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111-社会体制 [キング-12]

城の大人達は子ども達の取り組みを観察していた。

「政治の体制も考え始めたのね、共産主義の理想形になるのかな。」
「他に国がなくて豊かだと社会問題も起きにくいわね、独裁者もいないし、過去の共産主義、社会主義なんて独裁政治で本来の意味から外れてたでしょ。」
「私利私欲を考える政治家もここには存在しないからな、ゴールドを国民同士でやりとり出来ないシステムにしたのは正解だと思う。」
「ほとんどが国営だが、国が管理してるというより国民が管理してると感じる、選挙はしていないが民主主義と言って良いと思うな。」
「それでも国が大きくなったら変化するだろうな、何かの弾みで対立し分裂する可能性も有る。」
「そういう概念を子ども達が持たないと良いわね。」
「第一世代が寿命を迎えるぐらいまでは、今の町を広げる事に専念して第二の町を考えない方が良いだろう、土地に余裕は有る。」
「ああ、第一世代は出産に消極的になってきてる、第二世代の出産が増えるのはまだ先の事だ、大丈夫だろう、分裂の可能性は第一世代の方が高いからな。」
「ゲームの勝者はゴールドを沢山手にしたけど、城の子参加の企画で随分消費してるわね。」
「満足してる様だな、ゲームでは子どもだけを対象にした物理や化学の勝負も増えた、知識の有る大人達の力だけでなく若い頭脳の活用も画策し始めた訳だな。」
「頭脳系、運動系それぞれ稼ぎの多い子が出て来てるわ、彼等が城の子達のポジションに入ってくれれば良い形になると思うわね。」
「農業への影響は思ったほどなくて良かったわ、農業に従事する人が減る様なら賃上げとか聞いてたけど。」
「地道に働いてくれる人が少なくないからな、だいたい過去の歴史を考えても多くの兵士を抱えていて国が成り立っていた、飢えてる人のいた国もあったろうが、ここは豊かだ、これなら工業従事者が増えても問題なさそうだよ。」
「昔、暮らしてた社会も豊かだったけど、ずいぶん社会問題があったわね、ここがあんなバランスの悪い社会にならなければ良いけど、私利私欲の塊が多すぎたわ、ここでも不正は起こるのかしら。」
「全国民の所有するゴールドの額を全国民が知っている、不正は起こりにくくないかな、労働実績報告も子ども達は自己申請だけど、大人達は各部署のリーダーが管理してるし。」
「人口が増えたらどうなんだろうな?」
「基本、不正しない大人に育つよう教育しているわ、それでもこの先は起こり得る事ね。」
「小さなインチキはともかく、大きな不正は起きないだろ、このシステムなら。」
「城の子達はずっとこの星を見守って行くのかしら。」
「新たに生物の住める星を作ったら、そこへ導いて行く訳だろ、見捨てる訳にはいかないさ。」
「異なる二つの種族の関係がどうなって行くかも楽しみな様な…。」
「絶対的に優位な種族によって守られてる種族という立場を、嫌だと感じる者が現れるのだろうか。」
「そんな人物が力を持ったら自立が早くなるだろうな。」
「今の所見当たらないわね。」
「まあ、あれだけ城の子と仲良しでは有り得ないだろう。」
「城の子と国民との結婚ってどうかしら?」
「生まれて来る子が微妙に可哀そうだが、今の所城の子は国民を恋愛対象とは感じてない気がする。」
「能力に差が有り過ぎるからな。」
「城の子同士の会話が共通語になると早過ぎて全く分からないもんな、国民の子ども達のは普通に理解出来るのに。」
「大人達も随分落ち着いたな、トラブルは滅多に起きないし起きても些細な事だ、このまま警察の要らない社会なのか、子どもが成長すると必要になるのか。」
「警察はともかく軍隊の無い世界で有り続けて欲しいわね。」

一同頷く。
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112-科学 [キング-12]

