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岩崎雄太-01 ブログトップ

01-はじめに [岩崎雄太-01]

岩崎雄太がこれから始まるお話の主人公。
彼は簡単に言ってしまえば大金持ち。
元々資産家の家に生まれながら、学生時代に起業しそれを成功させるだけの才覚を持ち合わせていたという、羨ましいお人。
どんな企業の社長だとか書くのは面倒だ、偶然実在する企業と被ってしまう事も避けたい、さらにお話には余り関係ないので、その辺りはあなたの想像にお任せする。
容姿は端麗、登場人物を美男美女にしたがるのは私の癖というか、身近に美女はいない、せめてお話の中だけでも美男美女を想像しながら書いた方が楽しくも有る。

彼の一番の親友、風祭祐樹とは高校からの付き合い。
風祭は、岩崎と出会ってから一緒に遊びに行って金を使った事は一度もない。
下僕となりそうなシチュエーションではあるが、そうはならなかった。
起業の時から副社長として補佐役に徹してはいるが。

恋人は大学時代の後輩、花柳明香、はなやぎともかと読む、名前は字面で選んでみた。
美人で才女、起業の頃は交渉事でその力を発揮し企業拡大の原動力となった。
今は実務から離れ社長夫人となるべく準備中。

花柳の友人であり風祭の恋人でもあるのが、火室愛華、ほむろあいかと読む。
岩崎や風祭の直下で働いているが特別な役職にはついていない。

初期の登場人物はこの四名。
始めに断っておきたいのは、私の生活がお金持ちのそれとは程遠いという現実、その辺りの描写はあまりしないつもりだが、おかしな部分が有っても笑って許して欲しい。
岩崎雄太の様な大金持ちはこの世にほとんどいないだろうから、始めから間違っていると言えなくもないのだが。

さて、話は岩崎雄太が二十五歳になった頃、彼のマンションの一室で始まる。
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02-遺産 [岩崎雄太-01]

「祐樹、明香、遺産が入る事になった。」
「どういう事だ、お前の親類に不幸が有ったという話は聞いてないぞ。」
「まあ、訳ありでこっそり生きてた伯父さんが、孤独な生涯を終えたという事かな。
そんな伯父さんでも父さんは気にかけて時々会いに行ってた、俺を連れてな。
変わり者と言われていたが、難しい事を分かり易く話してくれて良い伯父さんだったよ。
最近は会いに行っても会話もままならない状態になってしまっていたがね。
一族があまり表に出したくない事情と、葬式は必要ないとの生前の言葉を尊重した結果、彼の死を知る人は少ない訳だ。」
「まあ、その事情は聞かないでおくよ。」
「有難う、でも遺言状はきちんとしていて、ほとんどの財産を俺にってさ、生前は親族間で色々有ったそうだが相続で揉める事はない、お爺さまが許さないからね、ちなみに俺達の会社の株も俺が相続する。」
「あっ、名前だけは分かるぞ、雄太の一番の理解者だったのだな…、で、相続するのはどれぐらいの額なんだ?」
「有価証券とか色々有って、相続税を払っても二十億ぐらいは残るかな、土地も有るがそっちはマイナスかもしれない。」
「世の中の不公平を感じさせるには充分過ぎる額だな。」
「ああ、自分の才覚で得た金でもない。」
「お前の、その全うな金銭感覚だけが救いだよ。」
「ふふ、それを言い訳に今までどれだけ奢って貰ったの?」
「明香、自分の力で稼いだ訳でもないのに大金を手にしてる、それを使わなかったら罪だぞ。
金が動かなかったら経済は回らないだろ。」
「なあ、祐樹、明香、この金で何人の人が養えると思う?」
「えっ、養うって…、一生って事なの?」
「貧富の差は考えている、寄付という形も有るがそれでは面白くもないと思わないか?」
「そうね、でも人数は養い方にもよるわね。」
「雄太、マイナスかもしれない土地って?」
「伯父さんは、売るに売れない様な過疎地の土地を安く買い集めていたいたんだ、安いとはいえ固定資産税を払い続けていた。
親父は伯父さんなりの社会貢献だったと話しているが。」
「ねえ、伯父さまが雄太を指名した理由は?」
「親父以外の親族とは仲が悪かった、考え方の根本が合わなかったのだろう、親族の中でも親父と俺を特に可愛がってくれてたと思う。
ただね、伯父さんが俺に色々話してくれた中でバランスの話が印象に残っていてさ、東京のど真ん中で疲れた顔して満員の電車で通勤してる人がいる、過疎地では限界集落から廃村になって行く、実際伯父さんの土地には誰も住んでいない。
貧富の差は言うまでもないだろ。
バランスの大きく崩れたこの社会で、俺達は良い暮らしをしている訳だ。
伯父さんの残した土地は、さあどうすると宿題を突き付けられた気分なんだ、いや遺産全部が俺に対する課題だと思う。
遺言状の日付は、俺達の会社を伸ばせる目途が立ったと伯父さんに報告したすぐ後だったんだよ。」
「そういう事なら、まずはその土地を見に行きたいわね。」
「そうだな、祐樹、長野県なんだが愛華も誘って二三泊して来ないか。」
「分かった、スケジュール調整をさせるよ。」
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03-廃村 [岩崎雄太-01]

