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改革-01 [シトワイヤン-29]

国賓のお供としての滞在、緊張はしたが快適に過ごせた。
それは姫さまも同じだったようで、特に鷹匠用の腕カバーをプレゼントされ、仲良くなったハヤブサを腕に止まらせたり、ラクダに乗せて貰うという体験は何時も以上に楽しそうだった。
そして、王子に見送られ二つ目の訪問地へ飛ぶ。

共和国の空港に着陸。
だが、しばらく飛行機内に留まる様、指示を受けた。
そのしばらくが長い。
着陸後二時間ほどしてようやく情報提供。
着陸の少し前、姫さまの到着に合わせ自爆テロの準備をしていた者達が出頭して来たそうだ。
彼らは姫さまの祝福を感じてか洗脳が解け、すっかり自爆する気が失せたが、使命を果たさなければ、どんな目に合わされるか分からないと保護を求めて来たのだと言う。
それを受けて、軍と警察が安全確認に動いている。
その指示を出している連中も姫さまの祝福を感じ、絶対に守るべき存在だと気づいたそうだ。
そうでなくとも、王国の国賓がこの国で襲われでもしたら、戦争になりかねない。
襲った連中が反政府組織で有ったとしてもだ。
結局、四時間ほど機内で待たされたが、その間に準備が整い、ホテルまでの道は軍の兵士によって守られ、当初の予定に無かった歓迎を受ける事となった。
待たされてる間も、姫さまの祝福は人を選ばず癒していたと思う。
それは兵士達の態度に現れていて、王国で国賓として迎えられた時と同じ丁重な扱いを受けた。
我々を招待した実業家は到着時の不手際を詫びたが、これで国を挙げての歓迎が出来ると話す。
王子とは違い、思うように行かない事が多々有ったようだ。
それでも歓迎の晩餐など、王国と遜色のないもてなしをしてくれた。

「智里、姫さまはどうしてる?」
「部屋で通訳の女性と話してたわ、この国の実情を教えて貰うとかで。」
「スタートでつまずいたが、大丈夫かな。」
「多分ね、待たされてる間もマイペースで調べものをしてたから。
今日は本格的な武器を目の当たりにして少し考えてたけど。」
「あの武器に実弾が入ってると思うと落ち着かないよな、つくづく平和な日本を実感したよ。」
「日本で世界平和を語っていても、世界の現実を実感出来ていなくては、まさに机上の空論ですね。」
「しかし我々の到着に合わせて自爆テロを計画していたとはな、スタッフの話では最近無かったそうだ。」
「やはり、宗教的な意味合いから万里の到着に合わせたのでしょうね、警備体制が分からず私達を直接の標的とはしていなかったと聞きましたが。」
「王国での状況は、こちらにも伝わっているだろう、多くの人が胸の前で手を組む様を映像で見て、どう思ったかだな、映像を通しても祝福は感じられたと聞くが…。」
「通訳の女性はイスラムの戒律に対して否定的でした、学歴の高い人ほど疑問を抱いているとか。」
「ただ、全体的にどうなのかは分からないよな、彼女の様な人が少数派で有る可能性は否定出来ないだろ。」
「でしょうね、思っていても口にも出せず従うのみの人は少なくないかも知れません。
戒律が社会の常識な訳ですから、疑わない人ばかりでもおかしくないです。」
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改革-02 [シトワイヤン-29]

今回訪問の両国、関係は良好と言えないので、王子と実業家の仲は悪いのかと思っていた。
だが、社周辺の建設現場で作業員に相手国の進捗を公表して競わせてはいるものの、スタッフ達は連絡を取り合いファンクラブとしての舞姫フレンズで協力していく話が進んでいる。

