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五月-41 [花鈴-05]

 私達は菜園が広くなることに心を躍らせていたのだが、残念ながらその為の工事には時間が掛かるそうだ。
 放置されてたので、土壌改良を行うのだがそれと並行して道路を広くし駐車場も作る。
 作物を植えられる面積が減るのだが観光客を意識してのことなので仕方ない。
 その代わりと言っては何だが、お兄ちゃんが大賢者と一緒にYouTubeチャンネルの番組制作に協力してくれることになった。

「花鈴が大賢者に出した課題は悪くないと思うんだ。
 中三でも今学習してる所が理解出来ない連中は、その基礎となる部分を疎かにしている。
 積み重ねが出来てない人が基礎を無視して理解なんて無理が有るだろ。
 小栗さんのチャンネルでは普段とは違う内容になるけど、興味を持つ人がいると思うよ。」
「具体的には?」
「大賢者がまとめた花鈴からの課題を元に話を進めて行く。
 大賢者が先生役で自分がサポート、花鈴達四人は生徒役で良いだろ?」
「う~ん、私は良いけどLilyには難し過ぎるかも。」
「如何に難しくて訳が分からないかを英語で話して貰えば、個性的なグループだとアピール出来る。
 ひろっちには自分達が五年生だと言うことを強調して貰い、絵梨ちゃんには色々突っ込んで貰う。
 花鈴は…、まあニコニコしてれば良いかな。」
「え~、それって一番ダメダメな子っぽくない?」
「どのみち、撮影が始まれば口出しするのだろ、絵梨ちゃんのお小遣いを増やす為に頑張ってな。」
「ねえ、小枝子さんがギャラの分配比率を決める様に話してたでしょ、お兄ちゃんはどう思う?」
「そうだな、番組への貢献度を元に喧嘩して決めたら良いさ、それも一つの学習だ。
「喧嘩ね…。」
「どう、喧嘩はしてるのか?」
「今の所喧嘩する雰囲気は無いかな。」
「今の所と言うことは先々には喧嘩する兆候が見られるとか?」
「う~ん、ないかな、大賢者がもっと暴走するのかと思っていたのだけど意外と紳士でね。」
「それは花鈴が色々面倒見てるからだろうが、彼は五人のグループを気に入ってると話してたよ。
 グループでは子どもらしいこともしてるのか?」
「もちろんよ、クラスの子とも普通に遊んでるし。」
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五月-42 [花鈴-05]

 クラスのみんなはカッコイイ子ばかりなので仲良し。
 そのみんなが他の学年の子にも良い事をしたらカッコイイ、悪い事をしたら恰好悪いと言い続けてくれた結果、平和な小学校になってると思う。
 大きな学校ではないから遊ぶ時に学年は関係ない。
 そんな学校でみんなが遊ぶ時に簡単な英語を使うと言う遊び心を付け加える提案をしたら、縄跳びではone two threeと数える様になり、Let's goやCome onと言った言葉が飛び交う様になりつつある。
 六年生が面白がって高学年中心に広めているのだが、遊んでる時に使う言葉をLilyに聞きに来る子もいて嬉しい。

「花鈴お嬢さま、先ほど六年生からサッカー用語の発音を聞かれました。」
「教えてあげられた?」
「かなり恥ずかしかったですがなんとか、彼らが覚えられたかどうかは分かりませんが。」
「良いのよ、覚えようと思う心が大切なのだし、恥ずかしくても教えてあげられるLilyは素適だわ。」
「ただアメリカとイギリスでは表現が違っていますし、英語を使っている国でもそれぞれに癖があると思うのです。」
「知ってる、地下鉄がsubwayだったりtubeとかundergroundなのでしょ。
 カナダの英語にも特徴が有るの?」
「みたいですが私は分かっていなくて。」
「兎沢小学校のみんながカナダ英語になって行くのも面白いわね、もっと英会話に慣れたら自慢出来そうだわ。」
「自慢になりますか?」
「それも個性でしょ、みんながそれを兎沢小学校で学んだ成果だと思わなくても、私はここでLilyから学んでる事を嬉しく思っているし、それがカナダ英語だと分かったから英語学習のルーツはカナダに住んでたLilyなんだって話せる、それって素敵じゃない?」
「そ、そうですか…?」
「ここの方言は分かって来た?」
「そうですね、方言で話すことは難しいですが何を話しているのかは分かる様になって来ました。」
「世界中には沢山の言語があるだけで無くそれぞれに方言も有る、とても効率が悪いことなのだけど面白くも有るのよね。
 私が大きくなってカナダ英語を話しているのに気付いて貰えたら、カナダに住んでた訳では無く英語の師匠がねって、Lilyのことを話すわ。」
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五月-43 [花鈴-05]

