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61-町作り [岩崎雄太-07]

市民団体明日檜が中心となって呼びかけ、都市計画市民会議が始まる。
市民が自分達の町の将来を自分達で考えなくては本当の改革は出来ない。
サイトは株式会社岩崎が用意した、観光客向け情報サイト、地元の産物を扱う通販サイトも順次オープン、広告料でサイトの設備費や開発、運営費を賄い、それを越える収入が有れば明日檜の活動へ回す、質問が寄せられた事も有り、その収支はすべて公開。
掲示板のスレッドはすぐに増え、様々な提案が寄せられた。
市への提案だけでなく、民間企業に対して、こういう店を作って欲しいといった提案も有り、すぐさま踏み込んだ営業内容をまとめたり、簡単な見積もりを出してみせる者も現れる。
それに対して検討したいという会社も現れた。
市民の提案が民間の手で実現する可能性が示された事により更なる提案を呼ぶ。
市役所の来年度予算に向けての解説も学生が中心になって分かり易くまとめて公開。
それを受けて、今までの予算についても議論が白熱、市の担当者はそれらの議論を参考に予算案を立て公開となる。
もちろん中長期の都市再生計画案も市民会議から出された。
多くの参加者が考えたのは、官民一体となって、短期で結果を出せば中長期計画に向けての予算が増やせるという事だ。

「谷川先輩、市民会議のサイト賑わってますね、都市計画とは少し違った話題も有りますが。」
「まあ、賑わう様に秋山市長や岩崎理事とも相談して誘導してるからね。」
「誘導ですか?」
「基本はネット上の動きなんだけど、面白い提案や結果が出始めた事に関しては明日檜メンバーにお願いして、口コミで広めて貰ってるんだ、目標は多くの市民に都市計画市民会議や市民団体明日檜の活動に対して興味を持って頂く事だよ。
自分達の住む町が変わろうとしている事を知って貰わないとね。」
「それでも口コミでは大した効果がないのでは有りませんか?」
「はは、口コミをなめちゃいけないな、噂が広まるのは早いのさ。
実際、イベント広場への道路沿いは道路拡張や新店舗建設の話が出ているだろ、それを受けて地主たちが相談を始めたそうだよ。
まあ、如何に高く売ろうかという算段だろうが。」
「土地が値上がりすると計画が遅れますよね。」
「実は多少遠回りになるが別ルートの土地を、岩崎理事関係の会社が格安で手に入れている、廃村復活を始める段階で先を見越してね。
あそこの地主たちが高く売ろうとか考えたら、遠回りでも別ルートで開発、安く売ってくれるなら、別ルート沿いは住宅地になるだろう、今はお花畑になってるけどね。」
「あっ、あのお花畑はずっと続ける訳ではないのですか。」
「ああ、その代わりの観光資源は増やして行く、今まで一泊で来ていた人が二泊したくなるような形を検討しているんだ。
例えば、今までイベント広場は週末の若者向けイベントが中心だったが、平日に中高年向けのイベントも企画したりとか。」
「その利益を次への投資に回すのですね。」
「そういう事、健全な経済活動を後押しして行くのが我々の役目だからね、まずは税収を上げつつ、官民一体となっての中長期戦略を練らないとな。」
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62-地方都市 [岩崎雄太-07]