「町の映像を見てると舞姫さまのヘッドスカーフを身に着けてる人が目に付きますね。」
「王国と同時発売にしたからね、王国からの映像を見て欲しくなったのでしょう。
デザイナーがヘッドスカーフなら問題ないだろうと提案してくれて、サンプルを両国のスタッフに見せたら好評だったそうなの、思い切った数を用意して正解だったわ。」
「舞姫さまの認知度はすでに高かったのだね。
あの人達は舞姫フレンズだと考えても良いのかな。」
「良いのではないですか、女性の方が受け入れ易いでしょう。
姫さまの祝福は全くの平等です、戒律によって差別されている彼女達にとって舞姫フレンズになることは自然だと思います。
時に対立して来た二つの国の国民が同じグッズを身に着けているのは嬉しいことです、舞姫フレンズは、また国境を越えましたね。」
「ここのスタッフが話してくれたのだが、お世話になった王子のスタッフとは頻繁に連絡を取り合っているそうで、国同士の関係は微妙だが、王子の改革には賛成、イスラム教そのものの改革が必要だと。
ただ急激には変えられないので、舞姫フレンズをファンクラブとして組織化しながら少しずつ人の在り方を問いて行く。
地球市民党も当分表には出せないが、我々も地球市民として平和な地球にして行きたいと話してくれたよ。」
「ファンクラブの体制はどういう形を描いておられましたか?」
「出来れば、ヘッドスカーフの工場などをこの国に置かせて欲しいと、王国でもグッズ工場の話が出ていたが、分担して製造、互いに輸出入という形にしたいとか。
舞姫フレンズ自体は言語別に展開しているから、こちらの言語でも、スタッフには他国からも参加して貰える様にして欲しいね。
内容としては、姫さまの活動を、まずは欧米抜きの日本を中心に伝えて行く。
欧米と日本ではイメージが全然違うそうでね、姫さまの祝福を感じてその差が広がったそうだ。」
「今後の事を考えたらグッズはここでも生産して行くべきだけど、従業員に優しい職場であるという条件を付けたいわね。」
「そうだな、舞姫フレンズ協力企業と名乗れる条件を満たせたら、様々な形で協力し合える様にして行きたいな。」
「そこを軸として、舞姫フレンズと全く関係の無い企業でも、協力企業として繋げて行き、巨大企業連合として世界に影響力を持って行くのね。」
「壮大な計画ですが方向性は悪くないです、初期段階で中東の企業が関係する意味は大きいと思います。」
「舞姫連合か…。」
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改革-03 [シトワイヤン-29]

現地スタッフとは舞姫さまグッズの製造工場を従業員に優しい形で立ち上げる方向で話を進め始めた。
ここのスタッフ達は元々貿易関係の仕事をしているので、マーケットのことは分かっている。
舞姫さまグッズの中でも高級品を中心に製造販売して行くと仮定して試算した結果、充分従業員待遇を良く出来るとの結論に。
その上で舞姫さまグッズの販売実績を教えたら驚きつつも納得し、もっと利益を出せるかもしれないと。
そして、彼らの貿易会社を中心に、王国のスタッフとも調整をしながら、舞姫フレンズ協力企業を増やして行くことで話はまとまった。

「貿易関係の仕事がメインだからでしょうか、スタッフの皆さん、概算とは言え試算が早く優秀な印象を受けました、そして、視野の広さを感じさせて下さいましたね。」
「色々な国を見て来ているのだろう、だから改革の必要性を感じてもいるという事なのかな。」
「姫さま抜きでは改革は進まないどころか始まりもしないと話してたわね。
姫さまの祝福を感じて、改めて人の愚かさを考えさせられたとか。
軍事費を減らせたら、もっと豊かな国になれるだろうとも。」
「軍事産業もそれなりに経済を回す担い手では有りますが…、平和な世界は軍事産業で儲けてる人にとっては好ましからざる世界なのかも知れません。」
「かもな、軍事的衝突が有ればより儲かる産業か…。」
「戦争が科学を発展させた歴史は有るのよね、姫さまの力で人々が優しく大人しくなると、科学の進歩は停滞するのかしら。」
「それでも良いと思います、今は軍事に活かされる技術より環境保全を目指す技術が重要、それなら、優しい人程、熱心に研究して下さるのではないでしょうか。」
「そうだな、こうしてる間にも砂漠化が進行しているという、地球を大切に思う気持ちがあれば…。
だが、その前に武装して自己主張ばかりしてる連中は、姫さまの祝福を感じることが出来るのだろうか。」
「自爆テロを命ぜられてた連中は、姫さまの祝福を感じて思い直したと聞いていますが、リーダークラスは冷静で自分の考えを変えないかも知れませんね。」
「現時点で姫さまの影響下にあるのは僅かだろうしな。」
「そんな連中は巡礼に来ないでしょうし、下手に来られても危険です。」
「社を破壊しに来る可能性はどうだろう。」
「下見に来て、ホログラム映像から影響を受けてくれれば良いのですが、いきなり攻撃ではどうにもなりません。」
「警備はしてるそうだが限界はあるだろうな。
姫さまは、自身のホログラム映像に、このエリアを守ってくれるよう、お願いしたと話していたが、どれぐらいの効果なのかは未知数だろ。」
「王国の社は、今も毎日長蛇の列と聞きました、ここの社もそうなると良いですが、そこを狙ってのテロが起きては…。」
「起こして欲しくはないが、もしテロが起きたとしたら、それだけ舞姫さまの影響を恐れていると言う事になるのだろうな。
ここでの初日に自爆テロを指示した奴は、すでに姫さまを恐れていたと考えて間違いないだろう。」
「そうね、姫さまの影響力は半端ではない、それを感じ取る知能を持ち合わせてはいたのね。
でも、暴力で何とかしようというのでは、やはり猿並みだわ。」
「あら、それではお猿さんに失礼ですよ。」
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改革-04 [シトワイヤン-29]

