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中村和音と中村紗枝子 [Lento 5,秋]

和音がピアノを弾いている足元で子猫が遊んでいる。
どうやらペダルを踏む和音の足の動きが楽しいらしい。
子猫はLentoのお客様がコンクール金賞のお祝いに下さったもので、アメリカンショートヘアのオス、生後半年ぐらいになる。
名前を付ける時は、たまたま落語の寿限無を聞いた後だっただけに…

落語の蔵どっとこむ

両親と和音は長い名前にしようと色々盛り上がっていた…。
「ジョン アレキサンダー なんて良くない?」と、和音。
「ジョン アレキサンダー マッカトニー チャールズ ズートルビ、と続けて…。」と、和音の母、紗枝子。
「あえて、太郎左衛門 とかつなげてさ。」と、和音の父、和夫。
と、その時、子猫を抱きしめた、和音の妹、絵美が…。
「だめ、変なのだめ、この子はショパンなの!」
一瞬にして会議は終了、以来ショパンと呼ばれることになった子猫は今ではすっかり家族の一員である。
たまに、和音からは「フレデリック・フランソワ・ショパン」と呼ばれているがまあ本人は意に介していない。

和音のピアノが突然変わった、リストから、ねこふんじゃったに…。
「おかあさ~ん、ショパン踏んじゃった~。」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫みたい、強く踏んでないし。」
踏まれたことを気にもしてないショパン。
「練習のじゃまになるわよね。」
「そんなにじゃまでもないけど…。」
「ねえ、ちょっとこっち来てパソコン見て。」
「うん。」
「ショパンのために色々揃えようかと思ってね。」

「へ~、色々あるのね、あっ、これかわいいわ。」
「こういうサイトって見ているだけでも飽きないのよ、それにショパンが大きくなったら餌も変わっていくでしょ、つい、その頃の和音はどうなってるかなって考えたりして…。」
「はは、ほんとどうなってるんでしょう…、母さん、ネックレスもあるんだね。」
「そうね…、服を着せるより良いかもね。」
「ネコにとってはどうなのかしら?」
「ショパンにネックレス。」
「猫にこんばんわ。」
「はは、まあショパンが和音のじゃまをしない方法も考えてみるわ。」
「まぁ、じゃましてきたら踏んづけるだけなんだけど…。」


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長井祥子と梶田岩雄 [Lento 5,秋]

今日は中村和音の妹の通う養護学校の文化祭、和音の新米マネージャー祥子は月初めに発売開始となった和音のCDを持って、ひとり来ていた。

え~っと職員室は…、あの部屋みたいね。
まずは先生方にご挨拶させていただいて、CDをプレゼントして、そうだな妹さんの様子でも聞かせていただけたら…。
ここから入ればいいのかしら?

あっ先生みたい…
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「お世話になっております中村絵美の姉、和音のマネージャーを務めさせていただいております、長井祥子と申します。」
「ああ、和音ちゃんから聞いてますよ、まだ時間もありますから上がってお茶でもいかがですか?」
「有難うございます、ではお言葉に甘えさせていただいて、おじゃまします。」

「私は美術担当の梶田です、なるほど、和音ちゃんが美人マネージャーが来るからね~、と言ってたのは冗談じゃなかったんですね。」
「えっ?」
「和音ちゃんは本とにいい子ですよ、妹思いで優しくて、マネージャーが付くほど立派になってもぜんぜん変わらなくて。」
「まだまだ、ひよっこですから。」
「またまた~ご謙遜を、本心は?」
「超一流のピアニストです。」
「ですよね、あっ、お茶どうぞ。」
「あ、有難うございます。」

