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91-都市 [キング-10]

子ども達はマリアからも学び続けている。
難し過ぎて我々には理解できないレベルだが。
翔が十二歳になる頃。

「望、今はマリアさまからどんな事を学んでいるんだ?」
「今日は都市設計についての宿題を貰ったわ、ロックおじさん、昔の都市計画はどうだったの?」
「そうだな、きちんと計画的に整備された小規模な町もあったが、無秩序に人が増えたからそれに合わせて規模を拡大という例も多かった、壊しては作ってという感じだが、土地所有の問題や予算の問題もあってな、道幅を広げるだけに三十年掛かってた例も有ったな。
ここではマリアさまの土地をお借りしているという考えが定着しているが、昔は自分の土地だと所有権を主張していた事は話したろ、おかげでかなり効率の悪い事をしていた訳だよ。
都市の機能だって、人を分散させればもっと快適に出来たと思うが、経済的効率を優先させたから混雑を生み出していたな。」
「何百万人が住んでる都市なんて話、実感が涌かないのよね。」
「なあ、愛、マリアさまはどうして都市設計についての宿題を出したと思う。」
「もちろん、都市を作るからでしょ?」
「ここにか?」
「まさか、違う場所でしょ。」
「それは、マリアさまから言われたのか?」
「言われなくても推測出来るわ。」
「それは何となく分かっている、ただ、それが何時どんな形になるのか読めなくて気になっているのだ。」
「具体的には僕らも聞かされていません、ただ、最近僕らが学んでいる事は荒地の開発をする時に必要な知識です。」
「なるほど、都市計画は初めに大きくなった時のビジョンを持ってないと後々効率が悪くなるからな、だが産業構造の変化を考慮しないと計画は立てにくい、その辺りも考えているのか、尊。」
「食料の確保が最優先ですが、科学を発展させます。」
「それは一般の国民の話か?」
「はい、マリアさまのテクノロジーは僕らしか扱えませんが、国民の皆さんがより上を目指す事は大切な事、その手助けをします。」
「そうか、人類は類として進化してきたが、私達の過去の時代はその限界に近付いていたのかもしれない、だが、貧富の差による不幸のない世界で、お前たちの手助けが有れば、もう一度人類は類として進化するチャンスを得る事になるのかもしれないな。」
「先の事は不透明ですが、人間同士が殺し合う様な世界にはしたくありません。」
「人類の歴史は殺し合いの歴史だったからな、おっと宿題を進めるか…。」

新たな都市、いや始めの内は村だろう、しかし将来都市にする事を前提として作り始めるという事は城の大人達を興奮させた。
新たな大地は決して快適ではないかもしれない、だが我々は開拓者となるのだ。
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92-惑星 [キング-10]

翔が十五歳になった頃、マリアの指導を受けている城の子は二十人に増えていた。
子ども達は相変わらず仲が良く、学習している時も楽しそうだ。
そんな子ども達を眺めている時、マリアから話があった。

「皆、揃ってるな、今日マリアから話があった、半年後ぐらいにある惑星に到着するそうだ。」
「おおそうか、ここは宇宙船の中だったのか。」
「どんな惑星なの?」
「地球と近い環境に出来ると聞いた。」
「という事は、今は随分違うという事か?」
「ああ、その改造の為に子ども達は装置を作る必要が有る、尊、そうだったな。」
「はい、大気を安定させ水を循環させます、バランスを整えないと巨大台風とか発生させてしまう事になりますから慎重に進めます、ただこの装置を作るに当たってその材料が、居住コロニー二つ分ぐらい必要になります。」
「居住コロニーを潰すのか?」
「はい、国民の皆さんにお願いして…、他にも必要な物が有りますから五つぐらいは欲しいのですが。」
「それぐらいなら何とかなるだろう。」
「その惑星に生物は?」
「今は微生物の類のみと聞きました。」
「星一つ住める状態にするまでどれぐらいの期間が必要なんだ?」
「僕らもこれから学ぶ事が多いのでまだ分かりません。」
「私達は何をすれば良いの?」
「まずは空の居住コロニーをお願いします、高速船に改造してから、惑星改造装置を積んで先に行きます、マリアさまの話ではこのコロニー集団は宇宙船としてはかなり遅い代物だそうで。」
「私達もその高速船に乗せて貰えるのか?」
「はい、船にゲートを付けますから。」
「外の景色も見れるの?」
「惑星の衛星軌道に乗ってからなら見れます。」
「この事は世界の人達に知らせた方が良いのかな。」
「隠す必要はないでしょう、居住コロニーのお願いもしなくてはいけないし。」
「今のままが良いという人もいるだろうが、いずれ限界を迎えるという事は分かっているだろう。」
「では明日にでも発表するか。」

