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来日-01 [シトワイヤン-22]

「万里ちゃん、キャッシーが来日するのは知ってた?」
「はい、とても楽しみです、和馬さんは会ったこと有るのですか?」
「いや会ったことは無いが、なかなかの美人だそうだね。」
「浮気はだめですよ。」
「はは、大丈夫さ。」

万里は中二になってから少し背が伸びたそうだ、私には分からないくらいだが。
それでも、顔つきは明らかに大人びて来ている。
彼女の持つ不思議な魅力、彼女のオーラは成長と共に失われると予想する人がいたが、その予想に反し更に増していると思う。
大好きな人で守ってあげたいが、所謂異性に対する愛華や清香への感情とは大きく違うし、何故か守られている感覚も存在する。
一緒にいるだけでとても幸せな気分になる不思議な存在であることは全く変わらない。

「キャッシーとは良く話すの?」
「いえ、休みの日に、たまにテレビ電話で話しますが時差の関係が有り時間が合いにくいのです。
普段は姉がメールのやり取りをしているのを確認しています。」
「英語には慣れたみたいだと聞いているが、どう?」
「はい、和馬さんから、英語で話す時は英語で考える、と教えられたのを実行しています、たまに英語で考えて日本語で話してるのですよ。」
「智里ちゃんより余裕が有るという情報はホントなんだね。」
「余裕が有るというか、姉は必要が有って話さなくては行けませんが、私は第三者の視点で話せば良いことが多いので、話す力は同じぐらいだと思います。
キャッシーとのテレビ電話で引っ掛かる単語は姉妹同じなのですよ、同じようなステップで学習していますので。」
「君達ぐらいの力で難しい単語が出て来るという事は、難しい話もしてるということかな?」
「はい、日米の政治についてとか、キャッシーは来日した時、市民政党若葉を立ち上げた人達とも語り合いたいと話していました。」
「彼女は民主党共和党どっち?」
「中学の時は共和党支持だったそうですが市民政党若葉のことを知ってからは、周りの人ともテーマを変えてディスカッションやディベートをしてるそうです、自国の利益を追い求めるあまり、地球にダメージを与えて良いものかなど。
地球市民党の理念も研究中だそうです。」
「お爺さまの活動にも興味を持ち始めたのだね。」
「ええ、国のことを考えてると話す市民の多くは、自身の利益を基準としている小市民に過ぎず、社会全体のことを広くバランス良く考えてる和馬さんは素晴らしいと褒めてました、和馬さんの本を読んだ感想ですよ。」
「いや~、照れるね、万里ちゃんが勧めてくれたの?」
「はい、同じ本を読んでいることで対話がスムーズになります。」
「同じって、英語版?」
「私は両方読みましたよ、英語の授業中は英語の本を読んでいれば良いので。」
「万里ちゃんが先生の授業から学ぶ教科は有るの?」
「授業の組み立ては先生によって差が有ります、生徒の心情を把握出来てなかったり…、反面教師はそれなりにいますね。」
「今も教えたりしてるの?」
「はい、希望者のみに授業後十五分程度、その日の授業で気になったこととか。
その内容は学級担任が記録して教科担任に伝えてる筈なのですが、あまり授業に反映されてません。」
「万里ちゃんが授業を聞いてないからじゃないの?」
「本を読みながらでも聞いてますよ、本は視覚から授業は聴覚からじゃないですか。
授業には簡単な話しか出て来ませんから、普通に把握してます。」
「そういうものなのか。」
「はい。」
「う~ん、一つの仮説でしかないのだが、君の場合膨大なエネルギーを脳で消費してるから身長が伸びないというのは間違いだろうか。」
「その仮説は姉からも聞いています、無意識の内に脳を使ってるのだとか、私には普通のことなので良く分かりません。」
「もしかしてこうして話してる間も他事を考えていたりするのかな?」
「ええ、今日の晩御飯は何かな、とか。」
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来日-02 [シトワイヤン-22]

