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徳沢-51 [花鈴-06]

 車で一時間半の距離を工場の人達がどう感じるかは分からないし、コテージを利用したいと思うかどうかも分からない。
 お父さんはキャンプ場が出来たからと言って無理して使って貰うのは本末転倒だと考えてるから、工場からの利用者数次第で社員以外の利用を想定、魅力的な施設となればそれなりの料金設定も出来るからと色々拘っているのだ。

「キャンプ場と言っても施設は様々、ここのはどんな感じになるのかな?」
「コテージを利用したホテル並みのサービスから、自分でテント張るワイルドな環境まで用意しようと話してるのだけど、具体的にはこれからなの。
 自分では管理出来なくなった人から貰って欲しいと言われ安く買った森なのだけど、それなりに広いのよ、間伐作業の進捗を見ながらキャンプ場としてのレイアウトを考えて行くことになるわ。
 火事が怖いから、河原にバーベキュー場など調理施設を用意するのだけど、大雨で川が増水した時のことも考えなくてはならなくて、大人達は水遊び出来る川に増水対策の仕掛けを考えてるのよ。」
「う~ん、綺麗な水が何時も流れてる状態は大雨の時に危険だったりするのかな?」
「そうなの、山の高さとか条件的に危険度は低いそうだけど、油断禁物でしょ?」
「だね。」
「ねえ、徳沢さんも消防団の団員を体験してみる?」
「消防団か、存在は知ってたけど、どうなのかな…。」
「真面目に訓練参加したら地元の人がどう考えているのか、子ども達の教育を含めて話を聞けるかもよ。
 徳沢さんとは全く違う価値観で生きてる人達、それを知らないまま教育を語られてもね。」
「えっと…。」
「世界中には様々な人が暮らし、それぞれの価値観に基づいて生活し教育していると考えたことは?」
「それは…。」

 徳沢さん達と話す中で気付いたのは、大学入試までの学力に対する拘り。
 中卒や高卒で働く人達のことは出て来ない。
 でも、工場を支えている人の多くは大学を出ていないのだ。
 そんな人達を採用している企業にとって高校のカリキュラムはベストではないと父は口にしている。
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徳沢-52 [花鈴-06]

 徳沢さんは誰もが大学へ進学すると感覚的に思っていた様だ。
 勿論知識として中卒や高卒で就職する人達のことを知ってはいたが、私立小学校に通い周りの全員が大学に進学する環境で生きて来たのだから仕方のないことだと思う。
 ただ、様々な価値観を持つ人達によって構成される社会を考えたら視野が狭かったと言わざるを得ないので、その辺りの話をやんわりと話させて貰ったのだが…。

「花鈴姫、昨日は色々教えて頂きまして有難うございました。」
「大した話はしてないけど、寝不足?」
「昨夜は姫さまから教えられたことを考えていたら眠れなくなりまして、自分なりに色々考えてここでの研究実習に臨んだつもりだったのですが、根本的な所で自分の甘さに気付かされまして。
 ここで暮らす人達の価値観に触れる為にも、消防団の訓練に参加させて頂く話を進めて頂けるでしょうか?」
「ええ、皆さん喜んで下さるでしょう。
 見学では無く体験することの意味は大きいと父も話していましたので頑張って下さいね。
 今日は畑作業お休みだから観光課に挨拶に行ってから消防団の幹部に会いに行きましょう。」
「歩いて?」
「ええ、近くです。」

