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改革-11 [シトワイヤン-30]

姫さまの記者会見。
姫さまへの質問は事前に記者達で整理して提出して貰ったが、人数が多過ぎて取りまとめには苦労した様だ。
それでもトラブルにならないのは姫さまの影響下にあるからだろう。
その質問に答えながら三十分程度にまとめられた話は、問題が無いか日米のスタッフを含めて確認、影響力の大きさを考え言葉を吟味。
実際のスピーチは、姫さまの近況報告に始まり、質問内容に答えた後、砂漠化を食い止め緑豊かな地球にしたいと訴え、市民改革の話で締めくくられた。
ただ、姫さまの話は、森を守り砂漠化を食い止めたい、という辺りから、詩の朗読と歌の中間の様な不思議なものに。
記者たちは、ただ静かに聞き入っていた。

記者会見の翌日。

「姫さま、記者会見への反響は大きく、速報で沢山の情報が届いています。
映像は世界中に配信されたのですが、画面を通して祝福を感じるた人が多いみたいです。
途中からの歌う様な問いかけは、やはり意識的にされたのですか?」
「ええ、私の思いを伝える一番の形だと思いましたので。
世界の環境問題を考えたら、もう時間の猶予はないと感じています。
人間にとって住み易い環境が失われつつ有る、このまま温暖化が進めば様々な問題が起こります。
海面が上昇し水没する島だけでなく、台風はその力をより大きくして人々の暮らしを脅かすのでは有りませんか。
寒い地域が暮らし易くなるといった単純な話ではないのです。
和馬さん、私の思いは人々に伝わったのでしょうか?」
「はい、少なくとも日本や欧米からの速報では、政治任せにするのではなく市民が動いて何とかして行こうという声が強くなりそうだと。
一番の問題で有る、電力や自動車の問題をもう一度見直そうとも。
また、苗川市の住民が自身の町をユートピアだと話す事も、その本質を見極めんとする声が上がり始めています。」
「そうですか、しばらくは皆さんがどう動いて下さるのか見守ることになりそうですね。」
「状況を把握して次の一手です。」

「姫さま、和馬、地球市民党関連の放送局が手を組み、姫さまが話された『地球を守るのはあなた方市民』というフレーズを前面に出して統一キャンペーンを展開する話が出て来たわ。
実現したら姫さまにも協力して頂きたいと。」
「そうですね、地球市民党も前面に出して行きますか。
国際関係を考えたら日本が主導的立場になるべきだと思いますが如何でしょう?」
「中東を含めて展開するのであれば最善ですね、愛華、首相官邸へ連絡を入れてくれるか。
私は地球市民党の幹部と連絡を取るよ。」
「分かったわ、市民政党若葉へも、このキャンペーンを通して市民教育に繋げて行きたいと伝えておくわね。」
「では、私はキャンペーンの責任者が決定したら、その方とお話したいと思います。」
「姫さま、何かお考えでも?」
キャンペーンに合わせて、私の移動手段の一つに飛行船を取り入れては如何でしょう。
飛行機よりは随分燃費が良い様ですし、比較的低空を飛ぶことになれば、それだけでも喜んで頂けるかと思いまして。」
「成程、より多くの人に祝福を感じて貰えますね、取り敢えず、こちらでも調べてみます。」
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改革-12 [シトワイヤン-30]

地球温暖化など環境問題は経済活動と表裏一体、簡単にどうこう出来ることではない。
電気や交通手段の為に膨大な化石燃料が消費されて来たし、この瞬間にも大量に消費され温室効果ガスが大量に放出されている。
この消費をやめたら人間の社会活動は根底から崩壊するだろう。
化石燃料からの脱却はハードルが高い。
地球温暖化、これまでも多くの人々がこの問題に取り組んで来たのだが、地球全体で検証してみると好ましい方向に向かっているとは言えない。
僅かばかりでも温暖化を遅らせる事が出来たかどうかというレベルで有り、一度上がった平均気温を下げる事は別の大きな要因が絡まない限り難しいだろう。
大災害をもたらす様な要因しか思い浮かばないのだが。

姫さまは『子孫に負の遺産を残し過ぎているのではないか』そう問いかけた。
環境問題だけでなく様々な場面で『子孫に負の遺産を残し過ぎているのではないか』と。
根本的な解決が出来なく永遠に対立を続けそうな人達がいる。
食糧問題としっかり向き合うことなく人口を増やし続けている国が有るかと思えば、少子高齢化の進む国も有る。
遠い未来の子孫だけでなく、今の子ども達が背負って行かざるをえない負担は小さくない。
姫さまは大きく問題を投げかけ、我々はそれに対する反応を見ている段階。

