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101-婚約 [キング-11]

城の子達に尊と望の話した後、彼等には若干の動揺が見られた。
弟や妹達も大好きな二人だったからだ。
恋心やぶれた連中とは別に、翔と愛の様に付き合い始めた者もいる。
二人以外は年齢的に正式なものではないがきちんと親に報告した。
性教育もして来たが、それは彼等にとって実感の涌かないもので有っただろう。
それが、少なくとも十七歳の四人にとっては急に身近なものとなった。
彼等はこの件をきっかけに四人で居る時間が長くなった、小さかった頃程ではないが。

「恋愛や結婚に関する布告は第一回のゲーム後で良いかな。」
「布告は父さん達随分時間を掛けて練り上げたそうよ、昔はお手本が有ったから必要なかったって、でも私達は…。」
「その後婚約発表ね、女の子達泣くだろうな~。」
「まさか。」
「あっ、翔は女心分かって無いんだから、翔が他の女の子と結婚したら私は絶望のどん底よ。」
「愛はそうなのか…、尊とは結婚について随分前から話し合ってたけど、この四人は父さん達みたいに仲良く二組の夫婦になるんだよなって、それ以外考えた事もなかった。」
「聞いてなかったわ。」
「だって結婚なんて随分先だと思ってたし、照れくさいだろ色々…。」
「赤ちゃんを産むのは、まだ実感が涌かないわね…。」
「母さんは結婚披露宴を一つのイベントにして、お祭りの様にするって言ってたけど。」
「でも父さん達の時、結婚式は八人だけだったんだろ、僕らも四人だけの結婚式をどこかでこっそりやらないか?」
「賛成、昔は新婚旅行というのをやってたそうだからそれを真似しましょうよ、場所は小さな島、実験的に花ばかり植えてみた島が有るの、気候が合っていたみたいで綺麗になったわ。」
「日程はどうする?」
「母さんからは、今まで城の子の長男長女として頑張って来たのだから、一度ゆっくり休みを取っても良いって言われた。」
「うちも、誠達に任せる事も必要だって。」
「確かにそうかもな、僕らがずっとメインで動かして来たけど、それでは弟や妹が今一つ成長出来ないのかもしれない。」
「第二回のゲーム後ぐらいなら何とかなりそうね。」
「その方向で父さん達とも相談しようか。」
「ええ。」

「でもさ、マリアさまと話して少し安心したよな。」
「ああ、僕らの子どもは僕らと同じ様な能力を持つ、もちろん個性は有るがって事だろ。」
「三つの種族とは考えてなかったわね、国民と城の子、城の大人、父さんや母さんは八人だけの種族私達を生み出す為の存在。」
「おかげで僕らは国民以上の可能性を貰えた。」
「両親に感謝しないとね、婚約発表の時に感謝の言葉をしっかり入れようよ、これから続く人達が真似してくれる様に。」
「そうだな。」
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102-リレー [キング-11]

第一回のゲーム大会。

「五十四チームもエントリーしてくれたのね。」
「はは、でも上位を目指してるのはその内二十チームぐらいじゃないのか。」
「お祭り気分で良いのよ、参加する事に意義が有るって。」
「今日の演出は昇が中心なんでしょ、どう、うちの次男は?」
「良いと思うよ、コース全般に音楽を流したり屋台も配置して盛り上げている。」
「スタート地点には巴か、あの子は居るだけで周りが勝手に盛り上がって…、今日もそうだな。」
「将来は都市の中心になるとはいえ、随分道幅を広くしたものだ、横一線でのスタートが見ものだぞ。」
「スタートだ。」

一人四キロはペース配分も難しい、チーム四人の力に差も有る。
上位は抜きつ抜かれつの展開となり皆が楽しめた様だ。
何といっても、走り終えた者達を香、巴、昇、誠、といった城の子達が出迎えた事が大きかった。
勝敗に係わらず走り終えた者達は嬉しそうだった。
結果発表の後、恋愛や結婚に関する布告と説明、そして尊と望、翔と愛の婚約を発表した。
その夜、城の大人達。

