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F組三国志 12 舘内亜美 ブログトップ

F組三国志 12-1 [F組三国志 12 舘内亜美]

黒川くんがチェロやってたなんてびっくりした。
びっくりしすぎて、あ~ん、みんなにバレバレだったかな~。
どうしよう。
でも、黒川くんやさしいからなぁ~、気配りしてくれるし。
ふふ、球技大会のことや演奏のことで話すこと多くなりそう。
ピアノやってて良かった。
でもチェロとじゃ、簡単に演奏できないか…。
みんなの前で演奏する前に一回ぐらいは二人で合わせておけないかなぁ~。

「ねえ、亜美。」
「うん、な、何?」
「外、誰かいない?」
「そうね。」

あっ、戸が開く。

「みなさん、おじゃましてもいいですか~。」
「おじゃましま~す。」

あれ? 確か早川さん、チーム赤澤の…。
えっ? 教育実習で来ていた小山先生?
他の人たちは…。

「あ~、早川さん遊びにきてくれたのね。」
「はは、表向きは調査とか研究だけどね、ちゃんと学校側の許可も得てあるから、はい、テストの打ち上げへ差し入れよ~。」
「おお~!」
「テスト前の調査では、みんなも余裕無かったろうから色々聞けなかったけど…、もう今日のホームルームの時間も過ぎたでしょ。」
「確かに、もう帰ってもいい時間だな。」
「え~、私が来たのに帰るの?」
「い、いえ、か、帰りません。」
「ははは。」

「じゃあ、みんなに紹介しなきゃいけないな。
え~っと、遊びに来てくれたのは、チーム赤澤のメンバーでね、まずはさっき話題になったプロジェクトFのチーフ矢野さん。」
「矢野です、もう一度高校一年生を経験するつもりで、みなさんのことを教えていただけたらと思っています。
よろしくお願いします。」
「早川さんからは自己紹介でいいかな?」
「はい、リーダー。
プロジェクトF、サブチーフの早川です。
もう顔見知りの人も少なくないですよね。
我らがリーダー、赤澤省吾の足跡を記すなんてことの担当です。」
「えっと…、小山です、ってみんな知ってるよな。」
「はは、小山先生もチーム赤澤に参加してたのですか?」
「ああ、入れてもらったって感じかな、赤澤くんの取り組みにはすごく興味があるからね。
教育実習との兼ね合いで問題があるかと思ったんだけど、きちんと学校側の許可をもらえたからね。」
「大学生にとって、チーム赤澤ってどうなんです?
リーダーが高校生で…。」
「はは、リーダーから学んだことは多いから、年齢は関係ないかも…。」
「よね、私も省吾さんの視点にドキってさせられること多いから。」
「俺は省吾さまから学べって言われている、こいつにね。」
「はは、高山です。
経営学を専攻していて…、リーダー、プロジェクトのことは?」
「もう発表済みだよ。」
「ならば…、プロジェクト梶田のチーフなんで、みんなよろしく。
とかくリーダーって言うと年長者のイメージがあるけど、若くても優秀ならちょっと面白いと思って、俺はチーム作りから参加しているんだ。
企業の経営者だって、若い人がなることもあるからね。」
「私は高島みどり、教育学を専攻していてリーダーのお父さまのお世話にもなっています。
プロジェクトFのメンバーなので、よろしくね。」
「俺は…。」

十人も来てくれたのね、高校側の了解も得てるってことは、ほんとに真面目な取り組みなんだ~。

「じゃあここからは、差し入れをいただきながらとしましょうか。」
「あっ、ちょっと待って。」
「矢野さん?」
「美咲ちゃん、ビッグニュースがあるんだ。」
「えっ、なに?」
「さっき俺たちは職員室へ挨拶に行ったんだけどね、先生方がF組のことで盛り上がっていてさ。」
「昨日までに終わったテストでF組はぶっちぎりなんだって。」
「現代社会や英語の先生は早々と採点を済ませたそうなの。」
「現社では他のクラスの平均が六十~七十に対してF組は九十点を越してるって。」
「英語は他のクラス平均五十~六十に対してF組はあと少しで九十点ってとこなんだって。」
「やった~!」
「他の先生方も気になってF組から採点してるそうなんだけど、百点を含め高得点続出、もちろん不正の形跡は見受けられないって。」
「当たり前だよ~。」
「不正行為があると不自然な回答になって結構わかるそうなの。」
「うわ~、ということはテスト団体戦、またも僅差ってことか?」
「ふふ、私は団体戦のことより他のクラスに勝てたことが嬉しいわ、ね、美咲さま。」
「うん。」

