

Lentoの休憩室
初音がお茶を飲んでくつろいでいる所へ健二が

「あ、初音さんお疲れ様です。」
「あら、健二君も上がり?」
「はい、洗い場は大輔に引き継いだ所です。」
「浅木君を洗い場から引き抜いてごめんなさいね。」
「はは、大丈夫ですよ、支配人もマネージャーもちゃんとした子しか入れませんから一人抜けても問題ないですよ、敏腕マネージャー。」
「お世辞を言っても何も出ないわよ。」
「ところで浅木をサブマネージャーにして、プロジェクトに力をかけれる様にするんですよね?」
「そうよ。」
「進み具合はどうなんです?」
「プロジェクト和音は、月末のミニコンサートの次に500人規模のホールを借りて演奏会ってプランがあるわ。」
「Lentoを飛び出すってことですか、確かに中村和音のピアノはレベルが違いますからね、でもまだ無名だから500人って大丈夫なんですか?」
「入りきるかしら?」
「えっ?」
「演奏会は、もうLentoの席数ではお客様にお答えしきれないという意味合いもあってのことなの、才能が開花してこれから有名になって行くであろうピアニストを色々な人に紹介したいってお客様が沢山いるわけ。」
「う~ん、確かにプロの演奏を聴いていて、和音ちゃんの方が良いな、と思うこと少なくないです。」
「Lentoがバックアップしてファンクラブを作って、定期演奏会を開いて行くって方向性よ。」
「そこまでとは思ってませんでした、演奏会はソロでやるんですか?」
「和音ちゃんとは次のコンクールが終わってから細かい所を決めていこうと思ってるけど、ソロをメインにしてピアノ三重奏プラス1とかも入れることになると思うわよ。」
「ということは真子ちゃんも。」
「そうよ、プロジェクト和音と平行してプロジェクト真子も進んでいるってことね。」
「洗い場だと彼女の踊り、なかなか見る機会ないんすよ…。」
「そうね、スタッフパーティーの時ぐらいか。」
「この前のは感動しました、演奏と踊りが別次元の空間を造りだして、絵画の世界がそこにあるという、これが芸術ってものなんだと思いましたよ。」
「私も終わったあとしばらく動けなかったわ。」
「つくずくLentoで働いていて良かったと思いました。」

「そうそう、和音ちゃん達とはちょっと違うけど、あなたも芸術の一部なのよね、白川さん褒めてみえたわよ、君のこと。」
「そうなんですか?」
「洗い場の仕事が芸術的にきっちりこなされているってね。」
「へへ、俺、結構洗い場好きなんですよ、汚れたものがきれいになって整理されて行くのって気持ち良いじゃないですか。」
「なるほどね、そういう気持ちがあるから芸術的な仕事ができるのね。」
「Lento大好きだし、白川オーナーの、Lentoを芸術にしたいって考え絶対良いって思ってます。」
「私もよ、従業員もシステムも、より完成度の高い物を目指しているから今のLentoがあると思っているわ。」
「で、初音さん。」
「何?」
「俺もプロジェクト和音やプロジェクト真子に参加させて下さい。」
「もちろん、そのつもりよ。」
「や、やった~!」


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中村和音と柳原真子 [Lento 2,夏]

Lentoの休憩室和音が真子に絵を見せている

「ねえ真子、この絵どう?」
「あら、花と妖精の絵なのね…、柔らかくて暖かくて…、良い絵ね。」
「でしょ。」
「誰が描いたの?」
「厨房の茂根くん。」
「えっ彼、画家だったの?」
「趣味で描いてるんだって、大学も普通に経済学部だしね。」
「人は見かけによらないものね。」
「実はこの絵、頼んで描いてもらったの。」
「ムム、和音、お主何か企んでおるな?」

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中村和音と青山三郎 [Lento 2,夏]

