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01 難民 [KING-03]

 新たな隣人達は、彼等の国に残っている八人を居住コロニーに閉じ込めたまま、十五人の大人と二十人の子どもが難民として城下町で暮らし始める。
 彼らの住まいは子ども達のお泊り保育用に建てられた家。
 城でも良かったのだがマリアは、それを許さなかった。
 避難して来た人の一部は、昼の間だけ畑仕事をしに自国へ戻っているが、その手伝いにと同行した者は、我々にとって魅力に乏しい国土だと話す。
 国のメインエリアに有る四軒の家はひどく荒らされ住める状況には無く彼らが落ち着くまで放置することにした。

「麗子、食事は彼等の口に合ってるのか?」
「分からないわ、あの人達がかつて口にしていた味付けが分からないもの。」
「ふふ、大きな声では言えないけど、おいしすぎて怖いそうよ、背徳の味覚なのかも、皆さんにとってはね。」
「えっ。」
「日本食よ、彼等にとって因縁の有る西洋の食事でなく、材料に乏しい自国で食べ飽きた食事でもないでしょ。」
「そうか…、よし、日本食マニアを増やそう。」
「はは、麗子は腕が鳴るのだな、でも、そろそろ自炊の環境も整えてあげないと。」
「食材とかの相談はしてるのよ、でも今は蘇って来る記憶の整理に追われている段階で余裕が無いみたいなの。」
「そうだったな、しばらくは見守るしかないのか。
 まあ、英語を知らない人ばかりだから、英語を耳にしても問題はない、ゆっくり過去と向き合う時間を作ってあげられるね。」
「この平和で豊かな社会を見て、何が真実なのか分からないって人もいるのよ、この世界でのスタートやその後の展開も基本は自分達と同じだったと知ってね。」
「国民性の違いとかリーダーの力量とかに差が有ったのだな。
 彼らの子ども達はどうしてる?」
「三歳以上の十人は一年生が相手をしてくれてるわ、翻訳機は向こうから持ってきた内の二台を子ども専用に、うちの子達は私達が何を期待してるのか理解していて先方の子達の不安を和らげているわよ。」
「初めての言語に対する反応はどうなんだ?」
「もちろん好奇心の塊だから、四人で分析を始めている、私達が思っていた以上に天才かもしれないわね。」
「キング、残る八人はどうする?」
「記憶の蘇りが落ち着くまではだめかもしれないが、モハメドを手伝ってみようと思う、ヨーロッパとは関係のない第三者だから説得し易いだろう。」
「確かにキングが適任かもしれないな。」

 その翌日からリーダーのモハメドに同行、テレビ電話を通して一人ずつ話を聞く。
 三日目には八人全員とモハメド抜きで個別に直接会い話をした。
 翻訳機が有るとは言え、その表情から判断できることも有る。

「キング、彼等はどう? 少しは落ち着いたの?」
「ああ、問題点も整理されつつ有る。
 彼等は母国が受けた大きな攻撃を欧米諸国によるものだと信じているのだが、当時経済制裁を受けていたそうで、簡単には否定出来ない。
 もう一つは攻撃を受けた後の混乱の中で、モハメドのグループと対立し殺し合っていた人達は、今更モハメドの下という立場は耐え難いということだ。
 だが、私の話は聞いてくれているので、モハメド抜きで一人ずつ和の国へ招待して行こうと思う。」
「危険は無さそうか?」
「ああ、麗子からの差し入れを気に入ったそうで、レストランへ招待すると話したら一様に嬉しそうだった。
 個別に会ったのに反応は皆同じだったよ。」

 和の国に一人ずつ招待された彼らの反応も全員が同じ。
 彼らの中にはモハメドをトラップで殺そうとした人物もいたが、和の国を見てすっかり変わったのは、城の子と遊ぶ我が子の姿を見たからかも知れない。
 全員が私の指示に従うと約束してくれた。
 それからは人に危害を加えないと誓い、避難していた人達と共に三つのグループに分かれ話し合いの場を持つ。

「どう、彼らは何かしらの結論を出せたの、ロック?」
「ああ、私が見守ったグループは、キングに忠誠を誓うから和の国の一員にして欲しいと。
 過去の宗教を忘れて新しくやり直したい、それが子ども達にとって一番良い事だともね。
 大人も子どもも優しく接してくれる和の国の一員になれるので有れば、きつい仕事でも率先して引き受けるからと。
 今の状態で、自分達が独立した国家を形成して行くのは難しいし、他の五か国と馴染むには時間が必要だが、和の国の人となら何の問題も感じられないと話してくれたよ、グループ八人の総意としてね。」
「そうか…、セブンが見守ったグループはどうだ?」
「人数が減り、リーダーがモハメドでは…、大人が二十三人にまで減った原因はモハメドに有ると話す人がいてね、ただ、モハメドのリーダーとして資質は兎も角、管理者との関係から大きな権限を持っている訳で、そこをキングにすがれないのかと聞かれたよ。
 モハメドは黙ったままだった。」
「キング、どうする?」
「そうだな、私が見ていたグループでは、過去の世界も、ここでの暮らしも嫌な事ばかりだったという女性が、和の国で優しくされて、もうモハメドの指示には従えないと話していた。
 モハメドがどう考えているのか確認した上でマリアと相談だ。」

 それから城のメンバーで彼らから個別に聞きとり調査をし、それらを踏まえてマリアと相談した。

「キング、どうだった?」
「何とか上手く行きそう、子どもを守った事が大きく評価されたそうで、マリアは和の国に於ける新たな人間関係という視点で研究を進めるみたいだ。」
「彼らの国はどうなる?」
「和の国に併合する。」
「だとすると、あの国の農地を…、生産体制の見直しか…。」
「いや、あのエリアは消滅する、もう農地を放棄して構わない。」
「そうか、まあ無くても食料に困る事はないな、では彼らの住居は?」
「今有るコロニーを三つに作り替え、九丁目、十丁目、十一丁目とする。」
「そ、そういう事が可能なのか…。」
「ただ、一旦、今のコロニーへグループを再編した状態で戻って貰い、今のは様々な作業が済んでからの話だ。」
「マリアさまも準備に時間が掛かるのだろうな。」
「いや、マリアの力なら直ぐにでも可能なのだが、試したい事が有るそうだ。」
「我々が試されるのか?」
「そういう感覚では無いのだが…、憶測だけで話すのは控えたいので、マリアからの話を待って欲しい。」
「ふふ、キングは前向きな憶測をしているのね。
 では、それを楽しみにして、どうなって行くのか待ちましょう。」
「う~ん、麗子がそう言うのであれば…、キングを追求する事は控えるよ。」

 和の国に関して大きな改造が示されたが、物理的な変更の前に、全く異なる文化を持つ二つの民族が一つの国家を形成するという問題が有る。
 だが、かつての北海道と沖縄では言語も生活習慣も違った、とは三之助の言葉、彼女がバランスを重視しつつ両者の間に入って調整してくれた。
 状況を考えれば、和の国の日本人が優位に立つであろう事でも、新たな国民の立場を尊重し極力平等になるよう働きかける。
 国民達は、互いに戸惑いは有りつつも、両者の壁と向き合う。
 だが、子ども達の壁は高くなかった。

「子どもはやはり柔軟だな。」
「柔軟どころでは無いわ、アラビア語で話しながら、日本語教師の役割を始めているのでしょ。」
「ああ、それで小学校の体制を考え直すことになった、今後は城の子と他の子を分けて考え、二つの小学校みたいな形にする。
 これまで調べて来た結果、各国の子達も能力が低い訳では無いのだが、城の子とは理解力などに大きな差が有る。
 一年生たちが弟や妹に教えてることも有り、この先その差が広がると推測されているのだ。」
「でしょうね、お姉ちゃんに教えて貰ったとか言って、私が高校で学習した様な事も知っているし、随分前から頭を使うゲームで真剣に勝とうとしても勝てたためしがないのよ。
 二歳児になら勝てるなんて、恥ずかしながら思っていたら、上の子達がコツを教えてしまってね…。
 ほとんど運任せのゲームでも、何故か勝てないし。」
「運の部分も計算してるのだろうな。
 それで、子ども達が新しい言葉を教え始めたのは知ってるか?」
「ええ、各国の子達にでしょ。」
「今はまだ原始的な言語だが共通語にするそうだ。」
「きっかけは何か有ったの?」
「そりゃあ同じ物に七通りの呼び方が有っては不便極まりないだろう、翻訳機の数には限りが有るからな、で、どうしてキャベツの事をキャベツって呼ぶのか訊かれたから、昔の人がそう呼び始めたからだと話したのさ、そしたら自分達で勝手に決めても良いよねって。
それから四人で相談して共通語を作り始めた訳だ。」
「私達も覚えるべきかしら。」
「今なら簡単だよ、文法がシンプルだからな、徐々に単語が増えて行くから、言語として完成するのは先の事だろう、今は試作の段階で、試しながら単語を変更するかもしれないってさ。」
「それに対してマリアが関心を示していてな、四人の子と話したいそうだ。」
「えっ、キング以外今まで誰とも話してないマリアさまが、う~ん、四人をキングの後継者と考えているのかな。」
「学校はしばらく休ませて良いだろうか。」
「教える方が追いつかないペースで学習が進んでるから好都合なぐらいだ。」
「私が子ども達に付き添う、担当している業務から外れたいと思うがフォローしてくれるか。」
「了解だ、キングは雑用なんて気にしなくて良いよ。
 新たな国民達も慣れて来て大きな問題は無いからね。」
「では、明日九時から城の六階、一番東の部屋に集合と伝えて欲しい。」
「食事は?」
「運んで貰う事になるかもしれない、その時は連絡する。」
「わかったわ。」

 マリアが子ども達と話すというのは大事件だ。
 今、管理者と話せるのは六人のリーダーのみ、モハメドの管理者は併合が確定して以来、現れなくなっている。
 他の国の管理者も現れる回数が極端に減ったと聞くが、マリアだけは頻繁に私と会話している。
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02 城の子 [KING-03]

