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108-会合 [岩崎雄太-11]

翌日、チーム正平の初会合。

「正平の事もですが、里美姉さんはホールを利用した芸能活動に随分乗り気なんですね。」
「ええ、都会に有って田舎に無い物を少しずつでも減らしたいのよ。」
「でもホールと言っても立ち見で頑張って二百人が限界じゃないですか?」
「ここだけの展開なら限界は計算できるけど、可能性は広がるのよ、タイミングも良いし。」
「タイミングですか?」
「ええ、テレビクルーの取材はまだ受けてないの?」
「そう言えば、ドキュメンタリー番組の取材が入ってるって誰か言ってたなぁ。」
「そう、そこにねじ込むのよ、元々は過疎地の農業、漁業の問題に私達の村がどう取り組んでいるかというお固い番組企画なんだけど、過疎地の再生を目指して作られた大型ドライブイン併設のスーパー銭湯で、次世代のスターを出そうというプロジェクトなら面白そうでしょ。」
「次世代のスターですか…。」
「七十のお婆ちゃんが爺ちゃん達の人気者になっても良いし、田舎で暮らすアーティストに光が当たるのも楽しみだわ。」
「でも生活の基盤があるお年寄りは趣味の延長で済むけど、若手は難しいですよね。」
「若者だって他の仕事をしながら趣味的にやって行けば良いし、力の有る人なら、そうね田舎に本拠地を置いていても活躍できるという事の証明をしてくれたら…、島根の田舎から東京ではなくニューヨークを目指すみたいな発想も楽しくないかな、ねえ正平は算数苦手だけど英語は得意なのよね。」
「九九はちゃんと覚えたよ。」
「ふふ、英語の歌も聴かせて貰ったけど、どうやって練習したの?」
「曲を聴きながら真似してた。」
「どうかな、職業訓練のメインを歌手にするって、歌う事を仕事にしてみない?」
「歌う事が仕事になるのかな?」
「ええ、他の事もお願いするかもしれないけど。」
「オーデションは遊びみたいなものだろ。」
「そうね、みんなで遊ぼうよ、正平がどこまで行けるかってゲームみたいな感じでさ、遊びだから失敗したって構わない、そんな経験も私達には必要なのよ、養護施設の子でダンサーになりたいって子がいるけど、始めは、私の力ではどうにもならないって思った、でも今は違った可能性も見えて来ている、足りないのは私達の経験じゃないかしら。」
「そうか、里美ちゃんはそんな事も考えていたんだ、正平くんの歌に惚れ込んで舞い上がったという訳でもないのね。」
「佐伯さんは正平の歌を聴いて如何でした。」
「そうね、大勢の人に聴いて欲しい歌声だわ、でもオリジナル曲は個性的で、編曲は私には荷が重いわね。」
「お父さまにおねだりしてプロに編曲をお願いしてもよいレベルでしょうか?」
「そうね…、正平くんが納得して歌える編曲をする作業は簡単ではないと思うわ、プロでも時間を掛けて正平くんと向き合ってくれる様な人が見つかるかしら。」
「う~ん、ハードルがどんどん上がってる気がするわね。」
「さ、里美…、姉…さん。」
「うん、どうした正平。」
「オリジナルでなくても、き、聴かせて貰った、民謡や昔の歌も歌ってみたいけど。」
「あっ、そうね、そっちから取り掛かろうか、まずはお年寄りの心を射抜いて欲しいのだけど。」
「何となく…、史枝から聞いた…、実際に歌ってみないと分らないけど…。」
「その手伝いは私でも何とかなるわ、でも工房の仕事との兼ね合いが問題にならないかしら。」
「工房へ衣装の発注もしなくてはなりませんが、現状、佐伯さんの工房での仕事は他の人に代わって頂く事が可能です、でも正平の手助けは事情の分かってない人には頼めません。」
「うふ、そうか、正平くんの事は私に任せなさい…、あっ、だ、大丈夫よ、史枝…、泣かないで…、そんなんじゃないから…。」
「はい、正平の事、よろしくお願いします…。」
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