この星で始まった文明は初期段階を随分免除されたとは言え、マリアのテクノロジーがなくなったら、大人達がかつて享受していた文化レベルには程遠いものになる。

「ロック、製品開発はどうなってる、進んでいるのか?」
「まあ、一歩ずつという感じだ、作りたい物が多すぎて簡単には行かない、技術を持った大人達と城の子が子ども達に教えながら進めている、今は五グループ体制だ。
一つ目のグループはフライパンや鍋、包丁を作っている、まだ出来が良いとは言えないが大人達は喜んで使ってるよ、二つ目のグループは電線、インフラ共同溝の延伸工事に合わせて敷設工事もしている、」
「ガスの代わりは結局薪なのか?」
「ああ、各コロニーから移植した木も根付いて来たが、和の国コロニーの森を間伐したら当分持ちそうなんだ、国民も慣れたみたいだな。」
「将来的には?」
「電気器具を作る計画は有るがガスの安定供給はかなり難しい、薪は使い続ける事になるだろう、で、その電気関係を担当してるのが三つ目のグループ、水力発電システムに取り組んでいる、まずは川を利用した小さい物から試作して、将来的には山の中腹に有る湖を利用しての大規模な物を十年後になるのか二十年後になるのか分からないがな。」
「時間はあまり気にしなくて良いだろう、で四つ目は?」
「農機具、馬や牛を使う案も有るが、出来れば電動か植物由来の燃料を作ってのエンジンを搭載と画策している、燃料用の作物も増やして試し始めているよ、で、五つ目はコンピューター、設計図は翔達の頭の中に有る、ただそれを今有る材料と道具で具現化することは簡単ではないそうだ。」
「だろうな、だが第七惑星で手に入れた金属が有ればいずれ完成出来ると尊から聞いている。」
「ああ、ただこのグループに入った子達は大変な勉強をしているよ、まあ、他の子が触る事も出来ない物も扱わさせて貰って喜んではいるがね。」
「そうか教育も進んでいるのだな。」
「彼等はこの国の科学を支える研究者になっていくだろう、一つ目のグループの子は技術者かな。」
「科学の進歩と逆を目指している連中もいると聞いたが。」
「家で電気を使わない生活を試みているが思っていたより不便でもないそうだ、移動手段は徒歩か馬の社会だから、江戸時代の生活ということかな、先にマリアさまのテクノロジーを排除した生活を始める事で、何が必要か見えて来るという事だ。」
「本当に必要な物はもうマリアに頼らなくても手にしているのかもな。」
「そうだな、生きて行くのに必要な最低限の物は有る、だがそこで止まってはいけないのだろ。」
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113-町 [キング-12]

翔が二十歳になる頃には、町は随分立派になっていた。

町から一直線に南に延びる道を行くと海、魚や貝などの養殖をしている。
養殖場以外でも、和の国の海辺から移した海藻、蟹や海老、貝などが自然な環境を作り始めている。
養殖場で稚魚を育て始める時など、機会有る毎に何匹かずつ放流してきた。
自然に繁殖している種も有り魚類も確実に増えている、まあ、海の広さを考えたらまだ微々たるものだが。
城の子が作り出した自然はかつての地球に少しずつでは有るが近づきつつある。
養殖作業で使っているのは木造の小型船、造船はまだ大海原へ漕ぎ出すという段階ではない。