秋山史枝が市長を務める地方都市は急成長している。

廃村から若者の力によって蘇った地のイベント広場をシンボルとする町は、商業と娯楽のエリアとして拡大、周辺の市町村からも多くの客が訪れている。
谷川達が仕掛けた、都会の流行に捉われず自分達の個性を発信して行こう、という取り組みが成功した結果でもある。
東京だけで流行を決めるんじゃない! 田舎者ですがなにか? 私の彼は養豚場で働いています、といったコピーは多くの若者にインパクトを与えた。
店は、廃村復活プログラムスタート直後に設立された株式会社が市民から資金を集める形で建設し運営している。
どの店も黒字になっているのは、谷川の指示の下、コンサルタント会社と岩崎学園大学の学生がマーケティング調査に基づいて運営に協力しているからだ。
ここで売られている商品は市内で製造された物が中心、地元の中小企業を潤わせている。
商業と娯楽のエリアから少し離れた所に製造業の工場が集まる工業団地を造成したのは雄太の関連会社。
そこには町中から大小様々な工場が移転し始めている。
移転を決意した企業のほとんどは、谷川の指導の下業績を伸ばして来た。
観光客の足を新しい商業エリアへ向かわせる企画も成果が出始めていて、この先も売り上げの増加が見込めると判断しての判断。
新たな宅地開発も進む。
町の再生に伴って、仕事が増えている、就職で町から出る若者が減っただけでなく、都会から故郷に戻る道を選ぶ人も増えている。
また、町の中心部から越して来る人も。
それは。

「谷川社長、市の中心部を区画整理しながら再開発というのはかなり時間が掛かりますよね。」
「恵梨香、それでも進めて行かないと次の発展に繋がらないだろ、勢いのない地方都市の中心部は信号だらけの狭い道路ばかりで快適とは言えない所が少なくない。
地権者の問題、予算の問題が有るだけでなく、人口の減少が見込まれる地域では手を付ける事も出来ないのだろうが。」
「そうですね、岩崎村に通じる地方都市も中心部はひどいものでした、大きな都市でもないのに。
人の流れが集中してしまうのはどうしようもないのでしょうか?」
「混雑は道路の構造にも問題が有ると思うが、人を大勢集めた方が効率が良い面もあるからな、だがここでは人口増加を見越して、施設の分散化を計っていける、君は今まで商業エリアの売り上げアップに大きく貢献して来てくれたが、そろそろ町全体のパワーアップにも目を向けて欲しいと思っていてね。
今、取り組んでる仕事は後輩に引き継いで、町の再開発計画に参加して欲しいのだがどうかな。」
「谷川社長が中心になって取り組んでおられるプロジェクトですか?」
「ああ、駅前の再開発を中心に官民一体となって検討、他の都市との差別化を計ろうとなったが、具体的にはこれからなんだ、押しの恵梨香に活躍して貰えないかと思ってね。」
「社長まで、押しの恵梨香はよして下さいよ、ちょっと熱心にお願いしてるだけですから。」
「はは、分かってるよ、他の連中が説得出来ない様な人でも、その人の心理を考えて説得に成功している君の能力に気付けていない連中も多いが、君のファンは多いからね。」
「でも、皆さんご高齢ですよね、私もそろそろ彼氏が欲しいのですが。」
「ふむ、これからプロジェクトを進めて行く過程で色々な出会いの機会を作ってあげるよ、優秀な人が集まって来ているからね。」
「社長、私、頑張ります!」
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63-お手本 [岩崎雄太-07]

