SSブログ

中村和音 展覧会の絵 [Lento 5,秋]

養護学校の体育館、生徒たちの絵が飾られている。
静かにピアノが流れる。
訪れた人たちはゆっくりと作品を愉しんでいる。
今日は文化祭だ
11時、美術担当、梶田の声が…。
「本日はお忙しいところ文化祭におこしくださいましてまことに有難うございます…。」
ピアノのあるステージ前に観客が集まってくる。
「今回も中村和音さんが来て下さいました。」
拍手と歓声が湧きあがる。
和音の文化祭参加は4回目、和音のことを知ってる人も多い。
「実は和音さん、プロのピアニストとしての活動が始まりまして…。」
拍手と歓声が一段と盛り上がる。
「先ほどマネージャーさんから学校にCDをいただきましたが、我が家の家宝にしたいと…。」
笑い声と突っ込みが入り混じる。
「本日のテーマは展覧会の絵です、そうムソルグスキーの代表作ですね、和音さん用意は?」
「いいわよ。」
「では、まずムソルグスキーの展覧会の絵です。」

プロムナードが軽やかに始まる。
名曲が和音独特のタッチで奏でられる。
それは子どもたちの心へも自然に入っていく様で皆、静かに聴いている。
全曲が終わり拍手喝采。

しかし本番はこれからの様で…。
プロムナードがまた楽しげに始まる。
ステージのモニターに生徒の絵が映し出される。
大胆に描かれたひまわりの絵だ。
小さなどよめきが起こる、作者の生徒の家族からのものだろうか。
観客は和音のピアノがその作品のイメージを奏でていることに気づく。
曲がプロムナードに変わる毎にモニターの絵が変わっていく。
そして、その絵がピアノによって奏でられていく。
独特の展覧会の絵の世界がそこに広がる。
プロムナードは和音が絵から受けたイメージか毎回違う雰囲気に。
和音の妹、絵美の絵も含め生徒たち十数点の作品が続く。

最後の絵はちょっと違っていた、映し出された瞬間、観客からどよめきが起こった。
今までの作品とは明らかに違い生徒の絵ではなさそうだ。
土から芽を出してまもない双葉を中心に何でもないような草が描かれているのだが、そこは独特の生の世界となっている。
和音のピアノも一段と盛り上がり、力強く、絵とピアノが観客の心に入り込んでいく。
聴く者に生きる力を与えようかという演奏は明るく華やかに終わりを迎えた。

満場の拍手、目頭にハンカチを当てる姿も。
しばらくの間をおいて立ち上がった和音に、さらなる拍手が贈られる。

ひと呼吸おいて和音。
「本日は展覧会にようこそ、拙い演奏でしたが楽しんでいただけたしょうか。」
もう一度拍手が…。
「以前から生徒さんたちの絵をピアノで奏でてみたいと思っていまして、今回ようやく実現しました。
梶田先生始め学校関係者の方々に改めて、有難うございました、と、この場をお借りして言わさせて下さい。」
再び拍手、梶田は照れくさそうにしている。
「少しだけ付け加えさせていただきますと、最後の絵だけは、ここの生徒さんの絵ではありません。
私と同じLentoに所属しています、茂根達也の作品です、今回の演奏に向けて、希望、というテーマで描いてもらいました。」
一段と強い拍手が作品の出来を象徴している。

「最後はいつもの曲です、今回で4回目ですね。
実はうちにショパンというアメリカンショートヘアの雄猫がいるんですけど、なぜかピアノのペダルを踏む私の足の動きが気に入ったみたいなんです。
先日まさに、ねこふんじゃいまして、今日はその時の情景から始めます。」
笑い声と拍手の中、ピアノへ戻る和音。
いきなり、リストの超絶技巧練習曲をトップスピードで弾き始める和音。
観客は息をのんでいる。
と、突然、のんびりとしたテンポでねこふんじゃったに変わる。
観客からは緊張が解けたかの様にほっとした笑い声がおこる。
後は、子猫の情景がねこふんじゃった変奏曲となって奏でられる。
大人も子どもも楽しそうに聴き入っている。


 展覧会の絵

日本の地図から簡単ホテル検索【ホテルクラブ】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0