 マリアを待ち、緊張の面持ちで座っているのは、私と麗子の子北城尊、セブンと一花の子西條翔、三郎と三之助の子東城望、ロックと八重の子南条愛の四人、緊張するなとは言ってみたが無駄だった、マリアはこの世界に於ける神の如き存在なのだ。
 それでも…。

「まずは君達にマリアからのプレゼントが有る、机の上の箱を開けてごらん。」
「あっ、これって翻訳機…、じゃないよね。」
「尊、この端末は翻訳機としても使えるがそれだけではない、電話としても使えるし他にもな、各国のリーダークラスが使っている代物だ。」
「それを僕達一人に一台ずつか、すごいや。」
『気に入ったか?』
「あ、マリアさまですか? 有難う御座います。」
『まずはキングも知らない機能がその端末には備わっている、それを今から教えるが良いか?』
「はい。」

 子ども達は元気よく返事をした。
 私が知らなかった機能とは翻訳機能への入力だ。
 彼らが構築中の言語、その音声情報、文字情報、言葉の意味といった所を一つの言語と対応させて入力すれば良い、複数の言語と対応させればさらに精度が上がるとマリアに教えられた彼等は夢中になって取り組み始めた。
 マリアの口調は私と会話している時より随分優しく感じられる。
 食事を部屋に届けて貰う様、指示を出し、子ども達を観察する事にした。

『なぜ、私、僕、俺、あたし、といった複数の言葉に対して、一つの言葉を当てはめたのだ、愛。』
「それはね、英語だとアイって一つだけで済んでるから、私達はなるべく簡単にしようって決めたの。」
『ではアイで良くはないか?』
「英語を使ってる人達は喜ぶだろうけど、そうでない人は抵抗を感じるかもしれないでしょ、良く使う言葉は七つの言葉とは違うものに、全部変えると大変だから物の名前とかはどこかの言葉のを使うけど、なるべく七つの言葉を元にバランス良く、三之助おばちゃんからのアドバイスよ。」
『国民達がキングに話す時の言葉は少し違うが、どうするのだ、翔?』
「マリアさま、敬語って言うんだけどね、僕らの言葉には要らないんだ、心に尊敬していますってイメージしてたら自然と伝わると考えてね。」
『それは君達が考えた事なのか?』
「もちろんだよ、でもロックおじさんに話したら、それで良いって。」
『今まで使って来た言葉はどうする、忘れるのか、尊?』
「忘れる必要はないし、今使ってる言葉も嫌いじゃないんだ、ただ、七つの言葉を覚えるのが大変そうな子もいるから共通語をね、色んな国の子達と遊ぶ時に便利でしょ。
 それでも自分の国の言葉と、二つを覚える事になるから、なるべく簡単にしようって決めたんだ。」
『成程、では文字にはどんな考えが有るのだ、望?』
「文字はまだ考えてる最中なの、アルファベットは文字数が少なくて便利だけど、漢字は意味があって便利、だからまずは二十の文字でどんな言葉でも表せる様にする、その後で漢字みたいなのを作れないかなって考えてるのよ、母さんが漢文というのを教えてくれてね、皆すご~いって思った。
 難しいからすぐには出来ないけど、上手に作って覚えたら早く読めるでしょ。」
『ああ、私も興味を持って調べた、子どもにとっては随分難しそうだ、多くを記憶する必要も有る。』
「作るのも覚えるのも大変だけど、それを難しいと感じない人にとっては便利でしょ。」
『全員が覚える必要は無いという事か。』
「ええ、二十の文字だけでも読み書き出来る様にしてから、良く使う言葉を選んで漢字みたいなのを作ろうって考えてるの。
 漢字の様なのが有るのは和の国の日本語だけだから、漢字を簡単にして使うという案もね。」
『ならば、その端末が役に立つ、食事の後は共通語作りの作業を続けるか、端末の使い方を覚えるか、どちらが良い…、どちらが良いかな?』

 子ども達はすぐ結論を出した、端末は彼等にとって新しいおもちゃでしかない。
 色々試しながら四時頃には一通りの操作を把握、初日の学習を終わりとした。
 子ども達の能力の高さは感じていたが、これ程までとは思っていなかった、言語に関しても学習能力に関してもだ。

 マリアと子ども達との時間に皆の関心が集まるのは当然の事。

「キング、望は端末をマリアさまからのプレゼントだと話していたが本当なのか?」
「ああ、親子の連絡で普通に使って構わない、彼等は他国のリーダー達とも必要が有れば連絡を取り合える…、どうした三之助?」
「子ども達の中で年長だとは言え、優遇され過ぎてはいないかな、他国の子達と差が付きすぎるのはどうかしら?」
「それは明日にでもマリアに訊いてみる、ただ今日は驚かされる事ばかりだった、子ども達の能力が高いとは感じていたが想像以上、驚いたのは子ども達だけでなくマリアにもだ。
 子ども達への話がどんどん優しくなり、口調までもが私と話している時とは全く違うものになって行った、終わる頃には、もうすっかりお母さんみたいな話し方、子ども達を帰した後、謝意を伝えたら何て言ったと思う?」
「何て?」
「あの子達はキング達の子で有ると同時に我々の子でも有る、愛情を持って子どもと接するのは大人の役目だと。」
「う~ん、意味深ね、単純に精神的なものなのか…、子ども達の天才性を考えると…。」
「まあ、俺達の子である事に間違いは無いのだから、あまり気にしないでおこう。」
「その通りだ、端末に関してだが、この八人の端末で子ども達の端末利用履歴が閲覧できる様になった、電話機能で彼等の会話を聞く事も出来る、但しそれは十六歳になるまでだ。」
「そうか、ではまず、今日の履歴を確認させて貰うかな、えっと…、おお、俺の端末に四人はもう登録済だ…。」
「子ども達は私達が閲覧出来る事を知っているの?」
「ああ、翔は何やってるのかお母さんに報告しなくて済むから嬉しいと、マリアに話していた。」
「そんなに根掘り葉掘り訊いて…、いたのかなぁ…。」
「おいおい、何だこの履歴はすごいスピードで端末の機能を…、これって全機能なのか?」
「マリアは現在使用できるすべてを教えたと話していた。」
「おい、四人で会話を始めたぞ…、今から一時間共通語の入力作業をするそうだ…、あっ、何を話しているか分からなくなった。」
「自動翻訳をオンにしてくれ、まだ入力されていない部分は機能しないが有る程度は理解出来る筈だ。」
「…、成程、音声情報と文字情報が、今までより更に使い易くなったのだな。
 子ども達の言語は、シンプル故に分かり易いかも。」
「マリアの意見も取り入れているからな。」
「子ども達とマリアさまとのやり取りはどんな感じだったの。」
「始めは子ども達の緊張も有ってぎこちなかったが、すぐに打ち解けた、何となくだがマリアは子ども達との時間を楽しんでいる様に感じられる、今日は午前中に共通語の入力、午後に端末の操作、明日は子ども達の質問に答えるそうだ。」
「我々が知り得ていない事を知る可能性は有るのかしら。」
「有ると思う、私自身は過去に尋ねた事について訊き返す事を控えていたが、国が成長した今なら教えて貰えるかもしれないと考えている、子ども達の質問が楽しみだ。」

 楽しみでは有るが怖くも有る。
 この先、彼らがどうなって行くのか、マリアが子ども達に何を語るのか。
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03 マリア [KING-03]

 マリアの授業二日目。
 質問に答えるというマリアの言葉に、まず口を開いたのは翔だ。

「この端末を通してマリアさまと話す事は出来ないの?」
『そうね、私達の方針で今はキングとあなた達四人にだけ、こうして私の声を聞かせることが出来るのだけど、端末を使うと他の人に聞かれてしまうかも知れないでしょ。』
「弟や妹でもだめなのかな?」
『あなた達の本当の弟や妹が七歳ぐらいになるまではね。』
「お城に住んでる子は特別なの?」
『そうよ、この世界で特別な存在。』
「他の国のリーダー達の子達もでしょ?」
『いいえ、他の国は和の国ほど成功しなかった、色々な意味でね。』
「でもスコットランドのメアリーやジョージは五歳だけど優秀だわ。」
『実はそれ程でもないと、しばらくしたらあなた達も気付くでしょう。』
「特別って、喜んで良いのかな、良い事ばかりじゃない気がする、三之助おばちゃんは良くバランスについて話してくれる、特別な存在はバランスを崩しかねないって。」
『尊は良く分かってるわね、その通り良い事ばかりじゃない、あなた達はこの先大変な思いをする事になるでしょう、でもキングがこの世界をまとめている事は理解出来てるわね。』
「はい。」
『これからも人が増える、大人を束ねるのはキングの役目、子ども達を導くのはあなた達の役目、だから城の子は特別なの。』

 子ども達と目が合う、だが私も初めて聞いた話だ、彼等の期待には応えられない。
 しばらく沈黙。
 その沈黙は望が破った。

「人が増えるというのが…、この世界に子どもが生まるという意味なら、そんなに大変じゃない気がするわ。」
『いいえ、これから新たな出会いが有って人が増えるの。』
「マリア、子ども達にいきなり重荷を背負わせるのはどうかと思うが。」
『キング、私は心配していない、それはこの子達が証明してくれるでしょう。』
「ならば…、これからの予定を教えてくれるか。」
『そうね、まず、この子達には工作の時間を。』
「工作は好きだよ、何を作るの?」
『まずは難民たちのコロニーを考えてるのだけど、どう?』
「うわっ、面白そうだね!」
「難しくないのか?」
『キングには出来ないが、この子達なら大丈夫。』
「それが試したかった事なのだな。」
『タイミング良く教材が手に入ったということ。』
「九丁目から十一丁目のコロニーということだよね…、ワクワクするな。」
『ふふ、それと和の国の海にあなた達の島を作ると言うのはどうかしら。』
「僕らの島?」
『城の子が自由にして良いわ、和の国をキング達が管理している様にあなた達で管理出来るかしら?』
「で、できるよな。」
「うん、秘密基地にしよう。」
「でも、秘密にはできないのでしょ。」
「島は秘密でなくても、ねえ、マリアさま、色々な仕掛けを作って良いのでしょ?」
『もちろんよ、私達を楽しませてくれる仕掛けを考えて欲しいわ。』
「島と言う事は船が必要ね、船の作り方も教えてくれるの?」
『ええ、材料に問題ないからね。』
「材料って何?」
『難民たちのエリアを消滅させることは知ってるでしょ。』
「そうか、ゲートを使って行くあのエリアを和の国の海に移動するんだ。」
『そういうこと、あのエリアを見てどうだった?』
「はい、あまり行きたくないと言うか、あの人たちが和の国で暮らすのなら必要ないかな。
 案内してくれた人は、キングに保護して貰え和の国の一員となれたことに感謝していました。」
『そのキングが大切にして来たあなた達は、多くを学んでくれるかしら?』
「もちろんです、マリアさまから色々教えて貰えるなんて、ね、望。」
「うん、えっと、私達の妹や弟たちに教えて良いですか?」
『もちろんよ、でも、城の子だけにしてね、他の子達は理解する事も作業する事も出来ないのだから。』
「僕たちは、それぐらい特別なんだね。」
『特別で有っても他者に対する優しさが有る、あなた達の様な人ばかりだったら、キングは故郷を失わなかったでしょう。』
 