「反応は様々ね、国民の間でも四人を恋愛対象と考えていた子は落ち込み気味、元々城の子より自然に恋愛感情を持ってたみたいね。
他は、王子さまと王女さまの夢の様な結婚と捉えて喜んでる子、結婚について親に尋ねている子もいたわ。」
「告白を検討し始めた子もいるだろうな。」
「でしょうね、昔は無かった様な告白の形を作ってあげようかしら。」
「例えば?」
「相手を中央広場のゲート前に呼び出すのが告白の意思表示、そうしておけば呼び出された側にも考える時間が出来るでしょう。
そこにはもちろんカメラが隠されているから、誰が誰に告白したか分かる訳か。」
「大人世代と違って恋愛に関する情報が少ないから、フォローする必要が有るかもしれないでしょ。」
「自然にカップルが増えてくれると良いわね、私達の頃は経済的な問題も有って歪んでいなかったかしら、未婚率の高さとか。」
「この大地を前に未婚率が高くなったら大問題だな、まあ昔は過密状態だった事も未婚率を上げる要因だった気がするが。」
「種として次の世代に託して行く、類として進化して来たのが人間だからな、次の世代へバトンを渡せなかったら寂しいものだよ。」
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103-結婚式 [キング-11]

二組のカップルに対して過去のしきたりに囚われる必要はないと伝えた、ただ、今後、国民がまねしたくなる結婚式の形を作る事は良い事だとも。
様々な人種で構成される我が国において、過去のしきたりは邪魔でしかないと考える。
新しい国家にどんな風習が定着して行くのか興味深いところだ。
結婚式は当初、盛大に行う気はなかった、だが国民からの声に城の大人達は折れざるを得なかった。
子ども達の多くにとっては、小さい頃遊んでくれた大好きなお兄さんお姉さん、単独コロニーから移って来た者にとっては大恩人、他の大人達にとっても彼等の美貌は憧れの存在であり、世話になった者も少なくない、尊がこの国の王だと言われても国民は素直に受け入れるだろう。

「尊、国民の皆さんがどうしても盛大に祝福したいそうなの、私が考えてた程度では納得して貰えそうにないわ。」
「このパレードって何ですか?」
「特別な馬車を作り始めたそうなの、その馬車に乗って東のはずれから中央広場に向けてゆっくりと移動、沿道は人で埋まりそうだから、笑顔で手を振ってね。
中央広場で国民のパフォーマンスを楽しんだ後はゲートを通って城へ、城には抽選で当たった人との宴に。」
「宴の準備だって大変だろうに…。」
「そっちもやりたい人の中から選ばれた人が…、国民の祝福したいというパワーは半端じゃないのよ、あなた達がこの国の為に働いてきた事に対して感謝してるのよ。」
「そういう感覚じゃなかったけど…。」
「祝福されなさい、それが済んだらしばらくゆっくりしておいで。」
「大変そうだけど仕方ないのかな、でも巴達の結婚式も…、結婚式の度にそんな事やっていて良いのかな。」
「そうね、巴や香も人気者だから盛大になるでしょうね、昇や誠はあまり表に出て来なかったけど、その働きは充分国民の皆さんに伝わってる。
こういうのは国民にとって大切なイベントであり、国民同士の絆を深める事にもなるのよ、こちらから強要しない形で有れば問題ないと思うわ。」
「強要しない姿勢を僕らが守り続ければ良いという事なのか…。」
「ええ、そうしていればこれから政治をお任せする人達もそれに倣うのじゃないかしら。」
「そうだね、強要か…、今の大人達はきつい仕事でも必要性を理解してやってくれている、子ども達もそれに倣ってくれれば良いけど、そうでないと強要する事になるでしょ。」
「私が見てる範囲ではきちんと教育してるわよ、集団を維持していく為にはやりたくない事も進んでやる人が必要、子ども達も理解してると思うわ。」
「国民の義務が理解されてるなら安心だね、ねえ母さん、結婚って義務かな、権利かな?」
「微妙ね、広い大地を前にしたら義務かもしれないけど強制は出来ない、二人の合意有っての権利と考えましょうよ。」
「母さんにとって出産は、九人で終わらないのでしょ?」
「ふふ、義務と思われてもおかしくないペースだけど、健康で何より若いまま、子ども達は手が掛からないとなれば子を産み育てる事は自然でしょ、動物の本能なんだもの。」
「そうか、自然な事なんだ。」
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104-遊覧飛行 [キング-11]

