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101-観光 [岩崎雄太-11]

訓練生達も漁師の仕事には興味がある。

「なあ、亮、漁師として生活は成り立ちそうなのか?」
「自分で船を持つとなると、とてもじゃないが俺達には無理だ、船は安くないからな。
でも里美姉さんは、株式会社岩崎で漁船を購入し維持管理、漁師を社員として雇用という形で収入の安定を考えてくれている。」
「大漁になっても収入は増えないってことか?」
「そうだね、でも大漁だと単価が下がるから必ずしも喜ばしい事でもないんだ、沢山働かないといけないし、高く売れる蟹とかが程よく獲れる状態が続くのが理想なんだが、一年を通して獲れる訳でもないからな。」
「現役の漁師さん達とはうまく行ってるのか?」
「ああ、将来に向けて色々相談してるよ漁業の有り方とか、養殖の比率を上げて行こうとかね。
でも何と言っても直売所と食堂の存在が大きいよ、量は多くなくても、売りたい漁師さんからバランス良く高めに仕入れてくれてるから、漁師さんの側も特に質の良いのを選んで渡しているそうだ。
だから、高めでも売れるし、直売所の魚は国道の名物になりつつあるらしい。」
「高めと言っても町のスーパーよりは安いんだろ。」
「町のスーパーには並ばない様な魚が高値で売れてるそうだよ。
今は、観光客でも参加出来る様な競りを企画中なんだ、食堂とかの仕入れ担当者も参加すれば価格は維持出来るからね。
観光客が競り落とした魚は、手数料を貰ってその場で調理して提供しても良いだろう。」
「詐欺師のおっちゃん辺りが売り手になったらちょっと面白いエンターテイメントに出来そうだな。」
「魚介類の売り上げ大幅アップとまではならなくても、観光客を呼び込めたら嬉しいわね。」
「でも、スーパー銭湯が出来たとしても、観光的に弱くはないのか。」
「バスツアーに組み込んで貰う様に営業を掛けるとは聞いてるわね…、それで…、魅力ある観光地にしようと言われてるけど、私達、観光旅行の経験そんなにないのよね。」
「俺は修学旅行とここへ来る途中で立ち寄ったとこぐらいかな。」
「お父さまは遊びも大切だと言って下さるけど…。」
「君達何言ってんのよ。」
「あっ、里美姉さん…、何時から…。」
「職業訓練校の一期生は、バイト扱いの実習も経験して来たのでしょ、貯金はないのかしら?」
「少しは有りますけど、将来を考えると無駄遣い出来ません。」
「真面目に働くつもりがあったら将来の心配は要らないって、お父さまに言われてなかった?」
「そうですけど…、お金の問題だけではなくて…、旅館で泊まった経験は修学旅行だけですよ。
姉さま、た、例えばですよ、新婚旅行とかで旅館に泊まるとして…、わ~、何か恥ずかしい失敗ばっかしちゃいそうです。」
「あっ、経験がないと不安もあるのね、そうだな、これから観光も重視して行くから、訓練の一環として、お泊りで遊びに行く機会を作ろうか。」
「やった~、枕投げですね。」
「こらこら、違うだろ、女風呂をこっそり覗くというイベントをだな。」
「待て、それは犯罪だぞ、堂々と混浴露天風呂でだな…。」
「男ども黙れ! それから枕投げは禁止よ、う~ん、親戚や友達の家に泊めて貰った経験は? みんなどうかな?」
「そんな親戚いたら、ここにいませんよ。」
「外泊許可を貰ってた子が羨ましかったな…。」
「まずはそこからなのね、観光客になる前に…、職業訓練校のカリキュラムも見直しかな。」
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102-経験 [岩崎雄太-11]

