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岩崎雄太-12 ブログトップ

111-オーデション [岩崎雄太-12]

スーパー銭湯大ホールの舞台に立つ人を募集、というオーデションは一般投票の形で進められている。
希望者は各自の都合を考慮し、日時を調整しながら個別に舞台に立ちそれを撮影。
審査はその映像を大ホールで流し銭湯の客が投票という形と、ネット上で映像を公開し投票して貰うという二本立て。
順位を決める事が目的ではなく、集客力の判断が重要。
応援したい、から、あまり見たくない、までの五段階評価で投票して貰うが、若者から全く支持されなくても、中高年からの支持が多ければ合格。
投票である程度の評価を受けた人は仮契約の形で舞台に立ち始めている。
オーデション合格者を受け入れる事務所の担当は恵子。

「恵子、仮契約の方はどう?」
「正平含め五人は本契約に進めても問題なさそうですよ、里美姉さん。
詐欺師のおっちゃんの進行が面白くて、おひねりも充分頂けています、仮契約の素人さん達は生活が掛かってませんから、今の所収入を気にしなくていけないのは正平だけです。」
「おっちゃんは株式会社岩崎の社員だけど、今後はどうなの?」
「本心が分かりにくい人ですが、楽しんでるみたいです、おひねりも貰えていますし。」
「話術よね、あっ、でもおひねりの税金にも気を付けてね、意図しない脱税なんて事があってはいけないから。」
「大丈夫ですよ、舞台に投げる形にしなかったのは正解です、不正のない形に出来ましたから、必要なら領収書だって発行出来ます。
でも、詐欺師のおっちゃん宛に頂いた分はそのまま養護施設へ寄付するシステムにしてくれと言われています、足るを知ったからだとか、彼はもう二度と犯罪を犯す気はないと思いますよ、その為に自分への戒めとして詐欺師を名乗り続けているのだと話してくれました。」
「そっか…、でもここはちょっとした事で誤解を受けかねない人が多いから気を付けてね。」
「はい、私も経験が有りますから…、親がいないというだけで…。」
「うん…、でも、それに負けなかったからここにいるのよね。」
「先輩に…、一期生の先輩に引っ張って貰いました、ここに私達の村を作るから都会に未練がなかったらって…、正直言うと未練がなくはなかったのですが、今は迷っていません、ここを発展させたいと、詐欺師のおっちゃんだけでなく魅力的な人が沢山いますから、ここには。
都会で暮らしていたら出会わなかったろうなって思うんです、そんな人達とは、人生のスタートが違いますからね。」
「ふふ、スタートはどうであれ、恵子は素敵に人生を歩んでいるのね、ここで。」
「はい、オーデションに来られる方は年齢に関係なく素晴らしい方ばかりなんですよ、売れっ子になって養護施設へ沢山寄付したいという方ばかりなんです。」
「この取り組みを成功させたいわね。」
「はい。」
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112-発信 [岩崎雄太-12]

「一旦、今の流行を忘れましょ。」

発言者は神田咲子、流行発信チームのリーダーだ。

「流行って誰が作ってるのかしらね。」
「流行は繰り返される。」
「でも、私達が発信すると言っても取っ掛かりが…。」
「その為に正平がいるのよ、正平の歌がどこまで受け入れて貰えるかはまだ分からないけど、黙っていればイケメンだからファンも出来ると思うの。」
「彼にトークは厳禁よね。」
「まずは彼に似合いそうな服を幾つか作る、それからアレンジして男性向け女性向けを商品化、簡単に言えば正平のファンが集まったら、みんなが違和感なく一つの集団と感じられるけど、制服ではなくそれぞれの個性が発揮出来るという、そんなブランドってどう?」
「難しそうですが出来なくはないですね、でも、そうなると割高になって、訓練生には手が出せなくなりそうです。」
「そこはあなた達、実習生次第、職業訓練校や養護施設の子の為の服はあなた達に完成させて欲しいの、男の子のも女の子のも、みんなが着たいと思ってくれる様に完成させて実際にみんなが着てくれたらそのまま広告塔でしょ、私達は店で売る商品を、時にはオーダーメイドで作るわ。
売れるかどうかは、まず実習生の力によるかもね、正平が売れればそのまま宣伝になるのだけど。」
「行けそうな気がするわ、ドライブインの周辺が魅力有るエリアとして広がっている、そこで流行っているファッションなら自分もって気になるでしょうね、奇を衒ったデザインにしなければ難しくないと思うわ。」
「実習生にとっても色々な意味でプラスになるでしょ、いい加減な仕事をしない事が前提だけど。」
「は、はい、心して…。」
「じゃあ、私のデザイン見てくれるかな。」

