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06 作戦 [KING-03]

 新たに繋がる国との交渉、そのすべてを子ども達にも見せる事にした。
 それに対して子ども達は好奇心の塊となり、大人達に様々な疑問を素直に投げかける。
 質問は私達だけでなく他国のリーダー達へも。
 一人のリーダーは城の子の質問には積極的に答える様、自分の管理者から言われたと笑っていた。
 ファーストコンタクト時、これから付き合い始める相手国のリーダーさえもが、管理者から子どもが同席する事を知らされていて、子どもの話を聞くよう要請を受けたと話したのには驚いた。
 マリア達管理者全員が城の子を特別な存在だと考えているのだろうか。
 ただ、子ども達の質問が大人に見落としを気付かせた事が有り、リーダーが城の子に質問をする場面も出て来ている。

 ファーストコンタクト以降、今回は、とにかくテレビ電話での交流を多く持った。
 英語なので翻訳機能は必要なく音声通話での自己紹介や国の紹介に始まり…。

「そちらの国民に蘇る記憶は犯罪者のもの、だが我々はあなた方の過去を問わない。」
「そう言われても…。」
「そちらでは死者こそ四名だが老化が目立つ、罰を受けてるのだろう。」
「確かにモニター越しのあなた方は若々しい、我が国は表向き平和だったが、傷つけ合う事がこの所増えた、その結果が…。」
「人種差別意識はないのか。」
「う~ん、言われてみれば心のどこかに有るのかもしれない、これで記憶のプロテクトが解除されたらどうなる?」
「精神的に不安定になることは間違いない、その時殺人を犯せば殺した本人も死ぬ、それがこの世界のシステムだ。」
「私はどうすれば良い?」
「すべての国民に、この事を理解させて欲しい、何ならモニター越しに我々が全国民と話し合っても良いのだが。」
「明日にでも直接会えると聞かされていたがだめなのか?」
「その瞬間から記憶のプロテクトが外れ始める、一つの国ではすぐに殺し合いが始まった、あなた方の国でも近い事が起こる可能性が有る、我々としてはそれを止めたい、それには充分な準備期間が必要だ。」

 時間を掛け我々が経験した事を詳しく説明、好ましくない状況になった時の対策を話し合う。
 その一方、六カ国合同で相手国を訪問する二百名ほどの訓練を行っていた。
 誰しもが和の国に併合された国で起こった悪夢を再現させたくないと考え、色々なケースを想定しながら真剣にだ。
 彼等が犯罪者だという事に抵抗を感じる者もいたが、ゲートで行き来を制限出来るからと納得して貰う。
 ただ、相手国の国民にどんな犯罪歴が有り、どんな能力を持っているかが最大の不安材料、例え見掛けが年老いていても、女性であっても油断するなと言い聞かせている。
 準備期間中、城の子の存在は大きかった、向こうの子ども達にモニターを通して説明してくれただけでなく、向こうのリーダー達からの質問に答えている。
 大人同士の会談で知り得た情報を子どもに確認することで安心感を得ている様だ。
 どうやら、その過程で女性リーダー達に気に入られてしまった様で長話しになりがち、子ども達の為に周りの大人が気を付けて対話を終えるきっかけを作る必要が有る。
 それぐらい、両国の親善には大きく役立ってくれた。
 国連六カ国が協力し合っての準備作業には日数を掛けたが、現時点で考えうるすべての危険に対処出来る体制を整えた。
 しばらくの間、先方のメインエリアは誰もが二十四時間滞在可能になる。
 表向きは向こうのリーダーを通して管理者にお願いして貰った結果となっているが、事前にマリアの了承を得ての事。
 この交渉を通して、マリアが私達の世界に対し最上位の権限を持っていると初めて教えられた。

