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山間の町-01 [チーム桜-03]

チーム桜発足から二か月。
愛知県山間部の町、市役所支所の会議室。
話し始めたのは稲橋継生だ。

「この地を盛り上げようと色々やってるけど、まだ足りないと思うんだ。」
「そうだよな稲橋、もっと活気の有る町に、せめてこの中心部だけでもと思うよ。」
「それでだな、皆はチーム桜って知ってるか?」
「ああ、テレビでやってたな。」
「実は俺もメンバーになって耕作放棄地の問題を問いかけてみたんだ。」
「あれは都会の子達の活動じゃないのか?」
「そんな事、一言も言ってないぞ。
で、返事として来たのが、山村体験、農作業体験の場として活用、株式会社としての農業経営研究、大学の農学部とかの研究用、今の所この三つだ、ただし大学は予算の関係も有るから条件が厳しいそうだ。」
「う~ん、農学部に土地を貸すというのは分かるが…、体験ってどんな感じなんだ。」
「案としては、宿泊できる家も用意して、都会暮らしの人達が何名かずつ交代で宿泊しながら実際の農業を体験して頂く、イチゴ狩りみたいな収穫のみの観光ではなく真面目な取り組みを考えているそうだ。
専用の畑が確保できなくても農家の手伝いという案も有るらしい。」
「運営は?」
「チーム桜関連に株式会社桜根ってのがあって、そこで会社を立ち上げても良いとの事。
まあ、畑や宿泊関連が安く済むことが前提だけどな。」
「耕作放棄地なんかはただ同然で構わないだろう、建物は…、古くても構わなければな。」
「耐震化とか改築は学生の実習でやりたいそうだから、むしろ古い方が良いのかもしれない。
ここの木材を利用して、地元の工務店と共にということだ。」
「なるほど地元の利益を考えてくれてる訳か、でも実際に体験希望って人いるのか?」
「ここを山村の問題、過疎の問題を調査研究する拠点にしたいそうだから、まずは実際に不便な所での生活を経験できる場にしようと考えているそうだ。」
「へ~、そこまで考えているのか。」
「次の土日に調査チームが来てくれる、時間が有ったら会って欲しいんだが。」
「それは、会わなくちゃいかんな。」
「チーム桜か、サイト見てみようかな。」
「ネット見れない人は、参考に本を持ってきたから貸すよ。」
「その前にもっと詳しく教えてくれよ、色々聞いてるんだろ稲橋は。」
「ああ、常駐の社員を一人以上おいて作業指導や管理業務を中心に働いてもらう、体験希望者がいない時は畑を守らなくていけないし、逆に人手が余る様な時は近所の畑を手伝うとかの調整も必要だろう。」
「それは都会から来た人がやるのか。」
「地元で見つからなければそうなるけど、農業の事が分かってる人じゃないとだめだから、都会からとなる可能性は低いだろうな。」
「給料は安いんだろ。」
「チーム桜関連はどの企業も目標賃金を設定してる、参加した当初は大企業と大きな差が有った企業も少しずつ改善、それと子ども手当を充実させて安心して子育てが出来る会社を目指しているんだ。
もっともここは新規だから、真面目に働けば始めからそれなりの給料になるよ。」
「う~ん、でも会社としてそれだけの利益は出せるのか?」
「まずは体験希望者からの収入が有る、宿泊費や食費とかの参加費、畑で採れた野菜はチーム桜関連のお店が買ってくれるし、近所の農家で買い付けてという事も、まあJAに迷惑が掛かる様な規模にはしないそうだ、後は体験とは別できちんと商品作物を栽培して採算が取れるかどうかの検討も始めてる、冬場には違った仕事をする事で通年の利益を目論んでいるそうだ。」
「じゃあ冬場は出稼ぎか?」
「それでも良いし、ここで木工製品を作るということも有りかと。」
「それもチーム桜関連で売れるということか。」
「まあな、とにかく色々考えて利益を出して、働く人の生活を安定させる事がチーム桜の方針なんだ。」
「都会なら簡単じゃないのか。」
「それをあえて過疎化が進んでいるとこでやることが重要なのさ。」
「規模はどうなるか分からないにしても、ここに来てくれる人が少しでも増えるのならば協力するしかないな。」
「ああ。」

山間の町-02 [チーム桜-03]

稲橋継生達の会議後、調査チームは何度も現地を訪れた。
桜根の社員横山浩二が同行する事も多かった。
九月始め。

「稲橋さん、さすがにこちらは涼しいですね。」
そうですね標高五百メートルを越えますから。
それより横山さん、安藤社長の方は如何でしたか?」
「もちろんOKです、自分的には過疎地の再生という事も有りますから、多少の赤字覚悟でもと思っていたのですけど、社長からは健全な会社を一つ作り上げる様に指示が有りました。」
「それって、あなた方が大変な思いを…。」
「いえ、社長からの指示にはすべて裏付けが有りますし、一つのことがだめだった時の代替案も提示されていまして、まあ保険ってことですが、そんなとこが安心して社長についていける理由なんですよ。」
「安藤社長はまだ大学卒業されてないんですよね。」
「ええ、あっ、そうそう社長の視察を組まさせて頂きましたのでよろしくお願いします。」
「はい…、でもどんな風におもてなしをすれば良いのか…。」
「特別な事をしなければ大丈夫です、普通の大学生として接して頂けるとうちの社長は喜びますよ。」
「そう言われても…。」
「それより、うちの社長と遠藤社長からなんですけど、ここに合宿所を作りたいという提案が有りまして。」
「合宿所?」
「はい、桜総合学園芸能部メンバーやその予備軍、チーム桜関係のサークルの人達が合宿をする場です。
土地が確保出来れば、後はこちらで進めて行きます。」
「ここに来てくれる人が増える事は歓迎ですけど建築費用は大丈夫ですか?」
「おかげさまで、芸能部がしっかり稼いでくれてますから。
建設は地元工務店主体で、足りない所はチーム桜関連でと考えています。
学生の実習も兼ねます。
完成したら利用料金で少しずつ建設費も回収出来ると思います。」
「合宿のついでに観光という事も有るんでしょうね。」
「はい、もちろんです。」
「合宿という事なら中心部から多少離れていても問題ないですよね。」
「駐車スペースが充分確保出来ればどこでも構いません。
ただ百人規模のホールを併設したいという声も有りまして。」
「結構広い土地が必要ということですか、平地が少ないので…、でも候補地の相談をして連絡させて頂きます。」
「よろしくお願いします。」

