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51-職業体験 [キング-06]

子ども達の学習プログラムに職業体験を入れたのには意味が有る。

「子ども達のささやかなお手伝いに関して国民からの反響はどうかな?」
「私が耳にした範囲では概ね好意的に受け止められているわ、皆さんは私達の子どもが将来リーダーになるだろうと考えている、世襲じゃないと話しているけど年齢的な事も有るし、彼等の子ども達がお兄ちゃんお姉ちゃんと慕ってるのを見れば自然な流れでしょう。」
「そんなリーダー候補達が汚れる仕事も体験してるのだからね、皆さん優しく教えて下さってるそうよ、子ども達も喜んでたわ。」
「大人全員と親しくさせるという当初の目的は達成できそうだな。」
「ああ、職業選択の自由と社会維持活動のバランスの問題も、成長に合わせて短時間の労働から責任を持たせて行けば大丈夫な気がしてる、大人の導き方次第だろうが。」
「複数の仕事を掛け持ちという制度がプラスに作用すると思うわ、きつめの作業は短時間の当番制、人数が増えれば作業量も増えるけど、それ以上に短時間になったり回数が減ったり、職業というより国民の義務という事で子ども達も納得してくれるでしょう。」
「人の嫌がる仕事、特に動物の解体とかが…、次世代にとって当たり前の作業になってくれれば良いのだが。」
「我が国には未経験者しかいなかったからな、慣れるのに時間が掛かった、というより未だに慣れないよ、逆に子どもの頃からきちんと見せて置く事で、自分達の食が他の生物の犠牲の上に成り立っている事を考える機会になると思う。」
「子ども達には時間は有る、大人になるまでにこの世界のすべての仕事を体験して貰う事はきっとプラスになるわ、ここで生きて行くために必要な能力を身に付けさせておけば安心よね。」
「すでに食糧生産能力は将来を見越しても充分過ぎるレベルに達しているわ、子ども達の為に住宅を建てたりしてるから暇すぎる人はいないけど、子ども達が成長する頃には多くの研究職を持てそうね。」
「昔は、その人員が軍人に振り分けられていたのかな、研究職だけでなく芸術関係を目指す人が増えても大丈夫よね、何にしても軍隊を必要としない社会で有り続けて欲しいわね。」
「今の所、警察や消防がないけど必要にならないかしら。」
「警察はともかく建物は木造だから消防は考えるべきじゃないかな。」
「そうだな、専門家を作らずに皆で訓練だな、非常時に統率の取れた動きが出来るようなシステムを考えてみるよ。」

仕事の体制は話し合いで決めた。
現時点で生産体制を維持する為に最低限の労働時間は一人当たり四時間と計算されている。
マリア達のテクノロジーと作業の効率化が進んだ結果だ。
だが、国民達は概ね八時間働いている。
お陰で、城下町が形成されつつ有り居酒屋やカフェなどが店開きをした。
貨幣の無い共産主義国家、だが今の所仕事をさぼろうと考えるのは二丁目の住人だけだった。
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52-新たな国 [キング-06]

国連成立から二年半、私達の世界は新たな国を迎える事になった。

「明日十時から臨時国連会議を開く事で調整したよ。」
「ファーストコンタクトが来週とは言え慎重に準備しないとね。」
「今の国連六カ国とは違い過ぎるよな、大人が三十一人子どもが二十人、三十三人も死亡してる国って国民性に問題が有ったのかリーダーに問題が有ったのか、二丁目みたいなブラックコロニーが強すぎたのか。」
「アラビア語という事は記憶が蘇った後、宗教上のトラブルも予想されるわね、今までとは違った意味で和の国がコンタクトを取った方が良さそう、他の国では記憶が蘇り始めた瞬間からトラブルになる可能性も有ると思うわ、来て貰うのも三名程度からにするべきかもね。」
「国土も狭い、生産量も余裕が有るとは思えない。」
「初めて会う時に食料を渡せたら渡しましょうか。」
「そうだな、ただ、食生活が違うだろうから向こうで生産している作物にしておこう。」

国連の会議でも慎重にという話が色々出た。
その結果テレビ電話によるファーストコンタクトから、実際に会うまでの時間を長めに設定する事にした。
今までの国とは早く会いたいという気持ちが有ったが、今回は違う。
ファーストコンタクトまでは色々なシュミレーションをして準備した。