リレーの御褒美である惑星一周遊覧飛行は、国民に惑星の状況を知らしめる機会となった、翔が映像を編集しモニターで見れる様にした事による。
広大な海はともかく延々と続く不毛の大地はこれからの困難さを思わせるのに充分。
城でも作業の合間に映像を見ていた。

「夢は落ち着いて解説してるね、解説の合間に流してるのは夢の歌声でしょ、麗子の次女は最近一段と綺麗になったわね、容姿も歌声も。」
「同じ遺伝子の筈なのに兄弟で本当に違うのよね、まあ容姿の良さと性格の良さは共通してるけど。」
「夢は今まで裏方中心だったろ、何か考えが有るのかな?」
「尊は色々な仕事を経験させたいと話していたわ。」
「それは間違ってないな、尊達がマリアさまの生徒になった頃は四人で進めるしかなかった事も、今では二十四人で分担、でも兄姉を頼る気持ちが強そうだったから。」
「機内の映像は昇が担当してるのか。」
「ふふ、ようやくお客さん達の緊張がほぐれてきたというか、城の子達のもてなしを受ける事に耐えきれなくなって手伝い始めたわね。」
「それも良い、彼等にとっては一生忘れられない思い出となるだろう。」
「おっ、あれがジャングルか、結構な面積になってるじゃないか、どうやったのだ、誠。」
「まだ雨が都合良く降ってくれないから、なだらかな山の中腹に幾つか池を作ってその周りを緑化、そこだけは肥料も与えて生長の早い木を植えたんだ。
川はまだ自然じゃなくて、ほら海まで届いてないでしょ、あそこからパイプを使って池まで戻している、最初の頃は水の補充を随分したけど今はたまの補充で済んでる、でも緑が増えたら自然な川になると思う。
川の岸辺には草の種を蒔いたり、切った木の枝を転がしたり、枝からすぐ根や芽が伸び始めるんだ。
少しの手間で多くの緑が広がって行くから楽しいよ、この大陸の赤道付近はすぐ緑に覆われると思うな、でも他の実験場は木の生長がここ程早くないから、手間も時間も掛かりそうだよ。」
「だろうな、箱舟には様々な環境で生きて来た生物がいる…、ところで動物はどうするんだ?」
「餌の生長を待って猿や鳥から、その糞が肥やしになるでしょ。
ここでは魚が増えたらワニを解放するんだ、増え過ぎてしまう様ならこちらで捕獲して皮は加工、肉は…、美味しくなかったら養殖魚の餌とか。」
「なるほど、まずは利用価値の有る肉食獣からという事なんだな。」
「うん。」
「ジャングルから海か、海はあっちも綺麗だな。」
「でもまだ魚は少ない、海藻と一緒に小さい魚を放した成果が出るのはしばらく先みたいだよ。」
「いずれ世界中の海に広がって行くんだろうな。」
「早くイルカやクジラも解放してあげたいけど、餌が充分過ぎる程に増えないとね。」
「今度の画面は牧場か、随分移動した訳だな。」
「ここは愛ちゃんが担当、牛がこの管理されていない状態で健康に育ってくれるか試してるんだって。」
「野生の牛か…、それにしても随分広いな。」
「木が育つには時間が掛かるけど、牧草は早いみたい。」
「こっちは小麦か?」
「種に余裕が有る作物は多めにばら撒いているんだって、養分が充分ではないから痩せてるけど。」
「緑地は順調に広がっているという事か。」
「でも荒野の広さを考えたらまだまだだよ。」
「そうだな。」