 観光課の課長に、今は四人だけの大学生が夏休みには増え、この地を盛り立てることを考えてくれると話したら喜んでくれた。
 徳沢さんはそのリーダーとして紹介。

「徳沢さんは花鈴ちゃんに色々教えてあげているのですね?」
「い、いえとんでもないです、自分は花鈴姫から教えられるばかりですが、それだけでなく学生の宿泊や自分の体験プログラムまで考えて貰っているのです。」
「はは、花鈴ちゃん、見返りは得られたのだね。」
「ええ、畑仕事に関わる人数が増えましたので一人当たりの作業量が減りました。」
「この後は?」
「消防団の山崎さんに徳沢さんの訓練参加をお願いに行きます。
 大学生の人達には消防団の必要性をしっかり理解して貰い、キャンプ場が出火元にならないように気を付けて貰わなくては行けません。」
「そうだな、とても大切なことだ。」
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徳沢-53 [花鈴-06]

 消防団の山崎さんは、この時間には自分の作業を終えている。

「おっ、花鈴ちゃん、火遊びはしてるかい?」
「はい、最近はキャンドルを灯したり、お香を焚くぐらいですが、そろそろ畑でまともなバーベキューを、先日は買って来た野菜を焼いたのですが、やはり自分達の畑で採れた野菜を楽しみたいですね。
 えっと、こちらは徳沢さん、学校関連の調査研究で来ている大学生です。」
「よろしくお願いします。」
「今日は?」
「山崎さん、彼を消防団で鍛えて欲しいのです。」
「消防団に興味が有るとか?」
「いえ、全く興味は無いのですが、都会で暮らして来たので、山で暮らす人達のことを何も知らないのです、その辺りを訓練の合間にでも教えてあげて欲しいと思いまして。」
「成程、徳沢さん、訓練は慣れないと大変だけど覚悟は出来てる?」
「はい、全く経験したことの無いことなのでご迷惑かも知れませんが、花鈴姫からは成長のチャンスだと言われています。」
「なんだ、うちの子同様、花鈴ちゃんのお世話になってるのだな。
 でも、花鈴ちゃん、どうして消防団なんだ?」
「ここで暮らす人達と触れ合うなら消防団が一番でしょ、徳沢さんは農民や木こり、猟師と話したことが無いのですよ。
 それで、ここの子ども達の教育を研究出来ると思います?」
「大きくなって町へ働きに出る子も多いが…、うん、田舎もんの気持も分かって欲しいかな。
 消防団の活動を体験しながら団員と交流ということで良いのだな?」
「無理をさせて怪我とかはダメですけどね。」
「勿論だ、それぞれにコツが有ると言うことを知って貰わないと。
 で、徳沢さんは火遊びをどれぐらい経験して来たのかな?」
「えっと、花火とかを含めての火遊びなのですよね?」
「ああ、キャンプ場で食事を作るのも火遊び、まあ、火事を起こして悲惨な目に遭ってしまう火遊びや、男女の…、おっと、そっちはどうでも良いが、身近な火で有っても軽んじることなく扱うことの重要性を学ぶための火遊びは花鈴ちゃんに言われてから、子どもの教育として重視するべきだとなってね。」
「そうでしたか、自分の考えて来た教育は学習面ばかりに偏っていたのでは無いかと指摘されまして。
 子どもが成長する過程で好奇心から火遊びをして火災、では学習どころでは有りません。
 そう言ったことも含めて学ばせて下さい。」
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徳沢-54 [花鈴-06]

