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新学期-11 [花鈴-02]

 私達の兎沢小学校では入学式に在校生が参加して新入生を迎えるのだが、それには子どもが広い地域から通って来ると言う事情が有る。
 幾つかの小学校が合併して今の兎沢小学校になったので、遠くに住む子とは互いに面識が無く、入学式で始めて会う子ばかり、だから五六年生は期待と不安の入り混じる新一年生達に、声を掛け不安を和らげる仕事が与えられていた。

「絵梨、お疲れ、一年生可愛かったね。」
「今日は緊張してるから大人しいけど、慣れて来たら可愛いなんて言ってられないかもよ。」
「はは、健くんは二年生になって少しは手が掛からなくなるのではないかしら?」
「まさか、三年生になる実加でもまだまだ手が掛かって、今朝も大変だったのよ。」
「そっか、絵梨が一年の時はどうだったの?」
「長女の自覚が有りまくりで、お母さんが大変なことを知ってたから、妹の面倒を見てたかな。
 まあ、それはそれで誇らしく楽しかったのだけどね。」
「実加ちゃんも長女だったら、もっとしっかりした子になったのかしら?」
「どうかな~、のんびりしてるから…、でも、もしも長女だったらなんて考えても仕方ないわよ。」
「そうね、人それぞれだから面白い。」
「うん、これから転校生が増えても自分と何かが違うという理由で対立して欲しくないのよね。
 私は花鈴がいなかったら浮いてたと思うのよ。」
「私も読書家の絵梨が転校して来てくれて嬉しかった、私達みたく読書してる子と全然読まない子では語彙に差が有り過ぎるでしょ。
 絵梨が私と同じ本を読んでくれて話し合えるから、一人で読んでた頃より理解が深まってる気がするの。」
「花鈴と出会う前だって背伸び気味に本を読んでいたのけど、花鈴がお兄さまの影響も有って小学生向けでは無い本を読んでいたのには驚いたわ。
 花鈴と出会って無かったら私の世界はもっと狭かっただろうな。
 まあ、読むのに苦労することも有るし、四年生が読む本じゃないと言われることもしばしば、花鈴と出会って無かったらもっと気楽に生きていたかも。」
「え~、今でも充分お気楽でしょ。
 面倒を見ながらも、実加ちゃんや健くんで遊んでることは内緒にしておいてあげるけど。」
「はは、あの子達が何を考えているのか分かるから、ついね、でも良いお姉さん路線は家でも崩して無いのよ。」
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新学期-12 [花鈴-02]

 始業式は転校生全員を紹介するぐらいで簡単に終わった。
 本当の転校生紹介はその後教室で、五年生は三人だ。

「始業式で簡単に紹介されたけど同じクラスの一員になるのだから、まずは三人を迎え入れる君達から自己紹介をする必要が有ると思わないか?」
「先生、悪くはないけど今は簡単にしといた方が良いと思う、ここで時間を掛けるより明日からじっくり個人的にの方が効率的でしょ?」
「ふむ、そうだな、では浩司の案に沿って各自簡単に自己紹介をしてくれるか。」

 という感じで自己紹介が始まったが、翔馬が自分の名前のことを自嘲気味に説明しただけでなくペガサスと呼んでくれても構わないと話したのには驚いた。
 彼なりに吹っ切れたのだろうか。
 そして転校生の番。

「えっと、竹中浩太です、僕はペガサス君ほどいじめられてた訳では無いのだけど、前の学校に馴染めませんでした。
 それは算数が得意過ぎて他の子について行けなかったからです。
 でも、ここには作文のレベルが違い過ぎて、四年生の書いた作文だと思って貰えず作文のコンテストに落ちる子がいると聞きました。
 学習が苦手な子でも誰も馬鹿にしたりしないとも。
 それが本当かどうか自分の目で確かめたくてここに来ました。」
「私に算数を教えてくれるの?」
「それは微妙です、小栗絵梨さんの理解力があまりに低かったら…、僕は理解出来ない人の感覚が分からないのです。」
「はは、それで馴染めなかったのね。
 算数は花鈴が受けて立つから大丈夫よ。」
「ちょっと、絵梨、勝手なこと言わないでよ、竹中くんは絵梨に興味が有るのだから。」

