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架空サークル-31 [動植物園再生-04]

ゴールデンウイークも終わり新年度も落着き始める頃、サークルのメンバー達はサークル発足式という節目の時を迎えていた。
式は型通りのもの、挨拶が長いということもなく順調に進んでいた。
式も終盤、地元有名企業の社長直属、上野卓郎が紹介された。

「ただいま紹介いただきました上野です。
ちょっと私の肩書きに疑問を抱かれた方もお見えでしょうから、まずはその辺りから説明させて頂きます。
わが社の社長は準備段階始めの頃から皆さんの活動報告を受け取っていたそうです。
うちは、今までも動物園に対する支援をしていましたから、市職員の永田さんも思う所あったのでしょう。
私は一月の始めに社長から呼び出しを受けました。
これはうちでは結構異例なことなんですが…。
その場でこのサークルの話を聞かされ、社長直属の形で動いてみないかという打診を受けました。
まあ、社長直属の平社員なんですけど、自分はこんな面白そうな話を断るタイプではないのでその場で了承しました。
その後、それまでの総務の業務から一切外れ、このサークル支援の企業側取りまとめ役となったのです。
えー、学生の方々には今まで秘密にさせていただいておりましたが、お手元に協力企業一覧が有ると思いますのでご覧下さい。
すでに40社の社名が記載されていますが、少なくとも倍ぐらいにはなると思って下さい。
我々は、地元企業として皆さんの企画を手助けして、また内容によっては共同研究ということも考えています。
企業としてはこの活動を通して優秀な人材と繋がりたいという気持ちが有ります。
また、この活動によってこの地域の活性化ということも考えております。
場合によっては全くの異業種と手を携えていくことも念頭に置いています。
私は皆さんと各企業との橋渡し的な立場でお手伝いさせて頂きます。
今後協力企業との間で問題が起きた時など私の方に連絡お願いします。
サークル協力企業側実務担当、上野と認識していただけたら幸いです。」

少し間を置く上野。
上野の話しの意味を理解出来た学生たちは、興奮ぎみに彼を見つめている。

「産学官の連携、我々が目指しているのはその実験的取り組みです。
産で有る我々はまず資金面で、そうですね…、皆さんから頂いた企画の中で大規模な工事を伴わないようなことはすぐにでも進めて行きたいと考えています。
すでにバックアップ体制を整えつつある企業も有ります。
もちろん、その過程で得られたことなどをフィードバックして頂けたら幸いですが、そうでなくても皆さんが一つ成長する機会として下されば嬉しいです。
学としての皆さんには是非卒論等の研究にこの活動を生かしていただけたらと思っています。
会の顧問、相談役に名を連ねて下さっておられる大学の先生方も、大学間の交流など、また違った視点での応援も模索しておられます。
官、市長もずいぶん乗り気ですからね。
実務面では、代表の佐々木光一君、市役所の永田さん、そして私上野が中心となります。
この後各企画ごとに支援スポンサーとの調整の時間が有ります。
準備が進んでいる企画は日程の案まで踏み込んで下さい。
皆さんの思いを実現させましょう。
で、最後に一つだけ言わせて下さい。
動植物園での活動は我々のきっかけであり象徴になると思っています、でも、もっと広がる形をイメージして活動していって欲しいと思っています。
よろしくお願いします。」


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架空サークル-32 [動植物園再生-04]

上野に続いて壇上に立ったのは地元テレビ局のディレクター。

「紹介に預かりました柏木です、よろしくお願いします。
もう、お気づきとは思いますが会場には地元テレビ局のカメラが数台入っています。
新聞記者の方々も含め我々報道陣も注目しているとご理解願います。
えー、皆さんの活動は、地元局で応援させていただけたらと考えています。
協力企業には私どものスポンサーも名を連ねていますからね。
今回は少し異例なことなのですが、地元各社で調整をさせていただきます。
同じ企画を複数の局のニュースで取り上げることはあると思います。
ただ、我々としてもじっくり取材してきちんとした番組も制作して行きたいと考えています。
これだけの企業が後押ししようとしている活動を真面目に追って行きたいというのが本音です。
そこで皆さんに色々お願いすることも…。」