 山崎さんとは消防団の予定を教えて貰う約束をしてから我が家へ。

「お母さ~ん、徳沢さんと火遊びするからローソク使って良い?」
「この前大賢者達とやった残りで良いの?」
「うん、簡単に済ませるから問題無いわ。」

「じゃあ徳沢さんローソクに火を付けて。」
「お、おう、マッチを使うなんて久しぶりだよ…、あっ、失敗した。」
「そんなに力まなくても大丈夫よ。」
「ああ、小学生の頃にキャンプで使って以来だから…、新鮮だな…。」
「マッチを擦るとどうして火が付くのかしら?」
「やっぱり摩擦熱で燃えやすい薬品の付いてる先端に…、う~ん、どうしてと問われると簡単には説明出来ないものだね。
 答えは?」
「マッチを擦ると火の精霊が炎を具現化してくれるの。」
「はぁ?」
「魔法や精霊の出て来るお話が好きな子相手なら、一つの答え。
 摩擦や薬品に付いて理解出来る子相手なら、マッチを擦った瞬間の温度とか薬品の特性、ついでに火の着いたマッチ棒が、その持ち方によって直ぐ消えてしまう理由とかも一緒に考えたいかな。」
「あっ、着いた火は軸の部分に燃え移らせないと駄目なのか…。」
「ようやくローソクに宿る火の精霊を目覚めさせられたわね。
 それで徳沢さんはローソクが素晴らしい発明品だったことは理解してる?」
「いや、深く考えた事は無かったからな。」
「蝋と芯だけの至ってシンプルな構造でしょ。
 でも、芯が溶けた蝋を吸い上げ、燃えているいるのは主に蝋、蝋が減るに従って芯も少しずつ減って行く。
 でも蝋だけでは火を近付けても溶けるだけ、芯だけだったら直ぐに燃え尽きるのかな。」
「言われてみればそうだな、二つの組み合わせで、ゆっくりと照らしてくれる訳だ。」
「じゃあ、倒したらどうなる?」
「火事に…。」
「燭台ごと倒して良いですよ。」
「あっ、そうか急に倒すと溶けた蝋が火を消すんだ。」
「ゆっくりと火を消さない様に倒して行くことも出来るけど、間違えてローソクを倒したからと言って直ぐに火事とはならない、火を使うアイテムは昔から色々有るけどそれぞれ安全で便利な様に工夫がなされているのよね。
 今はガスでコントロールするのが一番楽で便利だけどガス漏れのリスクは有る。
 石油ストーブは灯油の補充とかの手間が、それでも薪割しなくて良いから便利、でも、それを苦にしない人達は薪ストーブを愛用していたり、風呂も薪でと言う人がいるのよ。」
「ちょっと考えられないが、自分達とは価値観が違うのだね。」
「うちで火遊びをした子には火事の映像を見せるのだけど必要かしら?」
「いや大丈夫、でも消防団の訓練に参加するのだから防火のことなども調べておくよ。
 ここでの火遊びはローソクだけなのかい?」
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徳沢-55 [花鈴-06]

「ここではね、でも屋外では色々やって来たのよ。
 ご飯を炊いたり、カレーを作ったりは薪を使ってもね。
 その薪が木の種類によって燃え方が違うって知ってた?」
「全然だよ、そんなことはテストに出なかったからな。」
「テストに出ることって将来役に立つことばかりだったの?」
「どうかな…、でも少なくとも小中学生が学んでる事は必要なことだと思う。
 音楽とかは直接生活に結び付かないかも知れないが、心を豊かにと言った目的が有るんだ。」
「音楽のテストで、一人ずつ皆の前で歌わせるってどう思う?
 私と違って歌の苦手な子もいるのよ。」
「う~ん、そう言ったことも経験なのかな。」
「それで音楽が嫌いになった子に対して、何の為の授業なのか説明出来るの?」
「そ、それは…。」
「うちの父と学校の先生の大きな違いはそこなの。
 学校の先生は論理的に説明することが出来なくてね。
 だから絵梨と私が大きな顔をして学習の手伝いをしていられるのだけど。」
「その辺りに花鈴姫の秘密が有るのかな。」
「知りたい?」
「勿論。」
「その見返りは?」
「畑の作業を頑張るとか。」
「それがね、越して来た社員の人達が体験したいそうで畑の仕事は減ることは有っても、隣の敷地整備が終わるまで増えることはないのよ。」
「姫さまとしてはどの様な見返りをお望みなのでしょうか?」
「そうね、先生達の再教育と教師の職務の見直しをして欲しいかな、勿論上から目線でね。」
「上から目線と言うのは?」
「私からの質問に明確な答えが出せない人がいるのだけど、あやふやな論理に基づいた適当な回答で誤魔化そうとするのだけ、それをやめて貰いたくてね。」
「自分はそんな立場にないのですが。」
「学生の立場から、私が質問した内容を表現を変えてしてみたら、どんな答えが返って来るのかに興味はない?」
「あっ、有ります。」
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徳沢-56 [花鈴-06]