ようやく先が見えた、人口の増加を気にする必要がなくなるのだ。
未開の大地、大変な事も多いだろうが子ども達の手でどんな街が作られて行くのか楽しみである。
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93-親子 [キング-10]

子ども達の作業は順調に進んでいるようだ、私達の常識を遥かに超えた次元で。
ただ、高速の宇宙船に改造されたという居住コロニーの中は改造される前とあまり変わっていない。
野菜畑が花壇になってはいるが。
今日はセブンが見に行っている。

「翔、高速船は何時発進するんだ。」
「父さん、発進も何も、とっくに改造を終えてもうすぐ惑星の衛星軌道に乗せるよ。」
「う~ん、どうなってるのかさっぱり分からないな。」
「モニターに出すね、この円が惑星、僕らの高速船はこの点、コロニーはこっちの点の集まりなんだ。」
「ゲートで行き来してるから離れていても何も感じてなかったという事か。」
「僕らもマリアさまに教えて貰わなかったら分かってないよ。」
「操縦とかは誰が?」
「聡がやってる、操縦と言ってもハンドルを握ってる訳じゃないけど。」
「だろうな、うちの三男も活躍してくれてて嬉しいよ。」
「ねえ、父さん達にとって僕ら城の子ってどうなのかな?」
「どうって?」
「僕は父さんと母さんの子だけどマリアさまの子でも有るのでしょ、僕は人間かというと少し違うみたいだからさ。」
「そんな事はどうでも良いじゃないか、私達がキングの元に集まった頃の話はしたろ、あの頃は不安ばかりだった、でもな…、お前が生まれてくれてどんなに嬉しかった事か、城の大人達にとっても長男だったからな。
キングなんか涙を流して…、はは、皆だよ城の大人達はお前に希望の光を見ていたんだ。
それは子ども達が成長してからも変わってない、まあ能力的には随分追い越されてしまったが、翔には私達とは違った使命が有ると考えている。
正直マリアさまが絶対に正しいのかどうかは分からない、だが、城の子達がこの世界の人達の為に行っている事は間違ってないと思っている。
親としての私は頼りないかもしれないが、これからも微力だろうが支えさせて貰うよ。」
「うん、有難う、なんかすっきりしたよ、マリアさまは僕たちを生み出す為に父さん達を集めたのかもしれない、でも僕達も次の存在を生み出すための繋ぎに過ぎないのかもと考えていたんだ。」
「そうか、それはそれで光栄じゃないか、少なくとも私は翔という息子を持てて光栄だがな。」
「うん、まずはこれから降り立つ惑星を素敵な星にしないとね。」
「頼んだぞ。」

セブンから話を聞いて私達はそれぞれの感傷に浸った。
神の子と呼ばれる子ども達もまた悩みを持つ年頃になっていたのだと知り。
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94-新天地 [キング-10]