 子ども達は少し考え込んだ。
 この四人には私達の過去を少しずつ話している。
 子どもなりに故郷を失うことの意味は理解していると思う。

「マリアさまはずっと僕たちを見守ってくれてた、僕たちが沢山学んでこの世界をもっと素敵に出来たら、マリアさまは嬉しい?」
『もちろんよ、でも、そうね、あなた達と共にいられるだけでも私は嬉しいのよ。』

 マリアが、嬉しいと口にするのを聴くのは初めてのことだ。
 子どもに合わせてくれているだけなのかも知れないが、それでも…。
 根拠は無きに等しいが、マリアという存在は、管理者の中でも特別な存在なのかも知れないと思う。
 私達は他国と比べると、すごく甘やかされて来た。
 城の子達はこれから更に甘やかされそうだと思っている所で、愛が口を開く。

「私もとても嬉しいわ、ねえマリアさま、島はともかく九丁目からのコロニーは住み心地良くして上げたいのだけど、二丁目とかも、お母さんは二丁目の人が悪かったのではなくて、たまたま能力が他のコロニーの人より少し低かっただけだって話してたの。
 色々な事を上手に出来なかっただけなのよって。
 それでね、コロニーが綺麗になったら気持ちが明るくなると思うの。」
『それは二丁目コロニーを見て思ったことなの?』
「はい、罰を受けコロニーが暗くなったことで、気持ちが沈み…、もっと人から嫌われる様になってしまったのかもって。」
『そうか…、愛の視点は我々にはなかった、キングはどう考えているのだ?』
「社会生活を上手くこなせない社会的弱者、能力的に問題が無いのに我儘を言ってるという訳では無く、明らかに能力が低いのだが、それは本人の責任ではない。
 私達も二丁目に対してこの結論に達したのは最近の事なのだが、本人達の責任能力が低いのなら、他者に迷惑が及ばぬ様、配慮し保護して行く、それが今の方針なのだ。
 行動を制限させて貰ってるが、それ以外は極力普通の生活に。
 教育は試みたが、和の国の一員として他の国民と同等の扱いは難しく、今の状態が精一杯だがな。」
『そうか、価値観の多様さは私の思っていた以上だ、愛は二丁目の環境改善を望んでいるようだが。』
「大人達が積極的に取り組むのは難しい状況だが、子ども達が取り組めば大人達の気持ちも変わると思う。」
『では、愛と共に取り組み観察してみたいが、愛はそれで良いか?』
「はい、マリアさま、私に出来るのであれば。」
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04 建設 [KING-03]

 マリアの授業、三日目からは人々を驚かせることになる。
 子ども達は九丁目コロニー施設を建設し、和の国とゲートで繋げた。
 それからは九丁目住人となる人達の意見を取り入れ住環境の整備、それと並行して十丁目施設の作業に取り掛かる。
 九丁目コロニーは、それまで彼らが暮らしていたコロニーとは全く違う、明るく環境の良い住まいとして完成。
 広くはないが、ゲートで繋がる和の国とセットになり、以前とは雲泥の差。
 見学に訪れた人達は一様に羨ましがったが、城の子から全コロニーのリメイクを約束され大喜びでリメイク案を相談し始めた。
 十一丁目が完成した段階で、一つの国土が消滅し和の国の海に島が出現。
 その後、約束通りに各コロニーのリメイクを進めているが島はそのままで目立った変化はない。
 各コロニーは無駄を省かれ、小さくなっているのだが明るく開放的に生まれ変わって行った。

「ねえ翔、新しくなったコロニーって小さくなってるのでしょ?」
「うん、初期に自給自足を試みていた部分を削ったからね。」
「大き目にして、子ども達が増え成長した時の事とか考えなかったの?」
「子ども達は成長したら各国のメインエリアか和の国に住むという前提なんだ、それまで住むには充分な広さにして有るよ。
 それと、大きな声では言えないのだけど材料を確保しておきたくてね。」
「成程…。
 それで、魔法使いになった気分はどうなの?」
「はは、最高だよ、マリアさまは褒めて下さるし、皆さんから感謝されるし。
 作業を見せる事で、皆さんには教える事の出来ない技術だと理解して貰えたからね。
 城の子として特別扱いされている事を、誰もが納得してくれるでしょ。」
「そうね、二丁目の人達でさえ、住環境が改善されて変わり始めたものね。
 各コロニーのリメイクが済んだら島の開発なの?」
「まあね、でも他の学習が有るからもう少し先かな。」

 翔は母親の一花に明かさなかったが、彼らは島の開発をコロニーの作業と並行して進めていた。
 コロニーだけに集中していたら早過ぎて有難味が薄れると助言したのは私。
 改修作業の進行は人間の常識より少し早い程度だが、マリアから様々なことを学びながらなので、実際の作業時間は短い。
 基礎的な改修を行った後、住人の要望に応えてのリメイク作業は、完成していないコロニー全てを並行して少しづつ進めている。
 一つのコロニーに対し必要以上の作業回数と作業期間を取ることで、人々との交流が深まるからと尊が提案した。
 その片手間の作業でも設備が整って来た島の秘密基地、それは彼ら四人と私、マリアだけの秘密、端末から彼らの親にも知られ無い様に。
 島の外観は手付かずだが、その地下や人々が海底だと思っている場所で大きく二つの作業を進めている。

 彼らが三年生となり、翔の弟、昇たちが一年生として…。
 城の子は当初の小学校から離れマリアから学んでいる、私には理解出来ない事も含めて。
 そんな、マリアの教室に新入生を迎えて間もない頃。
 彼らは四人の一年生を完成したばかりのボートに招待した。

「城に有る秘密の部屋から島の秘密基地に直接行けるゲートが有るから、本当はこのボート、要らないのだけどね。」
「翔兄ちゃん、じゃあ、どうして作ったの?」
「僕らの練習の為と、昇たちも城の特別な子だと知って貰う為だよ。
 このボートは漁で使っているのとは違い操作の為のものが全く無く、僕らの意思で動くから城の子にしか操縦出来ない。
 昇もすぐに扱える様になる、そして、その光景を目にした人達は、昇も特別なのだと気付くのさ。」
「私でも操縦出来るの?」
「勿論さ、香がちっちゃい子達をこのボートに乗せて上げても良いんだよ。」
「島へ泳いで行った人は何も無かったって言ってたけど。」
「秘密基地だからね。」

 そんな話をしている子ども達の会話を端末を通して聞きながら。

「子ども達が出現させた船は、漁で使ってる船とは随分違うのね。」
「翔は、無駄な機能を沢山盛り込んだとか話してたけど、ああなってしまった原因は七丁目の元アニメオタクに有るみたいだ。」
「だろうな、船が陸上を二足歩行する必要はないだろうし。」
「あれでも飛行機能とかはマリアさまに却下されたのでしょ。」
「ああ、ここでの飛行には問題が有るそうだ、だが近い将来その制限が無くなる日が来る様な事をマリアは話していた。」
「もっと広い大地が待っているとか?」
「具体的な話は聞けなかった。」
「それで、あの島はどうなって行くの?」
「アニメオタクにどれぐらい感化されているかによるとは思うが…。」
「望は小さくて大きい島と話してた、ねえキング、私達はあの島に上陸させて貰えるのかしら?」
「上陸は今でも出来るよ、泳いで渡るか漁の為のボートで行くことになる。」
「なあ、マリアさまが城の子を特別扱いしてる事、世界の人達はどう思っているのかな?」
「始めにコロニーリメイクから取り組んだのは尊の案なのだ、中途半端に知らせて行くより、城の子の絶対的な力を一気に世界中に示した方が受け入れて貰い易いだろうとな。」
「前からあの子達の能力の高さは、世界中の人達の知るところ、でも魔法使いレベルとはね…。」
「職業体験を通して大人達と接して来たことがプラスになってると思う。
 心優しき魔法使いだと、世界中の誰もが理解しているだろう。
 マリアの教えを受けている城の子を迫害したら、どんな罰を受けるかなんてことは考えて無いと思うね。」
「そうだよな、新しくなった居住コロニーは人々の心を明るくした。
 愛の言葉がマリアさまを動かした結果だと、尊が人々に伝えたのは、尊なりに考え有っての事なのだろ。
 管理者との関係で居住コロニーの住み心地を悪くしてしまった人達にとって、城の子の存在は本当に特別なものとなったな。」
「何と言っても、人間の技術では改善出来なかった事ですものね。
 問題は、この先、城の子達が恐れの対象になるのかどうかかしら?」
「そうならない様にして行くのが、私達の役目だろう。」
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05 差別 [KING-03]

 子ども達が沖合の島をお花畑にし、その地下に建設して来た大人も子ども楽しめる仕掛け満載の迷路が完成間近となった頃、マリアは八人の教え子に対し授業の一環として…。

『間もなく新たにゲートで繋がる国が有るの、その国について説明を聞いてくれるわね、子ども達。』

 もちろん断る訳にはいかない、全員の端末にデータが表示され、皆画面を見つめる。
 その国は、大人が六十人子ども二十人、国土の面積はスコットランドなどと同規模。
 マリアが解説を始める。