「うっ、そう来たか…、あの曲からのイメージなのね、私は史枝ちゃんと組み合わせてみたけど…。」

「無難に収めたのね…、ねえあの二人って不思議よね、正平が史枝ちゃんに頼っているのかと思うと史枝ちゃんが正平に甘えていたり、それを正平は受け止めているから男っぽい奴かと思いきや、ただのおバカ。」
「私達の常識が通用しない次元なのよね、彼等にも暗い過去が有るからだろうけど…」
「支えてあげましょうよ、実習生の君達も私達の娘みたいなものだから何か有ったら相談してね。」
「はい、有難う御座います。」
「でも作品に手抜きは許しませんよ、ここから一つのファッションを発信して行こうと考えているのですからね。」
「は、はい。」
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113-ブランド [岩崎雄太-12]

「並行して中高年向けブランドも検討して行きたいよね。」
「そっちの方が現実的よ、お客さんは中高年ばかりだから。」
「農村や漁村の女性、老人のファッションなんて低く扱われてたと思わない?」
「そりゃ、生活環境も都会とは違うし…。」
「田舎暮らしでも、お洒落をする事で生活が豊かになると思うな。」
「あっ、店でちょっとしたアクセサリーを買って貰ってたお婆ちゃんの笑顔…、お年を召した方でも嬉しいんだなって思いました。」
「お洒落する事で気持ちが若返る、健康にも良い影響が有りそうよね。」
「作業着だって、一工夫してお洒落に出来ないかしら、もちろん着易さは重要だけど。」
「そうね、農業チームとも相談してしてみようか。」

そこへ、史枝が茶菓子を持参して入って来る。
神田はこれまでの話の内容をまとめながら史枝に説明し。

「史枝ちゃん、どうかな、人口が少ないから大きな売り上げは期待できないけど。」
「良いですね、進めて下さい、ただここだけでなく株式会社岩崎の他の拠点とも相談して行きたいです。
それぞれが同じコンセプトの下に商品開発を手掛け、統一ブランドの形で販売して行けば品数を豊富に出来ると思いますし、相乗効果で売り上げアップに繋がります。
ローカルアイドル岩崎正平は、長野、岐阜、愛知などの拠点でも応援して貰えそうです。
グッズも、岐阜では比較的安価な商品を中心に製造、岩崎村と、ここで高価格帯プラス、オーダーメイドというのも有りです、デザイン面は他のデザイナーと競い合う事になりますが、田舎発のブランドという形に乗ってくれそうな人は少なくないと思います。」
「うっ、プロと勝負かぁ~。」
「咲子姉さん燃えますね。」
「そうね、実習生もどんどんアイデア出して。」
「正平の応援もお願いします、人気が出れば関連グッズの売り上げも伸びます、そしたら弟や妹を安心して増やせますから。」
「CDとか出さないの、まとめ買いして昔の仲間に贈るわよ。」
「もうすぐ完成です、スーパー銭湯で売る予定で作成したのですが…、お父さまったらいきなり一万枚も作らせてしまって。」
「ふふ、親馬鹿なのね、でも勝算もなく無駄な事をさせるお人ではないから大丈夫よ。」
「売れ残ったら、私が一枚ずつ売って歩きます…。」
「全部売れるまで帰れないのね、ってマッチ売りの少女じゃあるまいし。」
「史枝ちゃん、一万枚なんて簡単に売れるわよ、ネットに上げたサンプル動画、みんなが知り合いに教えているから再生回数伸びてるでしょ、一度見た人が宣伝してくれるから、まだまだ伸びるわよ。
大体、岩崎社長の息子がCDデビュー、歌の実力あっての事だから岩崎大ファミリーが応援しない訳がない、一万枚じゃ足りないわよ。」
「咲子姉さん…。」
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114-CD [岩崎雄太-12]