 と、言いながら内心ニヤついていたのは、この転校生は絶対面白いと思ったから。
 因みに四年生っぽい作文を書くことを拒否していたのは絵梨、私達は算数が苦手と言う訳でも無い。
 竹中くんの後で話すことになってしまった伊藤さんと田中くんは普通の人みたいで、戸惑いながら自己紹介をしている。
 平凡そうな二人だが私はがっかりしない、うん、仲良くなろう。
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新学期-13 [花鈴-02]

 学級会が終わって直ぐに転校生たちと話したかったが、交流会の時間が迫っていた。
 体育館へは新五年生が一番最後でギリセーフ。
 交流会は新一年生と転校生の為の会なのだが…。

「ねえ、纐纈花鈴さんは、これを一年生が楽しんでると思う?」
「まさか、大人の話は大人の自己満足だから、一年生はぼ~っとしてれば良いのよ。
 ゲームの時間になったら少しは楽しんで貰えるかな、ここに来てる大人達には色々な思惑が有って、その辺りの事情は竹中くんにも理解して欲しいかも。」
「事情?」
「過疎地には色んな思いが有るのよ。」
「不便な所で人が少なくなってるとは聞いたけど。」
「そうね、スガキヤのソフトクリームが食べられないの、でも、冷静に考えて私がかつて暮らしてた名古屋との違い、私にとっての違いはそれぐらいでね、コンビニだって有るでしょ。」
「確かにあるね、自分の家からだとかなり遠いけど、だからと言って不便かと言うと僕は東京にいた頃コンビニには行ったことが無かったからな。」
「どうして?」
「コンビニの商品は割高だそうで、親はスーパーを利用してた。」
「そっか、私も名古屋に住んでた頃はコンビニに行ったことが無かったわ。
 おっと、大人の話が終わったから次はゲーム、一年生に優しいお姉さんをアピールして来るわ。
 竹中くんはみんなの観察でもしててね、結構面白いから。」
「うん。」

 竹中くんは正直者のようだ。
 自己紹介でも堂々と話してたからな。
 でも、正直なだけではね、大人の事情も分かってあげられないと駄目なのよ。
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新学期-14 [花鈴-02]

 ゲームの後は在校生による歌。
 先生の選んだ曲を高学年中心に披露するのだけど、これが微妙。
 人気アニメの主題歌でも歌えば新一年生が喜ぶかもだけど、例えばドレミの歌がどれぐらい古い曲なのか私は知っている。

「花鈴、失敗したら恨むかもよ。
 元はと言えば花鈴が、ド~はド~ナツのドなんてダサ過ぎて歌いたくないと駄々をこねてのことだからね、そのとばっちりを受けた私はいい迷惑だわ。」
「そんなに気にすること無いわよ、多分ほとんどの新一年生は英語なんて分からないのだから。」
「逆に、英語が得意な子がいたらどうするの、転校生も含め可能性は有るでしょ、かなり恥ずかしくない?」
「絵梨ったら意外と心配性なのね、英語の得意な子がいたら教えて貰えば良いのよ、タダで。
 語学上達のコツは使うことだと教えられたでしょ。」
「花鈴は良いわよ、小さい頃から英語教室で学習して来たのだから。
 私は英語の歌を人前で歌うなんて初めてのことなのよ。」
「はいはい、もう直ぐ出番、みんなが日本語で歌った後でなら恰好良いと思って貰えるわよ。
 大也くんたち六年生と一緒だから大丈夫。
 絵梨、こんな時はどうするのだったかしら?」
「腹を括れでしょ、妹と弟が見て無かったらもう少し気楽なのだけどね。」
「そっか、その感覚、私には分からないから。」

