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進路-01 [シトワイヤン-23]

私が大学進学という選択肢を選ばなかったのは、本間市長の手伝いをしている中で、受験の無駄を感じたからだ。
高校は真面目に通い万里に恥ずかしくない成績を収めていたのだが、自分のやりたい事は明白、市政の手伝いをしながら万里を守っていくこと。
そのどちらにも、大学でなければ学べない要素を感じなかった。
大学入試の為に強要される学習内容も同様だ。
それでも何の迷いも無かったわけでなく…。

「ねえ、本間さん、お姉ちゃん進学関係で迷ってるみたいなんだけど。」
「智里、どこの大学に良い男が多そうか調べさせようか?」
「そ、そういう問題ではないです、大学そのものの意味を考えていまして。」
「お姉ちゃんは、すでに大卒職員より有能だからね。」
「そんなこと無いわよ。」
「う~ん、大学で何を学ぶか、かな。」
「お姉ちゃんは、今まで本間さんの元で色々学び経験させて頂いて来たのよね。」
「そうよ。」
「なら、このまま本間塾の塾生ということで良いじゃない、私も中学卒業したら、ねえ、本間さん、塾生にして下さるでしょ。」
「本間塾?」
「吉田松陰の松下村塾は学校関係の法律に縛られない学びの場だったのですよね。」
「だろうな。」
「実際、本間さんは幅広い知識と見識で多くの人を導いて来られました、塾と名乗っていなかっただけで本間塾の塾生に値する人は多いのでは有りませんか?」
「そうですよね、市長から学んでいるのは私だけでは無いですし、共に学ぶ松下村塾の理念に通じる所が有ります。」
「そうだな、私なりに、人を育て共に成長すると考えて来た。」
「だから、お姉ちゃんは色々面倒な大学へ行くより本間塾の塾生という立場で、和馬さんに話せば面白がって、お姉ちゃんに必要な先生とか紹介して下さると思うわよ、勿論、取材対象になるでしょうけど。」
「う~ん、必要と有れば大卒資格を取る道も作れるが…。」
「そんな資格より本間塾塾生の肩書を価値の高いものにすれば良いと思うな、ね、お姉ちゃん。」
「そうね、本間塾の塾生は凄いと世間の人に認めさせれば良いのね、本間市長、お願いします。」

こんなやりとりが有って本間塾はスタートし、市長筆頭補佐の私は塾生筆頭になった。
本間さんは筆頭という言葉が好きなようだ
和馬さんは万里の予想通り面白がり、番組で紹介すると共に愛華さん清香さんと揃って塾生に、そんな話が広がると、本間さんのかつての部下を中心に塾生が集まり始め、その中から事務担当が生まれ、組織が固まって行く。
塾生には本間さんの認めた人しかなれないが、すぐに二十人を越したのは本間さんの人望の厚さだと思う。
吉田松陰の時代と違い今はネットで情報交換できる、大学と違って単位の制約もなく、意見を交わし学び研究する場は至って簡単に出来上がった。
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進路-02 [シトワイヤン-23]

本間塾はその体制を整え、私が高校を卒業する頃には、市民政党若葉から国政や地方行政に関わって行こうという人達が登録を始めた。
始めの内は本間さんが面接をし入塾の判断をしていたが、追い付かなくなり塾生が分担して面接を行う様になる。
この面接は万里の発案で、本人よりその家族や職場の同僚に重きを置いた。
中身の格好良さは本人には分からない部分が多い。
本間塾の塾生となるには、周りの人達が本当に尊敬し推薦したいと思える人で有ることを要求した。
現行の選挙制度は、人間的に問題のある人でも当選する可能性が有る。
本間塾の塾生からは、そんな人を政治の場に送り出したくはない。
そんな本間塾、スタートから一年半後には舞姫騎士団の結成を切っ掛けにアメリカからの塾生が加わる。