正平がスーパー銭湯のホールで人気者になったのは観客からのリクエストに応えた事が大きいだろう。
客からの要望に応え練習し次の舞台で披露、彼が生まれるうんと前の曲も多かったが、歌い易いのか自分のものにするのは早かった。
CDには彼のオリジナル一曲と懐メロのカバーを三曲を収録した。
独特な世界観を持つオリジナル曲、若者の知らなかった昔の名曲は共に世代を超えて評価された。

「聡志、CDの追加どうするの、今のペースだとすぐ売り切れてしまうわよ。」
「そうだな、思い切って一万枚追加でどうかな、京子、里美姉さん何か言ってなかった?」
「とりあえず二万枚までなら残っても何とかするとは話してたけど、強気過ぎないかしら?」
「ネット配信なし、中高年にも受け入れて貰いやすい選曲…、売り方も関連する観光地と関連企業の購買部と通販が中心、無名の新人なのに一万枚があっという間に売り切れそうで、追加注文が来ている…。」
「う~ん、そう考えると二万枚でも無理はないのかな、これからの展開もあるし。」
「そうだな、すぐ連絡入れるよ。」

「衣装の方はDVDの制作に合わせて一通り出来たそうよ、これは聡志の仕事着として実習生が縫ってくれた分、追加注文は安く請け負ってくれるそうよ。」
「仕事着っていっても、お洒落な感じだな…、うっ、微妙に京子が着ているのと…、二人の関係がバレてしまわないか?」
「もうバレてるし、スタッフがこれ着て集まったら普通にチームの仲間よ。」
「何だ、二人だけ特別という訳でもないのか…。」
「ふふ、正平と史枝は工房のお姉さま方の力作だから二人だけ特別になってるわ、DVDの制作スケジュールに合わせて、普段は平和な工房がピリピリしてたってさ。」
「続けて販売用の制作に入るんだろう、大丈夫かな。」
「これからは手慣れた作業でもあるし前のペースに戻すそうよ、岩崎村のデザイナーとも今回の作業で充分な意見交換が出来たそうだから、休みを合わせて金沢辺りで女子会を開く計画も着々と進んでいるとか。」
「忙しかったんじゃないのか?」
「それでも進めちゃうのがお姉さま方のパワーなのよ、見習わなきゃ。」
「はは、京子も随分逞しくなったと思うがな。」
「のんびりしてられないのよね、DVDが完成したら二枚目のCD作成やツアーでしょ、史枝が色々考えてるからスケジユールは勝手に決まって行きそうだけど、宿の手配とか早めに動かないと…、専用バスで車中泊の連続なんてきついわ。」
「みんな長い旅なんて初めてだからな…、里美姉さんはのんびり気分が調度良いって話してくれたけど、遊びじゃないし。」
「週休二日はきちんとしてね、でないとスタッフからブーイングの嵐になりそうだから。」
「ああ、史枝からのスケジュール情報は早目に教えてくれな、それでも旅立ってからの変更も多そうだろ、交代で休みを取るにしても京子と交代で休みを取ってたら…、絶対里美姉さんに怒られる。」
「そもそも私達の事知ってて組ませてくれたのだからね。」
「頼りになる部下を育てる事が大切だって言われてはいるが、今のスタッフはちょっと頼りなくないか。」
「私達だって経験が浅いからね、でも、まだ時間は有るわ、今から頑張って間に合わせましょうよ。」
「うん…、そうだな、失敗しても良いからみんなで成長しようって、里美姉さん話してたもんな。」
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115-ツアー [岩崎雄太-12]

