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万里-01 [シトワイヤン-19]

「愛華さん、このカスタードパイ、とっても美味しいです、で、今日の下心は何ですか?」
「そうね、万里ちゃんとは、下心なしでもっと一緒におしゃべりしたいのだけど学校が有って、忙しいでしょ?」
「美味しいおやつが有れば暇だと思いますよ。」
「ホントに?」
「最近は個別の取材依頼を幾つかまとめて受けたりして、忙しくならない様にして貰っています。」
「担当マネージャーに問題は無いのかな?」
「はい、鹿丘小学校への視察や見学も、調整すべきだと先生方に話して下さって効率が良くなりました。」
「一学期のデータを見たら、視察の入る日が多過ぎだったのよ、いくら実験的授業を行っているとは言えね。
でも、清香に嵌められ、天から舞い降りた舞姫になってしまって、舞の撮影とかは大変じゃなかった?」
「撮影は時間が掛かることなく済みましたけど、私は嵌められたのですか?」
「元々、清香が村の守り神なのよ、特に経済面でだけど。
でも、お祭りで守り神なんて話になったら、彼女の場合何をして良いか分からなくてね。
そこで、一計を案じて万里ちゃんに。
そんな事情だから、欲しい物を清香におねだりして良いのよ。」
「おねだりと言われても…。」
「清香村になら家の一軒ぐらい大丈夫だと思うわ。」
「愛華さんは真面目に話しているのですか?」
「ええ、苗川への万里ちゃんの貢献度は、そのまま市民政党若葉にも。
そうね、外観は舞姫の住む家ということで重厚に、でも中に入ると最新家電に囲まれた住み心地抜群のお部屋ってどう?
もちろん学校への送り迎えは村人任せになるでしょうね。」
「それって村のシンボル的な建物ということですか?」
「あっ、そうよね、村にシンボルが有った方が良いわ、うん、万里ちゃんの家を清香村に建てよう。」
「シンボルなら他の建物でも…。」
「万里ちゃんの家が良いのよ、私達の家の近くにね。
別荘だと思って実家と使い分ければ良いわ。
賽銭箱を置いとけばおこずかいには困らないと思う、税金関係はスタッフに任せておけば大丈夫よ。」
「はあ、賽銭箱の有る別荘って不思議な感じですが…。」
「迷える市民達の心の拠り所になるかもね。」
「拠り所か…、人は平等だと言いながら、リーダーだったり王様を有難がったりしますね。」
「実はそんなに平等だと思ってないのよ、個人の能力差も有るし、力の有る人が企業運営をしていなかったら、すぐ倒産してしまうでしょ。
ねえ、人がそれぞれの能力を活かして成り立つ社会は、リーダーの質によって左右されると思わない?」
「そうですね、社会をリードする人達が企業の利益ばかりを追求し過ぎた結果が少子化ですから、バランスのとれた社会を目指して、真に社会の利益を考えるリーダーの育成は急務ですね。」
「ふふ、だから、大人達の意識改革を狙う発言を意識的にしているのでしょ、万里ちゃんは。」
「本間さんは純真な子どもが正論を説くことの影響は大きいと話して下さいました。
私が間違ったことを話しても、すぐ誰かが修正してくれるから、遠慮しないで積極的に話す様に言われています。」
「万里ちゃんが、純真な子ども?」
「純真ですよ、少なくとも愛華さんよりは。」
「ふふ、私だって大人の世界に汚されない様に気を付けているわよ。」
「周りが愛華さんの圧に負けてますものね。」
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万里-02 [シトワイヤン-19]

「実は、鹿丘小学校の本を出そうと考えていてね。
それで、万里ちゃんが報告の形でウエブサイトに上げてる文とかを引用させて貰えないかと思ってさ。
三、四人のチームで完成させるつもりだけど、良かったら、その一人になってくれたら嬉しいのだけど。」
「報告をまとめるだけでも有る程度の量になりますね、複数の人の視点でまとめて行くのは悪くないと思います、それでしたら協力させて下さい、私達の思いを伝えたいです。」