「お姉ちゃん、アメリカから本間塾へ参加する人達は、市民政党若葉と地球市民党、国家規模と世界規模の違いから生じている微妙な誤差をどう捉えているのかしら。」
「どこをどう妥協しあって行くかなのよね。
価値観の相違を当然のことと考え、その上で協力して行くのであれば互いに妥協点を探るしかないでしょ。
自分の意見を押し通すだけの人、母国の利益にしか目が行かない人は地球市民党の党員に相応しくないわ、私利私欲の人は問題外だけど。」
「その辺りを第三者の力を借りてでも納得して理解して貰えるかなのね。
まだ、地球市民党の理念を受け入れてる人達だからマシな人達なのだろうけど、塾生筆頭として調整役をして行くの?」
「出来る範囲でね、まあ、高校時代より自由な時間が多いから動き易いわよ、高校卒業して数か月、すごく充実してるのは万里が本間塾を提案してくれたからだね。」
「お姉ちゃんが自分の力を発揮出来てるのは本間さんや和馬さん達のお蔭でしょ。
本間塾塾生筆頭の肩書は大人の塾生が増える毎にその重みを増していると思うな、有名大学を卒業された方々の代表としてね。
大学からの講演要請も不思議じゃないもの、アメリカからも呼ばれているのでしょ?」
「あれはキャッシーの仕業よ、ついでに遊びと仕事をして行けば良いなんて言ってるけど、どれがメインなのか分かったものじゃないわ。」
「私も中学卒業したら塾生だけどどうなるのかしら。」
「万里の場合、高校の内容は済ませて有るのだから飛び級で大学という選択肢も有るのよね。」
「でも大学で何を研究するのか変に縛る必要はないし、多分どこへ行っても好奇な目で見られて、日本なら兎も角、アメリカだとまず小学生扱いされそうでしょ。
大学でなくても多くを学び経験出来る場が有るとお姉ちゃんが示してくれたから、それを追求したいと思ってる。
自発的な学習意欲と能力が有れば、高校も大学も必要としない選択肢が有る事を世の人に示したいかな。」
「でも、万里は特別な人だからと、その本当の意味を理解出来ない人が多そうだけど。」
「高卒と中卒の姉妹が活躍したら、学歴の為だけの進学とか見直してくれないかしら。」
「どうかしらね、親の価値観が有って…、でも、三流大学卒業の意味が薄れて来ていると聞いてるわ。
その辺りの理解が広まって、無駄な進学塾に家計を圧迫されてる人が減ると良いのだけど。」
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進路-03 [シトワイヤン-23]

高校卒業以来久しぶりに梨花と。

「智里はそのまま市の仕事を手伝ってるの?」
「うん、肩書とかは変わったけどね。」
「う~ん、始めはなんだったっけ?」
「始めは市政市民会議の高校生代表よ、本間市長が選んで下さってね。
本間さんとは小学生の頃から、男の子に負けない勢いで『格好の良い子どもになろう』を推し進めていた事を切っ掛けに色々教えて下さってね。」
「ふふ、智里は男の子に負けてなかったな~、色々と、市長さんは小学生に対してどんなだったの?」
「頻繁にお会いした訳でも、長い時間話した訳でもないのだけど、話の内容が濃くてね、子どもながらに凄いと感じたわ。
それと、私達を子ども扱いしなかったの、万里なんてまだ二年生だったのよ。
でも、万里の力に気付いて下さって、真っ直ぐに受け答えして下さったわ。
その、一番尊敬出来る大人とは中学時代も交流が続いてね。
私が高校に進学するタイミングで市政市民会議が発足、すぐに苗川高校生部会発足というのは、中学生の頃に決まってた事なの。」
「市長の懐刀となっていったのね、給料は貰ってたの?」
「ええ、梨花、私の報酬は市の条例で定められてるって知ってた?」
「えっ、あっ、市の職員では無いから?」
「職員の給料も条例で定められているのだけどね、私の場合、スタートの時こそ、他の市政市民会議メンバーと一括りで決められていたのだけど、市長筆頭補佐の肩書を頂いてからは別扱いでね。」
「筆頭補佐だから報酬もかなりな額になったの?」
「高校生が授業後に活動してると考えたら少し多めだったかな。
でも補佐になって、本当に補佐してたから私の報酬に関する条例案は問題なく認められたのよ。
そして、高校卒業後、仕事の幅が広がり内容も濃くなったから報酬を上げて貰えてね、今日は私のおごりだから、梨花、太って良いわよ。」
「そうか、よし、明日からダイエットしよう。
でもさ、智里は学歴的には高卒になるのでしょ、金額的にはどうなの?」
「高卒でも、市の職員に指示を出したりしてるのよ、そういった事に見合う金額でないと、そうね報酬によって人を判断する人もいる。
私が大卒の初任給以上に頂いてる背景には色々な意味が有るのよ。」
「市の職員という選択肢はなかったの?」
「本間さんは私を市の職員として拘束したくないとおっしゃっていてね、正規の職員となると制約が多くて、私が自分の力を発揮出来なるそうなの。」
「ずっと、その立場で働いて行くことに?」
「先の事は分からないわ、今は本間さんの下で市政全般を学ばさせて頂きながら、市の職員とは別の角度から作業に当たったりしてるのだけど、本間さんからは他の自治体で働くことも視野に入れる様に言われていてね。」
「そっか、大学卒業後は苗川市の職員というのも考えていたけど、智里の話は参考になりそうに無いって分かったわ、レベルが違い過ぎて。」
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進路-04 [シトワイヤン-23]