「さ~、ジュースも用意したから、紙コップ回して。」
「みんな輪を広げて、チーム赤澤の人たちにも入ってもらって…、でも椅子がないわね…。」
「はは立食形式にしようぜ。」
「座ってられない気分。」
「よし、椅子と机の配置を変えるか。」
「おう。」

「みんなジュース持って。」
「おう、哲平。」
「F組の勝利を祝して、かんぱ~い。」
「かんぱ~い。」

はは、みんなも嬉しそうだ。
がんばったもんな。
えっと…、うふ、黒川くんめっけ。
小山先生たちと話してるのか。

「あっ、黒川くん、実習の時はありがとうね。」
「へへ、大したことしてませんよ、小山先生。」
「ねえ小山さん、F組の鶴翼の陣ってどうだったの?」
「はい、早川さん…。
あれはね~、前に立った時のプレッシャー強かったな~。
黒川くんたちの、授業に真剣に取り組もうって目で囲まれるんだよ。
他のクラスを無難にこなしてきた自信があっさり崩れ去った。」
「先生に対する攻撃的布陣って、省吾さん言ってたけど。」
「うん、あのプレッシャーに応えるだけの力量が自分にあったら、すごく良い授業ができる場だったと思う。
生徒の自発性に基づくものだからね。
残念ながら、自分にはまだそれだけの力量がなかった。
黒川くんたちに助けられてなんとか終わらせることができたけど…。
一回目は特にひどかったんだ、指導の大久保先生から何も言われなくて、ほっとしたって程度さ。」
「はは、そりゃあ大久保先生もF組に関しては…、早川さん、俺たちの数学教師は実質的には省吾なんです。
省吾が動いて、テスト範囲まで小山先生に一気に済ませてもらったから、後は自習中心になって。
大久保先生の授業、最近受けてないな。」
「へ~、自習ってどんな感じだったの?」
「わいわいがやがや。」
「ふふ、そんなに真面目でもなかったんだ。」
「とんでもない、わいわいがやがやと、みんなで数学に取り組んでいたって感じ。
黙々と問題に取り組んでいて、わかんないことがあると、教師役の人に聞いたり、この問題はテストに出そうだって思った人はみんなに解いてみてって提案したり。
難しい問題は省吾の説明をみんなで聞いたり。
とにかく省吾の説明は先生よりわかり易いからね。」
「確かにそうだ、赤澤くんのプリントは、クラスのレベルに合っているって感じた。」
「そっか、じゃあそのプリント、見せてもらおうかな。」
「そう言えば、早川さんたち、今日は調査じゃないんですか?」
「ふふ、してるわよ、みんなでね、ほら、あちこちで会話がはずんでるでしょ。」
「ええ。」
「いかにも調査します、って感じじゃ、よそ行きの答えしか返ってこないって、省吾さんに言われてね。」
「う~ん…、そんな話しを聞くと、ほんとに省吾がリーダーなんだって思えるな。」
「ふふ、チーム赤澤って省吾さんのお父さまのチームって思っている人も結構いるみたいだけどね。」

そうか、省吾さまって美咲さまと話してる時なんか、普通の高校生なのにね~。
ラブラブだし。
あ~、私も黒川くんと…。

「淳一、球技大会の打ち合わせしよ、加藤さんも連れてきたし、ああ、舘内さんここにいたんだ。」
「おっけい、じゃあ小山先生も早川さんもゆっくりしていって下さいね。」
「うん、ありがとう。」
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F組三国志 12-2 [F組三国志 12 舘内亜美]