翌週、都会から田舎へ。

「祐樹、この辺りから伯父さんの土地だな。」
「道路は思ってた程悪くないが、建物は痛みが激しいな。」
「田畑も荒れ放題ね。」
「あそこなら車、止めれそうだぞ。」

「わ~、眺めが良いわね。」
「そうだな、ここに別荘を建てるか、いやこっちが本宅でも良い。」
「ふふ、買い物は不便そうだけど、仕事はどこにいても出来るわね、愛華はどう思う?」
「良いと思うけど、明香と気楽に会えなくなるのが残念かも、社長、ここで人を養うのですか?」
「それが現実的かどうか、これから検討さ。」
「地図を見るとかなりの面積ですよね、社長の伯父さまはここをどうしようと考えておられたのでしょう?」
「どうなんだろう、はは、国でも作ろうと思ってたのかも、俺はバランスの取れた国の国王になると話してた事があって、案外、本気だったのかもしれないね。」
「でもここには一人の国民もいませんよ。」
「だよな、祐樹、一通り土地を見ておかないか。」
「ああ。」

近所の村にも立ち寄り、冬の積雪量やここでの暮らしぶりを聞いて回った後はホテルへ。
そこの露天風呂で。

「祐樹、村の年寄りは親切に応じてくれたな、いずれ自分達の村も消滅するだろうと寂し気だったが。」
「限界集落なのかも、過疎地の現状を目の当たりにした、確かにバランス悪いよな。
雄太、サラリーマンの子が農業をやってみたいと思った時ネックになる事は何だと思う?」
「そりゃ、農地だろう、農家を継ぎたがらない子がいたり、やってみたくても土地がなくてハードルの高い人もいるだろうな。」
「まずは住居を用意して農業にチャレンジしたい人を募集してみるか?」
「そうだな、本業の方は順調だから…、漠然と人を養うと考えていたが社員として雇うか?」
「それだと費用が掛かって何人も雇えないぞ、収益が見込めないだろ。」
「それでも、安心して暮らして貰った方が良くないか、収益は…、ここで収益を得られる様色々試してみれば良いだろう、単に農業だけでなく観光とか製造業も視野に入れてさ。」
「う~ん、まずは村の再建を体験かな、体験形観光、仕事としてだと嫌な事でも体験として無理の無い範囲なら可能かも。」
「社員の宿舎は必要だな、叔父さんの会社に相談してみよう。
俺達の別荘を建てるにしても通いでは作業員も大変だろうな…。」
「別荘は本気だったのか、明香も喜ぶだろうな。」
「お前は嬉しくないのか?」
「えっ? 俺達の別荘って、俺も入ってるのか?」
「当たり前だろ、それぐらいは別の財布から出せるさ、土地は有るから大して掛からないだろ。
別荘にするか本宅にするかは愛華と相談したら良い。」
「別荘はともかく、宿舎の規模が決めにくいな。」
「準備時間が掛かりそうだ、村長も雇わないとな。」
「村長って勝手に雇う物でもなかろうが、行政的には正式な村長もいるだろ。」
「だろうな、でも、将来的には俺達の関係者から村長選に出馬が有っても良いかも。」
「何となく雄太の描いてる形は見えて来たよ、俺なりに計画をまとめてみるよ、初期投資は十億ぐらいで良いか?」
「そうだな、別荘の方は二軒で二億ぐらいか?」
「そんなにはいらんだろうが、明香とも相談してみるかな。」
「ああ、頼むよ。」
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04-計画 [岩崎雄太-01]