「お父さま、ちょっと見落としていました。」
「見落とし? 里美にしては珍しいな。」
「スーパー銭湯を中心に観光にも力を入れて行こうとなっていますが、訓練生は観光の経験が少な過ぎるみたいなんです。
お客様の気持ちになって接客しましょう、と聞かされても、観光客として接客された経験がなくては、客の気持ちは掴みにくいかもしれません。」
「そうか…、経験不足か…、親の愛情を知らないから、結婚して子育てが出来るか不安だという子もいた、我々がもっと踏み込んで考えてあげないとだめかもな。」
「漁師見習いの連中も、始めは漁師さんの家に泊めて頂くだけでも緊張したと言います。
それで、訓練中の子達は研修も兼ねて旅館での宿泊を経験させようかと思います、先方には事情を説明して、うちの子達がストレスを感じない様に配慮を求めてですが、程よく傾きかけたお手頃な旅館が有りますので。」
「その旅館の再生を兼ねてという訳なんだな。」
「はい、それとは別に家事手伝いの延長でのお泊りも、今まで経験して来なかった子達にも経験して貰える様な体制を作りたいと考えています。」
「そうだな、協力して下さる方は少なくないだろう、養護施設の子達にも、お爺ちゃんち、お婆ちゃんちを経験させてあげたいものだな。」
「はい、畑仕事や草むしりのお手伝いとセットで進めてみます、お泊りは工房の寮で随分慣れたと思いますから…、家族みたいなグループを作って泊めて頂く形を考えてみます。」
「それが可能になるぐらいになって来たという事なんだな、どうだろうスーパー銭湯のフルオープンも近い、そろそろ、ここの活動をマスコミに解禁しても良いのではないか。」
「う~ん、そうですね、ここは特殊事情が有りますが、積極的に公表して行くのは職業訓練校と都会からの移住者ですね。
何かのはずみで犯罪歴の事が知られてもこの村の住人に関しては大きな問題にはならないと思います、村長と相談して、皆さんの意見を伺ってみます。
マイナスの面よりドライブインを中心にプラスになる事が多いと思います、そうだダンサー志望の子に出番を作ってあげましょうか。」
「漁業とも深く係わって行こうとしてる事を強調したいところだな。」
「はい、マスコミ関係に強い人が大学の先生にいますから相談してみます、注目が集まれば売り上げも伸びると思いますし支援体制も強化出来そうです。」
「村人に対する配慮だけは忘れないでな。」
「はい。」
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103-兄弟 [岩崎雄太-11]

スーパー銭湯の大広間も含めた全館オープンに合わせ、テレビ局のローカルニュースが取材に訪れた。

「岩崎さん、大きな町からは少し距離の有るこの地に、かなりの投資をされていますが勝算は有るのですか?」
「はい、このエリアが県内でも人口増加率が最大という事はご存知でしたか?」
「いいえ、特に人口が増える理由が分かりませんが。」
「ここの山奥の村を中心に都会で生き辛くなった人を受け入れているのです。
逃げ場所と考えて下さっても構いません、ここへ越して来るまでの経緯は様々ですが、皆さんはこの地を自分の故郷にしようと、農業や手工業、水産業、そしてここでサービス業に取り組んでいます。」
「過疎化に歯止めを掛けているという事ですか。」
「はい、この施設はそんな皆さんの心の拠り所という意味合いも有るのです。」
「そうでしたか、若い人も大勢働いていますね。」
「私と同じ職業訓練校の実習生です。」
「ここでトレーニングして就職という事ですね。」
「ええ、そのままこの地で就職と考えているメンバーも多いです。」
「それだと人数が多過ぎませんか、限りある仕事に対してですが。」
「そうでもなくて…、何人か紹介しますね。」
「はい。」