「淳一、これ、美咲さまから預かってきた、種目の希望リスト。」
「確かにバスケが多いな。」
「ね、ねえ男子のバスケってどんな感じなの淳一さん…、えっと、淳一さんって呼んでも良いよね。」
「ああ構わないけど。」
「はは、亜美ったら黒川くんにすごく積極的じゃない?」
「えっ、それは…、ほら、ちさとからの提案もあったじゃない。
林くんも、美咲さまって呼んでるし。」
「あらっ、徹さんって呼ばないの?」
「はは、淳一はどうなんだ? お前、鈍感じゃないだろ。」
「えっと亜美さんって呼べば良いのかな。」
「できれば、亜美って。」
「うん。」
「亜美ったら…。」
「えっ、え~っと、今まで一緒のチームでやってきて…、優しくてね、淳一さんは…。」
「おいおい、俺たちの前で告ってるようなもんだぞ、その発言。」
「俺も、亜美のこと真面目で明るくて…、いいなって。」
「あらっ、いきなりカップル成立?」
「俺らの前でか? う~ん、淳一に先越されたって気分だな。
「ふふ、徹くんも人気がないわけじゃないからね。」
「ほんと? 加藤さん。」
「それじゃあ、だめね、ちゃんと朋美って呼んでくんなきゃ、クラスの仲間でしょ。」
「おう。」
「ふふ、お二人だけの時間を差し上げたいけど、やることがありますからね。
まずは男子バスケから、ふふ、淳一さん、どう?」
「ああ、そう、えっとね、バスケ部以外で一番うまいのは哲平なんだ。
シュートの成功率が高いのは、お師匠さまと森かな。」
「確かにこの三人は外せない、動き回れて良いパスを出せるのは嶋大地と露木雄斗のあたりか。」
「バスケは勝ちに行きたいから、理由も話せばみんな納得してくれるんじゃないか…、なあ、徹。」
「ああ、俺も淳一もバスケ希望だったから、とりあえず二人は納得ってことだね。」
「はは、じゃあ、バレーは?」
「男子は、まだ、体育でやってないんだよ。」
「みんなの力量が全くわからない。」
「多分、哲平はうまいんだろうけど、バスケと両方はだめだからな。」
「球技大会までって結構クラスの自由になる時間あるのよね?」
「うん、そうだ、勉強ばかりでなまった体をほぐす時間を作ってもらうか?」
「そうね。」
「女子はどう?」
「バスケは纐纈榛がダントツ、やっぱダンスで鍛えてるってことかしら。」
「シュートの成功率では麻里子かな。」
「へ~。」
「ここぞって時の集中力ってことかしら。」
「後は溝口里美とか、でもこの表見るとバスケそんなにうまくない人の希望が多い気もするよね、朋美。」
「だって、バレーって手が痛くなるし、ドッジも当たったら痛いし。」
「はあ~、女子バスケ人気の秘密は痛くないからってことか…。」
「はは、ねえ、斉藤さんってどうなの? 体格いいけどさ。」
「確かにいいけど…。」
「ドッジ向きなんじゃない?」
「そうよね。」
「力あるし、バスケのパスがどこへ飛んでいくか分からないことも多いから、ははドッジならすごい戦力かも。」
「でも本人はバスケ希望なんだよね。」
「徹くんから話せば了承してくれるんじゃないかな。」
「えっ?」
「ふふ、まあ、そういうことよ。」
「う~ん、淳一は亜美さんで、俺は斉藤さんってこと?」
「不満そうね。」
「だってさ…。」
「はは、じゃあバスケのメンバーはみんなにお願いして調整する、バレーの方は、みんなでやってみてからってことでいいかな。」
「ええ、メンバー表は前日までに提出すればいいそうだから、残った人はドッジボールということになるのね。」
「後、俺たちのやることは?」
「作戦を練るか?」
「うん。」
「ねえ、スケジュール確認して応援の調整もしとかない?」
「そうだね、応援でF組の団結をアピールしたいよね。」
「そんなことも含めて、各自考えてきて、明日以降にまた話し合ってことで、どう?」
「了解。」
「じゃあ徹くん行くわよ。」
「行くわよって?」
「お二人のじゃまをする気?」
「あっ、そうか。」
「さあ、斉藤さんのとこでも行く?」
「かんべんしてよ~。」