海へ向かう道の両側が住宅街、城の住人を除いた全員がこのエリアに住んでいる。
建物は落ち着いた西洋風に統一された。
この国が多民族の集まりと言う特性上建設当初は揉めたが、それを収めたのは巴の力だ。
私の娘はいとも容易く国民の意見をまとめた…、というよりは彼女の案を受け入れさせたと言った方が正しいだろう、大人達はなぜか彼女に逆らわない。
親としての後ろめたさは多少有るが、綺麗な街並みが完成した事は嬉しい。
住宅の敷地面積が過去の数倍だと喜こんでいる大人も多い。
子ども達は成長し結婚する者も出始め、彼等の新居が増えつつ有る。
町の中心部には行政関係の建物の他、国営の商店や飲食店が立ち並ぶ、と言っても規模は小さなものだ。
ゴールドを必要とする店は中央広場から東よりに、自由に持ち帰れる食材などを置いてある店?は西よりに位置している、西のエリアには学校も建てられた、その先は森林…、を目指している。
中央広場には大きな建物が有り、その中にはゲートが鎮座。
北へ一直線に伸びる道の両側はまず野菜畑から始まる。
トマトなどその日食べる分を必要なだけ収穫といった野菜が近くに、根菜類は遠くにと配置。
さらに北へ進んで行くと、小麦畑や水田と続き家畜のエリアとなる、鶏や豚が広い敷地で飼われ、最後は広大な牛の放牧場となっている。
移動の主な手段は馬と馬車、大人達は結構気に入っていて自動車はいらないと言う。
自然回帰という感覚だろうか。
だが、この環境に馴染んでしまって科学の発展は有るのだろうかとも思う?
否、この環境が有ったら、科学を発展させる意味は有るのだろうか。
人口が増え過ぎればいずれ破たんするのだろうが…。
その時は城の子…、孫とか子孫が他の惑星への扉を開けば良いのではないかと考えてしまう。
東のエリアには金属を保管する倉庫が作られ、その先は研究所と工場。
マリアの技術に頼ってきた事も少しずつ地球の技術に置き換わりつつある。
町の周辺には且つて雑草と呼ばれていた植物が広がり昆虫の種類も増えている、それらを餌とする小鳥も飛び交う様になった。
一つの星に一つの町、少しずつ大きくなっていく町は徐々に城の子の手を離れて行こうとしている。
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114-旅 [キング-12]

マリアは城の子の先生役を楽しんでいる様に感じる。
そして尊達、大人の年齢に達した者はマリアの手を離れようとしていた。
大きな決断を下した尊に、マリアは思うがままにやりなさいと話したという。

「第四惑星は安定して来ました、国民の皆さんも生活に慣れ、大きな問題もなく町を広げて下さっています。
第五惑星は海中のプランクトンが増えて来ています、間もなく植物の種子も蒔きますが、やはり痩せた土地ですから緑地が広がるまでには時間を要すると思っています。
このスピードを考えた時、次に改造を予定してる惑星へ一度行って装置を置いて来ようかと思います。」
「いよいよ次なる展開という事か、何時頃出発するんだ?」
「半年後ぐらいでどうでしょう。」
「それだけの期間があれば引継ぎも大丈夫だ、国民も心の準備が出来るだろう。」
「どうかしら、城の子はマリアさまと国民を繋ぐ存在、神の子がいなくなったら寂しがるでしょうね。」
「帰って来るまでは、やはり長期間になりそうか?」
「はい、高速船での移動は片道一週間、向こうで一年ぐらい作業をする予定です。
僕らにとっては一年ぐらいですが、移動の速度と距離から計算すると、国民にとって十年が経過してると思います。」
「はは、今回はちょいと近所までという事なんだな。」
「はい、移動に要する時間は長くありませんから。」
「今回は和の国コロニーだけで行くのか?」
「ええ、残して有る三つのコロニーは衛星に格納庫を作って保管してあります、他のコロニーはすべて原料に形を変えて衛星と和の国コロニーへ分けて保管、小型高速艇などはコロニーの格納庫に収めます。」
「町とは連絡を取り合えるのか?」
「移動中は無理ですが、向こうへ着けば四年半後の町の映像が見れます、ただ連絡は取らないで僕達が一方的に観察するだけにします、第四惑星はもうお任せしたのですから。」
「それもそうだな。」
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115-旅立ち [キング-12]

旅立ちの時、城の住人は六十二人になっていた。
私達第一世代はそれぞれ十二人の子を授かり、尊達第二世代も四つのカップルが六人の子を儲けている。
町の人達は城の子の力を借りなくても生活出来るレベルに達していて、問題なく第二世代の子が増え始めている。
惑星は緑も増え、気候を調整していた装置は次の出番まで城の地下倉庫に眠る。