「ここは小中高と一貫教育みたいなものなんですよ、和音ちゃんは絵美ちゃんが入学してから時々遊びに来てくれてましてね。」
「そうだったんですか。」
「私も最初は優しいお姉さんぐらいにしか受け止めていなかったんですけど、ある時、絵美ちゃんの調子が悪い時に、和音ちゃんが迎えに来ましてね、和音ちゃんが6年の終わりぐらいかな、職員が手を焼いてるのを一目見て状況が分かったんでしょう、あの子、ピアノありますかって、私は妹が落ち着くまでピアノでも弾いて待ってるつもりかなと思って、隣の音楽室へ案内したんです。」
「それで?」
「すぐにピアノが始まりました、優しいメロディがここまで届いてきて、絵美ちゃんはすぐピアノの所へ行って、お姉ちゃんにへばり付いてました。」
「絵美ちゃんもお姉ちゃんのピアノが好きだったのですね。」
「それが、ほんとに驚いたのはその後なんですよ。」
「何かあったんですか?」
「和音ちゃんのピアノが、絵美ちゃんにどうして泣いてたのって聞いてるんですよ、絵美ちゃんはまだちっちゃかったから、あのね、あのねって感じで話してて、話し終わったら、包み込むような優しいメロディに変わってましたね。」
「和音はピアノだけで言葉はなかったのですか?」
「そうなんですよ、でも、その場に居合わせた職員たちは皆、ピアノで会話してたって…、メロディも綺麗だったから感動して泣いてる職員もいましたよ。」
「はぁ~、やはり天才ピアニストは子どもの頃から違うんですよね。」
「ですね、その後はお迎えのついでや遊びに来た時、我々がピアノ弾いてって、おねだりしてましたよ。」
「ふふ、今なら高いですよ。」
「でしょうね。」
「で、これはLentoのオーナーからのプレゼントです、皆さんで聞いて下さい。」
「わお、和音ちゃんのCDですね、あれ? 5枚セットですか?」
「セットという訳でもなかったのですけど、まぁ、まとめて5枚作ってしまったって感じですね、Lentoのオーデション音源とかも入れてたら5枚になってしまったって担当者が言ってました。」
「そうなんですか、無名の新人、CDデビューの感触はどうなんです?」
「そうですね、Lento関連のお客様だけですでに2,000セットぐらい…、バラで買われる人は少なくて…、お一人で10セットとかまとめ買いされる方も多くて、和音のこと知らない人への贈り物だそうです。」
「それってすごくないですか?」
「まぁ和音ですから、でもここからが本当の勝負と思っています、マネージャーとしてですけど。」
「ほんとにプロとして活動していくんですね、楽しみだなぁ…、あっともうこんな時間か、そろそろ会場へ行きましょう、終わってからまたお話ししたいです。」
「はい、もっと色々お聞きしたいです。」


中村和音 展覧会の絵 [Lento 5,秋]

養護学校の体育館、生徒たちの絵が飾られている。
静かにピアノが流れる。
訪れた人たちはゆっくりと作品を愉しんでいる。
今日は文化祭だ
11時、美術担当、梶田の声が…。
「本日はお忙しいところ文化祭におこしくださいましてまことに有難うございます…。」
ピアノのあるステージ前に観客が集まってくる。
「今回も中村和音さんが来て下さいました。」
拍手と歓声が湧きあがる。
和音の文化祭参加は4回目、和音のことを知ってる人も多い。
「実は和音さん、プロのピアニストとしての活動が始まりまして…。」
拍手と歓声が一段と盛り上がる。
「先ほどマネージャーさんから学校にCDをいただきましたが、我が家の家宝にしたいと…。」
笑い声と突っ込みが入り混じる。
「本日のテーマは展覧会の絵です、そうムソルグスキーの代表作ですね、和音さん用意は?」
「いいわよ。」
「では、まずムソルグスキーの展覧会の絵です。」

プロムナードが軽やかに始まる。
名曲が和音独特のタッチで奏でられる。
それは子どもたちの心へも自然に入っていく様で皆、静かに聴いている。
全曲が終わり拍手喝采。

しかし本番はこれからの様で…。
プロムナードがまた楽しげに始まる。
ステージのモニターに生徒の絵が映し出される。
大胆に描かれたひまわりの絵だ。
小さなどよめきが起こる、作者の生徒の家族からのものだろうか。
観客は和音のピアノがその作品のイメージを奏でていることに気づく。
曲がプロムナードに変わる毎にモニターの絵が変わっていく。
そして、その絵がピアノによって奏でられていく。
独特の展覧会の絵の世界がそこに広がる。
プロムナードは和音が絵から受けたイメージか毎回違う雰囲気に。
和音の妹、絵美の絵も含め生徒たち十数点の作品が続く。

最後の絵はちょっと違っていた、映し出された瞬間、観客からどよめきが起こった。
今までの作品とは明らかに違い生徒の絵ではなさそうだ。
土から芽を出してまもない双葉を中心に何でもないような草が描かれているのだが、そこは独特の生の世界となっている。
和音のピアノも一段と盛り上がり、力強く、絵とピアノが観客の心に入り込んでいく。
聴く者に生きる力を与えようかという演奏は明るく華やかに終わりを迎えた。