正平がホールの舞台に立ち始めてから四か月、ツアーのスタートを迎える。

「史枝、いよいよだな。」
「聡志は緊張してるの?」
「当たり前だろ、ツアーと言える程の会場を回るわけじゃないが、全国ネット、情報番組のリレー企画が絡む、各県のテレビ局がどんな指示を受けてどんな動きをしてくるのか分からない状態で、俺は里美姉さんからチームリーダーとして積極的に前に出なさいと言われたんだ、やばいよ、マジで。」
「台本が有るから大丈夫、聡志ならやれるわ。」
「あ~、史枝は話さなくて良いからお気楽だな、でも方針が変わるかもしれないし…、映像では沢山登場する事になるから、変なとこでこけたりするなよ。」
「だ、大丈夫よ、録画だから編集もきくし、方針が変わらない様に頑張るから。」
「ま、正平にトークをさせる訳にもいかない、彼女役だけベラベラ喋るというのも微妙ではあるからな…。
番組が進行するにつれ俺達の事も明かされて行くそうだけど、そっちぐらいは早めに済ませて欲しいよ。」
「番組的には、小出しにしたいでしょうね、まずは正平の紹介が先だから…、明日の準備は出来てる?」
「明日は、居残り組の恵子が担当してくれるから大丈夫、テレビ局の人との打ち合わせも問題なく済んだって報告してくれた、この周辺を紹介するビデオも彼女が仕切って三日がかりで撮影済さ。」
「恵子は舞台の進行も手慣れたものよね、詐欺師のおっちゃんも褒めてた。」
「だよな、あ~、ホールを誰かに任せてツアーに参加してくれないかな~。」
「お爺ちゃん中心にファンが増えてるからホールの司会から外せないって、事務所の所長でもあるし…。」
「否、みんなのアイドルがテレビに出れば喜んで貰えるだろ、せめて近県の内だけでも、毎回とは行かなくてもさ。」
「そうね、しばらくは電車で日帰り出来る距離だから、ニ三回ぐらいは調整すれば、でも聡志、あまり熱烈にアピールすると京子に誤解されるわよ。」
「いや、京子の方がテレビ出演にびびっているんだ、結果を出したいという思いが強くて、俺以上ににナーバスになってる。」
「里美姉さんは、何事も経験だって、習うより慣れろ、何にしてもチームリーダーは聡志なんだから京子の事もしっかり支えてあげなさいよ。」
「ああ、俺達の目標ははっきりしている、緊張はしてるし不安も有るが俺なりに精一杯頑張ってみるさ。」
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116-旅立ち [岩崎雄太-12]

旅立ちの朝、大勢の仲間達とテレビ局のカメラに見送られ、正平とスタッフ一行を乗せたバスは出発した。

「聡志、なかなかゆったりしたバスでしょ。」
「六十人乗りを改造して貰って、三十人がゆっくり寝れる、贅沢すぎですよ里美姉さん、まだ名も知られていない新人歌手なのに。」
「まあ色々利用させて貰うからね、ツアー中の売り上げでこんなバスの一台や二台簡単に稼げると思うわ、一応正平がダウンという最悪のシナリオでも赤字にしない手立ては考えて有るから心配しないで。」
「姉さんがそう言うなら安心ですが…。」
「スケジュールに余裕は作って有る?」
「はい、里美姉さんの指示通りにゆったりと組んではあります、ただ、DVDを送った先からステージを追加出来ないか、という問い合わせが来てまして、今の所は受けても問題のないレベルなのですが、今後増えるかもしれません、まだ簡単にお断り出来る立場では有りませんので、今後の交渉事が若干不安ですが。」
「正平次第ね、他のスタッフは交代すれば良いし、テレビ局サイドの応援も有るから何とかなるわ、でも、彼には曲も作って欲しいから…。」
「正平の強みは準備に時間が掛からないのと、二時間ぐらいなら喜んで歌い続ける事ですね、体も丈夫です。」
「そうね、発声練習とかしてる所、見た事無いわね、大丈夫なのかしら?」
「始めの内は静かな曲を静かに歌って喉を温めています、それが発声練習代わりなんでしょう。
調子が出て来ても喉に負担が掛かる様な歌い方はしない、音楽の先生にだけには褒められていたそうですよ。」
「ふふ、だけなのね。」
「英語の先生も発音だけは褒めてくれたって自慢してました。」
「耳が良くてコピー能力が高いということかしら。」
「算数も国語も苦手、でも歌の詞となると文法的に変な所が個性的であいつの魅力になってますよね。」
「何が幸いするか分からないわ、取り敢えずスケジュールの変更は正平と史枝、京子と四人で相談なさい、始めのうちはみんなペースを掴めないだろうから判断が難しいかもしれないけど慣れてくれば、大丈夫じゃないかしら、正平を潰す気はないでしょ。」
「もちろんです、そんな事になったら史枝始め兄弟全員から恨まれてしまいますよ。」
「休む時はゆっくり休んで貰いましょう、宿の方は大丈夫?」
「はい、最悪、正平と史枝以外のスタッフはこのバスで寝ても良いと考えていたのですが、各テレビ局の方が手伝って下さって先々まで確保出来ています、四か月目以降は、メインのスケジュール自体がまだ流動的なので、調整中ですが…、テレビ局の人は随分親切なんです。」
「どうしてだか分かる?」
「えっ?」
「あなた達が岩崎雄太の息子と娘だからよ、番組スポンサーは関連企業ばかり、お父さまを怒らせる様な事があってスポンサーを降りたら、局にとっては大打撃なの。」
「それで姉さんは強気なのですか、親子と言っても対外的には形だけのものだと思っていました…。」
「相手はそう思わないわ、でも私達の力じゃないから威張ったりしちゃだめよ。
大勢の社員さん達に支えられている訳でもあるから、スケジュールに入ってる工場での演奏とかでお返しして欲しいのだけど。」
「はい、逆に岩崎雄太の子として恥ずかしくない様に、スタッフ全員に徹底します。」
「お願いね。」
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117-門出 [岩崎雄太-12]