山間の町-03 [チーム桜-03]

横山浩二の案内で安藤隆二と早瀬佐紀は名古屋から東へ向かっていた。
その車中。

「佐紀、花さかの方はどう?」
花さかとは、広報誌、チーム桜、花を咲かせましょうの事だ。
佐紀は広報担当として動いていた。
「そろそろ全国展開が視野に入ってきたわ、遠藤社長とも相談しながらだけど。
制作部の作品が放映されると、その地方からの注文がぐっと増えるの。
でも変な感じよね、名古屋で制作されたのを山陰や九州とかの放送局が流してくれるのなんて。」
「そう言えば、東京発の番組はレベルが落ちてきてるって、誰か言ってたな。」
「テレビはあまり見ないから分からないわね、でもチーム桜に興味を持って下さる方が増えてるし、サポート企業も積極的にスポンサーになって下さる、この間静岡で放送された時はスポンサーすべてチーム桜関連だったそうよ。」
「助けられてるよな、俺達。」
「ふふ、でもじゃがいも社長を、皆さんは助けたいのじゃないかしら。」
「おかげで、初期段階はじっくり、と考えていたのがスピードが早すぎだな、ま、早い方が効率的な部分も有るから良いけど、花さかの他はどう?」
「ウエブサイトも賑わってるわよ。
サイトの規模も動植物園のが発展した形だから、半端なく大きくなってる、全部に目を通す事を目指した人が挫折したんだって。
まあ、自分の興味関心のある所へはちゃんと行ける様になってるから大丈夫なんだけど。
広告宣伝部が色々頑張ってくれてるから、サイトからの収入も増えているしね。」

隆二は横山に話しかける。

「前にもお伝えした通り、今日の案件は一気に表に出しますが、横山さんの方は特に問題がないままですか?」
「はい、ウエブサイト構築も調査チームの中でバイト的にやりたいという希望者がいますので任せて見ようかと。」
「バイトで良いのかな、調査チームはボランティアだから、社員としてじゃなくて大丈夫?」
「はい、その話しもしています、でも学生なので今はバイトの方が良いそうです。」
「ではその方向で。」
「遠藤社長とも連絡を取り合っていますし、花さかの担当とも調整しています。」
「今回のはある意味大きな取り組みだから、失敗したくないんです。
過疎地を生かすモデルケースにしたいですから。」
「はい、社長、心得ていますよ、始めは半信半疑だった地元の方々もチーム桜に登録して下さっていますし、合宿所も、まずは地元の宿泊施設を利用しながら、廃校を整備し直して練習場という案も出てます。」
「名古屋市の施設が活用出来そうなら市長に話しを通しますよ。」
「あっ、そうでしたね子どもの頃自分も行きました。」
「キャンプか…、横山さん民間のキャンプ場ってどうなんでしょう?」
「まだ調べてませんが、オートキャンプとかバーベキューが出来る施設は観光客を呼べますかね…、まあ季節限定になりますけど。」
「う~ん、冬場が問題かな、寒くても行きたくなる何かが有ればな…。」
「あそこはスキー場への通過点ですかね…。」
「観光で通年というのは難しいのかな。」
「でも冬の様子も見て頂きたいですね。」
「横山さん、やはり森林での間伐体験の場を作りますか? 夏場よりは良いのかな蛇とか虫とか考えると、でも素人が体験というのはハードルが高いかな。」
「その辺りの事も今日聞いてみます。」
「今日自分達が特に気を付ける事とか有りますか?」
「特にないです、社長は普段忙しいですから今日ぐらいはのんびりして下さい。」
「そうよね、私は色々フォローして頂いてるから大丈夫だけど隆二の代わりはいないから。」
「社員がしっかりしてるから、それほど大変でもないさ。」
「いえいえ安藤社長あっての桜根ですからね。
向こうに着いたら制作部のメンバーと落ち合ってエリア内を回った後、昼食会で地元の方々を紹介させて頂きます。
役所の方や商工会、観光協会の方々です。
佐紀さん、写真撮影はよろしいですか?」
「大丈夫よ、新しいオリジナルグッズも持ってきてるから写して頂かなきゃ。
それと桜工房の作品もサンプルとして持って来てるから、見て頂いて行けそうだったら、現地のお年寄りにも作って頂いたりとかしたいしね。」
「お土産としての販売は良いと思います、ここで数が揃わなかったら桜工房からも取り寄せますよ。
ちょっと笑える話しなんですけど、昔カナダへ旅行に行った叔母の土産がメイドインチャイナだったりしまして。」
「お土産は地元の利益を最優先にしたいですよね、せめて県内に利益が行くようにしないと。」
「はい、社長の地産地消は当たり前、恒常的に輸入超過になってしまわないように、せめてサービスだけでも輸出しようって考えにも理解を頂いてますから。」
「ちょっと例えが分かりにくくなかったかな、噛み砕いて説明して下さいましたか。」
「はい、この地区から幾らのお金が出て行って、幾らのお金が入ってきてるのか試算してみるって役所の方が話しておられました、伝わっていると思います。」
「林業はやはり難しそうですか?」
「はい、植林地を守る手間に見合うだけの収入になってるのか微妙です。」
「ちょっと割高でも日本の森を守るために国産の割り箸を使って頂く運動と、木工製品を色々な形で今まで以上に普及させて行く事を考えてるけどどうでしょうか?」
「多少寄付的要素を絡ませる訳ですね。」
「割り箸はチーム桜関連のお店で使って頂けると思います、木工製品も…、木を生活の中でどう使って行くかの提案もして行きたいですね、花さかでも特集を組む様指示を出しましょうか。」
「そうだな、佐紀、今日の案件と同時にアピール出来る様にしてくれるかな。」
「はい。
横山さん向こうでは割り箸を作っていますか?」
「それも今日確認します、木工製品は作っていますが、違ったアイディアが出てきて沢山売れたら良いんですけど、とりあえず今有る物は見て頂く予定に入っていますので。」
「まずは木材の可能性を考えてみましょうか。」
「はい。」

