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お祭り-01 [シトワイヤン-17]

私は鈴木智里、県立高校の一年生。
色々有って、高校生ながら市長の手伝いをしている。
もうすぐ夏休み、神社のお祭りと苗川市民祭の準備期間中。

「智里、お祭りの準備は大丈夫なの、今年は規模が大きくなるのでしょ、私達手伝わなくて良いの?」
「大丈夫よ、大きくなったのは運営スタッフをやりたい人や団体が増えたからなの、梨花は自分達のステージを頑張ってくれたらそれで良いのよ。」
「大人に交じっての実行委員、智里なら大丈夫なんだろうけど、立ち上げたばかりの苗川高校生部会も有るでしょ、そっちは市外からの参加も多いと聞いたけど。」
「私の知らない参加者は、市内でバイトしてる先輩方が中心なのよ。
苗川大改造のことは私の妹レベルぐらいに理解しての参加だから心配いらないわ。
組織編成は先輩方が自主的にしてくれてるの。」
「万里ちゃんレベルぐらいなら大丈夫なのね、テレビ見たわよ、ネットのノーカット版も、相変わらず可愛いのにしっかりしてて。」
「ふふ、私の宝物ですからね、今年のお祭り、雑用は任せて万里と一緒に回るの。」
「相変わらずシスコンなのね、万里ちゃん達、去年は出番が多かったけど、今年は?」
「小学生スタッフは五年生中心にと指示を出しておいたわ。」
「それって、万里ちゃんと一緒に回りたいからだとしたら職権乱用ね。」
「違うわよ、六年生スタッフは普段から色々頑張ってるの、祭りの準備とかも、だからお祭りの本番ぐらいはね、五年生に経験を積ませなきゃいけないし。」
「まあ、そういうことにしといてあげるわ、万里ちゃんなら歩くだけでお祭りが盛り上がりそうだしね。」
「そうなのよ、万里の可愛さに大人達はメロメロメロンパンなんだから。」
「知ってる、母さんとテレビ見てたのだけど、母さんも夢中、おかげで万里ちゃんのことに詳しくなったわ。」
「ほほ~、ならば最近の写真をばお見せしようじゃないか。」
「見たい見たい!」
「時をかける双子コーデ、えっとね…、まず私の六年生の頃の写真。」
「おお~、流石にまだ純真そうだわ~。」
「で、こっちが同じ服を着て同じ場所で写した万里。」
「おお…、可愛い~! 姉妹でも少し違うのね。」
「妹の方が美人系でしょ、身長は私より低いのだけど。」
「ふふ、智里は男の子と喧嘩するぐらいだったけど、万里ちゃんはお母さんみたいに優しいと聞いたわ。」
「そうなの、本当に良い子に育って、可愛くて癒されるし、難しい話でもちゃんと話し相手になってくれて、私の天使なんだから。」
「はは、智里は万里ちゃんが小っちゃい頃から何時も連れまわしていたよね。」
「だって、お姉ちゃんなんだもん。
あっ、そろそろ行かねば、今日は本間市長のお宅で食事しながら情報交換なのよ。」
「食べ過ぎに気をつけてね、高校生代表。」
「うん。」
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お祭り-02 [シトワイヤン-17]

本間市長のお宅では、月イチのペースで市長のブレーンが集まり情報交換会を開いている。
早めに行って準備の手伝いをするのは何時もの事なのだが…。

「こんにちは~、あれっ、奥さん、今日は早いのですね。」
「ええ、智里ちゃんこんにちは、今日は愛華さん達が手伝って下さって準備は大丈夫なのよ。」
「えっ、あの愛華さんですか?」
「初対面なのでしょ?」
「ええ、小学校へは時々顔を出されているそうですが、私はタイミングが悪くてお会いしたこと無かったのです。」
「じゃあ、紹介するから二階へ行きましょう。」
「はい。」

