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それぞれの夏-1 [権じいの村-7]

「孝雄、結構涼しいわね。」
「ああ、権じいが光を遮ってくれてるし、風も…、ここは湿度が低いみたいだな。」
「私、ここが好きになったわ。
初めて来た時は、人の住む土地じゃないと思ったけど…。」
「ああ、俺もさ、でも金銭的に楽みたいだからって感覚で、最初は一ヶ月ぐらいだけのつもりで住み始めた。」
「うん。」
「でもさ、こうして権じいの下から村を見てると、なんか心が安らぐ…、ここへ来るまでは結構ギスギスした職場で働いていたからさ。」
「私も…。」

「ねえ、琴乃はここにずっと住む気はある?」
「えっ? そうね…、独りじゃちょっと無理かな…。」
「俺と一緒だったら?」
「…、もしかして…、プロポーズ…?」
「うん、二人でここの住人になって…、大変なことも色々あるだろうけど、君となら…。」
「…。」
「ごめん、俺、変な負担をかけちゃったのかな、泣かないでくれよ。」
「ううん…、嬉しくてさ…、でも…、ほんとに…、私なんかでいいの…。」
「でなきゃ、ここに二人でいないさ。
権じいに誓って、君を大切にするから。」
「こんな時は、なんて言えばいいのかしら…。」
「言葉はいらないさ…。」
「…。」




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それぞれの夏-2 [権じいの村-7]

「おしのさんよ、あの二人どうなんじゃろな?」
「う~ん、孝雄には男ならアタックせなあかん、とは言っといたんじゃが…。」
「結婚したら、結局ここから出て行ってしまうかもしれんぞ。」
「それでもええわ、孝雄が幸せになってくれりゃな。」
「はは、そんなこと心にもないんじゃろ。」
「…、養子にして、この家も畑も全部、やりたいわい。」
「はは、この村に若い衆が大勢来るようになったけどな…。」
「孝雄はその中でも特別じゃ。
この村の本当の住人になりたいって。」
「本当の住人かの…。」
「初めはこんなとこには住めないと思ったそうじゃ。」
「じゃろうな。」
「でもな、この前、話してくれたんじゃよ。」
「ふむ。」
「都会から逃げるような気持ちでここで暮らしたいと思ったけど、今は違うんだそうじゃ。」
「農村体験で来て、移住を考えてもやっぱり都会を選ぶ子たちも多いんじゃろ。」
「ああ、でも孝雄はもう逃げないって。」
「やっぱ、琴乃ちゃんの力かの。」
「はは、どうじゃろな、でも、大学関係の仕事が休みの日でも、道端の整備とか本当の住人になるためって言いながらやっておるぞ、孝雄は。」
「かなり本気なんじゃな。」
「真面目な子だ。」

「な、大学生たちが来る様になってから、ここもずいぶん良くなったと思うがの。」
「そうじゃな、うるさくなったってこぼしてのもおるがの。」
「でも、バスで診療所まで行けるようになったし、香織ちゃんのお店ができたり。」
「ほんと、思いもせんかった変わりようじゃ。」
「わしらも、お世話になるばかりでなく何かできんじゃろかな。」
「うむ、婦人会の若手とも相談してみるか…、若手と言ってもほとんどが五十を越しちまったがな。」
「はは。」
「もっと、慶次さんたちのお役に立てんかのぉ…。」
「あ~、お菊さんのタイプは慶次さんかえ。」
「ファンじゃよ。」



( cacharel )
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それぞれの夏-3 [権じいの村-7]