「そこで掃除をしているのは健吾です。」
「え~っと、岩崎健吾さんですね、職業訓練の一環と伺いましたが。」
「はい、とは言ってもここの手伝いはオープンに合わせての事で、普段は竹細工を作っています。
土産物売り場の商品は師匠の作品が中心ですが、自分の作品も置かせて頂いてます。」
「そうですか、そちらの女性…、岩崎玲子さんは何を?」
「私は児童養護施設で実習をしています、仕事を覚えて自信がついたら正規の職員にして頂けます。」
「そういった取り組みもされているのですか、ところで名札を見ると岩崎さんが多いのですね。」
「はい、この辺りで働いている岩崎のほとんどは兄弟なんです。」
「あまり似てない様な…。」
「ええ、皆さんそう言われます。」
「玲子、隠さなくて良いわよ。」
「ふふ、実はみんな養子なんです、私は実の親の顔さえ知りません、ここの岩崎の中には親から虐待を受けていた人もいます、みんな岩崎雄太の養子にして頂いて、戸籍上の兄弟は二百人を越えました。
岩崎を名乗っていない仲間も、兄弟同然の扱いで守って貰えますから…、そんな人達を合わせたら心の兄弟は数えきれません、もちろん養護施設の子ども達もです。」
「福祉村という名前は少し耳にしていましたが、そんなレベルとは思ってもいなかったです、しかし養子と言ってもそんなに多くては…、どうな感覚なのですか?」
「ほんとに甘えたい年齢の子は村の大人達が親代わりをしています、私達にとっては精神的な支えであったり、自立したくなった時に身元保証をして下さる存在であったり…、でも父からはトラブルに直面した時は絶対遠慮せずに甘えなさいと言われています、養子にして頂く絶対条件としてです。
ここで生活していくのに何の不安も有りません、真面目に働いて弟や妹の面倒見て、父や母といつも一緒に居られる訳では有りませんが、兄弟全員同じ条件です、父の実子である弟達に寂しい思いをさせてしまう事もあって心苦しくも有るのですが、そんな弟達も長野の岩崎村から励ましの手紙をくれます。」
「ここは単なるスーパー銭湯を併設したドライブインではないということですね。」
「はい、父や父を支えて下さってる方々の優しい思いが沢山詰まった私達の家です、従業員一同お客様に満足して頂ける頑張りますのでよろしくお願いします。」
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104-史枝 [岩崎雄太-11]

スーパー銭湯の開業をきっかけに他の店舗も売り上げを伸ばしている。

「里美姉さん、好調ですね。」
「そうね、でも、しばらくしたら落ち着くでしょう。」
「新規オープン効果は続かないという事ですか?」
「ええ、それは仕方ないわ。」
「そうなると営業的に厳しくないですか?」
「それは計算の内に入ってるし定期的にイベントを仕掛けて行くから大丈夫でしょう、厳しくなりそうなら別で策を講じます。」
「うちは、実習生も多いですし、時給も地域の相場より良いですから人件費が通常の商業施設より負担になっていると思いますが。」
「それも計算の内に入ってるわ、う~ん、でも、ここは何と言っても借入金がないから経営の参考にはしないでね。」
「そうなのですか、私は学習を始めたばかりで何も分かってません。」
「ここはね何もかも甘くてぬるいのよ、ある程度の知識を身に付けたら、厳しい現実研修も経験しましょうか。」
「は、はい。」
「県内の主な事業所にはご挨拶を済ませてあるから、そうねこれから個人経営レベルの小さい会社とも新たな関係を模索して行くから、史枝はそこで経験を積もう。」
「はい、お願いします。」
「お父さまはお気楽なのよ、まずはこのエリアだけど将来的には県全域の活性化、いや中国地方全域を何とかしようよって、それも人口密度が低くて過疎化が進んでいるここを出発点にしてなのよ。」
「それを里美姉さんに?」
「もちろん一人では無理だから、ふふ、何人か密かに巻き込んでいるけどね、本人も全体像を理解していない状況で。」
「わ、私はごく平凡な人間で…。」
「だから、きちんとフォローするわ、でも気付いた事があったら遠慮せずに教えてね。」
「は、はい。」
「実際ね、大学の連中は考え過ぎる面も有るのよ、それで物事が見えなくなってたりするんだな。
その点史枝は、あの良く分からない正平を手なずけている、それだけでも尊敬に値するわ。」
「はは、しょ、正平はただの馬鹿ですから…。」
「彼は何か読めない所があって、ただの馬鹿か大物かどっちか、ふふ、どっちになるかは史枝次第かもよ。」
「あっ、はい…、人とはペースが違うけど優しくて暖かい、でも過去を引きずってるのかと感じる事も有ります。」
「そうか、時間が掛かるかもしれないけど、これからもよろしくね。」
「はい。」
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105-部下 [岩崎雄太-11]