話しは続いているが、頭の中を真っ白にしている連中もいた。
マスコミをうまく利用できないかと模索していた者たちだ。
サークルの広報的活動として、公的な活動だからテレビ局、新聞社に投稿して取り上げて貰えたらと企画していたのだ。
こんなレベルでマスコミに取り上げて貰えるとは考えてもいなかった訳だ。

それに対し興奮気味なのがパフォーマンス系の企画を出した者たち。
もしかしたらテレビに出られる、というのは彼らにとって大きな励みとなる。

冷静に受け止めつつもその可能性を考え始めている者もいる。
地味な企画でもマスコミの取り上げ方によっては注目を集め違った方向性も見えてくる。

西山健は他ごとを考えていた…。
『佐々木先輩は、何人かの人生を左右するかもしれないって話してたけど、上野さんや柏木さんの話を聞いたら…、ほんとに…、絶対一人二人じゃないメンバーの人生が変わってくるんじゃないか…。
あー、先輩と結構一緒にいたし色々な話しも聞かせて貰ってたのに…。
俺、全く全体像が掴みきれてなかったのか…。
こんなにも大人たちが動くというのは…、佐々木先輩の力も大きいんだろうな…。
お、俺も腹括って先輩についてくしか…、ないな。』


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架空サークル-33 [動植物園再生-04]

発足式は終わった。
しかし学生達の本番はこれからだ。

「それでは企画ごとに分かれて貰います。」

企画名、そのリーダーが呼ばれ移動する。
そこへスポンサー企業の担当者も移動。
企業の担当者の役職は様々だ。
社長自らという企業もあれば、求人担当、現場責任者…、それぞれの思いが現れている。
まだ状況が呑み込めてない学生もいる中、相談役を買って出た大学関係者も加わる。
もちろん企画書を事前に検討した上で分担を決めてある。

それぞれの会合は自己紹介に始まり、企画に対する企業側の感想と続く、後の展開は様々だ。
売店改装プロジェクトには建設会社の部長とその下請け企業から一人。
軽い自己紹介の後、部長が話し始める。
「まず君たちの企画は休憩所の改修工事も含めて、すべて我が社が費用負担する方向で動いています。」
緊張の面持で見つめる学生たち。
「自分達の計算では結構な金額になると思うのですが。」
「そうだね、今後施工方法とか見直すと若干変わってくるかもしれないが計算は合ってると思うよ。
ま、売店だけなら合格点だな。」
「有難うございます。」
「ま、これくらいの金額は、そうだね君たちが我が社に協力してくれれば安いもんなんだよ。」
「協力とはどんな形でですか?」
「うん、まずはきっちり、建物を仕上げよう。
で、その過程はしっかり記録を残して欲しい。
今までの準備期間も含めてね。」
「もちろんです、我々も実習という気持ちで動いていますから。」
「で、それをまとめた物をうちのホームページで紹介させて欲しいんだ。
我が社はこんな活動の支援も行っていますと宣伝したい訳さ。」
「なるほど、それぐらいのことなら大して難しくないと思います、他はどうなんですか?」
「他? これで充分だよ。
会社として若い人達の活動を応援しているということは社のイメージアップに繋がるからね。
そうだな、君たちに我が社のイメージキャラクターになって欲しい訳だ。
ちょっと考えてみてくれる。」
「あっ、ということは自分たちの活動が順調に行けば…、え~っと宣伝効果が高まり失敗したら下がる…、ということですか?」
「そういうことだ、君たちの活動が良い形で進んだ時の宣伝効果は結構なものだと考えているよ。
ま、宣伝効果が無くても、この活動を通して優秀な人材を見付けれたらという目論みもある。
君たちの企画書は、図面とかきっちり仕上がっていて良かったからね。」
「有難うございます。」
「と、考えたら安いもんだろ。
今後の活動次第では次への取り組みも支援させてもらうからね。」
「がんばります。」
「さ、具体的な話しを進めるか?」
「はい。」
「あっと忘れる所だった、施工実習の時にはうちと取引のある工務店が協力してくれることになってるからね。
こちらはそこの太田さんという訳、色々教えてもらってな。」
「はい、有難うございます、よろしくお願いします。」