到着時こそ、姫さまの訪問先にするべき国ではなかったのかも知れないと思い不安だったが、後は王国の時とあまり変わらなかった。
両国民に対する配慮から、スケジュールは王国と差の無い様に組まれていて、我々も二つの国を比べる様な発言はしない様に心掛けた。
舞姫さまの祝福、人々は初めての体験に戸惑いながらも、胸の前で手を組み感謝している。
通訳によればテレビでも姫さまに対し否定的な発言をする人はいないそうで、姫さまの祝福をどう表現したら良いのか困ってはいるものの、宗教関係者から表立った発言はないと言う。
まだ戸惑っている最中なのだろうか。
警備の堅さに少し窮屈な思いをしたが、姫さまは王国から別の飛行機でやってきたハヤブサと遊ぶ時間を取ることが出来た。
また現地のラクダに、ふわりと宙に浮いて乗る姿は周りの人を改めて驚かせ跪かせた。
ラクダの方は、何となく嬉しそうに見えたのだが、私にラクダの気持ちは分からない。

「姫さま、舞の時以外で宙に浮かれるのを初めて目にしました。」
「そうですか、清香村では時々ふわふわしていたのですよ。
村人が見晴らしの良い大木の枝に休める所作って下さいましてね。
小鳥の為の巣箱を掛けた枝、リスと遊ぶ枝とか幾つか有るのです。
鷹匠用の腕カバーを頂いたので、今まで少し距離を置いていた子達と遊べる枝も用意して頂こうかしら。」
「同じ枝では不都合なことが?」
「猛禽類が飛んで来たら、小鳥やリスは寄り付きません、弱肉強食なのですから。」
「あっ、そういうことでしたか。」
「和馬さん、歴史上、人間も弱肉強食でしたよね。」
「はい、力有る者が弱き者を食い物にして来ました。
世界を見渡せば今でも、低賃金で働かざるを得ないというのは食い物にされてる様なものです。」
「国家間の所得格差については、どう見ています?」
「価値観の相違が有って簡単な話では有りません。
我々の価値基準からすると不幸に思える環境で有ったとしても、実は日々の暮らしが充実しているのだとしたら、幸福度という観点で捉えると低所得は必ずしも不幸ではなく、所得が少なくても物価が安ければ問題なく生きて行けます。
高額所得者でも日々不満を漏らしていたり、遺産相続で揉めていたのでは幸福度が高いかどうか怪しいですものね。」
「でも健康で文化的な生活、アフリカからはそれと程遠い映像が送られて来ますが。」
「所得の格差以前に、無秩序という印象を受けます。
子どもを沢山産んで、運よく生き残る事に託す草食動物みたいな。
アフリカの子どもを救えとかやっていますが、救ったら、飢えに苦しむ子ども達が将来多く誕生するだけのことかも知れません。
根本的な対策が必要でも、それをするだけの能力が無かったり、バカみたいに内戦をしている国が有って。
難民の問題も有り対策は必要なのでしょうが、もし、本格的な支援をしたら人口が一気に増えてしまう可能性を否定出来ません。」
「そして食糧不足という事ですか…。」
「綺麗ごとでは済まされない現実が世界の至る所に有り、地球市民改革は簡単なことでは無いのです。」
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改革-05 [シトワイヤン-29]