夜、ゆっくり酒を飲みながら。

「そっか、別荘と宿舎は決定なのね、綺麗な村になるといいなぁ~。」
「明香は随分乗り気なんだな。」
「うん、うちは普通のサラリーマン家庭、でも雄太は違う、付き合い始めた頃は戸惑う事ばかりだったわ、お嬢様でもない私で良いのかって思ってた、でも雄太はただのお金持ちとは違う、自分で事業を成功させ、いずれはお父様の会社をも継ぐ事になるだろうけど、社員の事をきちんと考えている。
そうね社員をただの金儲けの為の存在とは考えていない、だからここまでの成功が有ったと思うの。
父さんの会社では、いかに人件費を抑え利益を上げるかばかり考えてた結果、優秀な人材が離れてしまったそうなのよ。
この活動では我が社の社員とは違った価値観をお持ちの方が関わって下さるでしょう、その人達を大切にしたら、きっと私達にとってもプラスになると思うわ。」
「雄太が明香を気に入ったのは、ちゃらちゃらしたお嬢様が好きじゃなかったからだよ、雄太の従妹達は、ブランド品や装飾品を自慢する様なお方ばかりなんだ。」
「それで、どう進めて行くの?」
「まずは村人募集だね、我が社の社会貢献プログラム、過疎地の再建という事でテレビ番組を制作しても良い、既存の番組の一企画として廃村復活プロジェクトとして始めるのも有りかな。
まあ、具体的にはもう少し考えてみるよ。」
「応募者の人数が読めないわね、田舎暮らしをしたいという人もいるとは思うけど。」
「一期は慎重に行きたい、無理に人数を増やさずに人物を見極めながらだな、将来的には村の核になってくれそうな人を中心に、プロジェクトの核になって動いてくれる村長が優先かな。
その後は年齢層を二十代から四十代と考えバランス良く、男女比も同じぐらい、家族での応募も有り、とか考えてみたが時間が掛かるだろう、学校まで遠いという事ははっきり伝えるべきだな。」
「一期は独身男性に限るの?」
「男性には限らないで良いだろう、応募があれば。」
「住居の完成時期を見て募集のタイミングを決めないといけないのね。」
「そこなんだ、前の仕事を辞めて参加という可能性も有るだろ。」
「祐樹、研修ってどうだ?」
「何の研修?」
「隣村には住めそうな空き家も有る、人生の先輩もな。
その辺りと交渉して田舎暮らしの体験を始めて貰うってどうだ、もちろん給料払って生活費はこちら持ちだ。」
「良いんじゃない、そのまま隣村の住人になって下さっても構わないでしょ。」
「そうだな、作業員の宿舎も隣村で確保出来れば話が早い。」
「社長、今日お茶を頂いた、お梅婆ちゃんも賑やかになれば喜んで下さるかもです。」
「そう考えると俺達が復活を試みる村の面積は随分な広さになりそうだな。」
「面積は広くても山が多くて集落も点在ですね。」
「明日はどうする?」
「役場とかJAとかでこの辺りの現状を教えて貰いませんか。」
「そうだな、明日の朝一で連絡を取ってみるよ。」
「では私は今からネットで予備調査をしておきます。」
「ああ、頼むな、愛華。」
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05-訪問 [岩崎雄太-01]

