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それから-01 [シトワイヤン-35]

世界は随分平和になったが、私達は今も姫さまと共に旅の途中。
私達の一番上の子どもは、もう三歳になる。
彼はファルコン二世号で生まれた。
清香にとって空飛ぶ宮殿で姫さまに見守られながらの出産は喜びに満ち溢れるものだった、生まれて来る子どもにとっても姫さまの祝福の中なのだから。
医療チームに待機して貰ったが、安産で何の問題も無かったのは長年姫さまの祝福を感じながら過ごして来たことが関係していると思う。
清香と愛華、私は二人と結婚した。
大銀河帝国の法律はとても簡単で、一夫多妻を否定する条文が無い。
多くの法が必要無くなるぐらいに地球市民の意識が姫さまの祝福によって高くなっている。
飛行船での旅には、私の四人の子ども達と、智里の子も同行。
飛行機と違い比較的低空を飛ぶので乳幼児でも問題はない。
智里は帝国のスタッフと結婚したが、一番大切な妹のそばを離れる気は無く、夫と子育てしながら業務をこなしている。
子ども担当のスタッフもいるが、時に姫さまが子どもの相手をして下さることも。
姫さま御自身の結婚は大きな問題なのだが、まだその時では無いそうだ。

「ねえ、姫さま、どうして日本語や英語が有るの?」
「そうね、元々遠く離れた国だったから、別々で言語が形作られてね。
一つの言葉の方が便利なのだけど、それぞれに、その言葉を使ってきた人たちの思いが有って大切にして行きたいの。」
「ふ~ん、姫さまは色々な言葉を話せるのでしょ、覚えるの大変じゃなかった?」
「大変だとは思わなかったかな、色々な言葉を話せると言っても、普段あまり使わないwordは知らないの、それでも手助けして下さる方がいるから大丈夫なのよ。
裕くんも普段から日本語と英語を聞いて使ってるでしょ、それと同じなの。」
「そっか。」
「ねえ裕くん、夕日が綺麗ね。」
「うん、茜色だね、でも、朱鷺色とか、夕焼けを表す表現は色々有るんだよ。」
「へ~、そうなの、誰に教わったの?」
「お父さん。」
「今日の夕日を裕くんはどう表現するのかな?」
「う~ん…、おひさまは、真っ赤になりながら、大好きな姫さまに、また明日お会いしましょうと、そして静かに、少し寂しげに…、ねえ、朝日と夕日って同んなじようなのに随分違うよね。」
「そうね。」
「明日も姫さまと共に健やかでいられますように。」
「それは?」
「昨日、船長が夕日に向かってね、僕を肩車しながらつぶやいていたんだ。
夕日を見てる人達は、みんなそう思ってるんじゃないかって。」
「じゃあ、明日も裕くんと共に健やかでいられますように。」
「ふふ、姫さまは何十億人の姫さまなのに、いいの?」
「もちろんよ、裕くんのことだって世界中の人がご存じなのだからね。」
「そうかな?」
「そうよ、だって、裕くんが生まれた時、世界中の人に紹介したのは私なんだから。」
「う~ん、覚えてないな。」
「でしょうね。」
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それから-02 [シトワイヤン-35]

軍備は世界的に縮小され、今は技術力の保持と…、例えば、巨大隕石が地球に近づいて来た時、それに対応出来るミサイルの研究や、災害時などに危険を伴う任務に就いて貰う人の養成といった形になった。
かつての戦闘機はその性能や操縦技術を競う競技の為に残されてはいるが、もう戦争の道具ではない、仮想敵国すら存在しないのだから。
今は軍備に代わって国際宇宙ステーションが大きくなり数も増え、そこへ行き来する宇宙船の数を増やしている。
もし地球環境がこの先悪化しても、人類を絶滅させない為、いや、人類だけでなく地球上の生物を絶滅させない為に箱舟計画も進められている。
砂漠には巨大なドームが建設され、そこでは人が住むのに適した環境を、水などの全てを外部から補給なしで、循環させながら維持する実験が始まっているが、それは近い将来、宇宙空間に居住コロニーを建設する事を目指している。