夏休み期間中は苗川を訪れる海外からの客人が多く予定されている。
苗川市で進められている事業の一部が完成したのを機に視察という人達だ。
智里は…。

「和馬さん、暮らし易い街に住むには、住人に多少の義務が発生するという事、海外ではどんな認識なのでしょう?」
「どうだろう、暮らし易さの基準は人それぞれだからな。
どんな建物に住むのかでは無く、どんな人達の住む街なのかが大切、苗川の人達は皆さん理解しておられるが、それを当たり前と思うかどうか。
テレビ番組を通して苗川の事を知った人は、人間関係に憧れる人と面倒そうで嫌だという人に分かれているだろ、案外似た様なことじゃないのか?」
「地域社会とのつながりが大切だという事を面倒で済ませる人、都会では多そうですね。
苗川へ移住して来る人達は納得した上ですから問題になっていませんが。」
「夏祭りに絡めてその辺りのプログラムも用意しようか。」
「そうですね、市民政党若葉としても、行政サービスに対して受け身にならない様、強調しておきたい所です。」
「舞姫さまの舞を三回お願いして、そこに来客を集中させる方向でスケジュール調整してるのだろ。」
「はい、ピークを三つに分ける作戦です。」
「大きな企画でなくて良いから、それに合わせて三回開きたいね、スタッフは充分確保出来るかな?」
「大学生対象の募集に対して他県からもかなりの申し込みが来ています、今から準備すれば大丈夫でしょう。
「他県からだと宿泊関係は大丈夫なのか?」
「災害時のテント生活体験と組み合わせました。
テントは訓練の為として本間さんがあちこちから集めたり、市の備品として購入した物、場所は整地作業の済んだ所が確保して有ります。」
「流石だな、メインスタッフに心当たりは有る?」
「はい、苗川高校生部会は高校を卒業しても籍を残して貰っていますが、メインは高校生という事でバックアップをお願いしています。
余力は有るのですよ。」
「こき使い過ぎてるとかないよな?」
「そこは各部署のリーダーに気を付けるよう指示を出して有りますし、全員に対して問題を感じた時に連絡する窓口がアナウンスされています。
バランスの取れた時間の使い方は高校生部会の研究テーマの一つでも有ります。
真面目に働いた人にはご褒美として特別イベントが用意されていますので、馬車馬の如く働いてくれても心は痛みませんが。」
「万里ちゃんのイベントか…、万里ちゃんが忙しくなり過ぎるのが心配だと思いつつも、沢山活躍して欲しいのだよな。」
「大丈夫ですよ、スケージュールをもう少しハードにしないと、疲れて甘えん坊さんモード、いつも以上に可愛い万里になりません。
最近スキがなくなって来ましてね、お姉ちゃんにもっと甘えて良いのよ、と言っているのですが。」
「はは、彼女も一歩ずつ大人になっているのだね。」
「大人になっても、私の妹、甘えて欲しいのです。」
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来日-03 [シトワイヤン-22]

苗川市民祭は、本間氏が苗川市長になって以来、市民政党若葉の象徴的な祭りとなっている。
今年は、苗川大改造の内、一つの事業が完成したことも有り視察に訪れる人が多い。
その中で、海外からの地球市民党関連は自分たちが受け持つことに。
市民政党若葉発起人の肩書で挨拶をし、しばらく話をした後は担当スタッフに任せる。

