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村長-01 [シトワイヤン-03]

俺が市民政党若葉初代代表(仮)と表明したのは大学が夏休みに入る頃、そして、そのタイミングで兄貴たちのゲームがスタートした。
これは正直嬉しかった、彼女達と共に過ごす口実が増えたからだ。
まあ、それ以前に愛華主導で夏のスケジュールが組まれ始めてはいたのだが。

この良く分からないゲーム、一人で参加していたら面白くなかったと思う、ゲーム的に面白い要素がまだ確立されていないからだ。
だが、俺達は各自のノートパソコンを持ち寄ってリアルに話をしながら進めている、その結果、自分達の設定を入力するだけで大いに盛り上がった。

「ゲーム内でも大学生にするの?」
「愛華は妖精とかが良いのか?」
「いいえ、そもそも妖精ってゲームの趣旨から外れるでしょ。」
「ルール上問題はないみたいです、康太は養豚場の豚とか如何です。」
「ひたすら餌を食べて太り、いずれ喰われる運命、悪くはないがゲームに参加している気分にはなれそうにないな。」
「そうね、私としてはリアルに近い形で進めたい、和馬、市民政党若葉の呼びかけをゲーム内でしても良いのよね?」
「ああ、それは確認した、バーチャル政党だから何の問題もないそうだ。」
「ゲーム内には他の政党も出来るのかな?」
「村議会の成立は想定しているそうだ、ただ、リアルの変な活動家が動き始めると、ゲームそのものが破綻する可能性が有るだろ、今は人数が少ないから問題ないけど将来的には大きな課題だとか。」
「ゲーム内で悪政が敷かれるのも面白いが、それで参加者が減ってしまってはな。」
「ねえ、清香の、冷徹な女子大生って設定、どうなの?」
「いいじゃん、愛華は天然系女子大生にでもしたら。」
「康太、愛華がそれをゲーム内で演じきるのは難しいと思う、あくまでも設定だから何でも良いのだけど。」
「和馬は普通の大学生って芸が無さすぎです、そもそもゲーム上で普通なんて面白く有りません。」
「清香みたく即座に冷徹なんて…、清香だったら俺の設定をどうする?」
「そうね、私の僕ってどうかしら?」
「僕か…、和馬なら、そういうのも有りだな。」
「ちょっと、そんなのだめよ、私が奴隷にしてあげるわ。」
「う~ん、バーチャルの世界でいきなり僕に奴隷では悲しすぎる。」
「良いじゃないか、そこから頑張って自分の地位を上げて行くという展開も有るのだろ。」
「まあ、その辺りは何とでもなりそうだが、愛華たちが、俺の事をそんな風に思ってたのに傷ついた。」
「私は、リアルとバーチャルで変えた方が面白いと思ったのです。」
「リアルでの願望ではなくて?」
「それは有りません、リアルに僕がいても面倒なだけです、バーチャルなら、何時も近くにいてくれる僕がいるのも…。」
「えっ…。」
「別に和馬だからってことじゃ有りませんよ。」

少し頬を赤らめつつも冷静さを装うが、清香は絶対に冷徹な女子大生なんかではない。
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村長-02 [シトワイヤン-03]

結局、俺達はゲームの中でも大学一年生という設定にした。
愛華は明るい女子大生、康太は女泣かせの大学生、そして俺は勇者見習いにさせられ、俺達は村立大学と市民政党若葉に所属する一つのパーティーとなった。

「事務所は家賃が高過ぎて借りられそうにないわ、政党事務所ぐらい持ちたいのに。
何もしなくても生活費として所持金が減って行くのだから、仕事をしないといけないのね。」
「そうですね、職業一覧から…、大学生が出来るバイト探し、これなら経営者という設定にしておいた方が良かったです。」
「いや、経営者は経営者なりに困難なイベントが発生するそうだよ、バイトの場合は時間配分の中に仕事時間を入れるだけで給料が貰えるから楽なんだ。」
「バイト先の情報を知ることも出来るのね、私はパン屋さんにしようかな。」
「リアルなパン屋さんは結構大変だと聞いたことが有る、その辺りもデータとして見られるのかな。」
「データは私達で共有出来るわ、どこまでリアルに寄せてるのか研究しましょ。」
「村立大学の講義を受ける事も出来るみたいだな、学費は受けた分だけだから良心的かも、このプロジェクトについての初級講義が無料なのは当然だが。」
「大学自体は誰でも講義を受けられるのですね、大学生を選択した意味が感じられません。」
「退学という選択肢も有るわね、でも、人間関係を構築して行く過程では都合が良いんじゃない、少なくとも経験豊かな大人と扱われないだけでも。」
「だね、でも村立大学のコンセプトは面白いと思わないか、開かれた大学、リアルな大学の有り方として教育システムとか…。」