「旅立つ事を告げてから今日まで、城の子が国民にとってどういう存在なのか考えさせられたわね。」
「いや、子ども達だけではないぞ、麗子達も随分手作りプレゼントを受け取っただろ。」
「そうね、神に繋がると考えられているのかしら、十年後にどうやって迎えられるのか怖いわ。」
「さあ、ゲート前に集合だよ、お別れのセレモニーだ。」

城の全員がゲート前に立ってのセレモニー、涙する国民の多さは今まで苦楽を共にして来た思いと次に会えるのが十年後という現実によるものだろう。
さあ旅立ちの時だ、と言ってもすでに和の国コロニーは第十惑星の辺りをゆっくり移動中、まだゲートで移動できる距離な訳だ。
城に戻って各自担当作業をこなした後。

「翔、高速移動は始まってるのか?」
「ええ、一時間ほど前から。」
「城に居ると宇宙旅行の真っ最中なんて思えないな。」
「ゲートを通る事がなくなり国民に会えなくなった事だけが変わった事なのね、でも家族だけで過ごすって旅行気分じゃない?」
「そうだな、なあ尊、例えば半数が第四惑星に残るという選択肢はなかったのか?」
「絶対有り得ません、父さん達は城に住み続けて貰わないと困ります、それと子ども達に異なる時間経過を経験させたくありません、何より家族が離れ離れになるなんて嫌じゃないですか。」
「そうですよ、子ども達の恋愛対象が減る事にもなりますからね。」
「町に残った十歳の子が二十歳になる頃、十歳で宇宙旅行に出かけた子が十一歳になって帰って来るなんて家族の中では嫌じゃないですか。」
「という事はこれからもずっと一緒か?」
「はい、当分の間はこのコロニーだけで充分ですし、人数が増えても二つのコロニーが残して有ります、まだ三十ぐらいのコロニーを作るだけの材料も持っています。
その材料も、これから行く恒星系で原料が見つかるかもしれません。
ただ、種族として充分な人数になったら選択肢が広がって行くとは考えています。」
「やはり類としての進化を目指すという事か?」
「そうなると思います、マリアさまとも議論しているテーマです。」
「うん、でもまだ人数も少ない、これからだな。」
「はい、何年も先の事です。」
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116-肖像画 [キング-12]

この旅行は私達にとっては休暇とも言えた。
目的の惑星にたどり着く頃。

「何か責任感から解放された気になってるのは俺だけか?」
「今まで、国民の事ばかり考えていたからでしょ。」
「身内だけで暮らすのがこんなに気楽なものとは思ってなかったよ。」
「今までお疲れ様でした。」
「愛、まだ隠居する訳じゃないぞ。」
「もちろんよ、父さんにはまだまだ頑張ってもらわないと、地球の技術復活計画は私達だけでは難しいわ。」
「それはセブンとも相談してるよ、だが…、八重、海へ行かないか。」
「ええ、行きましょ。」
「ロックの所も相変わらず仲良いわね、望、そろそろ速度が落ちて町の映像が見れるのでしょ。」
「ええ、母さん、向こうでは四年半の月日が流れてる筈だけど。」
「地球の科学では全く有り得ない装置だよな。」
「あっ、みんな、映ったわよ…、ゲート前広場の屋根が完成したのね、他は…、町の中心部はあまり変わってないわね。」
「あれは…、何かな…、ちょっと待って…、画像を切り替えるね。」
「何だ…、肖像画が並んでいるのか…、って…。」
「尊だ…、キングに三郎、愛、翔、私も…、。」
「拝んでる人がいるわよ。」
「えっ、偶像崇拝の対象になってるって事かしら。」
「これじゃあ帰ってから国民の皆さんと軽々しく話せないじゃない。」
「人によって拝み方が違うよな。」
「それぞれが過去に信じてた宗教の作法に則っているのでしょうね。」
「神の子と呼ばれる事も有ったけど、安住の地へ導いた事がこの形になるとは思ってもみなかったわ。」
「他はどう?」
「切り替えるね。」
「町は…、庭の木が大きくなったな…、あっ、彼女は結婚して子どもが出来たんだ、僕らにとっての一週間で随分変わってる、変な感覚だね。」
「やはり家族揃っての旅行しか考えられないわ、こんな状況を目の当たりにすると。」