「お疲れ様です。」
「おお、お疲れ、智里ちゃんの方も本日終了かい?」
「市で受けたお客様は終わりですが、夜は株式会社舞姫取締役としての接待が残っています。」
「大変だね。」
「ええ、キャッシーからは、ビジネスパートナーとして私が信用出来ないと感じたら手を組まないと言われてまして、判断力が試されています。」
「智里ちゃんを信頼してのことなんだね。」
「彼女は万里を広く世界に知らしめて行くことで人を幸せにしようと考えています。
人を幸福にするビジネスをしたい、というのも彼女のお爺さまが、かつて進めた事業では人を不幸にした事が有るそうで。
その反省からお爺さまは事業転換をされ、キャッシーも起業するなら人に喜んで貰える会社にしようと。」
「なるほど。」
「万里は頻繁に渡米出来ません、その状態で効率よくファンを増やしていくには今夜の客人と手を組むのが早いと考えています。
日本に来るぐらいの人ですし、メールでやり取りした範囲では問題ない思っていますが、私より万里がどう感じたかでを最終判断とするかも知れません。」
「それが無難かもな、ところで、今日の客人はどうだった?」
「市長筆頭補佐とか適当に付けられた肩書で挨拶、少し話をして後はスタッフ任せです、踏み込んだ話はしていませんが、思っていたより苗川大改造の本質が理解されている様で嬉しかったです。
お一方は治安の悪い国からご訪問で、特に。」
「かなりひどい国?」
「はい、殺人事件は日常茶飯事だそうで、麻薬対策が進まないと嘆いておられました。
苗川での防犯対策を聞かれましたが、出かける時は鍵を掛けるぐらいしか思い浮かばなくて。
鍵を掛ける習慣の無いお宅が未だに残っていると話すと驚かれました。」
「その辺りの人を疑わない心が苗川大改造に繋がっているのだよな。」
「ええ、そんな話をしたら、人を見たら泥棒と思わなくてはいけない国だそうで、落ち込まれて…。」
「同情しか出来ることは無さそうかな。」
「万里のポスターを差し上げたら喜んでおられましたよ、DVDでご覧になられた事が有るそうで、明日の舞を楽しみにしてると。
和馬さんが担当されたお客さまは如何でしたか?」
「国によって程度に差こそあれ似たような感じかな、まあ、万里ちゃんのポスターを差し上げてからの反応は皆さん同じだったよ。」
「ほんとはDVDを差し上げたかったのですが、市の担当としてお会いしている以上個人的なプレゼントを差し控えなくては行けなくて残念でした。」
「明日の舞を見たら自費で買って帰るだろう、勝手に宣伝もしてくれるさ。」
「ですよね、和馬さんも明日は絶対見逃しては駄目ですよ。」
「ああ、折角手に入れたチケットだ、生で見たいよ。
ライブビューイングも各地で開かれるそうだが、万里ちゃんの舞を生で見られるチャンスはそうそうないからな。」
「そうなんですよ、私でさえ練習を見ていなくて、そもそも練習してるかどうかも怪しくて、打合せはしているそうなのですが。」
「前から?」
「五年生までは普通に練習していましたが、創作の部分が多くなってからは、本人曰くイメージトレーニングをしているそうです。」
「万里ちゃんの舞は不思議な魅力に溢れている、お客さま方も癒されて頂けると良いのだが。
舞姫さまの舞を見るために来日を決めたという方もみえてね、MAIHIMESAMAは英語でも通用し始めてるみたいなんだよ。」
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来日-04 [シトワイヤン-22]

キャッシーは市民祭期間の中頃に来日した。
来日中は智里が主に案内。
智里にとって、市の仕事から離れ気分転換になってくれたら良いと思うが、相手は大富豪の孫、彼女達の関係は良く分からない。
キャッシーの宿泊は舞姫の館、万里の別荘として建て始めたものだ。
この建物は少し変わった建てられ方をしている。
まず完成したのは現在三階に位置する万里の部屋、バス、トイレ付で家電など最新設備の整ったユニット、完成以来万里は実家と使い分けている。
この部屋が二階になったのは、清香村の集会所的建物が完成してから。
その上に乗せられた形だ。
三階まで上げられたのは、今の二階部分、ゲストルームユニットを組み込んでから。
この建設作業は村民の有志が趣味として行っている。
テーマは文字通り成長する家。
成長するだけでなく外観も変化している。
外観のメインテーマは聖なる村の守り人の棲家。
何とか神聖な雰囲気を醸し出そうと工夫。
村人から大きな改装の提案があると万里が検討、了承すれば、彼女のいない間に工事というサイクルを何度も繰り返して来た。
冬場は雪が屋根に積もらない様、急角度の部材が取り付けられ、真夏の今は沢から引いた水が屋根を冷やしている。
万里の別荘がこうなったのは、万里が住める環境をいち早く用意したいという村人の思いから。
集会所を併設したのは、万里が自分だけの家というのでは気が引けるだろうということと、ある程度大きな家にしたかったからだ。
家を増築したり外観を変えるのは、趣味としてならとても楽しいことだそうで多くの村人が関わっているという。
今日はキャッシー達が市内を案内されている間、歓迎会の準備に愛華と清香と。
ただ、ついて来たものの私は邪魔になりそうで、それを察知した万里が相手をしてくれている。