翌日、朝。

「役場へは午後から行くと連絡を入れといたよ、いきなり行くより少しでも準備する時間を上げないとね。」
「こちらの意図は伝えたのか?」
「ああ、集落再生と伝え、雄太の事を話しておいた、これで大した準備が出来ない様なら職員は無能だな。」
「でも、いきなりの訪問には違いないわよ…、まあ今後の活動を考えたら職員の能力は確認できるかもね。」
「だろ、村をどうこうしようという時に役場の動きが鈍い様なら、政治家への働きかけとかが必要になって来る、それは出来れば避けたいよな。」
「昨日ネットで探った所では過疎化対策は考えているみたいです、ただ効果には疑問が感じられました。」
「仕方ないさ、簡単な事なら過疎化は進んでいないだろ、まずはJAへ行って、村の経済面での可能性を考えてみようか。」

この日、午前中はJA、午後は役場への訪問で終わった。
夕食時。

「社長、さすがにJAの対応は良かったですね、そうでなくては今後が不安になりますが。」
「まあ、相手の喜ぶ事をしたからね、明香、新しい口座の管理頼むな。」
「ええ、ここの村関連で動かす資金は一旦この口座へ移しましょうか。」
「そうだな、分かり易くして置いてくれるか、何か有った時、税務署の人も大変だろうから。」
「農産物によって手間に対する利益率がずいぶん違っていたとは考えた事もなかったな。」
「作物によっては、腰にきつい作業も多いのね、農業が敬遠される原因でしょう。」
「金を掛けて機械化すれば楽に出来るとは言え、費用対効果、近代化への投資が出来るかどうか。
これから募集する人達に鍬で畑を耕してみませんかとは言いにくいよな。」
「でも、自分達が食べるぐらいの量ならそんなに大変でもないって言ってなかったかしら?」
「野菜だけでの生活ならな、利益を出すなら商品作物を目指す事になるが大変だぞ、耕作放棄地を元に戻すのも簡単ではなさそうだ。」
「本格的な農業で収益を上げるには、村民の経験値も必要よね、体験観光と言っても魅力的な体験を提供出来るかしら?」
「問題山積みだ、でも、役場は思ってたよりきちんと対応してくれたな。」
「ああ、過疎化対策に大きな一手を打とうとしている訳だから税収にも繋がる、当たり前と言えば当たり前だが、真面目そうな人達だったね。」
「社長、頂いた資料は自分なりに分析してみますけど、このプロジェクトのリーダーは誰になります?」
「そうだな、村長が決まるまでは…、愛華やってくれないか?」
「分かりました、今抱えている作業は調整出来ると思います。」
「立ち位置としては、我が社の社会貢献プログラム準備室、室長と考えてくれれば良い。」
「はい、プロジェクトは別会社を立ち上げるという事でよろしいでしょうか?」
「うん、我が社とは資金の流れが違う、別会社にしないと誤解も受け兼ねないな。」
「会社設立の準備を始めれば良いですか?」
「ああ、頼むよ。」
「では、食事が済んだらメールを何本か送っておきます。」
「任せるが、愛華、はりきってるな。」
「ええ、楽しいじゃないですか、新しい事業を始めるって、社長なら良い結果に導いて下さいますでしょうし。」
「そうか? 万年赤字の企業になりかねないぞ、社員を養って行けるだけの収益が出せるか見通しは立ってないぞ。」
「何とかなりますよ。」
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06-大鹿源蔵 [岩崎雄太-01]