その後町のあちらこちらを確認した後、衛星からの映像に皆歓喜した。
延々と続いていた荒野が緑に変わりつつ有ったからだ。
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117-城の大人 [キング-12]

私達はのんびり気分だったが、子ども達は忙しげだ。
今回改造する惑星は帰るまでに海を形成し最低でもプランクトンが増える環境にしたいと考えている。
その作業と並行して近くの惑星探査も積極的に、資源調査がメインだが時間が掛かっても生物の住める惑星に出来ないか可能性を模索。
城での作業はコンピューターの製作。
町の人が自分達の手で作れる形にしなくてはならない、この旅行期間中の宿題だ。
和の国コロニーの改良も進行している。

「知らぬ間に自動化が進んでいたわね。」
「国民が手入れに来れなくなる分、頑張らねばと思っていたのだがな。」
「家畜は旅立ちに合わせて減らしたけど、農場は種子を確保するために面積を維持してるからな、帰ったらその種子は第五惑星の緑化で一気に使うそうだ、子ども達もやることが多いから効率を考えたのだろう。」
「まあ、楽になってはいるが、俺達の役割が微妙になってないか、子ども達の手ですべてが回っていて。」
「ふふ、私は常に美味しい食事を追求してるわ。」
「こんなに子どもを産むとは思ってなかったけど、一人一人個性が有って子育ては楽しいものよ。」
「物を作りだす喜びを三郎が感じる事はないのか。」
「そうか、そうだよな、やる事は有るな。」
「三郎も趣味を増やした方が良いぞ、城で暮らし続ければ老化は非常に遅いと聞いたろ、外見も肉体も若いままボケるなよ。」
「ああ、考えてみる、ところで外見的年齢は翔達に追いつかれてしまったが、抜かされる事はないのか。」
「尊達の成長期は終わったとマリアが話していた、もう対等の立場だとも。」
「キングはマリアとの関係をどう感じているのだ?」
「マリアはずっと私の人格を尊重してくれている、単なる実験研究の対象としてではなく、時には共同研究者がごとく、今でも意見を求められる事がある。」
「そうか、そんな関係が城の子と国民の間でも構築されている訳だな。」
「絶対的優位者で有る城の子が尊敬される行動をしている、対等であろうとしつつ。」
「ただ、巴だけは何というか…。」
「キング、気にするなよ、巴のおかげで町作りは随分スピードアップしたと思うぞ。」
「そう言われても簡単に服従させる能力なんて、国民は気付いてないのか?」
「逆に自分達で決めにくい事を決めて貰って助かっているのじゃないかしら、意見が分かれた時、そうね、どちらでも良い事なんて結構議論が平行線になってしまうでしょ、そこで巴の登場、巴の気分でどちらかに決めてしまう、はい議論は終了、巴さまの意見なら反対しません、ほら丸く収まった。」
「そういう事なのか…、あの子の能力に関して何となく議論する事を避けてきたのだが…。」
「キングがそんなに気にしてとはね、三郎も迷いを感じてるし、まだまだ若いわね、私達。」
「そして綺麗なままだよ、一花。」

城は何時も平和だ。
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118-階級 [キング-12]

子ども達は大仕事を、私達は休暇を終え第四惑星に戻った。
私達にとって一年ぶりの町は十年分の成長をとげていた、国民は変わらない私達の姿に戸惑いはしたものの大歓迎してくれた。
町の最大の変化は、映像で見た以上に私達の肖像画が飾られている事だ。
ただ、適当に飾られている訳ではなく、レストランには麗子の肖像画、計画局には尊の肖像画、研究所には翔の肖像画、保育園には八重の肖像画といった具合に担当していた施設の象徴にもなっている。