「万里ちゃん、館の住み心地はどう?」
「快適ですよ。」
「話は清香から聞いていたけど、不思議な感じだね。」
「はい、外観とパブリックスペースはアニメ作品を参考にしているだけあります。
でも、不思議さを一番感じているのは多分私です。
大きめの改装の時は事前に知らせて下さるのですが、小さな改修がしょっちゅう有りまして、帰宅する度にどこかが変わっているのですよ。」
「まだ成長するのかな?」
「今も成長しています、隣に地下室を作っていまして、食料の備蓄やお酒などの保管用です。
上手く出来たら防音完備のスタジオを、やはり地下に作る話も、ゲストルームの需要が多いので二階を広げる案も出ています。」
「この館はどこまで大きくするとか有るの?」
「敷地にはかなりの余裕が有るそうで、ガウディのサグラダ・ファミリアを目標に、という冗談を真面目な顔して話す人がいるのですよ。」
「はは、壮大だね。」
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来日-05 [シトワイヤン-22]

夕方からの歓迎会では沢山話をした、ただ、キャッシーはお疲れの様で早めに智里と共にゲストルームへ。
残った我々は、言語を日本語に変え少しほっとした感じで。

「ユニットルームを組み合わせたと聞いていて、キャッシーは、ちっちゃい万里ちゃんの小さなお家かと思ってたのね。」
「愛華さん、サイズはお姉ちゃんに合わせてあるから、巨人でも大丈夫なのですよ。」
「バスケットボール選手でも大丈夫なんだろ、清香、アメリカ人とかも意識していたのか?」
「ええ、広い土地に九十%完成した部屋を並べておいて、気に入ったのをお持ち帰りというのはアメリカ向きだと思いません?」
「キャッシーもビジネスの匂いを感じてたみたいだったな。」
「ふふ、この館にお招きするということは、そういう事なのですよ、和馬さん、女子中学生の部屋を見て行きますか?」
「はは、是非ともお願いしたいね、話だけでは広さが掴みにくい。」
「廊下や階段はパブリックスペースと同じ不思議な装飾になっていますが、部屋の中は最新の設備、歌えば家電品が反応しますよ。」
「あれは、若干抵抗を感じる、私は黙ってスイッチを入れる派なんだ。
なあ、万里ちゃん、雑談っぽく話していたけど、今日は中身が濃かったよね。」
「はい、限られた時間ですので雑談を雑にしない様に、和馬さんも話題を私達任せにして下さっていましたのでキャッシーも聞きたい事が聞けたと思います。」
「はは、中身の無い話をだらだら続ける連中に聞かせてやりたいね。」
「濃いと言っても、愛華さん達はビジネスの第一段階という感じだったのでは有りませんか?
Citoyenブランド、ユニットルームの話などは。」
「ええ、地球市民党の活動資金を考えていてね。
ただ、Citoyenブランドは、そのままではサイズも人の好みも違ってアメリカでは通用しないでしょ。
ユニットルームも実物を見せれば商機が有ると思うのだけど、そこまでの道のりは遠いわ。
私達、キャッシーが触れなかったら今日は話さないつもりだったのよ、万里ちゃん、今日の話題は事前に用意していたの?」
「はい、キャッシーは和馬さんと話すテーマを考えてましたし、Citoyenブランド立ち上げの経緯や清香さんの会社に興味が有ると聞いていましたので。」
「万里ちゃんはアメリカでの事業展開、どう思う?」
「ユニットルームは耐震性を強調して行けば受け入れて貰えそうな気がします、Citoyenはデザイナー次第ですね。」
「そんなところかしら、何にしても万里ちゃんの知名度に頼って行く事になるのだけど。」
「謎の美少女として注目を集めることに成功しているからな、キャッシーの話では私が思っていた以上みたいだ、謎の美少女としてはどうだい?」
「全然実感が湧きませんが、秋に学校休んでアメリカ旅行の話が出てて楽しみです。」
「学校へ行きたくないのか?」
「そういう訳では有りませんが、中学では体験出来ない事が経験出来ると思いませんか?」
「そうだな、どちらが万里ちゃんにとってプラスになるかは明白だし、沢山稼いで来るのだろ?」
「ふふ、どうでしょうか。」
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来日-06 [シトワイヤン-22]

