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鹿丘小学校-01 [シトワイヤン-16]

私は鈴木万里、苗川市立鹿丘小学校の六年生になったばかり。
今日は始業式だけど、今までの始業式とは大きく違う。
小学校に入学してから始めて転校生を迎えることになったのだ。
今までやった事のなかった、クラスでの自己紹介は少し新鮮だった。
先生の話が終わってから、隣の席になった転校生に話しかけてみる。

「あのね、私達のクラスが転校生を迎えるのは初めてなの、だから戸惑う事が有るかも知れないけど、えっと、仲間になって欲しいわ。」
「もちろんさ、鈴木さんよろしくね。」
「じゃあ、万里って呼んで、クラスには同姓が多いでしょ、だから誰も鈴木さんなんて呼ばないの、それで、翔太くんって呼んでも良いかな?」
「女子からそんな風に呼ばれたことないから少し照れるけど、俺としては早く馴染みたい、万里さん、色々教えてね。」
「ねえ、お父さんは男子ならクワガタの居場所とか教えて上げれば良い、とか話していたけど、そういうものなの?」
「あっ、そうか、キャンプに行った時、探しても全然見つからなかった、でも苗川で暮らせば…。」
「やはり、田舎暮らしに抵抗は有る?」
「そうでもない、住む所は普通に町、山が綺麗で何が不便なのかまだ分からないよ。」
「お姉ちゃんは電車の本数が少ないとか好きなシンガーのライブに行けないとか言ってるわ。」
「俺には関係ないかな。」
「あっ、そろそろ時間ね、運動場へ移動しましょ。」

運動場にみんなが集まって来ると、全校児童が二十一人も増えたことを実感する。
さて、私の出番だ。

「みんな班に分かれて、六年生は転校生がどの班になるのか確認してあげてね。」
「おう。」
知らない子は転校生だから…。
「えっと、君の名前は?」
「ほんだこうじ。」
「由里、本田浩二君はこの子よお願いね。」
「あらっ、可愛いわね、お姉さんちは近くだから一緒に帰ろうね。」
「うん。」

「万里、班の方は大丈夫そうだよ。」
「そうね、では…。
みんな~、ちょっと聞いてね~。」
「へえ、万里さんが仕切ってるんだ。」
「翔太君、万里は皆の頼れるお姉さんなんだよ。」
「斗真君は同学年だろ?」
「はは、たまに算数を教えて貰ってるかな。」
「なるほどね。」
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鹿丘小学校-02 [シトワイヤン-16]

みんなが落ち着いた所で。

「転校生の皆さん、この学校には卒業した先輩達が作った裏の校則、約束事が有ります。
簡単か難しいかは皆さん次第ですが、簡単に言えば『格好の良い子どもになろう』。
勘違いして欲しくないのは外見の格好良さではなく人としての格好良さです、詳しくは帰り道にでも六年生から聞いて下さい。
今日のみんなは始業式もきちんと出来て恰好良かったです、明日は新一年生と一緒だから、みんな格好良いお姉さんお兄さんになって下さいね。」
「は~い。」
「では、工事中の所も多いですので転校生の人達が危なくない様にお願いします、また明日元気な笑顔を見せて下さい。」

今日は班毎の集団下校、先生方も見守って下さるが、転校生や低学年の面倒は私達新六年生の担当。
すぐに校門を出る班が有れば、自己紹介をしている班も有る。
それぞれの班長が、それぞれの事情に合わせて考えている。
私の班は…。

「うちらは家まで近いから、少し寄り道するよ。」
「絵里姉、どこ行くの?」
「出来立ての公園で自己紹介、うちらの班は転校生が多いでしょ。」

「万里さんは班長ではないんだね。」
「翔太君、役割はみんなで分担なの、絵里と真一なら間違いないわ。
役割分担については明日の学級会でね。」
「そうか、俺は何も分からないが。」
「翔太君は転校して来た六年生の中では、一番堂々と話せる人みたい。
だから転校生達のリーダーになってみんなが私達と馴染める様にお願いしたいのだけど、どう?」
「そうだな、転校生達は兄弟がいないとみんな孤独かも知れない、でも、転校生だけで固まっては駄目だよな。」
「ええ、みんなのお兄さんになってあげてね。」
「オッケイ、万里さんは頼れるお姉さんだそうだから、俺も頼られる様に頑張るよ。」
「えっ、誰がそんなことを?」
「斗真君だよ。」
「斗真か…、少し頼りないけど、仲良くしてあげてね不器用な所が有るけど悪い奴じゃないから。」
「ああ、クワガタ捕りに連れて行って貰わないと行けないし。」
「もうそこまで、東京の男の子はしっかりしてるのね。」
「はは、酷い奴も少なからずいるよ、俺が特別ということでもないけど、少し事情が有ってね。」
「自覚してるんだ。」
「兄貴にね、少しハンディが有ってさ、自分がしっかりしないと弟達がね。
ちなみに都会では四人兄弟なんてレアなんだよ。」
「へー、苗川は大家族でも安心して暮らせる町を目指しているけど、四人兄弟はそんなにないわよ、うちは高校生の姉とあそこでよたよた歩いてる妹の三人姉妹なの。」
「妹も可愛いね。」
「う、うん…。」