三日目は再度隣村へ。

「こんにちは、この集落のまとめ役の方とお聞きして伺ったのですが、岩崎雄太と申します。」
「ああ、昨日役場から電話が有ったよ、大鹿源蔵だ、それにしても随分お若いね、別嬪さんは彼女かい。」
「はい花柳明香です、こっちが風祭祐樹、その彼女の火室愛華、うちの会社の中心メンバーです。」
「こんな田舎には場違いな人達が、本気で隣の集落を幾つか再生させるおつもりかね?」
「ええ、伯父が亡くなって土地を相続しますので。」
「そうか、あそこに住んでいた連中、私の同級生も喜んでいたよ、売れない土地でも固定資産税の請求は続く、金払ってでも引き取って欲しかった土地を買い取って貰ったってな。」
「そうでしたか、父や祖父にもその話をさせて貰います。
まずは人が住める様にと考えているのですが、空き家の痛みが激しくて建て直すしかないと考えています。
その作業をする人が毎日通いでは大変だろうと思いまして、この集落に空き家が有れば貸して頂けないかと。」
「本気なら手伝うが、借りるより、引き取るという形には出来ないか?」
「と、言いますと。」
「空き家を貸してくれなんて言うと、出てった連中に欲が出るからな、戻る気もない連中の所有物がこの地に残るのが正直嫌なのさ。
何、ただなら貰っても良いという人が現れたと連絡してやれば何軒か手に入るぞ。
家賃が掛からなくなる分再生に予算を回せるだろう。」
「それが可能なら助かります。」
「俺達としてもな、人口が減るばかりの村に人が増えれば嬉しいんだ。
ただ、耕作放棄地の再生は大変だぞ。」
「はい、JAの方にも教えて頂きました、しばらくは色々な可能性を考えてみたいと考えています。
それで、新入社員の研修を、ここの空き家を利用して出来ないかとも思っていまして、農業実習等に協力して頂けそうな方がみえましたら紹介して頂きたいのですが。」
「それなら俺に任せろ、少々問題の有る人が来ても対応出来ると思う。」
「大鹿さんの経歴は個人情報なので、役所の方に伺うのを控えたのですが。」
「少し前まで教員をやっていた、定年退職したのは去年の事、ここが好きだから住み続けるつもりだが、過疎化は出口の見えない問題でね、この村最後の一人になる可能性も考えていたんだ。」
「それでしたら私達のプロジェクトに参加して頂けますか、契約内容は明香と相談して下さい。」
「いや、ボランティアで良いよ。」
「責任が、という事でしたら考慮させて頂きますが、プロジェクトで得たお金をプロジェクト参加者へ還元して頂ければ、酒の差し入れとかでも良いですから。」
「あっ、君が会社を軌道に乗せる事に成功した理由が分かった気がするよ、ここは会社としてやっていくのか?」
「ええ、今の会社とはお金の流れが違いますので、新会社を設立します。
今なら会長から平社員まで肩書は自由に選べます、給料のスタートはどの肩書を選んでも変わりませんが。」
「教員生活が長かったから重役の仕事は分からない、教育係でどうかな。」
「では、契約成立後に社員教育のカリキュラム作成を始めて頂けますか。」
「了解しました、ひとまず農業基礎という事でよろしいですか?」
「はい、それはここでの暮らしに馴染むという事を最優先でお願いします。
研修中にやっぱり田舎暮らしは無理だとやめる人を減らしたいのです。
進捗は、火室へメール等で連絡して頂ければ我々で共有しますが…、通信環境は良くないですよね。」
「ええ、それでも何とかしますから。」
「連絡方法も火室と相談して下さい、別荘が完成する頃までには光ケーブルが敷設されるでしょうが、すぐにとは行きませんので。」
「そこまで初期投資をされるのですか?」
「私の別荘をこちらに建てるという情報は業者に流して有ります、頑張らないと大きな契約が解除される可能性も有る、と考えるでしょうから、こちらの出費は大した事無いのですよ。
我が社はともかく父の会社は大きいですから。」
「は…、はい。」
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07-募集 [岩崎雄太-01]