「姫さま、環境問題に対して我々の出来る事を模索中です。
その一つのシンボルとして使えないかと、姫さまの話された飛行船について調べてみたのですが、とてつもなく実用的ではないので、遊覧飛行と広告ぐらいでしか使われていないようです。」
「そうでしたか、以前西海岸で企業宣伝に使われているのを目にしましたので、もう少し使われているのかと、ヘリコプターの様な騒音も無くて悪くないと思ったのです。」
「ですね、一応、導入する場合の問題点などを調査して貰っています。
のんびりとした空の旅を売りに観光で利用出来れば、料金が高額になっても需要は有ると思いまして。」
「旅行での移動は速さを求め過ぎて来たと思います、空の上からのんびり地上を観察するのは悪くないのですよ。」
「姫さまは、そんな高さまで舞い上がっておられるのですか?」
「清香村の中だけです、トンビと一緒に。」
「空から見る清香村はどうでしたか?」
「綺麗な森に囲まれた美しい村です、廃屋が有ったなんて信じられないぐらい。
清香村の様な村を増やして行きたいですね。」
「限界集落や廃村は沢山有ります、苗川大改造を知った人達が地方で放置されてる豊かな森林資源を、景観を含めての財産だと見てくれれば、少しは変わって行くと思うのですが、まだ動きは弱いです。
もし飛行船での行き来が実現したら、あちこちの過疎地に姫さまの別荘を建てて行ったり来たりして下さると、巡礼者を分散させる事になり地方の活性化に繋がるかも知れません。
地方が活気づけば国のバランスが良くなると思います。
まあ、飛行船では制約が有って、予定通りの移動が出来ない場合も有ると思いますが。」
「日本人は何もかもスケジュール通りにしたがります、でも、もっとアバウトでも良いでは有りませんか。
気象状況によって大きな変更が有りますとアナウンスしておけば良いのですよ。」
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改革-13 [シトワイヤン-30]

飛行船の話は、その静かさとのんびりした雰囲気が姫さまを運ぶのに一番相応しく魅力的だと盛り上がったのだが、維持管理の問題などクリアしなくてはならない事が多い。
ヘリは便利だが騒音で人に迷惑を掛け、姫さまのイメージにそぐわない、それでも諸事情を考えると利用して行くしかない。

「温暖化対策を考えてるのにヘリを使うのは、姫さまでなかったら突っ込まれそうだわ。」
「地上を移動して、巡礼者の車が渋滞を起こす事を考えたらマシじゃないか。」
「結局、私達だって温室効果ガスを出しているのよね、個人の範囲だとそれ程でもないと誰もが思う、でもそれが集まると膨大な量になるという事でしょ。
高速道路の渋滞をニュースで見ると、とても沢山の車が排ガスを出しながらノロノロ進んでる、それでも地球規模で考えたらほんとに極一部なのよね。」
「だからと言って、車や飛行機を使わないとなると今の生活は維持出来ない、一度手に入れた便利さは簡単には手放せないのだよな、冷房がないと熱中症になり兼ねないし。」
「昔は冷房なしで暮らせたのよね、まあ清香村では扇風機だけで充分過ごせるのだけど。
あっ、中東の地下施設は夏でも涼しいのかしら。」
「と思うね、ある程度の深さになれば気温の変化は少ないだろう。
人工光による屋内の畑も有ったから、暑い時は地下で暮らすという選択肢は悪くないのかもな。
う~ん、それなら、水没しそうな小さな島国は水中都市か…。」
「温暖化対策を諦めるの?」
「もう手遅れの様な気がする、水中も温度変化は少ないだろ、島を囲うように水没を前提で建設、台風にも強くする、費用面が問題だろうが。」
「実験的に舞姫さまの社をそんな島に建設してみる?」
「そうだな、沈みそうな小さな島国なら何とでもなりそうな気がするね、いっそ姫さまを君主とする国を建国するか、清香はどう思う?」
「とりあえず調査して貰いましょう、温暖化に対しては後ろ向きですが、島が沈む不安を抱えている人達には喜んで貰えるのではないでしょうか。
水中都市と言っても水面近くに建設するのであれば、水圧の問題は何とかなると思います。
でも、姫さまを君主にというのは伏せておいた方が良いでしょうね。」
「そうだな、一度訪問し向こうから君主にと言って貰える様な策略を練りたいな。」
「はは、気が早過ぎよ、清香、費用は姫さまにお願いして新作DVDを制作して頂けば何とかなりそうじゃない?」
「新作を出さなくても、この所、入金が多いから大丈夫でしょう。
水圧と地震や津波に耐えられる様に配慮し、核となる居住空間を作ってから、清香村の別荘同様、増築を繰り返して行く、それなら予算に応じて都市を拡大して行けます。
干潮時に全てが水上に有る状態から始めれば良いのですが、水面に浮かぶ施設も作りましょう。
姫さまの社と水没都市、水上ホテルといった目新しさで観光客を呼べるのではないですか。」
「波の力による波力発電も実験的に導入してみたいね。」
「それなら干満の差を利用した潮汐発電はどうなのかしら、規模にもよるのだろうけど電力は化石燃料抜きの発電で賄いたいわ。」
「姫さまの聖地で有ると共に温暖化問題の聖地に出来ると良いですね。
そういう島の人達、市民意識はどうなのでしょう?」
「島の規模にもよるだろうが、運命共同体的な面は有るだろう、特に水没しかねない島なら。
移住もままならないだろうし。」
「進めてみる?」
「そうですね、姫さま関連の収入は特徴的な使い方をして行きたいです。
弱者への支援は、地球市民たちが普通に考えて下さるでしょう。」
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改革-14 [シトワイヤン-30]