惑星周回軌道に乗った高速船からの映像はひどく殺風景な物だった。

「ちょっと~、尊、こんなとこに住むの、私達。」
「愛、落ち着けよ、ここを僕達で住み易くしてからだろ。」
「そうだけど、木の一本も生えてないって状態…、実際の映像を見るまで実感出来なかったわ。」
「でもさ、ここを和の国みたいに緑豊かな星に出来たら楽しいよね。」
「分かってるわよ、ただ、この風景が私の美意識に反し過ぎてたからブーって言ってみただけ。」
「まあ、ここをどれだけ素敵に出来るかが僕らの役割、まずは観測装置を下すよ。」
「和の国は広いと他国の人から言われてきたけど、全く規模が違うな。」
「まずは大気を生成して、気温を安定させ氷を解かす所から始める訳か、コロニーが到着する頃までに空気だけは美味しくしときたいよな。」
「氷が解けたらどれくらいの広さの海になるのかな?」
「早めに計算しないと町の位置を決められないわね。」
「観測機からのデータ待ちだね、僕は恒星の観測を始めるよ。」
「衛星は一つだけみたいだから観測を始めるわ。」
「じゃあ僕らは地図作りを始めようか。」
「うん。」
「観測装置からデータが届き始めたよ。」
「ああ、解析を始めるか。」

子ども達は観測データを元に星の改造を始めた。
目指しているのは美味しい空気と美味しい水だそうだ。
マリアのテクノロジーが有ったらかつての地球は温暖化に悩まされる事はなかっただろう。
子ども達の作業は続いているが。

「新天地の重力は地球とは違う、慣れるまでは少し軽く感じられるみたいだ、それで全コロニーの重力を段階的に変えて行く事になった、作業は子ども達が行うが、我々は秤を利用して作業をしている人達に注意喚起をしなくてはならない。」
「結構大変な事かも、家畜に餌をやり過ぎたりとかしかねない、秤の方を調整すべきね、重力の変更スケジュールを確認して注意喚起をするわね。」
「ああ、頼むよ…、重力が変わると身長が伸びたりするのかな。」
「もう一つ自転周期が二十五時間二十三分という問題が有る。」
「強引に二十四時間で生活するか、惑星の一日に合わせるかね。」
「公転の方は?」
「三百八十二日。」
「歳を取るのが遅くなるのね、暦は新たな物が必要になりそう、夏至冬至春分秋分は有るのでしょ。」
「コロニーが向こうに付くのは春分近くになるらしい。」
「ならば春分の日が一月一日かな。」
「でも一年を十二か月にするの?」
「一か月が少し長くなって、月によって三十一日だったり三十二日だったりでどうかしら。」
「一か月三十日プラス二十二日の十三番目の月という手も有る。」
「四季を考慮しないとね、新居の場所にもよるだろうが、子ども達は暑さや寒さにびっくりするのかな。」
「記録の方は、今までの暦と平行して…、時間的なずれは仕方ないわね。」

一番の心配は一日が長くなる事だろう、生活のリズムが新天地に合えば良いのだが。
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95-今後 [キング-10]

惑星への到着を前に尊と演説を行った。
これは一方的な布告とも言える、世界の人達に反論の余地がなかったからだ。

「新たな大地での新しい街の広がりと共に、居住コロニーは順次マリアさまにお返しする事になります。
それぞれの国のメインとなっていたコロニーも同様です。
今までとは違い四季が有りますが、地震も台風も有ります、調整し極力被害の少ないレベルまで抑えようとはしていますが完全には出来ません。
ただ、広大な大地が無限の可能性を秘め、我々の前に有る事を感じて下さい。」

「今までは十五の国という形をとって来ました、ですが人種は違えど同じ人類として、この新たなる大地に国境は必要ないと考えています。
すでに様々な形で協力し合って来た皆さんには言うまでもない事かもしれませんが、我々は全員が協力して一つの町を作る所から始めます。
まだ過去のわだかまりや誤解を残している人がいるかもしれませんが、この機会に考えて頂きたいたいです。
一つの星に争いの無い一つの国、天災は起こるかもしれないが、楽園を作り出せないかと。」