難民を出している国を何とかしたいという思いが、地球市民党幹部には有る。
だが、そこに至る道のりは険しく、姫さま抜きでは全く進みそうにない。
だからと言って、姫さまを危険な目に合わせる訳にも行かず、取り敢えず今は舞のDVDを売りまくろうという方針。
そのメカニズムは全く解明されていないが、姫さまの祝福を軽く感じることが出来、確実に効果が有ると病院からのデータが示している。
そんなことも有り、姫さまのファンクラブ、舞姫フレンズは登録開始以来恐ろしい勢いで登録者数を伸ばしている。
言語毎に運営され、現時点では六つの言語で稼働中、三つの言語が準備中でスタッフの研修が済み次第稼働予定、アラビア語は十個目の言語となる。

「舞姫フレンズ、通訳の人はアラビア語のサイト開設が待ちきれず、英語版で登録したと話してたわよ。」
「まあ、登録後は、どの言語サイトにアクセスしても構わないからな。」
「でも、内容が違うのでしょ。」
「その言語を使ってる人にとって身近な話題を優先するからね、グッズにしても、このエリアではヘッドスカーフが売れてるが、他国では違う訳だろ。」
「やはり多言語という事が、地球を一つにして行く妨げになりそうで残念な気もするわね。」
「かと言って智里達が始めたメロディー言語はマニアック過ぎるからな、英語を世界共通語にという案も有るが、抵抗感を覚える人が少なくないみたいだ。」
「歴史的な背景が有るのよね。
その抵抗感から面白い提案が出てたわよ。」
「どんな?」
「西暦が国際標準で使われているでしょ、でも元を正せばキリストの生誕を絡めて制定されたもので、ここの人にとっては面白くない訳。
で、舞姫さまの誕生を元にした暦を我々は使いたいと。
姫さま誕生の年をゼロ年とすれば西暦との互換が楽だと言うことは偶然として、今年を舞姫暦十七年としようとか。」
「成程、キリストに対抗出来る存在なのは間違いないからな。
公的には難しくても舞姫フレンズで使う分には問題ないし、キリスト教徒以外には歓迎されるかも知れないね。」
「表示する数字自体は西暦の下二桁、でも、あくまで姫さまの生誕に基づいた暦で有るとすれば、不便もなく受け入れやすいと思うのよ。」
「生誕前は、Before Maihime B.M.とでもするのか。」
「姫さま生誕前の事なんてこの際忘れて、そうね過去の遺恨を忘れる努力をして新しい時代を築く、舞姫さまと共に歩む新しい世紀を象徴する暦と出来たら楽しいわ。
すでにそれだけの影響を日本、欧米を中心に、そしてこの地でも与え始めているでしょ。」
「そうだな、暦自体は遊び感覚で始めて構わないのだから、そこに姫さまの思いを込めて、次のヒット商品はカレンダーになるのかな。」
「企画として進める?」
「なあ、月めくりは変化が遅いし日めくりは毎日面倒、週めくりカレンダーってのを試してみないか。」
「毎週、違った姫さまを愛でられるのね、面白いかも、サンプルを作って貰うわ。」
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改革-06 [シトワイヤン-29]