出発してからの三日間は小規模なライブを幾つもこなした。
会場は町の公民館や小学校の体育館をスーパー銭湯の客達が準備してくれた。
歌の伴奏はホールの舞台に立っている人達が交代で。

「聡志、この三日間半端なくカンパを頂いてしまったわね、現金はこまめに銀行口座へ入れてるけど緊張したわ。」
「正平の門出を祝ってくれるという感じだったもんな、それでも経費を考えたら大した利益とは言えないのだろ。」
「そうよね、スタッフの人件費とか宿泊費とか考えたら…、すでに私の金銭感覚の限界をはるかに超えてるのよ、不足分はスポンサーが負担してくれるとはいえ…、何とか慣れなきゃだけど。」
「京子の気持ちは分かるよ、里美姉さんなんて、たかが一千万されど一千万なんて平気で話してるもんな、たかが千円されど千円なら違和感ないけど、慣れて行かないと大きな仕事は出来ないって事だね、まあ明日からは正平関係の現金収入は減るとは思うが。」
「知らないお客さんばかりになるのよね、スーパーの駐車場でどれだけのお客さんが足を止めて下さるのかしら。」
「最悪スタッフだけになる事も覚悟しておくよう正平には話して有るが、会場設営準備とブランド品販売コーナーの設営に入った連中はCDやDVDを流したりして宣伝をしてくれてる筈だし、一週間前にはポスターも貼らせて貰ってる、選曲はスーパーの客層に合わせてある、後は正平の歌声を受け入れて貰えるかどうかだな。」
「進行はこの三日間で一番受けの良かった、勝次と綾香に頼んだわ、手の空いたスタッフは全員モデルのつもりで立つ様に念を押した。」
「仮設の販売コーナーでは一週間、Family IWASAKIブランドの商品とCD、DVDの販売、明後日がテレビ放送の初日だから、明日売れなくても明後日以降売れる可能性もある、何とか黒字になって欲しいとこだけど。」
「テレビの方は始めの一か月間、週三回ペースでの放送が確定したそうよ、宣伝効果が大きいかも。」
「そうか、今は正平もFamily IWASAKIも多くの人に認知して貰えるかどうかの時だからな。」
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118-イベント [岩崎雄太-12]