挨拶を済ませ。

「万里ちゃんが高校生になるとこんな素敵な御嬢さんになるのね。」
「いえいえ、万里はもっと美人になります、姉の私が言うのですから間違い有りません、私が六年生の時よりうんと美人なのですよ。」
「ふふ、あの美少女がどう成長して行くのか楽しみだわ。
それでね、小学生の頃からスタッフとして頑張って来た智里さんと、小学校では校長以上に尊敬されてるという万里ちゃんは、今年のお祭り、主に観客目線で動くのでしょ。」
「はい、私は少し挨拶するぐらい、万里はイベント広場で一回だけ舞を披露、後は万里と楽しむつもりです。」
「市民祭二週間の期間中何回ぐらいになりそう?」
「そうですね、神社の祭礼二日間以外は六回のイベントを予定しています。
後は万里次第で…、あまり疲れさせたく無いのですが…、少しお疲れぐらいの万里は甘えん坊さんになって一段と可愛いのですよ、だからと言って辛く成る様では駄目なので、その絶妙なバランスを狙っています。」
「はは、奥さんからシスコンとは聞いてましたけど筋金入りなのね。
そのお出かけの時に、うちでコーデしたのを着て欲しいのだけど、もちろんOKよね。」
「万里から聞きましたよ、愛華さんは少し強引な所が有るって、この間万里が頂いた服に合わせるのですか?」
「そこはスタッフ次第になるわね、写真は本間さんに見せて貰ってたのだけど、思ってたより身長差が有るから。」
「あっ、親子みたいな感じでも構いませんよ、万里は私が幼稚園児の頃に生んだ子なんです~。」
「ふふ、ちょっと試着してくれるかしら。」
「はい。」
試着しながら。
「姉妹と言っても色々なのよね、智里さんが万里ちゃんを溺愛するのは何か有ったの?」
「万里が生まれるまで両親の仕事の関係で少し寂しい思いを、周りの子には兄弟がいるのに一人っ子状態ということも有りまして。
ですから、万里が生まれた時は嬉しくて嬉しくて。」
「妹に親の愛情を持って行かれる的なのは?」
「無かったですね、むしろ親と一緒に子育てをするのが楽しくて。
父に手伝って貰ってオムツを替えたりしてたのですよ。
話しかけたり、ただ見てたり、どうして泣いてるのか分かる様になるぐらいに一緒だったのです。
あっ、おっぱいを上げられないのは悔しかったかも。
母が仕事に復帰する頃には、育児メンバーの一員になっていまして、万里が初めて話したのは、ねえね、なんですよ…。」

あ~、万里の話になると止まらない…。
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お祭り-03 [シトワイヤン-17]

愛華さんと万里の話を沢山したから何時も以上に気分良く会議へ望めた。
特に何かを決める会議ではなく、皆さんからの報告や気付いた事を聞くのがメイン、堅苦しい会ではない。
先にゴミ焼却場などの話を済ませ、話題は市民祭に。

「設備は安全面に問題の無い様、計画段階からチェックをして貰っています。
設営が始まったら消防団が火器を使う所を中心に安全確認作業を行いますが、運営に係わるスタッフ全員、小学生から老人クラブまで気付いた事が有れば些細な事でも教えて欲しいとお願いして有ります。」
「はい、高校生以下に関しまして確認しました、市民祭期間中は安全確認を怠らない様、声掛けをして行きます。」
「毎年の事だからと気が緩まない様に、安全確認は大勢の目でお願いします。
ログハウス村のチェーンソーを使うイベントとかは注意する人も多いと思うのですが、昨年は神社の祭礼に予想をはるかに上回る来場者が有っての混乱、油断大敵です。」
「でしたね、智里ちゃん、今年も万里ちゃん舞ってくれるの?」
「はい、神社の方は五年生に任せまして、観客が多くても良い様にイベント広場の方で時間を作りました。」
「小さかった頃の智里ちゃんの舞も良かったよ、姉妹で舞うということは考えてないの?」
「はは、私は万里の舞を見て幸せに浸っていたいです。」
「今一つ読めないのが神社での舞を見に来る来場者数なんですよ、昨年は明らかに万里ちゃん目当てだったじゃないですか、対策はして有るのですが。」
「多過ぎる時は入場制限してイベント広場へ誘導なんでしょ、神事なんてことを気にしてる人は少ないから大丈夫なんだけど、イベント広場を宣伝し過ぎると、神社の方が寂しくなり兼ねないわね。」
「まあ、儂らは見物に行くし、五年生達は親戚が見に来てくれるぐらいが良いみたいだよ、間違っても万里ちゃんと比べない様に気を付けてやれな。」
「子ども達には舞の練習を頑張ったと褒めて有ります、出来栄えは二の次ですし、彼らにとって万里ちゃんは別格ですから大丈夫でしょう、なあ智里ちゃん。」
「はい、小中学生は少し転校生が増えただけで特に問題は無さそうです。」
「問題は新規の団体かな?」
「苗川高校生部会は、先輩方が積極的に手伝ってくれそうです。
大まかな人員配置をしていますが、状況に応じて真っ先に動くチームと考えて下さい。」
「それは頼もしいね。」
「苗川での就職を考えている人も少なくないのです、苗川の目指しているものに憧れてその一員になりたいという人も。
すでに染まってる人が多くて皆さん格好良いのですよ。
バイトの時に、同じ価値観の人に囲まれ少しずつ変われて、それが他でも自然に出せる様になり、自分って自分が思ってたより良い奴なのだと気付かされたそうです。」
「俺もそうだったな、まあ、俺達は凡人なのだが…、なあ、智里ちゃん達はこのまま聖人君子とかになって行くのか?」
「それはないですよ、最近の私は反抗期みたいですし、万里はイタズラもするのですよ。」
「どんなイタズラを?」
「伊藤さん、最近、片付けようと思っていた古紙が、トイレから戻ったら無くなっていたなんて経験有りませんでしたか。」
「あっ、離れていたのは大した時間じゃなかったし、周りの皆は自分の作業を普通にしていて、狐につままれた気分…、儂が耄碌した訳ではなかったのか…。」
「あの場にいた子ども達が犯人なのです。」
「子ども達は、お茶を入れてくれたり、何時も通り優しかったから訊くに聞けなかった…。」
「イタズラも格好良くなのか。」
「まあ、腰の調子が少し悪かったのを見抜かれていたのかも知れない、そういう子達だよ。」
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お祭り-04 [シトワイヤン-17]