キャッシーは一週間ほどの滞在中、観光より仕事に多くの時間を費やしたという。
万里の制作中DVDに関しては英語版に対して助言、万里のプロモーションが仕事のメイン。
だが、彼女はそれだけに留まらなかった様で。
彼女の帰国後。

「キャッシーは才能溢れる人だね。」
「はい、共に時間を過ごして改めて思いました、さすが会長さんの一押しです。
後継者と考えておられるのかも知れません。
滞在中もあちこちと連絡を取り合って事業展開の可能性を探っていました。」
「差し障りなさそうなら教えて欲しいね。」
「一つはユニットハウス、ユニットルームです、清香さんのスタッフとサンプルを船便で送る話をしていました。
行けそうなら現地生産になります。
新しい町を作る構想も出ましたのでそこで実際に建てて行くことになるのかも知れません。」
「新しい町?」
「はい、苗川みたいな改造ではなく、何もない所に道路と作業員の宿泊施設を作るところから始めてみたいそうで、会長さんと電話で交渉していました。
どんな町にするか話し合うのは楽しかったですよ。」
「どんな町に?」
「苗川の様な民度の高い町を目指したいけど、低所得者層を受け入れると犯罪者の問題が、麻薬や銃のない町にしたいけど難しいのです。」
「治安が良いと言われている日本でさえ、薬物を容易に手にしてる人がいるのだからな。」
「そんな話をしてる時に、万里の舞に癒し効果が有るのではと。
そこから話が盛り上がり、彼女は自分のスタッフに、精神科の病院にDVDをサンプルとして送って医者の見解を聞く様に指示したのです。」
「癒しは感じていたが、そういう使い方は考えてなかったな。」
「私もです、それで私も病院に問い合わせてみました、この地の病院なら万里の舞を知らない筈は有りませんから。」
「結果は?」
「科学的な根拠は無いが精神安定効果が見受けられるそうです。
その病院では待合室で流し始めてから、DVDについて聞かれる事が多いそうで万里の舞に癒されてる人は多いのではないかと。
キャッシーの指示を受けたスタッフも二日後には返事を寄こし、サンプルを見た医者達にDVDが百本売れたそうで、州内の医療機関を中心に販売促進キャンペーンを始めるそうです。」
「日本でも見直すべきだな、医学部で研究させよう、下手な薬より効果が有りそうだ。」
「その流れを受けて、キャッシーと考えている町の名はMAIHIMEに、アメリカで唯一正式な漢字表記の有る町にしようと。
万里は、女王か女神、他の名称を新たに作っても良いけど、万里に忠誠を誓わないと市民になれないシステムにします。」
「法的には分からないが、アメリカ人って王様とかに憧れがあるから面白いかもな。」
「町の至る所に領主である万里の写真を飾り、映像を流して犯罪抑止に繋がるかどうか。
苗川に近づける為の市民教育をし、民度を上げられるか、実験的な街づくりとなります。」
「新しい町は、もう確定なの?」
「人の為になる事業だからお爺さまも後押しして下さるだろうと。」
「う~ん、あの会長がその気になったら、直ぐに大きな町が出来てしまいそうだな。」
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来日-07 [シトワイヤン-22]

