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高松加奈-31 [化け猫亭-11]

「あっ、安川さん、お世話になっています。」
「こちらこそ、うちは見易くて綺麗な通販サイトのお陰で売り上げが伸びてるわよ、元々店舗より通販を重視して立ち上げたのだけど、予想を越えてるわ。」
「それは良かったです、藤沢にも伝えておきますね。」
「ふふ、もう小夜が伝えたかも、加奈の所は一個限定が多いけどどうなの?」
「スタッフの手作りですので、でも、利益率の高いオーダーメイドにもサンプル画像からの注文が入り始めて、そうですね、サイトが巨大化して閲覧数が増える事の意味を実感しています。」
「うん、そうね、うちの従業員も理解したみたい。」
「四人の正社員は如何ですか?」
「今のところ真面目に働いてるわよ、まあ塀の中で暮らしていたと言っても極悪非道だった訳ではないしね。
そう言えば、三食をお宅の店で食べてる男性がいるけど迷惑かけてないかしら。」
「特にそういう話は聞いていません、でも、三食を外食だとエンゲル係数が高そうですね。」
「そんなに高い店ではないのだから大丈夫でしょう、自立に向けての昇給を約束していますし…、誰か狙ってるのかしら。」
「安川さん、最近うちのスタッフで彼氏が出来たという話を聞くようになりまして、一度失敗した人が二度目の失敗とならないか心配なのですが。」
「そうね、子どもに負担が掛かるのかな、親は何度離婚しようが本人の責任だから仕方ないけど。」
「最悪の場合、子どもはこちらで面倒を見るというぐらいで良いのでしょうか。」
「充分過ぎるわ、子どもだけ守れば良いのよ、まあ、母親も甘えて来そうだけど。」
「再婚相手の子に暴力を振るうとか有るじゃないですか。」
「あっ、それを心配していたのね…、虐待か…、再婚相手でなくても、今のスタッフにその傾向がある人はいないの?」
「います、生活が落ち着くにつれ改善の方向に向かっていますが、子どもとは適度な距離を置く様にしながら指導して貰っています。」
「離婚とかで精神的に不安定だったのでしょうね、でも、加奈は、もう少しゆったり構えていないと身が持たなくなるわよ、貴女のスタッフがきちんと対応してるのでしょ。」
「はい…、そうですね、私が考えても何も解決出来ません。」
「女神さまではなく、女子大生らしくしてなさい。」
「そうでした、困った事はスタッフ達にお任せと、安川さんに言われていましたのに…。」
「加奈から笑顔が消えたら、スタッフは悲しむと思うわ。
社長は存在感を示す事が仕事なの、雑事は部下に任せてね、貴女の会社は社員が必死に社長を盛り立てて行こうとしているのだからね。」
「はい、それは痛いほど感じています。」
「売り上げはどう?」
「サイト関係が一気に伸びたおかげで全体での黒字がみえて来ました、上手く行けば今期、利益が出せるかも知れません。」
「良かった、少し落ち着けるわね。」
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高松加奈-32 [化け猫亭-11]

「藤沢さんのお陰です、通販サイトの作業を誰でも簡単に出来る形に構築して下さったので、家事よりパソコン作業の方が得意というスタッフを数名、彼の部下に出来ました。」
「彼は平社員のままなの?」
「次の株主総会で常務取締役に就任して頂きます、それまでは部長ですね。
スタッフは彼が生み出した大きな利益を理解していますので問題無さそうです。」
「通販に参加する企業が増えたものね。
うちの様に他店では買えない物を販売している所は通販で利益が出し易いけど、メーカーとかはどう?」
「小売店を圧迫する安売りは出来ませんが、通販限定、個数限定でのテスト販売が好評です。
食べたり、使ったりした感想を送れば特典が有り、その感想や意見が今後の商品開発の参考になるそうです。
商品紹介が中心ですが、店で探しても見つからなくて通販を利用される方もみえると聞いています。」
「それなりにメリットが有るものなのね、あまり安くないからどうかと思ってたのよ。」