神社関連のお祭り実行委員会と市民祭実行委員会は別組織として動いている。

「神社関係は概ね例年通りなのですね。」
「ええ、スタッフの入れ替えを行っていますが、要所要所はリーダー格が押さえます。
今年、規模を拡大した市民祭は如何です。」
「市民祭は規模こそ大きくなりましたが、二週間という事で、会場も日程も分散させ無駄に人が集中しない様に調整しました。
ライブ関連が一番心配ですが、若手が特別スタッフチケットを用意しましてね。」
「スタッフチケット?」
「スタッフグッズ込の価格なので一般のチケットより高い上、会場整理を手伝う事が条件なのです。
スタッフ心得を守ると署名した上でスタッフグッズを受け取る形ですが、一般チケットより売れてるそうです。」
「はは、会場がスタッフばかりなら安心だな。」
「問題がなければ今後ライブイベントの回数を増やしたいそうです、地方都市に若者文化が定着することの意味は大きいですから。」
「それは間違いない、ライブハウスの話はどうなっています?」
「乾社長が進めて下さっています、平日昼間はお年寄りによる大正琴の演奏も有りだそうで。」
「なるほど効率が良さそうだな。
乾社長と言えば、山田さん、担当社員として清香村イベントは如何ですか?」
「はい、普段入る事の出来ない高級別荘地でのイベントは、枠を抑えた事も有ってか、料金を高めに設定したにも拘らず、すぐに完売しました。
敷地内の散策やバーベキューといった企画で新人教育を兼ねます。
小学校の敷地をお借りして行う水遊びイベントは、教室の利用許可を頂きましたので、天候急変時でも安心です。
皆さんには、企画を検討する段階から私ども移住者が動き易い様ご配慮頂きまして感謝しています。」
「夏の屋外イベントは限られますからね、使う水鉄砲は、そのレベルが違うと聞きましたが。」
「はい、別荘オーナーの息子さんが色々試してみたいと用意して下さいまして、別荘地で試した時は、水の届く距離が微妙で盛り上がっていました。
小学校では子どもが楽しめる様に色々なゲームを設定してあります。」
「別荘オーナー関係の方が遊びに来られるとかは有りますか?」
「はい、皆さん楽しみにしておられます。
警備に配慮が必要な方の情報は随時本部へ入れさせて頂く手筈になっています。」
「テレビ局の取材関連は如何です?」
「私が把握しているのは別荘の取材のみです、市民祭関連が有れば直接本部へ行ってると思うのですが。」
「はい何本か来ています、ただ昨年は突然の取材が有りまして、少し混乱しました。」
「アポなしでしたら、原則お断りで構わないと思います、毅然とした態度が必要だと思います。
宣伝したいと考えている店を紹介してお引き取り願うとかで。」
「う~ん、そうですね、紹介はしてあげたいが、市民祭期間中、情報は上手く共有出来るのかな。
システムは出来ていても、運用するのは人です、自分の作業に集中している人ばかりだと…。」
「まあ、イレギュラーなんだから気にしなくて良いだろう。
事前申し込みのない取材はお断りさせて頂きますと明記して有るのだから。」
「お断りして印象が悪くなるということは?」
「気にし始めたらきりがないでしょ。」
「事前申し込みも出来ない奴に限って、悪意有る誘導記事を書きそうなんですよ。
大手の新聞社ですら偏向報道をし、民意を誘導しようとしていますからね。
ネット情報なんて個人的な感想や推測だけで書かれたものが少なく無いです。」
「情報化社会では有るのだろうけど、一部では要注意情報に溢れた社会になってしまってるのよね。
市民政党若葉主催のトークイベントでも、この問題を大きく取り上げる方向にしますわ。」
「市民政党若葉のイメージを落としたいと考えてる輩もいるからな。」
「そんな勢力に負けない為には工夫も必要かな…。」