はは徹くんあせってる。
あっ、っと…、何かどさくさにまぎれて…、さっき、私、なんか大胆なこと口にしちゃったかも…。
あ~、今頃ドキドキしてきた…。

「ね、亜美、ほんとに俺でいいのか?」
「は、はい…、えっと、ごめんなさい…、何か私…、でも前からで…、淳一さんが、美咲さまに気を使ったりしてるの見てたら、何かもっと一緒にって気になってきて…、えっと、その~、テストも終わって…、あたし何言ってんだろ…、あ~、やっぱりご迷惑でしたか…。」
「とんでもない、亜美と一緒に勉強してて楽しかったし。」
「わ、私もです。」
「あ、あのさ、演奏のことなんだけど。」
「はい。」
「みんなの前で演奏するまでに時間が取れたら、合わせておきたいけど、だめなら俺の演奏を録音して渡そうか?」
「は、はい、曲は?」
「サンサーンスの白鳥とかどうかな?」
「わ~、良いですね~、私も好きです…、演奏したことはないけど、知ってる曲なら早く仕上げることができるので…。
淳一さんは普段どこで練習してるのですか?」
「家で…、そうだ、うちに来る? ピアノもあるからさ。」
「行きたい。」
「う~ん、でも女の子一人だけ呼ぶのは、まだはずかしいかな…。」
「誰か誘ってみます。」
「うん、えっと…、楽譜はどうする?」
「帰りに買いに行きます、それぐらいのお金持っていますから。」
「一緒に行こうか。」
「うん、嬉しい。」
「亜美ってさ。」
「なあに?」
「嬉しい時は嬉しいってはっきり言うタイプだよね。」
「へへ、単純なんです、私。」
「いや、亜美の良いところだと思う。」
「そう言って下さる淳一さん、素敵です。」
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F組三国志 12-3 [F組三国志 12 舘内亜美]

へ~、ここが淳一さんの家か。
結構大きいな。

「みなさんようこそ、さ、どうぞ。」
「おじゃまします。」
「いらっしゃい、ゆっくりしていって下さいな。」
「今日は俺と母さんだけだから気を使わないでね。
母さん、こちらが省吾さま、チーム赤澤のリーダー、隣が美咲さま、クラスの委員長をしてくれている。」
「うわさは聞いてますよ、後ろの方は大学生なのよね。」
「はい、自分は髙尾和彦です、よろしくお願いします。」
「私は、早川玲名です、今日はこの後も予定があって、運転手役ということでおじゃまさせていただきました、よろしくお願いします。」
「お二人とも国立の?」
「ええ、大学では省吾リーダーのお父さまにお世話になっています。」

「さ、みんなこっちへ来て。」
「ピアノが置いてあって広いリビングね~。」
「へ~。」
「うちは家族みんなで演奏することもあってね、最近は回数減ったけど。
亜美、ピアノはちゃんと調律してもらってあるからね。」
「うわ~、弾いてもいいですか?」
「もちろん、皆さんはお茶でもいかがです。」

いいピアノだ…。
子どもの情景でも聴いていただこうかな…。

家のリビングにグランドピアノがあるなんて、うらやましい。
音の響きも違う…、このピアノ。
こんないいピアノ弾くの初めてだ。
あっ、淳一さんが立ち上がった。

チェロを用意して、もう、いつでも演奏できるって感じで私の演奏を聴いてくれてる。
チューニングも私たちが来る前に済ませておいてくれたのね。
じゃあ、シューマンは自然な感じで終わらせて、うふ、淳一さんと目が合った…。
演奏の姿勢に変わったから、準備おっけいってことね。
さて、淳一さんの白鳥、聴かせていただきましょうか。