も、って言った、言ったぞ、さりげなく、これが東京の男の子か…。
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鹿丘小学校-03 [シトワイヤン-16]

公園に着いて自己紹介、上手く話せない子のフォローは絵里がしてくれた。
それから分かれてお話やゲーム。
私は五六年生の転校生四人と。

「さっき話した『格好の良い子どもになろう』なんだけど、翔太君は何となく解るでしょ。」
「人をいじめる様な恰好の悪い奴にはなるなよってことかな?」
「ええ、そんなに難しい話ではないのよ、ただ鹿丘小学校に裏の校則が出来るまでの事は知っておいて欲しくてね、みんなは本間市長のこと知ってる?」
「親の会社の元社長というくらいかな、この四人ともそうなんだ。」
「そっか、お父さんとかが苗川オフィスで働いてみえるのね。
その本間市長が市長になられる随分前、いきなり大きな家を建てて苗川に越して見えた頃ね、お祭りに参加したいと申し出て下さったの。
父さん達は、大きな会社の社長さんだって知って戸惑ったそうよ。
でもね、苗川みたいな田舎の若者は高校を卒業すると都会へ出てしまい、伝統的なお祭りを続けるのが大変になっていてね、だからお願いすることにしたの。
本間市長とのお付き合いはそれからのことなんだけど、頼れるし優しい人で、お祭りのことはみんなで教えたけど、それ以上に色々なことを教えて頂いたそうよ。」
「うちの親父も尊敬しているんだ、色々整理して苗川への移住を決断したのは本間社長が市長になったからだと話してくれた。」
「そっか、やっぱし田舎への移住は気軽なことではないのね。
で、それから本間市長はあっと言う間にリーダー的存在になられて、苗川が変わり始めたの。」
「市長になる前に?」
「ええ、うんと前、市民政党若葉が立ち上がる前、お祭りの実行委員会を中心にね。」
「へー、でも変わると言っても工事が始まったのは、そこまで前ではないのでしょ?」
「変わり始めたのは大人達、町の問題に文句を言うだけだった人達が、市長になるうんと前の本間さんを中心に、えっと市民組織の改革を行ったの。」
「難しそうな話だね。」
「まず役所だけに頼らずに自分達の町を自分達の手で良くして行こうと考え始めた、それには役割分担が大切だし、それぞれリーダーが必要。
キーワードは意識改革なんだけど。」
「意識改革?」
「考え方を変えて行く、って感じかな、それまでは市役所にお任せだったり誰かがやるだろう、町の事でも自分には関係ない、と思っていた人達が、本間市長中心に、自分達の町をこのまま寂しくして行くのではなく活気有る町にして行こうってね。」
「そうか、町を変える、苗川大改造は、そう思う人が大勢いたから始まったと思っていたけど、もっと前から始まっていたんだね。」
「そういうこと、お祭りを若者中心に変えたら、それを切っ掛けに都会暮らしをやめて帰って来る人がいたりね。
『格好悪い大人を卒業しよう』というのが大人達の標語になったのはその頃、私は小さかったから実感なかったけど、お姉ちゃんは大人達が変わろうとしている、苗川を良くしようとしてるって感じたそうよ。」
「町中の人が?」
「始めはお祭りの実行委員会を中心に、そこから広がったのは、容姿も学歴も関係なく恰好良い大人になれるって皆が気付いたから。
そして苗川は日本で一番素敵な町を目指し始めたの。」
「うん、東京の大人とは全然違う、俺達は知らない大人には気を付けなさいと教えられて来たけど、知らないおじさんから『転校生だね、困ったことが有ったら手助けするよ。』って言われたし、なんだろ、表情が違うのかな、皆さん笑顔で。」
「ふふ、私には当たり前のことだから分からないけど、格好の良い大人達が、苗川を日本で一番素敵な町にしようとしているのだから、子どもが『格好の良い子どもになろう』は当たり前でしょ。
大人に言われて始めたのではなく、お姉ちゃん達が小学生の頃に始めたこと、そのまま中学校でも裏の校則に、ちなみに中学生の学力が、この裏校則が出来てからじわじわ上がってるのだって。
勉強しなさいという親が減ってるのにね。」
「そうか、勉強しなさいというだけの親は恰好悪いもんな、前のクラスの奴らがぼやいていた。」
「翔太君のご両親はそういう人では無いの?」
「まあ、そういう人では無かったから移住を決意したのさ。
俺が苗川でどんな人と出会い、どう成長するか楽しみなんだって、素敵な大人に成れればそれで良いって、親父は苗川の人達が格好良い大人を目指してる事を知ってたんだな。」
「翔太君のお父さんは、どんなお父さんなの?」
「もちろん、男として格好良いよ、だから母さんが惚れたんだ。」
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鹿丘小学校-04 [シトワイヤン-16]