山間の町-04 [チーム桜-03]

一行が回るルートは事前に横山が決めていた。
何か所か見た後今日のメイン、地元有力者の方々との昼食会になる。
その席で。

「安藤社長、ずばり勝算は有りますか?」
「そうですね何をして勝ちと捉えるかにもよりますけど、最悪の場合でも若干の観光客増加にはなります。
チーム桜関連の人気者達が、チーム桜の新しいモデルエリアとしてこの地の紹介をして行けば、またこの地で合宿の延長線上でのミニライブとか開催していけば、そしてこの地でやることの意味も発信して行けば、都会の若者達にも少しは振り向いて貰えるかと思っています。
まあ合宿所の話しは、こんな形のちょっと裏ワザ的な保険なんです。
でも一番成功させたいのは耕作放棄地の活用や実際の農業を通してのごく普通の経済活動発展です。
ここが活性化すれば、周辺の過疎地の事情も変わってくると考えています。
それにはまず都会に住む人が不便な環境を知り、その上で住みたくなる環境を整える事です。
正直、かなり高いハードルです。
簡単な事なら、過疎化が進んでしまった地区が全国に広がっていないでしょう。
限界集落、廃村などは都会に住む人にとって何の問題も無いことなのです
一つの村がなくなったと聞いても自分には関係ないと考えるでしょう。
でも、先人達が残して下さったこの素晴らしい田畑、山や森を、次の世代へきちんと遺して行く事は私達の使命だと思っています。
大きな成功は望めないかもしれませんが、過疎化への歯止めぐらいはして行きたいと思っていますので、よろしくお願いします。」

誰もが箸を止め聴き入っていた。
しばしの静寂。

「社長からこんなお話しを頂いたら…、協力するしかないだろ…。」
「申し訳ない、俺は社長を過小評価していた、俺もがんばるから色々お願いします。」
「で、でもどうしてここなんです?」
「まずは自分達の拠点からの距離です、遠い所ともいずれ繋がりたいとは思っていますが、まずは遠すぎない所からです。
そして稲橋さんの存在です、この地に協力者なくして何が出来ますか、今日に至るまで稲橋さんにはずいぶんお世話になりました。
自分も今日初めて直にお会いできて嬉しいです。」
「稲橋、ごめんな…、俺…。」
「佐紀さんが惚れた理由がほんとに分かったわ、二人とも素敵よ!」
「はは。」
照れた様に顔を見合わせる二人。
「じゃあ俺達は何をすれば良いんだ。」
「まあ、色々と…。」
「まずは一度チーム桜でここにスポットライトを当てたいと思います、イベントを組みませんか。
今まででも、色々な取り組みをされてきた訳ですが、そこにさらに別の企画を組み込んで紹介して盛り上げたいと考えています。」
「色々なイベントを同時にですか?」
「はい、複数開催する事で相乗効果を狙います。
ここの方だけでは大変でしょうが、うちにはお祭り好きも多いですから。」
「時期はどうしますか?」
「冬場ってどうしても観光客は減りますよね。」
「はい、少しは観光資源が有るのですがさすがに。」
「来年の二月三月辺りでどうですか?」
「その頃なら農作業がそんなにないから余裕は有るかな。」
「春の観光シーズンの前に、土日中心のイベントを何週間かに渡って、雪関連のイベントもされてる訳ですから、それに合わせても良いですよね。
二月三月は大学生の休みになりますから我々にとっても都合が良いのです。」
「どんなイベントをやりますか?」
「そうですね、今までやってこられたイベントで冬場に出来るものプラス生活の中で木を生かそうという事で…、木工製品アイデア作品コンテストと販売、木を使ったアートコンクール、釘を使わない木工製品の紹介、実際に木を切り倒すところの見学、安全対策を充分にとってですけどね、間伐材活用コンテスト、これは木工製品に拘らないという形です、まあこのまま実行しても人が集まるかどうか分からない企画ですが、チーム桜の取り組みとして桜総合学園芸能部の力を借りれば、多少の集客に繋がると思います。
うちとしましてはイベントに合わせてグッズ等を販売させて頂いて、ここでの活動資金に当てて行きたいと思っていますし、今後の取り組みを紹介する場にもできたらと。」
「え~っと、前もってお話しを頂けてたら多少の検討をしておけたのですが。」
「すいません、ここへ来る車中考えていた事なので…、イベントチームに相談すれば、もっと色々出て来ると思います、また内容によっては通年継続も有りです。」
「安藤社長、材木の供給量を増やしても、この先捌けますか?」
「そうですね、うちの関連だけでも有る程度は間伐材も含めて購入させて頂けると思っています、ただ利用方法によっては充分乾燥させた物が必要と聞いています。」
「安藤社長が長くここに関わって下さるのなら、今から孫子の代を見据えて良質の木材を提供して行きたいと思うのですが如何でしょうか、一番理想とされる自然乾燥だと五年は寝かせないと。」
「逆に五年寝かせた木材という事が付加価値になると聞いています。
保管場所の問題も有るでしょうがお願いしたいです。
自分は社長就任当初、社長は自分じゃなくても、そのサポートをさせて貰えればと考えていました。
でも今は色々な責任を感じています、十年先二十年先さらに、と考えています。
若輩者では有りますがよろしくお願い出来ますでしょうか。」
「社長が家を建てる時はうちのを使って下さい。」
「おい、抜け駆けはだめだぞ。」
「はは、なんなら別荘でもどうですか。」
「別荘ですか…、う~ん、えっと…、幾らぐらいで建ちますか?」