「徳沢さん達の目は大賢者に集まってるみたいだけど、教師こそ研究対象にすべきだと思うの。
 学習と言う視点で見たら私達にはあまり必要のない存在なのだけど、真面目に授業を受けてる子もいる。
 でも、どんな小学生時代を過ごしたのかは分からないけど十代の内から犯罪に手を染める人もいるでしょ。」
「原因は教師に?」
「勿論家庭環境も有るのだろうけど、先生は子ども時代に関わる数少ない家族以外の大人なのよ。
 教師の指導の下、楽しい学校生活を送っていたらは犯罪に走る確率は低くなると思わない?」
「う~ん、教師にもよるだろうが…。」
「旦那さんと上手く行って無いのか怒りっぽくなってる先生がいるの。」
「難しい問題だな。」
「うちの父は教師の役割として、小学校なら教科を好きになる様に指導することが大切だと教えてくれたわ、算数のテストで点が取れなくても、算数を嫌いになってしまうよりはマシでしょ。」
「苦手イコール嫌い、ではないのか?」
「私達が教えてる子には苦手な子もいるわ、でも嫌いになってないから自分なりに取り組もうとしているの、勿論、計算を間違えてもそれを否定せず、残念でした~、みたいな感じで遊びながら教えているのだけどね。」
「そっか、離れた所から見てると良く分からなかったが…、算数を嫌いにさせない学習なのだな。」
「嫌いになっていなければ、今は良く間違えていても、大きくなれば出来る様になるかも知れない、でも嫌いになってしまったらどう?
 成長のスピードは人それぞれ違うし、低学年の場合四月生まれと三月生まれの差は大きいのだけど、そんなことが分かってない教師もいるのよ。」
「そうか…、自分は私立の小学校だったから、公立小学校の事情が分かって無かった。
 そう言う視点で、今後の調査研究課題を練り直すことにするよ。
 来週、滝川と交代で来る奴にも連絡して置くからね。」
「その人の教育は徳沢さんがしてくれるの?」
「教育と言うか、花鈴姫が不快感を抱かない様にする。
 滝川は英語でつまづいたけど、そう言った情報も研究室で共有はして来たんだ。
 姫から教えられたことはこれからになるけど、誤解を与えたくないから時間が必要かな。」
「そうね、理解するのに時間の掛かる子がいると認識しておくのは大切なことだわ。」
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徳沢-57 [花鈴-06]

「確かに研究室メンバーでも個人差は有るし、それぞれ研究テーマが違ったりするからな。」
「徳沢さんのテーマは?」
「定められているカリキュラムから離れた学校の取り組み、そこから現行の教育制度を見直すと言った所なのだけど、先生によって差が有ることは感じてたよ。
 自分より頭の良い小学生の相手をするのは大変みたいでね。
 大賢者は数学などで明確な能力差が有るが、教頭先生が距離を置ける環境を作ってくれた。
 だが花鈴姫達は物事を社会学的な角度から先生たちにぶつけていて、それに対応し切れない先生は白旗を上げてるのではないのかな。」
「いえいえ、大人のプライドが邪魔をしているのか全然、ちょっとだけ調べて反論してくる先生がいるのよ、残念ながら私達が調べてるのと量が違い過ぎることに気付けなくてね。
 結局、適当に誤魔化すからまともな議論にならないの。」
「う~ん、実際の場面を見ていないから何とも言えないが…、そんなこともお父さんには話してるの?」
「ええ、だからうちの夕食では話題が尽きなくてね。」
「お父さんは何て?」
「一人一人を見極めなさいって、追い込み過ぎると敵になるけど、適度に刺激を与えつつ良い関係を築くことが出来たら味方になってくれる人もいるのだとか。」
「現時点での味方は?」
「教頭先生の他は三人ぐらいかしら、他は私達の敵というポジションに対してリスクが大きいと感じていそうな人と、反抗的な人も三人ぐらい。」
「その三人とは敵対関係に?」
「そんな関係は望んでないから適度に距離を置いて観察してるのだけど、一人、人間的にどうかと思う人がいてね、徳沢さん達が今まで関係して来なかった先生だと思うのだけど。」
「それは有る意味興味深いね。
 学校の抱える問題にどこまで踏み込めるのか分からないけど、そんなことも自分達の目的でね。」