遊覧飛行の映像を見た国民達からは町周辺の緑化速度を上げたいとの声が上がった。
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105-発表 [キング-11]

第二回のゲーム、数学は静かな盛り上がりを見せた。
数学に挑戦出来るだけの力量を持つ大人にとっても他の参加者の力は未知数。
参考問題の形式は、一人の大人と三人の子どもが組めば得点を稼げる設定。
大人二人と子ども二人の組み合わせが決して有利と言えないのは問題が共通語で出題されている事による。
また、エントリーまでの早い段階で一部の大人達が子ども達の力を伸ばしたいと主張し大人一人子ども三人によるエントリーを提案、結果全部のグループがそれを受け入れた。
参加を決意した大人は三十一名、彼等はエントリーに向けて身近な子ども達の力量を計る。
ここで、コロニー時代の国にこだわる者もいたが、幸いな事にその多くは人種に関係なく仲間集めをしてくれた。
おかげで、数学の成績が優秀な子ども達は漏れる事無くエントリーを果たした。
ゲームの模様は簡単にモニターで紹介されたが、問題の解説は詳しく行われた。

「尊、問題解説はほとんど数学の授業だが、予想してたより見てる人多いぞ。」
「そうか…、翔、結果を見てみると、思ってたより子ども達の学力が伸びてると思わないか。」
「ああ、リーダー役の大人達による指導の賜物だろう、新たな師弟関係が上手く構築されつつ有るのかな。」
「やはり民族にこだわったチームは成績が悪かったな。」
「結果を見て反省してくれれば良いけど…、それよりこの後の色々な発表に国民がどう応えるか微妙だよな。」
「ちょっと不安だよ…。」

今回の発表はすべてモニターを通してとなる。
ゲーム、数学の結果発表は巴と香によって、その後は尊が。

「今回の結果、子ども達の力がすごく伸びている事が分かりました、指導して下さった各チームリーダーの方々に感謝します。
さて、ここで皆さんにお話ししておかねばならない事が有ります。
今、この惑星はマリアさまのテクノロジーをお借りして開発しています。
この状態はしばらく続きますが、徐々にその比率を減らし、国民の皆さんによる自給自足、大人の皆さんがかつて地球で利用していた技術へ移行して頂きます。
これはマリアさまのテクノロジーが学習によって習得できるものではないという事実と材料に限りが有るという事によります。
今日は今まであまりお見せして来なかった、僕の力を見て頂きたいと思います。」

その光景は国民にとっては異様だったと思う。
尊が手にしたのは翻訳機、それが突然姿を変え銀色の塊になったと思った瞬間モニターに変わっていた。

「気付いておられた方もいらっしゃるでしょうが、今、この世界には三つの大きく異なる人種が存在しています、一つは長く遺伝子を受け継いできた人類の末裔である皆さん、その遺伝子の一部をマリアさまが変異させる事に成功したという父をはじめとする城の八人、そして僕達城の子どもです。
マリアさまから託された僕らの役割は生物が住める惑星を増やす事です。
皆さんにお願いしたいのは、惑星を平和で豊かな星にして行く事。
もちろん時間は掛かります、この惑星の開発だけでも何十年何百年と掛かるでしょう。
でも、これはマリアさまが人類に与えて下さったチャンスなのです。
地球で培われて来た科学技術をここで復活させ間違っていた所を訂正し、もう一度、類として進化する、その為にはマリアさまのテクノロジーに頼り切っていてはいけないのです。
でも皆さんの文化レベルを大きく下げたくは有りません、そこで数学に挑戦して下さった方々などと、新たなプロジェクトをスタートさせたいと考えています、地球の文明については色々教えて頂いています、それを復活させ発展させるというプロジェクトです。
また政治に関しましても…。」