山間の町-05 [チーム桜-03]

別荘に興味を持つ隆二に。

「えっ? 規模とかにもよりますけど…。」
「う~ん、個人では無理なんですけど、仲間内の共同でならどうかと思いまして、なあ佐紀。」
「そうね…、でも共同購入の話しが広がったら、金は俺が出すからって人何人か心当たりが有るけど。」
「えっ? ほんとなの?」
「隆二は何故かお金持ちに好かれるみたいで、今日乗って来た車も貰い物に近い借り物なんです。」
「結構良い車乗ってるんだって思ったら…。」
「皆さん過大評価なんですよ。」
「社長、あいつが車なら俺は家だなって真顔で話した人に伝えて良いですか、別荘欲しがってるって。」
「それはよして…、微妙ですね、その金がここに落ちるのならプラスになる…、別荘として構えてここでの活動拠点と考えたんです、合宿所完成までの宿泊にも使えるし、声を掛ければ乗ってくれそうな人もいると思いまして、会社の金は大切ですから…。
横山さん、別荘共同購入の話は、その使用目的使用方法、もちろん購入者利用時の約束ごとなどもまとめてから、表向きは公募の形で行きましょう。
権利者が多くなり過ぎては先々トラブルの元にもなりますので、購入者の人数はバランスを考えて下さい。
規模は今後の展開を考慮して下さい。
土地に関しては、駐車スペースを広めに確保、場合によっては増築も視野に入れて下さい。
見積もりと設計は建築系の学生も交えて、ここの工務店の方にお願いして下さい。
早めに少し多めの概算を出して発表してから、実際の見積もりに入って頂きましょう。
土地は我々の本気をアピールする意味でも賃貸ではなく購入の方向で。
場所は、この地区内ならどこでも良いでしょう、ネットの環境だけははずせませんが。
もし希望される方が多くて、金額も多かったら純粋に別荘として利用する建物を別で建てても良いでしょう。
管理は新規に立ち上げる会社で行います。
お金の流れも今後検討してシステムを構築、う~ん検討の余地は多いと思いますから、桜根関連全体へ情報を流して意見収集、もしくは横山さんの判断でチーム桜全体へ問いかけても構いません。
個人的な別荘と違って複数の人が利用できる形式のメリット、デメリットを探ってみたいのです。
他の地域にも別荘を建てて、会員制で使えるとか、食事は地元のお店に協力してもらうとか。
貧富の差が広がってますから、お金持ちのお金が地方に落ちるシステムを構築出来たら良いと思いませんか。
あと、今日の話し合いの結果や別荘の件も含めて、作業量が増えますから助手が必要なら申し出て下さい。」
「了解しました、イベントはそのままイベントチームに振りますから大丈夫です、別荘の話しぐらいなら自分でこなせますが、別で持ってる案件を一つ誰かに引き継いで欲しいです。」
「じゃあ、その方向で、別荘は将来的に横山さんの拠点になる可能性も有りますからね。」
「はい。」

「安藤社長は何時もこんな感じなの? 即断即決で。」
「ええ、抱えておられる案件が多いですから、問題に気付いたら我々が修正しますが、あまりないですし、有っても小さい事です。」
「横山さん、土地はこちらで幾つか候補を挙げましょうか?」
「お願いします、助かります。」
「増築を視野に入れるのなら、駐車場とか増築候補地とかは少し離れていても大丈夫かな。」
「そうですね、歩いてすぐなら。」
「大雨の時でも安全な所で広い敷地というのには限りが有りまして…、先々の事を考えたら、地目変更を考えた方が良いのですかね。」
「税金の関係も有りますから、法務局に問い合わせましょうか、法学部連中の良い実習になるかもしれません。」
「そうね先々の町作りを考えたら、地目が適正かどうか、今後どうしていくか、調査チームに加えて町の将来計画研究チームを結成ってどうかしら、隆二がOKなら私の方で動くけど。」
「そうだね町の人の話しも聴いて、住み易い町作り案を出す事は良いと思う、皆さんはいかがですか?」
「将来計画なんてあまり考えてなかったな。」
「住み易いとか住みたくなるとかは…、まあ俺は特に不便は感じてないけど。」
「若者がどう思うかだな、高校まで遠いし、ここでの就職は限られるし、若い子らが楽しめる場所も少ないし。」
「でも、都会暮らしの子達は全員ほんとに生活を楽しんでるのか。」

山間の町-06 [チーム桜-03]