翌日の学級会、翔太君には転校生のまとめ役に、他の転校生もそれぞれ体験的に担当を持って貰うことが決まった。
六年生は全員が何かしらの担当を持つのが私達の方針、でも担当したのが思っていたのと違ったら交代しても構わない。
これは転校生を迎える事が分かった時にみんなで話し合って決めた。
転校生が負担に感じない事が大切、問題が有っても格好の良いクラスメイトが助けるので大丈夫。
学級会後の休み時間は翔太君と。

「ねえ、翔太君は宿題やらないのって恰好悪いと思う?」
「まあ、良くは無いだろう。」
「でも宿題やらなくてもテストで百点だったら?」
「そう来たか、そうなると宿題の内容にもよるのかな、先生の立場もあるだろうし。」
「先生の立場だけで、私はしなくても良い様な宿題をしなきゃいけないの?」
「えっと…、個人差が有る…、宿題は全員一緒ってことで先生としては平等にしてるのだろ。」
「私なら五分で終わる宿題に三十分掛かってる子もいるわよ、それって平等?」
「う~ん…。」
「そもそも宿題って何の為に有るの?」
「あまり考えて無かったな。」
「翔太君は宿題を真面目にやる人?」
「ああ、大した量じゃなかったし、授業中の暇つぶしにやることも。
万里さんはやらない派なの?」
「まさか、そんな恰好の悪い子ではないわよ。」
「えっ、今までの話は?」
「ふふ、翔太君の前の学校では、先生達と宿題の相談をすること有った?」
「もちろん無かったよ、それ以前に先生は忙しそうにしてたからあまり話すことは無かったな。」
「鹿丘小学校はね、学校改革の一環で色々試しているの。」
「先生と一緒に?」
「ええ、本間市長が話に加わって下さる事も有るのよ。」
「へ~。」
「本間市長は、コミュニケーション能力や教える力が大切だと考えて見えてね。
「コミュニケーション能力って?」
「翔太君が得意な、人と対話する力かな、初日から積極的に話しかけていたでしょ。」
「まあね。」
「私達が五年生から取り組んできたのは、きちんとコミュニケーションを取りながら教え合うという授業なの。」
「子ども同士で?」
「ええ、個人個人の学習効率を考えながら、宿題は相談して個別に決めることも有るのよ。
必要な宿題を多過ぎない様にね
転校生が一番戸惑うことかも知れないからよろしくね。」
「うん、全然分かってないけど、少なくとも前の学校より退屈し無さそうだ。
まずは詳しく教えて貰う必要が有りそうだね。」
「私達としても、そうね日本の首都東京がどんな感じなのか教えて欲しいわ、どんな町なのか。」
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鹿丘小学校-05 [シトワイヤン-16]

翔太君は第一印象通り頭の良い人で、戸惑ってる転校生の手助けをしながら、クラスに溶け込み、私達には分からない、他の小学校との違いを指摘してくれる。
彼は口癖の様に鹿丘小学校は最高だと話すから、みんなも嬉しくて、転校生を迎えたクラスがまとまるのに時間は掛からなかった。