尊の話は続いている。
国民はこの話をどう受け止めるのだろう、不安は有るが方向性は変えられない。
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106-反応 [キング-11]

尊の演説後、城の住人総出で国民の様子を探ったのは、尊の話に対する反応が読み切れなかったからだ。
新しい町にも隠しカメラは付けて有る。

「皆さん活発に意見交換してるわね。」
「はは八人だけの存在という私達に同情の声も有るが、そんな感じじゃないよな…、一般国民とは今まで通りの付き合いは難しくなるのかな。」
「マリアさまのテクノロジーがなくなって行く事への不安は大きいみたいね、でも子ども達は自分達の役割を受け入れてくれそうだわ。」
「ロックおじさん、簡単に現時点での国民感情をまとめたデータを送りますね。」
「ああ、昇、有難う…、これは…、戸惑いながらも受け入れると判断すれば良いのか。」
「結果からの推測としては、戸惑っている人達も冷静に受け止めた人達が良い方向に導いてくれると思っています、もちろん全員とは行かないでしょうが、悲観的なレベルではないと思います。」
「あっ、数学で上位に入った人達が集まって…、このグループに問題は無さそうだわ、自分達の力で科学を発展させる事の意味を語り始めた人もいるわよ。」
「作業時間が長くなるとか、労働力の不足を心配してる人もいるが、これは移行に時間を掛けるとの話を聴いてなかったのだろうな。
あっ、ちゃんと説明してくれる人が現れたぞ…、広大な土地を使って大胆な作業が可能だからとか、マリアさまのテクノロジーが使える内にしっかり開発を進めておくとか。」
「自力で船を作って惑星の裏まで行ってみたいなんて人もいるよ。」
「これなら大丈夫じゃないか、今後プロジェクトをスタートさせると共にゲームを色々なバリエーションで展開、コンクール形式でも国民の皆さんからアイデアを出して貰う、目標が有れば生きがいを感じるというものだ。」

その後国民の間からは、プロジェクトへの参加を希望する者、ゲームを企画したいという者も現れた。
時間経過と共に尊の演説内容は国民の中で消化された様だ、全国民が町の住宅街で暮らす様になり、広がりはじめた畑が、この地を自分達の星で有ると感じさせているのだろう。
何時までも城の子ども達に頼っていてはいけないと話す者もいる。

「食料生産をコロニーに頼らなくするまでには時間が掛かりそうね。」
「それでも、大胆農法が成功すればペースは上がるんじゃないか。」
「国民は広大な土地を上手く受け入れたよな、豚の餌となる作物を必要以上に育てて、と言っても種を蒔いたらほったらかし、餌が育ったらそこへ豚を入れる、豚は畑を荒らすが如く食事をし糞を、餌が減ったら豚は別のエリアへ、荒らされた畑は耕して次の作物、豚の糞が肥料になって前回よりは収穫量が増える、エリアの真ん中には小川が流れているから水浴びもOK、水浴びで汚れた水は海のプランクトンを増やす事に繋がる。」
「でもそんな野生に近い豚の肉質はどうなんだ?」
「まだ、結果は出てないが、少なくとも土地の改良には繋がるだろ。」
「余裕の有る作物はとにかく大胆に畑を広げているのよね、害虫の心配がというより害虫が増えても問題ないだけの収穫量にして、虫を放し、その虫を食べる鳥の繁殖も考え始めてくれたわ。」
「多様な生物の住む星にという声は多くの国民から出てるわね。」
「私も、人間とその食料しか存在しない世界って嫌だわ。」
「ノアの箱舟か…。」
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107-金 [キング-11]