男性の問いかけに答えたのは佐紀だ。

「そこなんです、都会暮らしの人達全員がその暮らしを楽しんでる訳ではないのです。
ただ、だからと言って彼等が田舎暮らしを出来るかというとそんな簡単な話しでもなくて…、私達の体験企画はまず過疎の問題に興味が有る方々から始まりますが、都会暮らしを楽しめてない人への選択肢として田舎暮らしを提案して行こうとは思っています。
ただ、都会生活に慣れ過ぎてしまった人にとっての田舎暮らしはハードルが高いと思っています。
まずは田舎暮らしの良さってなんだろうって、私も経験ないですから一緒に考えていけたらと思っています。」
「佐紀さんはここで暮らしてみたくないの?」
「今は…、大学も卒業してないですし、仕事も広報担当で多くの人に会わなければなりませんから…、でもって言うか…、だから、隆二が別荘の話しをしてくれた時に、有りかもって思ったのです。」
「佐紀、ネットに繋がってるパソコンが一台有ればどこででも出来る仕事ってないかな。」
「色々有るわ、サイト構築とか、原稿執筆とか。」
「そんな人から希望を募って、ここに住んで貰ってここでの体験を発信してもらうってどうだろう。
農業体験とかとは切り離しても良いし、希望が有ればそれも体験した上での発信も有りだね。
ここの広報担当という事を兼ねて貰うということで。
まあ辛くなったら交代も有りかな。」
「そうなると一人じゃ無い方が良いわね。」
「調査チーム、ウエブサイト構築バイト希望の学生にも声を掛けてみます。
学生だから常駐は無理でも春休み中だけなら喜んでやってくれると思いますよ。」
「住む所が結構必要になりますね…、そうだウエブサイトと言えば、うちの通販も充実してきているから、ここ発の通販も始めませんか。
木工品とか、特産品とか…、特産品の現在の利益率と通販にした場合の利益率の比較をして欲しいですね、横山さん一度通販部とも連絡をとって下さい。
売り上げが多くなくても、きちんと利益が出るのならやる価値は有ります、体験農場の作物も通販向きを視野に入れてもいいですね。」
「一人で色々な仕事をこなして貰えれば人件費の心配が減ります、社長その方向で進めます。」
「お願いします。」
「何か横山さんの仕事がどんどん増えてるけど大丈夫ですか?」
「稲橋さん大丈夫ですよ、さっき一つ減らす許可も頂きましたから、増えた仕事も全部自分一人でやる訳でもないですし。」
「そう言えば、新会社の社長は決まったのですか?」
「今の規模だと社長と言っても雑用係りからのスタートですから、安藤社長にお願いして私が初代社長に就任する予定です。
他で抱えてる仕事もすべて先が見えて来ましたので、それを片付けてか、最悪の場合は他の社員に引き継いで貰って、会社設立の準備をして、こちらに引っ越してと考えています。」
「大変そうですが、私は嬉しいです、お住まいの話しはまだ聞いてませんでしたが、もう決まっているのですか?」
「いいえ、良い物件有りませんか、家族は妻と幼児が三人ですが。」
「こちらにはずっと?」
「将来的な事は分かりません、軌道に乗ったら二代目に引き継ぐという選択肢も有りまして。」
「何にしても社長の住まいを確保する必要は有るな、合計で何件必要になるのか…、定住促進も見直しが必要かもしれない。」
「ええ、この地へ移住して下さる方々の受け入れ体制をもっと強化したいですね。」
「将来計画も、でもまずはチーム桜関連の受け入れ体制をきちんとしないとな。」
「横山社長、今日の話でずいぶん動きましたから、住居確保に関してもう一度話し合いましょう、当座の規模や予算とかお知らせ願えますか。」
「稲橋さん、まだ社長は早いですからね、予算等に関しては今日の話を持ち帰って関係する社員と相談して返事をさせて頂きます、自分の住まいは別で。」
「あっ横山社長、社長の住まいは当初会社の事務所も兼ねますから、別ではなく予算に組み込んで下さい。」
「社長まで…、よして下さいよ、その横山社長というのは。」
「はは、それはだめですよ自分の就任前もずいぶん言われましたから。
それより利益を上げて桜根に貢献して下さい。」
「さらにプレッシャーか…。」
「横山さんは、桜根に入社してから長いのですか?」
「いえ、桜根自体が今年の春に立ち上がったばかりですから、自分は四月一日付けで入社しました。」
「それでもう社長ですか。」
「社長と言っても名ばかりですよ、でも桜根に就職する前の会社は色々ひどかったので、妻は喜んでいます。」
「給料は増えるの?」
「これから皆で相談です。」
「はは、相談して決めるってなんか面白いね。」
「実は今でも安藤社長よりずいぶん沢山頂いているのです。」
「えっ? どういう事?」
「我が社の方針として安心して子育てが出来るだけの給料ということが有りまして、うちは子どもが三人いますので、さらに安藤社長はまだ学生で見習みたいなものだからと大卒初任給以下の給料を指示されまして。」
「それはちょっと…。」
「結構反対意見も有るんです、社長の力を考えたら安すぎるとか、対外的にも問題が有るとか。」
「だろうな。」
「大学卒業したら大幅なアップを要求しますよ我々は。」
「はは、社長の給料を上げろって要求は聞いたことないな。」
「それには、自分たちがしっかり実績を上げなければなりません、皆さんのご協力お願いします。」
「分かるよ、初め大学生が社長と聞いてお遊びかと思ったけど、今までの実績を知り、こうして直に会わせて頂いたら、横山さんは当然地元商工会とも関わって下さるんですよね。」
「はい、もちろんです。」
「安藤社長、うちの会社がチーム桜に参加するとか、桜根傘下に入るとかは可能ですか?」
「もちろんOKです、法令を順守していればですけど。」
「ホームページ見ましたけど、すでに業績が改善されつつ有るとこも少なくないですね。」
「はい、企業が集まる事によってずいぶん無駄も減ってますし、お互い助け合ったり、うちの社員が助言をしたりと、またチーム桜オリジナルグッズが売れてる事も大きいですが。
何より、チーム桜に参加する事によって社員のモチベーションが上がっている事が大きいです。」
「そうか、自分で起こした会社だから息子に継いで欲しいとは思っていたけど…。」
「その辺りの事情も、決心がついたら担当者に相談して下さい、現時点では横山が承ります。」
「そうか、横山さんも社長に就任したら忙しくなる訳ですね。」
「はい、桜根でフォローするとは言え、新会社を軌道に乗せるのは簡単では有りませんから。」
「横山さん、うちの敷地にほとんど使ってない家が有るのですけど住んで貰えませんか。」
「えっ?」
「息子が帰って来るように建てたのですが、どうも東京から帰る気はなさそうでして。」
「問題がなければ前向きに…。」
「横山さん、遠慮しなくて良いよ、こいつの息子は東京で真面目にやってるから。」
「一度、連絡を取らせて頂ければと思うのですが。」
「そうだな、その方が横山さんも安心できるだろうから、後で息子に連絡入れるよ。」
「はい。」