「里美、史枝はどうだ?」
「はい、お父さま、真面目に取り組んでくれています、経営的な事とは今まで全く向き合って来なかった割には吸収が早くて、ああいう子が大学進学を考えられなかったという現状は変えて行きたいと思います、高卒でも能力を活かせる環境を作れたら良いのですが社会のシステムとして今の企業では難しそうですから。」
「そうだな、彼女、正平の事は何か言ってたか?」
「はい、人とはペースが違うけど優しくて暖かい、でも過去を引きずってるのかと感じる事も有ると、ただの馬鹿と言ってる割には結構好意を抱いている様子でした。」
「はは、面白いカップルになるかもしれないな、正平には史枝を通して、そうだな史枝が正平に相談する形で課題を与えてみてくれないか。」
「分かりました、恐ろしくバランスの悪い正平の能力から何か引き出せるかもしれません。」
「後、史枝がここを出ての研修に向かう時は、適当な理由を作って正平の研修も…、難しいかな…。」
「史枝と相談してみます、多分一人で行くより心強いだろうと思います、問題は正平の研修内容ですが…、それを探すという名目でも構わないですよね。」
「そうだな、彼が本当に興味を持てる事を探す旅だな。」
「ふふ、手の掛かる子程可愛いですね。」
「う~ん、母性本能をくすぐるのが得意なのかな。」
「あっ、その線でも研修を考えてみます。」
「他の連中は迷いながらも自分の道を決めて進んでいる、正平も何か見つけて欲しいものだな。」
「はい。」
「史枝の他はどうなんだ?」
「まだこれからです、目を付けてるリーダー候補は各部署でさりげなく研修中ですが、史枝のレベルまでには時間が掛かる人も多いかと思っています。
でも工房の師匠連中が自立を考えてくれてますので、工房メンバー、農業メンバー、訓練生のみんなが、自立して支援する側に立ちたいと強く考え、仕事に対して前向きに取り組んでいます。」
「ここからの拡大は段々難しくなっていく、人材を育てていかないとペースが上がらないからな。」
「はい、大体、山陰なんて少々陰気な名称を付けた人を恨みたいですよ、都会から訳ありの人を受け入れ続けるにしても、過疎とか人口密度が低いとかマイナスイメージが強すぎます。」
「土地は安くても工場を誘致するには労働力の不安が有るし、輸送コストもかかる、その辺りを解決したいが、まずは福祉村を拡大して行くしかないのかな。」
「村の拡大だけなら、協力企業も多くて問題有りませんが、若手が都会へ出て行ってしまう現実は…、弟や妹がこの地に足場を築くにしても、この地で生まれ育った人と仲良くなって欲しいと思いますし。」
「やはり産業構造から見直さないとだめだな、その視点は多い方が良いだろう、里美は今まで通り動いてくれ、私は違ったが視点で策を練ってくれそうな人を当たってみるよ。」
「はい、でもお父さまがここの事ばかりに時間を使っていて問題ないのですか?」
「はは、里美と違って優秀な部下が沢山いるからね、今は私が表に出なくてはならない様な案件はないのさ、どうだ羨ましいだろ。」
「ふっふ~、私だって着々と…、まあ部下では有りませんが協力して下さる方を増やしてますよ。」
「ならば中国地方活性化計画は順調に行けそうだな。」
「お、お父さまのスケールは大き過ぎます、そんな大それた事こそ優秀な部下に命じて下さればよろしいのに。」
「はは、夢みたいな話は大切な娘に託したいじゃないか、その方が楽しいし。」
「も~、お父さまったら…。」
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106-アイドル [岩崎雄太-11]