「あらっ、私を見くびってるのね。
市の職員採用計画だって把握してるし、新人研修の講師もしてるのよ。」
「あっ、採用された側じゃないんだ、失礼致しました、市の職員採用に関して、差支えない範囲で教えて頂けないでしょうか。」
「採用は、市の規模に合わせた適正人数を検討していてね、無理なく無駄なくが本間市長の方針だから、採用枠を増やす方向で条例案を出しているわ。
まあ、幾ら枠が広がったとしても、人気が有って梨花の採用は簡単ではないかも、縁故採用は完全に禁止だから実力で頑張ってね。」
「も、勿論よ、縁故採用される様な職場は嫌だし、でも、人気が有るのよね、大学卒業後は苗川で就職したいのだけどな。」
「それなら市の職員より好条件な企業が幾つも有るわよ。
梨花が大学で余程力を落とさない限り、私の紹介だけで採用決定の会社がね。」
「企業の移転は進んでるみたいだけど、大卒の新卒を雇ってくれるの?」
「各社、色々な枠が有るし、私が関わってる会社も有るからね。
一応、梨花が高校の時のままだったら、検討に値する会社のリストを作って送るけど。」
「大学で堕落しなければということなのね。」
「夜な夜な遊び歩いてない?」
「してないわよ、バイトも有るし。」
「彼氏は出来たの?」
「少し気になる彼はいるけどまだね、智里の方こそどうなのよ、働いてばかりのシスコンでは心配だわ。」
「万里と相談して三人スルーしたけど、もう直ぐ告白して来そうな人は万里も大丈夫だろうって。」
「そんな相談も万里ちゃんにしてるのか。」
「万里の兄になるかも知れない人だからね、実際スルーした人達はその後、人間的にどうかというレベルの人だと分かったわ。
万里は一瞬で見抜いてたけど、私はまだ修業が足りないのよ。
少し時間を掛ければ大丈夫なんだけど、大丈夫だと思ってた人がしばらく会わない内にという事が有ってね。」
「私なら大丈夫よ、一人暮らしでも、ちゃんと万里ちゃんのDVD見てるから、変わらずに、じゃなかった成長して苗川に帰って来るわよ。」
「それなら、苗川インターンシッププログラムに参加してみる?」
「えっ、それって初耳なんだけど。」
「まだ正式スタートしていなくて、これからテスト的に始めて行く段階なの。
本間市長発案で、スタートには市が大きく関わっているのよ。
梨花ならネットで基礎研修を受け、夏休みや春休みに実習という形に出来るわ。」
「そこから苗川で就職する新卒を増やして行こうという事かしら。」
「苗川で就職する学生の掘り起こしが目的だけど、将来的にはもう少し広いエリアを意識していてね、今までは東京なら良い仕事が有ると考えて上京した人が多かった訳でしょ。
このエリアに良い職場が有るとアピール出来る所までプログラムを拡大するつもりなの。」
「つもりなのって、智里の仕事?」
「ええ、こういった仕事は役所勤めの長い人には向かないし、肩書の低い若手では話が進まないのよ。」
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進路-05 [シトワイヤン-23]