「ねえ、長距離の宇宙旅行が実現したら、それは旅行好きの人にとってどう感じられると思う?」
「愛華さん、それって…、あっ、そうか、確かに長距離の旅行だけど、その間ずっと宇宙船から出られないとしたら、旅行好きより引き籠り系の方が向いているのかもね。」
「智里には無理だな。」
「よね、私は飛行船の旅が一番だわ、私達の家はファルコン号、旅と言っても地球は私達の庭ですから。」
「庭が広すぎて、眺めて回るのに一苦労だがな。」
「こうして、みんなで夜空を眺めるのって、万里が中学生の時以来よね。」
「うん、あの時はペルセウス座流星群の条件が良くて、鹿丘の森の展望エリアが人で一杯だったな。
今夜の獅子座流星群も、あの時ぐらいになるのかしら。」
「姫さま、予測では、かなり期待出来そうなのです。
今日は天気が良くて、しかも、ここは明かりが殆ど無いですからね、船体を獅子座の見易い向きに固定してくれていますので、これから流れ星の数が増えて行くと思います。」
「ふと、思ったのですが、人工衛星からは流れ星、見えないのですよね。」
「ですね、大気圏に突入しての輝きですから。」
「宇宙旅行ってSFに出て来るワープとか実現しないと、本当に退屈しそうだな。」
「万里もそう思うでしょ、豪華客船の旅みたいに娯楽施設を充実させ、地上で暮らしているぐらいのレベルにしないと…、あっ、今の大きかったね。」
「流れ星の数が増えて来た、これは沢山お願いが出来そうだな。」
「今更、何をお願いするのです?」
「はは、みんなの健康ぐらいか。」
「お星さまにお願いして、災害が無くなれば良いのだけれど。」
「姫さまのお願いなら聞き届けて貰えるのでは有りませんか。」
「清香さん、そんなこと言ってると、裕くんに笑われますよ。」
「大丈夫です、三歳らしからぬ言動はしていますが私達の子なのですよ。
姫さまが、世界中の子ども達は世界中の大人が守るべき、地球市民の子だと、生まれたばかりの裕を抱いてお話し下さって…。」

流れ星を見ながらの話は、何時もとは違った雰囲気に、その流れから姫さまが歌って下さる…。

「あかいめだまの さそり♪  ひろげた鷲の つばさ♪  あをいめだまの 小いぬ♪ …♪」

宮沢賢治、星めぐりの歌がファルコン号に広がった。
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それから-03 [シトワイヤン-35]

地球防衛軍の規模は大きくなった。
各地で様々な活動をしているが、砂漠化を食い止め緑地を広げる事業は特に大規模。
様々な緑化実験が行われ、失敗することも有るが成果を出し始めている。
緑化事業で一番の問題は真水の確保、海水淡水化装置は莫大なコストが掛かるだけでなく多くのエネルギーを消費し環境に優しいとは言えない。
中東の自治領で進めて来た海水を流す水路、太陽熱を使った蒸留方式は、大規模な施設の割に生産される水は少ないが、使われていなかった土地を活用しランニングコストが低いので規模を拡大している。
今回は久しぶりの訪問。