「小さいながらも美術館が出来てたのには驚いたな。」
「もっと驚いたのはそこの絵の多くが我々をモデルにしているという事なのだが、どう判断すれば良いのだ?」
「アイドルなのかな、憧れの存在、美男美女揃いだから不思議でもないでしょ。」
「かつての貴族階級とか身分制度が有った頃、王を欲した国もあったよな。」
「人は必ずしも平等を望んでいるのではなく、一つ上の存在を欲していたって事かしら?」
「建前では平等な社会とされてた国でも、色んな地位や階級が存在してた、上の階級を目指す者もいれば、有能な部下を目指す人もいたわね。」
「この町は平和、その平和な社会を作り出したのが城の子だから、ゲート前の肖像画には我等を導きし王家に絶対の忠誠を尽くさん、と書いてあったわ。」
「私達平等な社会を作りましょうってやってきたわよね?」
「国の子ども達の中にも、いやもう大人だから第二世代と言った方が良いか、彼等の中にもリーダーシップを発揮してくれる人は育っている、でも彼等にしてみれば城の子は永遠に憧れの存在なのかもしれないな。」
「尊は肖像画についてどう思う?」
「気にせず、良き友人として国民と付き合って行こうかと思います。」
「そうだな、それが正解だろう。」

だが尊の思惑通りには行かなかった、十年は我々を神格化するには充分な年月だった様だ。
道を歩けば跪く者、拝む者ばかりで、町を散歩する気が失せるまでに時間は掛からなかった。
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119-王家 [キング-12]

この国の社会はみごとに安定している。
貧富の差のない豊かな国、教育も充実している。
競争はするが勝者が敗者に勝ち誇る事もなく、敗者も己を卑下することなく自分なりに上を目指す。
尊は私達とも相談して作った国民の行動規範と言える事柄を子ども達に説いていた、それが見事に定着し、子ども達は素敵な国民に育ってくれた。
人も社会もバランスのとれた状態、国民もこの国の住人で有る事を誇りに感じている様だ。
だが惑星の方は簡単ではない、町の周辺部は綺麗になっているが。

「予想以上に緑地が広がったとはいえ、まだまだ荒地も残っているのよね。」
「湖でも増やすか?」
「そうね、大きめのを五十個ぐらい作ればかなり改善されると思うわ。」
「バッタが増え過ぎて植物がダメージを受けてるエリアが有るけどどうする?」
「鳥やカマキリでは追いつきそうにないんだよな。」
「捕獲して豚の餌にでもするか?」
「食べてくれるかな?」
「植物系の餌を減らせると、その分は第五惑星の緑化作業へ回せるが。」
「特定の種が増え過ぎると他の種を絶滅させかねない、バランスをとるのは難しいね。」
「地球では人間が増え過ぎてたのでしょ、貧富の差に大きな戦争、マリアさまは救い様がないと感じたそうだけど、人類にチャンスを下さった。」
「それでも父さん達がいなかったら、多分絶滅の道を歩んだろうって、僕らも生まれてなかった訳だな。」
「社会秩序の構築、その為に何が必要かは父さん達から教わった、テクノロジーはマリアさまから教わった、私達は人類の未来を拓く存在。」
「そして自らも一つの未来を拓く。」
「マリアさまは本来生き物に存在意義などないという、母さんは存在してるのだからやりたいと思う事をすれば良いという。」
「父さんは人間なんて自己矛盾の塊だという。」
「生きて行く事に答えはないのだろうな、豚や牛はそんな事考えてなさそうだけど。」
「惑星を開拓して行くのは楽しいわね、私は本能なのかとも思うわ。」
「確かにそうだ、国民も同様だと思う。」
「でも、地球では人口が増えても人が住みたがらない土地も多かったって聞いたわ。」
「バランスが崩れていた結果じゃないのか。」
「この国もそうなって行くのかしら。」
「そうならない様に僕達、王家が存在する訳だろ。」
「母さんからは民主主義を教わってたのにな。」
「王家は過去の地球に於ける王家というより神に近い存在なんでしょ、あんなに拝まれるとは思ってもみなかったわ。」
「強制しての事ではないから良いんじゃない。」
「おお~、巴が言うと微妙だが、そうだよな。」
「どうして大人達が巴に絶対服従なのかは一度調べてみたいよ。」
「えっ、簡単でしょ、お願いすれば良いのだから。」
「そういう感覚なのか、巴と香は謎が多いよな。」
「え~、私達だけじゃないわよ、みんな素敵な、そして個性的な能力を持ってるじゃない。」
「はは、僕は一番の凡人だな。」
「尊兄さまはお父様から受け継いだ王としての器量をお持ちですわ。」
「政治は国民の皆さんにお任させする様になったけど、すっかり王国で落ち着いてしまったわね。」
「王家か、独立した存在として、僕等の和の国コロニーを国と考えた時も王国になるのかな、将来。」
「派閥が出来たりとかすると思うか?」
「今の所、その痕跡すらないわね、社会制度はどうでも良い気がする、ただその時の適任者がトップリーダーの役目を果たしてさえくれれば、尊は王でも大統領でもボスでも呼び名は何でも良いのじゃないのかしら、でも王が一番しっくりするかな。」
「和の国、国王、尊で国民に布告するか、王家の総意として。」
「町も和の国になるのかな?」