「真一くん、ちょっと相談があるんだけど。」
「何ですか佐伯さん。」
「そろそろ新婚向けの家が必要になるかもしれないの。」
「えっ、誰か結婚するんですか?」
「孝雄くんと琴乃ちゃん、ちょっと後押ししてあげれば簡単に決まっちゃいそうな気がするんだけど。」
「確かに、いい雰囲気ですね、あの二人。」
「でね、孝雄くんの今のテーマは、ここの本当の住人になることだそうなの。」
「本気なら…、結婚してここに定住ということになるのかな。」
「でね、真一くんは、おしのばあちゃんって知ってる。」
「えっと…、確か独り暮らし…、息子さんたちはとても遠い所へ行ってしまったとか…。」
「そう、その、おしのばあちゃんが昨日本部へいらしてね。」
「はい。」
「もし、孝雄くんと琴乃ちゃんが結婚してここに住むことになったらって話しをずいぶん…。」
「そうなんですか、なんかどきどきしてきました。
二人がこの村の人にも祝福されて幸せになってくれたら、ぼくたちの挑戦の大きな成果ですよね。」
「ええ、それでね、おしのばあちゃん、土地も金も出すから二人が決意したら色々手伝って欲しいって。」
「もちろん手伝いますよ…、う~ん…。」
「どうしたの?」
「今までは、こちらから協力していただけませんかって、お願いばかりしてきましたから…。
こういうことで手伝いを依頼されると、めちゃ嬉しいです。」
「そうよね、後は二人の決断待ちになるのかな。」
「そうですね。」

「ところで真一くんはどうなの?」
「どうって?」
「久美ちゃんと。」
「えっ、ええまあ…、仲のいい友達ですけど…。」
「あのね、このプロジェクトに参加してくる人たちは優秀で魅力的な人も多いんだからね、ぼやぼやしてたら…、後悔することになるわよ。」
「は、はい…。」



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それぞれの夏-4 [権じいの村-7]

「おい、聞いたか?」
「何を?」
「ここに移住してきた人同士がここで結婚して生活するかもしれないって。」
「そうか…、プロジェクトの…、実現したら慶次さん喜ぶだろうな。」
「ああ。」
「そうだ、もし実現したら、今度作る風呂は子宝の湯とかにしないか。」
「はは、いいかも。」

「お~い、学生諸君、お仕事はどう~?」
「あっ、香織さ~ん、順調ですよ~、見て行きませんか~。」

「これが薪発電の最新型なの?」
「はい、今はですが…。」
「今は、なの?」
「すぐ、次のタイプが登場すると思います。」
「そう言えばコンテストなのよね?」
「はい、普通は完成品を競うのが一般的なんですけど。」
「ちょっと違うコンテストとは聞いてたけど…。」
「アイデアや試作品をみんなで評価してのコンテストなんです。」
「よく分からないわ。」
「薪発電なんて、しょせん火力発電なわけですから、今までの技術も色々生かせるんです。
でも、小規模で環境にも配慮して、しかも災害時にも有効で、且つ過疎地で使うことを想定して、労力も極力抑えたい、とか。
色々考えると工夫の余地が多々ありましてね。」
「それで、権じいの湯ではしょっちゅう工事?」
「そうです、改良したものを実際に使ってみることで問題点も見えてきますから。」
「そうか。」
「で、この慶次さん発案のコンテストのすごいところはですね、コンテスト参加者たちが思いついたことを、どんどん発表してることなんです。」
「あっ、普通は他の人に知られないように研究…?」
「はい、共同研究ということも有りますけどね。
基本、自分の研究の成果という気持ちがあるので、発表されるタイミングが遅れることもあるんです。
でもこのコンテストでは思いついたことや試作品を、どんどん発表することでポイントが得られることになっているんです。
時には、失敗作でも発想が良ければポイントをもらえたりします。」
「ふ~ん、まだよくわかんないけど。」
「コンテスト参加者たちから、失敗例、成功例、色々なことが広く発表されています。
それを参考にして次のアイデアを模索してる参加者もいるんです。
結果、コンテスト参加者全員による共同研究状態です。」
「共同研究? それって、すごいんですか?」
「はい、この取り組みへの参加は全国の大学に広まりつつありますし、この開発からの応用も色々期待できるんです。」
「応用?」
「燃料になる薪の自動補充という研究では、形の揃ってない物を効率よく補給という課題に取り組んでいます。
同じ形の物を補給するのであれば簡単なことが、形が揃ってないことによって複雑になります。
こういったことは今までも研究開発されてきたことではあるのですが、また違った側面から見直している研究者もいるんです。」
「へ~。」
「めちゃくちゃ複雑なシステムを考えてる連中もいれば、人の力に頼るシンプルなシステム、でも人に優しくできないかって考えてる奴らもいましてね。」
「なんかすごいことなのね。」
「はい、すでにこのコンテスト関連で幾つか特許とか申請されてますし。」
「そっか、君たちもがんばってね。」
「は、はい。」
「ふふ、キャンプに来た子たちがね、色んなお風呂があって面白かったって言ってたわよ。」
「露天風呂とか人気があったみたいです。」
「うん、がんばってね。」
「はい。」