キャッシーは帰国後、スタッフを日本に送り込んで来た。
まず、アメリカで放送するテレビ番組を日本で制作する方向で動き始め、その下準備としてディレクターを。
彼には自分が関わっている放送局のスタッフを紹介し協力関係を築いて貰う事に。
そして日本の放送局には、アメリカ人が見た日本、彼の番組を日本向けに編集し直して放送という提案をさせて貰った。
キャッシーとしては、ほとんど知られていない地方都市苗川からアメリカに向けて、万里と苗川を発信して行きたいとのことだ。
前後して訪日したのは清香のところで製造しているユニットハウスをアメリカで製造販売する責任者。
清香も出資し、新たな会社を設立する方向で話が進み始めている。
子どもが生まれたら一部屋増やせば良いという感覚で売り出す。
新しい町の建設が決定したら確実に需要が有る。
万里に会いに来日した精神医学関係の学者は私が間に入り、日本の研究者に日程を合わせて貰った。
万里の負担を軽くする為であり、万里が研究対象として拘束される時間を減らした。
それでも…。

「万里ちゃん、お疲れ様。」
「和馬さん、研究って良く分かりませんね、舞だけでなくひたすら撮影されましたが。」
「まあ、彼等なりに頑張っているのだよ。」
「頑張って何を?」
「君と背格好の似たアクトレスに、Citoyenから君が着てるのとそっくりな衣装を手に入れて舞を、バックの音は君のDVD音源をそのまま使ってね。
私も見させて貰ったが、なかなかの仕上がりだったよ。
でも、見た人の反応は全く違っていてね、取り敢えず音は、人を癒す君のDVDであまり大きな存在でないことが分かった。」
「比較研究ということですか?」
「ああ、これで注目すべきは万里ちゃんだと特定出来たわけだ。」
「まだ良く分からないのですが…。」
「君の舞い姿は人の心に良い影響を与えていることは間違いない。
だからキャッシーは舞姫に忠誠を誓う人で町を構成したら、苗川の様に出来るのではないかと考えているのだよ。」
「そう言われても、和馬さんはどう思われます?」
「良いと思う、そこから広がって行けば治安の良い町が誕生するだろう。
苗川の周辺は、元々犯罪の多い所では無いから目立っていないが、犯罪行為が減っているみたいなんだ。
内面の恰好良い人が増えてるだけでなく、万里ちゃんのファンが増えてるからだと思うね。」
「そうですか…。」
「キャッシーが君に夢中なのも君から何かを感じたからだろう、そしてその可能性を信じている。
アメリカに出来る新しい町のシンボルが日本の美少女なら、それだけでも注目を集めるだろうし。」
「でも、そんなに渡米出来ませんよ。」
「大丈夫さ、国民が国王の姿を直接見る機会なんてそんなに無いだろ。
日本で万里ちゃんを中心とした番組を制作しアメリカで流す。
キャッシーはそれを市民に見せることで市民教育しようとしてるんじゃないかな。」
「そういった話は聞かせて貰いましたが…。」
「何か問題でも?」
「私のことは女王様とお呼び、って言えば良いのでしょうか?」
「領主様ぐらいで良い気もするが、神の遣わした舞姫から造語という案が出てるね、具体的なのはまだだけど。
まあ、舞姫が向こうでも定着しつつ有るそうだから、その辺りで落ち着くんじゃないのか。」
「昔々有る所に舞を舞うしか能のない姫がおりました…。」
「あっ、お疲れかな?」
「はい、少し…。」
「食事の時間まで横になってて良いよ。」
「はい。」

万里は研究対象にされ、色々な要求に応え、随分疲れていた様だ、話に何時もの歯切れが無く。
万里の謎を知ろうというのは間違いだったのだろうか。
超美少女だが普通の女の子。
今日の結果を踏まえ、今後は制限を考えるべきかも知れない。
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来日-08 [シトワイヤン-22]

万里に関して研究者たちが出した結論は、高い能力以外に特別な所は何も無いということ。
日本人研究者の、超絶可愛い存在が人の心を癒す、という意見にアメリカから来た研究者も同意するしかないそうだ。
アイドル達もファンにとっては癒しの存在なのだろうから否定出来ない。
ただ、万里が普通のアイドルと大きく違うのことは研究者達も感じていて、今後は映像を見る側の人達を対象に研究を続けて行く事になった。
その結論は万里を安心させたが、本間さんは、たかが人間の研究者に万里のことが分かる訳が無いと言い切る。
それぐらい不思議な存在なのだ。
この件に関しては愛華に怒られた。