ファーストコンタクト。
挨拶の後お互いの国情を説明し合う。
先方もこちらのデータを見ているから話は早い。
記憶のプロテクトが外れるという話は向こうも管理者から聞かされていて、どんな記憶が蘇るか教えて欲しいと言われたが、それは出来ないと断った。
実際問題、我々と同じかどうかも分からないからだ。
初対面の場で食料の支援をするという申し出は喜んでくれた。
我々最大の関心事、死者の多さについては、一つのコロニーが不満を爆発させ殺人に及んだとの事、そのコロニーの住人は全員、あっという間に年老いて亡くなったと話してくれた。
最後に、リーダー三人を翌日招待するという事を決めてテレビ電話による会談を終えた。
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53-トラブル [キング-06]

初顔合わせの日。
初めて直に顔を合わせるというのはやはり緊張する。
対面後、すぐに記憶のプロテクトが弱まり始めたのか表情をこわばらせる訪問者に支援の食料を渡し再会を約束して見送るという流れは無事済んだ。
拍子抜けするぐらい簡単に。

「ちょっと心配し過ぎだったのかしら。」
「安心するのはまだ早いと思う、問題はこれからだろ。」
「そうよね、彼等が記憶を蘇らせる苦しみの中で、今後の国家間の話をして行く、今までの五カ国とは基礎になる条件が違い過ぎるから、今まで私達が経験して来なかったトラブルが起こるかも。」
「キング、担当はどうするの?」
「なあ…、あの国の大人は三十一人じゃなかったか?」
「ええ。」
「データ画面を見てみろ、三十人に…、減った。」
「このタイミングで一人死んだってか?」
「彼等に蘇りつつ有る記憶が人の死に繋がるって事?」
「向こうのリーダーとの連絡は?」
「コールしてみるよ。」
「予測していた宗派の違いによる対立だと厳しいかもな、現に死者が出ているみたいだし。」
「セブン、対面時にガードをお願いしていたメンバーを念の為、ゲート前に集めてくれるか。」
「了解。」
「ロック、向こうから避難してくる可能性が有る、受け入れ準備をしてくれるか。」
「分かった、人を集めるよ。」
「あっ、大人が二十九人になったわ。」
「三之助、他の国へ緊急連絡、状況を説明して応援を要請してくれるか。」
「ええ、すぐに。」
「キング、向こうのリーダーが出たわよ。」

彼の国のリーダーは顔をこわばらせながら、過去に対立していた三つのグループメンバーが殺し合いを始めたと、そして子ども達だけでもゲートを通してくれないかと話した。
それに対して、リーダーも含め殺し合いに参加する意思の無い者全員を受け入れると伝え、ゲートの操作を始める。
向こう側は全開放にし、こちらで受け入れ制限を調整する、子ども全員を通行可にした後大人達は連絡を取り合いながら名簿から選択。
後は待つしかない。
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54-避難 [キング-06]

ゲートから最初に現れたのは、片手で乳飲み子を抱え、子どもの手を引いた女性。
八重が翻訳機を使って声を掛ける。
その後、何人か駆け込んで来たが、次々にとは行かず気を揉んだ。
避難は大変だったという。
子どもでさえも容赦なく襲おうとした者もいたそうだ。
半端に蘇って来る記憶に苛立ってもいたのだろう、暴力的な連中に見つからない様にゲートへ向かう途中捕まった者もいたそうだ。
リーダーが現れ、結果十三人の子どもと十二人の大人が和の国へ逃れる事に成功した。

「データ上子どもの人数は変わってないから、残ってる子ども達はまだ無事みたいね、大人は二十三人に減ったわ。」
「そこまで憎しみ合ってた人達がここで同じ国になったのは…。」
「管理者は対立を知らずに同じ人種だと判断したのでしょうね。」
「緊急の問題は大人の内特権階級ではない六人、十八時になったら祖国に強制送還されて罰を受ける事になる訳でしょ。」
「すぐマリアと相談する。」

マリアとは他の国民のいる所では会話出来ない。
自室に戻り呼び出して相談。
七人の子ども達はこちらに転送してくれる事になった、こちらに来た全員が罰を受ける事無く滞在する事も特例として認められた。
皆の所へ戻ると、子ども達はすでに転送されて来ていて抱きしめ合う親子であろう姿も。
問題は向こうに残っている十一人の大人達だ。