『子孫に負の遺産を残し過ぎているのではないか』
舞姫フレンズ達の多くは、この言葉を真摯に受け止めてくれたが、個人として実際にどうしたら良いのか分からない人も多い様だ。
そんな中、各地で様々な人が立ち上がり声を上げ始めた、せめてこれ以上負の遺産を増やさない様にと。
日頃から問題意識を持って活動していたが、今一つ成果に結び付けられなかった人達が、姫さまの言葉に背中を押された形で意見を発信する。
例えば、先進国の国民は高額な電気代を受け入れて、脱火力、脱原発に力を入れるべきだとか。
実際のところ、日本の電力会社は電気代を安く抑える為に努力していると思う。
だが、安ければそれで良いのだろうか。
経済的な観点で見れば安いに越したことは無いが、少し視点を変えて電線の地中化を考えてみよう。
日本は何処へ行っても電柱が立ち並ぶ町ばかりだが、もしコストの掛かる地中線が当たり前に普及していたら、その分電気料金が現状より高額だったとしても、電力普及時から普通のことであったなら文句を言う人はいないのではないだろうか。
負の遺産として、いずれ廃炉になる原発を増やす、地球温暖化に影響を及ぼす石炭火力発電所を使い続けるという道を選ぶのか、費用は嵩んでも環境に負荷の掛かりにくい発電を模索し推進して行くのを当たり前のことにするのか、考える余地は有ると思う。

「和馬さん、MAIHIME TOWNにも電柱が見当たらないですね。」
「電線などは地中に有るのが当たり前なのさ、初めから地中ならコストも抑えられるだろ。」
「でしょうね、苗川は災害に強いインフラ整備を目指し、大改造に合わせて電柱を無くしました。
一気に施工した事で工事単価が抑えられたとはいえ、多額の費用が掛かったのですよ。
当初、本間さんが市民に負担をお願いしていたのですが、反対する意見も有ったのです。
でも結局は、とてもすっきりした街並みが観光客にも好評で苗川自慢の一つになりました。
費用も急速に伸びた税収でカバーする事が出来て、めでたしめでたしなのですよ。」
「なあ智里、電力会社が協力的だとは聞いているが、実際はどうだった?」
「今後、電線の地中化は少しずつ進んで行くと考え、工法や維持管理の方法に関して、色々実験的に進めたのですよ、苗川で。
その分の費用負担をしてくれただけでなく、苗川は全国的に注目を集めるだろうからと、見学者を意識して小規模水力発電や、小規模火力発電などの建設も。
実際、工事を始めた頃から、地中線化のモデル地域として見学者が大勢来ていましてね。
清香さんの会社も小規模火力発電所建設に関わっているのですよ。
また、まだあまり知られていない事ですが、広いエリアで停電になっても苗川を中心としたエリアだけは、直ぐに復旧できるシステムを実験的に運用していて、大都市圏では不可能な電力の地産地消の研究も進められているのです。」
「人も工場も増えて来てるがそれに対応してという事なのか?」
「それも有りますし、地球温暖化対策を意識してのことでも有ります。
苗川の小規模火力発電所は化石燃料を燃やすのではなく、森林の手入れをした時に出る使えない木や製材所で出る製材廃材などを使っています。
勿論二酸化炭素は出ますが、化石燃料を使うよりはマシなのですよ、排気は森へ流され微々たる量かもしれませんが木の光合成に使われます。
遠くから燃料を消費して運ばれて来た化石燃料による発電とは、同じ火力発電でも意味が違うのです。」
「問題点はないの?」
「色々な意味で効率が悪いです、植林地の維持管理と一体的に運用出来ればコストパフォーマンスは改善されるのですが、燃料が石炭や石油ほど扱い易くないのですよ。」
「発電コストとしては割高でも、森を維持管理する手助けになる一面も有るということかな?」
「ええ、有害物質を発生させないゴミなら一緒に燃やせるメリットも有ります。
理想としては、化石燃料に因らない発電で得られた電力を使って、林業用の機械類を動かせると良いのですが、まだまだ難しそうです。」
「そうだよな、綺麗な空気という問題だけでなく、燃料の多くを輸入に頼ってる状態は国際情勢の変化に弱い一面が有り好ましくはない。
まあ、輸出してる側にとっては、今のままであって欲しいだろうけどな。」
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改革-15 [シトワイヤン-30]