「おい、お前、緊張してなかったか?」
「あ~、あこがれの香織さんと沢山会話してしまった~。」
「…。」



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それぞれの夏-5 [権じいの村-7]

「調子はどうです、西川店長?」
「あっ、高柳さん、いらっしゃい。
今のところ大きなトラブルもなく順調ですよ。」
「仕入れの方はどんな感じになってます?」
「高柳さんが紹介して下さったこともあって、近隣の村からの量も増えています。
二号店ができればその近辺からも野菜が集まるとは思っているのですが…。」
「何か問題があるのですか?」
「高柳さんもご存知でしょ、野菜を中心にした流通実験。」
「流通経路の簡略化ですね。」
「はい、その関係で、無農薬野菜中心に量をもっと増やして欲しいって。」
「それには農家の方との色々な交渉が必要になりそうですね。」
「すでに、無農薬野菜の宅配とかやってる業者と契約を結んでいる人も結構いましてね…、うちは形が悪くてもっ、てのが売りだから、そんな農家からも買い付けていますけど。」
「そうですか、最近は市内全域を回っていますが、あちこちで放置された畑を目にするんです。
そんな畑をうまく生かせないか学生たちとも相談しているのですが…、ちょっと行動を早めることにします。」
「お願いします。」
「そうですね、吉田くんにも動いてもらいましょうか。」
「吉田はどうですか?」
「今は私の秘書的な立場で色々動いてくれてます。」
「あいつなりに色々考えてるんでしょうね。」
「はい。」

「高柳さん、市会議員の方はどうなんです?」
「正直言って自分だけなら、まず大丈夫です、権じいの村プロジェクトも市民から概ね好意的に受け取られていますし、
引退を考えている議員さんからの後押しもいただけそうで、ただ…。」
「ただ?」
「西川さんにはお話ししてなかったことなんですが、慶次さんからは市長選を視野に入れて動いて欲しいと言われてまして。」
「それで、市内全域を。」
「はい、自分にそれだけの力があるかどうか、まだ自分でも分かりませんけど…、私がだめでも…、慶次さんが市長、県知事、それからって気になった時にお役に立てる人間になりたいと思っています。」
「高柳さんなら大丈夫ですよ。」
「はは…、とにかくプロジェクト関連で複数の議員を市議会にと考えています。
平行して、現役の市議さんたちとの連携も考えて動いているのですが…。」
「簡単には行かないってことですか。」
「まあ、色々な人がいますからね。」
「どこかの政党に所属したりとかは?」
「私たちは特定の政党、宗教団体とは一線を画して活動しています。
地方自治を考える時は、特定の団体に属さない方が動きやすいと思いますし、今の政党に魅力を感じてませんから。」
「ですな。」
「政党に所属する時、それは我々の政党が誕生した時と考えてます。」
「うん、そうですか…、それにしても、こんな、ど田舎のちっぽけな村で…、こんなにも、どでかい志に…、自分も関係できるなんて思ってもいなかったですよ。」