一つの町から始まる、今更小さな国に分かれる必要はなかった。
そして惑星へ降り立つ前夜、尊が城の大人達に話し始めた。

「落ち着いたら、この惑星の政治は僕らで相談して決めた人にお任せしようと思っています。」
「そうだな選挙をするより適材適所に出来るだろう、次の世代からは彼等が相談すれば良いな。」
「私達はお役御免になって何をすれば良いのだ?」
「弟や妹の世話と和の国本島の維持管理をお願いしたいです。」
「コロニーはマリアさまにお返しするのでは?」
「それは表向きで、実際は色々な物を作る為の原材料として僕らが使います。」
「新たな国家の為なんだな。」
「一時的には開拓地の為に使いますが、最終的にマリアさまのテクノロジーを利用した物はゲートなど一部だけになります。」
「必要な物は自分達で作れという事か。」
「はい、その手助けはさせて貰いますが。」
「そうすると、翔たちは何を作るんだ?」
「和の国本島を高速船に改造します、それと新たに高速船を幾つか。」
「宇宙旅行を続けるのね。」
「はい、この辺りで人が住めるように改造出来そうな惑星がないか探します。
これからは改造に時間を掛ける事が出来ますから多少条件が悪くても、ここから近い所で見つかれば改造後にゲートで行き来出来るようにします。
遠ければ新しい国の人達が宇宙船を作れるまで僕らが輸送する事になると思います。」
「行政は委ねても見守り続けるという訳だな。」
「はい、当分新たな大地は必要ないでしょうが、土地に余裕が有ると分っていれば争いも起きにくいかと。」
「この惑星では人の住みにくい所まで開発する必要もないということか。」
「貴重な資源が見つからない限りはそうなります。」

城の大人達は少し戸惑っていた、惑星が自分達にとっても安住の地になると思っていたからだ。
ただ開拓団の一員になれない理由はなんとなく分かっている。
城の大人達もまた特別な存在、私達の外見も体力も八人が出会った頃とほとんど変わっていないのだ。
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96-大地 [キング-10]

ゲートを積んだ着陸機が無事惑星に降り立ち移住のための作業が始まる。
城の子達の立てた都市計画に従い、マリア達のテクノロジーを利用した建設機械が活躍、荒地が瞬く間に整地されて行く。

「翔、まだ環境の調整を続けているのか?」
「うん、地形の関係も有ってね、町の近くはかなり良くなってるけど、後は植物の生長を待たないと難しいかも、しばらくは環境維持装置に頼らざるを得ないよ。」
「そうか、海の方は?」
「水温も塩分濃度も予定していたぐらいにはなって来た、でもプランクトンが増えるのは先だろうからね、魚は食べきれない分を少しずつ放して繁殖できるか探るという感じかな。」

道が出来、家が建ち始め、畑や牧場が整備されて行く。
しばらくはコロニーの時間に合わせて作業をしていたが、コロニーからの転居が始まってからは、自分の体調と相談して自由な時間に作業をして貰っている。
ただ一日が二十五時間二十三分と言うのはいささか不便なので、一秒を少し長くして一日を二十四時間にする案や、一秒をそのままに一分を長くする、一時間を長くするなどの案が出ている、まだ結論に至っていないが。
ただ、コロニーで使って来た時間は宇宙標準時として残す事になっている、別の惑星に生活圏を広げる事を意識していたからだ。
建設作業では一般の子ども達も立派な労働力になって大人達を手伝っている、一番の年長は十五歳になっていて尊達のいう事は何でも聞く、素直な子ばかりだ。
彼等に対しては町がもう少し形を整えた段階で新たな取り組みを計画中。
一方城の子達はコロニーからの転居が始まった頃から別行動を取る事が増えている。