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架空サークル-34 [動植物園再生-04]

工学部中心のプロジェクトは一旦全員が集められた。
企業側も数社の担当者が並ぶ。
企業側代表中村が口を開く。

「え~、中村です、某研究所のチーフをやっております。
皆さんの企画書は大変楽しく読ませていただきました。
こちらに並んでいるのは、それぞれの企画に関連する技術等を持っている企業の皆さんです。
この後、プロジェクトごとの話し合いになりますが、とても重要なことが何点か有りますので先にお話しさせていただきます。
企画によっては企業からの資金援助のみという物も有りますが、共同研究になるかもしれない案件も幾つかあると理解して下さい。
すでに何件かの企画では意思表示もなされていますので。
この共同研究というのは色々な意味で意義深いものなのですが、反面危険も孕んでいます。
我が社でも最先端の技術を皆さんに紹介して行きたいと思っております。
ただ他社には知られたくない情報もあると理解しておいて欲しいのです。
企業関係者がそこで仲良く並んでいますが、実は隣の人には絶対教えたくない、教えてはならないと思って立っているのです。
大変申し訳無いのですが、まず社外秘に関してまではお教えできないと理解して下さい。
また社外秘に近い内容を研究の過程で知った場合でも外に漏らさぬよう注意して下さい。
共同研究の準備が整い本格始動となった時は誓約書の提出をお願いします。
万が一守秘義務が守られなく企業に損害を与えることになった場合は、損害賠償ということになります。
何千万、何億は当たり前の事だと思って下さい。
共同研究に参加したい人はこのことを念頭においた上でお願いします。
ただ、将来研究職や、企業の中で重要な位置に立つことを目指している人は、社の重要な秘密を守ることは当たり前だと思っていて下さい。
もう一つは権利です。
義務が有れば権利もあります。
皆さんの研究によって大きな成果が得られた時はそれなりの報酬が支払われます。
これに関しては、ボランティアと切り離して考えるということで関係者の意思統一がなされています。
この時の金額が正当なものなるよう考えていますが極力第三者を交えて折り合いをつけ、後になってトラブルとならない様注意して下さい。
この辺りの所は共同研究本格スタート時に文書交換となります。
質問等は文書でお願いします。
では、プロジェクトに分かれての話し合いに移って下さい。」

中村の話しに気持ちを引き締める学生たち、移動中。

「ま、当たり前って言えば当たり前のことだよな。」
「確かにな、ただその場に自分が立てるかもしれないと思うと緊張感が違って来る。」
「ああ、自分が大学でやってることなんて誰に話した所で問題にもならないし、当然収入にもならないレベルだぞ。」
「色んな意味で実習なんだな。」
「お前共同研究どうする? びびってないか?」
「いや、やる気がさらに出てきた、そのまま卒業研究に出来ないかな。」
「俺はちょとびびり気味…。」
「就職って研究職志望じゃなかったのか?」
「そうなんだけど…。」
「役に立たない研究するつもりだったのか?」
「そんなことはないが…。」


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架空サークル-35 [動植物園再生-04]