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それぞれの夏-6 [権じいの村-7]

「真帆姉、小春ばあちゃんちって、どうしてこんなに落ち着けるのかしら。」
「あら、恵は何時もマイペースだから、そんな風に感じてたなんて意外だわ。」
「ええ~、そんなことないよ、私なりに気を使うことも多いのよ。」
「でもさ、大学生を…、数学教えに来た子、かなりへこんでたわよ。」
「ああ、あの人ね、でも私からお願いした訳でもないし…。
私が今度大学受験って話しをしてたら、数学教えるからなんて結構しつこくてさ。」
「数学は得意じゃなかったかしら。」
「まあね、でも教えてくれるならって感じで来てもらったんだけど…、結局ずいぶん教えることになってしまって…、彼は自分の数学のレベルが分かってなかったみたい。」
「恵のレベルを知らなかったのね。」
「外見で判断するなって言っちゃった。」
「はは、まぁ彼にはいい薬になったでしょう。」

「でもさ、なんか不思議な気分。」
「何が?」
「真帆姉とこうして話しをすることなんてあまりなかったじゃない。」
「そうね、年も離れてるから…。」
「そんなことだけじゃなくてさ、タイミングとか雰囲気とかさ。」
「うん、確かにここって…、ふふ下界とは違うわよね。」
「どう、慶次さんとは?」
「おっ、そう来たか…、もう恵に隠す必要もないわね、もうすぐ発表するわよ。」
「そっか、やっぱりな、あ~私がもっと早く生まれてたらな。」
「やっぱ慶次のこと…。」
「尊敬する憧れの人、これから永遠に兄と呼ばさせていただきますよ~、でも真帆姉が油断してたらわかんないわよ。」
「はは、気をつけるわ。」
「で、今日は私の慶次お兄さま、どちらへ?」
「今頃は大学での講演の真っ最中かな…、ちょっと有名になっちゃったから、しばらくは各地の大学での特別講演でスケジュールがいっぱいなの。」
「ふ~ん、やっぱ過疎地の再生なんて話しをしてるのかな。」
「ふふ、恵も近くで講演がある時に行ってみるといいわ、慶次の大きさがわかるから。」
「えっ、まだまだ私の知らない…。
ねえ私がプロジェクトのために動くとしたら、どこの大学がいいと思う?」
「やっぱ慶次のとこかな。」
「そっか、学部とかは?」
「そうね、心理学関係はどう?」
「うん、いいのかな…。」
「まあ、どこでもいいのよ。」
「あ~、人ごとだと思って~、私なりに真剣なのに~。」
「慶次はね、あなたの力をどう生かせるか、色々考えてるの。」
「えっ?」
「久美ちゃんから恵のこと色々聞いたんだって。」
「うん、久美さんには相談に乗ってもらった…。」
「でね、恵の力を最大限に生かすってテーマを実行に移したいそうよ。」
「もしかして、私も研究対象?」
「私としては、ちょっと妬けるけどね。
普通の学生たちとは違ったペースで単位を取って、空いた時間を使ってプロジェクトに係わって欲しいそうよ。」
「あ~、やっぱり私の慶次お兄さま。」
「それ、やっぱむかつくかも、慶次は私のものですからね。」
「独り占めなんてだめよ。」
「う~ん、彼、人気があって尊敬もされてるから…。」
「そんなに心配なら、もっと平凡な男性と、慶次さんのことは私が…」
「絶対だめ!」



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それぞれの夏-7 [権じいの村-7]

「白川先生、今日はお忙しい中、有難うございます。」
「いえいえ、私もここの優秀な学生諸君と話しができると楽しみにしてきましたから。」
「それにしても、私はちょっと意外でした、うちの学生たちが白川先生のテーマにこんなにも関心があったなんて。」
「はは、色々動いてる連中がいましてね。」
「はい…。」
「まぁ、よかったら今日の話しを聞いていって下さい。」
「は、はいもちろんです。」