山間の町-07 [チーム桜-03]

昼食会をゆっくり済ませた後、隆二達は制作部のメンバーとも分かれ地区内を見て回る。

「安藤社長と回れば何かしらのアイディアを頂けるとは思っていましたけど、さすがですね。」
「いえ、思ったより良い案が浮かばなくて、横山さんのお役に立てませんでした。
新会社の本社兼社宅が安く借りられることになって良かったですけど、まだ初期投資を早い段階で回収出来る見込みが立ってませんから。
もっと余裕を持って新会社の運営が出来る状態にと考えてはいるのですけど。」
「そんな事ないです、今日のお話しでかなりの可能性が見えてきました、桜根に対しての貢献というレベルではまだまだですけど、少なくとも初期投資を返しつつ、この地の活性化にお役に立てそうな気はしています。」
「そうですか…、横山さん、別荘ですけど有効活用すれば新会社が少しは楽になりませんか?
皆さんの善意に甘える事になってしまうのですけど。」
「あっ、そうですね、別荘という名称でなく合宿所オーナー募集とかにしても分かり易くて良いかもしれません。
そこを農業体験の方に利用して頂ければ、もちろん合宿所としての利用も有りですがこちらとしては有りがたいですね。
今調整中の物件はどうしますか。」
「そのまま進めましょう、合宿所が完成するまで必要になりますし、田舎暮らし体験は早めに始めたいですから。
今後の状況によっては合宿所が完成した後も必要になって来るかもしれません、と言うより必要になって欲しいですね。」
「はい、農業体験開始まではまだ時間が有りますから、それまではイベント関連で使ったり色々考えてみます。
そうだ、田舎暮らし体験は妻と相談してみます。
家族五人の田舎暮らし、文章と写真ぐらいなら自分達でも大丈夫です、夫婦違った視点で発信していけると思いますし。」
「そうでした、まさにこれから体験される訳ですものね。
良い事も悪い事も率直にお願いします、でも体験者募集は実行しましょう、家賃収入で改装費とか返して行けますし、定住促進にプラスになりますから。」
「何となく見えて来ましたので、今後のスケジュールを見直してみます。」

「それと、別荘で思ったのですけど将来的には桜根グループの福利厚生施設もここに建てますか?」
「あっ、保養施設ですか…。」
「ここに保養施設が有れば、従業員の内の何%かはここに来るわね。」
「横山さん、会社の保養施設って十二分に活用されているのでしょうか。」
「自分が以前働いていた所では、有るという噂は聞きましたが実際に利用した人の話しは聞いたことが有りませんでした。
まあ大きい会社だと人気の施設も有るそうですが。」
「サポート企業も含めて、各社の保養施設の利用状況、また福利厚生の実態を確認したいな。」
「隆二、私が動くわ、ちょっと盲点だった気がするの。」
「うん頼む、横山さん色々可能性を模索して行きましょう。」
「はい、すでに社宅や社員寮の共有化の話しは進んでいてコスト削減に繋がりそうだと聞いてますから。
保養施設も人気のない所は改修したり、一般への解放も考えて有効利用したいですね。」
「大都市以外へお金の流れが出来るのなら、積極的にやりたいわね、今まで人気の無かったとこなら穴場とかアピールしてみたり。」
「何もないけど静かさが有るとか。」
「隆二、それ良いかも。」
「う~ん、そのコピーはここでも使いたいです、実際今は前にも後ろにも車はいないじゃないですか。
ちょっと国道からそれてみたら、自分以外誰もいない空間が存在していて、でも何か落ち着けたんです。
都会の孤独ではなくて、田舎でしか経験出来ない感覚だと思います。」
「となると、絵描き達にも来て貰いたいな。」
「似顔絵で頑張ってくれてる人達ですね。」
「ええ、ただ残念な事に自分の脳はその費用対効果を考えていますよ。」
「はは、社長の性って事ですか?」
「横山社長もいずれ分かりますよ、目標をクリアする為には色々考える必要が有りますから。」
「でも目標が有るだけ今の自分は幸せです、桜根入社前はひどかったですから。」
「はは、後は利益の問題ですね。」

山間の町-08 [チーム桜-03]