「愛、最近城の子を地上の町で見かけないが。」
「はい、ようやく私達抜きでも町作りが進む様になって来たからです、私達は空いた居住コロニーを解体して別の装置に作り替えています。
それを使ってこっそりこの星の地形を変えたりしておこうと、でも皆さんには内緒にして下さいね。
装置はここに残さないので。」
「では町から離れた所の工事を?」
「皆さんに余裕が出来て行動範囲が広がった時の為に、特に海辺は綺麗にして海水浴が出来るようにしようと相談しています。
後は弱肉強食、食物連鎖のピラミッドをバランス良く作り出す為に植物を増やす所から始めます。」
「成程、ノアの箱舟から持って来るのか、マリアが言うには地球で生きていたすべての動植物の千分の一ぐらいとか。」
「それでもかなりの種類ですから、色々考えないと…、城の地下室のさらに下にあんな倉庫が有ったとはびっくりでした。」
「ああ、私も初めて見た時は驚いたよ、だが私達の一つの役目がはっきりしたな、それで、全部蘇らせるのか?」
「それはマリアさまとも相談中です、環境が違うし、毒が有ったり害虫と呼ばれていた生物をどうするかで。」
「復活のチャンスを与えないのはこちらのエゴの様な気もするが。」
「次に開拓する惑星で繁殖させるという手も有ります、それとどう進化…、もしくは退化していくのか、興味有りませんか?」
「それは有るが観察は…、あっ、超高速での宇宙旅行だと時間が…。」
「はい、私達はこの惑星の面倒を見る役目が有るから、しばらくはこの近くの惑星までしか行きませんが、有る程度人類を増やす事に成功したら少し遠くへも、行って帰って来たら世代交代してるかもって程まで。」
「そうか、荒野の広がるこの大地がどう成長して行くかも観察出来る訳だな、それは面白そうだ、どうだ、愛、どんな大地になりそうだ?」
「和の国の様な素敵な大地が広がりますよ、きっと。」
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97-箱舟 [キング-10]

私達が暮らしている和の国、巨大コロニーの地下に相当する部分が巨大な倉庫になっていたを知ったのは最近の事だ、まさにノアの箱舟。
そこには、様々な生物が特殊な形で保存されていた。
もちろん植物の種子も。
これらを復活させていくのは簡単ではない、数が限られているからだ。
保存数が少ない動物は、一旦蘇らせたものが死んでしまったらその種は途絶えてしまう、雌雄を上手に育て繁殖させねばならない、近親交配の悪影響も心配だ。
植物も比較的余裕が有るとはいえ失敗を繰り返したら種子はなくなってしまう。
マリアのテクノロジーなら遺伝子一つから再生出来そうなものだが、その様な考えはなさそうだ。
だが子ども達は分担して生態系をゆったり構築しようとしている。