「翔太君が鹿丘小学校を褒めるのって少し大袈裟じゃない?」
「大袈裟じゃないさ、小さな喧嘩は有ってもいじめはないだろ?」
「えっ、いじめ?」
「五年生の優香ちゃんは前の学校で辛い目に遭ってたそうだよ。」
「少し暗い表情をしていたのはそのせいだったの?」
「うん、今のクラスに馴染んで明るくなったね、って話し掛けたら告白してくれたんだ、不登校になっていたからお父さんが移住を決意されたとか。」
「いじめってお話の世界のことだと思ってた…。」
「だろうな、悩み無さそうだし。」
「それって、私を馬鹿にしてない?」
「悩みが無いのが一番だよ。」
「翔太君には悩みが有るの?」
「はは、鹿丘小学校の一員になってスッキリしたかな。
まあ、引っ掛かっているのは、いまだに万里さんが俺の事を君付けってこと、みんなは翔太って呼んでくれるのに。」
「えっ、何となく…。」
「転校生組も呼び捨てにしてくれよ。」
「御免なさい、転校生という新鮮さを味わっていたけど、もう同じクラスの仲間だものね。
えっと、翔太の前の学校ではどうだったの?」
「小さなグループでは気軽に話していたけど、全然話さない人が少なからずいたし、他の学年の子と話すのは弟の友達ぐらい、鹿丘小学校みたいに全校児童を縦割りにして交流ということに先生は積極的ではなかったよ。」
「ふふ、弟さん達は率先して動いてくれて助かったわ。」
「はは、あいつら素敵なお姉さんに構って貰えて喜んでいたよ、うちは男ばかりだからね。」
「そっか、四年生の圭太君はお兄さん役もこなしてくれたの、兄の指導の成果かしら?」
「いや、転校したからだと思う、俺達は学校に来るのが楽しくてね、兄弟の話題も学校のことばかりになってる、自分から取り組む学習が多いだろ、そこで色々な発見が有る、前の学校は先生のつまんない話を聞かされるだけの時間が長かったんだ、俺達にとってね。」
「本間市長が聞いたら大喜びしそうな話だわ。
日本で一番素敵な町に素敵な小学校、実感はあまり無いのだけどね。」
「まあ、万里は恰好良いのが当たり前になってるからな。
でも…、東京の学校に転校したらいじめられると思うよ。」
「えっ、どうして?」
「可愛くて真面目だけど都会のことは知らない、嫉妬心や田舎を馬鹿にする気持ちとか奴らはマイナスの感情を色々持っているのさ。」
「そ、そんなに怖いの?」
「ああ、他の学校の事は分からないけど、少なくとも前の学校には戻りたくないんだ。」

翔太君…、翔太にも何か有ったのかも…、でも可愛いって、私のこと…、東京の男子って誰にでも可愛いって言うのかな…。
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鹿丘小学校-06 [シトワイヤン-16]

六月、本間市長が小学校を訪ねて下さった。
六年生の教室で。

「四月に転校して来た人達は学校に慣れましたか?」
「はい、すっかり鹿丘の子です、だよね。」
翔太の言葉に転校生達は頷いた。
「教え合ったりの授業に戸惑いはなかった?」
「はい、クラスの仲間が色々教えてくれて、新鮮で楽しいです。」
「前の学校との学力差とか感じてる?」
「いえ、そんなには、ただ鹿丘の子達は、前の学校の子より大人だと感じさせる人が多いです。
みんな下級生に優しい、だから優しくされてる下級生も下の子達に優しい。
苗川を日本で一番素敵な町にしよう、という話を聞きましたが、鹿丘小学校は日本で一番素敵な小学校です、誰にも比べられることでは有りませんので、自分達の小学校が世界で一番素敵だと言ったとしても、言った者勝ちです。」
「はは、確かにそうだな、私も今日から苗川は世界で一番素敵な町だと断言するよ。
誰にも文句は言わせない、こんなに素敵な子ども達が暮らす町なのだからね。」
「世界で一番格好良い市長のいる苗川市です。」
「はは、万里ちゃんにそう言われると困ってしまうな。」
「本間市長、使って無かった教室の改修だけでなく新しい校舎が建つのですね。」
「ああ、次は夏休み明けに転校生が来ることになるし、この先増える予定しかないからな、よろしく頼むよ、鹿丘小学校の良さを失わないまま、まずは各学年二クラスにね。」
「これからが本当の試練なのですね、みんな大丈夫よね。」
「翔太達はすぐ仲間になってくれた、二三年のクラスで少しトラブったけどもう落ち着いてます、本間市長、任せて下さい。」
「おお、頼もしいね、教師も増やすが、まだどんな人か分からないんだ、格好の悪い大人だったら早めに教えてくれな。」
「市長に教える前に、意識改革を試みます、それで駄目だったらですね。」
「その辺りは万里ちゃんに任せるよ。
それでだな、鹿丘小学校をちょっと自慢したくてね。
今度テレビ番組で取り上げて貰おうと思っているんだ。
代表四人ぐらいに出て貰うことを考えているのだけど、一人は万里ちゃんで構わないか?」
「万里を外したら駄目です、他の三人はどういう人が良いのですか?」
「男女二人づつと考えていて特に条件は考えていない。」
「なら、一人は翔太です、転校生の話も必要ですよね、うちの男子はみんな良い奴なんだけど、テレビ的に鹿丘小学校の良さをアピールするには彼が適任です。」
「私は、絵里と真一を推薦します、二人には算数を教えて貰ったりしていますので。」
「仲良し幼馴染コンビだったね、他の人はどう?」
「難しい話でも、その四人なら大丈夫よね、ね、みんな。」