「まだ模索中では有りますが…、農業体験は来春以降と考え、まずは木工細工を始めたいと思います。
材料を貰う約束はもう済ませていますので、自分で色々作ってみて商品価値とか探ってみます。
木工細工だけでどれぐらいの利益が出せるか、やってみないと分からない部分も有りますので。
それから間伐材を切り倒してみます。
指定された木を自分で倒したら、ただで下さるそうです。
道具も貸して頂いて手取り足取り教えて頂く約束を今日しました。
すぐ売れる訳では有りませんが、将来的には社の財産になると思っています。
また間伐体験実習への備えでも有ります。」
「間伐体験は出来そうですか?」
「今日相談した結果、まず自分が体験してということに、間伐は基本秋から冬に行うそうです。」
「それでしたら、横山さんが体験される時に合わせて少人数の間伐実習を開きませんか。」
「そうですね少人数なら、一人よりも良いかもしれません。」
「間伐材でも、灰汁抜きして寝かせた方が良いのですね。」
「はい。」
「桜根傘下に入ってから大きく業績を伸ばしている会社で土地に余裕の有るとこが有ります。
そこと交渉して、切り倒してすぐの間伐材を一本五百円から千円で、輸送費向こう持ちで売りましょうか。」
「買ってくれますかね、普通に使える状態にするまで結構時間と手間が掛かるのですけど。」
「それで森が守れるのなら。
そこの社長も恩返しがしたいと言って下さっていましたから、何時になるか分からないけど間伐材の問題に協力して頂けませんかと打診しては有ります。
もちろん、全く利益の出ない様にするつもりはないですけど。」
「策有りですか、若い木は耐久性も弱くて高値では売れないみたいです。」
「利用方法はチーム桜全体へも問いかけましょう、すでに幾つかの案も有りますが。」
「それならチエーンソーも自前で買えますし、先生役をお願いしてる方へのお礼も充分出来ます。」

「農業の方はどうですか?」
「このエリアの特産品と色々な野菜を考えています。
特産品は栽培が比較的楽みたいなので販売の柱に、他の野菜は自分達が食べる事も前提において考えています。
農家のメリットってやはり自分で作った安心できる物を食べられる事だと思うのです。」
「そうですね、その辺りはアピールして行きたいですよね、夏場は農業、冬場は林業と木工品、通年で田舎体験支援、合宿所が完成したらその管理業務、これで充分なのか足りてないのかは微妙な所ですが。」
「隆二、足りなかったらイベントでカバー出来ると思うわ。」
「そうだね、でもイベント抜きでも活性化出来ないと他地区への広がりは難しいと思うな。」
「そっか、モデル事業だもんね…。
あっ横山さん、花さかの原稿料ですが、奥さんの分は奥さんへ支払いますけど、横山さん自身の分はどうされますか、新会社でも個人でも構いませんが。」
「佐紀さん、妻の分も全部会社でお願いします。」
「いえ、奥さんは社員では有りませんので。」
「う~ん、もう充分頂いてますから…。」
「はは、受け取ったお金を使って下されば良いんですよ、ここで。」
「あっ、貯め込んだらお金が動かないか。」
「もちろん将来への備えは必要ですが、地産地消の精神を忘れなければ生きたお金になりますからね。」
「分かりました相談してみます。」

「あっ、あれってヤギ?」
「かな? 草を食べてる?」
「この辺り結構雑草が目についたけど…。」
「そこまで役所の予算が回ってないんですよ。」
「草食動物を利用しての除草は聞いた事が有るけどどうかしら?」
「あっ、そうですね面白いかもしれません、調べてみます。」
「子ども達も喜ぶ様な動物を飼って…、問題は冬場の餌と糞の処理かな?」
「小さく始めて問題点を探ってみます、農業の可能性としてアイガモ農法とか興味が有りましたから。」
「テントウムシを使ってアブラムシの駆除というのも有りましたね、農学部系の連中に色々ぶつけてみますか、実利が有って観光にもプラスになるなんて難しいかもしれませんけど…。」
「そのレベルは安藤社長にお願いするしか有りませんが。」
「ちょっと動いてみます。」

山間の町-09 [チーム桜-03]

安藤達の視察から数日後、横山は家族と共に。

「へ~、立派な家なのね。」
「まあ一階のある程度のスペースは新会社の本社となるけどな、ここはこども園にも近いし、この辺りではかなり良いとこなんだ。」
「さすがに街並みは微妙ね。」
「ああ、名古屋のモデル地区とは大違いだ、でもここは周辺の住民にとって重要な所なんだよ。」
「うん分かってる。」
「じゃあ挨拶しに行くか?」
「うん。」

「こんにちわ。」
「ああ、横山さんいらっしゃい、はは、坊や達怖がらなくても大丈夫だぞ。」
「初めまして、百合子と申します。」
「おお、よろしくな、困ったことが有ったら何時でも声をかけてな。」
「はい、有難う御座います。」
「奥さんはこんな山奥に抵抗はなかったのかい?」
「いいえ、私もチーム桜の一員としてここの活動に微力ながらも関われて嬉しいですし。」
「でも、田舎暮らしは慣れてないそうで。」
「はい、不安がない訳では有りません、でも、主人が桜根に就職してから明るく会社の事を話してくれてまして、安藤社長の事とかも嬉しそうに、前の会社ではこの人死んじゃうじゃないかって思う事もあったんです、それを考えたら多少の不便は気にも出来ません。」
「そうでしたか…。」
「子ども達も小さいので色々ご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんがよろしくお願いします。」
「な~に、子どもは国の宝だからな。
東京に住む息子からも連絡が有ったよ、自分が帰れないのは申し訳ないがチーム桜は本物だから協力して欲しいって、色々調べたそうだ、安藤社長の事も。」
「はい自分も息子さんと電話で話させて頂きました。
安藤社長の名は全国的に知れ渡りつつ有りますから話しが楽なんです。」
「あんな若者がいるとは思いもしなかった、すでにある意味何千人かのトップなんだろ、でも謙虚で…、育ちの良さなのか?」
「ですかね? 普通年下の上司ってやりにくい部分が有ると思うのです。
でも安藤社長は器の大きさというか能力の高さというか。」
「誰でも惚れるよな。」
「はい。」
「うちの長男は東京暮らしで役に立たんが、娘達はこの近くに嫁いでいてな、何か有ったら声を掛けて欲しいと本人達が言ってたから使ってやってくれな。」
「う~ん、それは心強いですね。」
「この子達にとっては大きく環境が変わって大変な試練になるかもしれないが…。」
「それも経験ですよね、うまくなじめる様考えてはいますが。」
「まあ、子ども達の事は子ども達が解決してくれるかもしれんけどな。」
「はい、自分は見守る事しか出来ないかもしれません。」
「これで、ここの人口が五人増える訳だな。」
「えっ、そんな感覚なんですか?」
「ああ、わしはな。
他の連中の心中は分からんが…、自分の生まれ育った町がもっと活気に溢れて欲しいと思ってるんだ。」
「はい、そのお気持ちに添える様がんばります。」
「はは、頼むな。」