この地でイベントは全て無事に終え、明日はアメリカに向かう。

「和馬さん、何とか無事に旅立てそうですね。」
「さすがの智里姉さんも疲れただろ。」
「勝手が違いますからね、今日は貢物の整理に立ち会って、実際はスタッフ任せなのですが色々な物が有りまして。」
「貢いで下さった方々の了解を得て、各地の社に飾ったりすると聞いたが。」
「はい、特に王国とアメリカで飾る物に関しては、国境を超える舞姫フレンズの象徴としたいですので、王国で頂いて飾る物と同等の品になる様に気を付けて貰いました。
ただ、ここのスタッフでも価値判断が分かれる物も有りましてね、そんなのは日本へ送るのですが。」
「物の価値って分からないよな、こっちにとっては、どうでもいいというか要らない物を高額でも欲しがる人がいて。
あっ、貢物に関しての税金はどうなの?」
「どうなのでしょう、スタッフが評価額を算定しています。
贈与税がどれぐらいになるのか分かりませんが、万里は脱税を疑われるぐらいなら税金は多めに払うように話しています。」
「欲しくも無かった物が、実は高価で税金が沢山掛かると微妙だね。」
「置き場にも困るのですが、社が増えて助かりました。
いずれ舞姫コレクションの倉庫が必要になりそうですが、ひとまず社での分散展示で美術品は死蔵される事無く済みそうです。」
「自分達で使う物は無かったの?」
「絨毯の良いのを頂きましたので、その絨毯に合わせたゲストルームを新設して貰います。
宝石の類は衣装スタッフと相談して使って行くかも知れません。
でも、和馬さん考案の賽銭箱が一番ですよね、入金額が明確だから余計な手間が掛からなくて。
貢ぎ物でなくお金を下さいと言いたいところです。」
「まあ、高価な頂き物を目立つ形で展示して行けば、安物を贈ってくる輩はいなくなるだろう。
そうだな、一応美術館の建設とかも視野に入れておこうか。」
「そうですね、遺言状に自分の美術コレクションは舞姫さまへ、という方がお見えになりまして。
頂いても簡単に売る訳には行かないじゃないですか。」
「現金にして欲しいのだな。」
「まあ、気付いたら株式会社舞姫の大株主になってた人なので…、う~ん、生きてる間に美術館を建てて頂いて丸ごと、和馬さん、苗川周辺に良い土地、有りませんか?」
「もしかして、おねだりするのか?」
「ええ、お金は墓場まで持って行けません、美術品をいきなり頂いても管理が大変です。」
「そうだな、姫さま関連のコーナーを作れば入場料で維持管理出来るだろう、その大株主とも連絡を取って検討に入る様、指示を出しておくよ。」
「お願いします。」
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改革-07 [シトワイヤン-29]

中東からアメリカへ。
降り立った空港には大型ヘリが待っていて、そのままMAIHIME TOWNの別荘へ。
スタッフの多くは休養と観光の後、バスで移動の予定。
そう、まずは休養なのだ。
別荘に落ち着き英語と日本語だけの生活、そこで全く理解出来ない言語を耳にしていたストレスに気付かされる。
同じ言語を話していても、話の通じない人がいるぐらいだから、改めて外交の難しさを考える。
価値観も言語も違い、自国の利益を主張し合っていては簡単に話がまとまらなくて当然。
話を自国の都合に合わせて、平気で捻じ曲げる国も有る。
しかしキャッシーはすでに仲間だ、そう思うと、初めての別荘でも安心感が違う。