岩崎家のリビング。

「雄太、明日は大学よね、向こうの最新ガイドマップが届いてるわよ。」
「出来栄えはどうだ。」
「見やすくて良いと思う、それにしても廃村復活に取り掛かった頃と比べたら随分発展したわね。」
「ああ、でもただ発展させただけでなく色々工夫がなされているそうだよ。」
「どんな?」
「一つの施設だけで観光客が一日楽しめれば無駄に道路が混む事もないがそんな施設ばかりではない。
かと言って複数の施設が一か所に集中し過ぎていては混雑してしまう。
距離を取れば無駄に道路が混む事に。
程よい距離でバランスの取れた配置をして、施設間を楽しく歩ける様に店の配置や景観に配慮しているそうだよ。」
「なるほどね、新しい住宅地と工業団地も程よい距離なのかしら。」
「もちろんさ、住宅地と商業エリアの距離も、それと駅前も商業エリアとして再開発しているのは客を分散させても充分に利益が出せるとの見通し有っての事、更なる集客を考えているよ。」
「そこまで、あの町に客を集中させてしまっても良いのかしら?」
「本当は今ままでも、あのエリアの中核都市としてもっと賑わってなければならなかったのさ。
映画館すら無かったから、若者が大都会を目指してしまうのは当たり前の事だった、中核都市が元気なら周辺市町村にも少しずつ活気が戻って来ると思う。
東京の繁華街に興味を持ってる人や芸術、芸能の道に進みたいと考える人などはともかく、普通に会社で働こうと思う人にとっては、住み易い町になったと思うよ。」
「そっか、目指していた地方都市のお手本が形になってきたのね。」
「ああ、新しい地方都市の形として、これからアピールしていく事になる、新しい村を岩崎村で提案して来た様にね。
そうそう、秋山女史は歴代県知事初の出産となりそうだよ。」
「えっ、それはおめでたいわね。」
「県政に向けて組んだ七人の侍が機能してるから何の問題もないだろうと話してた。」
「市長として結婚、知事として出産というのは古い考えの人にとってはインパクト強いでしょうね、女性の働き方に対しても一石を投じる事になればいいけど。」
「県政の改革も進み始めているとはいえ、利権がらみで簡単には行かないそうだ、みどりの風が頑張って議席を増やさないといけない所なんだが国との関係も有る。」
「次の選挙で国会議員を擁立するのでしょ。」
「ああ、だが、当選した所で当分の間は何も出来ないに等しいからね、与党と連携になるのかな。
政治経済学部を設立した事によって将来の議員候補は出て来ているが、器的に小さくて、谷川レベルはさすがにいないよ。」
「あっ、谷川くんの結婚式はもうすぐだったわね。」
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64-更生 [岩崎雄太-07]

谷川淳一が社長を務めるコンサルタント会社は順調に伸びている。
社員は岩崎学園大学の卒業生で固めた。
彼等の勤務地は日本全国に散らばっているが、基本的に本人の希望地を優先。
支社、支店の類はなく、すべてのデータは本社で処理している。
現地の社員は担当する企業を回り自分の目で現状確認、本社で整理された情報を元に改善策を練り顧客企業に提案。
検討した結果、改善が難しいと判断した案件は谷川に相談というルールは徹底されている。
見栄を張って自力であがく事は顧客に対して迷惑が掛かり、会社としてもマイナスだからだ。
谷川は、そんな難しい案件も短期間で解決していく、時には裏技的手法を用いる事も有ったが、誰も気が付かなかった一手を打ち出す谷川の手腕は天才的と評されている。
雄太からも絶対的信頼を置かれていて、必要が有ればグループ企業を動かす事も可能、すでに業務提携まで進んでいる企業も多い。
その動きは中小企業再編による地方の活性化を狙っての事、単に金儲けだけを目的としない姿勢が会社を伸ばしているのだろう。
そんな中、本社では。

「おい島根の話聞いたか?」
「ああ、過疎地の再開発に岩崎社長と谷川社長がゴーサインを出したんだろ、でも条件悪すぎるよな。
岩崎村でさえ、あのエリアと比べたらかなり好条件だったと言えるぐらいの所だぞ。」
「地方都市の再開発は基本現地で資金を確保しているけど、過疎地ではそうもいかないわね、岩崎社長が大きく投資されるのかしら。」
「ちょっと聞いてくれるか、まだ正式発表の前だが皆には理解して欲しい事が有って…、俺も島根のプロジェクトに係わっているんだ。」
「そうか、問題のない範囲で教えてくれよ。」
「あそこでは、刑務所から出て来た人の更生を考えてる、ちょっと考えてみて欲しいのだけど、罪を犯しました、捕まって刑務所暮らし、刑期を終えて出所、仕事が有りません、さあどうする?」
「簡単に金が手に入る道に非合法でも進みかねないな。」
「仕事が有れば更生出来る人も少なくないそうなんだ、だがそう簡単には行かないみたいで。」
「しかし、再開発の村が無法地帯となったりしないのか?」
「その村の再開発に携わるかどうかは本人が決める事、提案はするが誰も強制できないだろ、むしろ出所してすぐに住まいと仕事が有れば、落ち着いて社会復帰できると支援団体の人が話していたよ。」
「どんな仕事をして貰うつもりなんだ?」
「村自体の開発と、刑務所内で技術を磨いてる仕事が中心になるが、マーケティングはみんなに協力して貰えないかと思ってさ。」
「うまく行けば再犯率を下げられるという事なんだな。」
「ああ、犯罪者を減らし、過疎地の再開発を進めるという狙いなのだが。」
「ということは、快適な村にしないといけないわね、早めに。」
「問題は山積みだし、犯罪の起き易い環境になる可能性は否定できないが。」
「それでも、過疎地の再生に繋がるなら、私は協力するわ。」
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65-研究対象 [岩崎雄太-07]