スーパー銭湯のホールにて。

「里美姉さん、地域の活性化を考えるとこの地域で如何にお金が使われるか、この地域で如何にお金を稼げるかという事ですよね。」
「そうね、史枝は何かアイディア有る?」
「ささやかですが、ここのホールが充分活かされてないと思いまして、せっかくの舞台があまり使われてません。」
「イベントで使うつもりはあるけど、まだイベントを開かなくても売り上げが好調なのよね。」
「お客さんが多い内に付加価値を付けて行けば、売り上げの維持、うまく行けば更なる売り上げに繋がると思うのです。」
「付加価値を付けれそうなの?」
「アイドルによる歌やダンス、アイドルと言っても年齢は幅広くて良いと思います、お婆ちゃんやお爺ちゃんにとってのアイドルを考えたら、年齢に幅が有った方が面白いです。
まずはセミプロやアマチュアをここでプロモーションしていく様な事務所を立ち上げたいです。
舞台に立つ人は公開オーデションで探して事務所に所属して貰いますが、オーデション自体もイベントとして面白いと思います。
オーデション合格者と相談して、歌や踊りの舞台を極力毎日開きたいですね。
スーパー銭湯入場者ならば特別な料金なしで舞台を楽しめる、でも特定の人を応援したい人には、おひねりをどうぞ的に…、おひねりなんて制度、今回調べて初めて知りました。
でも舞台に投げるより、お賽銭形式を考えています。
出演者の名前のスタンプと袋を用意して、まず袋に応援したい人の名前をスタンプして現金を入れ、投票箱へ入れて貰います。
その金額によって出番が増えたり減ったり。
でもそれだけだとお金持ちだけの好みに片寄りかねませんので、入場時に一人一票の投票用紙を渡して投票して貰うという形も別枠で取り入れたいです。
ここで頂いたお金から事務所の運営費、スケジュール管理などのマネジメント料を頂いた残りは税金に注意しながらアーティストの手に、人気が出た人は出番が増えて収入も増える、人気のない人は空いた時間の穴埋めになって頂いて、現実の厳しさを味わっていただく。
集客力のある若手が出てきたら時間帯によっては立ち見ばかりのライブも、ライブで盛り上がってお風呂に入って、ついでに食事も、という形を定着させる事に成功したら、経営的にかなり安定させる事が出来ると思うのです。」
「方向性は悪くないわね、具体化しましょう、そうね、まずは史枝が中心になって進めるか、別でリーダーを立てるかなんだけど。」
「なんとなく、里美姉さんが私に求めている事は分かっているつもりです、プロジェクトの中心は敏男と澄香に任せてみたいと思っていますがどうですか。」
「そうね、私の方でもサポートを考えるけど、二人を優先してあげて。」
「分かりました、具体的なプロジェクトの内容は二人にまとめて貰います、私は彼等が働き易い環境を整えるべく動きます。」
「問題は大人気とまでは行かなくても集客力の有る人を見つけられるかどうかね。」
「はい、まずはオーデションが盛り上がる様に…、里美姉さん綺麗だから参加者募集のポスターお願いします。」
「うっ、そう来たか、でも、うちの可愛い妹や弟がいるじゃない。」
「彼等はオーデションを受けて貰わなくてはいけませんから。」
「でも、みんな歌や踊りとか特技が有るのかしら?」
「今時のアイドルは歌も踊りも大した事なくて、どこにでもいるレベルのルックスの人も結構います、意外な人にファンが出来るかもしれませんよ。」
「ほんとに力の有るシンガーとか発掘したいけどな。」
「そうですね…、里美姉さんは正平の歌を聴いた事有りますか?」
「いえ、歌どころか普通に話す声すら少ししか聞いた事ないかも。」
「私は正平の歌が好きなんです、派手さはないけど心に滲みて、人の色々な感情に刺激を与えてくれるというか、人前ではあまり歌わないのですが…。」
「微妙なのね…、そうなると、まずは歌の見極めかな、録音はないの?」
「あっ、録音ですか、今まで考えもしなかった…です…、何時も涙が出てしまって…。
でも正平に頼んでみます、こっそり録音したら絶対怒りますから。」
「お願いね…、ある程度のレベル以上であれば、そうね、もし観客の前で歌う事に抵抗があったら映像作品だけでも良いかも…、正平ならビジュアル的にも行けそうだし、ふふ、彼さえ傷つくことがなければ色々チャレンジしてみたいわね、幸次ならプロモーションビデオ的なの作ってくれるのじゃないかしら。」
「う~ん、一歩踏み込んでか…、姉さん…、正平は馬鹿なんですけどね…。」
「ふふ、独り占めしたいのかな、でも正平に才能が有ったらその部分は独り占めしちゃだめよ、他は大切にね。」
「えっ。」
「みんな、あなた達の事を暖かく見守っているのよ、幸次に頑張って貰いましょうね。」
「は、はい…。」
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107-チーム [岩崎雄太-11]