尊達は結婚式を済ませ、花に包まれた島で数日過ごした後は惑星探査を行っている。
高速船に乗り、第五惑星、第六惑星、第七惑星にゲートを置くためのコロニーを設置。
人が住むには適さないが、それぞれの星では金属を発見、それを扱いやすい形にした物はゲートを利用し町へ送っている。
彼等がその作業に専念しているのは、地上を国民から選んだ代表と弟達に任せるためでもあった。
もっとも惑星探査とはいえゲートで行き来出来、食事は共にしている。

「尊、やはり第五惑星とかに住むのは難しいのか?」
「いえ、時間を掛ければ第五惑星は何とかなるかもしれません、翔が計算を始めています、他はコロニー外での生活は出来そうに有りませんが。」
「当座の資源は確保出来そうだと聞いたがどうなんだ?」
「はい、鉄や銅といった加工しやすい金属中心に町へ送っています。」
「これからの工業を考えると、倉庫の近くにもゲートが欲しいと思うが。」
「便利過ぎない生活にも慣れて頂かないといけません、実の所この惑星でも金属は得られます、ただ町からは遠いので。」
「そうか、それなりに国民を甘やかした上での事なんだな。」
「先を考えると第四惑星と第五惑星の資源は僕らが手を付けない方が良いと考えています。」
「成程、で、今後のエネルギーについてはどうなんだ?」
「ここに化石燃料は存在しません、国民からも聞かれましたが、元々生命が存在してなかったので、でも、惑星規模で水の循環が出来上がれば水力発電は可能です、そのための湖を山の中腹に作って有ります、いずれ木が成長すれば火力発電も…、迷っているのは恒星からのエネルギーを利用する技術です、マリアさまの技術を使えばすぐにでも可能ですが、地球の技術では危険が伴うと思います。」
「ならやめておこう、人類が自分の手で管理し切れないシステムは不要だ。」
「そうでした、安全な発電方法を色々考えてみます。」
「お前達にとっても初めての体験なのだからな、どうだ、惑星探査では何か面白い発見は有ったか?」
「第七惑星で金を発見しました、他に精密機器に役立ちそうな金属も。」
「金か…。」
「金本位制とか貨幣経済の話は聞きましたけど、この惑星で必要ですか?」
「今の所必要ない、ここの原始共産制とも言える状況は大人達の常識に反し上手く機能している。
このままどこまで大きく出来るかなのだが…。」
「何か問題でも?」
「心の問題なんだ、昔は土地私有に始まって色々な物が私有物だった、それはお金によって取引されたりした、だが、社会のシステムの中で貧富の差が大きかった。
この国では、働く事がこの集団を維持する為に必要な事だと誰しもが理解している、生きて行くのに必要な物は普通に手に入る。
ただ、多く働こうが得られるのは満足感のみだ。
それを喜びと感じる心が子ども達に、ずっと伝わって行くのかどうかが将来に向けて、大きなポイントになって行くと思う。」
「昔はお金を多く手に入れる為に働いた…、でもそれは大きな目標となり科学を発展させたという事でしたね、お金の代わりになる様なご褒美を考えた方が良いでしょうか?」
「悪くはないが、迷惑をこうむる人が出て来る様な特権は良くないな。」
「ですね、一度皆で相談してみます。」
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108-通貨 [キング-11]

国の大人達はつらい経験を経てここにいる、コロニーから惑星へ移ってもこの国が楽園で有る事に変わりはない。
労働の対価が平和な暮らしという事に異を唱える者はもちろんいないが、子ども達の明日を見据え社会制度を考えている人もいる。
そんな大人達と議論を重ねた城の子達は。