「キングどうする?」
「檻を利用しよう、ロック、ゲート前に檻を設置出来るか?」
「ああ、牛用のを持って来るよ。」
「人を殺したらすぐ死ぬという事だから、この十一人はまだ人を殺していないし、殺せば死ぬと分っていると思う。
向こう側のゲート設定は開放状態にしておいて貰ったから、こちらの操作だけでどうにでも出来る。
まあ、彼等の言い分を聞こうじゃないか、もちろん檻の用意をしてからだがね。
一花、難民の皆さんは空いてる住宅へ、麗子は食事の手配を頼む。」
「はい。」
「三之助、他国からの応援は?」
「もう直ぐやって来るわ、今、檻を設置する話もしたから、応援到着後ゲート使用不可になる事も了承済みよ。」
「ゲートの近くに人がいれば良いが。」
「早く落ち着いて欲しいわね。」
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55-ゲート [キング-06]

ゲート前に檻を設置した後、ゲートを開放し石を投げ込んだ。
その合図に対し三人が檻に入って来た。
各国からの応援も含め大勢に取り囲まれ困惑の表情。

「君達はこの世界でどうしたい、殺し合って死にたいのか?」
『い、いや、俺達は殺し合いの場から逃げた。』
「この檻の意味は分かっているのか?」
『ああ、こんな狭い世界で殺し合ってる連中と同類だと思われても仕方ない状況だからな。』
「子どもは?」
『消えてしまった、だからもう何の希望もない。』
「子どもが生きていたら、子どもの為に過去を忘れて働けるか?」
『過去のろくでもない記憶なんていらなかったよ。』
「分かった、今日はここで子どもと過ごせ。」

子どもと再会し食事を振る舞われた男達から危険を感じる事はなかった。

「残ってる連中は夕方になれば全員居住コロニーに戻る、夜の間に向こうのリーダーとゲートの設定を変更しに行く。」
「キング、危険はないのか?」
「大丈夫だろう、直接会う訳でもないからな。」
「念のためにガードとしてついていくよ。」

十八時を過ぎてから六人でゲートをくぐる。
夕日に照らされる風景は随分殺風景で、食料が不足気味とのデータも納得出来る。
国民は全員居住コロニーに戻った様で静かだ。
リーダーの家までは一分も掛からなかった。
家主がドアを開けようとした瞬間、ガード役が止めた。

「待て、トラップの可能性を否定出来るか。」
「残っていたのは、リーダーと敵対していたグループだと聞いてる、トラップによる殺人の罰が仕掛けた人物に振り掛かるかどうか分からないな。」

ガード役の判断は正しかった。
リーダーの部屋に入るまで幾つかのトラップを取り除くのに時間が掛かってしまったが、何とか当初の目的、残る八名を居住コロニーへ閉じ込める事に成功、後はこの国のリーダーの役目だ。
彼はテレビ電話を通して個別に話し合いの場を持ったが良い結果は得られなかった。
翌日以降の課題とし我々は一旦和の国へ戻る事にした。
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56-受け入れ [キング-06]

十五人の大人と二十人の子ども達が城下町で暮らし始めた。
彼等の国に残っている八人は居住コロニーから出られない状態になってはいる。
だが、食料を与える時の他、リーダーとの対話でゲートを開ける可能性も有り、まだ安全とは言い切れない。
一部の大人は昼の間、畑仕事の為などで自国へ戻っている、その手伝いに同行した者達は、我々にとっては魅力に乏しい国土だと話す、だが将来この面積ですら貴重な土地になる可能性は否定出来ない、今以上には荒らさず維持して行きたい。

「麗子、食事は彼等の口に合ってるのか?」
「分からないわ、あの人達がかつて口にしていた味付けが分からないもの。」
「ふふ、大きな声では言えないけど、おいしすぎて怖いそうよ、背徳の味覚なんじゃない、皆さんにとっては。」
「えっ。」
「日本食よ、彼等にとっては長らく対立していた国の食事でもなく、材料に乏しい自国で食べ飽きた食事でもなかったのでしょうね。」
「そうか…、よし、日本食マニアを増やそう。」
「はは、でも、そろそろ自炊の環境も整えてあげないとな。」
「食材とかの相談はしてるのよ、でも今は蘇って来る記憶の整理に追われてる段階で余裕が無いみたいなの。」
「そうだった、しばらくは見守るしかないな。」
「各国から手伝いも来ている、この平和で豊かな社会を見て、何が真実なのか分からないって人もいるのよ、この世界でのスタートやその後の展開も基本は同じだったと知ってね。」
「国民性の違いとかリーダーの力量とかが違ってた訳だな。」
「子ども達は?」
「向こうの三歳以上は五人だから今の所一年生だけで相手して貰ってる、翻訳機は向こうから持ってきた内の二台を子ども専用にした、うちの子ども達は私達が何を期待してるか理解していて先方の子達の不安を和らげているよ。」
「初めての言語に対する反応はどうなんだ?」
「もちろん好奇心の塊だから、四人で言語の分析も始めてる、俺達が思ってた以上に天才かもしれない。」
「残る八人の説得は?」
「記憶の蘇りが落ち着くまではだめかもしれないが、モハメドを手伝ってみようと思う、ヨーロッパとも関係ない第三者だから説得し易いだろう。」
「確かにキングが適任かもしれないな。」
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57-説得 [キング-06]