子孫に負の遺産を残さない。
その為にどうして行くのが、何が正しい選択なのか考えている、社会は単純ではない。
原子力発電所からの分かり易い負の遺産だけでなく、日常生活の中でも子に何を残し伝えて行くのかという視点を地球市民党では訴えている。
住み易い環境とは物理的環境もさることながら、精神的なものも大きい。
最先端の設備を整えた住宅に住んでいても、周辺住民との諍いが有っては幸せだとは思えない。
逆もまた然りだが、勿論、健康で文化的な生活は、文化的な生活を知っている人なら誰しもが望む所だろう。

同じ地球上で暮らしているとは言え、その環境は千差万別な訳で価値観も大きく違う。
舞姫さまの祝福を感じた人とそうでない人の差も大きい。
それでも、舞姫フレンズ達は、子孫の為に、という大きな方向性で緩やかにまとまり始めている、というのが、私達のMAIHIME TOWN滞在中、各地からの情報をもとにしてスタッフ達が出した結論。

「子孫の為に、というのが舞姫教の教義になりそうね。」
「愛華さん、舞姫教はよして下さいよ、怪しげな新興宗教みたいじゃないですか。
少なくとも万里の前では使わないで下さい。」
「そうね、もう少しひねりを加えた教団名を考えましょうか、でも舞姫フレンズが大きな影響力を持ち始めているのは間違いないでしょ。」
「ええ、日本への帰国を前に巡礼者の数が増えてるそうです。
その巡礼者達は、人間が精神的に進化することを、平和な世界を子孫の為に残すことと共に考えているのだと、昨日のテレビ番組で伝えていました。
いよいよ、地球市民党が目指して来た社会に向けて一歩前進という事では有りませんか。」
「そうね、私達が思い描いて来たバランスの取れた社会に向けて、まだまだ難問は山積みとは言え進み始めるのかもね。」
「日本に帰ったらすべきことが多そうです、まあ、実際に動くのはスタッフなのですが。
そうそう、今朝気付いたら、温暖化の影響で水没しそうな島国に半水中都市を建設するという案件が増えていましたね、海での発電実験と共に。」
「ええ、将来的には国ごと買い取って、王国を建設とか楽しそうじゃない?」
「王国ですか、勿論絶対王政ですよね。
絶対的な君主の下、国民の意識を高めバランスの取れた社会を築けるかどうか、公用語には日本語とメロディー言語をさり気なく入れて、型に嵌めない実験的教育を実践して行くとか。」
「そうね、まあ、日本の法律下では面倒な、実験的取り組みを試せるとは思うのよ。
国民の皆さんに失礼のない程度にね。
でも、この話は当分の間、内緒よ。」
「その内緒って、内緒の話だけどって言いながら人に話して良いという類ですよね。」
「だから、内緒だってば。
それより、子孫に負の遺産を残さない、という話から苗川大改造が再度クローズアップされてるでしょ、そっちは世界に向けてもっと情報発信して良いんじゃない。」
「そうですね、まだ英訳されてない内容が相当有ります。
う~ん、一度整理して書籍化しましょうか、王国を建設する費用の足しになると思います。
王国の国家予算はどれぐらいの規模にするのですか?」
「そうね…、あっ、独立国にして、姫さま関連の企業を集約し国営企業にしたら、沈みかけてる島国を豊かな国に出来るのではないかしら。
世界中の舞姫フレンズから集めたお金をどんどん使って、エリア全体の経済力高めて行けたら楽しいでしょ。」
「面白い話ですが…、温暖化が進行して完全な水中都市になってしまったら、領海は主張できるのでしょうか?」
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改革-16 [シトワイヤン-30]

