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鹿丘小学校-09 [シトワイヤン-16]

「それでは転校して来て初めての一学期が終わろうとしている翔太君に伺います。
まず、転校して驚いたことが有るそうですが。」
「はい、クラス全員が仲良しだということです、今まで経験して来たクラスでは何となく出来たグループが有って、違うグループの子とはそんなに話しませんでしたし、グループに入らず一人とか二人でいる子もいました。
鹿丘小では意識的に場面に応じた色々なグループ分けをしているのですが、どう分かれてもみんな仲良くて、五年間同じメンバーだったとしても驚きでした。
そして転校生の自分達を暖かく迎え入れてくれて、そうですね自分達が嫌な思いをしない様に、みんなが気遣いをしてくれたことです。
今まで転校生を受け入れる立場になった事は有りましたが、そんな気遣いをする人は一部でした。
転校初日に鹿丘小を大好きになり、その気持ちは今も強まっています。」
「受け入れる側として、仲間意識の強い真一君達は、翔太君達転校生の受け入れをどう考えたのですか?」
「僕らは『格好の良い子どもになろう』を実行して来ました。
転校生を受け入れるのは初めてのことだったのですが、万里は転校して来る子の気持ちになれば、何をすれば良くて、何をしたら行けないか解る筈だと。
僕らは万里には逆らえませんので、普通に考え実践しただけです。」
「えっ、万里さんには逆らえないのですか?」
「はい、時にはみんなのお母さんだったりお姉さんだったり、『格好の良い子どもになろう』も良く分からなかった低学年の頃から優しく導いてくれてみんな尊敬してるのです。」
「し、真一、そんなの台本にないわよ。」
「ふふ、流石の万里も動揺したわね。」
「絵里ったら、動揺なんてしてません、本間さん、二人がいじめるんです~。」
「はは、真一君は、日頃言えない事をこの場で言いたかったそうでね。
何時も隙のない万里ちゃんが、焦る姿も可愛いだろ、翔太?」
「はい、ますます好きになってしまいそうです。」
「ちょっと待って~。
御免なさい、ここはカットでお願いします~!」
「万里さん御免なさい、それを決めるのは、向こうでニヤニヤしてる髭面の人なので。」
司会も本間市長もグルで味方はいない…、え~い、ならば…。
「えっと、真一が話した通り『格好の良い子どもになろう』という取り組みは低学年にとって難しい一面が有ります、あくまでも内面的な成長を考えていますので。
そこで、例えば掃除の時間を利用して、上級生との触れ合いの中で感じて貰ったりしています。
小学一年生にとって教室掃除は大変なのですが、五六年生の格好良い担当者と一緒にお掃除をします。
お姉さん、お兄さん役の担当者は楽しそうに掃除しながら、掃除の仕方を教えたり、『おう、健吾任せたぜ』なんて言いながら指示を出したりしていまして、一年生だけではなかなか進まないお掃除が短時間で楽しく済むのです。
こんな体験を通して、一年生は、自分から面倒な事にも取り組む姿勢を養って行くのです。
私達の学校では一年生から六年生までが一緒に遊んだり、時には下級生の学習を上級生が見て上げたりしていますので、みんな仲が良いのですが、マナー違反をする子がいたら『格好悪いぞ』と周りから窘められます。
お手伝いが出来たり、自分から進んで面倒な仕事を引き受けてくれた子には『さっちゃん格好良いわね』とかお褒めの言葉が上級生から貰えます。
そんな、経験を通して、例え学力は低くても内面の格好良い子に成長して行くのです。
その過程で、特に意識の高い子達は大人達から子ども扱いされる事が無くなって行き、基本的な教科とは違う学習の場を与えられます。
小学生の私達が意識改革とか価値観といった言葉を使う事に違和感を覚える方もみえるでしょう。
ですがそれは、そういった言葉で表現した方が伝わり易いと思えるだけの学習をして来た結果なのです。
大きく変わろうとしている苗川のこと、苗川大改造を単に大きな土木工事と捉えておられる方もみえますが、苗川では市民が人として格好の良い大人になることを目指し、子どもが格好の良い子どもになろうとしていまして、それこそが苗川大改造なのです。
ご静聴、有難う御座いました。」
「あっ、有難う御座いました。」

少しぐらい動揺させられたって、これくらいの話は出来るのだ。
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