「結局リーダーがどんな形で選ばれたかより、その資質がどうかなんだね。」
「父さん達を選んだのはマリアさまかもしれない、だけどリーダーとしての資質はスコットランドなどのリーダーより上だった、だから大人達はキングを中心にまとまった。」
「その地位を国民の代表に移すのは大きな問題ではないと思うわ、大人達から聞く貧富の差はここでは生まれにくいでしょ、でも問題は将来に渡って国民が勤勉であるかどうかなのよね。」
「労働と関係なく公平に食事を得られている事が競争を生みにくくしかねない、また怠惰な人を生み出しかねない、という言う話はまだ実感が涌かないけど。」
「行き過ぎた競争社会は不幸を生み出すが適度な競争は必要、ゲームだけでは足りないかな。」
「通貨の概念は理解したけど貧富の差が出来るのは嫌かも、昔の世界では恐ろしく片寄っていたそうだね。」
「すべての物をお金で手に入れなくてはならないとなると安心して子どもを産めなくなると思う、でも比較的レアな物レアなサービスに関してだけに通用する通貨ってどうかな?」
「例えば?」
「麻紀さんの服とか、今は順番待ちだけどお金を払う形にしたらどう?」
「う~ん、国の為に頑張ってくれた人優先か。」
「手に入れる為に真面目に働いたりゲームでがんばるという事だろ。」
「うん。」
「国民全員が生活に困る事はない状態を維持しつつ、より良い仕事をしようと思えるご褒美という事だね。」
「そうなると…、レアな品物を扱っている人の所にお金が集まって行くのか?」
「それで良いと思うわ、お金の欲しい人がレアな物に係わって行けばレアじゃなくなっていくでしょ。」
「農場の労働力は維持できるのかな?」
「大丈夫でしょう、労働に対する対価をきちんと払っていけば。」
「仕事一つ一つに対価を決めて行くのか?」
「時間が掛かっても手間が掛かってもやるべきだと思うな。」
「大人達は人口の少ない内なら修正もし易いと言ってくれた、今まで通り自由に手に入る物とお金が必要な物の線引きがしっかり出来ていれば試してみて良いと思う。」

国民の代表とも議論を重ねた結果、試してみる事になったが問題も多い。
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109-ゴールド [キング-11]

城の子ども達が考えている経済システムで問題になるのは金の流れだ。
労働者に支払われるのは国からの金。

「税金の形で回収すると言っても、そのシステムも大変よね。」
「国民が扱えるコンピューターネットワークが完成したらそっちで管理したいけど。」
「何年後かな…。」
「不正が有るかもって事だろ、でも今はそんなに気にする必要はないと思う、お金が動く場所は限られるから、下手するとお金の使い道に困るかもしれない。」
「お金を得る為に頑張るという環境を作りたいんだよな、でも国民の手間は確実に増える。」
「手間に見合うだけの価値を見出して下さるのかしら。」
「お金を使って手に入れる事の出来る商品やサービスは一か所に集めるってどうかな、それとお金は、商品を作った人にではなく、そのまま国に返って来るというシステム。」
「そうかあくまでも国営という形か、お金が特殊な物を製造している個人に集まってしまえば、貧富の差に繋がる、特殊技能をお持ちの方には少し多目の対価が支払われる事にすれば良いのか。」
「お金を使う場としてはコンサートとかも良いと思わない?」
「これは始めてみるしかないと思う、昔の世界も物の価値は変動していたと聞いたからな。」
「ひとまず、何に対してお金がどれだけ支払われるか決めてみよう、後でどんどん変更して行く前提で。」

この世界に来てから金を必要としてなかった大人達は、城の子の提案を受け入れた。
子ども達がより上を目指す社会を考えての事だ。
通貨に金貨を使う案も出たが、翔が中心になって決済シムテムを構築した。
あえて個人の収支が他人にも分かる様にしたのは競争心を高めるという最大の目的を強化する為だ。
このシステムを地球の技術で置き換えられるまでに何年掛かるのかという問題も有ったが、利便性を考えての事。
紙幣や貨幣を作る必要もなく、システム上の数字だけで済む。
基本は一時間の労働で一ゴールド、労働内容などにより加算、という形になった。
商品価格は高めに設定されたが受給バランスによって落ち着いていくだろう。