スーパーでのイベント、午前の一回目が終わった後の昼食時。

「譲治先輩、どうなるかと思いましたけど、結構観客いましたね。」
「ああ、メインターゲットの中高年女性が笑顔で聴いてた、正平は、行けると思うよ。
俺達の仕事もトラブルなくて良かったな。」
「でもこれからは、テレビ局関連からの援助が減って行くんですよね、大丈夫かな。」
「お前次第だよ。」
「先輩は、すでに自信ありありですか?」
「まあな、長野から呼び戻されて村へ帰る前にイベント関連の研修を受けて来た、聡志達ともしっかり打ち合わせしている。
どうだ、今回のツアー、全体像は掴めているか?」
「自分は、まだ言われた事を真面目にこなしているという感じなので。」
「出来れば、今日やってる作業を後輩と組んでこなせる様になって欲しいのだけど、どうだ?」
「機材関係は大丈夫ですが、スーパーの方との打ち合わせとかは得意ではありません。」
「まあ少しずつ慣れて行こう、全体の流れも理解しつつ…、そうだなこのスーパーとの係わりから見直してみようか。
まずはスタッフ会議でスケジュールや店の規模などの条件からここを候補に選んだ訳だ。
この辺りは二か月前に、チーム正平のスタッフとFamily IWASAKIブランドチームが二人一組で回って最終決定し交渉した、単なる正平のイベントだけではないFamily IWASAKIブランドの紹介も目的の内に有るからな、相手に対してはイベントを開く事での集客効果、売り上げアップを、テレビ出演の予定も利用してアピールした訳だ。」
「ギブアンドテイクって事ですね?」
「ああ、その過程で、仮設の販売コーナーも、一週間限定だが結果によっては今後違った展開も視野に入っている。」
「店としては、店内の空きスペースを埋めたいでしょうが、こちらとしては、そこを借りたとして、どれだけの売り上げが見込めるかという事ですよね。」
「そういうことだ、その後日程を決定、三週間前には昨日までのライブ会場や明日からの会場も含めポスターを配ったり貼ったりしに来ている。」
「ポスターの効果は大きかった気がします、テレビ出演の事や曲目もありましたから、曲目がなかったら中高年の方は興味を持たなかったかもしれません。」
「だな、工房の広報部が良い仕事してくれたよ。
そんな中、俺達は一週間前に下見に来た訳だ、公民館や学校は現地の人にお任せで良かったから助かったな、全部俺達で担当してたら大変だったぞ、この後も施設によっては先方にお任せとなるから大丈夫だろう。」
「自分達は、下見や打ち合わせで先の会場へ行ったり、設営の準備、当日の裏方、撤収したら次の準備へ、先輩、自分はもう一度先々のスケジュールを確認しながら、全体の動きを見直してみます。」
「ああ、責任者になったつもりで考えてみてくれな、違ったものが見えて来ると思うよ、今後、規模が大きくなる可能性も有る、そうなって来たら俺達はまた違った役目を担う事になると考えてくれな。」
「まだ、荷が重い気もしますが、頑張ります。」
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119-オフ [岩崎雄太-12]

出発してから六日目は正平の休養日、バス移動の後、正平と史枝は町の散策へ出かけた。
翌日はテレビ局での収録が中心だから、余裕の出来たスタッフ達も休養を兼ねて今後のイベント会場との打ち合わせに出かけたりしている。」

「聡志、今日は皆、見事にバラバラね。」
「ここまで客の反応も良かったし、大きなミスもなかった、ワイドショーがうまく編集して放送してくれた事もあってか、ようやくみんなの緊張がとけて来た、今日は楽しんで来て欲しいね。」
「何人かは打ち合わせに行ってるけど、観光を楽しむ時間は充分有るわよね、私達はどうする?」
「昼飯兼ねて散歩にでもでかけるか?」
「そうね、ちょっと調べてみようかな…。」

京子が調べ始めた時、聡志に連絡が入る。

「京子、紗友里から会場変更の依頼が入った、大きいスーパーだけど、先方の店長がテレビを見て、広い場所に変更したくなったそうだ、譲治は今、何処にいる?」
「待ってね、まず…、紗友里は…、来週の予定で譲治達は色々準備を済ませた後の会場ね、譲治はそこから三十キロ先のスーパーで午前中打ち合わせ、午後は休暇の予定になってるわ。」
「打ち合わせが終わったら連絡くれる様にメールを入れてくれるか、俺は他のスタッフ宛に一斉送信メールの文面を考えるから。」
「分かったわ。」