Lentoのロビーでくつろぐ青山、そこへピアニスト中村和音が通りかかる

「和音ちゃん。」
「あっ青山さん、こんにちは、何時もお世話になっています。」
「こんにちは、最近はどうですか、何か困ったこととかありませんか?」
「有難うございます、そうですね~困ったことですか? 何か順調過ぎて、それが困ったことかもしれません。」
「はは、順調なのは良いことじゃないのかね。」
「コンクールでの金賞は思ってもみなかったことですし、すごく大勢の方が応援して下さって、正直、戸惑っています。」
「君は一気に成長したからね、でも自信を持っていいんだよ、実力のないピアニストを誰も応援しないから。
「あ、有難うございます。」

「そう言えば留学の話が出てたんじゃないの?」
「ええ、そうなんですけど…。」
「あまり、乗り気じゃなさそうって聞いたけど?」
「はい…、コンクールで賞をいただいたこともあって、大学から話がきたんです、若い内に海外で学ぶことも大切だって。」
「確かにそうだな。」
「でも留学って頭になかったし、とりあえず言葉の問題があるじゃないですか、ピアノを弾く時間を語学学習にとられそうですし、彼とも…。」
「はは、悩み多き乙女ということか。」
「Lentoでも演奏したいし。」
「そ、そうだ和音ちゃんの演奏を聴けなくなったら私の人生は真っ暗だ。」
「ふふ、大げさですね。」
「いや嘘じゃない、和音ちゃん遠くへ行かないで~。」

「実はこの前、白川さんとお話ししたんです。」
「Lentoオーナーの?」
「はい、白川さんは留学したかったら全面的にバックアップすると言って下さいました。」
「さすが太っ腹オーナーだな。」
「でも、気が進まないという話しをしていたら、めずらしく考え込まれて…、白川さんとお話しさせていただいていて、あんなに間が空いたのは初めてでした。」
「そうか、白川オーナーも奇策を練るのに時間がかかることもあるわけなんだね。」
「ふふ、そうなんです。」
「えっ? ほんとに奇策?」
「奇策という表現が当たっているのかどうか、まだわかりませんが、白川さん、留学の意味は? と訊ねられたんです。」
「留学の意味か、君は何て答えの?」
「はい、視野を広げるとか、人脈を作るとかも有るかもしれませんが、やはり自分の音楽性の向上ではないかと。」
「君は、今のままでも名ピアニストだよ。」
「いえいえ、まだまだひよっこです。」
「その気持ちが良いのかもしれないな、ひよっこだから大胆にもなれる。」
「あら、白川さんの話し聞いておられたのですか?」
「まさか。」
「師匠を間違えて、その大胆さを失ってしまったら意味ないとも。」
「確かにそうだ。」
「それで…。」
「それで?」
「留学でしか得られないことも有るだろうけれど、留学してしまったら得られないことも有る、とおっしゃって。」
「ふむ、あるだろうな。」
「今度、私も含めたプロジェクト和音の会議で、きちんと形にして提案するから、留学はやめて欲しいと言われたのです。」
「う~ん、留学するなら全面的にバックアップと言っておきながらの提案だから、かなり自信がありそうだな。」
「はい。」
「で、返事はどうしたの?」
「あら、私はLentoの中村和音ですよ。」
「聞くまでもないってことだね。」


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長井祥子と緑川真 -1 [Lento 2,夏]

Lentoの休憩室、中村和音のピアノが流れている。
独りモニターを見る、緑川。
そこへ仕事を終え着替えを済ませた祥子が入ってくる。
緑川に軽く会釈をして緑川の近くの席へ。

演奏が終わるのを見計らって、緑川。

「祥子ちゃんお疲れ。」
「お疲れ様です。」

「祥子ちゃん卒業後のことは決まったの?」
「それが…、正直な所…、まだ方向性すら見えてなくて…。」
「卒業の方は問題ないんでしょ?」
「はい、今までやるべきことはやってきましたから。」
「何か問題でも?」
「そうですね…、大学に入る時は…、もちろん音楽の道でと…、だから、Lentoの学生プレイヤーオーデションにも応募させていただいたのですが…、私の実力では…、それでもLentoで働いていれば何かプラスになるかもと思ってホールで働かさせていただいてきた訳ですけど…。」
「何時もしっかり働いてくれるから助かってますよ。」
「でも和音ちゃんの演奏を聞いていて…、簡単に負けを認めた訳ではないんですよ、自分なりに和音ちゃんを目標にピアノの練習に打ち込んで…、でも多少の技術は磨けても彼女のセンスにはとても及ばなくて…。」
「彼女は特別ですよ。」
「そうですよね、それでいて先輩だからと私を立ててくれて…。」
「君がホールバイトの子達をよく面倒見てくれているからですよ。」
「でも、それは年長者として当たり前のことですから、私には真子ちゃんみたいな踊りの才能とかもないですし…、何の取り柄もない自分がいったいどんな仕事をしたらいいか分からなくなってしまって…。」
「やはりそうでしたか。」
「えっ? やはり?」