「市長筆頭補佐の肩書は伊達じゃないのね。」
「まあ、高校三年間の実績が有るからね、相談を持ち掛けた企業も社長とかと面識が有るから話が早くて、数社から採用関連や研修関連の担当社員が集まって話を進めてくれてるのよ。」
「そういうのって、費用負担とかはどんな感じになるものなの?」
「始め本間市長と相談してた時は、市からの助成金みたいな形を検討してたの。
多くの企業の為と考えていたし、税収も安定してるからね。
そんな話を初会合で出したのだけど、二回目の会議で彼らが交渉してきたのよ。」
「交渉か…、只者では無いのね。」
「ほんとにそうでね、業績の良い企業ばかりだから、人材確保に関係するプログラムに対して市の助成は必要ない、でも真面目に頑張るので、万里の舞や歌を社員が見られる機会を作って欲しい、会場費他、万里のギャラも含めて全て負担するからとね。
万里には関係のない事業だから微妙な話でしょ。」
「そうか、万里ちゃんは特別な時しか人前で舞わないから、将を射んとする者は…、智里は馬ってことなのね、それで、万里ちゃんは?」
「条件を出したの、企業見学をさせてくれたらって。」
「そ、それって、相手にとっては嬉し過ぎることでしょ?」
「万里としては自分の好奇心を満たしてくれそうだと考えたみたいでね、互いの利益が一致したので、色々動いたのよ。」
「そういう時って智里が動くの?」
「まあ、動くというより少し指示を出したって感じかな。」
「誰に指示を?」
「今回は話がすぐに膨らんだからね。
会社見学の映像を企業PRに使いたいとか、どさくさに紛れてCM出演のオファーとかが有ったから、そっち系のチームに。
企業サイドは舞い上がってしまって、スケジュール調整に苦労したみたい。」
「気持ちは分かるな、万里ちゃん、もう企業見学には行ったの?」
「ええ、三件済んだわ、見学の当日は中学まで社長か重役が高級車で迎えに来たそうでね、因みに午後の授業は職場体験という扱いにして貰ったとか。」
「映像は私も見られる?」
「今、編集中、舞姫情報を待ちわびている世界中の人達に見て頂ける様に進めてるわ。
映像の方は私も見てないのだけどね、少し面白い話が有ってね。」
「うん、うん。」
「聞きたい?」
「勿論!」
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進路-06 [シトワイヤン-23]

「工場見学では沢山質問して沢山教えて貰ったと話してたのだけど、後日その会社の人がアドバイスを頂いたお礼にといらしてね。」
「アドバイスしたんだ。」
「何でも、製造ラインの全貌を掴む勢いで質問をし、教えて貰った話から効率を上げる提案を幾つかしたそうなの。
それが的を得ていたらしくて、すぐ改善出来る所を直したらかなりの効率アップに繋がり、他の提案も検討してるそうでね。
万里は現場の人とは違った視点で数学的に見られたから気付いたのだとか。」
「凡人では気付けないことか…。」
「何時でも遊びにいらして下さい、と言われて、社交辞令かどうか聞いてたから、工場見学は楽しかったのでしょうね。」
「いや、社交辞令はないでしょ、万里ちゃんに対して。」
「別の会社では、企画会議に参加させて貰って、自分の考えを示し提案をさせて貰ったのが楽しかったとか。
ところが、先方は、その提案が通ったから名前だけでも良いから企画のリーダーになって欲しいと言って来てね、図々しいよね。」
「万里ちゃんは?」
「すっかりその気なって、先方が付けた五人の部下とメールのやり取りをして管理職気分を楽しんでるわ、あの子にとっては遊びなのでしょうね。
万里との関係を強くしておきたいという会社側の魂胆は丸見えなんだけど。」
「ふふ、万里ちゃんが就職に悩むことはなさそうね。」
「どうかしら、工場のシステムを組むのは面白そうだとか、自分で企画をまとめるのは楽しいとか話していて、進路を決めるのは簡単じゃないかも。
まあ、工業系だと流石に大学進学を考えることになるから悩むでしょう、でも私としては舞姫に専念して就職なんて考えて欲しくないのよ。」
「そうよね、収入は充分有るのでしょ?」
「お父さんの推定生涯年収はとっくに超えてるわ、沢山税金を納めてるのよ。」
「お金のことは意識してなさそうだけど?」
「いえいえ、こそ~りと株の取引きして稼いでるし、沢山稼いで沢山税金納めて沢山使うと考えてるのよ。」
「高級ブランドバッグとか宝石には興味なさそうだけど、何に使うの?」
「とりあえずアメリカに別荘を一軒。」
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進路-07 [シトワイヤン-23]