「有難う、それとね、鈴木万里を掘り下げてみたいの。」
「私をですか?」
「小学六年生の女の子が、大人達からそっと拝まれる存在になるまでをね。
今まで万里ちゃんの映像を見た人の中には、なんの台本もなく万里ちゃんが自分の言葉で話しているところでも、しっかりした台本が有って演技してるだけだと思ってる人が少なくないのよ。」
「実際に会ったことがないとそういう感覚かも知れませんが、それで構わないと思います。
でも、そんなにも拝まれていませんよ。」
「遠くからそっとなのよ、見かけた時は極力お話を伺う様にして来たのだけど、皆さん、万里ちゃんが嫌がるだろうから、バレないようにって。
何時も子ども達を見守ってくれて有難う御座います。
苗川を明るく照らして下さって有難う御座います。
その笑顔で私達をお守り下さい、なんてことを考えながら拝んでいらっしゃるそうよ。」
「う~ん、お守りくださいと言われても…、ただの小学生だからな。」
「ふふ、ただの小学生で無いことは、自分でも気付いているのでしょ?」
「まあ、大人にも遠慮なく自分の考えをぶつけるし、小学校のリーダーでは有るけど。」
「智里ちゃんから聞いた話も面白くてね、天から舞い降りた舞姫にもなったことだし、そっと拝まれる少女、鈴木万里、なんてタイトル、どう?」
「え~、本にするおつもりですか?」
「私達としては、天から舞い降りた舞姫が如何に素敵な女の子か多くの人に知って頂きたいのよ。」
「本が売れなかったとしても責任は取れませんよ。」
「大丈夫、ちょっと宣伝するだけでね、市民政党若葉を通して私達には注目が集まってるでしょ。
私達が今まで出してきた本も、しっかり印刷会社や製本会社を潤して来たのよ。」
「私の本も経済活動に役立つのですか?」
「ええ、万里ちゃんが舞う姿や、Citoyenの子ども服に身を包んで微笑む写真も入れるから、思わず買ってしまう人が続出するだけの物に仕上げますからね。」
「そういうことならお断り出来ませんね、利益の使い道は聞いていますので、本間さんも喜んで下さりそうです。」
「ええ、もうお話しして有るわよ、それで一度ご両親のお話を伺いたいのだけど。」
「ふふ、愛華さんと会えるのなら父は大喜びですよ、土曜日なら大丈夫だと思います。」
「それなら…。」
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万里-03 [シトワイヤン-19]

「佐伯さん、今日はお招き頂き有難う御座います。」
「いえ、万里ちゃんにはお世話になっていますし、智里さんや万里ちゃんがどう育って来たのか、とても興味が有りましたので。」
「ですよね、父親の私が言うのもなんですがホントに良い子に育ってくれて。
うちの子達、遺伝子的には同じ筈で容姿的には普通の三姉妹なのですが、性格とか全く違うのですよ。
正義感に熱い智里、優しくて暖かい万里、なまぬるい末娘の実里という感じでしょうか。
能力的に智里も低くは無いのですが、万里は知力がずば抜けて高いだけでなく、不思議な子でも有るのですよ。」
「不思議ですか、確かに小学六年生とは思えなくて、大人が敬語で話しかける光景を何度か目にしました。
小さい頃はどんな不思議ちゃんだったのです?」
「生まれたばかりの病院では、看護師さん達が、こんなに愛らしい新生児は初めてだと口々に。
私は無事に生まれて舞上がっていましたので、そう言われてもピンと来なかったのです。
ただ、退院してからも、万里を見る人の反応が、智里の時とは大きく違いましてね。」
「どう違ったのです?」
「ずっと見ていたい人が続出しましてね、その中に智里もいたのですが。」
「乳児にして人の心を捉えていたのですか…。」
「智里が乳児だった時の写真と比べても、そんなに差はないのですよ。
でも言葉は明らかに早かったです。
初めての言葉が、ねーねかとうたんかで智里と勝負したのですが敢え無く敗北、でも万里に話しかけ、万里と話すのが楽しいのはずっと変わりません。」
「沢山話しかけたから言葉が早かったのでしょうか?」