「実は今、君とここで話をしてるのは偶然ではないんですよ。」
「はぁ。」
「よく、あるじゃ有りませんか好きな子と偶然に出会うために1時間待つとか。」
「えっ? …? あはは、緑川さんって、はは、意外とお茶目さんなんですね。」
「まぁシフトが分かってるから長くは待たなくて済むんだけどね。」
「あ~、ずる~い。」
「ずるいついでに祥子ちゃんのこと、スタッフに色々聞いてみたんだけどね…。」
「え~! やっだ~!」
「その上でお願いしたいんだけど。」
「はい?」
「卒業後もLentoで働いてもらえませんか。」
「えっ?」


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長井祥子と緑川真 -2 [Lento 2,夏]

「今、Lentoが動いていることは知っているよね。」
「あ、プロジェクトのことですね。」
「そう、一年前には考えてもいなかったことを色々やってるよ、う~ん白川さんは今のLentoを頭に描いてたのかなぁ。」
「あらっ、緑川さんでもオーナーの深さは掴みきれてないのですか?」
「無理だよ、突然『えっ?』ってな提案が出て、数分後には納得させられている…、なんてしょっちゅうだからね。」
「へ~。」
「君のこともさ。」
「えっ?」
「どうやら祥子ちゃんは就職で悩んでいるみたいだから、うちで働いてもらいなさいって、白川さんがね。」
「えっ、えっ、白川さんにそんな話したことなかった筈なのに。」
「まぁ、卒業後も君がLentoに居て欲しいと思っているスタッフが少なからず居るのも事実なんだよ。」
「えっ?」

「初音さんはねLentoのサブマネージャーに、と考えているんだけどね。」
「そ、そんな才能、私には有りません。」
「そう思っているのは君だけじゃないかな。」
「そんな…。」
「君がホールに居るだけで安心感があるんだよ、何もしてなくてもさ。」
「何もしてなくてもって、さぼってるわけじゃあ…。」
「君が全体を見ていてくれる時は、初音さん、違う仕事ができるって言ってたよ。」
「あっ、そう言えばマネージャー、私が入った頃は、ずっとホールにいたのに、最近は…。」
「ほんと、どこでさぼっているのやら、支配人の私も同様ですけどね。」
「えっ?」
「だから、君が居ない時は他の仕事がはかどらないんですよ。」
「でも、優子ちゃんに…。」
「助かってますよ、君が優子ちゃんにアドバイスしてくれるおかげで、ずいぶん楽になりました。」
「彼女、積極的だから。」
「ほんと、少しは見習ったらどうですか。」
「はい…、就職のことで悩んでる自分が…。」
「彼女は君の2こ下でしょ?」
「そうです。」
「もう、就職内定してるんですよ。」
「え~、早すぎませんか、どこなんですか?」
「もちろんLentoですよ。」
「はぁ。」
「白川さんに直談判してね。」
「はは、あの子らしい。」
「祥子先輩みたいになりたいし、Lentoで働きたい、その気持ちを持って学習するのと、何となく資格を取って、どこに就職しようかな、ということでは、ずいぶん差があるからって。」
「あの子…。」
「白川さんは2,3の条件は出したけど即座に決定された訳だ。」
「そりゃ、あの子、経済学部だから…。」
「学部は関係ないですよ、君には資質があるから後輩の目標にされるのです。」
「でも…。」


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長井祥子と緑川真 -3 [Lento 2,夏]