始めの内はゲームの概要を探るという感じだったが、制作スタッフが何を考えてるのかが見えて来ると俺達にとって面白いゲームだと思える様になった、村立大学の講義を受けて、そのまま学習会を開くことも有る。
ゲーム自体は運営サイドが試行錯誤をしていることも有り、ゆっくりと進めているのだが、清香のモニター画面をたまたま見てショックを受けた。

「え~、俺の好感度が十って低過ぎだろ、俺は三人とも好感度Maxなのに…。」
ゲーム上、自分が感じてる好感度は相手に分からないシステムなのだが、リアルで友人だと分かってしう。
「和馬は好感度をどこまで上げる事が出来るのかしら。」
「さすが冷徹な女子大生ね、私は初期設定、五十のままだけど。」
「う~ん、どうすれば良いのか分からない…。」
「和馬、簡単なことだよ、愛華、今度パフェを奢るから、俺の好感度八十にしてくれない?」
「うん、じゃあ康太の好感度は八十に変更ね。」
「あらっ、甘いものを控えめにするという決意はどうされたのかしら、それを知っててパフェを奢るという康太の好感度は八十から七十五に変更します。」
「え~、康太は八十だったんだ、好感度十の俺は…、清香お嬢さま、何か悪い事をしたのでしょうか。」
「ゲームの中で始めから好感度が高いというのは不自然です。」
「はあ。」
「この場合、康太に悪意は無かったとはいえ、私に対する気遣いが無いという事で、好感度を下げれば良いのよね。」
「でも、パフェは康太に奢らせるのだろ?」
「勿論。」
「でも、実際の好感度はこんなに簡単ではないよな、良く知らない人だと外見だけとか、僅かな会話だけで判断してると思う。」
「付き合いが長かったとしても、好きな人には悪い所を隠そうとしてるかも知れないわね、それでも好感度なら問題なのかな、ゲームでの好感度はあくまで一個人が一個人に対して感じている…、ねえ、和馬はリアルでも、私達のこと好感度Maxなの?」
「はい、愛華お嬢さま。」
「でも、そろそろ私達の欠点にも気付いてるのでは有りませんか?」
「清香お嬢さまが何を欠点と思われておられるのか分かりませんが、好感度はずっとMaxのままです。」
「そう言われると悪い気はしません、和馬の好感度は十一に上げます。」
「そっか、自分に好意を抱いてくれてる人の好感度は上がるわね、じゃあ私も五十一にするね。」
「有難う御座います、好感度百を目指して精進させて頂きます。」

冗談っぽく話しはしたが、俺の本心だ。
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村長-03 [シトワイヤン-03]