「ねえ、愛、僕達の実験場でも牧草中心に植物が増えて来てるから、そろそろ蝶とか昆虫もどうかな?」
「そうね、種類によって餌が違ったりするしバランスが難しいけど、和の国で飼ってるのから試してみましょうか…、まずはキャベツが自生出来るか試しながらモンシロチョウでどう、翔。」
「う~ん、じゃあキャベツが全滅する前に鶏二羽かな、鶏の餌になる植物も増やして。」
「野生の鶏が増えたら狐かしら、随分先の事になるとは思うけど。」
「狐の天敵は人間だね、新しい町から惑星の反対側まで勢力を広げるにはすごく時間が掛かると思うな。」
「そうね、でも植物を全滅させない程度に草食動物を増やすと考えると難しいのよね、小動物は繁殖力が強いから。」
「牧草地が随分広がってるから、いっそ牛を放そうか、糞が土に良い影響を与えてくれるだろ。」
「いずれは、大型の草食動物も蘇らせたいものね、この惑星でなくても、野生の牛がどう成長して行くのかは楽しみだわ。」
「バッタとカマキリはどう、バッタが増え過ぎる可能性は有るけど、鶏が食べてくれないかな。」
「鶏以外の鳥はどう?」
「今試せるのはスズメとインコぐらい、二つがいずつなら、モンシロチョウとバッタが有る程度増えた時点で試して良いと思う、まだ大きな木はないけど天敵もいないから大丈夫だろう、他の実験場とも調整が必要かな、愛、報告は受けてる?」
「ええ、赤道付近は植物がすごい勢いで生長、短期間でジャングルになりそうで、箱舟倉庫から草食動物を蘇らせても餌に困る事はないって。
逆に寒い地方は植物の生長が遅いから時間が掛かりそう、それでも六ケ所の実験場では、今の所大きなトラブルは起きてないわ。」
「母さんは良くバランスの話をしてくれるけど生き物のバランスも難しいよな、一つの動物が増え過ぎたら天敵投下なんだけど、その天敵が増え過ぎたらとかね。」
「そうね、今はこの殺風景な大地を緑に変えてく事が優先だけど、和の国の様に綺麗な状態にしたいわ。」
「だよな、海の方はどう?」
「まず、一つの湾を植物プランクトンが増え易い環境にしてみた、この後は和の国の海から色々移して行く、ちっちゃい子達が海藻や蟹とか貝とか集めてくれてるからね。」
「そっちは失敗してもダメージが少ないか。」
「ええ、例えすぐ死んでしまっても微生物が分解してくれる、和の国の、ほんとはそれほどでもないのに、すごく広く見える海には沢山の生物がいるから。」
「箱舟倉庫からは?」
「大小十六有るメインコロニー全部の箱舟倉庫リストから、比較的楽そうなのをピックアップ中。
たぶんマリアさまの事だからコロニー毎で遺伝的に違う個体を保存してると思うわ。」
「なおさら失敗したくないね。」
「まずは和の国に動植物園を作って管理しようと思うの、様子を見ながら惑星へ下せば良いでしょ。」
「世話が大変じゃないのか?」
「多いと大変だから少しづつね、でもちっちゃい弟達が手伝ってくれるわ。」
「そうか、しばらくは猛獣を飼う事もないだろうからな。」
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98-競う [キング-10]

第四惑星では…、惑星の名がなかなか決まらず、この呼称が城の子達に定着し始めていた。
国名もまだない、惑星上に一つの集団しか存在しないのだから。
作業時の分担は城の子が調整、基本的に親子が言語の異なる親子と組むという形をとっている。
共通語は随分浸透しているが、大人達は子ども達程馴染み切れていないのが事実だからだ。
英語を使う大人も少なくなかったが、子ども達は外では共通語しか使わなくなっている。
町の建設は国民同士の結びつき、親子の結びつきを強める事となった。
小さなトラブルはその解決によって、人と人とが理解し合う事に繋る。
コロニーから惑星への移住が国民の半数まで進もうという頃。

「そろそろゲームを始めても良いと思わないか?」
「そうね、建設作業は順調に進んでいるし娯楽も必要よね、三郎おじさんどう?」
「タイミングとしては悪くないが、賞品は何にするんだ?」
「飛行艇による惑星一周の旅を考えているのですが。」
「飛行艇なんて見た事ないが。」
「町から遠く離れた惑星の反対側に僕らの秘密基地を作りまして、主にそこで使っています。
この機会にこの惑星の大きさを、国民の皆さんの代表に知って頂くのも良いかと思いまして。」
「それは大切な事だ、ゲームの賞品としても悪くないと思うよ。」