万里は会社見学を切っ掛けに、苗川インターンシッププログラムに興味を持ったようで。

「お姉ちゃん、大学生の職業体験について相談し始めたそうだけど、どんな感じなの?」
「インターンシップの話、聞いてくれたんだ。」
「少しだけね、普通のインターンシップは一企業対学生という形なのでしょ?」
「うん、企業側には優秀な学生を見つけ就職に繋げたいという思惑が有るからね。
でも、田舎の企業ということは学生にとって最初のハードルが高いのよ。
そこを、苗川の企業という括りにして、一つの企業を体験しながら他の業種の事も知って貰おうという取り組みなの。
一つのプログラムで幾つかの業種について知ることが出来るのであれば学生にとってメリットになるでしょ。
企業側としては体験して貰ってそのまま就職という思惑が有るのだけど、体験した人が他社を選ぶにしても苗川エリアで就職してくれるならと考えていてね。
自分の会社の事だけでなくエリアの活性化を考えて下さってるのよ。
人が集まって来る魅力的なエリア、特に若年層が集まることの意味は大きいと思わない?」
「そうね、そういう考え方で動けるのは、本社を苗川に移せた余裕有る企業だからかな。
でもさ、この企画だけで協力というのは残念な気がしない?」
「というと?」
「もっと、協力し合えることが有ると思うの、ほら、ちゃっかり私のステージを相談しておねだりしたみたいにさ。」
「そうね、う~ん、何が出来るのかな…。」
「幾つかの現場を見させて貰ったのだけどね、社内の男女比が偏っていたり、社内恋愛の弊害を語る部長さんがいたり、移住してきて落ち着いて、さて婚活という人も見えるそうよ。」
「婚活プログラムか…。」
「婚活だけでなく、移住者同士、移住者と原住民が知り合える切っ掛けは多い方が良いと思うな。」
「そうね、市民祭の運営側にも参加して貰い易い体制を考えるべきかしら…。」
「苗川高校生部会に対抗して苗川企業部会の設立ってどうかしら、何をするかは部会の皆さんに丸投げすれば、お姉ちゃんの負担は軽くて済む、でも部会の要職について置けば企業部会を利用し易いかもよ。」
「ふっふっ~、お主も悪よの~。
万里が動けば、そんな組織簡単に出来るわね。」
「新しい市民たちが、苗川で暮らすことに更なる価値を見出せば、苗川の魅力はもっと高まると思うな。」
「そうね、世界一の苗川市だけど常に上を目指さないとね、本間さんとも相談してみるわ。」
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進路-08 [シトワイヤン-23]

正式名称、苗川市政市民会議企業関係者部会、通称苗川企業部会に乗り気な人が多かったのは、万里が動いたからに他ならない。
万里は工場や会社見学を通して、紙の上の知識では無く生きた経済活動を体験させて貰い視野が広がったと話す。
だが、多くの大人たちが万里から学んだのも事実のようだ。
始めはピンと来なかったのだが、万里のアドバイスで工場の効率がアップしたというのはホントのことの様で、噂が広がると他の工場からも見学に来て欲しいという声が多く届くようになった。
万里はISO9001規格を認証取得済といった企業姿勢や給与体系を見て篩いに掛け、見学に行く事業所を自分で選んでいる。
万里と見学を通して知り合った人たちが中心となって立ち上げられたと言える苗川企業部会、その取り組むテーマはすぐに数本が提示され、組織を作るメインスタッフの活動と並行して企画に取り組むチームが次々と発足した。
その背景には、万里があちこちにバラ撒いたヒントの存在が有る。
簡単に言ってしまうと、万里は作業に直接関わる事無く、自分の意思に沿う活動指針をまとめさせ、企画チームを発足させる事に成功した。
多くの大人たちが知らぬ間に万里の掌の上に乗っかった、という事実は、万里から話を聞かされ、市の担当者と共に活動をチェックする立場になった私だけが知っていることだと思う。
高校生部会との調整も有り、企業部会関係者と話す機会は多いのだが、皆さんの話は万里から教えられている程度のこと、それ以上ではなかったのだ。
そんな話を本間市長に話すべきか迷いながら…。