市民祭実行委員会のメンバーは市民政党若葉苗川支部を立ち上げた人が中心になっている。
市民祭の間、社会問題に関する真面目なイベントが幾つか有るのだが、その規模が年々拡大しているのも苗川市民祭の特徴だと思う。
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お祭り-05 [シトワイヤン-17]

市民祭での私の役目は主に相談に応えること。
中三だった昨年は、仕切る立場だったが今年は一歩引いてスタッフ達を支える立場。
高校生スタッフと大人のスタッフを繋いだりした。
ただ、市民政党若葉党支部システムに送られて来る準備状況の報告に問題は無く、思っていたより学習が捗り、市民祭初日のオープニングイベントを迎える頃には、夏休みの課題を終え予習に重点を置くことが出来た。

「お姉ちゃん、今日のオープニングイベント、途中で着替えるのよね、服は持ってかなくて良いの?」
「そっちは愛華さんとこのスタッフ任せ、今日の万里は着せ替え人形となって大人達のされるがままとなり、舞台に華を添えるのよ。」
「客席で見てるだけの筈だったのに。」
「うん、始めは予定に無かったのだけど、客席にいるより舞台上の方が安心出来ると警備担当に言われて断れなかったのよ。」
「愛華さんの陰謀じゃなかったの?」
「その匂いもするし客席を確保したいとか、疑い出すときりがないのだけど、万里が席に辿り着くまで何人の人に声を掛けられるかを想像したら、関係者の控室や舞台にいた方が楽だという結論に達したのよ、客席の暇人と違ってスタッフには仕事が有るでしょ。」

出掛ける前は家でこんな話をしていたのだけど、会場入りして、早速テレビ局のクルーが取材に来たことを考えると、警備担当の判断は間違っていなかったのだと思う。
オープニングセレモニーでは姉妹で巫女さん風の衣装を纏い、市民祭の開会宣言をした。
後は…。

「お姉ちゃん、市民合唱団、随分上手になったわね。」
「ええ、移住して来た人の中に指導の上手な人がいてレベルアップしたとは聞いてたけど、思ってた以上だわ。」

合唱団の演奏が終わり、舞台袖で…。

「万里ちゃん、去年よりは上手になったでしょ。」
「ええ、とっても。」
「万里ちゃんが見ててくれたから安心して歌えたのよ。」
「俺は、愛の歌を万里ちゃんに向けて歌ったんだ。」
「はは、禿親父では迷惑よね。」
「なんか変な感覚だけど、子どもの頃、お母さん見ててって縄跳びしたりしてたの思い出したな、万里ちゃんに見てて貰えて。」
「私も嬉しかったわ、お守り代わりに万里ちゃんの写真を持ってたけど、ご本人がいてくれて。」
「はい、皆さ~ん、控室へ移動しますよ~。」

「えっと、万里って、市民合唱団の何?」
「知り合いが多いかな。」
「それだけ?」
「指揮をしてみえた方は移住して来た方だけど、音楽の授業で合唱指導して下さったの。」
「そういう交流も有るのね。
次は…、中学のブラスバンド…。」
「万里ちゃん、見ててね。」
「お~、ラッキー、万里ちゃんが見ていてくれるなら何時も以上の演奏が出来そうだぜ。」
「今日の演奏は万里ちゃんに捧げるわ、みんな良いでしょ。」
「おう、気合が入るぜ。」

私の大切な妹は、知らぬ間に特別な存在に…。
顔見知りばかりだが、私には軽く会釈する程度なのだ。
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お祭り-06 [シトワイヤン-17]

