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長井祥子と東沢健二 -2 [Lento 2,夏]

パソコンの操作をする東沢。

「CD出す時にさ、毎回過去の演奏を入れてもいいかなって思っているんだ。」
「毎回って、何本出すつもり?」
「とりあえず5本、でも出そうと思えばすぐ10本ぐらいは出せる。」
「いくら何でも…。」
「和音ちゃん一曲完成させるのに時間のかからない人だし、即興もできるし。」
「でもそんなに出しても買ってくれる人がいないと…。」
「おいおい、少しは姫の力を理解して欲しいな、何本出しても採算ラインは軽く超えると思うよ、ただ綺麗な形で、シリーズ物みたいな感じでお客さんの手元に届けたいというのが我々プロジェクト和音の一致した見解でね。」
「次回のプロジェクト会議から私も参加するけど…。」
「まずは姫をもっと知っておかないとな。」
「そうね。」

モニターに映し出されたのは1年半ほど前の映像、和音が大学2年生になったばかりのもの。

「かわいい~。」
「おいおい始まるぞ。」

ねこふんじゃった、が始まる。

「出だしは普通のねこふんじゃったなのね。」
「まぁ、見てなって。」

普通に始まった演奏は、途中から転調を繰り返し全く別の曲になっていく。
確かに主題は、ねこふんじゃったなのだが、時に鍵盤の左から右へ複雑なメロディを奏でながら激しくかけあがり、時にはゆったりとひなたぼっこをしているかのごとくに。

「はぁ~、最後は短調か、飼い猫へのレクイエムなのね…、で、なんで、ねこふんじゃったなのよ!」
「俺に言われても。」
「なんで私が、ねこふんじゃったで泣かなきゃいけないのよ!」
「はい、ハンカチ。」
「ありがと…。」

「この演奏には裏話があってね。」
「どんな?」
「オーデション参加者は最初に全員揃って説明を聞くんだよ。」
「知ってるわよ! 私もオーデション受けたんだから!」
「ずいぶん不機嫌なんだな。」
「私も、それなりに自信があって受けたのよ。」
「そりゃそうだろうな、じゃあ白川さんの話も覚えてるかい。」
「緊張しまくりで、頭真っ白だったかしら。」
「最初の課題は、皆さんの一番好きな曲だから、思いっきり演奏して下さい、なんてことを毎回話して、何か質問は? というのがパターンなんだよ。」
「何か聞いた気もするわね。」
「大抵は何も質問なしで本番になるんだけど、和音が質問したわけさ。」
「ねこふんじゃったでも良いですかって?」
「その通り。」
「あの子、臆病なのに時々大胆なのよね、で?」
「もちろん、会場は大爆笑さ。」
「でしょうね。」
「ただ、白川さんはね、中村和音さん、ぜひあなたの、ねこふんじゃった聴きたいです、シューマンより楽しそうですからね、だってさ。」
「えっ? どうして、どういう…。」
「和音がLentoに一次審査用に送ったのはモーツアルト、シューマンはその頃学校で練習してたんだ。」
「えっ? ということは、白川さん…。」
「大学まで行っていたんだな。」
「じゃあ。」
「和音は、すぐその言葉の意味を感じ取ったわけだ。」
「あの子、そういったことは鋭いのよね。」
「この前本人が言ってたんだけどさ。」
「うん。」
「ねこふんじゃった即興変奏曲は彼女の一番の曲だったんだけど、白川さんの一言で、今までで最高の出来になったんだってさ、ちなみに即興だから演奏する度に全く違うものになるんだそうだ。」
「う~ん。」


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