「智里、苗川企業部会、上手く行きそうかな?」
「はい、良い感じでスタート出来ました。
大学生向けのインターンシッププログラムから派生して、高校生向けプログラムの検討が始まり、異業種交流から新事業を目指す展開と並行しての真面目な婚活向け合コン企画、次の市民祭を意識しての企画など、苗川を更に活性化してくれると思います。」
「なあ、裏で万里ちゃんが糸を引いてないか?」
「えっ、企業見学には行ってますが。」
「ざっくり報告を見るとだな、しばらく前に万里ちゃんが、ざっくり話してた構想の一部なのだがね。」
「万里ったら本間さんにお話ししてたのですね、万里としてはヒントを出してる程度だそうですが。」
「やはりそうか、彼女は苗川企業部会とどう関わっていくつもりなのかな?」
「中学を卒業したら、本間塾の塾生として、このエリアの企業の更なる活性化を目指すのはどうかと話していました、企業活動に興味が有るそうで。」
「そうだな、彼女からは無限の可能性を感じる、やりたいようにやって貰って、問題が起きたら尻ぬぐいは私がしよう、問題が起きる気はあまりしないが。」
「塾長、よろしくお願いします。」
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進路-09 [シトワイヤン-23]

地方都市で、地縁に基づく企業連携を目指すのが苗川企業部会。
その取り組みの一つに、企業による教育の充実を考えるチームが有る。
和馬さんも興味を持たれた様で…。

「智里ちゃん、君の周りは色々と進展が早くて、久しぶりだと何から教えて貰えば良いのか分からないよ。」
「はい、私も何からお話ししておくべきか悩ましいところです。」
「特に苗川企業部会関連は、動き始めて間がないことも有ってか情報量が少ないだろ、その中に企業による教育というワードが出てたよね。」
「はい、そのチームが考えてる教育は社員教育とか新人研修ではなく、主に中高生に対する教育です。
すでに幾つかの展開をイメージして可能性を模索していますが、いち早く実現させたいと取り組んでいるのは、高校中退や不登校をドロップアウトと捉えずにステップアップのチャンスにしようという企画で、間もなく第一弾の募集を始めます。」
「所謂フリースクール的な?」
「そうですね、まずは何が出来るのか、何をしたいのかなど話し合うところから始めることになるでしよう。
苗川企業部会として取り組むポイントは、様々な職業を体験出来る環境を整えることにより、人や仕事と向き合って貰うことになります。
その過程で、学校で無駄な時間を使う代わりに、将来に向けた生きた学習をしていると参加者が思える様に指導出来たらと考えています。」
「なるほどね、指導はどんな人が?」
「幾つかの企業から十二名、指導経験を会社に持ち帰るというという意識で選抜されてきました。
取り敢えず一年間の指導に当たるべく、今は万里が中心になって、指導の流れやポイントを研究しています。」
「人を相手にする訳だから、机上の空論になる恐れはないのかな?」
「すでに二名の中退者が、活動の趣旨、プログラムが正式運用前という事情を理解した上で協力してくれています。
移住者の中には子弟の不登校が理由だった人がいる、そんな情報は掴んでいました。」
「そうか、それで簡単に。」
「舞姫がプログラムに参加するという情報も流しましたので。」
「なんかずるいな、万里ちゃんを使えば何でも簡単だ。
それで、万里ちゃんと僅かな時間しか一緒にいられなかったとしたら、詐欺だと訴えられかねないぞ。」
「いえ、万里は中学卒業後、このプログラム参加者と共に苗川市内で職場体験をして行くつもりです。」
「万里ちゃんは大丈夫なのか?」
「体力的にきつい仕事は見てるだけですよ、そういう面の根性はないんです、あの子。」
「舞は結構体力を消耗するのだろ、舞終えた後はぐったりしてたよね。」
「そうなんですよ、心身ともに疲れ切ってしまうので制限しているのです。」
「それでも、企業からの依頼を受けたという事は、苗川企業部会設立を意識しての事だったのかな?」
「万里は、企業見学を舞を含めたイベント企画の条件に出しましたので、おそらくは色々判断してのことだと思います。」
「我らが舞姫は忙しくなってしまうのかな?」
「どうでしょう、拘束されるプログラムは控えめにしていますが、作業の処理速度が私とは違いますので。」
「早いの?」
「はい。」
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進路-10 [シトワイヤン-23]