翌日からリーダーのモハメドに同行、テレビ電話を通して一人ずつ話を聞く。
三日目には八人全員と直接会って話をした。

「キング、彼等はどう? 少しは落ち着いたの?」
「ああ、問題点も整理出来つつ有る、一つは我々が経験した戦争の原因が欧米諸国に有ると信じている事、もう一つはモハメドと対立していたから、今更モハメドの下では暮らしたくないとの事だ。
過去の対立そのものは心の整理が出来つつ有るみたいで、忘れると話してくれた、対立の原因がここにはないと気付かせる事に成功した訳だ、それで今後どうしたいかと尋ねた所、和の国の一員にして欲しいと言われた、差し入れたおいしい食事の力も有ったのだろうな。」
「しかし、それではモハメドが…。」
「今、こっちに来ている大人達と話し合ってる。」
「まあ、問題はないと思うな、昼間はどちらで働いても良いし、他の五か国とは少しづつ距離を縮めて行けば良いだろう、モハメドがどんな結論を下すかだな。」

モハメドが出した結論は私の下に就きたいという事だった。
リーダーとしての資質は国力の差に歴然と現れている、このまま自分がリーダーの地位に留まる事は国民の寿命を短くする事に繋がりかねないと判断、和の国の豊かさを目の当たりにした他の大人達も賛成した。

「四十三人の国民が増えても全く問題はないけど、住居はどうする?」
「落ち着いたら元の居住コロニーへ戻って貰う、ここでの生活は緊急避難に過ぎず彼等に許されている事ではない、仕事の割り振りは、彼等の希望を尊重しながらこちらで行う、ただ余裕は有るのだから急ぐ必要はない。」
「向こうのエリアはどう呼ぶの?」
「過去の地名とかは忘れたいそうだが。」
「こちらを和の国本島、向こうを新島ってどうだ?」
「海が無いから新島って感じじゃないが。」
「それも焦らずに彼等からの提案を待っても良いと思うわ、正式名称が決まるまで暫定的に新島でも良いと思うわよ。」
「そうよね、相談して行きましょう、でも最大の問題は他の国と仲良くしてくれるかどうかよね。」
「誰もあの攻撃の犯人は分かっていない、彼等の歴史を考えたら疑うのは当然だろうがな。」
「説得するにしても根拠がないからやっかいね。」
「時間が掛かっても仕方ないが…、子ども達に変な伝え方をさせない事が最優先だ、他国は敵だとか教えられたら大問題だぞ。」
「そうだな、子ども達の世代の為に我々が有るという事を、彼等にももう一度確認しないといけないな。」
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58-共通語 [キング-06]

全く異なる文化を持つ二つの民族が一つの国家を形成しようという事で、色々な問題が出て来るのは当然。
だが、かつての北海道と沖縄では言語も生活習慣も大きく違った、とは三之助の言葉だ。
彼女がバランスを重視しつつ両者の間に入って調整してくれた事は大きかった。
状況を考えれば和の国の元からの住民が優位に立つであろう事でも、新たな国民の立場を尊重し極力平等になるよう働きかけてくれた。
お互いに戸惑いは有ったがその壁を乗り越えつつ有る。
だが、子ども達の壁は高くなかった。