「必ずしもそうではないみたいですが、子どもには良い刺激になると思います。
万里が生まれてから、何故か乳児に話し掛けるのが近所で流行しましてね。
それがそのまま子ども達とのコミュニケーションを深める事に繋がっているのかも知れません、科学的な根拠の有る事では有りませんが、智里の同級生より万里の同級生の方が、より地域の大人達に馴染んでいまして、『格好良く』が始まった時期とも重なりますので何とも言えませんが。」
「今度学生が聞き取り調査を行いますので担当者に伝えておきます、その辺りから鹿丘小学校の謎に迫れるかも知れません。
万里ちゃんを溺愛している智里さんの存在は如何でしたか?」
「万里を育てたのは智里だと言って良いくらい、万里と一緒でした。
万里が泣いてる理由がすぐに分かる様になるぐらい見てましたね、幼稚園での出来事を語りかけたりしながらです。
それが、小学生なると本の読み聞かせを始めまして。
小学一年生が幼児を膝に乗せてですよ。
同じ本は本人が飽きるみたいで、先生曰く図書室の本を全部読みつくすと言わんばかりのスピードで借りまくっていました。
そのお蔭で、姉妹揃って語彙が豊富になったのだと思います。」
「親だけでは限界が有りますものね。」
「ええ、万里は、お姉ちゃんの話を聞いたり、本を読み聞かせて貰うのが好きだったみたいで、飽きることなく聞いていました。
私の知らない内に智里が教えて自分でも少しずつ読める様になりました。
読む事だけでなく、智里は学校で学習したことを教えていましてね、小二になった智里の計算ミスを幼児の万里が指摘していたのには本当に驚きました。」
「天才児だったのですね。」
「天才の定義は分かりませんが、万里の能力を引き出したのは智里だと思います、幼児期の質問攻めにも智里が応えてくれてました。
親としては英才教育なんて全く考えてなかったのですよ。」
「お子さんが天才児だと気付いて、何かされたのですか?」
「はい、幼稚園に入園前…。」
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万里-04 [シトワイヤン-19]

「ということは、幼稚園入園前に集団と個人の関係を学習していたということですか?」
「ええ、幼稚園には色々な子がいて、その中でどういう立ち位置が望ましいか、智里と相談しながら話し合いました。
こんな子は嫌われるとか、智里と読んだ、本の主人公を参考に一つの理想像、優しいお姉さん像を描いたのです。
幼稚園入園直後には、不安で泣いてる子を慰めて上げたりしたそうで、すぐに皆から頼られる様に。
それが本人も嬉しかったみたいで、夕飯の時とかに話してくれる幼稚園での話は楽しかったですよ。」
「すでにリーダーだったのですね。」
「幼児期は集団で遊ぶことは有りませんので、リーダーと言えるかどうかは微妙なのですが、人間関係の基礎は築けたのでしょう。」
「万里ちゃんが小一の頃に、五年生の智里さん達が『格好の良い子どもになろう』を始めたのですよね。」
「ええ、智里から聞いた時は私達も少し戸惑って、本間さんに相談しました。
そしたら、本間さん、すごく喜んで下さって、時間を作って智里達と話して下さる様になりまして。
そんな時は万里も一緒だったのですが、高学年向けの話を小一の万里が理解してると知って凄く興奮されてたのを覚えています。
そのまま、万里の知的欲求を満たしてくれる大人との時間を作って下さったのですよ。」
「あっ、本間さんから、小学生が教師だけでなく色々な大人と接することの必要性を伺ったことが有ります、子どもの視野を広げる為に。
都会の子は親と教師の他は限られた大人としか接点を持たない、鹿丘の子達は地域の活動を通して大人との接点が有るだけでなく、本間さんが意図的に作った、子どもを少し大人扱いする場が有る事で、中学受験を目指す子達とは違った成長をしているのではないかと聞いています。」
「学力向上を目指しての教育だけでなく、バランスの取れた大人への成長という視点で大人達が接していますからね。