 五月の半ば大学生達が小学校へやって来た。
 国立大学教育学部の人達で、飛び級制度や大賢者の様な子に対する教育など日本で遅れている取り組みを研究しているそうだ。
 兎沢小学校が特別研究校として選ばれた詳しい経緯は知らないが、絵梨と私の存在が有ったからだとは聞かされている。

「徳沢さん、大学生の教育実習ではないのですよね?」
「小栗さん、全然違うよ、僕らは君達に授業をしないし教えない、むしろ教えて貰う為に来ていてね。
 ここでどんな学習をしてるかは伝え聞いているのだけど、竹中くんと言う転校生を迎え、どう変わったとか色々ね。」
「じゃあ、何も教えてくれないのですね?」
「い、いや、聞かれれば教えるよ、教えないというのは授業をしないと言う意味さ。」
「みんなと遊んだりとかは?」
「一緒に遊ばないとホントの調査は出来ないと思ってる、小栗さんも遊んでくれるのだろ?」
「そうね、気が向いたらかな、授業後は菜園の仕事が有るから。」
「家庭菜園だね、君のお母さんがやってるYouTubeを見たよ。」
「都会暮らしの徳沢さんは畑なんて興味がないのでしょ?」
「耕したことは無いが理科の授業に関係するから興味がない訳ではないよ。」
「そっか、明日はピーマンの苗を植え付ける予定で竹中くんも来るのだけど…。」
「えっと、手伝いに行かせて貰って良いのかな?」
「そうね、手伝わさせてあげても良いのだけど、メインは竹中くんよるピーマンの植え付けだから気を付けて下さいね。」
「分かった、自分はどうすれば良い?」
「明日の授業後、校門前に集合だけど、徳沢さんだけで良いのですか?」
「出来れば他の三人も、彼らには話しておくから。」
「なら、滝川さんの車で?」
「それで良いと思う、後で確認して今日中に伝えるよ。」
「じゃあ、畑仕事だから汚れても良い服装でお願いします。」
「了解した。」

 彼らは私達との意思疎通が取れなくては何も進まないと考えているだろうが、私達は家庭菜園全体のレイアウトをドローン目線で考え始めていて労働力を必要としている。
 絵梨は私には難しそうなミッションをいとも容易くこなしてくれたのだ。
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五月-44 [花鈴-05]

 ピーマンの苗は空から見た時に緑のモンスターを象る姿の背中になる。
 ただ植物のことだから、どんなモンスター像になるのかは、あまり期待して欲しくない。
 それぞれの野菜が私達の都合に合わせてくれるとは思えないのだ。
 一番のポイントになると思われる目の部分に何を植えるかはまだ検討中だが、モンスターの吐く炎はサルビアの予定で小枝子さんが苗を買って来てくれることになっている。