 ドレミの歌を日本語の歌詞で歌いたくなかったのは私の我儘、でも英語で歌ってみせたら六年生の大也くんも歌ってくれ話が進んだ。
 そこには田舎の学校でも英語の歌を歌える子がいると自慢したかった先生の思惑も有る。
 そう、単に私の我儘が通ったと言う話ではないのだ。
 小さい頃に英語で覚えThe Sound of MusicのDVDを見ながら歌って来た私には、ド~はド~ナツのドなんて恥ずかしくて…、どうしても歌わなくてはならなかったら口パクで誤魔化そうと思ってたぐらい。
 あっ、出番だ。


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新学期-15 [花鈴-02]

 交流会のゲームや歌を新一年生が楽しんだがどうかは分からないが、少なくとも来賓を始め見学していた大人達には喜んで貰えたみたい。
 新一年生をゲームで楽しませ、英語の歌まで歌ってしまう私達は、過疎化を止め元気な田舎作りを考えてる大人達にとって希望の星なのだとか。
 歌の後そんな話をして来た大人達からはお父さんに対する感謝の言葉も。
 またか、と思いつつ、お父さんから教えられたことを思い出す。
 会社の本社移転はニュースになるぐらいの出来事で、この地が注目されたそうだ。
 本社や寮の建設には極力地元の木材を使い地元の人に働いて貰い、会社のお金をここで使うことでこの地が少し潤い、今後会社が払う税金の一部はこの市を少しばかり潤す。
 それで感謝されているのだが、娘としてはお父さんが人から感謝されることをしてるのは嬉しい。

「花鈴、お肉、食べに行こうよ。」
「絵梨、実加ちゃんや健くんは良いの?」
「うん、今日はお父さんとお母さんが来てるから大丈夫。
 お肉は早目がお勧めだそうよ。」
「量が少ないとか?」
「足りなくなったら、どっかの冷蔵庫から猪の肉が出て来るけど、入学式を記念しての酒盛りが始まるでしょ、それまでに食べておいた方が良いのよ。」
「ぼたん鍋か、清六おじさん達頑張ってるのかな。」
「頑張って貰わないと、学校で猪とご対面なんて嫌だわ。」
「そうよね、でも、どうして入学式を記念して大人が酒盛りをするのか疑問じゃない?」
「入学式は単なる口実、でも、うちみたいに移住して来た家族にとっては必要なことだそうでね、お母さんから言われたら納得出来なかったけど、お父さんが説明してくれたから。」
「絵梨のお母さんはお酒に関する本も出してるけど、そんなに飲むの?」
「飲むとくどくなるのよ、酔っ払いの相手なんてするものじゃないわ、花鈴の両親は飲まないの?」
「絵梨のお母さんが書いた本を読む前から、お酒はほどほどにを実践していたみたい。」
「そこなのよね、自分でお酒はほどほどにって書いておきながら…。
 まあ今日は仕事も兼ねていて、お父さんがフォローしてくれるのだけど。」
「仕事?」
「田舎へ移住してからの報告が雑誌に連載されてるし、執筆中の本も有ってね。」
「お父さんも忙しいのでしょ?」
「今はそうでもないみたい、仕事でパソコンに向かう時間が越して来た頃より随分減ったそうでね。
 清六おじさんの手伝いとかも考えてるのよ。」
「へ~、猟師になるの?」
「罠猟のね、大変みたいだけど、ここでは必要なの。」
「猪はどんどん増えるのでしょ、私達が食べても追いつかないぐらいに。」
「うん、その肉を都会のお店に売る企画を、お母さんと進めてるのよ。」
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新学期-16 [花鈴-02]