ゲームが少し進行した段階で、運営サイドは対人関係を表す項目を設けた。
他人、知人、友人などが有ったのだが。

「和馬はお嬢さま方を大親友にしたのか、でもこれってさ、和馬が清香と愛華を彼女にすることも可能だよな?」
「そ、そんな二股なことしたら二人から他人扱いにされ、とても残念な男になるだろ。」
「ゲームなんだから、和馬を大親友から彼氏に格上げしようかしら、奴隷という選択肢はないし。」
「はは、運営に僕と奴隷やご主人様を提案しておくよ。」
「あっ、清香は和馬のこと、すでに彼氏にしてるじゃないか、ま、待て、なんで俺が他人なんだ?」
「ゲーム上のことですから、和馬の好感度は知らない内に高くなりましたし、私に惚れてる人はゲーム内に一人だけです。」
「さ、清香さん、じ、自分も清香さんを彼女としてよろしいでしょうか?」
「当たり前です、そうしないと私が片思いしてるみたいになってしまいます。」
「ゲームだから和馬に彼女が二人いても構わないよね?」
「おっ、三角関係コースか、どろどろしそうで楽しみだな。」
「う~ん、こういう人間関係は想定していなかった、俺は勿論嬉しいが二人は良いのか?」
「所詮ゲーム内のことです、問題は有りません。」
結局三角関係が成立してしまった、彼女たち同士は大親友を選択している。
「いずれ和馬は大きな選択を迫られるということになったな。」
「そうかな、その前に二人が素敵な彼氏を見つけて俺の前から立ち去るというシナリオも有るだろ。」
「他の参加者は他人です、ゲーム内の私には和馬しかいません。」
「俺でさえ他人だもんな、せめて知り合いぐらいに格上げしてくれよ、こっちは親友だと設定してるのだから。」
「こういう行き違いはリアルでも起こりそうです、康太、山下さんとは大丈夫ですか?」
「それがね…、君達には勝てないが彼女になら勝てるかもと思ったのか、女子からのお誘いが増えて微妙なんだ。」
「さすがイケメン男子ね、で、どうするの?」
「最終的にはベストな一人を決めないとダメだろう。」
「康太は一夫多妻が認められてたらどうします?」
「それは無理だね、君らは俺のことを恋愛対象とみなかったから気軽に話せてるが、女の子と付き合うのは、それなりの労力を要するのだよ。」
「和馬は?」
「はは、俺はそれ以前だから考えたこともない。」
「これからはゲーム内で考える事になるぞ、三角関係になって覚悟は出来てるのか?」
「うっ…、政治上のいかなる問題より判断が難しいかも知れない。」
「はは、政治家たちは沢山の判断を下してきた、時には誤り多くの人を苦しめることもあっただろうが、和馬には市民政党若葉の代表としてベターな判断をして欲しいものだね。」
「そうね…、康太が振ってきた女子たちは涙していたのかしら。」
「そう言われても全員と付き合える訳ないだろ、まあ、極力穏便に済ませて来たし、人を外見だけで判断する様な子は願い下げでね、そう言う君たちは近づいて来る男たち、どうしてるんだ?」
「最近は好きな人がいるからって断ってるわ、話が早いのよ。」
「良い男から言い寄られたりしないのか?」
「ないない、底の浅そうな人ばかりなの。」
「ふふ、これからは彼氏がいますとはっきり言えます、ゲーム内の彼氏だと隠しておけば、和馬は便利な存在です。」

おモテになる方々の話を聞きながら俺はドキドキしていた。
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村長-04 [シトワイヤン-03]

俺達は党の組織作りを進めている、と言っても各担当者は架空の存在、先に組織図をと考えての事だ。
それでも、ゲーム内でその過程を含め発表させて貰っていたら、党員になって助言をして下さる方が数人現れた。

「村長選の話、党員の方々は和馬がゲーム内の村長になる方向で考えて下さっていますね。」
「村を運営して行くのなら、現実社会とは違っても俺達の参考になりそうだよな、和馬、もう少し詳しい話は聞いて無いのか?」
「ああ、兄貴から情報を貰った、実際の行政はゲームの運営サイドが担うが、村長が決まったら、村長の決裁を仰ぐそうだ。」
「運営が村の職員という設定なのね、公職選挙法みたいなのが発表されるのかしら。」
「どうかな、村長がいた方が良いのでは、というのはゲーム参加者からの意見からだろ、でもそこから話を大きく進める人が参加者にはいなくて。」
「まだ、このゲームに於ける村長の必要性が分からないものね。」
「運営サイドでも意見が分かれたそうだ、参加者の自主性に任せて放置するのか、敢えて村長選挙を行うのか、で、結局イベントとして村長選挙を実施することでゲームの活性化を図る事になったそうだよ。」
「人類の過去を考えると、群れには自然とリーダーが誕生したと思うわ、でも、ゲーム上の千人はいきなり一つの集合体となった訳で知らない人ばかり、村長選挙は正解だと思うわ。」
「コミュニケーションをとって党員になって下さった方とは小さな集落の仲間という感覚でしょうか。
村はある意味大きくて、和馬が王様になるまでのプロセスやその後の絶対王政を考えると面白そうです。」
「ま、待て、村長で有って王ではないぞ。」
「村と言っても、どこにも属さない独立した集団、村長は国家元首と同等です、外交が存在しないのは少し寂しいですが。」
「そう考えると、千人の参加者が村という組織をどう考えるのか、村長という存在をどう捉えるのか興味深いわね。」
「間違っても絶対王政は成立しないだろうな。」
「そうでしょうか、ゲームに積極的でない人にとって、王様の指示に従っていれば良いのなら、楽ではないですか?」
「ゲーム内でどんなリーダーを試すのかって問題だね、村長がやりたい放題やった結果どうなるのか楽しみだな。」
「って、和馬がなるのでしょ。」
「それは分からないよ、選挙運動しようにも、この村の住人の不満や希望は分からない、他の候補者と比べた時、俺に投票したくなる要素をどうアピールするんだ?」
「そうね。」
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村長-05 [シトワイヤン-03]