「水路の本数が増えたし、荒れてた土地を緑に覆われ随分変わったな。
裕くん、ここはね。」
「うん、姫さまが平和にしてから、うんと変わったのでしょ。
海の水はしょっぱくて飲んじゃいけないんだけど、あそこで、蒸留してるんだね。」
「あら、裕くんは難しいこと知っているのね、私に教えてくれるかしら。」
「えっとね、空気中では水が目に見えない気体となって…、何てことは姫さまはご存じだよね。」
「そうね、不思議でしょ、裕くんは空気の中に目に見えない水が有って、暑いと沢山…。」
「うん、飽和水蒸気量は気温によって変わるんだよね。
目に見えない事なんだけど、教えて貰うと、へ~、って感じ、同じ温度の水を入れたコップでも、気温や湿度によって周りに水滴が付いたり付かなかったり。」
「ふふ、ちゃんと教えて貰ってるのね。
でも水蒸気の話は難しく無かった?」
「そうだね、お父さんは目に見えない水の入るコップが空気中に有って、そのコップの大きさは気温によって変わるって教えてくれたよ。
コップ一杯になったのが飽和水蒸気量、冷やすとコップが小さくなるから水蒸気がこぼれて水滴になるんだって、温度計や湿度計、氷水を使ったりして色々試したんだ。」
「へ~、裕くんは研究したのね。」
「ここはお水がとても貴重なんだって、苗川みたいに綺麗な水が流れている所とは大違い。
下の水路でやってるのは原始的だけど、燃料をあまり使わないから悪くないんだって。
明日は見学させて貰えるんだ。」
「そっか、しっかり見学して、改良を考えてみてね。」
「うん、お父さんと一緒にね。
明日はうんとしょっぱい池でも遊ぶんだ。」
「浮力の実験なのかしら?」
「そうだよ、ファルコン号が空に浮かんでいるのと、原理は同じなんだって。
まだ泳ぐの上手じゃないから楽しみだな。
姫さまは降りないの?」
「私が降りると色々大変なの。」
「そうだったね、みんな姫さまのことが大好きだから…、あっ、大勢の人がファルコン号を見てる。
手を振ったら気付いてくれるかな?」
「そうね、隼の登場を期待して見えるかもしれない、裕くんは手を振ってあげてね、私は隼斗を連れて来て飛ばすから。」
「うん、船長にお願いして、もう少し低くして貰おうか。」
「ええ、お願いしておいて。
ジェニファー、裕くんをお願いね。」
「はい、姫さま。」
「ジェニファー、早く早く…。」
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それから-04 [シトワイヤン-35]

「和馬さん、今日は裕くんと飽和水蒸気量の話とかしましたが、英才教育をしているのですか?」
「いえ、そういうつもりは無かったのですが、難しい話をしても理解している様なので、つい踏み込んで教えてしまうのです。
船のクルーやサポートスタッフ達も裕の知的好奇心を満たしてくれていますし、日本語と英語をきちんと使い分けていますでしょう。
英語で教えられた事は英語で考え、日本語で教えられた事は日本語で考えてるみたいなのです。
最近になって、お腹の中にいた頃の話をしてくれたのですが、ずっと姫さまを感じていたそうで、言語ではなく抽象的なイメージとして色々受け止めていて、驚くべき事に清香のお腹の中にいる頃から彼の学習が始まっていたみたいです。」
「えっ、それって普通の事ではないのですか?」
「えっ、姫さまもそうだったのですか?」
「ええ、姉は私が母のお腹の中にいた頃から、沢山話しかけてくれたのですよ。
母は、そんな姉を優しく見守っていました。
だから安心して生まれて来られたのです。」
「胎内記憶は本当の記憶かどうか微妙だと考える学者もいるのですが、裕がもう少し大きくなると忘れて行くものだと理解していました。」
「私は結構覚えていて、姉や母がその頃の話をしてくれると視覚情報の無い中で感じた事を思い出します。」
「裕の事を天才児だという人がいますが、姫さまから見て如何です?」
「中学生でも理解に苦しむ事を把握していますから、そうかも知れません、先天的遺伝的な要素は間違いないですものね。」
「清香は、私達がずっと姫さまと共に過ごして来たからだと話しています。」
「どうでしょうか、それより今後の教育方針とかは?」
「しばらくは成り行きに任せようかと、子ども達に接する大人は皆、子どもにとって何が必要なのか考えてくれています。
そこに問題を感じていません、ただ、いずれ良き友人を得られる環境を考えたいとは思っています。
能力がずば抜けて高い子に対する教育、日本は遅れていましたが特別プログラムを組める環境が整って来ています。
本当に力が有ったら、制度上は日本でも九歳で大学卒業が可能になると聞いています。
まあ、急ぐ必要は無いのですが、幼くても興味を持った分野を追求するというのは有りだと考えています。」
「そうですね、素直で素敵な子のまま大きくなって欲しいです。
私をお嫁さんにしてくれるそうですし。」
「えっ、そんな事、言ってましたか。」
「ふふ、今までで裕くんだけです、正式にプロポーズしてくれたら真面目に考えますよ。」
「はぁ…、まだ三歳なのですが…。」
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それから-05 [シトワイヤン-35]