高校中退と言っても事情は様々、不登校も同様だ。
怪我や余程の病的な要因が絡まないので有れば、周りが環境を整える事で社会の一員として自信を持って生活出来るようになる、そう考えての取り組みにはチーム再起動として現在五人が参加している。
中学を卒業したばかりの万里も、サポート役として活動に携わっていて…。

「万里、今日はどうだった?」
「機械化の進んだ畑を見学させて貰ったのだけど、工場のシステムを応用すれば効率が良くなり人の負担が減りそうなの。
それで二つの工場を紹介させて頂いて来週見学に、物事にはついでという事が有るから、チーム再起動のメンバーで希望する人も一緒にとお願いしたわ。」
「まあ、万里が同行するので有れば断れないでしょうね。」
「うん、一つの工場は製品をうちで購入して農家にリースという形も考えていてね。」
「商売を手広くして行くの?」
「ええ、私の周りの人達に色々な仕事を経験して頂くという狙いが有ってね。
経験値を上げておけば応用が利くし、新たな取り組みはスタッフの能力を見極める材料にもなるでしょ。」
「チーム再起動メンバーを雇うという事も考えているの?」
「そうね、どこにも拾って貰えなかった人の為の職場は用意したいかな。
今の五人は親に強制されてでは無く自発的に参加してる人達だから全員最後まで面倒をみたいでしょ。
まあ、しばらくは見学や研修、実習で先の話だけど。」
「将来的には自発的でない人も受け入れて行くという案は?」
「私は反対してる、あくまでも経済活動の一部に無理を言って場を作って頂いてる訳で、自分を再起動しようという意思の無い人は迷惑でしかないと思うの。
そういう人向けには違う企画を立ち上げるべきだわ。」
「そうね、真面目な人の足を引っ張る可能性が有るものね。
他の企画と言えば、中高生向けの職場体験を広げて行くのは?」
「人数が多いと受け入れ側も大変でしょ。
まずは就職希望者と苗川企業部会のメンバーが面接する所から始めようとしてるのだけど、始めの内はこっそり募集していく事になるかも。
企業部会メンバーもイメージは出来ていても、実際に会って話してみて何が必要なのか、就職しようという人達にどんな教育、研修の機会を用意すべきか分からない部分が有るのよ。
でも、大学を卒業して教員になった人が企業活動を説明するより、遥かに効果的な場を作れると確信してるわ。」
「うん、進路指導をしている高校の先生は企業の現場を知ってる訳では無いものね。
万里は色々な会社を見学してみて何か感じるものは有った?」
「そうね、高校で工場や倉庫の仕組みを理解する時間が有って良いかも。
チーム再起動の人達は、授業で教えられてた内容より興味深くて面白い、就職したらすぐに役立ちそうだと話してたわ。」
「そっか、覚えておくわ、それでチーム再起動の皆さんとは上手くやれてるの?」
「ええ、ただね、移動中とか私を守ると称して、皆さん回りを取り囲んでくれるのだけど…。」
「万里の視界は背中なのね。」
「なんか悪いことして護送されてる気分なのよ、あ~、私は無実です、って叫んでみたいけど、変な子だと思われたくないし。」
「試しに叫んでみて、本心を話してみたらどう、もっと親しくなれるかもよ。」
「う~ん、ご飯をおごるよりハードルが高そうだけど、ねえ、年下の私からおごられるのって嫌なものかな?」
「それも、直接聞いてみたら良いんじゃない、人それぞれだから。
万里におごられたら、一生下僕となって働きます、という人、現れそうだな~。」
「ふ~ん、下僕ってどんな事してくれるの?」
「そうね…、う~ん、考えてみたら貴方の周りはすでに下僕だらけかも、最近重い物持った事有る?」
「重い物?」
「重い物という感覚すら失ってしまってると、筋力的にやばくない?」
「全然考えて無かった、筋力について調べてみるべきかな?」
「ええ、そのまま老人の様にはなりたくないでしょ、自分の健康とかにも気を付けなきゃ。」
「中学卒業で体育の授業が無くなって、喜んでいてはいけないと?」
「なんなら私が鍛えてあげようか?」
「大丈夫、自分で何とかする。」
「そんな事言わずに。」
「並外れた運動能力の持ち主で有るお姉ちゃんに鍛えられるのはちょっと危険なのよね…。」
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