 ピーマンの植え付け作業は、大学生四人を乗せた車が到着した所から全て英語でと指定させて貰った。
 まず私達五年生の五人が英語で自己紹介してから、会社の仕事を早めに切り上げて来てくれた、うちのお父さんとLilyのお父さん、小枝子さんとYouTubeチャンネル向けの撮影を担当する絵梨のお父さん、つまりは小枝子さんの旦那さんが自己紹介した後、大学生の番となる。
 英語でとしたのは、大学生達の力量を計る意味が有って大人達も乗ってくれたのだ。
 リーダー格と思しき徳沢さんは無難にこなしたが、滝川さんは緊張感丸出し、学校では大勢の前で堂々と話していたのが嘘の様。
 それに引きずられたのか英語に自信が無いのか分からないが、湯山さんと遠藤さんも滝沢さん程ではないものの緊張が感じられた。

 作業中、大学生にはLily親子が主に説明してくれた。
 Lilyもお父さんがいれば安心な様で楽しそう。
 私達は勿論英語に慣れてはいないが、畑作業で使う英単語は覚えつつ有るのでそれを実際に使ってのトレーニングでも有る、因みにミミズはEarthwormだ。
 大賢者がピーマンの苗を植えるところの撮影を終えてからは、カメラマンのリクエストに応えていたのだが、大学生達は肥料の話でもたついているみたい。
 窒素リン酸カリ、日本語で知っていたとしても急にNitrogenとか言われたら戸惑うのは当たり前、結果四人が日本語でこっそり相談してしている現場をしっかり目撃させて頂いた。
 後は作物にとって好ましくない雑草と呼ばれている植物群をみんなで処理させて貰って今日の作業は終了。
 学生達はお茶でも飲んで行って下さいと言う誘いを断り逃げる様に去っていったのだった。
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五月-45 [花鈴-05]

「どうだ、花鈴、学生達のことは知れたか?」
「うん、お父さん達に手伝って貰って良かったと思う。
 私達に対する調査研究って絶対上から目線になるでしょ、それに負けない為に私達は大学生を研究し分析するのだけど、英語が武器になると分かったから、もっとLilyに教えて貰って私の英会話力を伸ばすわ。
 ねえ、ひろっちは英語、どう?」
「うちの母は、高いお金を払って英会話教室に通っても大して話せない人がいるのだからLilyに感謝しなさいと話していました。
 母は留学していたので、最近は家でも英語が飛び交うことが有るのですが、妹はまだ日本語すら怪しいので微妙なのです。」
「花鈴、親の都合で日本に来る子の中には、日本語も母国語も中途半端になる子がいるそうだから気を付ける必要が有るのだよ。」
「分かるわ、生まれてからずっと日本で暮らしてる日本人の子でも日本語が苦手そうな子がいるもの。
 人それぞれだからね。」
「それで花鈴達は大学生連中とどう向き合って行くつもりなんだ?」
「そうね、英会話能力の向上は考えて上げたいけど、まずは他の教科に対する知識を確認しないと。
 大学受験に向けて沢山学習したのだろうけど、野菜を育てられなかったら自給自足は出来ないでしょ。
 社会経済が破綻しても自給自足出来れば生きては行ける、彼らがその辺りのことをどの程度理解しているのかに興味が有るの。」
「少し上から目線になってないか?」
「彼らの挨拶は何か選ばれて来たみたいな感じで微妙だったの、失礼な話もしたし。」
「どんな?」
「学力が低くても、とかね、そんなの私達に関係ないし、そもそも子どもと向き合う立場の人が全校生徒の前で口にして良い言葉ではないわ。」
「成程、それで英語力の確認からか。」
「農業に必要な知識も学んで貰わないとね。
 まあ、質問したら私達が何でも簡単に答えてくれると考えていそうだけど、それでは彼らの為にならないでしょ。」
「かもな、花鈴達の力で彼らを成長させてやってくれ。」
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五月-46 [花鈴-05]

 大学生達の活動は授業の見学から始まり、絵梨と私が低学年を教えている光景も観察対象に。
 ピーマンを植え付けた日のことが影響しているのか、滝川さんは明らかにLilyを避けていたので、Lilyには彼らと英語でしか話さないことにして貰った。
 それでも徳沢さんは帰国子女の学習に興味が有るそうでLilyと積極的に話す、始めの内は互いに戸惑いが見られたのだが。