----------

「こんにちは白川慶次です、今日は大勢の方に集まっていただいて嬉しいかぎりです。
まずは、今日の話しに先立つ形でいただいた、皆さんからの質問にお応えしてから本題にと考えています。
権じいの村プロジェクトについて、ほとんど知らない人も来て下さっているようですから、まずは簡単にその概要を説明しておきます。
過疎地の再生、学生同士の様々な形での交流…。

…、ということで権じいの村プロジェクトは大きな問題もなく進んでいます。
権じいの村は、もう過疎の村と呼べなくなりつつあります。
学生たちの力が村を変えたのです。
そして活動は周辺の村へと広がりつつあります。
いえ、村だけでなく、市全域の活性化というテーマにも取り組み始めました。
学生たちの力で一つの市を活力あるものにできないかと考えている訳です。
多くの学生たちが乗り気になっていますし、地元の各種団体も自分たちの町をもっと魅力あるものにしたいと動きが活発になってきています。
面積の多くが森林というこの市も多くの問題を抱えています。
その問題に取り組もうという気持ちが学生たちに芽生え始めたことも、権じいの村プロジェクトの成果の一つと考えています。

過疎の村の再生なんてできる訳がない、と考えたのではなく、できたらいいなという夢を持ち、現実離れしててもやってみよう、参加してみようという取り組みから、今はどこまでこの取り組みを広げることができるかという段階になってきています。
他県の大学にも過疎の村再生を考えるサークルができたり、今まで山村を実験研究の場としてきた研究室がもう一歩踏み込んで村と係わっていこうとし始めています。

さて、今時なぜ過疎の村、地方の市なのかと疑問に思った人もいるかもしれません。
人口は都市部に集中してますから切り捨ててもいいと思っている人もいるかもしれません。
しかし、ここで考えて欲しいことがあります。
社会福祉の基本的な発想に、社会的弱者がひどい境遇下で生活しなくてはならない様な社会は弱い、ということがあります。
より完成度の高い社会を考えた時、社会的弱者も含めて幸せな社会という言い方もできます。
もう一つ考えて欲しいことは、過疎地も含めて私たちの住む国であるということです。

今、この国はバランスがずいぶん崩れてしまっていると思いませんか?
戦後復興の高度経済成長の結果、一億総中流という時期もありました。
中には無理をしてた人もいたでしょうが、それでも普通に仕事があって普通に給料がもらえてた時期があったのです。
それが利益追求ばかり考え、効率ばかりが重視され、働く人たちが大切にされない、企業を守るためと称して、何時でも切れる不安定な雇用形態がまかり通ってしまう様になってしまって、幸せを感じられない人も増えているのではないでしょうか。

ここでみなさんに提案があります。

それは…。」

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それぞれの夏-8 [権じいの村-7]

「吉田さん、市役所なんて始めてで少し緊張してます。」
「山田、心配することないぞ、俺の知り合いも多いから肩の力を抜けよ。」
「はい。」

「ここだよ。
花井さんこんにちは。」
「おお、吉田くん待ってたよ。」
「彼が山田です。」
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ、資料は用意しておいたからね。」
「有難うございます。」
「学生さんたちの方はどう?」
「はい、やはり観光中心に考えています。
何度も行きたくなる観光地作りの案がすでに色々出てますから、頂いた資料を元に、具体的な形にしてお見せしようと思ってます。」
「それは楽しみだな。
すでに、第二の故郷キャンペーンは学生さんたちのおかげでずいぶん盛り上がっているからね。」
「数字に出てますか?」
「ああ、具体的な数字ではないけど、学生さんたちが実験、研究、実習でここに来てくれてるだけでも、ずいぶんの人数になるし、体験実習の後で家族と遊びに来るというケースも結構あるでしょ。」
「ええ、実習で自分たちが綺麗にした林を家族に見せたい、とか、俺たちの挑戦を家族にも知ってもらうとか。」
「それにあちこちのキャンプ場を、子ども向けの教育キャンプとかにも使ってくれたからね。
帰る時にまた来たいって言ってた子が、親と一緒に遊びに来てくれたって話も聞いているよ。」