平和になっても災害は無くならない。
地球防衛軍が災害対策を行ってはいるが、被害を無くす事は不可能だ。
ただ、災害が発生した所では、災害前より安全で暮らし易い環境整備を災害復興の目標とし取り組んでいる。
災害によって過疎化が進むのではなく、災害に強い町にし移住者を受け入れ活性化を図る。
被災地の中には思い切った土地区画整理事業を進め、海外からの移住者も受け入れ人口を増やし続けている地域も。
過疎化の問題は土地所有者が原因になっている場合も有る、土地を持っていても放置している人、農業に興味が有っても土地を持っていない人がいる訳で。
そこを被災を切っ掛けに土地の有効利用を働き掛け、仲介、斡旋し援助、耕作放棄地を蘇らせている。
これらは大銀河帝国の資金を集中投資する事で可能に。
漠然と投資するより、被災地への集中投資は効果的、不幸を乗り越え新しい町が幾つも出来つつ有る。
今は姫さまの祝福を感じた事のある人ばかりなので、区画整理が進め易くなった。
その過程では危険な崖を災害で崩れる前に崩してしまうことも。
利用出来る土地が狭くなっても安全を優先と考えての事。
そんな東北地方のエリアをファルコン号から視察。

「まだまだ工事中なのですね。」
「はい、河川の改修など、大規模工事はどうしても工期が長くなります。
外国人労働者の研修も並行して行っていますので、その分工期に余裕を持たせていることも有りますが。」
「かつて、外国人労働者の労働環境が問題になりましたが、改善されているのでしょうか?」
「外国人と言っても大銀河帝国の国民ですからね。
子ども達の教育を含め、日本を好きになって貰える様な環境を整えています。
自分達が復興に関わっている土地に愛着を感じ、環境を気に入った定住希望の人にはその支援もしています。
強制はしていませんが、希望者には日本語教育も。
過疎化が進んでいたエリアですので、被災前より活気が出ているそうです。
国際都市ならぬ、国際農村を目指すとか。
以前は生活習慣の違いが問題になりましたが、国別の居住地ではその国の習慣で生活して貰っています。
長期滞在や定住希望者には、その子ども達が日本で無理なく暮らして行ける様に、日本人の考え方や生活習慣を教え、多国籍居住地へ移動したり日本人と同じエリアで暮らす取り組みもしています。」
「経済面は如何です?」
「経験と実力によって日本人と同等の賃金を支払ってます。
買い物は復興に合わせて帝国主導でオープンさせた商店を使ってくれていますので、そこで有る程度回収しています。
本国に送金している人も多いですが、それも世界的経済格差是正に向けた取り組みに貢献している訳で、まあ、大銀河帝国内でお金が回っているという事です。
日本人と違って貯蓄に熱心ではないので、お金が勢い良く回っていますよ。」
「宵越しの金は持たないみたいな?」
「そこまででは有りませんが、内需拡大に貢献してくれてると思います。
以前の様な、単なる低賃金労働者としての扱いでは有りませんので。」
「あの頃はニュースに触れると、日本人としてとても恥ずかしい気持ちになりました。
外国から来て頂いて研修という名目で安くこき使う日本人。
ろくな技術も身に付かないないまま働かされていた技能実習生の方には、申し訳ない気持ちに。」
「でしたね、でも今は同じ地球市民として尊重されています。
研修をしっかり行い、二年で帰国する予定の人が帰国後、母国でその技術を生かせる様にバックアップをしています。
ひどい事をしていた頃でも、日本にはそれぐらいの事を出来る力は有った筈なのですが。
今は市民政党若葉が政権を維持していますので、政府も協力的です。
姫さまのお蔭で、日本人として恥ずかしくない日本、胸を張れる日本になりました。」
「でも、国籍は大銀河帝国にしたのですね。」
「はは、まあ思い通りの結婚をしたかったですし、心は日本人の大銀河帝国人ですよ。」
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それから-06 [シトワイヤン-35]