 過疎化に歯止めを掛けようと考えてる大人達は、ことあるごとに小学校で酒盛りを開く。
 酔っ払い運転はダメだから、そのまま学校で寝てから仕事に出掛けるのだとか。
 一応今後の方針を相談する場なのだそうだが、話し合いと酒盛り、どちらがメインなのか分からないのは、子ども達に料理を振舞いながら飲み始めてる人もがいるから。

「絵梨、もう飲んでる人が居るけど、転校生の両親とかイメージを悪くしないかしら?」
「うちの親はそんな雰囲気が気に入って移住して来たのだけど…。」
「あっ、竹中くん、お肉食べた?」
「色々質問されてて今来た所なんだ、やはり町の小学校とは雰囲気が違うね。」
「もしかして、引いてる?」
「う~ん、交流会は歌の発表までかと思ってたけど、これからが本番?」
「大人達の本番はもっと後なのだけど、それを待ちきれずに飲み始めてしまうのよ。」
「小学校の校庭でバーベキューとか、始めての光景で新鮮だけど、この人達にうちの親がついて行けるのか心配かも。」
「でしょうね、うちの親は異常なのよ。」
「自分の転校には小栗絵梨さんのお母さんも関係しているのだけど。」
「そうなの、悪いことをしたわね、母に成り代わって御免なさいだわ。」
「えっ、ここへの転校は悪いことなの?」
「ここの大人達と馴染めなかったら残念なこと、でも馴染めたらそんなに悪くないかな。
 あそこで猪の肉を焼いてる清六おじさんと仲良く成れるかどうかが分かれ目だったりして。」
「猪の肉か…。」
「食べたことないの?」
「記憶にない。」
「じゃあ、何事も経験ね。
 清六おじさ~ん。」

 絵梨の全く物怖じしない性格には随分助けられている。
 私が清六おじさんと話せる様になったのも絵梨がいたからで、絵梨がいなかったら色黒でワイルドな外見の彼には近づくことすら出来なかっただろう、子どもには優しい人なのだけど。
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新学期-17 [花鈴-02]

 竹中くんのことは清六おじさんも聞いていて、猪の肉だけでなく色々食べさて貰いながら…。

「竹中くんぐらいに頭が良いと普通の子とは合わないのかな?」
「正直、同級生のことは幼く感じていまして、大人と話す方が楽しいです。」
「ここへの転校は最終的に君が決めたのだろ、決め手は?」
「一つは自分のペースで学習に取り組めると聞いたからです。
 前の学校に入学した時には、驚いてしまって。」
「驚くほど、どうだった?」
「小学生になる前に割り算まで学習済だった自分にとって、低学年の算数を理解するのに時間の掛かる同級生が信じられず、すぐに問題児となりました。」
「何かやらかしたのか?」
「やらかしたと言っても一年生でしたから可愛いものです、先生の話は聞いていませんでした。」
「ふむ、絵梨や花鈴ちゃんはどうだった?」
「私は、理解の遅い子に教えてたかな、性格的にほっとけなくて。」
「私も兄に相談したら友達に教えてあげる様に言われ実践しています、もの足りない所は兄が教えてくれています、竹中くんほどでは無いのですが先に進んでいるのですよ。」
「お利口さんなのか。」
「まあね、私は妹や弟の面倒も見てるし、花鈴は家族に溺愛されて育ってるから。」
「そっか、一人っ子だからと言われたことも有ったけど兄弟の存在は大きいのかな。」
「人それぞれだから何とも言えないけど、一人っ子は可愛そうな気がする。
 親が外出していても子ども同士で遊んでいたからね。」
「うんうん、お兄ちゃんがいなかったらお留守番出来なかったと思うわ。
 それで問題児となった竹中くんはどうなったの?」
「少なくとも学習面で自分を否定されることは嫌だったから学習には取り組んでた。
 お父さんも学校の先生と喧嘩してたから、塾に通わせてくれてね。
 体育や図工は苦手だけど。」
「スポーツ関係のクラブとか有ったでしょ?」
「少し試したけど挫折したんだ、大勢で何かをするのは苦手みたいで。」
「友達がいないのか。」
「まあね、だから転校も気楽なものだったのさ。」
「おいおい、友達のいない小学生なんて悲し過ぎるだろ。」
「清六おじさん、友達はいないけど、お父さんが塾を始め色々な大人と接する機会を作ってくれましたので、そんなに悪くなかったのです。
 そんな大人の一人がこの兎沢小学校の取り組みを教えてくれました。」
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新学期-18 [花鈴-02]