「徳沢さん、Lilyと英語でのコミュニケーションがスムーズになって来ましたね。」
「うん、花鈴姫に手伝って貰ったお陰だよ。
 自分は小学生と英語で話すのが初めてだったから話題も分からなかった、でも畑のことは共通の話題になってるし、知らない単語を覚え使うことで自分の英会話力が鍛えられていると感じてる。
 君の言ってた通り英語は使って身に付けるものだと実感したよ。」
「良かったです、私達は皆さんが折角Lilyと知り合うのだからカナダ英語に触れて頂けたらと考えていましたので、滝川さんは残念ですが。」
「自分もだが英語を日常的に使う環境に無かったからな。
 テストの為に英語を学習して来たとしても会話出来なければ、そう言う意味で彼らは積極的に英語で会話しようとしてる花鈴姫以下だと自覚してるのだよ。」
「それでも私達が低学年の子に教えてることは上から目線で評価してるのでしょ?」
「いやいや、全然上から目線では無いんだ、湯山さんは学習塾で教えているのだけど凄く参考になったと話していてね、自分は生徒のことを考えず、ただ塾の方針に沿って教えていただけなのかもと、少し落ち込んでたんだ。」
「それで皆さんの研究は進んでいるのですか?」
「進んでいると言えば進んでいる、今は兎沢小学校の現状を調査し確認している段階だからね。
 冷静に記録して行かないと少しずつ交代して行く連中に繋がって行かないのだよ。」
「研究室のメンバーで共有して行くのですね。」
「そうなるのだけど、来月から来るメンバーは早く花鈴姫達と話したいって。
 公立小学校の出身者は皆、小学生時代に退屈な思いを経験しているからな。」
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五月-47 [花鈴-05]

「メンバーは入れ替わって行くのですか?」
「そうなるかな、色々な視点で見た方が発見が多くなるだろ。
 学力差の有る子達に同じ授業を受けさせる今の教育制度に対して皆疑問を抱いてる、だけど教育予算に限りが有ると考えると行き詰ってしまってね。」
「では私達の視点にも興味が有るのですか?」
「勿論だ、色々教えて欲しいよ。」
「それで私達に何らかのメリットは有るのです?」
「う~ん、そう言われてもな…。
 ここへ来るまでは学習面での助言を考えていたのだけど、花鈴姫は既に自学自習の形を確立してるみたいだから。」
「両親や兄から教えられて来たのは受け身ではつまらないと言うこと、特に学校の学習はね。」
「やはりメリットは必要なのか?」
「ええ、滝川さんは明らかにLilyを避けてるでしょ、私達にはそう言ったリスクが有るのですよ。
 人から避けられるって気持ちの良い物ではないわ。
 私の考えと異なる人でも対等な立場なら議論にもなるでしょうが、上から目線で自分の考えを押し付けて来る人だっていると思うの、そんな人とは時間を共有したくないとは思いません?」
「今までそう言った経験をして来たとか?」
「ええ、先生相手にね。」
「そう言った体験談は是非聞かせて欲しいものだな。」
「そうね、大賢者達にも話して無いことだから、菜園の草むしりを手伝ってくれたら、その終了後にジュースでも飲みながらってどう?」
「やはり英語なのか?」
「畑での作業中はね、それが終わったら日本語で話すわ、私には難しい話を英語で話せる力はないのよ、今はね。」
「それなら自分だけでも手伝わさせて貰うよ。」

 こんな感じで徳沢さんが菜園作業の仲間になった。
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五月-48 [花鈴-05]