姫さまを中心とした大銀河帝国が拡大するにつれ、大きく変わった事の一つが宗教。
地球の長い歴史の中で、舞姫さまの様な存在は皆無だ。
たとえ釈迦やキリストの時代に情報網が発達していたとしても、そう、キリストは磔刑されたのだから、姫さまとは根本的に違う。
大銀河帝国は他者を傷つけない限り宗教を否定せず尊重して来た。
国民達は姫さまに忠誠を誓い慕いつつ、それまでの信仰と向かい合う。
姫さまの存在については宗教家によって様々な解釈が試みられたが、彼らが信じて来た神の定義に当てはまる訳もなく、姫さまに忠誠を誓う者にとって、それは無意味な作業でしかなかった。
結局の所、伝統的文化として尊重するが、それに縛られないという形が浸透。
それでも文化遺産として偶像は軽んじられる事無く大切にされている。
姫さまは舞の舞台として宗教関係の世界遺産を選ばれる事も。
そんな時は姫さま自らその歴史的背景を語られ、今の社会は多くの先人達の血と汗と涙によって築かれたもので有り、祖先に思いをはせ、感謝の気持ちを持って、この地を使わせて頂きましたと。
かつて宗教間では様々な対立が有ったが、我々はそれを過去を怨念として引きずるのではなく、今、舞姫さまと共に在ることを感謝し…、そう、宗教団体とは名乗っていないが、大銀河帝国は事実上世界最大の宗教組織とも言えるのだ。

「神の如き存在で有る舞姫さまは、神という抽象的概念に対して大きな影響を与えていますね。」
「だな、何故か世界各地に神と呼ばれる存在が宗教上の存在として伝承されている。
地域によって大きく異なる様々な神が世界中で崇められて来たのだから、古代には姫さまの様な存在がいたのかもな。」
「人間を神格化したのか、人間とは全く別の存在だったのか、大昔に作られた神話の世界はほとんど創作なのか、ほんの少しの事実を誇張したのか全く分からないです。
でも、姫さまは人の子として生まれ育ち、その過程を世界中の人が知っています。
それが将来的にも、神話のような怪しげな伝承ではなく、正しく伝えられたらと思うのです。」
「清香は、今の体制では不十分だと思うのか?」
「たまに、誇張された表現を目にしません?」
「う~ん、確かにな、姫さまは特殊な存在だからやむを得ないとも思うのだが。」
「神の如き存在ですが…、最近、裕といる時間が長くなっています。」
「姫さまの発言を気にしてるのか?」
「今は三歳児でもいずれは大人に、姫さまは智里にはまだまだ届かないものの、身長が今も少しずつ伸びていらして、常人とは身体成長の速度が大きく違うみたい、という事で裕との年齢差をあまり気にしておられないのかも知れません。」
「結婚相手としてか?」
「ええ、裕が天才の部類に属する事は証明されつつ有ります。
まだ先の事で何とも言えませんが、もしそうなった時に、姫さまは人間なんだと思って貰えていた方がスムーズに行くのではないかと。」
「そうだな、相手が裕で無くとも姫さま自身の幸せを私達は後押ししないと。
しかしだな、神の如き存在が息子の嫁になったら…、清香、どうする?」
「え~と…、嫁と姑の諍いのない様に…。」
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それから-07 [シトワイヤン-35]