「そうか、儂らが無い知恵を絞りだして生み出した学校の企画はそんな形で竹中くんに届いたんだ。」
「清六おじさん、企画はどんな切っ掛けで出て来たのですか?」
「そうだな、今から二年前に纐纈さん、花鈴ちゃんの一家が越して来たことだな。
 竹中くんは大きな会社の本社がここに移転して来たのは知ってるか?」
「はい、纐纈社長のお話を読みました、そうか、纐纈花鈴さんは社長のお嬢さんなのですね。」
「はは、そこまでかしこまらくても良いぞ。
 纐纈社長は単なる思い付きで本社移転を決意された訳では無く、まずは自分達がここに移り住む所から始められてな、花鈴ちゃんが三年生になるのに合わせ家を建て越して来られたんだ。
 それが調度、過疎化で児童数が少なくなった学校が統合されたタイミングでね。
 統合されて何とか一学年一クラスになったのだよ。」
「私にとっては出来上がったクラスでは無かったのが良かったかな、よそ者扱いされなくて。」
「これからの転校生もよそ者扱いされないことを願うね。
 まあ、花鈴ちゃんは小学校で、そのお兄さんは中学校で目立ってな。」
「竹中くん、目立ったのは兄の方だからね。」
「プログラミングが趣味と言うことは知っています。」
「中学一年生になったばかりなのに、先生達を色々と圧倒したことは?」
「えっ、圧倒って?」
「ここの中学生とはレベルが違い過ぎて、学習に関する提案を色々してくれたんだ。
 花鈴ちゃん、君のお兄ちゃんはどうしてあそこまで先生を説得出来たのだ?」
「そんなことをしていたとは知りませんでしたが、兄は自分が社長になる可能性を考え学習しています。
 人を動かすことはリーダーとしての基本だと話していますので、そんな所かと。」
「成程な、そんな話を教師から聞いた儂らは驚くだけだったが、そこから幼くして特別な才能を持った子、つまりは竹中くんの様な子の存在を知ってね。
 ちょっと調べた奴が、そんな才能を持っていても、公立学校ではそれに見合った教育を受けられていないと気付いたんだ。」
「学校では無理です、自分は塾とか他で知的欲求を満たして来ました。」
「みたいだな、そんな中、儂らの中には田舎の学校に付加価値を付けたいと考えてる奴もいてね。」
「付加価値?」
「田舎の学校でも大きな特色を打ち立てることに成功したら児童や生徒を増やせる、普通は田舎の学校にわざわざ転校して来る子はいないけど、もし、その学校が都会の公立学校にはない特色を備えていたら、親が移住をしてでも通わせたく何かが有ればとな。」
「それでも小学生に中学以上の教育をするのは問題が有るのですよね?」
「まあ、絵梨のお母さん始め色々な人が動いてくれてな、竹中くんは大学の研究材料になる代わりに、小学校のカリキュラムに縛られ過ぎることなく、ここでの小学校生活を送ることが出来るのさ。
 儂としてはクワガタとかにも興味を持って貰いたいのだがな。」
「ミヤマクワガタとか、ここの森で捕まえられるのですよね?」
「興味が有るのか、そっちは専門外だから、マニアを紹介してあげるよ。」
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新学期-19 [花鈴-02]