「問題とかは起こってませんか?」
「そうだね、駐車場が不足気味かな。
それと休日の交通渋滞。」
「はい、聞いてます、そちらの方は僕たちとは別のグループが検討しています。
案ができたら…、吉田さん、それも花井さんを通せばいいのですか?」
「そうだな…、まずは花井さんでいいですよね?」
「うん、構わないよ。
そういうことなら、学生さんと職員との合同会議を開きたいね、観光についてとは別でね。」
「はい、そう伝えておきます。」
「早いほうがいいでしょ?」
「ええ、夏休み中が一番動き易いですから。」
「じゃあ日程の調整に関してはまた連絡するよ。」
「お願いします。」

「市長からはね、君たちのことは最優先で対応するように言われているからね。」
「えっ、そうなんですか。」
「市長も白川先生や高柳さんに惚れ込んでいるからね。」
「実際、すごい人たちです。
白川先生、スケールの大きな人なのに、すごく気さくで、僕らは尊敬の念を込めて慶次さんと呼ばさせていただいてます。」
「そうだね、初めてお会いした時も、多くの大学関係者を動かした人って聞いてたから…、どんな人が来るのかと思ってた。
実際にお会いしたら、若い先生でびっくりしたよ。
そうそう、この前ね、先生と高柳さんが二人でお見えになった時、市長自ら市長の仕事についてお二人に説明なさってたそうでね。」
「ははは、俺も後で聞きました。
慶次さんたら、高柳さんに、市長やる? なんて聞いてたんですよ。」
「う~ん、市長もお歳だし健康面の心配もあるそうで…、有り得ない話しじゃないな…。」

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それぞれの夏-9 [権じいの村-7]

「本部、本部、こちら樋口です、どうぞ。」
「はい、本部です、どうぞ。」
「源九朗さんの所のテストします、どうぞ。」
「了解しました。」
「青、押しました。」
「確認しました。」
黄色、押しました。」
「確認しました。」
「赤、押しました。」
「確認しました、異常ありません。」
「では作業終了します。」
「了解しました。」