『教育の場に、教師の価値観だけで良いのか』というのが当時本間さんから言われたことです。
でも、本間さんには裏が有りましてね。」
「裏?」
「万里達とどう向き合うかで、その人の人間性が分かるのだとか。
根気良く、子ども達の質問に応えることが出来るかどうか、子どもの人格を尊重出来るかどうか、子どもと接する様子を見て大人達の力量を図っていたそうです。
ですから彼のスタッフは子どもに人気が有るのですよ。」
「万里ちゃんとしては大人と接することをどう捉えていたのでしょう?」
「質問に答えてくれる大人、智里では応えきれないことにも答えてくれる大人を見つけて万里は嬉しかったと思います。」
「ご両親が、質問に答えることは無かったのですか?」
「私達は制限をしていました、彼女の疑問全部に応えていたらきりがないです。
万里の疑問質問にはずっと応えて来ましたが、自分で調べることを覚えた頃には、簡単に答えまで届かないことを考えていて、私達の能力では答えきれなくなっていたのですよ。」
「それでは、小学校の授業は簡単過ぎるので有りませんか?」
「ええ、一年生の頃から教える側でした、それを見た本間さんが、教え合う授業に発展させたのです。」
「凄く濃厚な学習をして来たのでしょうね。」
「はい、何をどの程度理解しているのかは、私にも見当が付きません、本人は普通の小学六年生だと言っているのですが。」
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万里-05 [シトワイヤン-19]

「本間さんはスパー小学生の万里ちゃんに色々手伝って貰ったと話してみえましたが、実際はどのようななことを?」
「そうですね、苗川大改造を進めるに当たりましてね。
まあ、娘達にとって、本間さんからお願いされるのは嬉しいことでしたので、苗川大改造を理解するのに時間は掛からなかったです。
理解した上で、大人達の会議に参加したのですが、本間さんは万里に計画の概要を説明させたのですよ。
それが、実に理路整然としていましてね、改めて鳶が鷹を生んだのだと思いましたね。
それに対して、少しいじわるな質問をする大人がいたのですが、結果、質問者の不勉強が明白になりまして。」
「う~ん、今の万里ちゃんなら大人達を簡単に手懐けても不思議では有りませんが、まだ三年生ぐらいの時の話ですよね。」
「ええ、住民説明会にも何度か呼ばれまして。
苗川の将来を描く時に子どもの存在は大ききいと思いましたが、本間さんは万里がいると大人達の心が暖かくなり、穏やかに話が進むと話しておられました。
急遽依頼を受ける事も有りましたので、それなりにお役に立てていたのだと思います。」
「本間さんは上手く万里ちゃんを利用し…、それなりの見返りは?」
「はは、万里達の成長を後押しして下さっているだけで充分ですが、英会話の先生方を付けて頂いてます。」
「先生方ですか…、それって先生方の研究に付き合わされてるだけではないのですか?」
「かも知れません、ですが最近は洋画を英語字幕で見たりしていますので確実に英語が身に付き始めていると思います。」
「へ~、今度英語で話し掛けてみようかしら。」
「是非、お願いします、使ってこその語学ですから。」
「ですよね、それでしたら今度海外からの来客を苗川に招く予定が有りまして、通訳なしで良ければ万里ちゃんにも同席して貰えると、客人達に喜ばれると思うのですが如何でしょう?」
「好奇心の塊ですから断るとは思えませんね。」
「そこにいてくれるだけで場が和みますので、お願いします。
見返りは…、パソコンをプレゼントさせて頂きたいです。」
「えっ?」
「ちゃんと下心有ってのことですからご心配なさらなくて大丈夫ですよ、ご了解頂いた本をまとめる過程で連絡をスムーズ取り合える様にしておきたいのです。
回線も、こちらの必要経費として扱わさせて頂きますので、速そうなのをもう一回線如何です?」
「そこまで、必要なのかどうか分かりませんが。」
「これから人口が増えると、どうなるか分かりませんよ。」
「はは、まるで勧誘ですね。」