「大きい通販サイトと違って何でも揃ってる訳では有りませんが、見て楽しんで下さってる方は少なく無いのです、その方々がお店で商品を購入して下さればメーカーも潤うのです。
安川さんは、色々な仕掛けに気付かれませんでした?」
「あっ、そうね、このお菓子は何種類有るのでしょうという問題、解答に知らない味を発見して、今度買ってみようかしらと思ったわ。」
「アイディアはうちのスタッフが考えてくれているのです。
そして子どものおやつにと購入、皆さん、通販サイトの企業がスポンサーだと知ってますので、僅かながらでも売り上げに貢献しようとしてるのです。」
「そうそう、うちの店へも人通りの多い時間帯に、店が流行ってる様に見せる為にと立ち寄ってくれてるわ。
お陰で店舗での販売も好調なのよ、客が一人もいない店だと入りにくく、客が多ければ興味を示すと、教えてくれてね。」
「うちのスタッフは店の中で繋がっている安川さんのお店が、どういう店なのか知っていますので、売り上げに直接貢献出来なくても、サクラぐらいならと話していました。」
「協力し合ってという事なのね、ねえ、彼女達の為のシェアハウス、建設計画は進んでる?」
「はい、当初、建物は学生コンペという案が有りましたが、時間が掛かり過ぎるという事で設計事務所が学生と共同作業という形になりました。
学生達がうちのスタッフの意見を聴き、それを取り入れながら設計作業を進めていると聞いています。」
「土地はお父上が用意なされたのね。」
「はい、古い建物の取り壊しが間もなく終わるそうです。」
「さすがに完成までは時間が掛かりそうね。」
「でも一期工事で何十人か住める様にした後、二期三期と増築して行きますので思っていたよりは早く住み始める事が出来そうです、スタッフが増えていますので考慮して頂きました。」
「誰が新築に住むとかで喧嘩にならないかしら?」
「実は、古い今の住居を気に入ってる人が多いのです、建物の外観は悪いですが、リフォーム自由にしましたので綺麗な部屋が多いのですよ。」
「もう住み慣れているという事なのね、ではどんな基準で引っ越して貰うの?」
「転校したがってる子が最優先、後は、まだ友達の少ない子となります。」
「子どもが優先なのね。」
「勿論です。」
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高松加奈-33 [化け猫亭-11]

「加瀬さん、お久しぶりです。」
「おお、加奈さん、相変わらず綺麗だね、君とはすれ違っていたがサイトは毎日確認してるよ。」
「有難う御座います、うちのサイトは如何ですか?」
「楽しいよ、『今日の女神さま』を書いている、加奈お嬢さまの僕たちはセンス良いね。」
「その辺りの表現は微妙なのですが…。」
「寮の写真も、どんどん進化してる部屋が有ったりして、収納の参考になると妻が話してたよ。
あそこは元々お父上の会社の社員寮だったんだよね?」
「はい、今はうちのスタッフだけで使っています、部屋は狭いですが共有スペースが結構有りまして、ワイワイやってます、お風呂も広いのですよ。
出入り口のセキュリティをしっかりした事で、部屋に鍵を掛けない人が何人もいるぐらい、子ども達が自由に出入りして家族の様に付き合ってる人もいます。
そして、全員で一つの部族なのだそうです。」
「家族と言うよりは部族なのか…、君が部族長なの?」
「いいえ、女神より部族長の方がましな気がしますが、初代部族長には一期の伊藤さんが就任しました。」
「彼女とは一度お話しさせて貰った事が有る、しっかりした人だね。」
「はい、部族の掟を考えてくれています。」
「成程、集団にはルールが必要だな、どんな掟が有るんだい?」
「そうですね、再婚して子ども達が離れ離れになっても、仲の良かった子ども同士は縁を切らないで欲しいとか…。
彼氏とのデートの時、子どものフォローは皆で協力する。
再婚後、子どもが不幸になりそうだったら、必ず部族を頼る。
再婚後も部族の一員、退職しても仲間で有り続ける、と言った内容です。」
「そうか、人を縛る掟ではなく子を守り、仲間を守るという事なのかな。」
「はい、私の幼い子ども達を不幸にしたく有りませんので。」