締めくくりは由里がしてくれ、テレビ出演メンバーが決まった。
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鹿丘小学校-07 [シトワイヤン-16]

テレビの打ち合わせは本間市長の家で。
四人でお邪魔する。

「こんにちわ~、あっ、愛華さんもいらしてたのですね。」
「ええ、万里ちゃんと絵里ちゃんに会いにね、二人とも少し見ない内に一段と可愛くなったわ。
鹿丘小学校の報告は時々見てるのよ、転校生とも仲良くなれて良かったわね。
まず衣装の準備をするから、二階へ行きましょう、御免、スタッフが待ってるから男の子たちは後でね。」
「愛華さん、衣装って?」
「何着か用意したのを着てみて欲しいの、採寸もするけどね。
今回のテーマは理知的な美少女を引き立たせ、ちょっぴり大人を感じさせる。
女子中学生をターゲットに販売を考えてるのよ、売れても売れなくても鹿丘小学校に寄付をするから、モデル、お願いね。」
「愛華さん、そんな話し聞いてませんよ。」
「難しく考えなくて良いのよ、衣装を着ていつも通りにしていてくれれば良いのだから。
ただ、モデルの契約がどんなだか知りたくない?」
「万里、愛華さんずるいよね、私達が好奇心の塊だって知っててさ。」
「ふふ、こんな大人にはなりたくないよね?」
「愛華さんみたいな素敵な女性になりたいです!」
「その言葉に恥ずかしく無いよう気を付けるわ、じゃあ後はスタッフの指示に従ってね。」

何着か試着し写真を撮られ、髪は撮影当日まで切らないで欲しいとお願いされる。
終わって一階へ降りると男子は簡単に済んだそうで、翔太が転校がらみの話をしていた。

「鹿丘小の意識改革は戸惑わなかった?」
「そうでも無かったです、意識の高い子達は先生からも大人扱いされていて、大きな声では言えませんが大人と子どもが同じクラスで学んでいる様なもの、前の学校でも学力差が有りましたが、更に人間的に大きい人がいて、でも、みんなその差を受け入れて仲良くしています。」
「そういったことも、番組で紹介して行きたいと思っているのだよ。
さて、女の子達も降りて来たから、打ち合わせを始めよう。
今から四十分ぐらい話し合って休憩で良いかな?」
「はい。」
「番組では、今の鹿丘小を紹介、柱になるのは『教える』という学習の意味と『格好良く』が中心になるが、これから転校して来る子の親を意識している。
テレビでの放映時間は十五分程度だけど、それを気にせず話して欲しい。
なんなら途中に休憩を入れるからね。
編集したのを番組で、あまり編集しないのを、市民政党若葉のサイトで閲覧出来る様にする。
それで、大まかな分担と全体の流れなんだが…。」

四十分間しっかり集中して意見を出し合い準備した。
前半は、絵里が主に学習面の話、私が意識改革中心の話、翔太が転校生として、真一が転校生を迎える側として考えたことを中心に、後半は具体的な事例を紹介しながら話を進める。
進行は司会者に任せるが要所要所は本間市長が仕切るということなので安心して話せる。
絵里と私は普段から大人達と話してることだけど、翔太と真一は違う立場からどう伝えるか更に打ち合わせをすることになった。
そして昼食には愛華さんも同席。

「ふふ、話し合いの様子を見てると子ども離れしてるのに、おいしい料理を前にすると普通のお子様なのね。」
「え~、私は普通の子どもですよ。」
「おいおい、一番小学生離れしてる万里が言うなよな。」
「え~、身長だけは中学生並みの真一に言われたくな~い。」
「はは、万里は十万十二歳になったばかりの苗川のアイドルだとか、うちの職員が話してたが、実の所どうなんだ?」
「もう、市長まで…、私は普通の小学生ですよ、お父さんやお母さんに甘えることも有るし。」
「万里がお父さんにおねだりして買って貰うのって、何か違うのね、無意識に大人びたのを選んでるの?」
「えっ、絵里、そうかな…、う~んお姉ちゃんに影響されてるのかも…、でも今更…、お姉ちゃんからは合格点を貰ってるし。」
「万里ちゃんのお姉さんは高校生だったわね、歳の離れた姉妹ってどうなのかしら?」
「愛華さん、お姉ちゃん達が『格好の良い子どもになろう』を始めたのですよ。
今は本人曰く反抗期だそうで、両親とはあまり話さなくなっていますが、私のことはずっと、母は私を育てたのは姉だと言うぐらい大切に可愛がってくれる大好きな姉なのです。」
「へ~、それなら市長も、彼女のお姉さんの事はご存じなのです?」
「はは、ご存じも何も私のブレーンの一人だよ、女子高生でもうちの職員は頭が上がらなかったりするぐらいのね。
彼女達が構築中の高校生組織はすでに影響力を持ち始めているんだ。」
「本間さん、それは初耳です。」
「彼女が高校生になってまだ三か月ぐらいだからね、我々の意識改革が洗脳や宗教と間違われない様に動いてくれてるよ。」
「『格好の良い子どもになろう』で育った子達が次のステップに向かっているという事ですか?」
「ああ、市民の意識改革はこれからの移住者を迎えてからが本番とも言えるからな。
まあ、頼もしい小学生達が一市民として支えてくれているから大丈夫だけど。」
「一市民ですか、本間市長が万里ちゃん達を子ども扱いしないから、子ども達が人間的に大きく育っているのですね。」
「まあ、安心して大人扱い出来る子は多くないのだが、その力、影響力はとても大きいんだよ。」
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鹿丘小学校-08 [シトワイヤン-16]