当初の予測に反し、俺はあっけなく村長になった。
これは党員の作戦勝ちと言える。
いち早く立候補表明をすると共に、市民政党若葉構想を紹介し、村内の問題ではなくゲーム外でのバーチャル政党をアピールした結果、俺達への注目度が上がり対立候補が立ちにくい状況となった。
ゲームがスタートしてから間が無くて、俺達の様な十数名のグループが出来てなかったことにもよるだろう。

「村長就任おめでとう。」
「有難うなのか…、実感はないのだが。」
「まずは国名の制定ですね、和馬王国で如何です。」
「村だってば。」
「そうね、村なんて貧乏くさいし国を名乗ることに何の問題もないと思うわ。」
「悪政をすれば革命が起こる、国王は処刑され共和制へと移行なんてシナリオ、面白そうだな。」
「まずは、市民政党若葉に国の資金から私達が楽して暮らせるだけの資金をお願いね。」
「う~ん、村長権限か…、確かにやりたい放題やって反感を持たれることでゲームの活性化を図るというシナリオは有るが、暫くは悪政を敷かずに村の組織を構築して行くことを優先したいかな。」
「真面目な村長路線…、議会も作るの?」
「基本でしょ。」
「千人の国民に対して適切な議席数は幾つでしょう、その議席を市民政党若葉で独占出来たら、いよいよ絶対王政のスタートですね。」
「清香は絶対王政に拘るのだね。」
「絶対的な権力者が善政を行った場合、民主主義的価値観がどうなるのか見てみたいのです。」
「資本主義、社会主義、共産主義、自由主義、色々な価値観が有ったけど、結局は人間の欲望の下、理想の社会にはなっていないのが現実、和馬王国で試してみるのも有りなのかな。
王政の欠点は偉大なる王の子が、ろくでもない人物に成長して王位を継ぐ可能性かしら。」
「王様は世襲制というのが世界の常識というか人類の常識なのかな?」
「和馬王国で世襲を実現させるのは私が頑張ってもうんと先です、王の交代は世襲以外になりますが、王になる為の教育が必要なのでしょうか。」
「国のトップとして判断出来る人物の教育か…。
そう考えると、日本では総理大臣になるべく教育を受けてきた人が総理大臣になってるのかな?」
「それは日本だけの問題ではないです、自分ならば国家のトップに相応しいと頑張って来た人の内、何割の人が国民から好評価のまま身を引いているのでしょう。」
「歴代大統領が残念な末路という国も有るな。」
「それだけ国政は難しいということだろうね、外交問題なんて国同士の利害関係がぶつかり合って、領土問題なんて簡単に解決するとは思えないだろ。」
「私利私欲を優先して失脚という例も有ります。」
「なあ、もし選挙対策を考えなくて良かったら、長期的な視点でもっと大胆な政治が出来るのかな。
あまりにも平等を意志し過ぎてか、法律が複雑になってる、消費税関連なんて酷いものだろ。
有無を言わせず十%ならすっきりしないか、和馬が国王だったらどうする?」
「絶対王政的に抜本的税制改革を進めると税務署職員を減らせてしまう、税収と行政サービスのバランスが取れる様に指示を出さないと反発を招くだろうな。
ただ、例え消費税がシンプルに十%だとしても、充分な所得の有る人はすぐに慣れるだろうね、計算は楽になるし、問題は低所得者層の生活、増税分は貧困対策を中心に社会保障費に充てるのがベストなのかな。」
「日本の場合すごい金額の国家予算が組まれているのよね、その中で海外への支援、国内問題との関係を和馬はどう位置付けてるの?」
「日本は輸出で稼いでいるからね、それに見合う支援は必要だと思うし、それが次の輸出へも繋がるだろ、円借款もね…。」
「円借款って聞いたことが有るような。」
「途上国にお金を貸すのさ、例えばインフラ整備の費用としてね、そしてそのインフラ整備を日本企業が請け負う、勿論現地の人を雇うから現地の人にとっては、インフラ整備が進み雇用が確保されるのだが、勿論返済が前提、そして貸付た金は日本企業の懐に入るという構図。
無償援助も円借款も海外支援だが意味は全く違うのさ、俺も掘り下げて調べた訳じゃないから、どうとは言えるレベルじゃないけど。」