久しぶりに苗川へ帰還、今回はファルコン号で。
しばらく上空から町の様子を眺める。
エリア毎に統一感の在る街並みは観光客にも人気。
電柱はなくすっきりしていて、宿場町をイメージしたエリア以外は日本とは思えない佇まいになっている。
姫さまが滞在していなくとも、姫さまの生まれ育った町として、また苗川大改造の成果を見る為に観光客が途絶えることは無いが、今日は姫さまが長旅から帰られると有って特に多いそうだ。

「こうして空から見てると、苗川大改造にドキドキしてた頃を思い出すわね。」
「だな、ホントに実験的な取り組みで、本間さんでなければ実現出来なかった。
国内外からの移住者を受け入れ、周辺の自治体も含めたエリアの活性化に成功している。
自分達も僅かながらに関わらせて頂いたことを誇りに思うよ。
ここをモデルにして改造計画を立ててる町が世界中に有るのだからな。」
「地方への本社移転、その先駆けとなった事も大きいのよね。」
「ああ、それが、東京から日本中の地方都市へ本社移転を促進させ地方の活性化に繋がっている。
元々東京に本社を置く必要は無かったのに、少しばかりの理由を付けて東京一極集中、地方が衰退して行ったのは、企業人の姿勢に依る所が大きかった。
地球市民党、姫さまの登場で市民の意識が変わり、地方都市に活気が戻ったと言えるね。
東京の交通事情も幾分混雑が緩和されたと聞いている。」
「過疎地への本社移転も聞いたわ、何でも大した用も無いのに訪問して来る人がいなくなって、効率が上がっているのだとか。
自然の好きな社員、満員電車から解放されたかった社員が、率先して動いた結果で、不便な所では有るけど、社員が移住し店が増え町が綺麗になって行く、そして広い家に皆さん満足してるそうよ。」
「土地の価格が全く違うからな、今時、通信回線さえ有れば、本社は何処に有っても問題ない、俺たちは地球の裏側から指示を出し報告を受けていたのだからね。
確かに気軽に会えない状態はデメリットかも知れないけど、会社関係の来客に時間を使う事がなかったのは思っていたより大きなメリットだったのかもな。」
「過密状態の東京を考え、地方都市の衰退を考えたら普通に実行出来た筈、それでも苗川というお手本がなかったら踏み切れなかったのよね。」
「市民の意識改革が進んだ結果でも有るな。
私達に関係する企業の一部は、大銀河帝国の自治領に本社を移したが問題なく機能している。
今の日本に税収の心配は要らないからな。
ただ今後は、今の好景気を如何に持続させて行くかだ。」
「ふふ、和馬を総理大臣にしてと画策してた人達はがっかりしてるでしょうね。」
「総理大臣なんかになってしまったら、折角どさくさに紛れて掴んだ姫さまの側近という地位を失ってしまうし、日本で一夫多妻は認められないからな。
自由気ままにファルコン号で姫さまと旅、これに勝る生活はないだろ。」
「地上の全てが私達の庭ですものね、行って無いのは南極と北極ぐらいかしら。」
「そうだな…、姫さまはペンギンと遊んでみたいと仰っていた、検討してみるか。」
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それから-08 [シトワイヤン-35]