満場の拍手、目頭にハンカチを当てる姿も。
しばらくの間をおいて立ち上がった和音に、さらなる拍手が贈られる。

ひと呼吸おいて和音。
「本日は展覧会にようこそ、拙い演奏でしたが楽しんでいただけたしょうか。」
もう一度拍手が…。
「以前から生徒さんたちの絵をピアノで奏でてみたいと思っていまして、今回ようやく実現しました。
梶田先生始め学校関係者の方々に改めて、有難うございました、と、この場をお借りして言わさせて下さい。」
再び拍手、梶田は照れくさそうにしている。
「少しだけ付け加えさせていただきますと、最後の絵だけは、ここの生徒さんの絵ではありません。
私と同じLentoに所属しています、茂根達也の作品です、今回の演奏に向けて、希望、というテーマで描いてもらいました。」
一段と強い拍手が作品の出来を象徴している。

「最後はいつもの曲です、今回で4回目ですね。
実はうちにショパンというアメリカンショートヘアの雄猫がいるんですけど、なぜかピアノのペダルを踏む私の足の動きが気に入ったみたいなんです。
先日まさに、ねこふんじゃいまして、今日はその時の情景から始めます。」
笑い声と拍手の中、ピアノへ戻る和音。
いきなり、リストの超絶技巧練習曲をトップスピードで弾き始める和音。
観客は息をのんでいる。
と、突然、のんびりとしたテンポでねこふんじゃったに変わる。
観客からは緊張が解けたかの様にほっとした笑い声がおこる。
後は、子猫の情景がねこふんじゃった変奏曲となって奏でられる。
大人も子どもも楽しそうに聴き入っている。


 展覧会の絵

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中村紗枝子と長井祥子-1 [Lento 5,秋]

和音の展覧会の絵が終わった後、和音の母、紗枝子と長井祥子は体育館の片隅で立ち話をしていた。
「祥子さん、こんな所にまで来て下さって、ごめんなさいね。」
「いえいえ、私自身まだ和音のことが、しっかり分かっていない気がしていますから、それに良い演奏を聴けて今日来て良かったです。」
「そうね、今日の演奏も良かったわ、あの子…、またレベルが上がった気がするのは、親の何とかかしら。」
「そんなことないですよ、確実に超一流のピアニストとして世界に通用すると思います。
私もピアニストを目指していましたから、それなりに聴く耳も持っているつもりですが…、そうそう前から機会があったらお聞きしたいと思っていたのですが。」
「何でしょう?」
「和音は、小さい頃、どんな練習をしてきたのですか?」
「ふふ、子どもの頃の和音のことね、ちっちゃい頃からピアノが好きでね。」
「ちっちゃい頃って?」
「私もピアノが好きだから、あの子がお腹にいる頃から弾いて聴かせていたの。」
「胎教ですね。」
「そうね、で、生まれてからも、よく子守唄をピアノを弾きながら聴かせていたわ。
で、ようやく立てるかどうかって頃から、やたらピアノに興味を持ってね。
私に抱かれて鍵盤をたたいていたのよ。
今度、その頃の写真を見せするわね。」
「あっ、ぜひお願いします。」
「もちろん、初めの頃は、でたらめだったんだけど、しばらくすると曲になり始めてね。
3つになるか、ならいかの頃には、ちっちゃな指でゆっくりと子守唄を弾いてたわ。」
「天才だったんですね。」
「私も主人も、親バカ全開になりかけたんだけど、主人の父親から『慌てずに、じっくり計画的に才能を伸ばしていきなさい。』というアドバイスがあって…、今思うと身近にそういう人が居てくれたことが、あの子にとってラッキーだったと思うわ。」
「あっ、和音の大好きなおじいちゃんですね、Lentoオーナーの白川さんは、おじいちゃんと似てるって、前に和音から聞いたことがあります。」
「5才ぐらいまでは、とにかく理解できてもできなくて良いから楽譜を前に置いて、色々な曲を私と一緒に弾いてました。
まあ、気づいたら、ひらがなを覚える前に楽譜が読める様になってたわね。」
「小さい頃、ピアノの練習は嫌がらなかったんですか?」
「えっ? 練習? あの子はそんな気持ちでピアノに向かってなかったから、遊びの一つだったんじゃないかしら、ピアノが弾きたくなると勝手に弾いているか私を呼ぶか、ピアノを弾くことはあの子にとって日常であって、私もピアノの練習をしなさいなんて一度も言ったことないですよ。」
「そうですか、私も小さい頃からピアノを習ってましたけど、練習したくない日もあったりして…。」
「妹の絵美が生まれた頃からは、私が用意した楽譜を独りで弾いていることが多くなったんだけど、私に絵美はどんな曲が好きかなぁ~、って聞いてきて、それまでは自分の弾きたい曲を弾くという感じだったのが、まあ、お姉さんになったことによって、聴き手を意識し始めたってことね。
時間があると絵美の為に弾いていたわ。
生まれたばかりで会話のできない妹に話しかける様に。
絵美も和音のピアノが流れてると心地良かったみたいで、手がかからなくて助かったんですよ。」