行くわよ…。
あっ、優しくて綺麗な響き…、コンクール優勝ってほんとだったんだ…。
白鳥ってこんなにも…。

こんなにも…。

えっ、えっ、私、涙が、楽譜が見えない…。
でも弾ける、弾く、ずっと淳一さんのチェロを聴いていたい、一緒に演奏していたい…。

あ~、終わっちゃう、いやだ~。

…、即興変奏曲、始めちゃったけど…。
よかった、淳一さん応えてくれてる。
私、すごく幸せ。

ふ~、そろそろ終わりかな。
うん、淳一さんもそんな感じだ。

私の生涯で最高の出来だった気がするけど…、えっと涙を拭いて、演奏中に涙が出てくるなんて初めて。
あっ、拍手か…。

あっ、美咲さま涙を浮かべて、そりゃ淳一さんのチェロすごかったもんな。
あれっ、私、なんかくらくらする…。

淳一さんがこっちへ来てくれる、も~、素敵、大好き、え~い。

「おお~すごい演奏だったけど、亜美ったら大胆だ~。」
「お母さまもびっくりしたんじゃ…、あ、お母さまも涙目だ。」
「す、すごかったわ、淳一が最近変わってきたとは思ってたけど、こんなかわいらしいお嬢さんとお付き合いしてたの?」
「母さん亜美だよ。」
「ピアノ素晴らしかった、ううん、淳一の演奏も今まで最高だった。」
「俺もすごいって思う、二人のバランスがめちゃいいし、まさかこんなハイレベルな演奏を聴けるなんて思ってもいなかった。
途中から変奏曲に変わったけど、何時の間に練習したの?
今日、初めてって言ってなかった?」
「省吾、即興だったんだ、亜美は本物だよ。」
「亜美さん大丈夫?」
「ちょっと疲れたみたい、俺もずいぶん集中してたから…。」
「亜美さん、すごく幸せそうな顔してる。」
「酸欠か過呼吸か…、でも静かにしてれば大丈夫じゃないかな、顔色もそんなに悪くないし。」
「おい、淳一もぼんやりしてないか?」
「あっ、ああ、亜美のピアノがこんなレベルだなんて思ってもいなかった…。」
「二人がお互いの才能を引き出したってことかな。」
「うん、今まで、チェロを弾いてきてこんな感覚は初めてなんだ…。
母さんうちわってなかったっけ。」
「あっ、そうね…、あったあった、はい。」
「ありがとう。」

「やさし~、あおいであげて。」
「美咲さま、亜美、少し汗かいてるみたいだから。」

あれっ? なんか気持ちいい風が…。
淳一さんの顔が近くに見える…。
チェロは…、え~っと…。

「亜美、気分はどう?」
「うん、淳一さん、最高に幸せ。」
「そりゃ、そうだろうな。」
「えっ? あっ、あれっ? 私、私ったらっ…。」
「いきなり淳一に抱きつくからびっくりしたぞ。」
「えっ、私、あ~ん、淳一さんのお母さまもみえるのに、ど、どうしよう。」
「このままでいいよ、母さんも亜美のピアノ気に入ったってさ。」
「えっ、ほんと、チェロすごく優しくて、も~、好きよって言ったら愛してるって応えてくれて。」
「だったね。」
「あ~、でもでも私ったら、起きなきゃ。
あれっ、淳一さん…。」
「しばらくこのままでいいよ。」
「でもでも、みんな見てるし。」
「関係ない、暑くないか?」
「うん…、もう少しこうしてていいの?」
「ああ、誰も文句言わないからさ。」
「はは、文句なんて言えないよな~、これじゃあ。」

「ねえ、黒川くん、CDとか出してみない?」
「えっ? 髙尾さん、俺、そんなレベルじゃないですよ。」
「そうかな、う~ん、確かに沢山売ろうと思ったら、それまでの過程が大変で難しいかもしれないけど、二人の演奏の記録ということで作って、無理せずに、売れる範囲で売るって感じでも、制作費ぐらいは回収できると思うんだけどね。」
「そうなんですか?」
「CDは著作権とか販売経費とか、まあ会社の利益とかで、一枚当たりそれなりの金額になるんだけど、CDの物としての制作経費なんてたいしたことないだ。
で、チーム赤澤の経営学専攻メンバーとしては、将来の活動に向けて資金の確保ということも考えていてね。」
「どういうこと、省吾?」
「淳一、チーム赤澤自体は営利目的の団体ではないんだけどね。
活動資金はあるに越したことはないってことなんだ。
現時点では知り合いの教授とかからカンパいただいてるけど、できれば寄付とかじゃなく、経営学、経済学部生の実習や研究も兼ねて自力で稼げないかって取り組みなんだ。
チームを入会金や会費で運営するより面白いでしょ。」
「そのまま会社を起こしてしまえたら、さらに面白いとも考えているよ。
省吾リーダーには社長か会長になってもらってね。」
「自分はチェロで協力できるってことですか?」
「協力してもらえないかな。」
「そういうことなら…、でも全然売れなかったら?」
「最低ライン以上に、口コミだけで売れるから心配しないで、録音も、それなりの機材を使えるあてがあるんだ。」
「亜美、どう?」
「淳一さんと演奏できたら嬉しい。」
「はは、お母さん、いかがですか?
自分たちの真面目な取り組みの一環として、契約書もきちんとしますのでお許しいただけないでしょうか。」
「お願いします。」
「私の一存ではお約束できませんけど…、そうね学校の勉強の妨げにならない範囲でなら。」
「あっ、それなら。」
「亜美、どうした? 急に。」
「ね、淳一さんはお母さまにお話ししたのテストのこと。」
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F組三国志 12-4 [F組三国志 12 舘内亜美]