プロジェクトごとの会合は残り時間を告げられ、まとめと今後の予定を決めて終了となる。
締め括りは学生達の会議、それを大人たちが見守る。

佐々木。
「お疲れ様でした、ここからは組織の話しです。
えっと組織作りは西山に考えてもらってたから、う~ん西山、ちょっと驚いているとは思うけど基本的な部分は変更なしで説明してくれるかな。」
「はい。」
前に出る西山。
「すでに多くのプロジェクトが立ち上がり、参加者も増えてきています、組織内での役割分担がきっちり出来ていないと効率が悪くなりますのでよろしくお願いします。
組織の形については、ある程度皆さんとも相談の上、リーダー会議で決定させていただきました。
まず各プロジェクトはそれぞれ独立した組織として動いていただきます。
スタッフの中にリーダー、サブリーダー、マネージャーを置いて下さい。
この三名だけはどのプロジェクトも、名称を統一した形でお願いします。
他はそれぞれ必要に応じて係りとか決めて下さって結構です。
ただ複数のプロジェクトで同じ様な役職が違った名称になることは避けたいと思いますので調整させて下さい。
この名称は暫定的なものと考えて下さい。
各プロジェクトが動き出した時、どんな役割分担になっていくのか掴めない部分も有って保留気味になってしまったからです。
最終的には対外的にも分かり易い名称にしたいと考えています。
ただ何度も変更したのでは混乱を生じますので、一か月後ぐらいを目途に完成させたいと思っています。
組織に於ける役職名は結構重要ですから。
それと現時点ではサークルメンバーを大きく三つに分けています。
スタッフ、メンバー、サポートメンバーです。
主にスタッフがプロジェクトの方向性を決め運営していく。
メンバーはスタッフの指示に従って動く。
サポートメンバーには多くの人手が必要な時などに、プロジェクト関係なく呼びかけて手伝ってもらいます。
サポートメンバーは、現時点で新人の方々ですが、中にはスタッフ希望の方もみえますので、見学や体験の受け入れをお願いします。
後、各大学には支部を置きます。
支部に事務局を置いて入会受付などお願いしていますが、かなり手薄な状態ですので協力して下さる方を募集しています。
プロジェクトと直接係わることは少ないですが、公園近くの大学は学校施設利用などの協力もお願いしていますので事務局の役目はより重要なものになると思います。
裏方ですが、大切なポジションですのでよろしくお願いします。
次に全体を統括するスタッフですが、確定しているのは代表の佐々木先輩だけです。
ここからはリーダー会議でも保留だった部分で、メールで案だけ伝えさせていただいたことですが、あえて昔ながらの企業をなぞって、社長、佐々木先輩、売店再生担当取締役、中山先輩、といった感じで組織の組立を行ってみてはどうかと思っています…。
ちょっと経営学系からシミュレーション的に株式会社をなぞって、参加者に株式会社とは何かを理解してもらうというという案も最近いただきまして…。
プロジェクトの方は当初からのプロジェクトリーダーとかの呼称が定着していますから、変更は微妙なんですけど。
組織の案は今日の会議を踏まえて、多少変更していきますが、皆さんからの意見も聞きたいです。
最低限必要な人員は繋ぎの形で色々お願いしていますが、スタッフ組織は早めに固めて行きたい部分ですので、自薦他薦構いません立候補等願います。」
「西山はどうするんだ?」
「あっ、自分は佐々木先輩の秘書的に動こうと思っています、先輩直でなくても済むようなことは自分の方へお願いしま…。」
「ちょっと待った~。」
「えっ?」
「ずるいずるい、佐々木先輩の秘書なら、私やります!」
「え~、私もやりたいわ、秘書検定三級です。」
「私は二級です、ぜひ実習として。」
「秘書実習プロジェクト立ち上げます、企画書出します!」
「は、はい…。」
「はは、西山有難うな、変わるよ。」
「お願いします。」
「皆有難う、秘書なんて考えてもみなかったから検討させて貰うよ、実際雑用が増えてきて西山には助けられているんだけど、現状のスタッフ不足は各プロジェクト共通の悩みかもしれない。
ただ今日の話しで皆も気付いたと思うけど、自分から動こうとする人を企業の方々は求めておられる。
う~ん、大学卒業して就職してから…、失敗もするだろうな俺たちは…、でもこの機会を頂いた、あくまでも実習の場だ、失敗も大きな糧に出来るんじゃないかな。
この場にはスタッフ希望の新人もいるよね。
遠慮しないで動いて欲しいと思ってる、で準備期間を試行錯誤しながらがんばってきた先輩は快くこの後輩たちを、まあ中には年齢学年的に先輩もいるかもしれないけど、きちんと受け止めて受け入れて欲しいと思うんだ。
組織が強くなるかどうかって、こんな所にかかってる気がしてね。
もう一つ、気が早いと思う連中もいるかもしれないけど、来年再来年と見据えて欲しいと思っている。
これから中心となるのはやはり二三年生だと思うけど、いずれ後輩に受け継いで貰わなくてはならない。
その事を意識して活動していかないと、この活動は長続きしないと思うんだ。
だから一年生達にも色々な役割を担ってもらうことを考えて欲しい。
近い内にリーダー会議を開いて具体的な組織固めをするけど、それまではメールと仮設掲示板で意見交換を頼むよ。
色々大人の事情があって俺自身今日初めて知ったことも多かった、皆も戸惑うことが有ったかもしれない。
でも、これからは隠し事なしだからね。
それから無理して企画書出してくれた人に感謝してます。
それまでも、ある程度行けるという感触はあったけど、一旦提出してくれてからも締切間際まで修正して出し直してくれた皆の思いは、俺の中で熱い確信になったよ。
はは、まだようやくスタートに立てたという段階だけどね。」