「万里ちゃんの負担になることはもう控えて下さいね。」
「ああ、言われるまでもなく反省してるよ。
変に疲れさせる事で、彼女のオーラが弱まってしまったら本末転倒だからな。」
「万里ちゃんは研究対象とかでなく、神聖な存在として守って行きたいのよ。」
「そう思ってる人が増えてるみたいだが、怪しげな宗教団体からも打診があったのだろ?」
「神の子だからうちで預かる的な感じだったと聞いたわ、色々利用するつもりなのでしょうね。
まあ、私達も稼がせて頂いてるから、人の事は言えないのだけど。」
「DVDを通して奇跡的に多くの人を癒していると思うのだが、そんな存在を宗教関係者達はどう位置付けていくのだろうな。」
「キャッシーとしては万里を信仰の対象にしたい、いえ、すでに彼女自身が万里を人の上の存在として崇めている節があるわ、ただ、宗教の枠に入らない神聖な存在かしら。」
「う~ん、新たな町の市民は万里ちゃんに忠誠を誓う、という形を選んだのは、変に宗教的でなく良いアイデアかもな。
市民がこの先どう判断して行くのかは分からないが、スタート時点では可愛らしい領主さまといったところで。」
「万里ちゃんを中心とした宗教が誕生する可能性はどう?」
「宗教の始まりがどうだったのかは憶測するしかないが、今の宗教には本筋から外れているみたいなのも有るだろ、それと同列には置きたくないと思うな、宗教の存在意義は認めるが。」
「そうよね、でも、イスラム教に疑問を感じてキリスト教に改宗するという話が新聞に有ったわ、無宗教という選択肢は無いのかしら。」
「信仰心の薄い日本人には理解しがたいものが有るのかもな。
何にしても、万里ちゃんの今後には、我々も気を配る必要がありそうだ、大切な人だからね。
指導者の思惑や利害に左右されている宗教と一線を画しつつ、宗教が行って来た教育的な一面を推し進めることは彼女なら出来ると思うんだ。
市民教育の一環として、万里ちゃん中心に『格好の良い大人になろう』を世界的に推進出来たら面白いだろ。」
「そうね、優しい指導者になって欲しいわ、これから注目度が更に上がる事を考えると、彼女を色々な方面から守る体制を強化する必要が有るわね。」
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来日-09 [シトワイヤン-22]

万里をひどく疲れさせてしまったという反省を踏まえ、彼女をサポートする体制を強化することに智里が強く同意したのは今後の展開のことも有った。
キャッシーが作ろうとしている新しい町と万里は、大いなる実験のシンボル。
万里は…、万里は自らがシンボルとなることに戸惑っていたが、私達の目指していることは誰よりも理解している。
おそらく悩ませてしまったのだろうが受け入れてくれた。
サポートチームの結成に関しては、多くの利益をもたらしてくれた事に対する感謝の印であり、これから活動をステップアップさせて行く過程でのトラブルを事前に防いで行くためだと話し理解して貰った。
チームは日米連合。
メンバーになった者達は、それぞれ、下僕、家来、子分など勝手に名乗り始めている。
下準備を済ませたところで、アメリカのメンバーが来日、顔合わせとなった。
チーム名は舞姫騎士団。
結団式、主な役割とともに紹介されたメンバー達は全員、万里に忠誠を誓う。
それを静かな笑みと共に受ける万里は、愛華の用意した衣装によって、その美しさを更に際立たせ、溢れ出るオーラは家来達が跪く姿を自然なものに見せている。
人は平等ではない、跪く者と跪かれる者が存在し、それは人間社会に於いて自然なことなのかも知れないと感じさせる、誰も跪くことを強要していないのだ。
そして万里が語り始める。

『私達が取り組む多いなる実験について、ここでお話しする必要はないでしょう。
私を主君とされる方が見えるので有れば、私は主としてすべき事をしていくつもりです。
皆さんのお力が有れば、大いなる実験は大きな成果を上げられると信じています。』