「和音ちゃんのマネージャーという案も出ててね。」
「和音ちゃんのですか。」
「すでに必要な状態になってるから、この前話し合ったのですけどね。」
「和音ちゃん留学しないんですよね、あ~、したくてもできない人が沢山いるのにな。」
「その分、国内で色々な経験をして欲しいと考えていますし、海外のコンクールを目指すのも有りと考えています。」
「あの子にはマネージャー必要ですよね、ピアノ弾いてる時はぜんぜん緊張しないのに、ふふ、この前も…。」
「でしょ。」
「は、はい。」
「和音ちゃんは自分のマネージャーには君になって欲しいって。」
「えっ? ご指名ですか?」
「しかもね、祥子先輩が就職で迷っているのは、本当はLentoで働きたいけど、卒業後のLentoには自分の仕事がないって勘違いしてるからだって、白川さんも同意してみえた。」
「…。」
「もしかして図星?」
「う、梅干です…。」
「はは。」
「み、緑川ざん…。」
「うん。」
「ばたし…和音のバ、バネージャ、やりたいでず…やらぜでぐらざい…。」
「もちろん、おーけー、さあハンカチ使って。」

そこへ洗い場の大輔たちが通りかかる。

「あ~! 緑川支配人、祥子先輩を泣かせてる、祥子先輩大丈夫ですか? ぼくは何時でも先輩の味方ですからね。」
「ちょ、ちょっと待て、か、勘違いだよ、君たち。」
「大輔くんありがとう、嬉し涙だから心配しないで。」
「えっ? どういうことなんですか?」
「私はLentoの祥子よ。」
「何を当たり前なこと言ってるんですか、祥子先輩がいてLentoは回っているんですよ。」


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長井祥子と中村和音 [Lento 2,夏]

夏休み、祥子は卒業を待たずに和音のマネージャーを始めることになった。
卒業の目処はたっている。

「和音、当面のスケジュール表作ってみたから目を通しておいてね。」
「はい、祥子先輩。」
「ちょっと待って、先輩はやめてね、祥子でいいわよ。」
「う~ん、そっか、でも…、しばらくは、祥子さん、でいいかしら、マネージャー?」
「まぁいいでしょう、スケジュールは夏休み以降の学校行事とかも考えに入れてあるけど、個人的な予定はまだ考慮してないの、家族旅行とか、彼とのデートとかは早めに教えてね。」
「やっぱり先輩に頼んで正解だったな。」
「えっ?」
「頼りになるし、学校のこととかも詳しいし。」
「おだてても何も出ないわよ、それと恥ずかしい演奏したら私が許さないからね。」
「分かってます。」
「私がピアノあきらめたのあなたのせいなんだからね…、でも和音で良かったわ、思いっきりレベルの違いを見せ付けてくれたから、結構さっぱりピアニストの道におさらばできたのよ。」
「そうだったんですか…、私…、マネージャーお願いして本当に良かったのでしょうか。」
「緑川さんとお話ししてから、自分でも色々考えてみたの、ピアニスト目指していた頃は全く気づかなかったけど、私は裏方の方が向いてるかもって、で、裏方やるなら、表は一流や超一流の方がやりがいがあるでしょう。」
「うっ、一流ですか、プレッシャーですね。」
「何、言ってんのあなたはすでに超一流ですよ、天狗になってはいけないけど少しは自分の力を理解して欲しいわね。」
「でも、Lentoで演奏を始める前、コンクールは何時も予選落ちで…、ピアニストは無理かなぁ~って思ってたんですよ。」
「うそ!」
「うそじゃないですよ、でも諦めきれないで音大入って…、皆上手じゃないですか。」
「そりゃ下手な子は入れないわよね。」
「今まで教えてもらってきた先生方、技術面は一流って褒めて下さったんだけど…。」
「うっ、私、そんなこと言われたことなかった…。」
「でも、何かが足りないって思ってた時、Lentoのオーデションを知って応募したんです、自分の演奏を聴いてもらえてお金がもらえたら音大生にとってサイコ~、なことですしね。」
「そうなのよね~、私は落ちちゃったけど…、最初の課題は何を弾いたの?」
「一番好きな曲って言われたから『ねこふんじゃった』にしたの。」
「な、なに~?!」
「もちろん変奏曲に即興でアレンジしたんだけど、ちょっと前に飼い猫のチャトランが死んじゃたこと思い出しちゃって…。」
「次の課題の前に面接とかなかった?」
「楽しかったわ、何か白川さんとずっとおしゃべりしてた気がする。」
「私の時は緊張してぜんぜん話せなかったわ。」
「え~そうなの、でも最後の課題で困ったの。」
「苦手な曲、嫌いな曲ってやつね。」
「私、苦手な曲、嫌いな曲って思い浮かばないんですけどって正直に言ったら、じゃあリストの超絶技巧練習曲はどう?って言われて、苦手でも嫌いでもないんですけどって言ったら、聴いている人が楽しくなるようにアレンジできる?って。」
「あの曲は…。」
「アレンジして良いわけだから何とかなったの、原曲のままだったらちょっと楽しくはできなかったわね。」
「そ、それ、今度聴かせてくれない、多少違ってもいいから。」
「良いですよ、頭に残ってるから多分…、でもLentoのライブラリイへ行けば…、待てよ私のCDどうのこうので…、事務室に全部まとめて置いてあると思います。」
「じゃあちょっと行って来るわ。」