そう、俺達の学習が進んでいると言っても、まだまだ浅い。
それでも、国が行っている事に触れて行くことで、自分達の視野が少しずつ広がるのだと思いながら、俺達は学習やシミュレーションゲームに取り組んでいる。
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村長-06 [シトワイヤン-03]

村長になってから結構好き勝手にやっている、ゲーム内最高の権力者であり法的な束縛もない。
まず、清香達を自分の側近とし管理官という何を管理するのか分からない微妙な職名を付けた、役割としてはゲーム運営サイドとは違う立場で村長をサポート。
市民政党若葉の職員も雇い給料は村長の報酬から支払う、村長の報酬をそれだけの額にした訳だ。

「和馬、村の財政ってどうなの?」
「千人の参加者の他に一万人のNPC、ノンプレイヤーキャラクターが頑張って働いたということで辻褄を合わせてるから大丈夫だろう。
運営サイドとしてはいずれ全てのNPCをAIに置き換えたいそうだが、まだ先のことだ。」
「きつい仕事は投票権の無いNPCに押し付けてるということかしら。」
「そう考えると、すごい格差社会だな、NPCは奴隷か。」
「一応、充分な給料を貰って幸せに暮らしてるという設定、その所得税などで村を維持している、という体なんだ、ただ、一部のNPCはAIに置き換え鍛え始めている、その成果がゲームにどう反映されるのかは興味深い。」
「それってAIがどう学習するかによって変わるのよね?」
「変わるだろうな、運営サイドによって基本的な判断基準を形成した後、参加者との対話によって成長させるらしい、悪意ある人が意図的に教育する可能性が有るのだが、相反する情報が多数存在した場合AIはどう判断するのだろうな。」
「数合わせだけのバーチャル市民は、リアルで選挙権を行使しない人と同じなのでしょうか?」
「そういう見方も有るのか、ただ、選挙権、国民の意見ってさ、ネットニュースの書き込みの酷さは知っているだろ、偏った意見に迎合し、思い込みで発言する、本文を読まないで書き込む人や読解力の無い人も、そんな人達の一票と、冷静に国の将来を考えバランスの取れた思考をする人の一票が同じ重みを持つ訳で、それが民主主義なんだよな。
変な人に一票入れるぐらいなら選挙権を行使しないで欲しいと思わないか?」
「康太の考えは分かりますが、政治の世界では、人を洗脳する能力に長けた人がリーダーです。」
「洗脳を拡大解釈するとそうなのかもね、和馬に出来るのかしら?」
「まだ平和な村で目立った対立もない、集団も小さいから問題は無いが、グループが大きくなってゲーム内で利害関係が発生した時、どう出来るかだな。」
「そうなる前に、和馬を絶対的存在にしてしまえば良いのです。」
「洗脳するのね、でも、どうやって?」
「今の政治家達は、その活動を通して多くの人を洗脳するだけの力が弱いという解釈なら、誰しもが納得し支持する政策を表明して行けば良いんじゃないか。」
「それが難しいのよね、利害関係が絡んで、誰しもが納得とは出来ないでしょ。」
「政治家に届く市民の声は、自分に一票を投じてくれる人、支持政党の無い人は…、無関心ということで済んでしまうのでしょうか。」
「一票ね…、ねえ、和馬、村議会の選挙はどうするの?」
「うん、議員選挙は先送りにして、違う制度を考えているんだ。」
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村長-07 [シトワイヤン-03]