「和馬さん、久しぶりに寛げてるのは私だけでしょうか。」
「いや、私もだよ、ここのスタッフには顔見知りが多いからね。
そんなことは無いと思うが、しばらくの間アラビア語で悪口を言われていても分からなかった訳だろ。」
「ふふ、通訳は、現地の女性に人気だと話してましたよ、和馬さんのこと。」
「えっ、それを知らなかったのは残念な気がする、まあ、清香に怒られず済んで良かったのかな。」
「普段から怒られる様なことをしてるのですか?」
「そうでもない、愛華は私が女性に人気だと喜ぶのだが、清香は喜ばないんだ。」
「へ~、まあ、私の万里は男女構わず超人気者で、今もこの別荘を中心に多くの人が集まってるそうです。」
「まあ、そうだろうな、姫さまのおられる所が聖地となり巡礼者が列をなすのは、もう当たり前の光景だろ。」
「心配になるのは食事やトイレですよね。」
「ああ、そこは抜かりなくやってるみたいだよ、姫さま到着に合わせて準備万端、仮設の飲食店やトイレもね。」
「設備がまだ整ってないと聞いてますが、汚水処理は間に合うのでしょうか?」
「有機物に関しては、自然に返し土壌改良に、その土には木を植えて、食材にする野菜とかに使わないそうで、その分かなり大らかに管理してると、でも悪臭を巻き散らかさない様に留意して準備して来たそうだよ。」
「そっか、無駄が無いんだ、お爺ちゃんから肥溜めの話を聞いた事が有るけど、大規模な肥溜めを用意していたのですね。」
「あまり近づきたくないし、想像もしたくないな。」
「水さえあれば簡単に緑豊かな大地に出来るとは聞いていましたが、その水が問題なのですよね。
海水淡水化装置はコストが掛かりそうです。」
「確かにコストは掛かるが、そのお金は装置関連の企業に流れるだけで、消えてしまう訳では無いだろ、その企業も子会社だったり、関連企業な訳だから気にする必要はないのさ、その水が有効活用されていればだけどね。」
「そうでした、大事業は大きな視点で捉えないと、本間さんから教えられていましたのに。
そこに雇用が発生し経済が回って行く、水はMAIHIME TOWN発展の原動力となるのですね。」
「エネルギーを消費するし自然な形でないのは残念だが、思いっ切り緑が広がれば気温だって僅かながらでも下がるだろう。」
「そこまで緑地を広げるのは大変そうですが。」
「比較的乾燥に強い作物から始めているそうだよ、これからは植物園の様に多様な植物を植えてみて、この地に適した植物を探る、在来種を脅かす外来種の問題はあまり考えてないみたいだけどな。」
「在来種は、水事情が変わったら消えて行くかも知れませんね。
環境の変化…、地球温暖化が進んだら、それだけで植生は変わって行くのでしょうし、水没する島も。
小さな島を領海の根拠としているのですから、領海は狭くなっていくのかも知れません。
地球の長い歴史を考えたらそれぐらいの変化は微々たるものなのかも知れませんが、人間の手によって変えられたと言う事には抵抗感を覚えます。」
「だよな、でも、環境問題より今の経済が大切という大統領がいたりするから温暖化は進むだろう、対応が遅すぎたしな。」
「砂漠化が進む中、大規模な森林火災の話を耳にします、例え焼け石に水で有ったとしても、ここに緑の大地が広がって欲しいものですね。」
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改革-08 [シトワイヤン-29]

MAIHIME TOWNの別荘で、のんびりしている、一か月程滞在の予定だ。
その間、ここは聖地となりキャッシー達の会社を経済的に大きく潤すだろう。
仮設の飲食店向けに大型トレーラーで運び込まれる食材は油断してると不足しそうで、その便数を増やすぐらいに多くの人が押し寄せている。
私達は、そんな周囲の状況とは関係なく、個別の取材依頼は全て断り記者会見を開くのが表立った役割。
その当地一回目の記者会見は当初大きなテントを予定していたがそれでは間に合わず、イベントに向けて用意していた仮設ステージを使う事に。
姫さまが訪問した各国のみならず、多くの国からマスコミが集まった。
姫さまは登場しないとのアナウンスにも関わらずだ。

「世界中の人達がもっと舞姫さまの事を知りたいと思っている中、苗川にも注目が集まっているのは嬉しいわね、記者会見であれほど質問されるとは思ってなかったわ。」
「姫さま生誕の地というだけでなく、姫さまも関わって苗川大改造を進めて来た事を、舞姫フレンズのサイトで紹介したのは正解だったな。
苗川大改造こそ市民による地方都市の改革。
本間さん曰く、市民改革の成功例、その精神が世界に広がってくれたらと思うよ。
姫さま自身は説教めいた事を話されないが、その所属は本間塾という私塾。
一気に注目を集めて、本間さんとこのスタッフは大変だろうな。」
「神の如き姫さまという存在、その師匠である本間さんの主張がそのまま舞姫教の教義となってもおかしくないわね。
本間さんが話す『市民改革』というワードが舞姫フレンズを中心に広まり、姫さまの祝福と市民の意識改革をセットで語る人が増えてるのだから、本間さんが教祖でも問題ないわ。」
「社会の在り方を実践例を示しながら説明されているからな。
祝福を感じて、戸惑いながらも人々は考えている、答えを求めて舞姫フレンズのサイトを開き、そこでバランス型社会を形成するバランスの取れた市民像に出会う。
戒律も祈りもないが、清香村の住民は自分達の村を桃源郷とかユートピアだと話す。
特別なことは無くても市民が市民としても役割を果たす、ただそれだけ。
本間さん中心に話し合われて来た市民のあるべき姿を追い求めた結果、優しい村になったからね。
まあ、姫さまの滞在が長いというだけで別世界なのだが。」
「姫さま抜きでも、ユートピアを実現出来るかどうかが問題なのよね、舞姫さまの社だけで成り立つのかどうか。」
「大いなる社会実験がすでに始まっている、姫さまの祝福を切っ掛けにね。
市民自身がその在り方を変える事で社会は良くなって行く。
革命ではない市民改革に暴力は必要ない、必要なのは、姫さまの例えようのない大きな愛の万分の一でも良いから隣人を愛し、共に平和な社会を築き上げて行くこと。
MAIHIME TOWNをユートピアに出来たら、広がって行きそうな気がするね。」
「でも、今はキャッシーのお爺さまが、住人を養っている様なものでしょ。
まずは経済的な自立までどれぐらい掛かるかがポイントになるのじゃないかしら。
それより大都市で市民改革が進むかどうかね。」
「そうだな、姫さまの祝福を経験していない人達と市民改革を進めたい人の間で争いにならなければ良いのだが。」
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改革-09 [シトワイヤン-29]