「源九朗さん、工事終わりました。」
「ご苦労さん、樋口くん。」
「では、緊急連絡システムの説明をさせて下さい。」
「うん。」
「ボタンは三つ、青、黄、赤とあります。
特に問題がなかったら青いボタンです、毎日押していただけると本部は問題なしと安心できます。
ちょっと困った、でも緊急ではないということが起きたら黄色のボタンを。
緊急事態発生の時は赤をお願いします。」
「押すだけでいいの?」
「そうですね、緊急時に電話連絡できる時は電話もお願いします。
赤は、深夜でも当直をたたき起こすシステムになっていて、本部からも電話を入れますけど。」
「うちは家族がいるからそんなに心配じゃないけどな。」
「はい、ですから一番シンプルなタイプにさせていただきました。」
「色々あるんだ。」
「独り暮らしやご老人だけの世帯には、赤いボタンを何箇所かに設置させていただきました。
風呂、トイレ、寝室といったところです。」
「なるほど、どこで倒れるか分からないからか。」
「ええ、本部ではどのボタンが押されたかも分かる様にしてあります。
さらにテレビ電話を設置させてもらいました。」
「そりゃすごい、でも費用は大丈夫なの?」
「はい、この取り組みには色々スポンサーがついてくれてまして、近い内にテレビ取材もあるそうです。」
「それも白川先生のお力か…。」
「はい、先生は初めの頃からこのシステムの重要性を考えておられまして、あちこちに働きかけて下さったのです。
ここでの結果が良かったら、他の村にも広げたいそうです。」
「そうか。」
「あと、例えば地震が起きた時とかにも、ボタンを押していただけると助かります。
青が押されていればこちらも安心できますから。」
「なるほどそういう使い方もあるのか。」
「ただ、停電には対応できるのですが、ケーブルが切れるとどうしようもなくて。
無線ということも考えたのですが、ちょっと無理がありまして。」
「そうか、そんな時は?」
「源九朗さんは車をお持ちですから、できたら、この周辺のお宅の安否情報を本部へ伝えていただけると助かるのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんオッケイだよ、自分たちの村だからね。」
「よろしくお願いします。」
「はは、こちらがよろしくだよ、学生さんたちが来るようになってこの村にもずいぶん活気が戻ったからね。
もうすぐ携帯も使えるようになるんだろ?」
「はい、でも便利にはなりますが、ちょっとつまらない気もしています。
携帯の使えない村ってのが僕には結構面白かったので。」
「そういうものか。」
「あと、このシステムで何か問題とか気付いたことがあれば本部までお願いします。
「しばらく様子を見て改良の余地があれば改良していきますので。」
「うん、分かった、そうだ樋口くん今夜は時間ある?」
「はい、特に予定はないのですが。」
「良かったら飲みに来ないか、お仲間も二三人連れて来るといい。」
「いいんですか、ありがとうございます。」
「君たちの話しも、もっと聞きたいからね。」
「僕たちも色々なお話しを聞かせていただきたいです。」
「本部の方へも連絡しといた方がいいの?」
「いえ、大丈夫です、こういうお誘いは断ってはいけないことになってますので。」
「はは、そうなのか。」
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それぞれの夏-10 [権じいの村-7]

「権じい、遊びにきったよ~。」
「このみ、去年の秋、ここの調査に来てから久しぶりだけど、雰囲気がずいぶん変わってない?」
「そうね、季節も違うけど、家も増えてるし畑も…。」
「プロジェクト、順調だって聞いてたけど、実際に見ると実感できるわね。」
「うん。」
「あっ、あそこで工事してる所が新しい本部になるのね。」
「ねえ、理香、もっと大きな建物になると思ってたけどそれ程でもないのね。」
「下のセンターがメインでここはサブ的なものになるそうよ。
宿泊施設は完全消滅した、ほら林道の先の集落跡に建設中だからね。」
「ふ~ん、詳しいのね。」
「当たり前でしょ、三年になったらプロジェクトに参加するつもりだからさ。」
「そうなんだ、どんな形で参加するの?」
「まだ検討中、今回の滞在中に先輩方の話を聞いて決めようと思ってる。」
「う~ん、私も…、少しぐらいならお手伝いできるかな…。」
「できる範囲で良いって、慶次さま、言ってらしたでしょ。」
「あれっ、何時から慶次さまになったの?」
「ふふ、私なんかまだ、慶次さんなんて呼べないもの。」
「はは、理香にとって白川先生はスターみたいなものなのね。」
「尊敬する人かな。」
「そっか。」

「ねえ、このみは次三郎さんとこ寄ってくの?」
「うん、今は甥ごさんの所で生活してるんだって。
ねえ知ってた? 次三郎さんの住んでた家は改修されて、今は都会からの移住者が住んでるんだって。」
「ええ、聞いてるわよ、それも、このみのお手柄の結果ね。」
「そんなんじゃないよ~、私は大したことしてないのに、みんな大げさなんだから…。」
「偶然だったかもしれないけど、このみが次三郎さんの具合が悪い事に気付いて報告したことは、プロジェクトにとって大きなプラスになったって、村の人たちの信頼を早く得られたのも、このみちゃんのおかげだ、なんて野原先輩言ってみえたわよ。」
「へ~、野原先輩にそう言って貰えるとなんか嬉しいかも。」
「あれっ、先輩、このみのタイプ?」
「へへ。」

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