『昨日見せた各国のデータと比べてもこの国の産業に問題のないことは分かるでしょ。』
「でも、余剰食糧が少ないわ。」
『そうね、彼等なりに計算して自分達に必要な量をきちんと確保してるのかな。』
「和の国はまだ見ぬ国への援助を考えて多めに生産してるのよね。
 そういう発想をこの国の人達は持っていないのかしら。」
『かも知れない。』
「言葉はスコットランドと同じという事なの?」
『大体は同じ、でも違いは有るのよ。』
「大人が多いという事は平和な国なんだ。」
『今はね。』
「どういう事。」
『大人達が忘れていた事を思い出した時の事は覚えている?』
「大変そうだった、香たちはちっちゃかったから覚えて無いと思うけど。」
『この国の大人達は皆、過去に犯罪を犯しているの、その事を全部思い出した時に彼等がどうなると思う?』
「え~、どうだろう、でも今が平和だったら、そのまま平和に暮らしたいと思うんじゃないのかな。」
『私には分からない、今から端末の画面に映し出されるのは今の様子だけど、見ながら感想を聞かせてくれるかしら。』

 端末に映像が映し出される。

「色んな人がいるね。」
「あっ、真っ黒な人がいるよ。」
「大人達が、えっと…、皺が多いのね。」
「なあマリア、全員が犯罪者だとして、どれぐらい覚えていて、どれぐらいプロテクトが掛かっているのだ?」
『殺し合いたくなる様な記憶にはプロテクトを掛けたと聞いている。』
「と言う事は、彼等に記憶が蘇ったら、すぐさま殺し合うかも知れないのか…、う~ん、特に記憶が不安定な期間は危険だろうな。」
『キングはどうすれば良いと思う?』
「これまでとは違った出会い方をするしかない、今までは和の国に代表者が来るタイミングで記憶が蘇り始めた、こちらから向こうへ行く事でも同様の結果は得られるのか。」
『そのシステムを開発した者はどちらの国と指定していない、ただ代表者による他国民との対面をスイッチにしただけだ。』
「この国とのファーストコンタクトは何時?」
『明後日の十時。』
「分かった、これから和の国の会議を招集するがそれを子ども達にも見せたい、今日の授業は終わりで良いか?」
『構わない、その判断に賛成だが…。』

 もう一つの告知をマリアから聞いて授業は終わり、すぐさま城のメンバーを緊急招集、データと映像を見せる。

「キング、随分特別な国のね。」
「ああ、まさしく実験的に作られた国だ、他民族国家で犯罪者の集まり、更に老化の進んだ住人が多い。
 まあ、殺し合わない程度の記憶は、犯罪関係であってもプロテクトを掛けられていないとすれば、老化が進行してもおかしくはないな。」
「映像では爺さん婆さんが子どもの面倒を見てたな、かなりの罰を受けたのだろうが死者は四名のみ、プロテクトの掛かり具合が微妙なのだろうか。」
「問題はプロテクトが掛かってる部分の記憶だわ、この国も戦争を経験したのよね?」
「だと思うが、英語を話す多民族国家と言う事からアメリカだと仮定すると、攻撃した側という可能性を否定出来ない。
 彼らがどんな犯罪を犯したのか分からないが、戦争に対する考え方は我々とは違うのかもな。」
「取り敢えず、明日、緊急国連会議を開くとして…、キング、こちらから各国へデータを送る必要は有るのか?」
「ああ、マリアからはもう一つ告知が有り、今度の国が落ち着いた段階でマリア以外の管理者は観察のみに、コンタクトを取る事をやめるそうだ。
 他国のリーダー達はまだ知らされていないが、現時点でもコンタクトの回数は極端に減ってるそうだから、感の良いリーダーは推測しているかも知れない。」
「そうか…、キングは更に特別な存在にと、だが、キングがこの世界の王になったとしても反発は少ないのではないかな。」
「今はそうでも今後の事は分からない、ただ、この世界のすべての子ども達を城の子の影響下に置く事は難しくないと思うし、子ども達がまだ幼い今のタイミングで、はっきりさせておいた方が良いと思う。
 もっと大きくなってからだと他の国の子ども達が成長して余計な事を考えてしまうだろう、どうして城の子ばかりが特別扱いされるのだろうとかね。
 でも、今なら自然な形でリーダーとなれる、但し楽ではない、そうだったね望。」
「はい、マリアさまもその様に。」
「大変だと感じたら何時でも言うのよ、私達八人はあなた達の為に居るのだからね。」
「はい。」
「では、緊急国連会議に向けての準備を始めよう。」
「私は各国にデータを送り時間の調整をするわ。」
「私は…。」

 大人達は国連会議に向けての準備を始める。

 子ども達は、事の重大さを理解していたのか真剣に聴いていた。
 マリアは城の子達の教育を考えている、将来この世界のリーダーとなる城の子達の教育、それは新たに交流を始める国よりも重要かもしれない。
 もちろん、欲張り者の私は両方を尊重するのだが。
 子ども達に問題の解説を加える。

「あの国の問題は大きく二つ有る、一つは大人達が昔、人を騙したり傷つけたりした経験が有るという事。
 昔、私達大人が暮らしていた世界では、人を殺してもこの世界の様に自分が死ぬことはなかった、ここでは罰が有るから悪い事をしにくいが、昔いた世界ではどれだけ悪い事をしても上手にやっていれば長生き出来たのだ。
 そんな過去を思い出して反省する者ばかりなら問題ないが、そうはならないだろう。」
「せっかく平和な国を作ったのに壊してしまうの?」
「可能性は有る、もう一つの問題も有るしな。」
「どんな問題?」
「色んな人種の人がいただろ、昔は人種差別という事が有ったんだ。」

 子ども達にはまだ早いかと思いながらも、差別の話をした、我が国でも二丁目の住人や九丁目などの住人が差別の対象になる可能性が有る事、それに対して三之助中心に大人達が色々考えている事も含めてだ。

「父さんは、どうするつもり?」
「まずファーストコンタクトの段階で、彼等が知らない事を説明しようと思う。
 蘇る記憶には犯罪者としての記憶が含まれるという事、人種差別で対立していた可能性が有る事、和の国が併合した国で起こった事などを説明した上で、大勢の大人に協力して貰い、あの国の人達に記憶が蘇る時の手助けをする、殺し合わない様にね。
 幸いな事に英語を話せる大人は多いからな。」
「僕たちは何をすれば良い?」
「向こうの子ども達を和の国へ移動させようと思う、子ども達の不安を軽くして欲しい。」
「マリアさまが転送してくれるのね。」
「いや、出来るだけマリアの手を借りないのがここのルールなのだ、今回は色々情報を貰ってるからじっくり準備して無駄に死ぬ人が出ない様にする、手伝ってくれるな。」
「はい。」
「明日の緊急国連会議にも参加してみるか、途中で嫌になったら静かに退席が条件だが。」
「何か急に大人になった気分だね、各国のリーダーの話を真面目に聞くよ。」
「今までもキングは私達をどの大人よりも子ども扱いしないでくれてた気がするわ、私はその気持ちに応えたい、でも八人は多いと思うから、誠たちには私達から伝えるということでどうかしら。」

 愛は弟たちを気遣って発言したと思う、彼等は精神的にも急速に成長していると実感する。
 
 翌日、緊急国連会議を終え、国民に事情を説明すると夕方になっていた。
 城のダイニングルームで夕食を兼ねての定例会議。
 今日から、四人の子ども達の参加を許す事にした、強制ではなく自由参加だ。
 様子を見ながら誠たちも含めた八人にして行こうと思う。
 翔達四人はコロニーのリメイクを通して、広く特別な能力を持つ存在として知られているし、マリアの授業を受けている子達で役割分担を決め、この世界の子ども達をリードしてくれている。

「あの国の子ども達がどういう育ち方をしているのかも問題よね。」
「子どもに対してずる賢く生きる事を教えるにしても、もう少し成長してからではないのか。」
「まさか子どもが悪い事をしたら、罰として老化、つまり成長するという事はないよな。」
「マリアさまは、子どもに罰を与える事は無いと話してたわ、でもね、罰が有るかもと思っていた方が良い子に育つから内緒にしておこうって、キングがね。」
「望、教えてくれて有難う、私達も内緒にするよ。」
「少なくとも城の子が罰に値する様な事をするとは思えないが、弟たちは知っているのか?」
「愛がきちんと説明してくれたよ。」
「愛、どんな風に話したか教えてくれる。」
「ええ、城の子はこれから先もこの世界では特別な存在、それは特別に楽しい経験をさせて貰えるという事だけでなく、この世界を大切に守って行く立場として特別な役割を持っているということ。
 弟や妹達はきちんと理解してくれたと思うし、ちっちゃい子達は香が導いてくれるわ。」
「特別なのは僕らだけではないでしょ、城の大人達はどうなの?」
「そうだな、私達に魔法は使えないが、罰を受ける事なく過ごして来たからか、ここにいる八人は初めて出会った頃からほとんど変わっていない。」
「あっ、マリアさまは、色々な意味で他の国は和の国ほど成功しなかった、と話してたわ。
 確かに他の国のリーダー達とは、ちょっと違うと思う。」
「そうね、これは私の推測だけど、この八人は初めて会った時から喧嘩をしてないの、でも他の国のリーダー達は小さな喧嘩をしている、罰にならない程度だけど私達程仲良しではないという事ね。
 そして、あなた達が喧嘩をしている所を見た事がない、城が特別なのはその辺りに理由が有るのかもしれないわ。」
「喧嘩するほど仲が良いとか言う人もいるが、私はマリアが絶妙に相性の良い八人を集めたと考えている、遺伝的にもね、それがこの城の成功なのだろう。」
「成功したから特別なんだね、父さん。」
「たぶんな。」

 正解は分からない、ただマリアがどれだけ私達の脳を改造したのかも分からない。
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06 作戦 [KING-03]