「お母さま、私たちがんばってるんです。
淳一さんテストで学年五位だったんですよ。」
「ふふ、そうだったわね、亜美さんはどうだったの?」
「はい、学年で九位に入れました、夢みたいなことなんですけど、省吾さまや、淳一さんのおかげなんです。」
「省吾さまは?」
「学年トップです、美咲さまが七位、F組で学年十三位まで独占、五十位までに三十一人、名前が張り出された上位百位までに三十八人ってすごいと思いませんか、F組って?
その仕掛け人が省吾さまなんですよ、先生の力でなく省吾さま中心にみんなでがんばった結果なんです。」
「そこまではとは聞いてなかったわ。」
「その省吾さまがリーダーを勤めるのチーム赤澤のお役に立てたら私、とても嬉しいんです。」
「そうなの…。」

「でもどうやって、そんな結果出せたの? 秘密?」
「秘密じゃないわよね、リーダー?」
「うん、早川さんも知ってるでしょ。」
「ふふ、きっかけはテストの団体戦なのよね。」
「まあ、そこまでのいきさつは色々あったけど…、クラスを三つに分けてテストに取り組む、スポーツの団体戦みたいにって提案を、F組のみんなにさせてもらったんです。」
「それは、淳一からも聞いているけど。」
「それにみんなが応えてくれて、テストって基本的に個人戦じゃないですか。
だから、上を目指す人は自分のためにがんばるし、気のない人は適当にってことになるんです。
でも、団体戦となると、チームのためにという気持ちが出て、まず個人のモチベーションが上がる訳です。
実際、各チームのリーダーたちがみんなを引っ張ってくれて、テストに対して取り組む姿勢が大きく変わりました。」
「それだけで、あの結果が?」
「いえ、それだけではありません。
団体戦となると自分だけでなく、他のメンバーのことも考えることになります。
つまり、理解の遅れているメンバーへの助言ということもします。
それによって、つまり教えることによって、自分の理解の再確認ができたのです。
今回、テストで上位に入った人たちは、みな、教える側の役割もしっかりやってくれた人たちで、そう、淳一も亜美もです。
もう一つ大きなポイントになったのは、第一回数学小テスト団体戦でクラスとしての結果を出せたことです。
範囲が狭いこともあって、自分も期待はしていたのですが、F組のクラス内三チームで競った結果、F組は平均点で他のクラスと大きな差をつけました。
このことは、みんなの自信につながっただけでなく、今度はクラスとして他のクラスに勝とう、F組で協力して他のクラスに勝とうという意識を目覚めさせることとなったのです。
結果、今回のテスト対策企画も盛り上がりまして、ちょっと他のクラスの人に申し訳ないレベルでテスト対策が進みました。」
「淳一が、F組は最高って言ってたのは、そういうことだったのか。」
「はい、でも、自分たちの高校は中学でそれなりに結果を出せた人たちが入ってきている訳ですから、他のクラスにだって優秀な人は沢山います。
そんな中でさらに上を目指して、そうですね、クラスで協力しよう、結果を出そうってモチベーションが上がった所で、次のステップへの提案もさせてもらいました。」
「えっ、次のステップ?」
「はい、学習への取り組み方の再確認です。
学習への取り組み方は大きく分けると、自分から取り組むか受身かに分かれます。
モチベーションが上がってきたところで、今まで受身だった人には自発的な取り組みを提案しました。
実は、与えられた問題集を命ぜられるがままに解き、答え合わせをしてもらって、間違った所を教えてもらって、なんて学習を中学時代やっていた人もいたのです。
完全に受身で、例えそれで結果を出せても、大切なことが抜け落ちていて、本当に学習した意味があるのか疑問に感じます。
まずは、自分で考えて、自分で決める、そんなことを提案させてもらいました。
仲間に助言を求め参考にすることは悪くないことです。
でも自分で考える前に、どの問題やったら良いかなんて人に相談するような姿勢では、上は目指せませんから。」
「そうよね。」
「すでに、自分から取り組めている人たちへは、時間の使い方とかの工夫を提案しています。
学習時間が長ければそれだけ結果を出せる、という考え方もあります。
間違ってないかもしれませんが、短い時間でより良い結果を出せたら、自分たちの高校生活がより豊かなものになるんじゃないかと思うんです。
淳一も亜美も、自分にとって、より効率的な学習ということを考え始めています。
そんなことも一人で考えるのでなく、みんなで助言しあったりしてるんです。」
「う~ん、省吾さまは…、本当に高校一年生なの?」
「えっ、普通の高一ですけど。」
「はは、大学の講義受けてたみたいだったけど、お母さま、我らがリーダーの力、感じていただけましたか。」
「はい早川さん、淳一が予備校へも塾へも行かないって言う理由がよく分かったわ。
省吾さまが、みなさんから、お師匠さまって呼ばれている意味もね。
そうだ、淳一の予備校とかの費用にって考えてたお金、チーム赤澤で生かしてもらえないかしら、CD作るのだって、ただとはいかないでしょ。
赤澤省吾先生へのお礼の気持ちを込めて、どうかしら。」
「えっ、本当ですか? 助かります、それなら初期の資金の一部として…。」
「リーダー、やっぱ株式で行きますか?」
「髙尾さん、その方がみんなの勉強にもなるんでしょ?」
「はい、じゃあプロジェクト発足できそうですよね…、え~っとプロジェクト…。」
「やっぱ今日の演奏を記念して、プロジェクトスワン、プロジェクトSでもいいけど、どうかな?」
「いいかも、みんなと相談してみます。
チーフは俺でもいいですよね、リーダー?」
「大丈夫じゃないかな、高山さんたちとも相談してくれれば…、まずはプロジェクトの企画書お願いしますね。」
「はい。」
「あわてなくて良いけど…、初期投資にどれぐらいかかるか、その回収までの見込みはどうか、ってとこぐらいまではみんなが安心して取り組めるレベルのをお願いします。
CDの方は、そうだな、シングル作るコストとアルバム作るコストを考えたら、そんなに違わないと思うからアルバムにしたらどう? 淳一たちの演奏だけでアルバム一枚というのが難しそうだったら、大学のサークルとかと共同制作というのも有りかもね。
ただ、下手な演奏を無理に入れるのはかんべんして欲しいけど。」
「了解です、ただ、この後、自分らはテストとかレポート提出なんて時期になるんですが…、でもその前後の時間を使って早めに何とか…。」
「髙尾さん、まず自分のスケジュールきちんと決めといてくれないかな。
これから、プロジェクト立ち上げの準備に入る訳だけど、まずは、その準備に向けた準備ってことでさ。」
「あっ、そうか、下準備、前準備ってことですね。」
「大きな動きだけは自分も掴んでおきたいから、その報告お願いしますね。」
「了解です。」