こんな佐々木の話を嬉しそうに聞いていたのは桐山祥子学長、サークルの相談役として参加している。
『佐々木君やっぱ気障だな、でもイケメンだから許されちゃうのよね~。』


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架空サークル-36 [動植物園再生-04]

会は終了。
片づけを手伝ったメンバーが残っている。

「皆、今日はどうだったかな。」
と、佐々木。
「あ~、緊張した。」
「こんなの想定してなかったわ。」
「うん、少し想定を越えたな…、ごめん充分なフォローが出来なくて。」
「佐々木先輩が気に掛けることじゃないですよ。」
「うん、ただ予想外のプレッシャーがきついという人がいたら早めに…、こっそりで良いから教えて欲しい、ま、今時の企業の本気をプラスに思えた人は、そのままがんばって欲しいけどな。」
「はは、俺、ちょっとびびってたけど、佐々木のその言葉で安心した、佐々木について行くよ。」
「この前の会議で佐々木先輩が話してたこと、ほんとに推測だったのですか…?
ほんとに自分の人生変わっちゃいそうなんですけど。」
「そうだね、ここの所の経済情勢とか新卒採用の状況とか考えたら、ある程度の企業は乗ってくると思ってた、皆にも話したろ、永田さんが地元企業に働きかけてるとか、俺たちが市会議員とかとも話したって。」
「あ~、俺はほとんど佐々木と一緒に行動してたのに~!」
「大丈夫ですよ、中山先輩には誰も期待してませんから。」
「お、追い打ちか~。」
「先輩、秘書の話しはどうします?」
「うん、俺も秘書って何か良く分かってないってか…、そもそも何をする人かも把握出来てない。」
「なら、先輩にとっても実習ってことか。」
「えっ?」
「奴ら肉食獣のごとく先輩を狙ってますよ。
でも佐々木先輩は将来、秘書を必要とする立場になりそうだな~。」
「おいおい、ちょっと…。」
「先輩には、今でも秘書とかマネージャーとかついて欲しい気もする、仕事多すぎませんか?」
「それ程でもないけど…、あっ、ここに居る皆も理解しておいて欲しいかな。
俺は亀田さんから、仕事を抱え込んだらリーダー失格って言われたよ。」
「どういうことなんですか?」
「出来立ての組織で色々な仕事が発生してくる、それに追われていたんだ、年明け頃の俺は。」
「え~、そんな風には…。」
「ま、俺にもプライドって奴が有るからね、でも余裕の無さを見抜かれた挙句、皆を生かせと言われた。」
「う~ん、微妙に分からない…。」
「そうか? 俺は単純に、自分で全部やろうと思わずに皆に活躍の場を作れって受け止めたんだけどな。」
「は~、そうか…、すいません、先輩…、一生ついていきます。」
「おい、何、茶番やってんだよ!」
「ふふ、仲垣くん、分からないの? 甘いわね。」
「え~、何だよ!」
「ま、自分で考えなさい、でも佐々木さんの今後を考えたら脇はきちんと固めておきたいとは思うわね。」
「ですよね~、まずはファンクラブ結成かな。」
「ちょっと待て、うちの女子って俺をおもちゃにしようとしてないか?」
「ふふ、先輩のルックスと真面目さのギャップだったり、ちょいと気障なとことか、そろそろ佐々木先輩の対外的イメージを固めてマスコミデビューに備えませんか~。」
「さより、先輩困ってるぞ。」
「でも、これからのテレビ出演も…、腹括ってるんですよね。」
「まいったな~。」
「先輩をアイドルに仕立て上げようなんて思ってません、でも私たちの代表として、何時でも格好よく導いて欲しいのです。」
「う~ん…。」
「今日の会議の最中、私は先輩の可能性を考えていました。
先輩が歌ったり踊ったりした所見たこと有りません、先輩は役者でも有りません、でも先輩の魅力を私が最大限に引き出せたら、このサークルにとってすごくプラスになると思ったのです。」
「ちょっと、まあ良いけど…、私がじゃなく私たちが、にしてくれないかな。」
「え~っと、俺はどうすれば良いんだ?」