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中村紗枝子と長井祥子-2 [Lento 5,秋]

紗枝子は和音の子どもの頃の様子を話し続ける。
「あれっ、って思ったのは絵美が3才になった頃、絵美にちょっと障害があって、個性的な子になることが分かった頃かな、あの子がピアノで絵美に話しかけていたのよ。」
「どんな曲だったんですか?」
「知ってる曲をベースにしているけど、明らかに即興的に弾いていて、絵美がいたずらしようとすると、そんなことしちゃだめよってピアノでしかってるんですよ。
絵美がやめると、おりこうさんねって感じの曲になって、見ているこちらが不思議な気分になって。」
「ピアノで語るか…、梶田先生からもお聞きしましたけど、え~っと、先生は6年の終わりぐらいって言ってみえましたが。」
「その頃には姉妹喧嘩もピアノでやってたのよ、まぁ、めったに喧嘩することはなかったんですけどね。
学校でのできごととか、ピアノで妹に伝えていたり、妹の話にピアノで答えたり、学校でうまくいってなくて口数の少ない子だったけど、あの子の気持ちはいつもピアノでわかるから接し易かったの。」
「いじめとかあったのですか?」
「具体的なことはあの子、話さなかったからよく分からなかったんだけどね、ここへ絵美を迎えに来るのは良い気分転換になってたみたい。」
「そうなんですか。」
「この文化祭での演奏も、初めての時は先生方からお願いされちゃった、って嬉しそうにしてたわね、恩返しできるって感じで。」
「でも梶田先生は和音が学校に来ると演奏をおねだりしてたとか。」
「人前で演奏する機会が少なかったかったから、それが嬉しかったんですよ。」
「なるほど。」
「そう言えば音楽教室とかには行かなかったんですか?」
「子ども向けのところでは先生の方が和音のレベルについてけなさそうで…。」
「では、あの演奏技術の高さはお母様の指導によるものなんですね。」
「指導と言えるかどうか…、4年生ぐらいからは、学校から帰って来るのを見計らってピアノに譜面を置いておいたんです。
で、帰ってくると、おやつが先かピアノが先かはあの子の気分次第なんですけど、とりあえず置いてある譜面の曲を弾き始めるんです。
そのまま自分の物にしてしまう時もあったけど、ちょっとイメージが湧かない時は私にCDを要求してきて…、もちろん著名ピアニストの名演奏は私のCDコレションにあるから、それを聴いてから、また弾いてみて、お母さん指見てって言って来るんです。
難しい曲は、どの指でどの音を叩けば良いかって迷うこともあったみたいなの。」
「じゃあお母様の指導だけで基礎を?」
「たまに私の親友、プロのピアニストが頼みもしないのに来て教えてたわ。
中学生時代は、高校の音楽科への入学に向けてって回数が増えたわね…、ほんと頼みもしなかったことだから…、考えてみたらずいぶん安く済んでるかもね。」
「その人も、やっぱり和音の才能を伸ばしたかったんですね。」
「だと、思うんだけど、彼女は、和音のピアノが聴きたくて遊びに来てるだけよ、って。」
「う~ん、それが本心だったのかも~。」

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中村紗枝子と長井祥子-3 [Lento 5,秋]