MAIHIME TOWNの仮設オフィスでは日米のスタッフが世界各地からの情報を整理したり、各地のスタッフからの報告を受けたりしている。
それによると、欧米では、舞姫フレンズの拡大と共に地球市民党の党員になる人が増え、市民改革への議論が熱を帯びて来ている。
どの国にも程度の差こそ有れ歪は存在し、難民の問題も有り簡単に結論は出ない。
それでも、本間さんの提唱している『市民改革』はバランス重視。
その考えに影響を受けた人達が、貧富の差を無理なく解消して行くことを目標に、真剣に話し合っているそうだ。
ただ、その方向性は国や集団によってまちまちで、本間さん本を参考にしているグループでも、解釈に差が有ったりする。
結局、宗教が宗派を増やした様に舞姫フレンズ達も多くの派閥に分かれるのだろうが仕方のないことだろう。
そんな状況に対して、舞姫フレンズの本部も地球市民党本部も、しばらく静観することになった。
姫さまはそんな状況と関係なく…。

「姫さまは?」
「子犬達と戯れていたわよ、何でもトイプードル愚連隊というチームを作るそうで、まずは犬の躾について専門家から教えて貰い、舞台に上げられるレベルまで育てるのだとか。」
「姫さまは子ども向けの舞台を意識しておられるのかな。」
「少し人間的な部分を強調したいのではないかしら。
入って来る報告では、姫さまの神格化が進んでるでしょ。
さすがに、普通の女の子だとは口にされなくなったけど、複雑な思いが有ると思うわ。
智里には話してるみたいだけど、智里もその辺りの話は避けるのよね。」
「我々がとてつもなく大きな重荷を背負わせてしまったからな。
その負担を大きくしないために私達が同行してるとは言え、フォローし切れているとは…。」
「気軽に出歩けない不自由な生活でも、一般人の入れないエリア内での生活を楽しんでると智里は話してたわよ、キャッシーに頼んで用意して貰った動物たちのお蔭で。
オウムに歌を教えたり子猫で遊んだり、動物たちは姫さまを神様扱いしたりしないのが良いのでしょうね。
でも、キャッシーが用意してくれた動物を日本に連れて行くのは問題ないのかしら?」
「子猫にとって旅行は負担が大きいみたいなのでここで飼って貰うが、子犬とオウムは大丈夫だ、清香は清香村の別荘に動物達の部屋を増設する様、指示を出したと話してたよ。
子猫は姫さまと相談して日本で買おう、馬もね。」
「そっか、馬は借り物だったわね。
ねえ、姫さまが動物と触れ合う姿、姫さまとしては積極的に公開して欲しいのではないかしら。
人間らしくて。」
「ありのままの姫さまを世間に伝える映像としては良いだろうが、今後、神秘的な存在として演出して行くのか、人間的な部分を伝えて親しみを感じて貰うのかは微妙だな。」
「う~ん、姫さまと相談しておくべきね、今まで何となく神秘的な部分を強調してきたけど。
姫さまは遠慮されてか、その辺りのこと、あまり話されないでしょ。」
「そうだな夕食の時にでも相談しようか。」
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改革-10 [シトワイヤン-29]