MAIHIME TOWNに於ける最後のプログラムは、姫さまのファンサービス。
熱気球に乗り、空から巡礼者達に手を振る光景は、建設中のMAIHIME TOWNを上からゆっくり見ておきたいという姫さまの要望から。
姫さま自身は気球を意識してなかったのだが、一人だけで宙に浮くというのは何とも心元なく、キャッシーが熱気球を用意した。
途中、かごの外に出たりして楽しそうな姫さまの姿は、天女とか妖精とか人ならざる者で、観客の多くは口をポカンと開け、ただ見上げるのみ。
今回の滞在中、姫さまが人前に出たのは記者会見とイベントだけ。
町を離れる時もヘリコプターで空港へ直行の予定なので、居合わせたマスコミ関係者は大喜びで撮影し、速報として生中継したところも有る。
姫さまが見下ろした、まだまだ未完成のMAIHIME TOWNには姫さま滞在期間中、のべ二百万人を超える人が押し寄せた。
それを仮設の施設中心にしのぎ切ったのだが、当然飲食物やグッズの売り上げは半端なく、その利益から幾つかの工事を前倒し出来そうだと言う。
姫さまの帰国後は仮設商店の規模を縮小しつつ、舞姫さまの聖地として、社を中心に施設を充実させて行く。
またアメリカに於ける舞姫さまの拠点として、グッズ工場も順次稼働の予定だ。

「姫さま、空から巡礼者達を見下ろして如何でしたか?」
「まさしく数えきれない程の人達が集まって下さっていることを実感出来ました。」
「それでも姫さまを慕う人達のほんの一部なのですよ。」
「その実感はないですね。」
「ねえ万里、舞姫さま研究が進んでるのは知ってるでしょ。」
「まあ、知ってはいるけど、あまり見て無いの、何かね…。」
「万里に無理なお願いをする様な研究は全部断ってるから安心して良いのよ。
その中で幾つか注目してるのが有るのだけど、舞姫さまの祝福を感じられるエリアに関する研究が有ってさ。」
「私には実害の無い研究なのね。」
「ええ、それによると、舞を舞った時にはそのエリアが凄く広がるのだけど、それ以外の時は広がったり狭くなったり、ただ、平均値を出して行くと少しずつ広がってみたいなのよ。
因みにデータを検証してみたら、万里が美味しいスイーツを食べた時に広がり、ホームシック気味の時に狭くなってるみたい。
あえて、研究者には教えてないのだけどね。」
「へ~、そんなこと考えても無かった。
でも、平均値が伸びてるという事は、まだ成長期ということかしら。」
「ふふ、もう少し身長が欲しいのかな。」
「うん、実里が成長期全開で成長痛に悩まされているとか、そこだけはお姉ちゃんに似たみたいだけど、抜かされるのは兎も角、見下ろされるぐらいになられるのは抵抗を感じるのよ。」
「美しさでは全く勝負にならないのだから、それぐらいは許してあげなよ。
今日は大勢の人を眼下に見下ろしたのでしょ、女神さま的存在としての自分を実感しなかったの?」
「全くそんな感じじゃないのよ、勿論、全ての生きとし生ける者に幸多からんことを願っている、でも女神という存在、いえ、女神とは存在ではなく、空想の産物でしょ。
私という存在は誰かの空想によって成り立っていると思いたくないな。
普通の人とは少し違うかも知れないけど、神ではないと定義付けしたいの。」
「この世に唯一無二の存在としての万里を表す言葉が無いから仕方ないのよ、一番近いのが女神な訳で。」
「でもさ、絵画に見る女神とはほど遠いでしょ、私。」
「あんなのは、それこそ空想の産物、気にする必要ないのよ。
これから、子犬や子猫と戯れる映像とかを公開して行くでしょ、それを見た人達は、舞姫さまに類似する存在が今までいなかったと気付いてくれると思うわ。」
「そうね、普通の女の子っぽい所を沢山見せたら、舞姫フレンズの人達がどんな反応をするのか、少し楽しみでは有るかな。」
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改革-17 [シトワイヤン-30]

普通の女の子っぽい姫さまの映像は、MAIHIME TOWNを離れ帰国の途に就くニュースに合わせて子猫と戯れる姿を配信、同時に別バージョンをネットにアップした。
今後は、撮り溜めて来た映像と新たな映像を編集しテレビ番組化、世界中の放送局に売り込むが、すでに日本の放送局とは週一の放送枠を確保する話が進んでいる。
帰路の途中、ハワイで。