島根の廃村に宿泊施設や作業場などが完成した。

「よろしくお願いします。」
「条件は全部理解出来ていますか?」
「はい、逃げ出したくなった時は申し出る、それまでの給料を頂いて駅まで送って貰えるのですよね。」
「はは、もう、逃げる事考えているのですか。」
「仕事はきついのでしょ。」
「きつい仕事がお望みですか?」
「い、いえ…。」
「あなたは細かい作業が得意と資料には有りますが。」
「ええ、作業に没頭している間は嫌な事を忘れる事が出来ますし。」
「幾つか作業の候補を用意しました、試してみてプロとしてやっていけそうなのが有れば教えて下さい、どれも根気のいる作業ですが挑戦してみて下さい。」
「は、はい。」
「ここの施設をご覧になって如何でしたか。」
「新しくて綺麗です、結構広いのですね。」
「将来的にはもっと広げたいのですが予算の関係も有りまして。」
「三食と寝床を用意して貰えて、時給千円の仕事、本当に裏は無いのですか?」
「あれ、裏は有りますよ、研究対象だって聞いてませんか、個人情報と引き換えに生活の面倒を見るって。」
「それは聞きましたが、研究対象といっても…。」
「ここで武井さんがどんな暮らしをして行くかを観察させて頂いて、出所者の再犯率を下げるシステム構築を目的としています。
そのついでに過疎の村を再生出来たら楽しいじゃないですか。」
「はあ。」
「夕食の時に他の村人を紹介しますからね。」
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66-夕食時 [岩崎雄太-07]

夕食時。
紹介の後。

「武井さん、酒かビール、どう? 俺が奢るよ。」
「いいんですか、ではビールをお願いします。」
「よっちゃんビールお願い。」
「は~い。」
「酒が飲めるとは思ってませんでした、女性がいることも。」
「俺もまだここへ来てから二週間なんだがな、ふと思った訳よ、ここで生活してたら金は要らなくないかって、それなら稼いだ分で酒ぐらい手に入れても問題ないと、所長に聞いたら大丈夫だって事で、貯金を引き出して、この前の休みに酒とつまみを買って来たんだ。」
「へ~、貯金が有るのですか。」
「ここで働いた給料さ、五万円までなら何時でも所長に言えば引き出せる、それを越える時は前もって伝えて欲しいそうだ。
但し給料日まで待てば、ちゃんとした銀行口座に振り込んで貰えるよ。」
「聞いてませんでした。」
「所長の方針で、先輩が後輩に教える形にしたいそうだ。」
「は~い、ビールお待たせ。」
「有難う御座います…、あの…、女性でこういう施設は抵抗ありませんでしたか?」
「ふふ、都会の生活に無理に合わせようとして息苦しくなってたからなぁ~。
色々有ったけど、娘と暮らせる様になったし生活の心配はないし、悪くないかもって思い始めてるわ。」
「よっちゃんの娘は可愛いんだぞ、今は寝てるのか?」
「ええ、スタッフの皆さんに沢山遊んで頂いたみたいで。」
「他に質問はないか?」
「あっ、そうですね…、皆さんはどんなお仕事をされているのですか?」
「俺は、ここと町の中間に有る土地の造成工事をしている、そこに家を建てる予定なんだ。
ここから町の学校までは遠いから、よっちゃんみたいな子持ちはそこに住んでもらう計画が有ってね、今は三人で作業してる、まあ、所長の家が優先だけどね。
よっちゃんと、さっちゃんは俺達の食事や身の回りの面倒をみながら、斎藤達と菜園作りに取り組み始めた、鈴木は工房、武井さんの先輩になる訳だな。」
「皆さんずっとここで暮らすおつもりですか?」
「どうかな…、まだ結論を出す必要ないし、住めば都かもしれないが、まあしばらく一緒に暮らそうや。」
「そうですね、自分はちょっとビビり過ぎていたもしれません。」
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67-工房 [岩崎雄太-07]