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架空サークル-37 [動植物園再生-04]

「うん、基本的に皆の意見は間違ってないと思う。」

真顔で話し始めたのは遠藤だ。
「秘書の話しも良いんじゃないかな、やりたい子達全員秘書にして作業分担してもらおう。
ただ、佐々木だけの秘書じゃなく他のスタッフの秘書もやって欲しい。
ま、当たりはずれで揉めそうだけど、それも実習の内だな。
イメージ作りも大切だと思う、佐々木ファンクラブの会員が増えたらサークルの動きもより活発になると思うし。
やっぱ、佐々木は俺たちの象徴でもある訳だからさ。」
「遠藤から真面目に話されると、俺も…、賛成…、だな。」
「私だって真面目に話してたのですけど。」
「でも女子たち、舞い上がってないか?」
「はは、まずは秘書の問題を具体化させないか。
人数がどうなるか分からないけど、西山がまとめることにして…。」
「遠藤先輩、自分じゃあのパワーに…、負けそうです。」
「ま、さよりさんに助けて貰えよ。
少ないスタッフの問題はかなり解決すると思うからさ、な、佐々木。」
「だな、遠藤のおかげで、ようやく落ち着いて考えられたよ。
自分のイメージ作りなんて考えたことなかったけど、確かに必要なのかもしれない。
でも、嘘っぽいのはちょっとな。」
「佐々木さんは基本今のままで良いんですよ、むしろ変わって欲しくないわ。
ただ服装を変えたり…、そうだ、学生が作ったりコーディネートしたりってのも対外的に有りじゃないですか。」
「スピーチの時の目線とか、ちょっとした演出で先輩の魅力が一段と。」
「そうだな、政治家でもやってることだから…、こんなことも俺たちの取り組みの一つとして表に出して行って良いんじゃないか。」
「伊藤さんいかがです?」

こんな場をテレビ局のカメラと共に見守る担当者の姿があった。
伊藤は局のディレクターだ。
「うん、良いと思うよ、サークル活動の中で君たちが試行錯誤して行く姿こそが、人々の興味関心を引き付けると思うからね。
なんなら、その道のプロを紹介しても良いけど。」
「お願いします!」
「伊藤さん、どうせなら佐々木が彼女たちの力でどう変わって行くかって企画どうです。
ちょっと本編から外れた形になりますけど。」
「いや外れてないし良いと思う、君の企画採用だな。
どう? うちの会議とかにも参加してみる?」
「えっ? 良いんですか、自分の考えてた企画は今日の発表で木端微塵となりましたし、元々マスコミ利用を目論んでいたので…、体験させていただけたら嬉しいです。」
「よ~し、今の言葉もしっかり記録されてるからな、俺がみっちり仕込んでやる。」
「何か怖いような…。」
「う~ん、下手な芸人に高いギャラ払うより面白い企画になるかもしれんな。」
「そう言えば伊藤さん、明日のニュース番組で紹介していただけるんですよね。」
「ああ、だけど明日は軽く紹介程度だよ、うちはね。」
「基本ローカルのみですよね?」
「まあ、ニュースで取り上げるのはね、ただ半年後ぐらい先には全国に向けて発信できるコンテンツを完成させたいと思っているよ。」


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架空サークル-38 [動植物園再生-04]