「ゲームだから、別にリアルの議会制度に倣う必要はないだろ。
村長に対する意見もゲーム運営に対する提案も、すべて五名以上の連名で出して貰うってどうだ?」
「個人的なリクエストには応じないのか、少数意見は?」
「元々、人と人とのコミュニケーションがテーマのゲームだろ、少数意見の尊重と言っても、四名程度の同意者を得られない人の発言は無視して良いと思うんだ。
こちらとしては五人の連名で出された意見を尊重し、調査や検討、その結果を村民に提示することで認めて貰う訳だ、投票システムを活用すれば村民の意識も把握出来るだろう。」
「何時でも村民投票が出来るのよね、上手く運用出来たら良いのかな、でも英国のEUからの離脱を決めた国民投票は考えさせられたわ。」
「多くの問題を抱えているのだろうけど、勢いで決めてしまったという気がしないでもなかったよな。
その判断が正しかったのかどうか評価出来るまでには時間が掛かる訳だが。」
「EUや国連に力があれば、EU離脱の大きな原因となった難民の大量発生を抑えられたのかも知れないです、でも大国の思惑が絡んで…、世界は大国の指導者により安定とは別の方向へ進んでいるのかも知れません、そして彼らは国民投票を選択するとは思えません。」
「数ある問題をいちいち国民投票で決める事は出来ないから、政治システムが有るのだよな。
本来は政治家がもっと冷静に判断し…、英国は問題が複雑すぎるから国民投票したのかな。」
「沖縄の県民投票も政治的決着が付けられなくて、ということかしら。」
「知事は普天間基地の現状維持が最善だと考え、政府としては辺野古移設を国民の反対が有っても最善だと考えてるのだろ、どちらにしても多くの人に嫌われる、それが出来ないと政治家は務まらないのだろう。」
「そうね、和馬が村人達から嫌われても、私は嫌いにならない様、頑張るわ。」
「あ、有難う、いきなりスケールダウンする様で申し訳ないが、小さな村なら市民からの要望、それに対する村としての考えを並べ投票、結果を踏まえての意見交換から法案をまとめて再投票というプロセスは可能だと思うんだ、議題は限られるだろうからね。」
「それが議会に代わるシステム、直接民主制ということでしょうか。」
「あっ、過疎地では議員の成り手がいなくなって…、人口が数百人の村だったかしら。」
「人口数百人って、高校の生徒会選挙の方が有権者多いぞ、そんな人数でも法に従って政治が行われているのだな。」
「利害関係は普通に発生するだろ、で、五名以上の連名による提案というのはゲーム内にグループを作って貰うという意味合いも有るんだ、同意者を求めることでグループの形成が促進され、そこから反村長派が大きくなったら面白いだろ、まだ村民はバラバラの状態だからな。」
「和馬、市民政党若葉でも同様の形に出来ないでしょうか、普通に個人提案を許していては収拾が付かなくなります。
党への提案や意見はグループ単位で寄せて頂く、個人的な提案でもグループメンバーが承認した上で有れば、ネットニュースのコメントの様にはならないでしょう。」
「そうだな、システム面はゲーム運営に携わっている人が協力してくれそうだから相談してみるよ。
ゲームで試してからバーチャル市民政党若葉で実践する、勿論、研究者たちにとっても興味が有る訳だ。」
「そりゃそうよね、架空の村を作って研究する様な人達ですもの。」
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村長-08 [シトワイヤン-03]

俺が村長に就任する少し前からゲーム内で画像の公開が可能になった。
それまでは文字と数値だけだったので大きな進歩。
参加者プロフィールの個人情報はゲーム内で設定したものだが、清香達はリアルの写真を三枚ずつ公開した。

「なあ愛華、俺は狸に似てるのか?」
「それは狸に失礼よ、でも、真理に書いて貰った村長の絵、可愛くて良いでしょ?」
「ま、まあな、俺の写真を公開するよりは良いと思う。」
「和馬が失脚して処刑される風景を公開するにしても、この狸ならグロテスクにはならないという配慮なのよ。」
「その前に処刑されるシナリオは勘弁して欲しいのだが。」
「あら、処刑された和馬を狸鍋にして食べながら、私たちがそれまでを振り返る、最高のエンディングでは有りませんか。」
「はいはい、私も清香お嬢さまに喰われるのでしたら思い残すことは御座いません。
それより、お嬢さま方はお写真を公開してよろしかったのですか?」
「リクエストが有りましたし…。」