「皆、共同生活に慣れたの?」
「そうですね、馴染むまでに時間が掛かってる人もいますが、子ども達にとっては良い環境だと思っています、小学三年生の女の子が中心になって遊びの中でルールを教えています。
その子は少し背伸びしている所が有りますが、サポートの学生から吸収する速度がかなり早いそうで、将来は私達の大学に入りたいそうです。」
「頼もしいね、その子の親も能力が高いのかな?」
「経歴からすると知的レベルは高そうなのですが、旦那さんとは死別でメンタル面が心配なのです。」
「そうか、一番守ってあげたい人だね…、でも、離婚で苦しんだ人と正反対じゃないのか、上手くやって行けるのか?」
「今は一人で作業出来る通販関係の仕事をして貰いながら、大学の研究室にも協力して頂いてケアを試みているといった状態です。
部族の仲間は互いに事情を把握しています、死別の人でグループも出来ています。
今は住居を別にするか検討をしていますが、子ども達は仲間になっていますのでどちらが良いのか迷っています。」
「それも君が判断するのか?」
「本当は私がすべきでしょうが、部族長が判断すると。」
「伊藤さんは君の負担が大きくならない様に考えているのだね、うん、トラブルは部族長に任せ、君は女神さまとして見守るだけにした方が良いな。」
「そうですね、皆さんからそう言われてはいるのですが、子ども達の事を考えるとつい…。」
「組織が大きくなると不幸な事も当然起きる、元々、不幸な経験を持つ人を集めた組織なのだからね。
加奈さんは全てを背負おうなんて考えては駄目だよ、女神さまのポジションで部族の民をもっと高みから見守っててあげなよ、笑顔で。」
「社長として、それで良いのでしょうか?」
「まだまだ拡大して行くのだろ、君の役割はそこだと思う、君の下に集る人はまだまだ増える、君が一人一人の問題と向き合っていてはだめなんだ。
伊藤さんも、そう考えているのではないかな、今は伊藤さんに任せて置けば良いのだよ。」
「はい。」
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高松加奈-34 [化け猫亭-11]

「加奈さん、君の部族は平和に暮らしてるかい?」
「大きな集団になっていますので多少のトラブルは有ります、ただ、大きくなったお陰で互いに合わない人は距離を置く事が出来ています、子ども達は喧嘩しても直ぐに仲直りしてますよ。
親にはすべての子を自分の子だと思って欲しいと話しています。」
「それは、浸透しているの?」
「概ね理解して貰っていると思いますが、将来美形男子になりそうな子が人気で、子ども達は小さい頃から社会の現実と向き合っているのでしょうね。」
「成程、分かる気がするよ、これからも部族は拡大して行くのかな?」
「はい、再婚して生活の場を移しても部族の一員と考えていますし…。
宮田さん、先日、児童養護施設で暮らす子を部族で引き取る事は出来ないか、という話が出たのですが、どう思われます?」
「そうか、多くの母親がいるのなら、子どもにとって良い環境かも知れないね。」
「まだシステムや法的な問題を調べて無くて、昨日小夜に相談したところです、彼女もその辺りは、まだ学習してないそうで少し時間が欲しいと。」
「そうか、う~ん、社会福祉法人として私立の児童養護施設を作れば良いかもしれないね。」
「では、シェアハウスに施設を併設する形にすれば良いのでしょうか?」
「そうだね、でも、まずは養護施設の現状を知らないと…、そう言えば児童養護施設は高校を卒業すると出なくてはならなくて、その時に辛く寂しい思いをすると聞いた事が有る、まずはそういう子を部族の一員に加えるというのはどうかな?」
「あっ、そうですか、調べて相談してみます。
部族の幹部は社会貢献への意識が強いのです、自分達より不幸な人が居たら援助したいと、その意識が会社の売り上げアップに繋がっています。」
「私も社会貢献の気持ちは元々有った、ただ、私に出来るのは寄付するぐらいだろ、だが、その寄付金の流れまでは確認出来ないから躊躇してたんだ。
加奈さんは、それを明確に示してくれた。