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長井祥子と東沢健二 -1 [Lento 2,夏]

Lentoの事務室、健二が資料の整理をしている所へ祥子が。

「あっ、東沢さん、お疲れ様です。」
「おっす、祥子ちゃん。」
「東沢さんプロジェクトの方はどうなってます?」
「う~ん順調と言えば順調なんだけど…。」
「問題もあるんですね。」
「まあ簡単じゃないことぐらい俺にもわかっていたさ。」
「何か深刻なことでも?」
「ほんと俺ってばかだぜ。」
「どじったんですか?」
「うん、大切な姫を奪われたってとこだな。」
「はぁ?」
「ねえ、祥子ちゃん、和音のマネージャー、俺と交代しない?」
「えっ? ははは、だめよ、和音は私のものですからね~。」
「時すでに遅しなんだよな…。」
「東沢さん…ってより、健ちゃんかな?」
「おいおい、俺の姫を奪った挙句格下げか?」
「のんのん、これから一緒に和音を最高の姫にしていく仲間に格上げね。」
「ふん、姫に何かあったら俺様が承知しないからな。」
「はいはい。」

「で、何か用なの?」
「ええ、姫のLentoオーデション時の音源あるんでしょ?」
「もちろん、姫の記録は驚くほど丁寧に保管されててさ、映像も残ってるよ。」
「えっ? じやあ他の子のは?」
「それなりに残っているんだけどね、驚いたのは、最近伸びてきてる子たちの記録はきっちり残ってるんだよ。」
「さすがLentoね。」
「真子ちゃんが踊る様に仕事し始めた頃のもあってね。」
「ホールで本格的に踊り始める前ってこと?」
「前も前、さらに驚かされたのは、茂根達也。」
「えっ? 彼は画家だから…。」
「あいつの絵がLentoのあちこちをさりげなく飾り始めた頃からの写真がちゃんと残してあるんだぜ、厨房で働く姿とかなんだけど。」
「まさかプロジェクト茂根を見越してってこと?」
「その、まさかとしか思えないレベルで彼の姿を追っているよ。」
「う~ん、そっちも見てみたい気がしてきた…、でも今は私の姫の全資料に目を通しておきたくなったわ。」
「だろうな、俺も今日は時間があるから付き合うよ、まずはLentoオーデションからだね。」


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長井祥子と東沢健二 -2 [Lento 2,夏]

パソコンの操作をする東沢。

「CD出す時にさ、毎回過去の演奏を入れてもいいかなって思っているんだ。」
「毎回って、何本出すつもり?」
「とりあえず5本、でも出そうと思えばすぐ10本ぐらいは出せる。」
「いくら何でも…。」
「和音ちゃん一曲完成させるのに時間のかからない人だし、即興もできるし。」
「でもそんなに出しても買ってくれる人がいないと…。」
「おいおい、少しは姫の力を理解して欲しいな、何本出しても採算ラインは軽く超えると思うよ、ただ綺麗な形で、シリーズ物みたいな感じでお客さんの手元に届けたいというのが我々プロジェクト和音の一致した見解でね。」
「次回のプロジェクト会議から私も参加するけど…。」
「まずは姫をもっと知っておかないとな。」
「そうね。」