「姫さま、子猫との映像は大好評、ネットに上げた映像の再生回数は凄い勢いで伸びています。
美しいだけでなく愛らしいと、男女問わず心を射抜いたみたいですよ。」
「万里、多少戸惑う声も出てるけど、舞姫さまの可愛らしい一面を見られたことを喜ぶ声が圧倒的に多いのよ、これならレギュラー放送決定ね。」
「そっか、それなら私らしさをもっと出しても問題ないってことかな。
和馬さん、番組では様々な改革に関するヒントを出して行っても良いのですよね。」
「はい、姫さまの影響力は大きいので、ヒントぐらいが調度良いかも知れません。
録画での放送なら、人々の反応を見ながら修正も可能でしょう。
硬軟織り交ぜ、楽しい番組の中で市民教育の機会に出来ると良いですね。」
「英語版はどうなりそうですか?」
「日本で作成するものは、色々なコーナーを繋げて一回分にするので、アメリカ向けはコーナーを多少入れ替えても良いかと、過去を振り返ったり、地球市民党で進行していることを紹介するコーナーも
入れ、姫さまを撮影で長時間拘束することの無いようにさせます。」
「五分のコーナーを十回分まとめて撮影しておいても良いのですね。
まあ、ネタには困らないというか、清香村での様子はプロのカメラマンが事ある毎に、いえ、何もなくても撮影していたのも使えるのですよね。」
「ええ、彼も番組制作チームに加わって貰います。
元々、姫さまの記録映画を意識して撮影して貰って来ましたので、番組と並行して動物との触れ合いを中心にした映像作品を記録映画として制作する話も出ています。」
「万里をネタにまだまだ稼いでいくのね。
沢山稼いで沢山使い経済の活性化に繋げる、番組内でそういう話もして行った方が良くないかしら。」
「そうね、お金の流れははっきりさせておきたい、でも、簡単には説明不可能な規模でしょ、まあ、安定した雇用を生み出し、地方の活性化に貢献してることや、欧米でも同様の動きが有るという事は説明しておきたいかな。
う~ん、政治面はどうかしら、私達が市民政党若葉と深く関わってることは知られていると思うけど。」
「市民政党が政権を握ってから着実にバランスの取れた社会に近づきつつ有るものの、まだまだ抵抗する勢力は残っています。
既得権益を守ろうと必死になってる輩もいますが、我々は革命ではなく改革を目指しています。
姫さまが少し動いて下されば、政府の方針に基づく、じっくりとした改革、その速度が早まるかも知れません。」
「微妙な問題も有るのですよね、軽はずみな事は話せないから…、日本に帰ったら久しぶりに大臣達と会っておきましょうか。」
「お願いします、大した事をしてない団体から既得権益を奪う事は簡単なのですが、それによって歪が生じかねません、その辺りの調整には姫さまからの一言がとても有効になりそうな分野も有ります。
また、外交に関しては、姫さまの力をお借りしたいと言われていまして。」
「海外旅行の度に外務省のお世話になっているのでしょ、次は東南アジア諸国、じっくり準備をしてから訪問したいですね。
舞姫の社は各地で建設を始めていると聞きましたが。」
「訪問の順番は社の完成が早かった所を優先させます、姫さまに早く来て欲しくて競い合って建設に協力してくれてますよ。
ほんとは手抜き工事をしたい、でもそんな事は出来ないとか、葛藤が有るようです。
手抜きが当たり前だった人達、その価値観に変化をもたらしているのでしょうね。」
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改革-18 [シトワイヤン-30]