化け猫亭の客達は同じ気持ちだと思うんだ、だから皆で支援をしているのだけど、そういう話をしていたら客同士が以前より親密になれたんだよ。
我々にはまだ余力が有るから、女神さまは安心して僕を増やしてくれな。」
「女神さまはよして下さい、でも、宜しくお願いします、少しずつフォローに手間の掛かるスタッフを受け入れて行きますので。」
「聞いたよ、夫と死別したというスタッフはどうだい?」
「波は有るそうですが、子どもがいる事で前向きになろうとしているそうです。」
「そうか、本人が乗り越えるしかないもんな。」
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高松加奈-35 [化け猫亭-11]

「加奈さん、社宅の物件を探しているんだって?」
「はい、寮に余裕が無くなって来ましたので何件か購入しようと考えています。」
「予算は有るのか?」
「ローンを組んで、そこの住人と会社が負担します、管理職になった人の中から気の合う何組かに共同で住んで貰います、昇給分が家賃に消える訳です。
空いた寮の部屋は、児童養護施設で育ち高校を卒業した子に使って貰います。」
「あっ、シングルマザーから対象を拡大するのだね。」
「はい、児童養護施設を自分達で運営する案も有りましたが、施設を出てから苦労している子が少なからずいると知りまして、まずは女子のみですが、先々は男子寮を整備し、男子中高生となるスタッフの子と暮らして貰います。
この事業に我が社の利益をつぎ込んでも良いと株主の了解も得ています。」
「中高生男子なら親から離れたいだろうが、仲間がいないと寂しいだろうな、親から遠く離れて暮らす訳でないのなら良いと思うね。」
「それで…、中村さんは、男の子、何歳ぐらいまで女風呂で構わないと思います?」
「そうか、寮は銭湯みたいなものだったね…、う~ん、十歳ぐらいじゃないのか。」
「そうですね、今回は意見がまとまらなくて、部族長が判断を仰いで来たのです。
他のトラブルは処理してして貰っているのですが…。」
「あっ、子どもを通して、性の問題が絡む訳か。」
「はい、お風呂は大小有りますので男湯に問題は無いのですが、少ない男の子の為に沸かすのは無駄という意見も有ります、ただ、ずっと女性と一緒に入浴というのもどうかと、その他、仲の良い男の子と一緒に入りたい女の子が居れば、逆に抵抗を感じ始めている女の子も、これから高学年の子を持つスタッフを受け入れて行きますので、きっちりルールを作る必要が有るのです。
大きな声では言えませんが、女児の母が男の子と入浴したいとか…。」
「ビシッと決める必要が有る訳だ、女性だけの特殊な社会だからな…、なあ、お父さん役やお爺さん役のサポートメンバーが男湯に入りに行ける環境を作れないか、もう顔なじみになっているじゃないか。」
「確かに寮に入れる男性はサポートメンバーだけで子ども達も懐いています、ですが、そこまで甘えてしまって良いものか…。」
「そちらは私から話してみるよ、君は男湯の入浴規則をスタッフに考えさせれば良いんだ。
子ども達はお風呂で色々学べると思うぞ。
まずは試してみよう。
児童養護施設で育ち高校を卒業した子の支援も化け猫クラブのメンバーに話しておくよ、加奈さんは貧困状態になりかねない、若い世代を救いたいのだろ。
老い先短い、半分死んだ様な老人に金を使うより、明日を生きる若者世代を支援すべきなのだよ。」
「有難う御座います、中村さん、宜しくお願いします。」
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高松加奈-36 [化け猫亭-11]

「深沢さん、今日は加奈さんや小夜ちゃんがいなくて寂しそうですね。」
「いやいや、そんな事はない、中村さんこそ寂しいのだろ。」
「はい、そうなのですが…、深沢さん、加奈さんの事が心配では有りませんか?」
「ああ、頑張り過ぎてるかな、真面目で優しい、会社の力で最大限の社会貢献を考えている、スタッフに任せていると言っても要所要所は自身で確認しているみたいだ、時間的には余裕が有ると話しているが精神的にはどうなんだろうな。」