「子どもはやはり柔軟だな、敵対という概念がないのかな。」
「うちの子達の特性かもしれないわね。」
「子ども達が新しい言葉を教え始めたのは知ってるか?」
「ああ、各国の五歳児にもだろ。」
「今はまだ原始的な言語だが共通語にするそうだ。」
「きっかけは何か有ったの?」
「そりゃあ同じ物に七通りの呼び方が有っては不便極まりないだろう、翻訳機の数には限りが有るからな、で、どうしてキャベツの事をキャベツって呼ぶのか訊かれたから、昔の人がそう呼び始めたからだと話したのさ、そしたら自分達で勝手に決めても良いよねって。
それから四人で相談して共通語を作り始めた訳だ。」
「私達も覚えるべきかしら。」
「今なら簡単だよ、文法もシンプルだし、徐々に単語が増えて行くからね、言語として完成するのは先の事だろう、今は試作の段階で、単語を変更するかもしれないってさ。」
「マリアが関心を示していてな四人の子と話したいそうだ。」
「えっ、キング以外今まで誰とも話してないマリアさまが、う~ん、四人をキングの後継者と考えているのかな。」
「学校をしばらく休みにしても良いだろうか。」
「教える方が追いつかないペースで学習が進んでるから好都合なぐらいだ。」
「私が子ども達に付き添う、担当している業務をモハメドに任せたいと思うがフォローしてくれるか。」
「了解だ、新島もリーダークラスが六人残っていて助かってるからな。」
「では、明日九時から城の六階、一番東の部屋に集合と伝えて欲しい。」
「食事は?」
「運んで貰う事になるかもしれない、その時は連絡する。」
「わかったわ。」

マリアが子ども達と会うというのは大事件だ。
今、管理者と話せるのは六人のリーダーのみ、モハメドの管理者は事件が解決した後、現れなくなっている。
他の国の管理者も現れる回数が極端に減ったという、だがマリアだけは頻繁に私と討論している。
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59-端末 [キング-06]

緊張の面持ちで座っているのは、私と麗子の子北城尊、セブンと一花の子西條翔、三郎と三之助の子東城望、ロックと八重の子南条愛の四人、緊張するなとは言ってみたが無駄だった、マリアはこの世界に於ける神の様な存在だ。

「まずは君達にマリアからのプレゼントが有る、机の上の箱を開けてごらん。」
「あっ、これって翻訳機…、じゃないよね。」
「尊、この端末は翻訳機としても使えるがそれだけじゃない、電話としても使えるし他にもな、各国のリーダークラスが使っている代物だ。」
「それを僕達一人に一台ずつか、すごいや。」
『気に入ったか?』
「あ、マリアさま? 有難う御座います。」
『まずはキングも知らない機能がその端末には備わっている、それを今から教えるが良いか。』
「はい。」

子ども達は元気よく返事をした。
私が知らなかった機能とは翻訳機能への入力だ。
構築中の言語の音声情報、文字情報、言葉の意味といった所を一つの言語と対応させて入力すれば良い、複数の言語と対応させればさらに精度が上がるとマリアに教えられた彼等は夢中になって取り組み始めた。
マリアの口調は私と会話している時より随分優しく感じられる。
食事は部屋に届けて貰う様に指示を出し、子ども達を観察する事に。

『なぜ、私、僕、俺、あたし、といった複数の言葉に対して、一つの言葉を当てはめたのだ、愛。』
「それはね、英語とかだとアイって一つだけで済んでるからなの、私達はなるべく簡単にしようって決めたの。」
『ではアイで良くはないか?』
「英語を使ってる人達は喜ぶだろうけど、そうでない人は抵抗を感じるかもしれないでしょ、良く使う言葉は七つの言葉とは違うものに、全部変えると大変だから物の名前とかはどこかの言葉のを使うけど、なるべく七つの言葉をバランス良く、三之助おばちゃんからのアドバイスよ。」
『国民達がキングに話す時の言葉は少し違うが、どうするのだ、翔?』
「マリアさま、敬語って言うんだけどね、僕らの言葉には要らないんだ、心に尊敬してますってイメージしてたら自然と伝わると考えてね。」
『それは君達が考えた事なのか?』
「もちろんだよ、でも三郎おじさんに話したら、それで良いって。」
『今まで使って来た言葉はどうする、忘れるのか、尊?』
「忘れる必要はないし、今使ってる言葉も嫌いじゃないんだ、ただ、七つの言葉を覚えるのが大変そうな子もいるから共通語をね、色んな国の子達と遊ぶ時に便利でしょ。
それでも自分の国の言葉と、二つを覚える事になるから、なるべく簡単にしようって決めたんだ。」
『成程、では文字にはどんな考えが有るのだ、望?』
「文字はまだ考えてる最中なの、アルファベットは文字数が少なくて便利だけど、漢字は意味があって便利、だからまずは二十の文字でどんな言葉も表せる様にする、その後で漢字みたいなのを作れないかなって考えてるのよ、母さんが漢文というのを教えてくれてね、皆すご~いって思った。
難しいからすぐには出来ないけど、上手に作って覚えたら早く読めるでしょ。」
『ああ、私も興味を持って調べた、子どもにとっては随分難しそうだ、多くを記憶する必要も有る。』
「作るのも覚えるのも大変だけど、難しいと感じない人にとっては便利でしょ。」
『全員が覚える必要は無いという事か。』
「ええ、二十の文字だけでも読み書き出来る様にしてから、良く使う言葉を選んで漢字みたいなのを作ろうって考えてるの。」
『ならば、その端末が役に立つ、食事の後は共通語作りの作業を続けるか、端末の使い方を覚えるか、どちらが良い…、どちらが良いかな?』