村長選がらみで注目を集めていたところに公開した写真は、村人を清香派と愛華派に二分し、康太ファンクラブが密かに組織されつつ有る。

「ねえ、運営は人気度の表示を検討してるそうだけど、和馬、どうなの?」
「ゲーム内で注目度の高い人限定で検討しているそうだよ、どういう計算式で導き出してるのか分からないが、暫く前から割り出していてね、村長権限で頂いたデータ、見てよ。」
「写真公開だけで、これだけ人気度が上昇するのか。」
「大学生ということで前から興味は持たれていたのだろうが、当然と言えば当然だろ、素敵なお嬢さまなのだから。」
「これで愛華が水着姿だったら清香と大きな差がついたのかな。」
「そうかしら、下手に水着姿で媚を売ったら、女性からの反発が大きかったと思うわ。」
「ゲーム参加者は知性派が中心ですので、男性にも受け入れて頂けないです。」
「そうか…、それが本当かどうか試してみたいな。」
「康太、そんなのを試すより、この人気度なら、村から和馬王国への名称変更を提案して通るかどうか、それで、どれぐらい私達の人気度が下がるのかを試してみたいわ。」
「そうだな、それで反村長派、いや反国王派の拡大に繋げよう。」

村から国へという名称変更は愛華たちが村人に提案。
清香が王国にしたい理由をまとめ、愛華が和馬王国、Kingdom of Kazuma誕生の歴史をでっち上げ、康太は中世のナイトを思わせるコスプレ写真を公開した。
そして、村民投票の結果、賛成多数、俺は国王になった。

「私達の人気度、下がらなかったわね。」
「二人の知的な一面が評価されたみたいだな、康太は女性からの好感度が上がったんじゃないのか。」
「和馬の人気度は相変わらず低いままだな、反乱が起きたら守ってやるよ。」
「あ、有難う。」
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村長-09 [シトワイヤン-03]

大学一年生の勇者見習いだった俺が、村長になり国王に、ゲーム内で劇的な人生を歩んでいた夏休みだが、現実の俺は…。
夏休みに入って間もなくのこと。

「ねえ和馬、今後のスケジュールを組んでみたの、どう?」
「はは、愛華たちと会える日が多くて嬉しいよ、あっ、康太は少な目だね。」
「彼にはバイトが有るし、山下さんとのデートも有るでしょ。
和馬の予定はお父さまにも確認して家族の行事は外してあるけど、このままで大丈夫?」
「ああ、問題ないが、親父と連絡取り合ってるのか?」
「ええ、和馬のあ~んなことやこ~んなことも教えて頂いたわ。」
「そうか、少し嬉しいかな。」
「えっ、普通さ、人に知られたくないこととか、ばらされたら嫌じゃないの?」
「親父は、そんなことを話す人じゃない、愛華は俺を褒める事ばかり聞かされたのだろ、俺が自慢話をしないで済む様にしてくれてるんだよ。」
「あっ…、御免なさい、私はお父さまに教えて頂いたことで和馬をからかおうと思ってた…、私って…、嫌な女ね。」
「そんなことないさ、愛華が俺に興味を持ってくれてるだけで嬉しいよ、親父が話さない様な失敗談も有る、そんな話をした時は笑ってくれな。」
「うん。」

スケジュール上、学習は四人で遊びは主に三人で組まれていたのは、康太の彼女は愛華たちと馴染めてないからだ。
その結果、大学に入学して初めての夏休みは、美女二人と共に美術館や遊園地、プールへと、最高のものとなり、俺達はただの友達ではなくなりつつ有った。
ゲーム内で三角関係が成立したのは、自然な流れだったのだ。