「我等が女神さまに彼氏でもいれば良いのでしょうが、誰も紹介出来る人物に心当たりがないなんて…。」
「そうだな…、我らが女神さまを安っぽい男に紹介したくないと、どうしても考えてしまうからな。
う~ん…、それより、社員を一気に増やしているが、管理体制が弱いと思わないか?」
「あっ、そうですね、社員達も慣れないのに頑張っています、その辺りの組織作りは我々がバックアップして行かないと、部族長の伊藤さんも大変だと思います。」
「今いる、化け猫クラブメンバーと相談するか?」
「そうですね。」

「…、確かに、二十歳そこそこの子が中心になって素人で形作られている会社ですものね、中村さんは何か案が有るのですか?」
「藤沢くんが頑張ってる部門以外には頼れるプロの管理職を置くのはどうでしょう、加奈さんとスタッフの間に立つという形で良いと思います、今、管理業務に就いてる人達だって小さなお子さんをお持ちの素人な訳ですし、流れで責任を負ってる面が有ると思うのですよ。」
「しかし、誰をその立場にするんだ?」
「時間に余裕の有る人ですが…、彼女達は何とか自分達で会社を回しています、必要なのは相談出来たり、見守っていてくれる存在ではないでしょうか。
お父さん役、お爺さん役から、彼女達に疎まれない人物が一歩踏み込んで、というのが理想ですが。」
「年寄りは要らん事を言いそうだ、かと言って現役世代は自身の仕事で余裕が無いだろ、私達で雇うか?」
「そうでも無いですよ、うちは小夜ちゃんにアドバイスして貰って組織改革を進めた結果、かなり余裕が出来ました、前は随分無駄な事をしていた訳です、私が役職についても構いませんよ、藤沢くんにも興味が有りますし。」
「杉浦社長なら安心ですが奥様は大丈夫ですか?」
「妻も気にしているんだ、寮へサポートに行った時、もう少し余裕が必要だと感じたそうでね。」
「男性の管理職が居れば加奈さんに相談しにくい事を相談してくれるかも知れません、杉浦社長ならスタッフや子ども達とも面識が有って適任だと思います。
その結果を見ながら、増員とか考えて行きますか。
自分も今、余力を持とうと試している所です、成功したら、もう一歩踏み込んで手伝って行きたいです。」
「うん、中村さんを動かしているのは何ですか?」
「杉浦さん、ゴルフやってるより楽しいからですよ。」
「はは、だよな。」
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高松加奈-37 [化け猫亭-11]

「なあ、我々サポートスタッフは既婚者のみだけど、独身男性にもお兄さん役として参加して貰うのはどうだろう?
実際に子どもの面倒をみる事で、結婚を考える機会になりますね、場合によってはスタッフの再婚相手ですか。」
「そうですね、子どもの人数が増えましたから、こちらとしても人数がいれば楽になります、うちの独身を誘ってみるかな。」
「そうすると、もう少し組織をしっかりしないと行けませんね。
きちんとしたサークルにして…、事務作業はうちの独身にやらせますよ、堂々と加奈さんの写真を飾っていたので少し話した事が有るのです、おじさん役をやってくれると思います。」
「ならば、名前だけでもリーダーは佐伯さんにお願い出来ますか?」
「私は構いません、本当に名前だけですが。」
「そうそう、深沢さん、お風呂当番を経験して如何でしたか?」
「はは、沢山の孫に囲まれて楽しかったよ、まあ、ささやかな性教育もして来た、お爺ちゃんとお風呂に入りたいという女の子もいて交代で背中を流してくれたよ。
父親との想い出を話す子がいれば、父親の事を何も覚えていない子もいる、私はそれを受け止めてあげたいと思った、大人しく入浴出来る子限定だったからか少し落ち着いて話せてな、中村さん、良い提案をしてくれたね。
それで、やはり人数は増やした方が良いと思う、二人ではとても足りないと感じた。
後、子どもの入浴時間は八時までだが九時ぐらいまでは母親達の話し相手になってあげて欲しい。」
「十時までには寮から出るという事で良いでしょうか?」
「いや、九時で良いと思うよ、話が長くなる可能性が有りそうだろ。」
「あっ、そうですね。」