 そして迎えた対面の日。
 時間を掛けて練り上げた作戦計画が実行される当日は、各国から二百人近くの大人が和の国、国際ゲート前に集まった。
 一旦全員でゲートを越えサポートを始めた後は、状況を見ながら滞在者を減らし、その後交代で支援を続けて行くという手筈に。
 向こうの子ども達には全員ゲート近くに集まって貰い、大きい子が乳児を連れてゲートを越える事になっている。
 大人達は人種ごとに集まって貰っているが、人と人は間を置くように指示がしてある。
 予定の配置になったとの連絡を受けカウントダウン、まずは尊と香がゲートをくぐり、子ども達を招く。
 画面を通して顔見知りとなっていた子ども達は、二人が抱えていたぬいぐるみを見て嬉しそうに駆け寄り、そのまま二人と一緒にゲートを越えて和の国へ。
 子ども達の考えた作戦が成功したという事だ。
 そして、大人達が向こうの国へ足を踏み入れ、人々に声を掛けて行く。
 ここからは時間との勝負だ。
 我々は精神状態が不安定になって行くであろう人達の状況を一人一人見極めなくてはならない。
 画面越しに見知った人と改めて挨拶を始めて十分もしない内に彼等に異変が起き始めるが、これは想定内のこと。
 こちらからの訪問者は観察者となる。
 その一人が異変を感じた者に声を掛けると、暴力的衝動が涌き始めたと言う。
 促されて居住コロニーへ入って行った。
 同様に二名が一人ずつ別の居住コロニーへ。
 突然暴れ始めたのは四名、バランス良く屈強な男性を配置しておいた事が功を奏し、用意していた檻へ入れる事に成功したのは、彼等の老化が進んでいた事も幸いした。
 他の大人達は、大人しく静かに蘇る記憶と向き合っている。
 中には過去の犯罪歴を語り始める者も、人に聞いて貰う事で苦しみを和らげたいのかも知れない。
 過去に犯罪を犯したからと言ってすべての人が危険人物だとは言えないだろう。
 この世界で人を殺せば自分も死ぬ事になると、時間を掛けて説明してある。
 問題は、蘇った記憶が死にたくなる様なもので有ったら、誰かを道ずれにしてと考えたら。
 皆、細心の注意を払いつつ対応しているが、全体が穏やかになったので私は城へ戻った。

「そろそろ、お茶かしら、それともお食事かな。」
「麗子の、その呑気さには救われるよ、翔、三郎に連絡してお茶か食事か聞いてくれるか。」
「はい。」
「愛は尊と連絡を取って、子ども達の今の様子を聞いてくれるか。」
「はい、彼等は今の所問題なく香たちと遊んでいます、乳児達は母さんから問題ないと連絡が入った所です。」
「ならば、その情報を三郎に伝えてくれるか。」
「はい、心配してるだろうと思って連絡しておきました。」
「有難う、他にしてくれた事は?」
「尊からの指示で、今の事は各国のリーダー達へも伝えました、彼等からはこちらの判断を聞かれましたが、まだ成功かどうかの判断を下す段階にはなっていないと伝えておきました。
 向こうのリーダーへも子ども達の様子を、彼は辛そうでしたが、よろしく頼むとの事でした。」
「ふむ、愛、翔、この作戦は成功するかな。」
「目先の危険分子七人は抑えましたが、他の人の危険性が分からなくて不安です。
 ほんとは皆が怖い思いをしない様に記憶の蘇りが終わり落ち着くまでゲートを閉ざしておいて欲しい所ですが、ここでどれだけあの人達を尊重し手助けできるかによって、今後の友好関係が違う物になります。
 今は誰も傷つかない事を願うのみです。」

 話の途中、翔は明らかに愛の不安に気を使った。
 二人の緊張がこちらにも伝わって来る。
 本当なら、まだ無邪気に遊ぶのが普通な年頃、急速に成長しているとはいえ、まだ子どもなのだ。
 酷な仕事をさせている事に気が引けるが、彼等はこの世界のトップリーダーになる宿命を受け入れてくれた。
 私の役目は彼等を守り育てる事、この世界の平和を願いつつ…。
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