和音はリクエストに応えてまたピアノを弾き始めていた。
そんな光景を見ながら二人のおしゃべりは続いていた。
「ピアノ以外はどうだったんですか、遊びとか勉強とか。」
「そうね、ピアノばかりだった訳じゃなくて普通の子だったと思うわ、外へ遊びに行くこともあったし、ただ性格がおとなしいと言うか控えめと言うか、友達の多い子じゃなかったわね。
勉強は自分でやる子で、まあ解らないことがあると近所のおじいちゃんの所へ聞きにいったりしてたけど。」
「大好きなおじいちゃんですか?」
「そう、5年生ぐらいから自学自習のコツを色々教えてもらっていてね、おじいちゃんの持論は、塾は時間と金の無駄、だそうで、でも解らない時は早く解決した方が良いから、頼れるおじい様の所へ聞きにおいでとか言ってたそうなの。」
「じゃあお母さんが勉強しなさい、とかいうことは?」
「全くなかったわね。」
「なんて手のかからないお子様だったのでしょう。」
「はは、そうね、でも勉強で驚かされたのは暗記物に関しては和音流暗記法ってのをやっていてね。」
「和音流ですか?」
「まねできる人は少ないかも、例えば中学生の英語だと、教科書を暗記しておくとテストがかなり楽なの、なんて言いながら、教科書見ながらピアノを弾いてたんですよ。」
「えっ?」
「教科書の内容を頭の中でメロディにして一緒に覚えておいて、思い出すときはメロディを鍵にするとか言ってたわね、初めは冗談かと思ってたけど、テストでそれなりの点数を取ってたことを考えると、そういう暗記法もあるのかって、そうね、おじいちゃんは楽しく勉強するということを教えていたみたい。」
「う~ん、何かなあ、俗人の私にはついていけない世界みたいですね。」
「そうよね。」
「そうだ、実は和音のプロフィールを作る時に、ちょっと困ったんです。」
「何か問題でも?」
「特にコンクールとかの賞とか…、あまりなくて、どう飾ろうかと。」
「そうよね、あの子本番に弱いというか、他の子のレベルを考えたら簡単に賞が貰えそうなコンクールでも実力が全然出せなくて、何かコンクールだと思うと力んでしまってたみたい、私がもっとうまくアドバイスできれば良かったんだろうけど、ずいぶん可哀想な思いをさせてしまったわ。」
「そうだったんですか…、で…、和音の子どもの頃のエピソードを、プロフィールに付け加えてみるのも有りかな、なんて、どうでしょうか?」
「私は構いませんよ。」
「じゃあ…、あらっ、梶田先生が呼んでみえますね。」
「行きましょうか。」
「はい、また和音のこと色々教えて下さい。」
「もちろんよ、和音が子どもの頃一番欲しがってのはお姉さんなの、よろしくね。」
「あっ、はい、そうか…。」
「どうかしたの?」
「そうか…、Lentoの白川さんは良く『芸術的な』って言葉使われるんですよ。」
「Lento自体が芸術なんでしょ?」
「はい、私は芸術的な、姉の様なマネージャーを目指してみようかと思います。」

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先崎浩士-1 [Lento 5,秋]

Lentoのランチタイム前後は客の入れ替え時間になっている。
午前の演奏を聴いて帰る、ランチを済ませてから帰る、ランチ前に来てランチと午後の演奏を聴く、ランチの後で来て午後の演奏を聴く、ランチを挟んで午前午後ずっとというのが客たちの基本パターン。
だから当然ランチタイム前後は人の動きの多い時間帯となる。
そんな時でも学生プレイヤーが演奏している。
静かに演奏を聴いてもらえなくても、学生プレイヤーたちはそれぞれの思いで演奏に取り組む。
一人でもいいから自分の演奏に耳を傾けてもらうんだと、がんばって演奏に熱を入れるチェリストもいれば、学校の課題曲を練習中ってビオラ奏者もいる。
そして、違った形で客に楽しんでもらおうと色々試みているのが、バイオリンの先崎浩士だ。

先崎がLentoで演奏し始めたのは、和音より半年ほど遅い。
彼が初めてLentoで演奏したのはランチタイム前の時間帯だった。
客たちは普通に会話していて自分の演奏が客にどこまで届いているか疑問に思いながらも、彼なりに精一杯バイオリンを弾いたつもりだった。

二度目の演奏はランチタイムの演奏だった。
ランチタイム前の演奏を聴きながら、出番を待つ、この時、同じランチタイム前でも、自分の一回目の演奏時とは全く雰囲気が違うことに気づかされてしまう。
誰も話すことなくピアノに耳を傾けていたのだ。
ホールで働いてる女の子たちもピアノに合わせて動いているが、極力音を出さないよう様に気を配っているような感じで、彼女たち自身ピアノが聴きたいのだと言わんばかりだった。
先崎とて音大生だ、ピアノのレベルの高さにすぐ気づく。
こんなすごいプロがランチタイム前に?
と、彼が思った瞬間そのピアノに合わせ女の子が踊りだす。
その大きく優美な踊りに彼は引き込まれた。
そして飲み込まれた、この次に演奏するのは自分なのだ。