「自分は、来週の予定なのですが、気を付けるべき事とか有りますか?」
「風呂でのマナーは有る程度守れているから、それほど気にする事はない、ただスタッフからは虐待の兆候に気を付けて欲しいと言われた。
変な傷を負っていないか、規模拡大に伴なって色々な母親がスタッフになっている、全員が離婚か夫との死別を経験しストレスを抱えていると考えた方が良いそうだ。
表面化していればフォロー出来るが、子ども自身が隠している虐待は見つけにくいそうだよ。」
「分かりました、心して…、でもあまり緊張していては子ども達も心を開きませんよね。」
「はは、その通りだな、まあ、世の中には親としての役割をほとんど果たしていない奴もいるだろ、そんなのよりは、たまにしか会わなくても良いお爺ちゃんになれるんだよ。」
「私はお父さん路線なのですが…。」
「これで、加奈さんもスタッフ達も少しは楽に出来るかな、加奈さんと伊藤さんへは私から連絡しておきます。」
「ではサークルの連絡先はなるべく早く皆さんにお伝えします。」
「サークルのウエブサイトも藤沢くんにお願いしようか、費用は私が持つよ。」
「それなら、メンバーも公募しましょう、多少危険では有りますが問題行動を起こしかけたら即退会という事でどうですか?」
「実際に行動を共にしてみないと分からないからな、臆病に成り過ぎていては前へ進めない。
でも、入浴に関しては人物を見極めてからだな。」
「ああ、私たちは、部族の保護者として気を付けて行こう。」
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高松加奈-38 [化け猫亭-11]

「加奈さん、君の会社の大株主とも相談したよ。」
「はい、父から聞きました、皆さん私の事を心配して下さって、杉浦さん、宜しくお願いします。
私自身が幹部スタッフに甘え過ぎていたと思います、スタッフにも父親役が必要だと感じていたのですが、その役目を幹部が担おうと無理して下っていました。」
「そうか、それは今後、お風呂当番中心に動いて行くよ。
会社の方は、私と妻が動いてみてフォローを考えて行くからな、まずは児童養護施設を卒業する子への支援が、どう進んでいるのか教えてくれないか?」
「はい、学生スタッフが近隣の施設とコンタクトを取った結果から、今年度中に五名程受け入れたいと考えています、家賃と食費を免除する代わり寮内の作業を手伝って貰います。」
「学生なのか?」
「いえ、会社をやめたばかりの子と、職場に馴染めなくてやめたがっている子です。」
「来年度からは?」
「辛くなったら、逃げ場所が有ると施設の職員から伝えて貰っています、辛く無い子も守って行きたいのですが…。」
「分かった、後は君のスタッフから聞くよ、取り敢えず、私は副社長で構わないか?
はい、我が社の株主様なのですから、株主総会までには我が社の組織を落ち着かせたいと思いますが如何でしょうか。」
「はい、社長、我が社と比べたらまだまだ小さい会社です、片手間ですがお任せ下さい、妻も動きます、社長の負担を一気に減らしますよ。」
「有難う御座います、ただ…、女性の集団は恐ろしいと話される方もみえますので、お気を付け下さい。」
「はは、そうだろうな、怖くなったら部下に押し付けるかな。」
「まあ、そんな~、逃がしませんわ。」
「はは、逃げる気はないよ、社会福祉法人ではなく株式会社として何処まで人を養えるのか、挑戦は始まったばかりだろ、その挑戦に私達も今まで以上に係わって行きたいと思っているのだよ。
女神さまの挑戦、社会にインパクトを与えられそうじゃないか。」
「ふふ、大袈裟ですね。」
「そんな事は無い、女神さまとしての君はすでに多くの人に対して大きな影響を与えているんだ。
加奈お嬢さまを支援している企業の商品を購入すれば、僅かながらでも回り回ってお嬢さまの活動を支援する事になる、と経済学部の学生が書けば、それだけでも売り上げに影響が出る、君はもうそういう存在なんだよ。
社会的弱者の為にという姿勢は、すでに広く知れ渡っているからね。
それだけに、我々は君を守って行きたいのさ。
君が女神として笑顔で輝いていなかったら、事業の勢いは一気に落ちると考えてくれな。」