 新たに繋がる国との交渉、そのすべてを子ども達にも見せる事にした。
 それに対して子ども達は好奇心の塊となり、大人達に様々な疑問を素直に投げかける。
 質問は私達だけでなく他国のリーダー達へも。
 一人のリーダーは城の子の質問には積極的に答える様、自分の管理者から言われたと笑っていた。
 ファーストコンタクト時、これから付き合い始める相手国のリーダーさえもが、管理者から子どもが同席する事を知らされていて、子どもの話を聞くよう要請を受けたと話したのには驚いた。
 マリア達管理者全員が城の子を特別な存在だと考えているのだろうか。
 ただ、子ども達の質問が大人に見落としを気付かせた事が有り、リーダーが城の子に質問をする場面も出て来ている。

 ファーストコンタクト以降、今回は、とにかくテレビ電話での交流を多く持った。
 英語なので翻訳機能は必要なく音声通話での自己紹介や国の紹介に始まり…。

「そちらの国民に蘇る記憶は犯罪者のもの、だが我々はあなた方の過去を問わない。」
「そう言われても…。」
「そちらでは死者こそ四名だが老化が目立つ、罰を受けてるのだろう。」
「確かにモニター越しのあなた方は若々しい、我が国は表向き平和だったが、傷つけ合う事がこの所増えた、その結果が…。」
「人種差別意識はないのか。」
「う~ん、言われてみれば心のどこかに有るのかもしれない、これで記憶のプロテクトが解除されたらどうなる?」
「精神的に不安定になることは間違いない、その時殺人を犯せば殺した本人も死ぬ、それがこの世界のシステムだ。」
「私はどうすれば良い?」
「すべての国民に、この事を理解させて欲しい、何ならモニター越しに我々が全国民と話し合っても良いのだが。」
「明日にでも直接会えると聞かされていたがだめなのか?」
「その瞬間から記憶のプロテクトが外れ始める、一つの国ではすぐに殺し合いが始まった、あなた方の国でも近い事が起こる可能性が有る、我々としてはそれを止めたい、それには充分な準備期間が必要だ。」

 時間を掛け我々が経験した事を詳しく説明、好ましくない状況になった時の対策を話し合う。
 その一方、六カ国合同で相手国を訪問する二百名ほどの訓練を行っていた。
 誰しもが和の国に併合された国で起こった悪夢を再現させたくないと考え、色々なケースを想定しながら真剣にだ。
 彼等が犯罪者だという事に抵抗を感じる者もいたが、ゲートで行き来を制限出来るからと納得して貰う。
 ただ、相手国の国民にどんな犯罪歴が有り、どんな能力を持っているかが最大の不安材料、例え見掛けが年老いていても、女性であっても油断するなと言い聞かせている。
 準備期間中、城の子の存在は大きかった、向こうの子ども達にモニターを通して説明してくれただけでなく、向こうのリーダー達からの質問に答えている。
 大人同士の会談で知り得た情報を子どもに確認することで安心感を得ている様だ。
 どうやら、その過程で女性リーダー達に気に入られてしまった様で長話しになりがち、子ども達の為に周りの大人が気を付けて対話を終えるきっかけを作る必要が有る。
 それぐらい、両国の親善には大きく役立ってくれた。
 国連六カ国が協力し合っての準備作業には日数を掛けたが、現時点で考えうるすべての危険に対処出来る体制を整えた。
 しばらくの間、先方のメインエリアは誰もが二十四時間滞在可能になる。
 表向きは向こうのリーダーを通して管理者にお願いして貰った結果となっているが、事前にマリアの了承を得ての事。
 この交渉を通して、マリアが私達の世界に対し最上位の権限を持っていると初めて教えられた。

 そして迎えた対面の日。
 時間を掛けて練り上げた作戦計画が実行される当日は、各国から二百人近くの大人が和の国、国際ゲート前に集まった。
 一旦全員でゲートを越えサポートを始めた後は、状況を見ながら滞在者を減らし、その後交代で支援を続けて行くという手筈に。
 向こうの子ども達には全員ゲート近くに集まって貰い、大きい子が乳児を連れてゲートを越える事になっている。
 大人達は人種ごとに集まって貰っているが、人と人は間を置くように指示がしてある。
 予定の配置になったとの連絡を受けカウントダウン、まずは尊と香がゲートをくぐり、子ども達を招く。
 画面を通して顔見知りとなっていた子ども達は、二人が抱えていたぬいぐるみを見て嬉しそうに駆け寄り、そのまま二人と一緒にゲートを越えて和の国へ。
 子ども達の考えた作戦が成功したという事だ。
 そして、大人達が向こうの国へ足を踏み入れ、人々に声を掛けて行く。
 ここからは時間との勝負だ。
 我々は精神状態が不安定になって行くであろう人達の状況を一人一人見極めなくてはならない。
 画面越しに見知った人と改めて挨拶を始めて十分もしない内に彼等に異変が起き始めるが、これは想定内のこと。
 こちらからの訪問者は観察者となる。
 その一人が異変を感じた者に声を掛けると、暴力的衝動が涌き始めたと言う。
 促されて居住コロニーへ入って行った。
 同様に二名が一人ずつ別の居住コロニーへ。
 突然暴れ始めたのは四名、バランス良く屈強な男性を配置しておいた事が功を奏し、用意していた檻へ入れる事に成功したのは、彼等の老化が進んでいた事も幸いした。
 他の大人達は、大人しく静かに蘇る記憶と向き合っている。
 中には過去の犯罪歴を語り始める者も、人に聞いて貰う事で苦しみを和らげたいのかも知れない。
 過去に犯罪を犯したからと言ってすべての人が危険人物だとは言えないだろう。
 この世界で人を殺せば自分も死ぬ事になると、時間を掛けて説明してある。
 問題は、蘇った記憶が死にたくなる様なもので有ったら、誰かを道ずれにしてと考えたら。
 皆、細心の注意を払いつつ対応しているが、全体が穏やかになったので私は城へ戻った。

「そろそろ、お茶かしら、それともお食事かな。」
「麗子の、その呑気さには救われるよ、翔、三郎に連絡してお茶か食事か聞いてくれるか。」
「はい。」
「愛は尊と連絡を取って、子ども達の今の様子を聞いてくれるか。」
「はい、彼等は今の所問題なく香たちと遊んでいます、乳児達は母さんから問題ないと連絡が入った所です。」
「ならば、その情報を三郎に伝えてくれるか。」
「はい、心配してるだろうと思って連絡しておきました。」
「有難う、他にしてくれた事は?」
「尊からの指示で、今の事は各国のリーダー達へも伝えました、彼等からはこちらの判断を聞かれましたが、まだ成功かどうかの判断を下す段階にはなっていないと伝えておきました。
 向こうのリーダーへも子ども達の様子を、彼は辛そうでしたが、よろしく頼むとの事でした。」
「ふむ、愛、翔、この作戦は成功するかな。」
「目先の危険分子七人は抑えましたが、他の人の危険性が分からなくて不安です。
 ほんとは皆が怖い思いをしない様に記憶の蘇りが終わり落ち着くまでゲートを閉ざしておいて欲しい所ですが、ここでどれだけあの人達を尊重し手助けできるかによって、今後の友好関係が違う物になります。
 今は誰も傷つかない事を願うのみです。」

 話の途中、翔は明らかに愛の不安に気を使った。
 二人の緊張がこちらにも伝わって来る。
 本当なら、まだ無邪気に遊ぶのが普通な年頃、急速に成長しているとはいえ、まだ子どもなのだ。
 酷な仕事をさせている事に気が引けるが、彼等はこの世界のトップリーダーになる宿命を受け入れてくれた。
 私の役目は彼等を守り育てる事、この世界の平和を願いつつ…。
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07 揉め事 [KING-03]

 作戦の初日、相手国の三名が死亡した。
 予定外の事では有ったが作戦の失敗とは言えない。
 元々老化の進んでいた人が、記憶の蘇りに耐えきれなかったとの報告を受けたからだ。
 食事の差し入れ業務、サポート担当者の交代もスムーズに行なわれている。
 残った五十七名の過去は少しだけ聞き出せた、それが事実かどうかは分からないが。
 ただ彼等が元犯罪者で有ったとしても、暴力を振るわず過去の事を忘れてくれたら何の問題もないと考えている。

「向こうからの連絡はどうなの?」
「先程ロックから定時連絡が有ったが、特に問題は起きてない、居住コロニーの三名は落ち着いて来たが、三人とももうしばらく一人で居させて欲しいとの事、檻の四名は暴れて悪かったと反省しているそうだ。
 気になるのは、人種毎のグループを見て回ってる三之助から、人種グループ毎に老い方の程度差が有るが、一グループだけ特に若く感じられると報告が有ってね。」
「罰を受けて無いから問題がないとは考えてないのね、三之助は。」
「その様だな、私は見過ごしていたが、特別な存在は要注意だ。
 あっ、八重、お疲れさま、子ども達はどうだった?」
「乳児は保育担当者達が面倒を見ていて大丈夫。
 城の子に面倒見て貰ってる子達は麗子のおやつを満足そうに食べてたわ。
 香中心に、沢山遊んで疲れた子から寝かせる作戦が進行中よ。」
「事前に顔合わせをしておいて正解だったのかな。」
「多分ね、香たちは愛や望とも相談していて、自分の役割を把握しているみたい。
 もう、私達が教える事なんてないのかも知れないわ。」
「そうだな、尊や翔も色々教えている、城の子達の教育はもう彼等に任せて良いのかも。」
「ロックは早々と自分で教える必要を感じなくなり、城の子以外に集中しているものね。
 マリアさまとキング、そして三年生が城の子の先生ということかしら。」
「はは、私の出番は、もう、ほとんど無いよ。
 彼らは自分で考え相談し動いているが、その判断に間違いは感じられない。」
「それは頼もしいね、私はそろそろロックと交代しに行くが、持って行く物は?」
「セブン、麗子が用意してくれた夜食をお願い、一花が三之助と交代すると言ってたから一緒に行ってね、それと子ども達の様子は端末で尊を呼び出せばライブ映像が見られるの、子どもの事を心配している人がいたら見せて上げて。」
「分かった、キング、今回の交代は一花以外は予定通りだ。」
「三之助は予定を早めるのか?」
「ロックからの指示よ、今夜だけじゃないから三之助に無理させるなって、私が代わろうかと思ったけど、セブンと一緒なら自分が行くって、一花が。」
「そうだな、セブン達の後はスコットランドに引き継ぐが、何時何が起こるか分からない、皆、休める時に休んでくれな、八重、三郎は?」
「さすがに疲れたと話していたけど、もう少し作業を続けるそうよ。
 ロックや三之助と連絡を取り合いながら進めて来た五十七人の分析が今一つスッキリしないとかで、特に向こうのブラックコロニーが特定出来ていない事が気になるって。
 今までの国は簡単に特定出来たでしょ、死者が多く老化の進んでるコロニーだったから、でも今回はね。」
「そうだな、全部がブラックコロニーの可能性だって有る。」
「あっ、三郎から連絡だ。」
『ロック、セブン、コロニーDが怪しい、コロニー居住者全員の所在を確認してくれ。』
『分かった、特に気を付ける事は?』
『本人が直接人を傷つけることはないが、言葉巧みに他人同士を傷つけ合わせている節が有る。』
『やはりな、三郎、こっちでも一人に違和感を感じて、今、三之助が対話を始めた所だ。』
『ロック、どんな人物?』
『この国の中では若く見える白人女性だ。』
『なら間違いない、三之助が相手してるのなら問題ないだろう、セブン、他の連中のデータは確認してくれたか。』
「ああ、今確認した、これからどう動く?」
『あまり慌ただしく動いては向こうの連中に不安感を与える事になる、まずセブンはロックと合流して、コロニーDのメンバーを居住コロニーへ隔離してくれないか、このグループはサポート担当を巧妙に言いくるめてバラバラに行動しているんだ。
 全員若く見える白人というのが共通の特徴、探し易いだろう。』
「了解した、適当に理由を付けて居住コロニーへお帰り願うとするよ。」
『私はキングに報告してから、そちらに向かう、自分の手を汚さずに揉め事を起こして他人の老化を促進させた連中の意図はまだ分からないがな。』
「分かった。」
『では、また後で。』
「という事で、すぐに行くよ、夜食は一花に任せてくれるか。」
「ええ、気を付けてねセブン、必要なら私も向かうから連絡して。」
「ああ。」