村から都会への帰途。

「ねえ雄太、社員募集の考えはまとまったの?」
「ああ、まずはサイトを立ち上げてそこで概要の説明と募集案内、簡単なもので良いだろう。
そこへの誘導も始めはSNSを利用して様子を見ようと思う。
あまりにも応募が少なかったら次の手を考える。」
「そうね、募集広告とかかなり費用が掛かるそうだから、うちみたいに口コミだけで優秀な人を集められる職種じゃないものね、でも面接はどうするの? 遠方からの応募が有った時、こちらまで来て頂いて不採用では申し訳ないわ。」
「親父の会社に手伝って貰おうと考えている、面接会場を親父の会社の営業所とかにしてテレビ電話で面接、人物の雰囲気とかは後で営業所の人に教えて貰う。
人物調査、採用を前提とした健康診断の手配もお願いするつもりだ、日本全国どこからの応募にも対応出来るだろう。」
「そこまでお父さまの会社にお願いして良いのかしら?」
「ああ、俺が提案した案件が上手く行って業績アップに貢献しているからね、取締役連中も反対出来ないさ。」
「そのまま社長とかになってしまうの…。」
「はは、なにビビってんだよ、親父は元気だから先の事さ、俺より相応しい人が現れたらその人が社長になるだろうし。」
「そ、そうなんだ…。」
「で、採用した人は大鹿さんにお願いするという事か?」
「ああ、ただ研修には俺も積極的に関わって行きたいと思ってる、そうだな俺も大鹿さんの生徒になってみるかな。」
「まあ、会社の方に問題はないが、田舎暮らしなんて出来るのか?」
「さあな、すぐ逃げ出すかも、でも何事も経験だ、年取ってからじゃ出来んぞ。」
「社長が積極的に関わって下さったら、大鹿さんも安心されると思います。」
「でしょ、愛華が正解だ、新しく社会集団を作る訳だからね、それより祐樹の方はどうなんだ、良い案は出て来たか?」
「応募が無かったらおしまい企画としては、集落復活に参加して第二の故郷を持ちませんかってのを練ってる。
普段は都会で暮らしている人に、年に一度でも良いから村の作業に参加して貰う。
植樹をして貰っても良いかな、果実なら収穫の喜びが味わえるかも、管理する社員有っての事だが。
上手く行けばリピーターが増やせる、宿泊施設の拡充に時間が掛かるだろうから少しずつだな。」
「そうね、廃村復活の作業に係われば村に対する愛着が涌くかも。」
「ただ、観光資源が弱いと思うんだ、眺望は良いがそれだけだろ。」
「それなら作れば良いんじゃないか。」
「簡単に出来るか?」
「案を募集してみるのはどうだ、だめもとで。」
「そうだな、社員の形が出来て来たら…、否、社員から案が出たら良いな。」
「社員募集の要項にも入れておくか。」
「ふふ、何か起業した学生の頃に戻ったみたいね。」
「単なる遊びじゃないから真剣に楽しいのかな。」
「結果も出そうぜ。」
「ああ。」
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08-初期投資 [岩崎雄太-01]