山間の町-10 [チーム桜-03]

十一月横山の引越し。

「ちょっと手伝いの人多過ぎませんか、井上さん。」
「横山社長、人海戦術でさくさくっと終わらせて、後は観光ですよ。
皆さん、新しいモデル地区に興味が有りますからね。」
「お礼とかはどうすれば…。」
「はは、前にお話しした通り個人的なお礼なんて必要ないですよ、皆この案件の難しさは理解しています。
地元の方からの差し入れを配らさせて頂きますから、それで充分ですよ。」
「そうですか…、井上さん、しかしどうやってこの人数を集めたのですか?」
「ちょっと告知をしただけですよ、そしたら横山さんが担当された企業の方とか、間伐材受け入れ企業の方が現地を見るついでにとか、その他諸々。
もちろん今後もここを支えようって人ばかりですよ。」
「何かチーム桜なら何でも出来そうな気になって来ました…。」
「これから大変だと思いますが、がんばって下さいね。」
「はい。」

「メインの搬入は終わりましたから開梱チームと子どもと遊ぼうチーム以外は一旦集まって下さい。」
井上の呼びかけに応じた人達に横山は。
「皆さん今日は有難う御座いました、自分にはこんなにも多くの仲間が居るんだと改めて気付かせて頂きました。
この家は部屋数も多いですから、是非遊びに来て下さい、若干子ども達が騒々しいですが。
後は井上から話が有るそうです。」
「この後ですがこのエリアの観光としましては…。」
「ちょっと待った、何か早く終わり過ぎたからさ、希望者だけで良いからこの辺りの掃除とか草むしりとかしないか、チーム桜の挨拶がわりにさ、その後温泉に入って飯食って観光ってどうだ。」
「良いね、道具とか地元の人と交渉して来ようか。」
「おお、必殺交渉人が動けば即決だな。」
「あ、それならうちから取って来ますし、隣近所にも声を掛けますよ。」
「地元の方も手伝って下さっていたのですか。」
「はは、必殺交渉人出番なしだな。」
「その分草をむしるさ。」

掃除や草むしりを通して地元の人との交流も生まれた。
引っ越し作業も一区切りついた頃、横山の元を訪ねる夫婦が有った。

「横山社長、飯山と申します、お忙しい所申し訳ないのですが少しお時間を頂けないでしょうか。」
「はい、大丈夫ですよ、あっ今日は有難う御座いました、色々手伝って頂きまして。」
「いえ、私共にも思う所が有りますから。」
「何か?」
「新会社の従業員はどうされるおつもりですか。」
「安藤社長からは私の裁量で雇う様に指示を頂いています、ただ間伐材の伐採とか結構きつい仕事も想定してますので簡単には。」
「私は結構体力に自信が有ります。
今の職場では責任有る立場にいまして不満が有る訳ではないのですが、出来れば桜根の転職制度を利用して新会社で採用して頂けないかと思いまして。」
「何か事情がお有りなんですね。」
「はい、小学生の娘達が今の学校になじめてないのです。
それが妻のストレスにもなっています。
そこで思い切って気分を一新しようかと、私自身も一つのチャレンジとして横山社長の元で働かせて頂けないかと思いまして。」
「そういう事でしたら、お願いしたいです、今の勤務先とも調整させて頂き、ここでの暮らしがうまく行かなかった時の事も考えます。」
「住居はここほど立派では有りませんが、すぐ確保出来ます。
この地で実績を上げる事が出来れば次の展開も視野に入れていますから、えっと連絡先は。」
「あっ、失礼しました。」
名刺交換となる。
「えっ、飯山さん、あそこの部長と言えば、それなりの…。」
「肩書きなんて関係ないです、安藤社長と比べたら自分なんて小さいと感じてますから。」
「でも、おたくの社長が簡単に了承しますか?」
「まあ部の相談役ぐらいは続けなくては行けないかもしれません。」
「その辺りも含めて調整させて頂きます。」
「よろしくお願いします。」
「それにしても、よくご決断をされましたね。」
「私は元々アウトドア派なんです、この地にログハウスをチーム桜有志でとか面白く有りませんか。」
「あっ、面白いかもしれませんね。」
「木を切り倒して寝かせる所から始まって完成は数年後とか。」
「良いですね、あっ奥さんは大丈夫ですか?」
「私も自然が好きなんで、何の縁もない所で不安も有りますが、チーム桜関連ならと思っています。」
「ですよね、支えてくれる仲間がいますから、うちの家族とも仲良くして頂けたら嬉しいです。」
「よろしくお願いします。」
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