譲治は予定を変更して紗友里達と落ち合い、下見や打ち合わせをし直す事となった。

「一斉送信メールの文案見てくれるか?」
「ええ…、そうか、他の会場でも同様の事が起きかねないわね、その度に変更していたら譲治達の負担が大きくなってしまう…、この先の会場とはテレビ出演前の交渉だったから低く見られていた可能性が高い、その通りよね…、各自担当の会場に最終確認…、大丈夫、この文面なら皆すぐ動いてくれると思うわ、報告は私宛にしとくわね。」
「じゃあ送信してな、譲治には悪いが俺達は食事に出るか?」
「ふふ、譲治は兎も角、紗友里は喜んでたりしてね。」
「えっ、そうなのか。」
「今夜の宿も、あの辺りは紗友里が仕切って決めてたでしょ、合流するのが早くなって嬉しくない筈がないわ、尤もライバルが多いから大変そうだけど。」
「そうか…、譲治を裏方から、もっと目立つ立ち位置に変更しないとブランドチーフからクレームが来そうだな…。」
「ふふ、そんな事したらライバルが増えて、紗友里達からブーイングが起きそうだわ。」
「はは、いっそ手の届かない高値の花ってどうだ?」
「う~ん、そこまでは…、でも、衣装とメークで…、紗友里には悪いけど、詩織達と相談してみるわね。」
「モデルは人数で勝負してるけど、質も上げて行きたいからな。」
「譲治も大変ね、オフが無くなるわ、モデルに祭り上げられるわ。」
「埋め合わせは、女の子達がしてくれるだろう。」
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120-予定変更 [岩崎雄太-12]

聡志が一斉メールを送ったのは正解だった。
スタッフ達がすぐに自分の担当する会場と連絡を取り合った結果、当初の予定より広い会場への変更を検討しているとの返事が幾つもあった。

「譲治、すまんな負担を掛けてしまって。」
「大丈夫さ、無理な変更はないし、聡志が気にする必要ないよ、予定していた場所では混雑してトラブルに繋がりかねないという事での変更だから先方も応援体制を強化してくれる、会場によっては逆に楽になるくらいだ。」
「それでも、機材の見直しや下見のやり直しと言った作業が必要になったんだろ。」
「大丈夫だ、こちらから問い合わせた分情報が早かったし、イベントにアクシデントは付き物だと教えられてきたからな、まあ、予測の範囲内だ。」
「そんな予測をしていたのか?」
「ああ、正平のターゲットは昼間にワイドショーを見てる様な世代、中高年をターゲットにした新人は表に出にくいが選曲が良かったし、いや俺も初めて聞いた昔の曲に感動したよ。
派手な演出は必要ない、歌で勝負出来る、ツアーが終わる頃にはファンクラブの人数も…、ファンクラブってあるのか?」
「そ、そうだな、すぐ打ち合わせるよ。」
「聡志、ファンクラブの人はそのままFamily IWASAKIブランドのファンにもなってくれると思うぞ。」
「だよな、やっぱ譲治にも企画運営のメインスタッフになって欲しいよ。」
「何か弱気な発言だな。」
「ファン拡大のペースが早まってきてるし、対外的にもチーム正平のリーダーは譲治の方が向いてる気がしてたんだ。」
「はは、それで色仕掛けなのか?」
「あっ、誤解しないでくれ、まず譲治のファンはスタッフ内にも前から何人もいたんだ、それでFamily IWASAKIブランドのモデルになって欲しいと考えて、詩織達に相談を持ち掛けたのは確かに俺達だが、その結果さらにモテているのは譲治の素質だからさ。」
「やたら服装や髪型に注文を付けて来る連中が増えて…、そういう事か、今は仕事に集中したいと思って断ってた女子連中…、聡志が原因なのか。」
「いや、お前は普通に女子の憧れの的なんだぞ、モテ過ぎて困るなら、特定の相手を決めろよ。」
「そう言われてもな…。」
「すぐにとは言わないが、モデル兼メインスタッフとして動いてくれよ。」
「あっ、モデル系か…、確かに男性陣は弱いかもしれないな、トークは勝次と綾香が頑張ってくれているが…、仕方ない…、裏方でやってく予定だったが、正平の兄的な立ち位置で参加してみようかな。」
「兄的とは?」
「史枝は恋人なんだろ…、そうだな今までのイベントではモデル達の立ち位置が曖昧だった、これからはスタッフ全員の立ち位置を想定して行こう、ファミリーをイメージしたブランドな訳だからな。
聡志と京子は兄夫婦で、運転手やメイク担当とか全員の関係を…、夕食時の話題としても面白いだろう。」
「じゃあ、譲治は女にモテる、頭の良い兄という事で。」
「う~ん、弱点が必要だな、完璧過ぎては面白みがない、だろ。」
「ああ、で、具体的にはどうするんだ…。」
「まあ、みんなで相談だな。」
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