廃村へ出かけてから十日後、四人で食事。
祐樹が。

「問題はあの土地でどうやって安定した収入を得るかだな。」
「林業はどうかしら? あそこの山の木は雄太の物なんでしょ。」
「明香、林業って大変だと思うぞ、重労働をやってくれるかな。」
「機械化すれば大丈夫なんじゃない、私が調べたところでは結構機械化が進んでいるわよ。」
「そういう機械って高いんだろ。」
「安くはないわね。」
「愛華、専門家とも連絡を取って、お勧めの林業機械を一揃い買ったら幾らになるのか見積もって貰えないか、五億も掛からないと思うが。」
「はい社長、分かりました、買う事を前提でよろしいでしょうか?」
「ああ、メンテナンスやオペレーターの養成についても情報が欲しいな。」
「はい。」
「雄太、悪くはないと思うが初期投資が嵩みすぎないか?」
「回収に時間は掛かり過ぎないと思うよ、近隣の植林地も手入れが充分出来てないみたいだからね、条件が合えば手入れを請け負う事だって有りだ。
木は切り倒してもすぐには使えないそうだから、製材所を建てるのは少し後で良いだろう。
将来良質の木工製品を作れる様に工房も、始めの内は近隣の村から材木を仕入れてでも始める、まずは村で使う物を作りながら、商品として利益の出せる物を模索して行こう。」
「農閑期の仕事になるのか、基幹産業になるかはやってみてという事ね。」
「ああ、木材価格が下がっても付加価値を付ける事に成功すればビジネスとして成り立つだろ。」
「そうだな、初期投資として建物と林業機械、当面の人件費なら…、雄太、農業機械はどうする?」
「商品作物の形が定まってからだな、しばらくは大鹿さんと相談して必要な物は買うし微妙な物は借りるか。」
「農産物も加工して付加価値を付けるという形に出来ないかしら?」
「良い考えだが、社員をあの田舎にどれだけ集められるかにもよるな、機械化したとしても。」
「社員があそこで暮らしたくなる要素がもっと欲しいな。」
「良い教育環境だったり、母子家庭に対する配慮とかどうかしら。」
「学校が遠いぞ、かと言ってあそこに公立の学校を作って貰うのは難しいだろう、人数が集まらないと行政に働きかける事すら出来ないと思うし私立学校設立となると予算的に厳しい。」
「答えが出るかどうかは分かりませんが、大鹿さんとも相談してみます、長い目で見た時子ども抜きでの再生なんて有り得ませんから。」
「そうだな、過疎地は廃校の歴史だろう、そこに新設校が誕生したら面白い、俺も、もう少し考えてみるよ、明香は過疎地の教育について調べてくれないか。」
「ええ、私達に子どもが出来た時の事も考えないとね。」
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09-林業 [岩崎雄太-01]

数日後、雄太のマンション。

「伯父さんが亡くなってから親父とお爺さま、三人で飲む機会が増えてね。
先回はプロジェクトの概要を説明させて頂く程度だったが、昨日は踏み込んだ話になって、林業への投資に賛成してくれたよ。
愛華の作ってくれた資料を見て貰って、労働力が確保出来て営業が少し頑張れば、初期投資は充分回収出来ると話したら、親父から人さえ集められたら大きく出来る、大きくしたいとね。」
「そんなに需要は有るのかしら?」
「有るんだよな、愛華。」
「はい、植林地所有者の高齢化が進んでいます、彼等の中には自力で間伐を行えない人もいると思います。
そんな方に代わって林の維持管理、代金は伐採した木を売ったお金でとのモデルが可能だと思います。
管理できずに林を手放したいと考えておられる方から、格安で譲って頂くのも有りでしょう。
問題は木材価格です、国内産木材の需要が増えないと安定しないと思います。
そこで、国内産の木を使おうキャンペーンを林野庁に働きかけてみようかと。」
「勝算は有るのか?」
「原点回帰、日本の文化は木によって支えられて来たのに随分変わってしまった、少々不便でも木製品を使ってみませんかって、だめですか…。」
「愛華の思いは親父に届いたよ、コストが掛かっても木材を多く使用して行く方向で会社の流れを変えたいと話してくれた、もちろん新会社から購入してね、林野庁よりうちの関連会社へ働きかけた方が早いだろう。
お爺さまも今の日本にとって必要な会社だから、例え利益率が低くても従業員を優遇して広げるべきだとね。」
「確かに楽して大儲けという訳には行かないが、そんなバックが付いてくれたら堅実な会社を作れそうだな。」
「だろ、まずは研修を兼ねて村の森を綺麗にしながら社員のスキルを上げて行けば良い。」
「社員は集るのかなあ。」
「林業機械オペレーターを募集するだけでなく、スタッフサポーターとして食事の用意や洗濯などをしてくれる人も募集したらどうかな?」
「そうか、独身者でも掃除洗濯をしてくれる人がいればハードルが下がるわね。」
「雄太、そうなって来ると始めから大勢雇う事にならないか?」
「ああ、林業、建築、農業、家屋の解体作業、商店、スタッフサポート、村長、経理などの事務、観光企画、五十名ぐらいを目標に採用したいね。」
「作業を兼任して貰えると良いが、住居が足りないな、家族で移住も有りだろ。」
「大鹿さんには程度の悪い物件、森林も含めて、くれる人がいたら貰いますと伝えた、始めの内は皆で家の改修でから始めれば良いさ、研修と並行してね、これから共に働く仲間が力を合わせて作業する事は良い事だろ。」
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10-スポンサー [岩崎雄太-01]