久しぶりの苗川、私達は本間さんを訪ねた。

「市長を退かれて如何です?」
「適度に遊びながら、若者たちと交流しているよ。
同年代と話してるより元気になれるからね。」
「本間塾の塾生ですか?」
「ああ、経済環境が大きく変わったので、政治経済への口出しをやめたが、教育関連はね。
教育改革は進んでいるが、まだまだ検討課題が山積みなんだ。
で、お主の子ども達はどうしてる?」
「今は姫さまの館で遊んでます。
旅立つ前とはすっかり変わってますので、探検気分みたいですね。」
「はは、聞いたよ、迷路みたいになってるのだろ。
トイレから広間に戻るのに苦労したという話を聞いたぞ。」
「行きに苦労させるのは酷ですので、帰り道に仕掛けが有るのです、来た廊下を戻ってるつもりが知らぬ間に全然違う所へ、私もやられましたよ。
今は何階建てなのかで意見が分かれているそうで、二階とするか中二階とするか微妙な所が…、そんなのがあちらこちらに有りましてね。
表から見た感じは五階建てぐらいなのですが裏は斜面を下に伸びてますし、地下室も結構な規模になっていまして。
今は案内なしで回る気にはなれません。
姫さまはそれを楽しんでおられるのですが。」
「姫さまが喜んでおられるのなら問題ないな。
で、四歳の息子とはどうなんだ?」
「仲良くやってまして、姫さまは本間さん同様、教育を考えておられます。
私達が、ずっと姫さまと共に旅をしていた御蔭か、どの子も知性が高くて、教えられた事をどんどん吸収、スタッフからも様々な事を教えて貰っています。
姫さまが、長男に関してどれぐらい本気なのか冗談なのか分かりませんが、将来夫となるかも知れないと、教育方針の相談を私達とも。」
「その可能性はあるのか?」
「姫さまは不思議な人ですので…。」
「何にしても久しぶりに会いたいね、裕くんだったかな、私は天才児と呼ばれている子の教育にも関わっているんだ。」
「お願いします、苗川大改造に関する本間さんの著書は、しばらく前に愛華に手伝って貰って読んでいましたので。」
「清香くんの子ではなかったのかな?」
「関係ないです、私達は誰のお腹から出て来たかに関係なく接しています。
智里の子を清香があやしている時に、智里が愛華の子と遊んでる何てことは日常で、私達は大家族なんです、そこにスタッフ達も加わってくれていますので。」
「そうか、核家族とは真逆なのだな、プラス面を感じているのか?」
「はい、うちの子達は沢山の愛情によって育てられていまして、母親が仕事をしていても子ども達は誰かが面倒を見ています。
生まれた時からの事ですので、私の子には一応二人の母親がいると教えていますが、あまり意味は有りません。」
「智里の子もとなると、血縁だけでない大家族という事かな。」
「ええ、智里の旦那は子をあやすのが得意で、私の膝の上より彼の膝の方が人気だったりします。
裕は、自分を幼児だとは思っていませんので三歳で卒業しましたが。」
「そうか…。」
「日本でも大家族が良い形で復活すればと思います、世界を周ってみて結構自然な形だと思えました。
喧嘩をすることは有っても子ども同士協力し合い、複数の大人と接しながら成長する。
日本の核家族化は仕事に疲れた大人達が進めたのでは無いでしょうか。」
「う~ん、心に余裕がなかったのかな…。」
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それから-09 [シトワイヤン-35]

今回の苗川滞在中、大銀河帝国建国記念日を中心に開かれる祭のメインイベントとして姫さまの舞が披露される。
このところDVDの撮影は観客に見せない形で行って来たが、久しぶりに観客の前で舞って頂く。
会場は一万人収容のホール、チケットを全席オークション形式で販売した結果、一兆円を超す売上となった。
一席平均一億円以上、それだけの対価を払える人が、この日の為に世界中から苗川へ。
世界中でライブビューイングが行われる予定も有り、視聴時間が現地時間の深夜にも関わらず前売り券完売という話が幾つも届いている。
そちらのチケットは世界共通で二十根、二十ドルで有り、二十ユーロ、二千円。
これらの利益は地球防衛軍がアフリカで進めている活動に充てられる為、世界中どの国でも非課税となった。