「へ~、ほんとに省吾さまが、リーダーなのね、指示もちゃんとしてる。」
「はい、正真正銘我らがリーダーですよ。
自分もチーム赤澤のプロジェクトに参加したくて、できればチーフとして一つのプロジェクトを起こしてみたいと思ってたんです。
自分一人で何かやろうと思っても簡単にはいきません、でも省吾リーダーの周りに集まってくる仲間となら何かできると思っているんです。」

F組のこと分かってたつもりだったけど、省吾さまから改めて説明を聞くと、すごいって感じる。
でも、まだまだこれから変化して発展していく予定もあるのよね…。
チーム赤澤の活動もなんか楽しそう。
私も、淳一さんと一緒に登録させてもらったけど、何か思わぬ展開になってきた。
勉強もピアノも、ふふ恋も…、がんばらなくっちゃ。
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F組三国志 12-5 [F組三国志 12 舘内亜美]

「なあ、省吾からF組の学年順位が今後下がっていくってこと母さんに話しておいてもらえないかな。」
「ああ、そうだな、誤解されてもいけないから。」
「下がっていくことが予定に入っているの?」
「はい、みんな今後もがんばるって言ってます。
ただ、F組で成功した取り組みを、F組だけで終わらせたくないとも思っているのです。
今回F組で作った予想問題は、先輩方の協力もいただいて過去の問題も参考にしています。
おかげで、かなり中身の濃い予想問題となったのですが、今回はF組外へは漏らさないようお願いしていたんです。
インパクトのある結果を出したかったからで、その目的は達成されたと思っています。
で、今後は他のクラスとも、競い合ったり協力し合ったりということも視野に入れています。
その中で学年のレベルアップということを目標にして、今後の敵は全国の進学校です。
F組、みんなの学年順位は下がっても、偏差値は上がる、全国模試を受ける人の結果に注目って取り組みです。」
「そうか、自分たちだけのことじゃなく、みんなのことを考えているのね。」
「はい、みんなも納得してくれています。
二年になったらクラスも変わりますからね、今から協力し合っていれば、その時、他のクラスの人たちとも早く仲良くなれると思うんです。」
「先のことも考えてるんだ…。
じゃあ淳一が、がんばってるかどうか、私ははどう判断すれば良いのかしら?」
「そうですね、クラスの数を考えてみて下さい。
淳一のクラス順位は五位、八クラス有りますから、単純計算なら学年四十位でもおかしくありません。
もちろん淳一は目標をもっと上においています。
得点は、これから変化が予想されます。
学年平均が上がると、より難しい問題を出す先生も出てくるでしょうから。」
「ということは、点数も順位も下がるってことなの? リーダー。」
「表面的にはね。
それと、テストのことばかり考えていたのでは、つまらない高校生活になってしまうから、無理はして欲しくないとも思っていて…、ま、そのあたりの取り組みも考えてはいます。
淳一みたいに、テストで結果を出しつつ、コンクールで優勝して、ちゃんと彼女もいる、なんてのは理想だけど。」
「そうよね、私も惚れそうだな。」
「早川さん…。」
「ふふ、亜美ちゃん、また淳一くんにしがみついて、大丈夫よ取ったりしないから。」
「あっ、私…、今日…、お母さまの前なのに…。」
「じゃあ私から一言お母さまに、普段の亜美、舘内亜美は真面目で明るい人なんです。
面倒見も良くてクラスのためにも色々積極的に動いていてくれる…、そう、いい加減な人じゃなくて素敵な人なんです。」
「ありがとう、美咲さま。
それにね真っ直ぐな人なんだよ母さん、嬉しい時は嬉しいって、はっきり言ってくれる。」
「う~ん、淳一も、なんか急に大人になったわね。」