「でも、清六おじさん達は本当に竹中くんみたいな子が越して来るとは思って無かったのでしょ?」
「確かにダメもとで良いから受け入れ態勢を整えようとはしていたが、絵梨と花鈴がいたからな。
 竹中くんとはもう仲良くなっているのだろ?」
「まだ仲良くとまでは、ただ興味深々なのは間違いないかも。」
「自分は、転校までに絵梨さんのお母さんが書いたものを読んだりしていました。」
「そっか、数学が得意なだけでなく大人向けの文章も読めるのね。
 でも、お母さんが書いてることって微妙なのよ。」
「微妙?」
「雑誌の連載でも、私達のことを過小評価したり過大評価したりしていて、その辺りのことは直ぐに分かると思うわ。」
「今日会ったばかりで普通に話せてるのだから、過大評価の部分が気になるかな。」
「そうね、凄く真面目でも無く、適当に遊んでいるのよ。」
「えっ、私は真面目でお利口さんなのだけど。」
「花鈴、嘘はダメよ。」
「嘘じゃないわよ、ね、清六おじさん。」
「うっ、竹中くん、この子達には気を付けろよ、油断してると弄ばれかねないからな。」
「え~、そんなことしないよ。」
「そうか~、さっき、新六年生の男の子をパシリの様に使ってただろ?」
「あれは、彼が私の為に何かしたそうにしてたから使命を上げただけ、彼は嬉しそうだったでしょ。」
「うんうん、花鈴の我儘は先生も聞くし、兎沢小学校を影で支配してるのは花鈴なのよね~。」
「はは、逆らってはいけない存在なんだ。」
「そんな訳ないでしょ、ここへ転校して来る前は普通の小学生だったのが、ここでは優等生扱いになっただけ、むしろ色々仕切ってるのは絵梨なのよ。」
「表向きはね、前の学校は窮屈で、私は勉強の出来る問題児をやってたの。
 ここも花鈴がいなかったら退屈だったと思うわ。」
「少なくともこの二人には逆らわない方が良さそうだと分かったよ。」
「正解だな、それで損することは無いからな。」
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新学期-20 [花鈴-02]

「それより竹中くんのことをもっと教えて欲しいわ。」
「小栗絵梨さんは何を知りたいの?」
「そうね、初恋のこととか。」
「え~、いきなりそれを聞く?」
「早熟そうだから幼稚園の先生かしら?」
「う~ん…、確かに幼稚園の先生は小学校の先生と違って真っすぐ向き合ってくれてた感じは有るかな。
 ただ恋と言われても違う気がする。」
「随分寂しい人生を送って来たのね。」
「え~、小栗さんはどうなの?」
「好きになった人は多いわよ、私が今一番好きなのは花鈴だけど、花鈴はブラコンでね。」
「そうなんだ、僕はまだ恋のこと良く分かってなくて。」
「でも、ほら、花鈴を見てると好きになりそうでしょ。」
「そりゃあ可愛いから…。」
「緑豊かな自然の中に可憐な美少女一人、この地で君との新しい日々が始まる。
 少年は気付く、自分が目の前の美少女に心を奪われてることに。
 そう、彼は初めて恋をしたのだ。」
「うっ。」
「竹中くん、そこで赤くなっちゃあダメ、絵梨から簡単に洗脳されてはね。」
「洗脳?」
「別に洗脳なんてしてないわよ、ただ、気付かせてあげただけ。
 竹中くんをずっと観察して来たのだけど、花鈴を見てる時間が一番長かったし、直ぐに話しかけてたでしょ。」
「私はてっきり絵梨が惚れたって思ってたけど。」
「そうね、惚れるかどうか分からないけど、面白そうな人リストには入れたかな。」
「おっほん、君達、竹中くんのことを知りたかったのでないのかね?」
「清六おじさん、今の会話で随分知れたじゃない、竹中くんはどう?」
「そ、そうですね、二人とも今まで自分の周りにはいなかったタイプの人でドキドキしています。」
「ふふ、じゃあ野菜も食べようか。」

 これが絵梨のペースなのだ。
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