撮影当日。

「少し緊張して来た、大丈夫だよな。」
「翔太、ビビってるの?」
「絵里は緊張しないのか?」
「そうね、話す内容は普段から大人相手に話してる事だし、真一が一緒だからね。」
「そこまで頼れる存在なのか、真一は。」
「少し違うかな、真一は近くにいてくれるだけで良いの、真一が見ていてくれれば何だって自信を持ってやれるわ。」
「もし、いなかったら?」
「去年、絵里がお祭りの舞台で真一を見失った時はやばかったのよ、フォローしきれないぐらいにね。」
「あれは仕方なかったのよ、真一の近くに転んで怪我して泣き出す迷子がいたそうで、そんな子を無視する様な真一じゃないでしょ。
私はそんな事情分からなかったから、真一が遠くへ行っちゃったのかと思って…。」
「かなり仲良しなのに、みんながからかったりしないのは仲良しのレベルが違うからなのか?」
「家が近いし、少し事情が有ってね。
まあ、翔太と万里の関係とは一緒に過ごして来た時間が違うのよ。」
「そうなのか…。」

おいおい、絵里ったら、翔太と万里の関係なんて軽々しく言ってくれて…。
表向きは仲良し幼馴染コンビという事になっている二人。
その少しの事情を知った三年生の私は沢山泣いた、親とも沢山話した、そしてちょっぴり成長した私は絵里達とそれまで以上に仲良くなったのだ。
そんな話をしている内に時間となる。
撮影は簡単な紹介の後、本題に。

「では鹿丘小学校の授業について教えて下さいね。
まずは、教え合う授業なのだけど、絵里さん、お願い出来ますか?」
「はい、まだ始まって三年目なのですが、他の小学校ではあまり行われていないことだと聞いています。
四年生の時に少し練習したり約束事を学び、五年生からは算数を中心に教え合って来ました。」
「教え合うと言っても、教える人と教えられる人に別れそうな気がするのと、成績の良い子の負担にならないのかしら?」
「『教える』ということを私達は算数や国語と同じ、教科の一つとして学んでいます。
教えるという作業を通して、相手のことを考え知ることになり、そこから思いやりの心が育ちます。
学力が高いだけで人を思いやれない人は問題外なのです。
大人達からは、将来どんな仕事に就いても、教える能力を持っている事はプラスになると聞いています。」
「負担にはなってないのね?」
「はい、クラスの仲間の事が前以上に知れて楽しかったですよ。
また、私が教えるより真一が教えた方が良い場合が有ることに気づいたり、万里と教え方の相談をしたりとか『教える』という教科を通して沢山考え学んでいます。」
「その時間、先生は何をしてみえるのかしら?」
「本間市長曰く、小学校の教師には雑用がやたら多いのだそうで、教室で仕事をしてみえます。」
「成果については本間市長に伺いたいのですが、よろしいですか?」
「ええ。」
「私も授業風景を何度も見て来たのですが、子ども同士の人間関係が素敵で楽しいです、学力面は総じて上がっています。
これは教師ともデータを見ているのですが、学習意欲の全くなかった子が絵里ちゃんや万里ちゃんに教えて貰うことで自分なりにやってみようという気になったのですよ。
クラスのマドンナが教えてくれるのなら、先生には反抗的な悪がきだってその気になりますよ。
俗に言う、やれば出来る子は成績が上がって自信を持つようになったと、教師から聞いています。」
「先生役の子にとっての負担がどうしても気になるのですが、万里さんは自身の進学に対して妨げになっているとか有りませんか?」
「このプログラムがスタートしてから、多くの大人達の話を聞き自分の考えをまとめて来ました。
結論として、私は有名大学への進学を目標とはしていませんし、クラスの何人かは高卒で働く事をイメージし始めています。
一流企業に就職するために一流大学を目指す、早い人は私達ぐらいの年齢から猛勉強を始めるそうですが、私は違う価値観を持っています。」
「価値観ですか…、市長、小学生の話とは思えないのですが。」
「見ての通り可愛らしい小学生ですよ、ただ彼女の能力と彼女を取り巻く環境が今の万里ちゃんを作り上げたのです。
単純に能力だけを考えたら、彼女レベルの小学六年生は全国に何人もいるでしょう。
また、彼女の価値観に私達が大きく関わっている事も事実です。
その価値観は今後変わるかも知れません、それでも、彼女が大人達とも話し合い自分の頭で受け止め反芻し自分の物にした価値観なのです。」
「そうでしたか、では、万里さんの価値観を教えて頂けますか?」
「苗川の大人達は、本間市長に刺激を受けて、内面が格好の良い大人になることを目指しています。
実際、私の周りの大人達は素敵な人ばかり、尊敬出来る人ばかりですが、皆さんは外見や能力に関係に関係なく、人として少しずつ変わっているのだそうです。
そんな大人達の変化を受けて私の姉達は『格好の良い子どもになろう』という意識改革を目的とするキャンペーンを鹿丘小学校で始めました。」
「意識改革ですか?」
「はい、本間市長が大人達の意識を変えた様に子ども達もです。
『格好の良い子どもになろう』、大切なのは、学歴などには現れない、人として尊敬に値する大人を目指すこと。
クラスの男の子に算数がとても苦手な子がいますが、彼は下級生にとても慕われています。
算数が苦手でも、自分で働いて生きて行く力を身に着けさえすれば、彼はとても素敵で格好の良い大人になると思っています。
翔太から、都会では学力重視の学校が少なくないが、人間的に魅力ある子は少ないと聞きました。
鹿丘小との比較は翔太から聞いて下さい。」