 徳沢さんとは色々な話をする様になった。

「研究室にはそれなりの人数がいて交代でやって来るのね。」
「小学校の規模を考えたら滞在する人数は増やせないとなってね、宿泊の都合も有るのだけど。」
「大学生の実習なのですよね、どんな感じで交代して行くのです?」
「ここへ来るメンバーが各自の都合に合わせて調整、単位を取れないと卒業出来ないからな。
 自分は最短でも大学の夏休みが終わるまでは居座るつもり、でも宿泊の都合が有ってどうなるかは未定でね。」
「空き家は有るわよ。」
「空き家が有るからと言って住まわせて貰えるかどうかは別問題だろ。」
「そうね、お化けが出るかも知れないし、古い家って趣は有るのだけどトイレはね…。」
「だよな、近所の古民家を見て思ったよ。
 でも、今のトイレだって電気が無かったら洗ってくれない、自給自足を考えたらそこはどうなんだ?」
「大丈夫よ、兄は発電も意識してるから。」
「へ~。」
「前はそれ程でも無かったのだけど、最近世界情勢の影響で電気料金が一気に上がったのでしょ。
 電気だって他人任せでない方が良いって、勿論我が家には太陽光発電のパネルが取り付けて有るのだけど、ずっとここに住み続けるのなら、色々考えないとって。」
「君のお父さまは過疎の問題も意識してここへの本社移転を決断されたそうだが、ずっとここに住み続けるおつもりなのか?」
「そのつもりが無かったらここの人達に対して失礼でしょ、ちゃんと地域行事にも参加してるのよ。
 古民家を買いとって社員さんと補修の相談もしてるのだけど、必ず地元の人にも参加して貰うの。
 社員さんの中には早々と、ここに自分の家を建てる計画を進めてる人がいるし。」
「本社はかなりの人数になるとか?」
「どうかしら、本社機能は名古屋支社と分担で本社勤務希望者の人数によってその比率が決まる。
 田舎暮らしを希望しない人に本社勤務を強制する様な会社ではないのよ。」
「あっ、原則単身赴任は禁止、オンラインで作業を進められるから転勤は最低限だったね。」
「ええ、工場勤務の人は通勤するしかないけど、他の人達はそれぞれの都合と合わせて相談してるの。
 父は臨時で雇う人達の待遇にも気を配る様に指示しているのよ。」
「ここへ来る前に色々な話を聞いたり読んだりしたのだけど、他の大企業では下請けにきつく臨時採用は人間扱いされない所も有ると聞いてね。」
「人を大切にしていたら、現場環境は悪くならないの。
 下請けに無理難題を押し付ける、なんてことをしていないから企業イメージが良くて、優秀な人が入社して来る、そこで大切にされるから真面目に働かない人は僅かなのよ、工場も含めてね。」
「そっか、読ませて貰った資料だけではぼんやりしてたけど、社長令嬢の口から聞かされて納得出来たよ。」
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五月-49 [花鈴-05]

「人を大切にする企業が本社移転を意識し、社長の家をここに建てる所から始めたのだけど、それを地元の会社に依頼したことで、この地を少しだけ潤すことが出来たの。
 そこから本社移転や寮の建設まで極力地元が潤うことを考えて発注して来たから信頼されてるし、土地に関しての相談も受けてる、荒れた森をお金を掛けて整備する計画も進んでるのよ。」
「単に本社を移転するだけではないとは聞いてたけど。」
「父はここの環境を守りたいと考え動いて来たの、だから徳沢さん達がここでの活動拠点を広げたいと考えたら、相談に乗ってくれる人はいるわ、本気度を示し出来ればここの活性化に協力すると意思表示してくれたらね。」
「それを花鈴姫が仲立ちしてくれるとか?」
「徳沢さんは教育を考えてここに来ているのだろうけど、過疎地の有効活用を考えてる学生さんはいないのかしら?」
「いない訳ではない、自分がここでの実習のことを話したら色々な形で興味を持つ人はいたからな。」
「小枝子さんはここで暮らし始めてから、不便なことや不便で無いこと、都会暮らしでは味わえない体験とかを発信し続けているのだけど。」
「ああ、ここに来る前から見てた、車がないと何かと不便だけど、今はそれだけかもって思ってる。
 自分達はネット環境さえ整っていれば学習も問題なくこなせるからな。」
「そうね、私は自分専用のパソコンを手にしてから世界が広がったわ。
 ここでのハンデとしたらプロの生演奏を聴きに行くのが大変なことぐらいかしら。
 演奏会は夜が多いから、聴きに行こうと思うと一泊することになるの。」
「そういったことを楽しみだと思う人もいるみたいだよ、より想い出が残るそうでね。」
「それは有るかもね、たまに食べるソフトクリームをより美味しく感じたり。
 都会に比べたら不便なことも有るけど、夏休みの間だけでも、ここでのんびり暮らしてみたいと思う学生さんはいないかしら?」
「研究室の連中は小学校が休みでも来たいと思ってるかも知れない、遠藤さんはここが気に入ったそうで、研究には関係ない情報も仲間に伝えていてね。」
「なら夏休みを過ごせる家を用意したら需要は有るのかしら?」
「用意出来るの?」
「需要が有れば過疎化を何とかしたいと考えてる大人達が動いてくれるわ、食事は相談ね。」
「そうだな、打診してみて報告するよ、我々の調査研究でお世話になってる土地のことを、自分達はもっと知るべきだからな。」
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五月-50 [花鈴-05]