モニターに映し出されたのは1年半ほど前の映像、和音が大学2年生になったばかりのもの。

「かわいい~。」
「おいおい始まるぞ。」

ねこふんじゃった、が始まる。

「出だしは普通のねこふんじゃったなのね。」
「まぁ、見てなって。」

普通に始まった演奏は、途中から転調を繰り返し全く別の曲になっていく。
確かに主題は、ねこふんじゃったなのだが、時に鍵盤の左から右へ複雑なメロディを奏でながら激しくかけあがり、時にはゆったりとひなたぼっこをしているかのごとくに。

「はぁ~、最後は短調か、飼い猫へのレクイエムなのね…、で、なんで、ねこふんじゃったなのよ!」
「俺に言われても。」
「なんで私が、ねこふんじゃったで泣かなきゃいけないのよ!」
「はい、ハンカチ。」
「ありがと…。」

「この演奏には裏話があってね。」
「どんな?」
「オーデション参加者は最初に全員揃って説明を聞くんだよ。」
「知ってるわよ! 私もオーデション受けたんだから!」
「ずいぶん不機嫌なんだな。」
「私も、それなりに自信があって受けたのよ。」
「そりゃそうだろうな、じゃあ白川さんの話も覚えてるかい。」
「緊張しまくりで、頭真っ白だったかしら。」
「最初の課題は、皆さんの一番好きな曲だから、思いっきり演奏して下さい、なんてことを毎回話して、何か質問は? というのがパターンなんだよ。」
「何か聞いた気もするわね。」
「大抵は何も質問なしで本番になるんだけど、和音が質問したわけさ。」
「ねこふんじゃったでも良いですかって?」
「その通り。」
「あの子、臆病なのに時々大胆なのよね、で?」
「もちろん、会場は大爆笑さ。」
「でしょうね。」
「ただ、白川さんはね、中村和音さん、ぜひあなたの、ねこふんじゃった聴きたいです、シューマンより楽しそうですからね、だってさ。」
「えっ? どうして、どういう…。」
「和音がLentoに一次審査用に送ったのはモーツアルト、シューマンはその頃学校で練習してたんだ。」
「えっ? ということは、白川さん…。」
「大学まで行っていたんだな。」
「じゃあ。」
「和音は、すぐその言葉の意味を感じ取ったわけだ。」
「あの子、そういったことは鋭いのよね。」
「この前本人が言ってたんだけどさ。」
「うん。」
「ねこふんじゃった即興変奏曲は彼女の一番の曲だったんだけど、白川さんの一言で、今までで最高の出来になったんだってさ、ちなみに即興だから演奏する度に全く違うものになるんだそうだ。」
「う~ん。」


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長井祥子と東沢健二 -3 [Lento 2,夏]

「さ、お次はリストの超絶技巧練習曲だね。」

演奏はゆっくり始まった。

「えっ? ずいぶんゆっくりね。」
「これに騙されちゃいけないんだ。」
「えっ?」

演奏は速度を増していく。
12曲を順序おかまいなく飛びまくりながら。

さらに速度を増した演奏は、まさしく超絶技巧としか表現できない。

最後はトップスピードから、いきなり最初のゆっくりとした演奏に戻って終わる。

「はぁ~、これがプロの演奏なのね。」
「当時はまだプロとは呼べなかったんだけどね。」
「私の時は他のオーデション参加者の演奏聴けたけど、この時はどうだったの?」
「聴けたんだ、だから、ねこふんじゃった、を聴いてリタイアした子も少なくなかったんだって。」
「でしょうね。」
「でも最後の和音ちゃんの演奏が終わるまで誰も帰らなかったそうだよ。」
「そりゃ、そうよね、それにしても、コンクールで予選落ちばかりだったなんて信じられないわ。」
「その秘密は…、う~ん俺も伝え聞いたことばかりだから、初音さんあたりから直接聞いておいて欲しいな。」
「そうね、初音さんや緑川さんはLentoデビューからずっと見守ってたのよね。」


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