「ねえ大銀河帝国建国記念祭はもう始まっているの?」
「どうやら、お祭り好きの連中がフライング気味で始めているらしいな。
今回は、姫さまが世界中の国や地域を、北極と南極を残してほとんど訪れたという記念でも有る。
各国が地球市民の祝日として制定した地球平和の日を中心に一週間に渡る地球の歴史上最大規模のお祭り、地球市民の祭典は昨年もそれなりに大規模だったが、今年のメインは姫さまの舞だろ。
テレビで見るも良し、ライブビューイング会場で見るも良し。
それとは関係なく様々なイベントが世界中で企画されているのだから、まあフライングも許されるだろう。
細かいプログラムの主催者にとっては、祭りの正式スタートが何日だろうと関係ないからな。」
「人々がお祭り気分となる経済効果は計り知れないのよね。
貯蓄に余裕が有っても、それを使う切っ掛けの無かった人がお祭りに合わせて服を新調したり、姫さまグッズを揃えたり、思い思いのスタイルでパーティーを開いたり。」
「宗教的な約束事を作ってないから、それぞれが姫さまへの感謝の気持ちをどう表すかで競い合ってる節は有るが、どんな形であれ、その心が大切だと理解されている。
信仰して来た宗教の祭りをアレンジしたり全く新しいお祭りを模索したり、世界各地で様々だが、姫さまへの思いは世界共通だと思うよ。」
「苗川では神社のお祭りそのままなのよね、元々日本には八百万の神がいるのだけど…、姫さまの舞は神に捧げるものでなく、人々の為。
小学生の頃から世界平和を意識しておられたのが、現実に舞の力で実現するとはね。」
「姫さまがおられなかったら、今でも、あちこちで紛争が有り、貧富の差がどうしようもない状態のまま、人と人とが傷つけあっていたのだろうな。
自己の利益の為には他人を不幸にしても何とも思わない経営者が大勢いたし、その経営者達も皆が幸福だった訳でも無くね。」
「ええ、そこから世界が大きく変わり、これからアフリカ大改造が本格的に始まる。
私達が大学で出会った頃は、様々な社会問題と向き合い理想論とか話し合っていたけど、こんなに早くここまで変わるなんて思いもしてなかったわね。
アフリカの大自然を守りながら、人々の生活改善をして行くのには、まだ課題も多いけど。」
「まあ、どんな猛獣も姫さまには大人しく従っていたからな、百獣の王という称号はライオンから姫さまに変更、百獣の中に人間も含まれると言う事で間違いない。」
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それから-10 [シトワイヤン-35]

苗川での大銀河帝国建国記念祭のメインイベントは午前中に開幕した。
前座は世界のトップスター達、姫さまに捧げる歌や大銀河帝国を讃える演奏が続く。
前座のエンディングでは世界各地から祭りの映像が流され、そのBGMはWe Are the World。
古い曲だが、建国記念祭バージョンとして、英語で始まり途中から様々な言語に変わって行く。
映像に合わせ延々と歌い続けられる曲の録音には世界各国から多くのミュージシャンが参加してくれた。

「いよいよ姫さまの出番ね。」
「万里は、記念祭に向け、世界中の人達が万里の事を想って下さってるのを感じてると話していましたが…。」
「数十億の人達がこの瞬間を待ちわびていて、その想いが姫さまに届いてるとしたら、何時も以上に祝福を感じられるエリアは広がるのかもな。」

今回の舞台は至ってシンプル、黒一色の背景に姫さまの衣装が映える。
音は両手に持つ鈴のみ、静まり返った館内にシャンシャンと響き渡り、舞が始まる。
すぐに足は床を離れ空中での舞に。
照明が少しづつ落とされて行くのは、姫さまが光を放ち始めたから。
姫さまが自ら光を放っておられることは、照明やカメラとの打ち合わせの時にカメラマンが気付いた。
その時は周りが明るいと気付かれないレベルだったが、今の輝きは、数十億の視聴者から想いを受けとってか神々しく照明を必要としない。
我々はあえて、神の如き存在と呼んで来たが、神の定義とは何だろう。
姫さまを知るまで、空想上の存在として神を捉えて来た人も少なくないと思う。
姫さま自身は、人間だと話されるのだが。
舞は優雅に優美に輝きを増して行く。
姫さまの祝福は私達を愛情で包み込む
それは言葉でなく心の底に感じさせてくれるもの。
生まれ変わった地球市民を文字通り祝福して下さっている。
私の瞳からは喜びの涙が留めなく流れ落ちた。


そして…。

姫さまが静かに舞を終えられた瞬間から、世界中で奇跡の如き現象が…。



- 完 -
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