「今後貧富の差を生むとすればゲームやコンテスト、コンクールの賞金と特殊な技能、大人達から聞く所の貧困は今の体制を維持できれば考える必要はないと思うな。」
「大人はともかく子ども達は理解してくれたか?」
「まあ、時間が掛かっても良いでしょ。」
「そうだね、明日の労働からゴールドの支給開始、ゴールドで手に入る物やサービスは告知したけど反応はどう?」
「夢のコンサートが人気みたい、今まで抽選だった商品、順番待ちだったレストランでの食事がゴールドを必要とする形に変わる事に抵抗はないみたい、それよりゲームやコンクール、コンテストをもっと増やして欲しいとの声が結構出てるわよ。」
「国民に出まわるゴールドと、そのゴールドを使う機会のバランスに気をつけないとね。」
「何、簡単さ、僕らと触れ合える機会を有料で作れば、ゴールドはすぐ回収できるさ。」
「でも、私達抜きで回る様にしないとだめでしょ。」
「いずれはそうして行かないとね、でも今は良いでしょ、問題は百年後にこのシステムがどうなってるかだよ。」
「そうだった、月日の流れと共に変わって行くのだろうね、良くなって行けば良いけど悪くなって行く可能性も、人の心の変化まで予測できないよな。」
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110-経済 [キング-11]

通貨ゴールドは国民達に浸透した。
子ども達は学校の行き帰りに畑の手入れをする、そのついでに家族が必要とする量を収穫して帰る。
手入れの時間は労働時間として加算、自己申告制だが教育の成果か過小申告する者がいても過大に申告する者はなく、ゴールド導入と共に監視を強めていた我々を喜ばせた。
麦、米といった作物は倉庫に充分な量が保管されていて、必要とする量を自由に持ち出せる。
肉は冷凍庫で保管、こちらは慣れた担当者が希望に応じて切り分けている。
肉を得るにも対価としてのゴールドは必要ない、国民共有の食料だからだ。
ゴールドを必要とする商品は普通に暮らして行くだけなら必要のない物。
始めの頃はその線引きや価格に戸惑いも有ったが今は落ち着いて来ている。
嗜好品はゴールドを必要とするが高額ではない。
お菓子を買うために畑仕事をしている子もいるが、妹の分も買う様な子どもばかりだ。
大人達が酒を奢り合っているもゴールドに余裕が有っての事。
ちなみにタバコはマリアの意思により存在しない。

そんな中で一番頭を悩ませたのは家だ。
第一世代の住居はすべて無料だったが、第二世代が結婚して住む家をどうするか、土地はマリアから借りるという形で無料、だが建物を建てるにはそれなりの手間が掛かる。
結局は、結婚に向けてそれなりの覚悟を見せるべきとの声も有り、高額だが分割での支払いを許すという形になった。
真面目に働けば二十年掛かる額としたが、出産祝いの形でゴールドを受け取っていけば大した負担にはならないというシステムに落ち着いた。
子どもが欲しくても授からないケースも想定されたが、育児に手が掛からなければゴールドも得やすい。
微妙な物としては絵画が有る、ゴールドで買った絵画は売る事が出来るのかという問題だ。
これは購入金額の半額で国が買い取る事になった。
投機的な要素を排除する形として成立に至った訳だ。
絵は競売に掛けられ、高値で落札された絵の作者にはボーナスが支給される。
他の芸術家達もその人気度によってボーナスを受け取っている。

この国の特徴的な事は税がないという事だ、国が支払ったゴールドは贅沢品の購入やイベント参加の対価として国に戻される。
税務署も税務職員も必要ない。
役所として重要なポジションに有るのは計画局だ。
主に工業製品の開発、生産計画、都市計画などを行っている。
必要な物が揃うまでには長い年月が掛かりそうだが。
農業に関しては、細かい計算をして受給バランスを考えてという事はしていない。
食料の生産が消費を完全に上回っているからだ。
余った作物は緑地を広げるのに使われ、野生に近い鶏や豚も存在する。
国民は緑地を広げる事に熱心なのだ。
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