「はい。」
「それで、藤沢くんと相談して社内ネットワークを充実させる、いや、相談してというより、話を持ち掛けたら、ウエブサイト事業部で使ってるシステムを拡大し少し手を加えるだけで済むから簡単だと話してくれた。
それを利用して全スタッフの仕事を把握出来る様にする、だが君が直接指示を出せるのは、藤沢くんと私達夫婦、後は各部の部長だけにして欲しい、私と妻は各部長にアドバイスしながら組織強化を計って行くからね。
後、寮へは極力行かないで欲しい、行くと君は個人と向き合ってしまう、トップは個人と向き合わず、そこのリーダーに任せるべきなんだ。
そうしないと健全な組織は形成されないんだよ。」
「それでは、私は社長として何をすれば良いのでしょう。」
「君の最大の役目は女神として輝く事、その他の役目はもうほとんど終わっているんだ。
君は多くの人を動かして組織を拡大して来た、その組織はもう一人歩きしているのさ。
まあ、気が向いたら新しい事業を立ち上げ、雇用の場を増やすとか考えてくれたら良い。
うちの会社だって私が居なくても動いて行く、私の役目は要所要所を引き締めて行く事ぐらいだよ、後は取引先とゴルフに行ったり飲みに行ったり、君が化け猫亭でアルバイトしながら私達を接待しているのと同じさ。
それが分かっているから、バイトの回数を増やしたのだろ?」
「はい、皆さんは大切なスポンサーですので、四年生が抜ける前で一番スタッフの多い時期ですがマスターが許してくれました。」
「はは、君目当ての客が多いし、数人の客を一人で相手出来る貴重なスタッフなんだから当たり前だよ。」
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高松加奈-39 [化け猫亭-11]

「佐伯さん、昨日、寮には大学生も遊び相手として来てくれて、子ども達は嬉しそうでしたよ。」
「ああ、学生から、子どもの人数が増えているのに気付かなくてすいませんでしたと謝られた、今後はお兄さん役の人数を見ながら調整してくれるそうだ。
で、メインの独身男性達はどうだった?」
「戸惑ってる人もいましたが注意事項を守って子ども達と向き合ってくれました。
面白かったのは、普段女性にモテないと話していた人が、随分子どもに懐かれてると思って見てたら、母親達にも懐かれまして、子どもの相手をする事で、外見だけでは分からない人の良さを気づかせたのかも知れません。」
「成程な…、このまま若手が子ども達にモテると我々の出番は無くなるのかな?」
「いいえ、子どもは多いです、私から離れない子もいました、アクティブな子を若手が相手してくれれば、今まで遠慮していた大人しい子にも甘えるチャンスが生まれるのですよ。」
「ある意味バランスが取れる訳か、差し入れは寮長にと決められているが、誰も寄って来なくなったらこっそりお菓子を、なんて考えなくても良いのかな。」
「ルール違反は駄目ですよ、子どもの人数の方が多いのですから、暇そうにしてたら子どもにとってはチャンスなのです。
まあ、父親から軽く虐待されてた子は、寄って来ませんでしたが。」
「そういう子は時間が掛かるのかもしれないね、寮が何時も愛に溢れる空間で有って欲しいと思うが…、子どもの前での喧嘩禁止と言うルールは守られていたかな?」
「昨日は特に、まあ、男性の前で恥ずかしい姿は見せないでしょう、学生もいましたし。」
「お兄さん役達の感想は?」
「慣れない事で疲れたとか、でも皆さん、また来てくれるそうです。
もっと長時間でも大丈夫、お風呂の時間まででも子ども達の面倒を見られますと話してくれた人もいます。
自分に子どもが出来たらなんて話も出て、独身男性として結婚や子育てについて話し合っていました。
私は経験談を少し語りましたが、思い返せば、あまり良い父親では無かったかと…。」
「その罪滅ぼしでお父さん役ですか?」
「あまり意識してませんでしたが、そうかも知れません、でも、子ども達は真っ直ぐ育ちまして。」
「奥さんに感謝ですね。」
「はい、長女は四月から化け猫亭のスタッフになりますので、その時は宜しくお願いします。」