余りにも拝まれ過ぎるので私は和の国コロニーから出ない事にし、王の座を第二世代に譲る事にした。
彼等は尊を選んだ。
それは私の息子だからという理由ではなく適任者だからと理由でだ。
世襲制度には疑問を感じるが、能力を城の全員が認めての事で有れば問題もなかろう。
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120-王国 [キング-12]

私達はまた旅立とうとしている。
とてつもなく広大で不毛な宇宙に生物の住める星を増やして行く、マリアが私達に与えた使命だ。
そこに平和な人間社会を築き上げて行く。
一つ目の惑星は良い形になりつつある。
城の子達は旅立ちを前に国民へのプレゼントとして、大きな滝、綺麗な渓谷、謎の巨石群といった観光地を色々作った。
それに国民が気づくまでには、まだ年月が掛かるだろうが、旅を楽しいものにするだろう。
二つ目の第五惑星も随分安定して来ていて尊は国民にゲートでの行き来を許した。
第五惑星のゲート一帯は花畑だ、国民はきっと気に入ってくれると思う。
この先、移住を考える者が出て来るかもしれない。
いや、フロンティアスピリットを無くして貰っては困る。
どちらの惑星も開拓者なくして繁栄はない。
そして、自分達に与えられた国土の広さを実感する事になるだろう。
王国は戦争をする事無くその領土を拡大して行くが、幾つもの惑星に進出しても一つの国で有って欲しいと思う。
分裂し戦うのが人間の性であったら悲しいではないか。
そうならない教育は試みて来たが、過去の歴史を考えると不安では有る。
争いの歴史は人間の本能的なものなのだろうか。
生まれたばかりの王国で暮らすのに努力は必要ない、食料は豊富に有る。
ただ大人達の頭には、もっと科学の進んだ生活の記憶が残っている。
それは第二世代へ伝えられ一部は復活された。
第二世代、第三世代は科学技術の発展を目指すだろうか。
戦争が科学を進歩させた側面もある。
平和故に進歩が遅いという可能性は否定できまい。

今回の旅は彼等にとって十六年間の王家不在となる。
その後の旅では、もっと長期間留守する事になっていくだろう。
それでも王家は彼等を見守り続ける。
もし彼等が誤った道を辿ろうとしたら修正も出来る。
惑星を一つ人の住めない状態にしてしまった人類が、同じ道を歩まぬように導く事もまた王家の使命なのだから。

尊が呼んでいる、時間の様だ。
また、不毛の惑星に向けて旅立つ私達が帰還した時、この惑星がどうなっているか楽しみである。
王国のこれから歴史が素敵なものになる事を祈っていよう。
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