 その後一花も出かけ、しばらくして三郎がダイニングルームへ。

「キング、向こうに入った時から違和感が有ったんだ、複数の人種が共存している中で、特定の人種だけ若いという事にね、でも罰を受けてないのだからまじめで平和的な人達だろうと思っていた。
 ところがこちらに戻り向こうの音声情報を探っていたら、その一人が巧妙に、実に巧妙に他人を争わせる様、仕向けていたんだ。」
「他の人達を争わせ自分は高みの見物、ここの罰則に引っ掛からなかったという事なのだな。」
「何の為にやってたと思う?」
「他の人種グループから力を削ぐ為か…、そんな事を記憶にプロテクトの掛かった脳で八人協力してやっていたとは…、排他性は本能的な物なのだろうか、あ、連絡だ。」
『キング、三郎、ブラックコロニーの八名は居住コロニーに集めた。』
「早かったな、こちらは八重と麗子に任せて私達もそちらに向かう。」
『ここのリーダーも呼ぶか?』
「いや、まず我々で状況を確認してからにしよう。」

 八重と麗子には端末で音声を送ると伝え三郎とゲートをくぐった。
 ゲートの近くでロック達と落ち合いコロニーDへ連絡を入れる。

「皆さんとお話しするのは初めてですね、和の国リーダー、通称キングです、少しは落ち着きましたか?」
『ましにはなったが、まだ落ち着かない、我々は居住コロニーへ戻る事を許されたが程度が軽いという事か?』
「誰も暴れなかったからな。」
『しばらくコロニーから出なくて良いと言われたが大丈夫なのか?』
「ああ、家畜の世話などは、こちらでやるから安心してくれ、そのコロニーに食料は充分有るのか?」
『今日に備えて二週間分の蓄えが有る、ささやかな畑も有る。』
「では、少し踏み込んだ質問をしたいが構わないか。」
『短い時間なら大丈夫だ。』
「君達以外の人種をどう思っている? もしくは君達の事をどう思っているかでも良い。」
『えっ…、べ、別に人種の事は考えていない、この国には色々な人種がいて協力し合って来た、皆、仲間だ。』
「そうか、ならば安心だ、ではゆっくり休んでくれ、暴力的になった人もいたからしばらく居住コロニー住まいになる。
 子ども達の様子はそちらでもライブ映像を見られる様にするので安心して欲しい。」
『分かった。』
「ではお休み。」

 スコットランドチームと管理業務を交代するまで他の人達の様子を見て回り情報を仕入れた。
 コロニーDに関しては暗い表情のリーダーから許可を得て、ゲートを私の許可なく出られない設定にしたが、リーダーの彼にその理由を聞くだけの余裕がなかったのは幸いだった。
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08 監視 [KING-03]

 城へ戻り。

「八重、子ども達は?」
「もう寝たわよ。」
「私達も明日の事が有るから早めに休みたいが、状況の整理をしておかないとな。」
「キング、やはりコロニーDの彼等には人種差別意識が有りそうな気がするわ。」
「そうだな、推測でしかないが自分達は優秀な人種、もしくは他の人達を低い人種と考えている可能性が有る、またリーダーグループではない自分達を、より優位な立場にしようと考えたのかも知れない。
 そして、この世界のルールを利用して自分達の思いを成功させつつ有った。
 彼等の誤算は他に国家が存在していた事、我々との接触は考えていなかっただろう。
 もう一つの誤算はこの先、労働力不足になる可能性、まだ気付いていないのかも知れないが。
 三之助、相手をした女性はどうだった?」
「ほんとにすごい話術だったわ、完全に良い人を演じながら他の二人を争いに導いていこうとしていたの。
 第三者として気を付けて見ていて、ようやく何か企んでいると気付けるレベルでね。」
「二丁目とは逆に頭の良い人達なのか…。」
「とりあえずキングは、ちょっと気付いてると匂わせた、頭の良い人なら過剰反応するかも知れないな、精神状態の不安定な時だけにね。」
「他国へはどう伝えるの?」
「まだ事実かどうか完全な裏付けは取れていない、調査の必要が有る。
 確証が得られたとしても混乱させない為に、しばらくは誰にも話さないのが最善だろう。
 今までのブラックコロニーと違って、あの連中が一番長生きする可能性が有る、我々の方針を固めてから調整した方が良いと思う。
 まずは三郎と三之助であの国を担当して貰えるか? 残ってる人達の肉体年齢とかも把握して欲しいのだが。」
「そうだな、やってみるよ。」
「ブラックコロニーはしばらく様子見ね。」
「様子見…、そうだ、私達の端末でマリアの隠しカメラを見る事が出来る、マリアが子ども達に教えていた。」
「あのコロニーを監視出来るのね、どうやるの?」
「明日、尊に設定して貰おう、私達では時間が掛かり過ぎるのだ。」
「そいつは我々以外、誰にも知られたくない機能だな、その存在さえも。」
「子ども達は私達の知らない事も教えられているのね、履歴を見せて貰った時は多過ぎて良く見て無かった。」
「空気中の酸素濃度を調べたり、統計情報の整理、人の感情を数値化するなんて機能も有る、子ども達は、我々が必要としていない機能も教えて貰っていたという事だ。」
「監視機能以外に活用出来そうな機能はないのか?」
「もう一度検討してみるが…、嘘発見器は使えそうだな、後は子ども達と相談だ。」
「隠しカメラ映像は向こうへ行かないと見られないの?」
「え~と…、あっ、そうか、マリアはここですべての国を管理出来るシステムを与えてくれた様だ。
 教えられた時は、使う事を想定してなかったので深く考えていなかった。」
「どういう事なんだ?」
「城の子は、この世界に存在するすべての隠しカメラ映像を見られる、端末をハッキングする事もだ。」
「そこまでとはね…。」
「尊には明日の予定を変更して貰って、ここからコロニーDを監視出来るようにして貰う。
 念のため他国のリーダー達が手にしている端末をこっそり調べ、可能ならこの機能を使えなく…、まあ、彼らには使えないと思うが念の為にね。」

 城の住人以外に知られたら問題になりそうな機能をマリアは子ども達に教えた。
 城の子の口から他へ漏れてはまずい情報だ。

 翌朝、コペンハーゲンから現場管理を引き継ぐ為、現場へ向かった三郎から連絡が入る。

『こちらは至って平穏だ、夜の間もトラブルはなかったそうだ。
 差し入れた朝食は喜んで貰えた、三之助は嘘発見機能をさりげなく使いながら聞き取り調査をしているが、国民の状態は悪くないと話していた。』
「嘘発見機能は使えそうか?」
『三之助が感じた嘘と端末が判断した嘘とは概ね一致してるそうだ。』
「三之助が居れば嘘発見器はいらないって事か。」
『だから教えられなかったのかもな、ところで例のコロニー、隠しカメラの映像は見られたのか?』
「ああ、思っていたよりカメラの数が多くて確認に手間取ったが、尊は家の間取りも確認してくれたよ。
 今は、そのまま他国の端末を確認して貰っているが、我々の端末より使える機能がかなり少ないみたいだ、念の為、隠しカメラ映像を見る事が出来るかどうか確認して貰ってる。
 コロニーDの連中は、今しがた会議を始めた所だ、人種差別的発言が飛び交う中、状況変化に困惑している様子が伺える、録画しているから帰ったら見てくれ。」
『分かった、彼等への差し入れはどうする?』
「テレビ電話でさわやかな笑顔と共にお伺いを立ててくれるか、後ろに黒人の姿が入ると効果的なのだが。」
『分かった、やってみるよ。
 そろそろ、城の子が彼等の子ども達と遊んでいる映像を見せたいと思うがどうだ?』
「ああ、翔に頼んで、色んな人種の子達が楽しそうに遊んでる姿を録画して貰っている、翔と連絡を取ってくれ。」
『了解した、また連絡するよ。』
「よろしく頼む。」

 人を陥れるのは私達らしくない事だ。
 しかし、多くの人を巧妙に争わせ、老化という罰を受けさせた連中を放置して置く訳には行かない。
 彼等の会議風景はそれを決断させるのには充分過ぎた。