台本は有るが、自分の言葉で話せていると思う。
予定通り翔太に振った。
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鹿丘小学校-09 [シトワイヤン-16]

「それでは転校して来て初めての一学期が終わろうとしている翔太君に伺います。
まず、転校して驚いたことが有るそうですが。」
「はい、クラス全員が仲良しだということです、今まで経験して来たクラスでは何となく出来たグループが有って、違うグループの子とはそんなに話しませんでしたし、グループに入らず一人とか二人でいる子もいました。
鹿丘小では意識的に場面に応じた色々なグループ分けをしているのですが、どう分かれてもみんな仲良くて、五年間同じメンバーだったとしても驚きでした。
そして転校生の自分達を暖かく迎え入れてくれて、そうですね自分達が嫌な思いをしない様に、みんなが気遣いをしてくれたことです。
今まで転校生を受け入れる立場になった事は有りましたが、そんな気遣いをする人は一部でした。
転校初日に鹿丘小を大好きになり、その気持ちは今も強まっています。」
「受け入れる側として、仲間意識の強い真一君達は、翔太君達転校生の受け入れをどう考えたのですか?」
「僕らは『格好の良い子どもになろう』を実行して来ました。
転校生を受け入れるのは初めてのことだったのですが、万里は転校して来る子の気持ちになれば、何をすれば良くて、何をしたら行けないか解る筈だと。
僕らは万里には逆らえませんので、普通に考え実践しただけです。」
「えっ、万里さんには逆らえないのですか?」
「はい、時にはみんなのお母さんだったりお姉さんだったり、『格好の良い子どもになろう』も良く分からなかった低学年の頃から優しく導いてくれてみんな尊敬してるのです。」
「し、真一、そんなの台本にないわよ。」
「ふふ、流石の万里も動揺したわね。」
「絵里ったら、動揺なんてしてません、本間さん、二人がいじめるんです~。」
「はは、真一君は、日頃言えない事をこの場で言いたかったそうでね。
何時も隙のない万里ちゃんが、焦る姿も可愛いだろ、翔太?」
「はい、ますます好きになってしまいそうです。」
「ちょっと待って~。
御免なさい、ここはカットでお願いします~!」
「万里さん御免なさい、それを決めるのは、向こうでニヤニヤしてる髭面の人なので。」
司会も本間市長もグルで味方はいない…、え~い、ならば…。
「えっと、真一が話した通り『格好の良い子どもになろう』という取り組みは低学年にとって難しい一面が有ります、あくまでも内面的な成長を考えていますので。
そこで、例えば掃除の時間を利用して、上級生との触れ合いの中で感じて貰ったりしています。
小学一年生にとって教室掃除は大変なのですが、五六年生の格好良い担当者と一緒にお掃除をします。
お姉さん、お兄さん役の担当者は楽しそうに掃除しながら、掃除の仕方を教えたり、『おう、健吾任せたぜ』なんて言いながら指示を出したりしていまして、一年生だけではなかなか進まないお掃除が短時間で楽しく済むのです。
こんな体験を通して、一年生は、自分から面倒な事にも取り組む姿勢を養って行くのです。
私達の学校では一年生から六年生までが一緒に遊んだり、時には下級生の学習を上級生が見て上げたりしていますので、みんな仲が良いのですが、マナー違反をする子がいたら『格好悪いぞ』と周りから窘められます。
お手伝いが出来たり、自分から進んで面倒な仕事を引き受けてくれた子には『さっちゃん格好良いわね』とかお褒めの言葉が上級生から貰えます。
そんな、経験を通して、例え学力は低くても内面の格好良い子に成長して行くのです。
その過程で、特に意識の高い子達は大人達から子ども扱いされる事が無くなって行き、基本的な教科とは違う学習の場を与えられます。
小学生の私達が意識改革とか価値観といった言葉を使う事に違和感を覚える方もみえるでしょう。
ですがそれは、そういった言葉で表現した方が伝わり易いと思えるだけの学習をして来た結果なのです。
大きく変わろうとしている苗川のこと、苗川大改造を単に大きな土木工事と捉えておられる方もみえますが、苗川では市民が人として格好の良い大人になることを目指し、子どもが格好の良い子どもになろうとしていまして、それこそが苗川大改造なのです。
ご静聴、有難う御座いました。」
「あっ、有難う御座いました。」