翌日国民に対してゲームの説明がなされた。

「もう少し娯楽が有っても良いと考えましてゲームを始めます。
ゲームは今後色々な形で色々な趣向で行って行く予定ですが、第一回はかけっこリレーです、一辺一キロの正方形になる中央広場は整地が終わりました、取り囲む道路も完成しています、この道路を利用して、一人一周四キロ、四人でリレーして十六キロのタイムを競って頂きます。
参加エントリーは四人一組で有れば、他は何も問いません。
賞は、この惑星の空を一周して頂く旅です、今有る飛行艇は色々な作業に使っていますし、近い将来別の惑星へ移動しますので期間限定のレアな体験が出来ると思って下さい。
上位三位までのチームメンバー全員の他、上位十位以内に入ったチームメンバーから抽選で四名となります。
リレーの模様や遊覧飛行の様子の映像は編集してご覧頂けるようにします。
第二回は数学です。
やはり四人一組、問題は基礎から高等数学まで用意しました、協力して解き進んで下さい。
規定時間内に、より高得点を取ったチームが一位となります。
参考問題と配点などの情報はエントリー用紙と一緒にお渡ししますので、作戦を立ててエントリーして下さい、賞は第一回と同じです。
質問が有れば受け付けますが。」
「遊覧飛行はプリンスやプリンセス達も同乗して下さるのですか?」
「ええ、誰が乗るかはその時の都合によりますが、食事なども用意させて頂きます。」

町の中央広場で聞いていた者達からどよめきが起こった、モニターで見ていた者達も同様であろう。
城の子達が小さい頃は他の子達とも遊んでいたが、マリアの指導を受ける様になってからはその時間が減り、作業が増えてからは国民が目にする回数もぐっと減っている。
だが、彼等は人気者なのだ。
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99-告白 [キング-10]

ゲームを開催する事には大きな意図が有った。

「四キロ四人のリレーは波乱が起きそうね。」
「その辺りが見てる人を楽しませてくれるだろうし、本来の目的である競争心喚起に繋がるだろう。」
「大人達の話を聞いてると、国民の子ども達は大人し過ぎるって、優しくて仲が良くて良いと思うけど、これからこの大地を踏みしめて生きて行くには頼りないってさ。」
「仲良しに関しては僕らが頑張った成果だと思ってたけど、上を目指してくれないと科学を発展させる可能性を遅らせると指摘されてはね、僕らも子どもだったという事かな…。」
「競争する心を持ってもらうきっかけとしての賞だけど、それが遊覧飛行ばかりでは弱くないかしら。」
「あれっ、賞は君達のサポートの方がメインで、遊覧飛行はおまけだと思うがな。」
「ロックおじさんも似た様な話してたけど良く分からないわ、父さんもそう思うの?」
「国民の城の子に対する感情は調査してないのか?」
「う~ん、父さんやっておくべきなのね…。」
「ああ、望もそういった感情を知っておいた方が良い時期だと思う。」

国民感情を調べた望は、一週間後、尊と。

「尊、今回の調査だけど…、国民の中に微妙な感情というか、キングに対してなら尊敬という感情を示す人が多いでしょ、でも私達に対しては…。」
「なんだ、望、はっきりしないな。」
「国民の部屋には私達の写真が、結構あちらこちらに貼って有ったの、そして女の子同士の会話から、尊さま派と翔さま派の存在を知ったわ。」
「はは…、そうなのか、男の子達は?」
「香と巴が人気みたい…、私や愛もだけど…。」
「望は香や巴の人気に驚いたのかい。」
「そうかも…、嫉妬って気持ちなのかしら、何か嫌だな私…。」
「香達には特別な能力が有るからな、望がそう感じたのなら僕らは思ってたより人間なのかもしれないね。」
「そうなのかな…でもそれより尊に憧れてる人の多さが嫌だわ。」
「そう言われても…。」
「私は尊さま派だからね。」
「有難う、嬉しいよ、僕は望の事大好きだからね。」
「あっ、うっ、うん。」

城の子達が恋愛に関して疎かったのは身近に先輩がいなかった為だと思う。
そんな状況でも十七歳にもなれば自然な恋心が芽生えて当たり前だ。
ある日緊張した面持ちで尊と望が私の元へ来た。
緊張している尊を見るのは初めてだ。