翌日、武井が見せられたのは工芸作品に関する映像。
緻密な作業によって作られる作品だが、根気と慣れが有れば作れなくもないと彼が判断したのは竹細工だ。

「所長、この竹細工に挑戦したいと思います。」
「分かりました、すぐ準備に入りますが、道具や材料が届くまでは、資料とネットで学習をお願い出来ますか。」
「はい。」
「私どもといたしましては竹細工のプロを目指して頂きたいのですが如何でしょう。」
「実際に始めてみないと分りませんが、昨夜皆さんから色々教えて頂いて、そうですね売れる商品を作れたらと思っています。
この村を再建する手助けが出来るのなら…、正直、勧められるままここに来てしまったというのが、ほんとの所だったのですが。
でも、ここでなら自分も、村と一緒に再生出来そうな気になっています。
過去の経歴を隠す必要も有りませんし。」
「その心を忘れずにお願いします、岩崎社長にも喜んで頂けます。」
「所長は、ここへ来られるまでは何をされていたのですか?」
「株式会社岩崎の開拓本部長です、その座を後輩に譲って、ここの開拓に専念すべく家族揃って移住して来ました。」
「では、長野から。」
「はい、岩崎村とか向こうで展開している事業は形が出来て来ましたからね、何にもない様な所で初心に帰るのも面白いと思いまして。」
「そうでしたか…、岩崎家の挑戦を支えているのは所長みたいな人達なんですね。」
「いえいえ、色んな人がいますよ、ここの建物を建てたのだって、元、組関係の方々ですし。」
「えっ。」
「足を洗いたくても先々を考えると簡単ではない、そこを岩崎社長の指示で救い上げたという形です。
今は別の過疎地でここと同じ様な施設の建設に当たっています、岩崎社長の為なら体を張ると言ってましたよ。」
「そうなのですか…、岩崎村を実際に体験されて如何でしたか? こことは随分違ってた様ですが。」
「向こうは一気に資本投下して作った村ですから、失敗する訳ないと思ってましたよ。
株式会社岩崎は順調に売り上げを伸ばしています。
岩崎社長は成功例を一つ見せれば、真似して過疎地の再開発に取り組む企業が増えるだろうと期待しておられたのですが、残念ながらまともに動いたのは僅かでした。
それで、福祉村を作って更なる過疎地の再生を考えた訳です。
岩崎村に初期投資した額より、うんと安く始めるから利益が出るのは遅くなるでしょう、出ないかもしれません、その代わりここと同規模の施設をまず十か所立ち上げる予定です。
後は、岩崎雄太社長率いるグループ企業の業績次第で拡大か維持かになるでしょう。」
「昨夜、他のメンバーから自分達の作業は村の整備が中心で利益に繋がらない、だから工房が頑張って金を稼いで欲しいと言われました。」
「はい、ここのメインに考えています、手間暇かけて高級感有る作品を高価格で売って行く予定です。
武井さんが自信をつけて、独り立ちという事になった時は応援しますが、それまでは時給千円でお願いしますね。」
「高く売れる作品を作って、ここで生活していたら社会貢献に繋がるという事ですか。」
「はい。」
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68-食事 [岩崎雄太-07]