ハワイでは地球市民党の幹部と会談、姫さまにはゆっくりして頂いた。
世界情勢に関する分析を見ながら今後の方針について意見交換。

「和馬さん、今日の会合は如何でしたか?」
「特に目新しい話は無く、再確認といった所でした。
姫さまの登場によって、国民の心が国の指導者から離れてしまう事を恐れている国や、姫さまの力で国家間の問題を解決の方向に持って行き、政治経済の安定を考えてる国が有ります。
民間では、今までは金儲けに成功した者が勝者でした、それが姫さまの影響で勝者としての在り方を見直す動きに、バランスを考え貧富の差を考える人が増えています。
しかし、舞姫フレンズで無い人達は、そこに付け入る隙が生じるのではないかと狙っている様です、自由競争ですので。」
「しばらくは混乱しそうですか?」
「そうは考えていません、舞姫フレンズの勢力は静かに、そう、革命ではなくあくまで改革、市民改革です。
対抗する勢力に対して大きく譲歩という事はしませんが、敵対的な行動は控えています。
また、舞姫フレンズを通して新たな経済圏を形成して行く動きが有ります。
舞姫さまのとてつもなく大きく深い愛情を感じた者同士が、姫さまに見守られながら、この地球を平和にして行こうと、まだ静かにですが大きなうねりになりつつ有ることは間違いないです。」
「間違って対立が大きくなるという可能性が有るのでは?」
「今の所、目立った対立は無いです。
姫さまを調査している内に、姫さまの祝福を感じてしまうのですから、スパイを送り込むのは容易なことでは無いのですよ。
公表されていませんが、姫さまのMAIHIME TOWN滞在中、何人もの亡命希望者を受け入れたと聞いています。
地球上のややこしい問題すべてを、未来の地球を託す子孫の為にと考え解決出来れば話は早いのですが、流石に利害関係は単純な事ではなく、なんと言っても自分とその子孫さえ良ければと考えて来た人ばかりですので。」
「苗川で暮らす子は、大人達全員の子として地域社会全体で守り育てると聞かされて来たのですが、今はそこから、視野を広げつつ有るそうです。
日本に住む子ども達は全員、私達の子どもなのだと意識する事で、児童福祉に対する見方が変わって来ていると聞きました。
地球の人口が増え過ぎてるので単純な話では有りませんが、いずれは、世界中の子ども達を、世界中の大人達が共に守り育てる、どの子も自分達の子どもだと言える様になったら良いですね。」
「はい、でもその前に世界中の人達が、姫さまを敬愛し共に手を携えて前に進む、自分はそんな世界を描いています。」
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改革-19 [シトワイヤン-30]

姫さまという存在がなかったら、私達は大きな夢を描くこともなく、せめて日本が少しはバランスの取れた国になってくれたらと、市民政党若葉のメンバーと共に悪戦苦闘していただろう。
姫さまの存在抜きでは、多種多様な価値観の持ち主達が手を取り合って地球の明日を考える事など有り得ない。
人間は、長年に渡って利害関係によって争って来た、時には生き残る為に、時には自分達の勢力を広げる為に。
暴力的な手段こそ減ったものの、今も形を変え続いていることだ。
我々のスタートも似たようなもの、まず、舞姫フレンズと地球市民党の勢力を拡大しようとしているのだから。
ただ、その先には、国連などが足元にも及ばない世界規模の組織を思い描いている。
そして、どれだけ時間が掛かろうが、清香村の住人にとって村がユートピアで有るように、地上全体をユートピアにして行きたいと考えている、一部は地下や水中になるが。
こんな事は姫さまのいない世界で有ったなら、誰も相手にしない絵空事でしかないだろう。
だが、我々の辞書に載っている言葉で姫さまを表すのなら、神という言葉が一番近く、姫さまと共に有るというだけで、我々はこの世を楽園だと感じているのだ。

「姫さまは、日本に帰ったら何をしたいですか?」
「う~ん、愛華さんは?」
「私ですか…、贅沢な旅行で大切な人達とずっと一緒でした、日本に帰っても今のままで有ればと、考えてみれば特別したいというほどの事は有りませんね。」
「私も村の動物達がどうしてるか気にはなりますが、地球市民として地球が棲家、何処へ行っても私達を暖かく迎えて下さる方ばかりでしたので、日本へ帰るという意識は少しずつ無くして行けたらと考えています。」
「そうですね、しばらくは苗川で過ごしながら、国内に建てられた舞姫さまの社を回って頂く事になっていますが、その後は東南アジア歴訪が待ってます。
姫さま専用機はヘリと組み合わせて思っていたより使われる機会が多くなりそうですね。」
「観光特需を期待されてると聞きますが、私が一度訪問させて頂く程度で期待にお応え出来るのでしょうか?」
「舞姫さまの社は、二つとして同じデザインの物は有りませんし、舞姿のホログラムをメインにしていますが、それぞれの社毎に工夫してリピーターでも楽しめる様にしています。
新しい観光名所として、どの社もしっかり利益を出しているのですよ。
それがそのまま地域経済にプラスとなり、経済効果は当初計算していた以上になっていてまして、一時的なものではなく継続的に潤して行けるのです、著名な神社仏閣と同様に。」
「地方の活性化に繋がっているのですね。」
「はい、グッズ販売も好調、ほとんどが地方の工場で生産されています。
無理な生産体制を取らない様に指導して貰っていますので品切れもありますが、それが価値を高める事に繋がっています。」
「東南アジア諸国でも工場建設が始まっているのですよね。」
「今後は世界各地に工場が出来、互いに輸出入という形でグッズのバリエーションが豊富になって行きます。
勿論、品質を落とす事の無い様に最大限の注意を払って行く必要が有りますが、労働者の待遇を良くして行きますので、その地の経済に良い影響を与える事が出来るかと。」
「しかし、それによって立ち行かなくなる企業が出て来ないでしょうか?」
「その地にとって必要な会社なら簡単には倒れないと思いますが、場合によっては買収して面倒を見て行く事も視野に入れています。
スタッフの中には積極的に買収し企業改革を進めて行く事で、その地の社会改革に繋げて行けると考える者もいまして、子会社が半端なく増えてしまうかも知れません。」
「全体の労働環境を向上させるということですね。」
「その国の状況を見ながらの改革になりますが、姫さまの名前を傷つける様な事にはならない様に、私達が言うまでもなく、スタッフ達は心得ています。」
「少しぐらい良いのですよ、あまり完璧すぎると皆さん疲れてしまうのでは有りませんか。
アンチが多少いるぐらいが健全なのですよ。」
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改革-20 [シトワイヤン-30]