「父さん、相談が有るけのですが良いですか?」
「どうした?」
「えっと、父さんは母さんの事が好きだったから結婚したのですよね。」
「ああ、今でも大好きだ。」
「僕…、僕と望が結婚するって、ど、どうでしょう?」
「良いと思うな、お互い生まれた時から一緒で相手の事を良く理解しているだろう。
尊がどうして望を選び、望が尊のどこに惹かれたのかも分かるっているよ。」
「でも、結婚ってどうしたら良いか分からなくて…。」
「そうだった、すまない私がうっかりしてた、城の大人達を集めて相談しておく。
お前たちは今から付き合ってるいう状態になる、そうだな休みには二人だけで遊びに出かけたりしても良いな。
尊は多くの女の子に人気が有るが、他の女の子と親密になりすぎると望が傷つくと覚えておきなさい。
後の事は近い内に説明させて貰う、しばらくは秘密にしておいてくれるか。」
「はい、分かりました。」

会議の前に、十七歳という年齢をどう考えるのか、マリアに相談したのは無意味だった、子を産めるだけに成長しているとしか応えてくれなかったからだ。
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100-恋愛 [キング-10]

城の大人達は尊達の成長を一様に喜んだ。

「恋愛について情報を与えて来なかったのは間違いだったわ、あの子達にはお手本がいないからね。」
「良い機会だから、恋愛から結婚までのルールを決めてしまおうか。」
「告白する所からか?」
「特別に好きな人が出来たら、好きですとその人に告白しましょう。」
「年齢制限は?」
「十六歳ぐらいかな?」
「それまででも好きな子に好きと言いたくなるでしょ?」
「正式な告白は二人が十六歳を過ぎてから、それまでも男女仲良くして良いけど相手の良い所悪い所を知る事。」
「告白されたら?」
「告白された時、自分も相手の事が好きだったら、はい、と答えて付き合い始める、嫌いだったら、御免なさい、相手の事が良く分からなかったら、友達から始めましょうと答えて相手の事を知る、それで好きになったら、好きになりましたと告白して付き合う、好きになれなかったら、御免なさい。」
「まあ、そんなとこかな、付き合いに関しては?」
「お互いが好きとなったら、親に誰と付き合うか話す、この時親が反対できるのは相手が結婚してる時…、既婚者への告白も既婚者からの告白も禁止にしないとだめよね。」
「そう言えば、浮気の話も離婚の話も今までなかったな。」
「環境が変わるから、これからは分からないわよ。」
「その辺りはほかっておこう。」
「デートを重ねてお互いを知り、この相手となら子を持ちたいと思ったら結婚を考える。
この人とは無理だと思ったら御免なさい。」
「御免なさいがスムーズに行かない時は、親か友達と相談する。」
「翔と相談して子ども向けの恋愛ドラマを作って貰うか?」
「ああ、尊達の事を知れば、愛と付き合い始めるだろうからな。」
「婚約から結婚の辺りは民族によって違わないか?」
「あまり堅苦しいのは必要ないと思うが。」
「私達の結婚式はこの八人だったわね。」
「娘達が結婚を考えるまでに成長したんだな…。」
「感慨に浸る前に尊達の為に流れを作ってあげないと。」
「こういった事は三之助より麗子に任せた方が良いだろうな。」
「そうね、一組目の流れを見せれば、次からはそれに倣うでしょう、城の王子と王女の結婚という演出も麗子にお願いしたいわ。」
「派手過ぎず、地味過ぎずという感じでやってみるかな、まずは二人に色々教えてあげないとね。」

一番近い年長者が親世代という子ども達が恋愛に関して戸惑ったのは当たり前だ。
十七歳で結婚という事に誰も反対しなかったのは、広い大地を目にしたからだと思う。
早すぎる妊娠は母体に悪影響を与えるという事だけは国民に徹底したい。
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