「おお~、大下さんの娘さんがですか、それは楽しみです、どんな駄目親父なのか根掘り葉掘り訊くだけで随分楽しめそうだな。」
「勘弁して下さいよ~。」
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高松加奈-40 [化け猫亭-11]

「加奈さん、昨日、寮の風呂当番の後に児童養護施設出身の子と話したよ。」
「どうでした、私は寮へ行くのを控えていまして、まだ会っていないのです。」
「親の事情でずっと施設暮らしだったそうだ、今も親に会いたい様な、会いたく無い様なと。
職場では、施設で育った事を知られてから、それをからかう人がいたりして、色々辛かったと話していた。」
「そうでしたか…、カウンセラーにその話は伝わっているかしら。」
「ああ、カウンセラーや寮長、お母さんスタッフが話相手になってくれて落ち着いてきたそうだ。
転職して寮の掃除や子どもの面倒、それなりに楽しいと話してたが…、それなり、という事は満足している訳では無いのだろうな。」
「大丈夫ですよ、まだ一旦保護したという段階で、これから彼女の適正に合わせた仕事を見つけて行く作業が待っているのです。
すぐに同世代が増えますし、何とかなりますよ。」
「はは、楽観的な加奈さんに戻ったんだね。」
「あっ、私、そんなに暗かったですか?」
「本人は明るく振る舞っているつもりでも分かるんだよ、これからは杉浦さんに任せておけば大丈夫だからね、君のスポンサー企業は君の為に存在するぐらいに考えて。」
「そこまで図々しくはなれません。」
「まあ、加奈さんを中心に資本関係の無い企業をグループ化した結果、各社の業績が伸びてるじゃないか、加奈さんのイメージ効果と各社の相乗効果という事かな、今度公開された実験的CMも凄く良いよ、『女子大生社長高松加奈、彼女はこの子達の母親でも有る、我々は彼女の活動をサポートし続けます。』あえて多くを語らず、疑問を残す事でインパクトを与えたと思う、スポンサー企業の数も提示出来たしな。
次からは、一つのCMで複数の違う会社の商品を紹介しつつ、高松加奈をアピールして行くのだろ。
視聴者は今まで無かったCM形態に注目すると思う、そしてそのCMが他のスポンサーにもプラスになることは明白、加奈さんを見れば今までのCMを思い出すからね。」
「うまく行く様、頑張ります、それが私の役目ですので。」
「ローカル局の番組レギュラーも決まったのだろ、女子大生社長の目線で遠慮なく話してやれよな。」
「それは月曜担当の小夜に任せて、水曜日担当の私は笑顔を振りまきスポンサー企業の売り上げに貢献出来ないかと思っています。」
「番組では当然君たちの活動が紹介されるのだろうな?」
「はい、四週に渡る特集になります、局の方でシングルマザーの実態や児童養護施設について調べ取材していますので、私は少しコメントを入れるぐらいです。
桜さんはCAT'S TAILの活動を中心に、小夜はここまで企業改革に成功した実例を紹介となります。」
「そうなんだよな、小夜ちゃんは期待以上の成果を上げてくれたと杉浦さんが話していた。
今度は学生を部下に経営コンサルタント会社を設立するのだろ。」
「はい、ここまでやって来て手応えを掴めたそうです。」
「実績が数字に現れているからな。」
「彼女が手助けしている企業ばかりでは有りませんが、化け猫亭のお客様方が形成したグループは個々の売り上げが伸びている上に、上場企業は互いの株式を取得することで株価が上昇しています。
ささやかでも資本関係の有るグループになって下さって嬉しいです。」
「ああ、ここで知り合って意気投合した人の会社の株は、私も個人的に持っているのだが随分値上がりした、お金が必要になったら加奈さんの所の株に買い替えるから気軽に相談してな。」
「でも、うちは配当…。」
「寄付みたいなものだよ、加奈さんのお蔭で面白い体験をさせて貰ってるお礼だ、一般の人はこの奇妙な企業グループが、化け猫亭の客とスタッフによって作られたとは思いもしないだろ。
その一員として動ける事が嬉しいんだよ。」
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