社会改革、地球市民党が提案しているのは急激なものではない。
まず、今の現状を見定めた後、よりバランスの取れた社会にして行くには何をすれば良いのか共に考えて行こうという呼びかけに始まっている。
少しずつ提案が発表されているが、実行に移して行くかどうかは個々の組織や個人任せ、故に進捗状況の全体像は把握出来ていない。
ただ、市民政党若葉の提案に沿って苗川で進められ来た改革を参考に、十億を利益目標に掲げていた企業が、従業員の待遇改善を進める為、目標を八億に、その利益から社会福祉の充実の為に一億を支出、といった情報は少しずつ入って来ている。
智里は、苗川の情報を世界に向けて積極的に発信、それと同時に、舞姫さま関連で得ている利益をどう社会に還元しているのかも。

「智里、株式会社舞姫の組織改革、目途はたったの?」
「はい、骨組みが固まりましたので後は作業を進めて行くだけです。
持ち株会社化し増え過ぎた子会社を整理再編して全体の効率を高めます。
和馬さん、株式会社舞姫の改革は、元々大きな問題が有った訳でもないので心配ないのですが、地球市民党として目論んでいる社会改革は上手く行くのでしょうか?」
「時間は掛かると言うか時間を掛けなければ歪に対応出来なくなると思っている、でも何とかなりそうだと思わせる報告が有ったよ。」
「楽観視の根拠は?」
「社会のアンバランスは何処に原因が有ると思う?」
「一番は極一部の富豪が富の多くを独占して来た事による貧富の差ではないですか。
日本人に限れば貯蓄が大好きで動かない資金の多さとか。」
「という事は、大富豪たちが舞姫フレンズとなって、無意味に溜め込んでいる資金を程よく減らしてくれれば良い訳だろ。
実際、日本ではそういう動きが出て来ているそうなんだ。
人を安い給料でこき使って来たお金持ちが、適正な賃金の見直しや福利厚生の充実を考えたりとかね。
清香の親父さんみたいにずっと従業員重視の経営を心掛けて来た人でも、姫さまの祝福を感じてから、一段と社会貢献に力を入れる様になったりしている。
日本国民全員が改革を意識しなくても、強い指導力を持つ極一部の人達が社会改革を意識してくれれば、市民政党若葉が政権を握ってからの改革も有り、行き過ぎた競争社会から脱却しバランスの取れた社会になって行きそうなんだ。」
「政権交代してから、税制改革を始め様々な改革に取り組んで来て下さいましたものね。
海外の場合、それぞれに事情が有って、元々社会保障が充実していた国以外は時間が掛かるのでしょうが。」
「それでも、富を独占していた人達に変化は見られる、キャッシーとこの会長は、姫さまに教えられた『起きて半畳寝て一畳、天下取っても二合半』という言葉の意味を噛みしめてるそうでね、流石に体格が良いから一畳では窮屈だろうが。
それで、資産を減らして良いからと、安定雇用の拡大を指示して来たのだけど、姫さま関連企業として知られる様になって業績好調、結局、資産が増えそうなのだとか。
今後は、MAIHIME TOWNへの投資を強化し、姫さまの拠点として社会的弱者を受け入れて行くそうだよ。」
「彼が本気を出したら、かなり多くの人を養って行けそうですね。
薬物や銃が持ち込まれることなく、犯罪のないまま拡大出来ると良いのですが。」
「MAIHIME TOWNの有る州では銃器の売れ行きが落ちているそうだ。
銃関連企業の業績が落ちたら、業態を変えさせ援助し失業対策を行う方向で話が進んでるそうで、州知事とも連携し、州規模での社会改革を視野に入れているとか。
姫さまの祝福を感じた人が多いからそれも可能なのだろう。」
「DVDでも少し効果は有るそうですが、やはり…、世界中の人達に祝福を感じて貰う機会を作って行けば、社会改革が世界規模で進みそうですが、かと言って万里に無理はさせられませんので。」
「ああ、世界で一番重要な人だからな。」
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