二週間ほど後、幸次は正平が歌う簡単なビデオ映像を完成させ里美に見せた。

「幸次、良いわね、こんなレベルとは思ってもいなかったわ。」
「でしょ里美姉さん、びっくりですよ、あいつ不器用な奴だと思ってたら歌に関しては全然違って…、もしかすると元々歌手になりたかったんじゃないですかね。」
「だから、職業訓練に身が入ってなかったのかしら。」
「どうでしょう、オーデションには乗り気になってます、ただ、この演奏ではカラオケを使っていますが、あいつの良さが前面に出てなくて、もっと違う演奏で歌わせた方が良いんです。
かと言って健介達の素人バンドでは技術的に、健介自身がもっと上手なバックバンドで表に出してあげたいと話しているぐらいでして。」
「幸次は正平の才能をどれくらいのレベルだと考えているの?」
「周りを優秀なスタッフで固めたら、それなりに行けると思います、まあ自分も素人なので業界の人がどう判断するか分かりませんが。」
「そっか、簡単にプロと接触出来ない田舎のハンディが出てしまうのね…、歌に関しては器用なの? 正平は。」
「そう感じました、カラオケと健介達とでは、同じ曲でも随分違う仕上がりになりましたから。」
「バックを三味線とかってどうかしら?」
「えっ?」
「曲もJポップに拘らずに民謡とか懐メロとか幅広く挑戦出来ないかな。」
「あっ、スーパー銭湯の客は高齢者が多いから…。」
「ええ、それも有るけど三味線なら先生レベルの人に心当たりが有って、オーデションにも参加して頂こうと考えていたの、彼女を通せば他の楽器も、まあ高齢者ばかりになるかもしれないけど。」
「正平がどう判断するか分かりませんが相談してみます、一度会ってみたいですが。」
「相手は暇な人ばかりだから君達の都合に合わせて下さると思うわよ、スーパー銭湯の無料チケットを差し上げれば喜んで来て下さるでしょう。」
「そうなって来ると…、音楽的な部分は工房の佐伯さん辺りに相談かな、彼のオリジナルをアカペラで録音したのを聴かせて貰ったのですが、編曲とかしないと…、高校時代の同級生ならピアノ習ってる子がいましたが、ここの仲間にはいませんから。」
「分かったわ、この映像も見て貰う様に、う~んチーム正平のまとめ役が必要ね。」
「俺か史枝ですか?」
「史枝はだめ、他でこき使う予定が有るから、君にはサブになって欲しいわ、メインは京子か聡志ぐらいでどうかしら、明日の夜集まって貰って相談しましょう、連絡は幸次も手伝ってね、良いでしょ?」
「はは、姉さんに逆らえる訳ないですよ。」
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108-会合 [岩崎雄太-11]