「万里ちゃん自身に金銭欲が有りませんので、せめて色々な意味で環境を整えて上げたいのです、色々な下心を持って接してる一人としましては。」
「では、万里と相談して下さい。」
「はい、有難う御座います。」
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万里-06 [シトワイヤン-19]

「万里、愛華さんとこのパーティー、どうだった?」
「お姉ちゃんのテストと重なったのが残念だったわ、とても楽しかったのよ。」
「ほとんど英語だったのでしょ?」
「ええ、日本じゃないみたいでね、でも私には、ゆっくり話して下さったから、そんなに聞き返さなくて済んだの、でね、私達が普通に使ってる、意識改革とか価値観って言葉を、英語でって考えた事がなかったことに気付いたわ。」
「ふ~ん、そういう単語が交じる会話をしたんだ。」
「和馬さんが手伝って下さって、知らなかった単語を沢山教えて頂いたの。
お姉ちゃん、アメリカと日本は国の成り立ちも大きく違うこともあって、市民としての意識も大きく違うでしょ。」
「歴史を考えたらそうでしょうね、色々教えて頂いたのかな?」
「うん、でも今まで日本のことを中心に学習して来たから、把握し切れてはいないのだけどね。」
「欲張っちゃだめよ、世の中すべてのことを一人の人が理解するなんて不可能なんだから。」
「そうよね、ねえ、お姉ちゃんはGod Bless Americaってアメリカの愛国歌知ってた?」
「え~っと、Jackie Evanchoが歌ってるのを聴いたことが有るわよ、パーティーで聴いたの?」
「なんか話の流れで、皆さん歌い始めたのよ。
愛国歌なんて日本にはないでしょ、それをみんなで歌えるなんて、少し羨ましい気がしたわ。」
「そうね、そういう文化は日本にないし、何時までも敗戦国というのを引きずっている人がいるみたいで、本間さんとは日本をもっと日本人が愛せる国にして日本人が胸を張れる、いえ、日本国籍の人が胸を張れる国にしたいと話してるのよ。」
「そっか、色々考えてしまうな。」
「で、万里はGod Bless Americaを歌えるぐらいに覚えたの?」
「まあね。」
「聴かせてよ。」
「うん、もう少し練習してからね、パーティーの時に紹介して頂いた先生にはネットを通して英語の歌を教えて頂くことになったの。」
「あっ、愛華さんはそれを見越して私達にハイスペックなパソコンを用意して下さったのか。」
「違うわよ、私達をさりげなくこき使う為だわ、でもずるいのよね、働くなら好きな人と働きたいなんて、清香さんや和馬さんとも一緒だから喜んで働きたくなってしまうじゃない。」
「素敵な人の周りには素敵な人が集まる、その一人になってるのだから良いでしょ、私は本間さんにこき使われても平気だな。」
「ふふ、こき使うお人じゃないし、お姉ちゃんの胃袋に満足感を与えて下さるからでしょ。」
「まあ失礼な、胃袋ではなく、舌を満足させて下さると言って下さらないかしら。」
「テスト明けの会合では何をご馳走して頂いたの?」
「それはね…、ひ・み・つ・とっても美味しかったから、万里も本間さんにこき使われなさい。」
「う~ん、ねえ、こき使われるというより、私はいるだけで良いって言われることが多いのだけど、お姉ちゃんはどう思う?」
「そうね、万里といるだけで幸せな気持ちになるのは私だけではないのよ。
本間さんは、万里を見て万里と認識した瞬間から、脳内物質が変化して幸福感をもたらす、という仮説を立ててるの、ねえ初めて会った人達の反応はどうだった?」
「うん、私のこと何も知らなかったと思うのだけど、大袈裟なの、え~っと、世界で最も綺麗で知的な子どもの一人なんだって。」
「大袈裟じゃない普通の感想よ、まあ、アメリカ人にも万里の良さが伝わったという事ね。」
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万里-07 [シトワイヤン-19]

「他にはどんな話をしたの?」
「天才論で少し盛り上がったわ。