「問題は社員が集まるかどうかなのよね。」
「学校の設立には親父が協力してくれる事になった、学校が出来れば募集もし易いだろう。
但し、このプロジェクト全体を親父の会社のイメージアップに使う。
大きなスポンサーが付いたという事だな、だから平凡な学校にはしない。
学校以外なら二十億で収まると思っていたが、もう少し多めの投資が可能になった。
お爺さまも出資して下さる、条件と言う訳でもないが、特色ある村として電柱のない村を勧められた、地中線化して景観を良くしてはどうかという事なんだ、建物も安易に考えず一つのコンセプトの元、統一感有る物を目指してはと。
親父からは遊びに行きたいからヘリポートを作らせてくれと、緊急時に役立つだろうともね、観光にも生かせるかもしれない。」
「雄太、何から驚けば良いの?」
「はは、最近親父やお爺さまと話しているのはうちの資産の事、その中で貯めこみ過ぎたかなという反省を聞かされているよ、きっかけは俺が出したのだがね。
親父は企業に問題が起きた時責任を取る立場にあるから、その時の備えも含めた安心できる資産を、会社にも個人にもと考えて来た、お陰でうちは安泰な訳だが、政府が打ち出す景気対策、内需を盛り上げる筈の金までもが一部の企業や人を潤すだけで終わってしまっていないかと話したら、真面目に考えてくれた。
俺に実績が無かったら聞いて貰えなかっただろうが、皆のお陰で結果を出せているからな。
莫大な資産を抱えている人間の責任という視点で、俺達のプロジェクトを後押ししてくれるよ。」
「随分楽になったという事ですか?」
「どうかな…、愛華にとっては余計な仕事が増えるだけかもしれない、親父の会社と相談だ。
でも、明香が手助けをしてくれる事になっている、まあ、俺の嫁になる彼女をあちこちに紹介する意味も有ってね。」
「驚いたな。」
「どうした、祐樹。」
「この世の中で、過疎の問題と向き合う大金持ちは、お前一人だけだと思ってた。」
「はは、お爺さまは、様子を見て色々手を回して下さるよ、俺達とは違う次元でね、でも、それにはこのプロジェクトが良い形で表に出ないとだめなんだ。
一つ言うならば、お爺さまと親父と俺、三代での挑戦の象徴になる。」
「愛華…、私、そんなお爺さまと来週初めてお会いする事になってるのよ…。」
「明香なら大丈夫よ、何時ものくそ度胸でさ。」
「え~、お嬢様育ちじゃないのよ、失礼な事をしてしまったらどうしよう。」
「リラックスして普段通りなら全く問題ない、お爺さまは、お嬢様育ちの従妹達に嫌悪感を覚えてるそうだからね。」
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