 徳沢さんには先生達に関する情報を、あくまでも私達の視点だと話して伝えた。
 これからは大学生の視点で気付いたこと、思ったことを教えて貰う約束をしたが、極力第三者の視点で公平に見て欲しいと付け加えてある。
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徳沢-58 [花鈴-06]

 私の話に影響されたのかは分からないが徳沢さん達の動きが変わった。
 一番大きな変化は教師の意識調査に取り組み始めたことだが、兎沢小学校だけで無く、比較する為に都会の小学校でも同じ内容の調査を始めたそうだ。
 調査は教師の負担にならない様に少しずつ、だが継続して行って行くとしたのは、調査で見つかった問題点を掘り下げて行く為だとか。
 彼らなりに考えているのだ。

「教師の意識調査は進み始めたの?」
「始まってはいるが少しずつで急がないつもりなんだ。
 いきなり知らない大学生に質問されても、どの程度本心を話してくれるか分からないだろ。」
「じっくり取り組むのね。」
「ああ、それでも色々話したくてしょうがない人もいて、信憑性は兎も角情報は貰ってる。」
「そうか、聞き取り調査でも本当のことを教えてくれるとは限らないんだ。
 調査に関して先生達に見返りは有るの?」
「そこは公務員、彼らの職務の範囲内だと教頭先生も話しておられたよ。」
「問題は例の彼女なんだけど、こっそり授業風景とかを観察することは出来ないかしら?」
「著しく子どもからの評判が悪い四年担当と言うことは確認出来た。
 実験的取り組みとして学習を能力別に、と言っても理解の早い子に難し目の課題を出してる程度なのだけど、それが面白くないみたいだな。」
「それだけ?」
「子ども達だけの時と授業参観の時とでは態度が違うと聞いている。
 こっそり見るのは気持ちの良いものではないが我々を意識していない普段の授業を見させて貰う方法を検討中さ。」
「教頭先生には?」
「話はしてある、教頭先生も耳にされてた様で慎重に調査して欲しいと言われたよ。
 隠しカメラでも仕掛ける?」
「そんな意見も出てるが、好ましくないと思うんだ。」
「でも授業中の先生って誰にも管理されて無い訳でしょ。
 一人か二人の先生が自由に出来る時間、一年生の先生が人として好ましくないとをしていても誰にも分からないのよね。」
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徳沢-59 [花鈴-06]