 昼過ぎ、三郎からの定時連絡では…。

『キング、さりげなく聞き取り調査をしているがあのコロニーの連中は実に巧妙だった様で、皆、知らぬ間に争わされていた事を意識すらしていない、何故老化を招くような争いをしたのか尋ねると、どうして喧嘩したのだろう、という感じの答えが返って来てね。
 まだ、プロテクト解除の途中で、頭が上手く回ってないのかも知れないが。』
「コロニーDの連中はかなり頭が良いのかもな。
 三郎、家畜の世話とかはどうなっている。」
『応援に来ている人だけでも何とかなりそうだが、落ち着いて来た人が働こうとし始めた、共に働くという良い形になって来てる。』
「トラブルになりそうな所はないか?」
『スコットランドからの応援者とヒスパニック系が少し、用心して早めに作業分担を入れ替えた。』
「今は、どこにいる?」
『スコットランドが麦畑、ヒスパニック系がスオミの連中と養豚場だ。』
「了解した、今後のスケジュールを調整しておくよ、何かあったら連絡頼む。」
『ああ、監視の方を頼むよ。』

 世界中に隠しカメラが設置されている事は以前から分かっていた、音楽村の人達がその映像を見たと話していたし、私達も相手国の映像を見せて貰った。
 マリアは子ども達にその閲覧方法を教えてくれたが、私はその必要性を考えていなかった、というより使いたくないと考えていた。
 だが今はこの世界のリーダーとして使いこなさなくてはならないと思っている、世界平和の為に。
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09 地下室 [KING-03]

 二日目は静かに経過、だが城の住人による夜の会議は普段とは違い少々熱を帯びるものになった。
 コロニーDの監視映像が原因だ。

「城の子が子ども達の世話に時間を取られてて良かったな、こんな映像見せたくないぞ。」
「記憶のプロテクトが外れ始め、差別意識が、さらに膨れ上がったみたいね。」
「一応プロテクト解除に伴う苛立ちが落ち着くまで待ってみるべきだろうが。」
「自分達が罰を受ける事無く、和の国を亡ぼす方法を考え始めるとは思わなかったわ。」
「どんな手段を考えるのか興味深い、わくわくするよな。」
「う~ん、確かにそうなのだが…、この国の芸術文化系コロニーって確認できたか?」
「えっ、もしかして。」
「今までの調査では…、芸術的な犯罪って事なのか?」
「それっていらないでしょう。」
「二十人の子ども達の中で彼等の子は十一人、子ども達が受け継いだかもしれない資質は無視出来ないかも。」
「それより親達はどうするの?」
「隔離は出来ている、このまま居住コロニーで一生を過ごして貰う事も可能、チャンスを与える事も可能、ただ彼等の一生を私達の一存で決めるというのは、リーダーの役目とはいえあまり気持ちの良いものではないな。」
「かと言って、外に出したら静かに和の国滅亡計画を実行するのだろ。」
「もし彼等が動いたら、どれぐらいの人が乗るのかな。」
「今は和の国が好きな人でさえ説得されるかもよ、それぐらい言葉巧みなの。」
「子ども達の試練を増やすか減らすかという問題でも有るな、試練によって鍛えるか、要らぬ試練から守るか。」
「鍛えるのはもっと先で良いと思うわ、第一世代の問題は私達の責任でしょ。」
「だな、まずは観察させて貰おう、そうだ、いっそこの映像を編集して娯楽映画とか作るか。」
「作れないでもないが、彼等の子ども達の目に入る可能性が有る、記録として他国のリーダーに見せる程度にすべきだろう。」
「いや、極秘にすべきだ、我々に監視能力が有る事を他国に知られるべきではない。」
「だがそれでは他国に対して説明しづらくないか。」
「嘘発見器を使った事にすれば良いのじゃないかしら。」
「小細工は回りまわって私達の嘘がばれる事に繋がりかねない。」
「この様なブラックコロニーが存在する現実を考えたらスパイ能力を他国に与える事は勿論、その存在を明かすことも避けるべきだな、他国への説明は何とかするから、端末の機能は隠しておこう…。
 尊はハッキングの結果、他国の端末から隠しカメラ映像を閲覧することは出来ないと話していた。
 和の国の端末と外見は同じでも、機能はおもちゃレベルなのだとか。」
「それは…、少し考えさせられることだな…。」
「多機能な端末を持たされてる私達は、それだけ責任が重いと言うことかもね。」
「そう考えると、私達のスパイ活動も世界の安定の為には必要、マリアさまはそこまで見通していらしたと…、人を監視するのは気持ちの良い事では無いけど、私達の役割を考えたら綺麗ごとばかり言ってられない、人が自らの寿命を縮める行為を未然に防げるかも知れないよね。」
「今日は他のカメラも見たのだが、今回の作戦行動が和の国主導で行われている事に不満を感じているスコットランド人が見つかった、そう言った人のフォローも考えて行かないとな。」
「今の様子なら私達は一歩下がっても大丈夫そうよね。
 疲れたとか適当な理由を見繕ってスコットランドにメインの管理をお願いしても良いのでは無いかしら。
 そうすれば私達はモニターでの監視業務に時間を割けるでしょ。」
「それで構わないが、監視はいずればれるかもな。」
「その時は平和の為に監視していましたって、でも嫌われるでしょうね。」
「嫌われる日をなるべく先延ばしする事を考えようか。」
「そうだな。」

 人を監視する事に抵抗は有る。
 だが、監視をしっかり出来ていれば、併合した国での死者を減らせたかも知れない、罰を受けた人の数を少なく出来たかも知れない。
 人々の不満を知れば、それを軽くも出来る。

 三日目、スコットランドにメインの管理業務を引き継いで貰った。
 コロニーDの連中を閉じ込めて置きさえすれば、他は体力に衰えを感じている普通の元犯罪者、銃器も無く、私たちの代わりとして入って貰った屈強な三丁目の連中に逆らう様な事は無いと、二日目の状況から判断した。
 主な理由として城の子の教育の為としたが、これはあながち嘘では無く、城の子を交えての会議を開く。

「翔は、ここの監視システムの事、どう思ってる。」
「この世界の隅々まで気を配る大切なシステムだと思う。」
「監視されてる側はどう思うだろう?」
「知らなければ問題ないでしょ。」
「誰かが間違って秘密を漏らしてしまったら?」
「母さん、心配なら城以外の人達にプロテクトを掛ける事は可能だよ、監視システムのことを耳にしても何の事か全く理解できない様にすることが出来るんだ。」
「それを実行するのはいささか抵抗を感じるわね。」
「でも、ずっとじゃない、僕らが十六歳ぐらいになったら、そういった制御は出来なくなる様にプログラムされていてね。」
「そうか…、ここは我々の負担を減らす意味で、もしもの時はプロテクトをお願いするのも有りなのかな。」
「大切なのは第二世代をより良い大人へ成長させる事なのよね。」
「その為には、多少の倫理的な罪を私達が背負う事になっても、う~ん、翔が十六歳になるまでに、より強固な社会基盤を作っておけば良いのよね。」
「大人達にプロテクトを掛けるのはさほど抵抗を感じないが、子ども達にはちょっとな。」
「子ども達は大丈夫、マリアさまが何時でも見守って下さっていると僕らが教えてるからね、子どもにプロテクトは掛けられないし。」
「ならば…、監視システムの事は出来る限り秘密に、もし漏れてしまって、そのことが社会の安定にマイナスになりそうだったらプロテクトをお願いするが、どちらにせよ強固な社会基盤の構築を目指す、とした上で遠慮なく監視システムを使う…、いや、その前にこの件に対する反対意見は?」
「使う側の良心に問題がなければ大丈夫でしょ、このシステムを使う事でより安心して子育てが出来るのなら反対する理由はないわ。」
「反対がないのなら、使用に関しての問題はモニターの数だな、カメラは沢山有っても端末の台数に限りが有り効率が悪過ぎる、キング、何か手はないか。」
「その答えは尊が持っている。」
「はい、これから更にマリアさまの技術を教えて貰う事になっています、次の工作の時間はモニターを作る事にします。」
「そんなに簡単なのか、キング。」
「まずは部品を受け取って最終の組み立てを覚える、それから各部品の作成を習得、その後材料の製造、と工作の授業は随分先までプログラムされてる、ちなみに城の子しか作る事が出来ないと言われてね、私は城の大人だから作れない。」
「はは、だが城の子全員が製造業に従事しても良いのか?」
「多くの時間を工作だけに使う訳ではないから心配に及ばない。」
「居住コロニーと違って作業は人に見せられないだろ、教室として使ってる部屋で大丈夫なのか?」
「地下室を工作用の部屋にしたので心配は要らない。」
「えっ、地下室が有ったのか?」
「ああ、使い道が牢獄とかにならなくて良かった、地下研究室、地下工場、そうだな監視ルームも地下に作ろう、城の住人以外は出入り出来ない設定にして有るが、さらに亡霊が出たりと…。」
「亡霊?」
「望、どうなった?」
「地下への入口に部外者が近づくと、一花おばさんがお話で聞かせてくれた、悪い子を食べちゃうおばけが出て来るわ。」
「それって、怖いの?」
「どうかしら、よく分からないから、悪い子を食べちゃう様なのを想像してみたけど。」
「翔、画像は見られないのか?」
「ふふ、今、皆の端末に送るよ。」
「こ、これは…。」
「却下だな、こんなに可愛い亡霊では無駄に人を引き寄せてしまう、一般人が地下へ入れないとはいえ、その存在は極力秘密にしておきたい、このキャラクターは食堂で使おう。」
「地下への入り口の方はどうするの?」
「変な小細工は要らないのだろ、キング。」
「いや、この城にも亡霊の一人ぐらい住まわせたいと思ったのだがな。」
「亡霊と言ってもこの城で死んだ人はいないし。」
「そうだな…、では別の遊びを、子ども達、後で秘密会議だ。」
「ラジャー。」
「はは、結果を楽しみにしてるよ、ところでモニター以外はどんな物が製造出来るのだ?」
「次の一年生が持つ端末は誠たちが造る事になっていて少しずつ学習している。
 さすがに複雑で完成まで時間が掛かりそうだ、他国のリーダーの持つ、尊曰くおもちゃ程度の物ではないからな。
 他はマリア達のテクノロジーを使った道具で、欲しい物が有ったらリクエストしてくれるか、但し外部の人にその存在が知られてしまうものは不可だ。」
「条件さえクリア出来れば何でも作れるという事か?」
「だよな、尊。」
「はい、マリアさまは僕たちに全てのテクノロジーを教えて下さるそうですが、この世界の人達は自分達の技術を自分達の力で発展させて行くべきだと。
 その範囲でなら助言する事を許されていますが、僕らにとってはマリアさまから教えて貰う技術以上に難しく思えます。」
「魔法を使えないと簡単ではないということなの?」
「まあ、そんなところです。」