その日の夕食時。

「斎藤さん、食事は美味しいですね、無料だからもっと質素かと思ってました。」
「でも刺身とか焼肉は出ませんよ、武井さん。」
「そんな贅沢言えませんよ。」
「でも頑張って働いた金で買うのは、もちろん自由ですから。」
「あっそうですよね、頑張ります…、この食事の費用も株式会社岩崎が負担して下さっているのですよね。」
「いえ、岩崎社長率いるグループ企業が実験的取り組みとして協力して下さっているのですよ。」
「実験的ですか?」
「ええ、今の所始まったばかりでシステム構築中ですが、現時点でこの村と三つの福祉施設が対象になっています、ここに並んでいる食品の多くは賞味期限切れが近い物が主なんです。
分かり易く言えば、保存食として売られている物は賞味期限まで一か月有っても売る訳には行かないでしょ、そんな商品はお金を払って処分しています。
でも、それを資金に余裕のない福祉施設に回せば喜んでもらえます、もちろん会社側の負担は有りますが。」
「無駄が減るという事ですね。」
「ええ、捨てられてきた食料を貧困層の生活改善に役立てるという取り組みです、それと開発中の新商品の試食という事も新システムに組み込まれています、このハンバーグは開発中の商品ですから後で食べた感想を求められます、それを商品開発に生かすそうです。」
「あっ、それで食についてのアンケートが面接時に有った訳ですね。」
「強制では有りませんが、良い商品が完成すれば、何かの間違いで返品になった時に美味しい物が頂ける訳ですよ。
対象となる福祉施設はシステムの構築に伴って増やして行くそうです。」
「斎藤さんはお詳しいのですね。」
「以前システムエンジニアをやっていた関係で担当にして貰いました。
今は菜園の手伝いもしていますがいずれは専従となるかもしれません、実際に運用している人の方が問題に気付き易いですし、改善も提案し易いですから。」
「なるほど特技を生かせるのですね、でも菜園は準備段階と聞きましたが、この野菜は?」
「今はこのエリアの方に分けて貰っているものが中心です、まだ良好な人間関係とまでは行ってませんが、元詐欺師の小山さんが交渉すると…、でも提供して下さる方も喜んでおられるそうで、まあ一つのエンターテイメントみたいな感覚なのか、小山さんは楽しませてあげたお礼に野菜を頂いていると話してましたが。」
「えっ、少し微妙な…。」
「大丈夫ですよ、所長も把握してます、小山さんも自分の能力を違った形で役立てたいと話してますし、堂々と監視役も付いています。
詐欺師ですから気を付けて下さい、なんて自分で話しているくらいです。」
「それでも騙してしまうのが詐欺師ではないのですか?」
「大丈夫でしょう、全く別の取り組みでカウンセラーが村人達の指導に入っています、過疎地の再開発を長い目で見て理解して頂かなくてはなりません、このエリア全体の事を考えてのプロジェクトなんですよ。」
「本当に真面目な取り組みなのですね…。」
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69-支援 [岩崎雄太-07]