この演奏に負けまいとする気持ちが、力んだ演奏となり…。
客たちはランチタイムの会話を楽しむこととなった。

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先崎浩士-2 [Lento 5,秋]

先崎は中学生の頃から幾つものコンクールで賞を取ってきた。
その自信を持ってLentoのオーデションを通った。
それだけに、この経験はかなり彼の自尊心を傷つけることとなった。
しばらくバイオリンが重かったという。
だが翌週には、またLentoでの演奏が待っていた。

彼は色々迷ったあげくLentoへ足を運んだ。
オーデションに通った後、他の学生の演奏も聴くことを勧められたことを思い出したのだ。
学生演奏家たちはマネージャー初音の許可があればホールで演奏を聴くことができる。
すぐにランチタイム前の演奏から聴くことが許可された先崎は、客席から話し声も聞かれるフルートとピアノのデュエットに少しほっとさせられた気分になった。
普通に上手な学生の演奏だったがプロレベルではなかったからだ。

それとともに初音から「ホール内の観察をするのよ」と、言われたことを思い出す。
客たちは会話をしながらも演奏を聴いている。
オーストリア風の衣装を身にまとった女の子たちは曲に合わせて、客たちの注文に応えている。
自分が演奏した時はホールの女の子の動きを気にもしていなかったから、さぞかし動きづらかったろうと反省もした。

ランチタイムとなって演奏はピアノ三重奏に変わる。
なかなかの演奏だがやはり学生レベルだ。
落ち着いて演奏できれば、自分の方が確実に上だ、と思いながら次回の自分の演奏のことを考えていた。
「初音さんからよ。」
と、言われて運ばれた食事を口にする。
次回は自分本来の演奏をしよう、そう心に誓った時、演奏がピアノソロに変わる。
ホール内の雰囲気が一変した。

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先崎浩士-3 [Lento 5,秋]

話し声がやみ、やわらかなピアノの音色がホールを包み込む。
ピアノソロに編曲された、くるみ割り人形、花のワルツが聴衆の心を癒す。

先崎とて音楽の道を目指す者、今まで色々なピアニストの演奏を聴いてきた。
もちろん一流のだ。
今までこんな演奏聴いたことがあるか?
と、自問してみる。
答えはどう考えてもNoだ。
ずっとこのピアノの世界に浸っていたい…。
今までこんな気持ちになったことはなかった。

ホールでは食後のデザートを配り始めていた。
演奏に合わせて数人の女の子たちが客たちのテーブルを回っていく。
三拍子で踊るように。
そして、彼女たちは、曲に合わせ同時に皿をテーブルに置く。
踊るように移動してまた同時に皿をテーブルに置く。
先崎はぼんやりと見とれていた。
不思議な光景がしばらく続く。

曲は白鳥の湖に変わる。

ふと我に返る先崎。
自分もこの絵の様な光景の一部になれるだろうか、いや自分もこのLentoの一部になりたい。
そのためには…、色々な思いが彼の頭の中をかけめぐっていた。



 チャイコフスキー くるみ割り人形
 チャイコフスキー 白鳥の湖

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先崎浩士-4 [Lento 5,秋]

この日、先崎は和音や真子たちに紹介された。
休憩室での彼はやや興奮気味に、Lentoでの演奏のことなど和音たちに聞きまくることになる。
時折、女の子たちからの質問に答えながらだったが。

その場で、花のワルツは和音がデザートタイムで演奏する定番曲の一つで、スタッフたちの遊び心から、同時に皿を置くという演出になったと教えられる。

スタッフパーティーで和音が演奏している時、真子は新人の子にこの曲での皿を置くタイミングとかを教えていた。
自分の場合はねっ、て感じでだ。
それが感のいい子ですぐ二人の動きがシンクロし始めたのだ。
それを見ていた他のスタッフも、面白がってまねし始めて…。
そして次回の演奏時に客を驚かすこととなった。
デザートを出す時は同じ皿を同じように一度に出すということで演出がし易かったこともある。
もっともこの時の和音は何度も同じ曲を弾くはめになってしまい、この曲は当分弾きたくないな~、と思ったそうだ。

そんな話に先崎は心を躍らされる。
人一倍の遊び心の持ち主だったからだ。

この日Lentoからの帰り道、先崎は、まずは自分の演奏を皆に認めてもらうことだと、心に誓った。
その上で自分もLentoの一員として、Lentoという絵の一部となりたい。
そして、自分なりの遊び心ある演奏や演出を考え始めていた。

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