「私達の三角関係ってある意味LGBTの様な少数派なのよね。」
「独占欲が無いのか、不思議そうに聞かれたことが有ります。」
「俺的には嬉し過ぎる状態だけど君たちは良いのか?」
「ふふ、和馬を独占してもね~。」
「三人で楽しいです、でも私達以外の女性とのお付き合いは認めません。」
「はは、それは有り得ないよ。」
「先のことは分からないけど、このままの状態が続いて結婚とか出産となったら面白そうよね。」
「戸籍上は結婚したり離婚したりで何とかなりますが、私と愛華の関係は友達でしかないです。」
「同性婚して和馬をおまけにしても、法的にすっきりしないのよね。」
「昔の人がイレギュラーだと思う婚姻関係は、今の教育制度下だと、子どもが特殊な家庭の子としていじめられそうだよな、重婚というのもトラブルの元だろうし。」
「でも、大金持ちの中には戸籍上の奥さん以外に何人もの女性と…、責任を持てるだけのお金が有れば大丈夫なのではないかしら。」
「大金持ちが多くの女性にお金を使えば経済の活性化に繋がるという視点はどうです?」
「父親からの愛を受けられない子どもはどうなの?」
「そもそも、ヒト族の繁殖や婚姻に対する本能的価値基準そのものが多様化していると思いませんか、単純に子孫を残すという本能の上に色々上書きされたことにより。」
「昔から浮気や離婚が有って、愛人とかが存在したのでしょ、あまり変わってない気もするわ。
独占欲の強い人がいたり、愛人で構わないと思う人がいたり、男性に縛られたくないと思う人がいたりする訳でしょ。
ねえ、和馬は、もっと大勢の女性と付き合いたいと思う?」
「それは全くない、君達との出会った時、二人の美女が自分の中で最上級の存在になってから変わらないよ。」
「なんか狡いのよね、ずっと私達をセットで好きみたいに話してさ。」
「え~、惚れたままかどうか、確認してきたのは君達だろ。」
「それに対して、真面目に応えて来たのが和馬なのは間違いないです、もう、会う度に告白して下さって。」
「会う度に、私達の事どう思ってるの、とか聞かれたら正直に話すしかないだろ。」

こんなやり取りの後、ゲーム内で村長から国王になった俺は二人の妻を娶ることとなる。
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村長-10 [シトワイヤン-03]

ゲームに於いて、村長と国王の違いは名称だけだ。
ただ、村長の婚姻と国王の婚姻ではイメージが大きく違う。
そして同時に二人の妻を持つということは、国民をざわつかせることになった。
ゲーム内のイベントとして婚約の儀式を執り行い、日をおいて結婚式。
運営サイドは、このゲーム内イベントに協力的で、短い映像だが、狸っぽいアニメーションの国王が二人のリアル美女と結婚式を挙げるシーンを制作し公開してくれた。
運営サイド渾身の作品だ。

「結婚式のイメージ映像、上手く出来てたわね、手間も掛かってそうだわ。」
「愛華がでっち上げた王国史の新たな一ページだからな、でも、映像制作、昔と比べたら手間は全然掛かってないよ。」
「昔って?」
「実写とアニメーションを組み合わせた作品が、太平洋戦争の末期にアメリカで公開されていたんだ。
そう、日本が空襲で焼け野原になってる頃にね、トムとジェリーのジェリーが実写の男性と踊ってるんだよ。」
「へー、トムとジェリーってそんな昔から有ったのね、トムとジェリーは今のテレビアニメとは桁違いの手間が掛かってるって、アニメ好きの子が話してけど。」
「CGなんて考えられない時代だからな、親父が生まれるうんと前の作品だが、親父は日本が娯楽映画どころでない状況の時に、米国では手間を掛けて娯楽映画を作ってた、その事実から当時の国力差を実感したそうだよ、錨を上げて、って作品だけど、今度うちでDVDを一緒に見ないか?」
「そうね、和馬のお父さまにご挨拶しないといけないし。」
「何の挨拶?」
「私達、結婚しましたって。」
「それは、ゲーム内の事だから必要ないだろ。」
「でも、王国内のざわつきが楽しいです、リアルではあまり公表されない形の婚姻ですので、結婚の形に関する議論があちこちで盛り上がり、一夫多妻に対抗して一妻多夫や多夫多妻も、可能性や問題点が検討されています。」
「うん、事実婚や出産、子育ての有り方考え方も、後、遺伝に基づく家族制度を廃止したらという意見も出てたね、特定の人に惹かれて出産に至るとしても、その子は遺伝子に関係なく、ファミリーの一員として全ての大人から愛され守られるとか。」
「まあ、国王が投じた一石に皆さんが反応して下さってということだね、リアルではイメージしにくい事でも、ゲーム内のことなら想像も膨らませ易いのかな。」
「婚姻関連の法案作成に向けて意見が結構来てるでしょ、ただ、離婚したい人と離婚したくない人のカップルの場合ってすごく難しそう、法案作成に向けての意見を見ていても、これがリアルだったら大変だと思うわ。」
「子どもの事も有るしな。」

そこまでの意図が有った訳ではないのだが、狸国王が二人の美女を妃にしたということは、それまで共通の話題に乏しかった王国国民に対して大きな話題提供となった。
ゲーム内で法案作成への流れを模索していた我々にとって、一つのテーマを持ち、多くの討論から多くの意見がたことは意味深い。
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