愛華さんによると、和馬さんは天才と秀才の中間だけど、私は、完全に天才だって言うのよ。
そしたら、十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人に対して英語には、A man at five may be a fool at fifteen. 五歳で大人並みの子は十五歳では愚か者というのが有るって。
十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人、は早熟なだけで特別な才能を持ってる訳ではないという事でしょ。
英語のは、早熟過ぎると間違いを犯すという事なのか、とか解釈でね。」
「万里は大人に教える事もあるから、単なる早熟とは違うと思う。
天才というより、天から舞い降りた、私の天使だわ。」
「あらっ、私はお母さんから生まれたと思ってた。
でね、人より優れた才能を持っているとしたら、それをどう活かすかが問題でしょ。」
「そうね、万里はどう活かして行くのかな?」
「今は一市民として学び、社会との関係を良好なものに築き上げてる最中だけど、先の事は分からないと話していたら、アメリカの大学へ飛び級で入る話が出て来たの。
社会のリーダーとなる為にって。」
「う~ん、大きくなっても万里の癒しパワーがそのままだったら、有能なリーダーになると思うけど、アメリカへってのは寂しくて絶対嫌だわ。」
「清香さんも日本にいて欲しいとおっしゃって、通信教育とまでは行かなくても、お客様の何人かと交流を続けて行く道を提案して下さったの。」
「あっ、その一人が英語の歌を教えてくれる先生なのか。」
「うん、暫くは四人の先生とメールのやりとりをすることになって、英語力のアップを強制されたようなものね。」
「大変そうだけど。」
「子どもは間違えながら成長して行くものだそうで、細かい事を気にしちゃだめなの、それとメールは清香さんたちにも同時に送って、先生達との間に誤解が生じる様な時は手助けして下さることになったわ。」
「それは心強いわね。」
「何でも、私の成長を感じていたいのだとか。」
「ある意味、下心有りなのか。」
「でもさ、成長が遅いなんて思われたら私のプライドが許さないでしょ。」
「はいはい、英語の学習に付き合うわよ、これから、お父さんとお母さんの前では英語で会話しようか。」
「お母さんはともかく、お父さんとは…、お姉ちゃんはお父さんの事嫌いなの?」
「多分本能、お父さんの事が好きでも結婚出来ないでしょ、親離れは必要なことなのよ、私はまだ上手にやってる方だと思うわよ。」
「じゃあ、私もお父さんに冷たくする様になるのかな。」
「あっ、それって面白いわ、世界中でただ一人、万里から冷たくされるお父さん、その時は私がお父さんを慰めてあげるから心配しなくて良いからね。」
「う、うん。」
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万里-08 [シトワイヤン-19]

「愛華さん、『丘の上の鹿丘小学校』は、良い感じの本になりましたね。」
「ええ、万里ちゃんのお蔭よ、これで子どもを転校させたくなる親が増えるでしょう。」
「急すぎる人口の増加は弊害をもたらすと聞いていますが。」
「まだ、簡単に引っ越して来られる状況にはなってないから大丈夫よ、どう、二学期からの転校生達は?」
「夏休み期間中から交流の有った子が何人かいましたので、スムーズに馴染んで貰えました。
三学期からの転校生は少ないそうですが、四月からは一学年二クラスになる予定で大変そうです。」
「何か対策はするの?」
「転校予定の人達に、休みを利用して遊びに来て貰ったり、ネットで交流という方向で動いて貰っています。」
「万里ちゃんが中学生になると小学校が心配よね。」
「正一達今の五年生に任せますよ、転校して来た子の中にも、しっかりした子がいますので。
もう来年度のクラス分けを意識しながら相談しています。」
「クラス分けは先生が決めるのでしょ?」