「だからと言って先生を監視する訳には行かないだろ、自分達が授業を見学してるのは特別なんだよ。」
「監視は確かに微妙だけど、教師がカメラを通してでも見られていると意識していたら授業の質が良くなると思わない?
 私達は自信をもって低学年と接しているから関係ないけど、見られていればそれだけ気合が入るのは普通でしょ。
 先生達だって自分の頑張ってる姿を大人にも見て貰いたいのでは無いかしら?
 先生に対する評価がどうなってるのかは知らないけど。」
「教員評価か…、行われている筈だけど教頭先生、教えて下さるかな。」
「何を基準に評価するのか微妙な気がするわ。」
「ああ、人が評価するのだから教頭先生に気に入られているかどうかが影響するかも。
 評価してる人が良からぬことをしてないとは言い切れないし、公正な評価には限界が有ると思うよ。」
「徳沢さん達の調査でも個人的な感情が入るとか?」
「うん、有るかも知れないから複数で調査し人を入れ替えて検証としてる。
 今は予備調査みたいなものでその結果を見てから、改善点などを話し合って行くことになっていてね、ここでの実験的取り組みは始まったばかりだろ。」
「まだ改善すべき所とかはまとめられていないってことなの?」
「学校の授業に関しては、様々な視点から見て記録することを第一に考えてる。
 だから先生方の授業に対しては極力評価は考えないと言うのが自分達のスタンス、先生方と授業について話し合うのは夏休み以降の予定でね。
 今は花鈴姫達の活動に対しても、こんなことをしていると評価抜きで記録しているだけなのさ。
 本当はビデオカメラに収めたいのだけど、カメラが入ると子ども達がいつも通りでは無くなるだろ。」
「う~ん、うちの人の了承を得られた子に限ってだけど隠しカメラでの撮影は有りかな。
 何なら保護者の人達にも見て貰えば良いわ、授業参観では見られない子ども達の姿が見られて楽しんで貰えるかも。
 低学年なら抵抗感も少ないのでは無いかしら。
 隠さなくても、撮影されてることを忘れてしまうかもね。
 ポイントはカメラの有る風景が日常になることかしら。
 子ども達の風景を撮影してれば、先生方の授業も確認出来るでしょ。」
「そうか…、撮影には否定的な意見が多かったのだけど花鈴姫が教えてる風景から始めれば問題無いのかな。
 隠すか隠さないかは検討すべきかもだけど。」
「お母さんにも見て貰えるのであれば隠す必要は無いし、むしろ皆が頑張ろうと思えるのでは無いかしら。
 ほら、縄跳び幾つ跳べるか見ててって子がいたでしょ。」
「いたね、花鈴姫をお母さんと呼んでしまって恥ずかしそうにしてた子が。」
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徳沢-60 [花鈴-06]

 徳沢さんは教頭先生と相談し、一年生全員の親からビデオ撮影に関する承諾を貰った上で撮影を開始、編集は研究室のメンバーが行い、親が閲覧出来る様になるまでに時間は掛からなかった。

「花鈴姫、こうして映像で確認してると子ども達の表情の差が一目瞭然だね。」
「差?」
「姫達と先生に対する時のさ。」
「おじさん先生と比べられてもね、彼を一年の担任した理由が分からないのよ、とても真面目な先生で私達の理解者でも有るのだけど、一年生にとっては親よりうんと上でお爺ちゃん世代なのよ。
 優しい人だけど、まだ慣れない子もいてね。」
「そっか、そう言った背景も情報としてまとめて行かないとな。」
「どんな先生が担任になるのか、自分に合った人になるかどうかには運の要素も有るのよね。
 一年生の担任には若い先生がなる予定が有ったのだけど、その人が何かをやらかして退職したという噂が流れてるし。」
「退職してなかったら良かったとか?」
「あくまでも噂だから本当の所は分からないのだけど、不祥事を起こして退職する先生なんて極僅かでしょ、そんな先生が来なくて良かったと思うわ。
 グレーな先生を田舎の学校に転勤させて更生させようと考えてたとか、大きな声で話してた先生達も本当の所は分からないみたい。」
「えっ、花鈴姫に聞こえる所で?」
「良いのよ、そんな話を聞いて子どもは成長するの。
 絵梨はお母さんと調べたみたいだけど。」
「その結果は?」
「知ってどうなることでもないから聞いてないわ。
 それより学習風景の映像はお父さんやお母さんに好評みたいね。」
「そうなのか、特に聞いて無いのだけど。」
「私への貢物が急に増えたから間違いないと思う、お菓子のお裾分けは畑仕事の後でね。」
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