 徳沢さんは私の話を思っていたより真面目に受け止めてくれ、返事が来るのは早かった。
 夏休み期間を利用し小学生と交流したいと考えてた学生もいるそうだ。

「奴らはここの子達がバラバラに住んでいる状況を理解していないかもだけど、まあ、それも含めて過疎地の小学校、その現状を体験して貰えたらと思うんだ。」
「では、普通に十人ぐらい住める家を用意して貰うわ、今度の夏休み期間しか使わないのだったら、その次を考えなくては行けないから、早めに教えてね。」
「条件にもよるが自分達としては合宿所みたいな感じでずっと使わせて貰えたらと考えていてね。
 小学校へ調査見学に行くのは四人としても、中学校も有るし、小中学校に関係なくここで生活してみたいと言う奴もいるんだ。」
「それなら支所の観光課にも動いて貰うから課長さんにご挨拶に行かないとね。
 家の方はもしかしたらと話を通して有るから、直ぐにでも改装工事を始めて貰えるわよ。」
「費用は大丈夫なのか?」
「見積もりを出して貰って父の了解は得て有るの、所有者は父になるからね。」
「花鈴姫がおねだりしてくれたのか?」
「そんなんじゃないわよ、ここの活性化を考えたら、例え短期間で有っても住んでくれる人が増えることが望ましいと言うのが家族会議の結論なの。
 兄は高校や大学を通信教育でとイメージしているのだけど、大学生と接する機会が有れば自分にとってプラスになると考えていて、特に難しい受験をクリアした人達とはね。」
「そうだったな、中学の噂も伝わって来ていて我々としても是非お兄さんとお話ししたいと考えてはいたんだ。
 やはり見返りを考えないと行けないのかな?」
「う~ん、綺麗なお姉さんが水着姿で登場したら喜ぶかも、中三の男の子はそうなのでしょ?」
「えっ、まあそうだな、しかしどういうシチュエーションで水着になるんだ?」
「もちろん川遊び、他に考えられる?」
「そ、そうだな、でも水着で遊ぶ様な河原を見た記憶がないのだけど。」
「キャンプ場として整備中の所は夏までに川で遊べる様にする予定なの、コテージが使える様になるのは来年だけどね。」
「テントを張って宿泊とかは?」
「間伐作業の進捗次第かしら、今年の夏までに川遊びが出来る様にする計画で、宿泊は考えてないけど、コテージを建てる計画を進めているのだから、テントを張る場所ぐらいは出来てると思うわ。」
「コテージを貸し出して資金を回収するとか?」
「社員向けの施設にする予定なのだけど、社員の利用が少なそうだったら一般へも貸し出す予定、ここから車で一時間半ぐらいの所に有る工場の従業員次第かな。」
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