「いえ、五年生と先生とで決める方向で話を進めています。」
「そうなんだ、全校児童の事を把握してる万里ちゃんは関わらないの?」
「トラブルが起きない限り、小学校の事には口を出さないつもりです、中学の方が大変そうですし。」
「中学ね、転校生が馴染めていないとか?」
「ええ、小学生より難しい時期なのと、前の学校でトラブって転校という人がいたり、高校進学の問題も有って。」
「特別なフォローが必要かしら?」
「今の所は大丈夫そうです、四月からが少し心配ですけど。」
「万里ちゃんが生徒会長になって導いてあげれば良いんじゃない。」
「先輩を差し置いて生徒会長にはなれません。」
「でも、転校生が馴染む手助けはしてあげるのでしょ。」
「はい、小学生と中学生の違い、お姉ちゃんからは反抗期とか、心と体が大人になって行くことを教えて貰ってます。
自分自身がどう変わって行くのか不安も有りますが。」
「大丈夫よ、万里ちゃんは、そこにいるだけで人を幸せに出来る特殊能力を持っているのだから。」
「え~、そんな能力有りませんよ。」
「学校への行き帰りに暗い顔をした人と出会うこと有る?」
「皆さん笑顔です。」
「万里ちゃんにとっては当たり前のことでも、普通はそうじゃないのよ、朝は沢山の人と挨拶を交わすのでしょ?」
「ええ。」
「万里ちゃんの登校に合わせて、家の前の掃除、お散歩、通勤を遠回りしてる人も結構いるのよ。」
「あっ、そう言われると…、家と駅の位置を考えたら不自然な方も結構…。」
「鈴木万里に関して聞き取り調査をしてるチームが驚いていたのよ、万里ちゃんの通学時だけ歩行者が一気に増えるって。」
「え~、知らなかった。」
「万里ちゃんの舞姿、ポスターや色々作ったでしょ、そのどれもが凄く売れてるのよ、もちろんBlu-rayやDVDもね。」
「あれは曲が良かったからです。」
「ふふ、CM出演のオファーが来始めているそうなの、良い経験になるから適度に受けなさいね。
で、色々お金が入って来るから使い道を考えておきなさいよ。」
「はい、銀行に預けたままのお金は寝てるも同然だからって、清香さんから苗川名物を製造販売する会社のオーナーを勧められて、少し調べています。」
「面白そうじゃない、それで?」
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万里-09 [シトワイヤン-19]

「名物ってパッケージに苗川名物と印刷するだけなのですよ。
別に、昔から有った物でなくても、名物だと言った者勝ちみたいな、だから名物に旨い物なし、なんて言葉が有るのかも知れません。
それでも苗川名物とするなら、そこそこ美味しくて日持ちがするのは絶対条件です。
お姉ちゃんはパッケージに私の写真を使い、合格祈願とか、縁結び、安産祈願とか入れておけば絶対売れるって言うのですよ。
私と安産がどう結び付くのか疑問に思いません?」
「何でも良いのよ、神社のご利益だって、尤もらしい故事来歴を謳っていても、今で言う演出家の創作かも知れないでしょ。
万里ちゃんが安産を願ってます、で、誤魔化せば良いのよ。」
「そうか、誤魔化すんだ、私のイメージが悪くなりそうだな~。」
「良いのよ、天から舞い降りた舞姫がパワーを分けて上げるのだから、問題は商品ね。」
「お姉ちゃんは幾つかの高校の部活とかに打診して、新しい苗川名物コンテストを進めています。」
「えっ、そこまで話が進んでいたの。」
「商品化に関しては先輩達を動かすことも考えているのですよ。」
「へー、智里さんってそんなことまで。」
「苗川って、今まで特に観光地だった訳でもなく、名物ってなかったのです、だから清香さんが勧めて下さったのです。
その製造販売会社が従業員に優しい会社であれば、苗川市民が増えることに繋がりますでしょ。」
「そうね、でも、そうなると万里ちゃんのおこずかいだけで足りるかどうかが問題ね。」
「あっ、愛華さんは、鈴木智里を軽く見てませんか?」
「ん、智里さんは…、言われてみれば本間さんの懐刀か、私には万里ちゃんの自慢話オンリーな人なんだけど。」