西山健一と国井さより、発足式からの帰り、地下鉄の車中。

「何かとんでもない事になってきた気がするよ。」
「そうよね…、私も自分の立ち位置考え直そうかな。」
「えっ?」
「プロジェクトの方は結構人数も集まって順調だから、私が抜けても問題ないと思うの、で、本部? メインスタッフの方が…、今までは皆の目がプロジェクトの方に行っていたから手薄なのよね。」
「そうなんだ、結構プロジェクトと兼務で動いてもらったりもしてきたけどな。」
「ね、健くん、私、移ろうか?」
「うん…、そうしてくれると助かるかも、さよりのことは先輩方も高く評価してるから…。
秘書の件なんて遠藤先輩は軽い気持ちで俺に振ってきたけど…、やばいよな…。」
「ふふ、困った顔してる健くんかわいかったけどな~。」
「よせよ~。」
「ね、ポジション的にはどこが良いかな。」
「まずは秘書集団のまとめ役とか。」
「そうね…、私なら佐々木先輩狙いの不純な動機じゃないって皆分かってくれるかな…、ふふ、あえて中山先輩の秘書というのも有るけど…。」
「秘書集団の名称はどうしよう?」
「秘書室?」
「そもそも秘書の定義ってどうなんだろう?」
「あっ、そうよね、組織の中での位置づけも微妙。」
「帰ってから調べてみるよ、それから、さよりの移動のこと佐々木先輩に報告して良いかな?」
「大丈夫よ、中山先輩には私から連絡入れておくから。」

「それに、してもな~。」
「何が?」
「先輩のファンクラブとかさ…。」
「ふふ、私は遊び心で面白いと思うな。」
「歌も歌わない、踊らない、芸事一切しないお人なんだけど。」
「でもさ、サークルメンバーの多くは先輩のファンだと思わない?」
「確かに…、教授からのアドバイスより先輩からのアドバイスの方が的確だと何度思ったことか。
俺は普通に尊敬してる。」
「ファンクラブに入会金とかなしで入って貰ってさ。」
「ファンクラブの特典とか作るのか?」
「そうね、皆の知らない情報とか流す?」
「あ、先輩の趣味とか聞いたことないな。」
「何だ健くんも知らないのか、ま、遊び心だからさ始めから色々考えなくても良いんじゃない。」
「その、お気楽さは見習いたいと思うよ。」


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架空サークル-39 [動植物園再生-04]

サークル発足式終了後、大人たちの飲み会が開かれていた。
セッティングしたのは企業側窓口の上野と市役所職員の永田、人数が多いので幾つかのグループに分かれている。
その一つ、永田も参加する席、型通りの紹介の後、永田が…。

「うちの子達どうでした?」
「永田君、よく『今時の子は』って表現する奴、いるじゃないか。
でも今日参加して、真面目な子達もいるんだなって改めて見直したよ。」
「ですよね、皆、我が社にって気になりました。」
「はは、抜け駆けはなしでお願いしますよ。」
「そうでしたね。」
「前向きな子達って何かオーラが違うと思いません?」
「だね、自分も今日、彼らから力を貰った気がしますよ。」
「企画はまだ稚拙なものも多いですが、伸び代を感じさせてくれますね。」

「企業の方々は、全面的にバックアップという感じなんですか?」
この発言は某大学学長桐山祥子だ。
「桐山先生、ここで一気に地元活性化ですよ、我々にとっての直接的なリターンよりも、地域の活性化による経済活動への波及効果は小さくないと考えています。
これが成功したら、うちの百万程度の出費なんて安すぎるかもです。」
「マスコミも押さえていますからね、学長。」
「有難うございます、うちの実験的取り組みも皆さんの後押しのおかげでシステム構築の目途が立ってきましたから。」
「いえ、逆に保育の問題を考えさせられました、我が社でも力のある女性に残って欲しいと思っていますが、社会環境が追いついていないと感じています。」
「私は今日一人の学生から、企業としてもっと直接的に積極的に女性の働く環境を整えるという発想があっても良いのではないか、企業が協力して保育所とかを充実させることは無理なのかと問われましてね…、今考えてる所です。」
「結構、核心を突いてますね。」
「二十歳の女の子の発言に、即答出来なかった自分が情けなかったです…、目先の利益だけでなく先を見据えて下さい、無駄な出費とは思えませんから、とまで言われまして…。」
「先か…。」
「桐山学長は今の話し、どう受け止めます?」
「どうもこうも…、保育所に預けられる子だって、将来はお宅の企業で働くかもしれないって考えたらいかがです?
自分達の代さえ良ければ、子や孫の世代がどうなっても構わないなんて思ってませんよね?
それとも自分の身内さえ幸せだったら良いとでも?」
「うっ…。」
「先生、企業として保育所とどう係わって行くか…、自分で企画書作って学生達にも協力して貰って、検討して行くって可能ですか?」
「たぶん佐々木代表なら断ったりしないと思うわよ、お願いしてみたらどうかしら。」
「えっと、永田さん、代表とはどう連絡を取れば良いんですか?」
「その発言をした学生は誰ですか?」
「丸山…、えっと…、丸山えりこさんだったかな…。」
「ああ、丸山恵理子なら納得です、代表にメール入れますね。」