万里は騎士団に守られる姫となったが、これからはネット上に展開して行くバーチャル王国の姫という設定も用意して有る。
王国の都はこれからリアルに建設される町、舞姫に忠誠を誓った作業員、万里の大ファンが測量を始めたそうだ。
リアルとバーチャルで、私達が理想と思える市民像を模索して行く。
多民族国家を中心に展開するという事で、大学一年生の頃にゲームとして行っていたバーチャル王国とは、全く違うものになるだろう。
多様な価値観から、我々にとって民度が高いと思える人の社会集団を生み出すことが出来るかどうか。
そんな実験は、万里という存在によって効率良く進むと考えてるが、本間市長は、万里の様な存在がいなければ不可能だと言う。
そうかも知れない、万里の様な人間離れした不思議な魅力に溢れる人は、私の知る限り存在しない。
彼女が世界にどんな影響を与えて行くのか楽しみであり、そのサポートの一人として身が引き締まる思いを噛みしめながら、舞姫親衛隊結団式を終えた。
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来日-10 [シトワイヤン-22]

舞姫騎士団に当初はとまどいも有った万里だが、少しずつ慣れ、彼女なりのルール、甘えて良い事といけない事などを決め、騎士団に指示を出す様になった。
私達は騎士団の結成と共に、これまで必要に応じで設立して来た幾つかの会社を統廃合し整理。
株式会社舞姫騎士団を立ち上げ、騎士団関連の費用はそこから支出する形に。
清香とキャッシーは資産の多さから貴族と位置付ける。
清香は清香村の領主として、キャッシーは新しい町の領主として、設定上は、姫から領地を預かり領民の為に経済活動を行っていくとしてある。
その過程で万里の資産管理会社を立ち上げたところ、彼女が株式運用をしていることが判明した、資産として持っている株式とは別でだ。

「騎士団に色々調べさせているのは株式運用の為だったのかな?」
「はい、遊び半分で始めましたがもう少し真面目に取り組もうかと。」
「投資額を増やしたとか?」
「増やしたというか増えたという感じです。
今まで増えた資金はそのまま次の投資に回して来ましたので。」
「へ~、どれぐらい増えたの?」
「五百万で始めて、一億を超えました。」
「五百万を一億にしたってこと?」
「そういうことになります。」
「簡単に?」
「上がりそうな銘柄を買い適当な所で売る、を繰り返しただけですから簡単と言えば簡単です。
でも、騎士団に手伝って貰うまでは自分で調べていましたので、それなりに時間を掛けています。」
「予想を外したりとか無かったの?」
「有りますよ、少し上がると思って多めに買ったら沢山上がったとか、怪しいからすぐに売りました。」
「で、その後、下がったとか?」
「下がりますよ、そんなに上がる筈が無いというぐらい上がりましたので。」
「そんな調子なのか…、今後も稼げそうだね。」
「どうでしょう、一応運用益で何人か養えるぐらいに稼いで行きたいとは思っています。」
「家来の給料はDVDの売り上げとかで充分賄って行けるから心配しなくて良いんだよ。」
「沢山稼いで沢山使う、私には使い道がそんなに有りませんので、自力で充分稼げない人の存在を意識していましす。
DVDやCDが売れれば今後も継続的にお金が入って来るそうなので、どこにお金を使って行くか検討中です。」
「君が三時間ぐらい舞ったのを編集して出したDVDやCDの売り上げが凄いからな。
アメリカで売れるということはそこから世界へ広がる、桁が違うということを実感させて貰ったよ。
税金を沢山納めても、どう使って行くか検討するに値する収入になると思うが、自分の為にも使ってくれな。」
「はい、取り敢えず清香村の別荘を巨大化し迷宮化することと、キャッシーが建設する町に、私の小さなお城を観光名所になるようなデザインで町の真ん中に建てる様に指示を出しました。」
「あっ、清香がセキュリティ強化と話してたのはその関係も有るのかな、見物客が増えてるのだろ。」
「地下駐車場から、間違えると怖い思いをする枝分かれした道、それが何本も有る秘密の通路を作ってとか、担当は遊び心を膨らませていましたね。
苗川に仕事を増やし、働く人が増えたら良いと考えてのことなのですが。」
「まずは二か所の拠点に雇用の場を創設ということかな。」
「はい、ささやかですが。」
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