子ども達はすぐ結論を出した、端末は彼等にとっては新しい面白いおもちゃでしかない。
色々試しながら四時頃には一通りの操作を把握、初日の学習を終わりとした。
子ども達の能力の高さは感じていたが、これ程までとは考えていなかった、言語に関しても学習能力に関してもだ。
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60-マリア [キング-06]

マリアと子ども達との時間に皆の関心が集まるのは当然の事だ。

「キング、望は端末をマリアさまからのプレゼントだと話していたが本当なのか?」
「ああ、親子の連絡で普通に使っても構わない、彼等は他国のリーダー達とも必要が有れば連絡を取り合える、どうした三之助?」
「子ども達の中でも年長とは言え、優遇され過ぎてはいないかしら、下の子達も端末を受け取れるのなら良いけど。」
「それは明日にでもマリアに訊いてみる、ただ今日は驚かされる事ばかりだった、子ども達の能力が高いとは感じていたが予想以上だった。
驚いたのは子ども達だけでなくマリアもだ。
子ども達との会話がどんどん優しくなって口調までもが、私と話している時とは全く違うものになって行った、終わる頃には、もうすっかりお母さんみたいな話し方だ、子ども達を帰した後、謝意を伝えたら何て話したと思う?」
「何て?」
「あの子達はキング達の子で有ると同時に我々の子でも有る、愛情を持って子どもと接するのは大人の役目だと。」
「う~ん、意味深ね、単純に精神的なものなのか…、子ども達の天才性を考えると…。」
「まあ、俺達の子である事に違いは無いから、あまり気にしないでおこう。」
「その通りだ、端末に関してだが、この八人の端末で子ども達の端末利用履歴が閲覧できる様になった、電話で彼等の会話を聞く事も出来る、但しそれは十六歳になるまでだ。」
「そうか、ではまず、今日の履歴を確認させて貰うよ。」
「子ども達は私達が閲覧出来る事を知ってるの?」
「ああ、翔は何やってるのかお母さんに報告しなくて済むから嬉しいって、マリアに話していた。」
「そんなに根掘り葉掘り訊いて…、いたのかなぁ…。」
「おいおい、何だこの履歴はすごいスピードで端末の機能を…、これって全機能なのか?」
「マリアは現在使用できるすべてを教えたと話していた。」
「おっ、四人で会話を始めたぞ…、今から一時間共通語の入力作業をするそうだ…、あっ、何話しているか分からない。」
「自動翻訳をオンにしてくれ、まだ入力されていない部分は機能しないが有る程度は理解出来る筈だ。」
「…、成程、シンプル故に分かり易い言語かもな。」
「ああ、マリアの意見も取り入れている。」
「子ども達とマリアさまとのやり取りはどんな感じなの。」
「始めは子ども達の緊張も有ってぎこちなかったが、すぐに打ち解けた、何となくだがマリアは子ども達との時間を楽しんでいる様に感じられる、今日は午前中に共通語の入力、午後に端末の操作。
明日は子ども達の質問に答えるそうだ。」
「我々が知り得ていない事を知る可能性はどうかしら。」
「有ると思う、私自身過去に尋ねた事について訊き返す事を控えていたが、国が成長した今なら教えて貰えるかもしれないと考えている、子ども達の質問が楽しみだ。」

楽しみでは有るが怖くも有る。
この先、この世界がどうなって行くのか、まだ分からない。
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