 この世界の人にとって、自給自足の原則を変えないのがマリアの方針。
 その一方、島の秘密基地ではすでに大きな物の制作に取り組んでいるのだが、それはまだ秘密で、私が見ても何を作ってるのかさえ分からない。
 マリアには秘密が多い。
 はっきり分かっているのは、マリアが例のブラックコロニーに全く興味がないということぐらいだ。
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10 罰 [KING-03]

 我々当面の最重要課題はコロニーD、通称ブラックコロニーだ。
 その監視カメラ映像を見ながら…。

「苛ついていて、多少の言い争いはしてるが、罰を恐れて自制しているみたいだな。」
「結構な自制心だ、それが有ったからそんなに老化していないのだろう。」
「十一人の子ども達が全く差別の無い社会で暖かく守られている状況、黄色人種を兄姉の様に慕っている状況はさすがに気に入らないみたいね。」
「教育し直さなければって言ってた奴がいるぞ、でも子ども達はもっと親を恋しがるかと思ったが、そうでもなかったな。」
「遊びに夢中だからね、モニター越しに親と対面しても、親の表情が険しくては恋しさも薄らぐのだろう。」
「あら、やはり戦争の原因は日本だと流布する作戦にたどりついたのね。」
「彼等にとって真実は関係ないからな、でも説得力の有る根拠をでっち上げられるのかね。」
「どうするキング、この調子では当分コロニーから出せないが、他の国にその理由を説明出来ないぞ。」
「なに、一番気にしてるスコットランドの担当者でさえ、今は他の人達のことで精一杯、コロニーDにまで気を回せていない。
 我々が状況を確認してピンポイントで効率よく動いていることに、負けたくない気持ちが強くて焦っているのだろうな。
 他の担当者は城のメンバーに口出しする必要は無いと考えてるみたいだ。」
「もうしばらく様子を見ていても問題なさそうね。」
「場合によっては、タイミングを見計らって、スコットランドの頑張り屋さんとブラックコロニーメンバーを対面させても良いのではないかな。」
「良いけど、彼等が洗脳されるという事はないかしら。」
「それを避ける為には、必ず三郎か三之助と一緒にするか、スコットランドの彼等も重点監視対象にするかだな。」
「スコットランドの彼等がどんな話を聞かされるのか知りたいとも思うが。」
「そうなると監視業務の負担が増える事になるでしょ、他の業務に影響は出ないかしら。
 状況によってはすぐスコットランドサイドに対応する必要も出て来るでしょうし、我々八人だけでは厳しいわね。」
「その場合は、城の子に私達の通常業務を任せてみないか、マリアも賛成してくれると思う。」
「そうね、私達がどんな事をしているのかは学習の一環として教えて有る、リーダー業務の実習という事で試してみましょうか。」
「まあ、もう少し状況を見てからで良いだろう。
 子ども達には軽く話をしておいて、心の準備だけしておいて貰えれば良いと思う。」
「そうね。」

 結局、城の子にリーダー業務を任せる事無く、作戦開始から一か月が過ぎた。
 彼等の国がサンフランシスコとなったのは、国民全員がサンフランシスコの出身だった事による。
 今の所は平和、多くの者は過去の犯罪を告白し懺悔、この地を楽園にする為に働くと誓ってくれた。
 喧嘩がないのはブラックコロニーのメンバーを隔離した成果だ。
 そして、我々が気に掛けていたスコットランドの担当者が、軟禁状態のコロニーDメンバーに関して動き始める前に状況は変わった。
 落ち着き始めた人達がコロニーDの事を考え始めたからだ。
 どうして自分達は喧嘩していたのだろうと話し合い始め、ようやくコロニーDメンバーの言動に、そう、彼らの言動に踊らされていたことに気付き始めたのだ。
 それからは、コロニーDを敵視する事で国民達が団結。
 各国の担当者達も、コロニーDへの処遇を納得してくれ、ブラックコロニーという名称が定着した。
 
「ブラックコロニーの連中は相変わらず苛ついてるわね。」
「記憶はすべて蘇っただろう、それでも和の国滅亡計画は一向に進んでいない、彼等の過去の記憶にも苛立つ理由が有るのかもしれないが、居住コロニーに軟禁されたままの状況は楽しくないだろう。」
「そろそろ、外の様子をもう少し詳しく教えて良いかも。」
「そうね、今日も話題になってたわよ、コロニーから出したら老化の進んだ人に殺される可能性が出て来たわ、どうせ近い内に死ぬのならこの国の為に道ずれにしてやるとか。
 本当に真面目に暮らしていたら若返る事も有ったと、三丁目の例を教えて、なだめておいたけど。」
「では、彼等の置かれている立場を教えて行くか、その過程で彼等がどう判断するのか、観察させて貰わないか。」
「ああ、ただ、この世界の映像を彼らに見せて行くにしても、その反応を子ども達に見せるのは…、少なくともライブ映像はやめておこう。」
「用心するに越した事は無いわね。」

 翌日から、差別のない世界の現状をコロニーD内のモニターで見せ始める。
 城のレストランで楽し気に食事するサンフランシスコの人達。
 国を越え、人種を越えて共に遊ぶ子ども達。
 そして…。

「キングに対する各国国民の態度にはインパクトが有ったみたいだな、誰しもがこの世界のトップリーダーとして尊敬しているとは思いもしていなかったのだろう。」
「あの映像でさらに敵対心を持った人と諦めた人の対立が鮮明になったわね。」
「ついに大き目の罰に繋がる喧嘩をしたからな、そろそろ止めを刺すか…、サンフランシスコの人達が、短期間で老化した原因に気付いたと知ったら、さて彼等はどうするかな。」

 その映像はブラックコロニーのメンバーに絶望を与えた。
 陰謀がばれ、恨まれている事を知っても差別発言を繰り返す者がいたが、居住コロニーから出られない理由をはっきり理解した様だ。
 この時点で彼等に出来る事は限られていた。
 ただプライドの高さが彼等の決断を遅らせている。
 我々は彼等に決断を急がせる事はしなかった。

 しばらくしてブラックコロニーが下した結論は負けを認める事だった。
 結論に至る過程で大喧嘩をし罰を受けた事が妥協に繋がった様だ。
 すでに彼等から若さは感じられない。
 ただ…。

「今日の午後、スコットランドの担当リーダーにブラックコロニーと話し合って貰ったの。
 ちょっと映像を見て。」

『我々に問題が有った事は認めよう、だが、自分達には裁判を受ける権利が有る。』
『残念ながらここに裁判所はない、法律もない、行政は良心によって行われている、我々は君達八人の為に立法府と裁判所を設立しなくてはならないのか?
 もしそこまで望むのであれば、私達は君達を死刑に出来る法律を作ろうと思うが構わないな。』
『待て、死刑になる程の事はしていない。』
『前の世界でならな、だがこの世界では約束事が異なる、そうだな自分達に相応しい刑が有るというなら、それを提示してくれ、キングが納得すれば死刑ではなくそちらが採用されるかも知れない。』

「成程、これはうまい手を考えたものだ、自分の刑を自分で決める、だが被害者が納得する様な刑が出て来るのかな。」
「死刑と言ってるが、死刑にしたら執行者も死ぬ、そこを突っ込む余裕すら無くなっているね。」
「この程度なら尊たちに見せても問題は無いわ、彼らの意見も聴いてみましょうか。」

 三年生の四人と映像を見直して…。

「四人には最近、犯罪、罪、罰、といった事を学習して貰っているが、愛は、どう思う?」
「そうね、小さい子達は悪さをした時、怒られる事で学習している、それが大人になっても悪さをするという事は私達とは違った価値観を持っているという事かしら。」
「翔は?」
「昔はお金という物があって、個人所有の物が多かったのでしょ、でもこの世界にお金はない、物はすべてマリアさまからの借り物という考え方が浸透してきている、この先起きる犯罪は大人達の過去に関係するものしか思い浮かばないよ。」
「どんなのが思い浮かぶ?」
「差別的な心情、優越感、劣等感。」
「そんなとこかもな、それだけにブラックコロニーの件も落としどころを間違えると、彼等の子ども達が劣等感を引きずる事になりかねないだろ。」
「彼等に特別な仕事を上げる事は出来ませんか?」
「尊、例えば、どんな仕事だ?」
「僕達、ここで生まれた子ども達は犯罪について良く知らない、でも知らなさ過ぎるのも問題だと思うのです。
 だから彼等に本を書いて貰うというのはどうでしょう?
 居住コロニーの中で作業が出来ますし、ゲートを和の国に繋ぎ替えればサンフランシスコの人と会う回数を減らせてトラブルが起こりにくいと思います。」
「尊はそんな事も考えていたのか?」
「はい、父さんと居住コロニーの整理を検討中ですので。」
「その話も詳しく知りたいが、ブラックコロニーの連中を作家にというのは面白いな、反対がなければその方向で行きたいが。」
「居住コロニーから出す時は当分の間一人ずつだな、楽しい小説を書いてくれた時の御褒美として。」
「尊、この件を任せても良いか?」
「はい、話の内容も相談したいです。」
「ではスコットランドと連絡を取って調整する所から始めてくれるか。」
「はい、分かりました。」

 彼等への罰はひとまず保留にした、彼等がこの世界に貢献してくれるのであれば今後の罰も変わって来る。
 担当を任せた尊が、これからどの様にブラックコロニーの連中を導いていくのか興味深い。
 彼は当然、他の子たちと意見交換をして行くであろうし、そこにマリアが加わる事も有るだろう。
 他国の大人達が、素直に受け入れるかどうかは分からないが、私の息子なら良い成果を上げてくれると信じている。
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