翌日、チーム正平の初会合。

「正平の事もですが、里美姉さんはホールを利用した芸能活動に随分乗り気なんですね。」
「ええ、都会に有って田舎に無い物を少しずつでも減らしたいのよ。」
「でもホールと言っても立ち見で頑張って二百人が限界じゃないですか?」
「ここだけの展開なら限界は計算できるけど、可能性は広がるのよ、タイミングも良いし。」
「タイミングですか?」
「ええ、テレビクルーの取材はまだ受けてないの?」
「そう言えば、ドキュメンタリー番組の取材が入ってるって誰か言ってたなぁ。」
「そう、そこにねじ込むのよ、元々は過疎地の農業、漁業の問題に私達の村がどう取り組んでいるかというお固い番組企画なんだけど、過疎地の再生を目指して作られた大型ドライブイン併設のスーパー銭湯で、次世代のスターを出そうというプロジェクトなら面白そうでしょ。」
「次世代のスターですか…。」
「七十のお婆ちゃんが爺ちゃん達の人気者になっても良いし、田舎で暮らすアーティストに光が当たるのも楽しみだわ。」
「でも生活の基盤があるお年寄りは趣味の延長で済むけど、若手は難しいですよね。」
「若者だって他の仕事をしながら趣味的にやって行けば良いし、力の有る人なら、そうね田舎に本拠地を置いていても活躍できるという事の証明をしてくれたら…、島根の田舎から東京ではなくニューヨークを目指すみたいな発想も楽しくないかな、ねえ正平は算数苦手だけど英語は得意なのよね。」
「九九はちゃんと覚えたよ。」
「ふふ、英語の歌も聴かせて貰ったけど、どうやって練習したの?」
「曲を聴きながら真似してた。」
「どうかな、職業訓練のメインを歌手にするって、歌う事を仕事にしてみない?」
「歌う事が仕事になるのかな?」
「ええ、他の事もお願いするかもしれないけど。」
「オーデションは遊びみたいなものだろ。」
「そうね、みんなで遊ぼうよ、正平がどこまで行けるかってゲームみたいな感じでさ、遊びだから失敗したって構わない、そんな経験も私達には必要なのよ、養護施設の子でダンサーになりたいって子がいるけど、始めは、私の力ではどうにもならないって思った、でも今は違った可能性も見えて来ている、足りないのは私達の経験じゃないかしら。」
「そうか、里美ちゃんはそんな事も考えていたんだ、正平くんの歌に惚れ込んで舞い上がったという訳でもないのね。」
「佐伯さんは正平の歌を聴いて如何でした。」
「そうね、大勢の人に聴いて欲しい歌声だわ、でもオリジナル曲は個性的で、編曲は私には荷が重いわね。」
「お父さまにおねだりしてプロに編曲をお願いしてもよいレベルでしょうか?」
「そうね…、正平くんが納得して歌える編曲をする作業は簡単ではないと思うわ、プロでも時間を掛けて正平くんと向き合ってくれる様な人が見つかるかしら。」
「う~ん、ハードルがどんどん上がってる気がするわね。」
「さ、里美…、姉…さん。」
「うん、どうした正平。」
「オリジナルでなくても、き、聴かせて貰った、民謡や昔の歌も歌ってみたいけど。」
「あっ、そうね、そっちから取り掛かろうか、まずはお年寄りの心を射抜いて欲しいのだけど。」
「何となく…、史枝から聞いた…、実際に歌ってみないと分らないけど…。」
「その手伝いは私でも何とかなるわ、でも工房の仕事との兼ね合いが問題にならないかしら。」
「工房へ衣装の発注もしなくてはなりませんが、現状、佐伯さんの工房での仕事は他の人に代わって頂く事が可能です、でも正平の手助けは事情の分かってない人には頼めません。」
「うふ、そうか、正平くんの事は私に任せなさい…、あっ、だ、大丈夫よ、史枝…、泣かないで…、そんなんじゃないから…。」
「はい、正平の事、よろしくお願いします…。」
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109-体制 [岩崎雄太-11]

「ではチームの体制を作って行きましょうか、聡志、どう?」
「はい、京子とも相談しまして自分がまとめ役をさせて貰おうと考えています。
京子は雑事全般を担当、幸次は主にプロモーションビデオの制作、楽曲に関しては佐伯さんにお願いするとして、自分は著作権関係とかオーデション担当との調整とかを中心に考えてみます。」
「衣装は、工房メンバーと相談してみるわ。」
「有難う御座います、佐伯さん。」
「俺は?」
「正平は、まず佐伯さんと一緒にホールで歌う歌を完成させる事が第一だな。」
「分かった、歌いたい曲が何曲か有るんだけど…、史枝は里美姉さんに…、こき使われるから、オーデションにはいないのかな…。」
「ふふ、大丈夫よ、こき使うけど、史枝はもうすぐ自分のスケジュールのほとんどを自分で管理する様になるからね、史枝に聴かせたい曲が有るのかな。」
「うん、史枝が居れば大勢の前でも大丈夫な気がするし。」
「そっか…、佐伯さん、工房へ史枝の衣装も発注させて貰うわ、髪型やメイクも見て欲しいかな、そうね仕事の時はクールな感じ、正平といる時は正平の衣装に合わせて…、そうそう、京子、正平関連の費用はチーム正平の経費として君達の給料も含めて細かい計算も有るから、聡志と一緒に経理の山形さんと相談してね。」
「はい、ある意味独立した形になるのですね、仕事の量によっては今やってる作業を三期生に引き継ぎます。」
「ええ、やっぱ京子は分かってるわね、佐伯さん、史枝の衣装関連は山形さんへも伝えておきますから、私宛に請求して下さい、予算はとりあえず五十万ぐらい、収まらなかったら教えて下さい。」
「そうよね、史枝ちゃんはもっとお洒落しなくっちゃ、里美ちゃんのサブなんだから、外見も出来る女と思わせる様に…、ふふ、素材が良いから楽しみだわ。」
「えっ、里美姉さん、私…。」
「ここは地味な子が多いから、ちょっとお手本になってね。」
「そんな、派手なのは…。」
「外見も大切なのよ、女の武器なんだから、ですよね佐伯さん。」
「そうよ、史枝ちゃんが頑張ってくれないとね、私達も応援してるから、スケジュールを調整して工房へ来てね、美容師にも話しておくから、メイクの仕方も一から教えて貰うのよ。
ねえ里美ちゃん、他の子達にも少しずつ教えて行こうか、店に出てる子優先で。」
「あっ、そうですね、ちゃんとすれば男性客も増えます、史枝と相談して頂けますか、いいでしょ? 史枝。」
「はい、そういう事でしたら。」
「う~ん、里美ちゃん、美容師の資格を持っている人が増えて来たから、いっそのこと職業訓練校の辺りか、ドライブインの近くに店を出してはどう?」
「あっ、史枝、今まで髪のカットとかどうしてたの?」
「器用な子に切って貰ったりしてました。」
「素人だったのか…、ごめんね気付いてあげられなくて。
これは色々検討してみる必要があるわね。」
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110-将来像 [岩崎雄太-11]