少しぐらい動揺させられたって、これくらいの話は出来るのだ。
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鹿丘小学校-10 [シトワイヤン-16]

休憩を挟み、映像や写真を使いながら学校のイベントを紹介し、撮影は終わった。

「絶対動揺したと思うのに結局、卒なくこなしてしまうのね、万里は。」
「もう、いきなり尊敬だなんて恥ずかしかったわ。」
「でも、司会とやりとりするより良かったよ、編集し易くなったんじゃないのかな、番組では愛華さんのフォローも入るからね。」
「真一、私達が万里の事が大好きなんだって上手く伝わったかしら。」
「伝わるだろう、で、ごめんな万里、びっくりさせて、でも、みんなの万里に対する尊敬の気持ちを多くの人に知って貰いたかったんだ、まあ、翔太がどさくさに紛れて愛の告白をしたのは想定外だったのだけどね。」
「そりゃそうだ、俺の台本にだって、ますます好きになってしまうなんて書いてなかったし、別にその男女の恋愛とかまだ解んない、付き合って下さいとかも良く分からないけど、でも、万里の事が大好きなのは本心なんだ。」
「おっ、男の子、格好良いわね。」
「あっ、愛華さん。」
「翔太君、万里ちゃんの事を好きな人はとても沢山いるのよ、頑張ってね。」
「は、はい。」
「まあ、万里に仇なす奴がいたら禁断の村八分だからな。」
「真一君、その、仇なすとか村八分とかって、普通の小学生は使わないと思うわよ。」
「そうですか、周りの大人達は普通に使っていますが。」
「そんなに大人と話す機会が多いの?」
「お祭りの練習や準備を一緒にして来ました、その時に世間話と言いますか。」
「その世間話には興味が有るわ、どんな話をしてるの?」
「学校の話が多いですが、苗川大改造の進捗についてや政治経済の話とか。」
「それを君は理解してるんだ。」
「理解出来てるかどうかは微妙ですが、大人達は感じて馴染むぐらいで良いと考えてるそうです。
そんな話でも万里はしっかり分かっていて、大人達曰く、鋭い質問を投げかけるのですよ。
それを聞いて僕らの理解が少し深まったりしています、難しい話を子どもを交えてすることは大人にとってもプラスになるのだそうです。」
「う~ん、大人と子どもが共に成長している、それが苗川なのかしら。」
「大人と言っても色々ですよ、僕たちが格好良いと思わないことを格好良いと思っている人もいますから。」
「どんな人?」
「自慢話が多過ぎて、でも、ちゃんと寄付とかして下さってるのです。」
「そんな人の話は適当に聞き流しているのよね?」
「楽しそうに聞いて差し上げてると、差し入れがレベルアップして行くんです、僕らは適度に交代で『聞き役』という立場を学んでいまして。
お祭りの準備が大変そうな日は、絵里達が担当して何時もより多めに皆さんが喜んでくれそうなものを一緒に買いに行ったりしています。
先輩からは予算的に助かっていると感謝されているのですよ。」
「ご本人を気持ち良くさせてサイフの紐を緩めさせているのなら問題ないか。
今年のお祭りは、去年以上の規模で大変なのよね。」
「僕らはそれ程でもなくて、小学生は五年生のスタッフがメインなのです。」
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