夕食時。

「情報を見ていると、もう、万里がフレンドリーであろうと神秘的であろうと関係ないレベルで動き始めているのではないですか。
新たな女神さまに守られた地球市民として市民改革に取り組む、という人もいますが、誰も古い女神さまを見たことも無い訳で、特別な存在としての舞姫を捉えた時、比較出来るものは無いのです。
自身の持つ神のイメージと万里が違った所で誰も文句は言えないのですよ。」
「確かにそうだな、姫さまは、姫さまの事をもっと知りたい人達の為、普段の姿をもっと公開して行く事に抵抗はないですか?」
「日本語サイトでは、すでに小さい頃の映像も公開されていますので。
舞姫というパフォーマー、その素顔を見せつつ…。
本間さんは私が引っ張れば地球そのものを良い方向へ導けると話して下さいました。
今まで地球上の様々な問題を調べて来ましたが、自国の経済最優先という政治家達では限界が有るのでしょう。
地球市民が立ち上がり真の改革、バランスの取れた改革を目指さなかったら、この地球を良い形で子孫に残すことは難しいと思います。
日本は市民政党若葉の力で、少しづつ改善されていますが、やはり市民が社会改革に目覚めなければ苗川の様には行かないです。
そこで、次の記者会見には私も出ようと思いますが如何ですか?」
「それは記者達が泣いて喜ぶでしょう。」
「ただ、前もって受け取った質問に対して答えるだけにして、質疑応答は無しにしたいです。」
「それで良いです、レベルの低い記者が少なくないですから。」
「姫さま、それに合わせて、子犬や子猫と戯れる映像なども公開したいのだけど、どうかしら?」
「構いませんよ、お姉ちゃんの乗馬シーンも流して下さいね、ちょっと格好良かったでしょ。」
「姫さまの乗馬と違って正統的な乗り方でしたものね。
姫さまはどうやって馬を思う様に操ってたのですか?」
「ふふ、馬の耳に念仏を試してみたら上手く行ったのです、ちゃんとこちらの思ってることが通じましてね、言葉は関係ないのかも知れませんが。
揉めてる国の人達にも通じると話が早いのですが。」
「そうよね、和馬さん、二国間協議や国際会議を万里の影響下で開きたいという話が来てると聞きましたが、どう対応して行くのですか?」
「まあ、本間市長の負担が増えるということかな。
日程的にここでは無理だが、日本に帰ったタイミングで苗川でと画策している、姫さまに余計な負担が掛かる訳でもないから気にしてないが。」
「大物が来日すると言う事では無いのですね。」
「今の所はね、まずは姫さまの祝福を感じながら議論しようという試み。
訪問した中東の二か国は実務者会談を行い、結果次第で王子とかが来日されるだろう。」
「そうなって行くと、いずれ苗川では無理が出て来ませんか?」
「ああ、姫さまの別荘を国際会議が出来る場所の近くに、巡礼者にも配慮した形で建設するという話が出ているよ。」
「新たな別荘ですか、姫さまとしては如何です?」
「清香村の様な環境が有れば、何処でも構いません。」
「そうですね、近くに舞姫さまの社も建てて、新たな聖地としますか。
日本に於ける神社の数を考えたら、舞姫さまの社はまだまだ増やせます。
地方再生を目指して『市民改革』のシンボル的な会議場や娯楽施設を、姫さまの別荘中心に配置して…、和馬、場所の候補は上がっていますか?」
「いや、まだ具体的な話は進んでいない、既存の会議場から遠くない所というぐらいだよ。」
「では、既存の会議場周辺に姫さまの別荘を確保するチームと、新規に清香村程度のエリアを新幹線沿線とかに確保し開発を計画するチームを組んでも良いですね。」
「そうだな、計画を発表すれば誘致に乗り出す自治体が現れる可能性は高いと思う。」
「その地でも市民改革が実現すれば、改革は更に広まって行くと思います。」
「まずは日本で成功例を増やして行くという事ですか、問題は万里抜きで市民改革を実現させられるかどうかだと思うのですが。」
「それは先の話だと思います、まず、姫さまのお力で成功させて行く、このMAIHIME TOWNの関係者達も苗川の様に住人がユートピアだと胸を張って言える様な町にすると話していました。
そんな町を世界中に少しずつでも増やして行く、今はそれで良いと思うのです。」
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