翌日。

「史枝、ドライブインを拡張して理容室、美容室を作りましょう、人口が増えているから大き目に…、ざっと話して行くから録音しておいて後でまとめてね。」
「はい。」
「美容室は、まずこれからのオーデション合格者が舞台に立つ前に利用して貰う事も想定。
で、舞台の方なんだけど、スーパー銭湯のホールだからお客さんは基本浴衣姿で問題ないわ、でも先々は舞台の内容を充実させ、アーティストに固定のファンが出来る様にして行きたいの。
そうなったら、ホールは元々増築の形で建てられているでしょ、場合によっては銭湯とは切り離した形のライブ会場に出来ると思わない?
浴衣で気楽に見る演芸から、ちょっとかっこつけて見に行きたくなる、自分もお洒落して行くアーティストのライブコンサートへと進化させたいのよ。
そうなって来たら、例えば、午前中に美容室へ行って、お昼ご飯をレストランで食べて午後はライブ、終わったらお風呂に入って夕飯食べてという形も有りでしょ。
さらに、工房でローカルブランドを立ち上げて、アーティストと一体感のある服の販売も有りじゃない?
もちろん、すぐには無理だけど、今から将来像を見据えて準備して行けば可能だと思うのよ。
ここ独特のお洒落文化を発信出来たら面白いでしょ? 何でもかんでも都会に合わせる必要はないからさ。」
「そうですよね、工房の服は質の良さが売り物だけど、もっと売り上げを伸ばしたいです…、あっ、当然グッズも作れば売れます。」
「数を売るのは難しくても、うちならオーダーメイドが可能という強みが有るわよね。」
「まずは、明日のローカルスターの発掘ですね…、ささやかなファッションショーを開いてみるのは如何です? 歌や踊りが出来なくても舞台に立てます、大きな会場でもないから素人でも問題ないし、お爺ちゃんやお婆ちゃんが舞台に立つのも有りですね、その場で注文を受けるオーダーメイドってどうですか、スーパー銭湯のお客さんはお金に余裕の有りそうな方も少なく有りませんから。」
「行けるかも、工房へ行った時に相談して来てね、美容室、ローカルブランド、ファッションショー、オーダーメイド、アイドルグッズ、うまく行けば新規移住希望者の募集定員を増やせるわね、村人が増えれば店も増やし易くなって生活環境も良くなる、そうなれば移住者もさらに増やせる、色々障害も有るでしょうが過疎化の真逆を実現出来るかも。」
「工房の女性パワーなら行けますよ、皆さん苦労を経験してるからか力強い方ばかりです。」
「そうね、私は美容室の建設計画を進めるから、工房のお姉さん達との調整、お願い出来るかしら。」
「はい。」
「ちゃんと綺麗にして貰って来るのよ、まずは髪型から。」
「は、はい。」
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