「私が筆頭株主となる会社立ち上げを画策しています、安定雇用の場を増やせば、若者の流出を食い止められるとか。」
「ふむ、地元での就職先はまだ十分ではないのか、あっ、バックには本間さん…。
ねえ、取材させて貰って良いかな、そうね、起業を目指す小学生達、なんてインパクトが有るわ。」
「私より、お姉ちゃんに光を当てて欲しいかな、私は何もしてないのだから。」
「うん、良いかも、万里ちゃんを溺愛する智里さんの存在もアピールして行きましょう。
ねえ、彼女、最近になってまた背が伸びてない?」
「そうなんですよ~、身長差が更に広がって、私の身長が三ミリ伸びる間に五センチくらい伸びてるみたいで、お蔭で私の小ささが目立ってしまうのです。」
「小っちゃくて可愛くて良いじゃない。」
「良くないです、身長では五年生に随分抜かされてしまって、お姉ちゃんが六年生の時は中学生に間違われるぐらいだったのですよ。」
「遺伝って面白いわね、同じ親の遺伝子を受け継いでる筈でも個性が有って。」
「でも、妹は私達と比べられて少し可哀そうなんです、他の三年生と比べても全然劣ってないのに。」
「う~ん、万里ちゃんの妹という立場か…、まあ、悩んで大きくなって行くのよ。
万里ちゃんの妹ということで得することも有るだろうし。」
「どうかしらね…。」
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万里-10 [シトワイヤン-19]

「『天から舞い降りた舞姫、鈴木万里』、なかなかの出来じゃない。」
「お姉ちゃん、流石に恥ずかしいというか照れ臭いというか…。」
「これで万里のファンが一気に増えるわね。」
「全然売れなかったりして。」
「それは無いわよ、予約だけで二万部なんだから、思わず印税を計算してしまったわ。
鹿丘小学校の本やCM出演を合わせたら税金を納めても結構な額になるでしょ。」
「そうなのよね、CM一本であんなに頂けるとは思ってなかった、裏で和馬さん達が動いて下さったみたいだけど。」
「オファーが有った中から、出演本数を絞ることでCMの内容や条件をこちらに有利な様にして貰ったのでしょ。
でも完成したCMを見せて貰ったけどアレならギャラがもっと高くても良いぐらい、お金だけで人の価値が決まる訳ではないけど、やはり万里は最高だわ。」
「その金額に合わせて社会的責任が大きくなるのよね。」
「そうね、それを分かってない大人が少なからずいるから、社会のバランスが良くならないのだけど。」
「ねえ、起業には足りるの?」
「大丈夫だけど、ほんとはギャラで海外旅行とかに行きたくなかったの?」
「そっちは、別のおサイフが有るから大丈夫よ。
メール交換してる人から春休みに遊びに来ないかって、お姉ちゃんもアメリカ西海岸行くでしょ?
費用全部にお小遣い付き、テレビ出演が条件なんだけど。」
「私も?」
「私を一人で見知らぬ土地へ旅立たせるの?」
「それはあり得ないけど、お父さんには?」
「お姉ちゃんが一緒ならって。」
「そうね…、微妙な時期では有るけど、今から分かっていて調整出来なかったら無能な管理者だわ、詳細は?」
「メールで相談になるけど、和馬さん達が同時期に渡米する話も有ってね。」
「一緒なら安心だけど頼り過ぎては駄目よね。」
「ふふ、愛華さんは色々下心の有る人だから堂々と頼れば良いのよ。」
「何だかんだ万里を表に出して稼いでるのよね、でもその利益は社会へ還元だから、断れないのでしょ。」
「うん、清香さんからの起業の話だって、地方の活性化が目的だものね。
私がお金に困ることは無いから安心して良いと話して下さって、保証人でも何でも引き受けるから、思い切った企業運営を社長に命じなさいって。」
「政党を作ったら政権交代で与党に、会社のオーナーになったと思ったら、その会社はどんどん規模拡大、凄い人達なのよね、でも、万里もその一員になりつつ有るのよね。」
「ふふ、お姉ちゃんもでしょ。」
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