「えっと私…。」
「どうしたの? 亜美さん。」
私、今日、ちょっと、淳一さんのチェロにびっくりしてしまって、あの…、ちょっと…、ごめんなさいです…。」
「亜美さんは、淳一のことどう思ってるの?」
「そ、そりゃもう、大好きです!」
「なら、なにも謝ることはないわよ。」
「は、はい…。」
「そうね、淳一が高校生の内は孫の顔は見たくないけど。」
「えっ? え~! やっだ~!」
「はは、うちの親と同じだな。」
「ふふ、うちの母さんは早く孫の顔が見たいって言ってるけどね。」
「あら、省吾さまたちのところは両親、ご両家公認なの?」
「はは、美咲は俺が紹介する前から両親に気に入られて…。」
「もう、あれは、麻里子の陰謀よ。」
「俺は何となく美咲の母さんに気に入っていただけたみたいで。」
「母さん息子ができたって喜んでるんです、省吾は家も近いから良く遊びに来てくれて…。
? 遊びに来るというより勉強かクラスの仕事ばかりだったかも。」
「はは、勉強にクラスの仕事、省吾リーダーは美咲ちゃんとのデートの口実作りにがんばったのよね。」
「もちろん、色々考えたさ。」
「ははは。」
「えっと、お母さま、私、また来ても良いですか?」
「ええ、ぜひいらして下さいな、亜美さん、ピアノも弾いてね。」
「はい。 有難うございます、こんな素晴らしいピアノ弾いたの私、初めてなんです。」
「ふふ、ちゃんと楽器のことも分かっていたんだ。
このピアノはね、私のお婆さまがお使いになってたものでね、古くても本当の職人が丹精込めて仕上げた逸品。
この家を建てる時もこのピアノをリビングの中心に据えるというところから設計を始めてもらったぐらいの、私の宝物なのよ。」
「そう言えばさ、俺の使ってるチェロって…。」
「そのチェロは、私のお爺さまが使ってた物で、ふふ、安物じゃないんですよ。
淳一は、バイオリンやってたのに、このチェロ見つけたら弾きたいって言い出したのよね。」
「駿が俺の使ってたバイオリン使いたいって言ってたこともあるけど、子ども心に惹かれるものがあった…。
でも、さすがに最初は苦労した。」
「そりゃ、小学生にとってチェロは大きすぎたろうな。」
「あっ、それじゃあ、淳一くんの、ひいお婆さまとひいお爺さまがこのピアノとそのチェロで一緒に演奏してたってこと?」
「ええ、美咲さん、私は小さい頃に聞いたのが最後だったから良く覚えてないけど、写真は残っているのよ。」
「うわ~、その楽器でひ孫が演奏なんて…、なんか浪漫を感じさせるな~、二人の演奏神がかり的だったし。」
「う~ん…、お二人の霊が楽器を通して淳一くんたちに…。」
「よして下さいよ、髙尾さん。」
「私、それでもいい。」
「亜美。」
「だって、すごくあったかくて優しかったんだもの、ピアノの音、自分が弾いてるなんて思えないぐらいに。」
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