その後は別の話しで盛り上がる酒席。
話しが区切りがついた所で永田が。

「先ほどの件、佐々木代表からはOKを頂きました、丸山さんとも相談したそうです。」
「早いね。」
「丸山さんも、おたくの企業をイメージして企画書を作成してくれるそうです。
代表曰く、同じテーマで二つの企画が出て来るって面白いよね、ということです。」
「えっ? 俺が試されるってことか…?」
「すいません追い打ちをかける様ですが、返答の前におたくの社長ともコンタクトを取って了解を得て有るとの事です。」
「待って下さいよ…、私だって…、社長と話したことはそんなにないのに…。」
「社長も乗り気で期待していらっしゃるそうですよ。」
「う、嘘でしょ?」
「はは、あの狸親父やるな。」
「ちょっと他人事だからって…。」
「はは、うちだって無関係じゃないから協力しますよ。」


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架空サークル-40 [動植物園再生-04]

某テレビ局のオフィスには柏木ディレクターの姿があった。

「柏木さんお疲れ様です。」
「おう。」
「どうでした? 例の、今日だったんでしょ。」
「行けるよ、良い絵になりそうな子が結構いてな、はは、下手なアイドルよりクオリティー高いぞ。」
「中身の方はどうなんです?」
「めちゃ優秀な学生が仕切ってるんだぜ。」
「視聴者受けしますかね?」
「初めは苦戦するだろうな、でも視聴率が取れなかったらそこを掘り下げて研究して修正していくだろうし、トークも、頭の回転が早い連中が多いから、すぐレベルアップすると思うよ。
その成長の過程を上手く追って行けば、色々な意味で面白いことになるんじゃないかな。」
「期待できそうなんですね。」
「ああ、スポンサーも長い目で見て応援していくと言って下さっているし、CMを学生主体で作って貰うって話も出て来てるからね。」
「それだけでも話題になりますね。」
「そういうことさ、う~ん、どっかの事務所を紹介した方が良いのかな…。」
「芸能事務所ですか?」
「ああ、それも…、学生達に立ち上げさせようかな。」
「ボランティアサークルなんですよね?」
「まあな、でも学生たちにとっては色々な実習の場という側面もあるんだ…、やっぱ、広い視野で面倒を見れる人物が必要だな…、彼らには色んな場面で活躍して欲しいからね。」
「そうすると、芸能事務所では厳しいですね。」
「だな、今度の民放会議の議題に上げてみるかな。」
「あっ、例の異例な奴ですね。」
「本来なら、ここまで協力することはないけど政財界含め、オール名古屋、オール愛知って感じになって来ているからな、地元局が協力して一つの番組を作成という案も有るくらいだ。」
「え~、そんなレベルなんですか、たかが学生のサークルでしょ。」
「たかが、だったらここまで動かないさ。
佐々木代表は動植物園再生をきっかけにして、この地の活性化を考えている、彼の企画書はほとんど論文と言って良いレベルで、それに心を動かされた多くの大人達が彼の応援をしたくて、うずうずしてるってとこだね。」
「それって自分も読めるんですか?」
「ああ、原本の写しを貸すよ、内容が難しいと感じたら、今、一般の人にも読み易い形に直す作業をしていて、本も出されるから、そっちを読むのも良いかな。」
「学生が書いた本なんて売れるのですか?」
「もちろんだ、企業によっては社内研修用に予約を入れてる所もあるぐらいだから最低でも元は取れる、今後の展開次第では…、まあ俺も協力するつもりだからな。」
「う~ん、まずは貸して下さい、読んでおかないとって気になってきましたよ。」


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