武井が村での生活にも慣れ、施設のそこここで彼の試作品が使われる様になる頃には、住人も増えていた。
工房にも新人が増えつつ有る。

「武井さんはすごいですね、竹細工を始められて間が無いとお聞きしましたが、これだけの作品を作れるなんて。」
「いえ、まだまだです、これでは高くは売れません、時給千円で一時間かけて作ってる物が卸値で最低でも五千円を越さなくてはと考えています。」
「えっ、そこまでは…。」
「竹林の手入れに手を貸して貰っています、もちろん筍目当てでも有りますが、工房の中でも自分が取り組んでいる部門は真っ当に商売として成り立たせたいです。
ここは多くの支援を受けて運営されていますが、自立というスタイルを示す事も大切だと思っているのです。」
「ここのシステムについては色々教えて頂きましたが、支援に甘えてしまっていけないという事なのですね。」
「ええ、それだけでなく、支援する側になれないかとも話し合っています。」
「ここは刑務所から出て働く場所の無かった人や、子どもを抱えて貧困生活から抜け出せないでいた人が集っていて…。」
「ここには子ども時代を養護施設で過ごした人もいます。
工房の縫いぐるみチームは試作品を恵まれない子どもの施設に送って、そこでの反響を参考に商品化と考えています。
そんな話の過程で、自分達の力で…、いえ、自分達の力だけでは難しいでしょうが、児童養護施設をこの村で受け入れたいと考えています。
それには、経済的にも自立した大人が…、まだまだ夢の段階ですが、岩崎社長は我々からのメッセージに対して、胸を張って子どもを受け入れる環境を作って下さいとの返事を下さいました。
お金の問題ではなく心の問題として…、子ども達を受け入れる気持ちが本物で有れば、子ども達を豊かな自然の中で育てたいと前向きに、所長からはすでにプロジェクトが動き始めたと聞いています、いえね、お金の問題ではないと言われても、我々が自信を持って子ども達を迎え入れるにはそれだけの覚悟を形を示す必要が有ると感じているのですよ。」
「あっ、人としての再生を大切にしたいと所長が話してみえたのはそんな話が進んでいたからなのですね。」
「ええ。」
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70-担当者 [岩崎雄太-07]

谷川のコンサルタント会社。

「佐山くん、島根の福祉村はどうなってる?」
「現在村民は五十二名、多少の揉め事は有ったそうですが、乗り越えられそうとの事です。
親子向けの住宅地は児童養護施設の建設を踏まえて造成計画を立て直しています。
ただ、町に有る施設と同じにする必要も有りませんので、どういう形の施設にするか、実際に児童養護施設で育った人の声も聞きながら検討しています。
工房の作品では、竹細工がネットオークションで売れ始めています。
但し、こちらの事情をご存知の方が高値で競り落として下さっているのかもしれなくて。
作者の方も実力以上の価格には抵抗が有るとの事で、類似する商品から導き出した参考価格を表示する事にしました。
縫いぐるみの製作は試作品を作りながらネットワークを構築中です。
施設の子が描いた絵を参考に協力工場のボランティアと連絡を取り合って素材を送って貰って作っています。
その過程で児童養護施設の話もボランティアに伝わり協力体制を整えたいと、グループ企業全社が協力したら何人ぐらい養えるのだろうという話も出ているそうです。」
「それは心強いな、うちからも寄付する事にして話を早めよう、岩崎社長とも相談してみるよ。」
「お願いします、村人にとっても、身寄りのない子どもが身近で暮らす事はプラスになるだろう、と彼等の面接を担当している人から聞きました。
実際、シングルマザーの子が五人いますが、皆に可愛がられているそうです。」
「そうだな、佐山くん、ネット通販のサンプル写真のモデルを福祉村の住人にお願いするってどうだろう?」
「えっ、ああ、そうですね、指名手配された様な人はいません、子ども達も含めて打診してみます。
通販とも調整してみます。」
「金額は僅かでも、彼等が自力で稼げる環境を強化していきたいからな、村人にカメラマン崩れが居たと思う、まあ分野は違うかもしれないが、ネットのサンプル写真ぐらいなら任せられないかな?」
「すいません、そこまで把握していませんでした、調べてみます。」
「えっ、そうなのか、私は彼をどう活かすか考えていたのだが。」
「もう一歩資料に踏み込みます。」
「仕事が多すぎる様なら、サブを付けるが。」
「いえ、まだそんなレベルには有りません、自分が甘かっただけですから。」
「そうなのか、このプロジェクトは岩崎社長も重きを置いておられるから、自分の手に余る様なら早目に応援要請してくれな。」
「は、はい。」
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