イベント中、幕間に軽く私達のトークを挟む。

「お姉ちゃん、今年の市民祭はイベントが増えたね。」
「ええ、二週間に渡ってあちこちに分かれてだから、全部回るのは不可能になったわ。
万里はどのイベントに興味が有るの?」
「市内のサークル紹介、参加型イベント、中学生になったら何か始めたいのよ。」
「スポーツ?」
「う~ん、しごかれるのは駄目かも。」
「文科系だって、しごきがきついかもよ。」
「そうなの?」
「ブラバンや合唱だって体力勝負なんだから。」
「そっか、私、姉ちゃんほど逞しくないからな。」
「そうね、少しだけなら筋肉をつけても良いわよ。」
「少しだけ?」
「筋肉ムキムキの万里なんて見たくな~い。」
「そんな根性有りませ~ん。」
「でも、問題はサークル関係者の方ね。」
「何が問題なの?」
「皆さん、万里を是非うちへと、虎視眈々と狙ってそうでしょ。」
「そうかしら?」
「はい、次は万里を一番狙ってそうな老人会、古城クラブの歌と踊りです。」
「私に参加資格が有るのかしら?」
「では、どうぞ~。」

演奏が始まった、舞台裏で。

「さすがだね、智里ちゃんと万里ちゃんが登場するだけで会場の雰囲気が変わるよ。」
「そうですか?」
「紹介は三組が交代で担当してるが、二人の時だけだよ、演奏の時より観客が舞台に集中しているのは。」
「まあ、超絶美少女、万里の姿を瞼に焼き付けたいでしょうからね。」
「姉として妹に嫉妬するとかないの?」
「世界で一番大好きな万里に嫉妬なんてしませんよ、ね、万里。」
「お姉さま~、おやつはアイスが良いです~。」
「はい、はい。」
「あっ、おやつは私が用意するよ、好きな銘柄とか有れば教えてね。」
「えっと、お姉ちゃんは…。」

万里自身、こういった話題は好きではないので話をすぐにはぐらかす。
でも、冷静におやつをゲットすること忘れていない、良く出来た妹なのだ。
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お祭り-07 [シトワイヤン-17]

オープニングイベントは市民祭期間中の各イベントを紹介することが目的でも有り、各出演者の持ち時間は短い。
その為舞台裏は大変で、終盤、舞台セットの入れ替えに思わぬトラブルが発生、私達の出番となる。
プログラムには無いトークタイムだ。

「ねえ、苗川は、これから神社のお祭りに市民祭なんだけど、万里はお祭りについて考えたこと有る?」
「そうね、お祭りと言っても色々なのよね、神社の祭礼は宗教的な意味合いが有るけど、市民祭は皆で楽しんだり、真面目なイベントも。」
「何も考えずにたこ焼き食べてる子がいそうだけど。」
「ふふ、それも大切だと思うな、お祭りでたこ焼き食べたというのが苗川の想い出になるかも知れないでしょ。
ちっちゃい頃のお祭りでさ、お姉ちゃんにおんぶして貰ってほっこりしてたら、お姉ちゃん、何かの順番がどうとかで男の子と喧嘩を始めたことがあったよね。」
「はは、私は負ける気しなかった、でも、あの連中は万里の安全を考えてくれて、それで直ぐに収まったのだけど、あの時、万里は何考えてたの?」
「お姉ちゃん、頑張れ~って。
でね、こんな話をお婆さんになった私達はお茶を頂きながら想い出話として語り合うのよ。
そんな事が、お祭りの大切な目的なんだと思うわ。」
「お祭りの委員を歴任してきた私としては、もう少し深い意味とか…。」
「はいはい、お姉ちゃんの話は後で聞いてあげるからね。
会場の皆さんにお願いします、市民祭の期間中、子ども達が危ない思いをせずに楽しい想い出を作れる様に、もちろん大きくなった子ども達も楽しんで下さいね。」
『は~い!』
「万里ったら、大きい子ども達まで手懐けて…。」
「お祭りはね、地域のみんなが年齢に関係なく一緒に準備し、一緒に楽しむ事が大切なのよ。」
「そうね、そこがお祭りの大切なところでしょ、普段の生活では接することのない人とも触れあってさ。」
「うん、お菓子を頂いたりね。」
「万里は花より団子か、でもそれだけなの?」
「学校生活だけでは経験出来ない様々なことを教えて頂いてます。」
「万里は私が小学生だった時とは違うのよね。」
「ふふ、お姉ちゃんは納得のいかない事に対して、すぐ喧嘩腰だったのでしょ、私には真似出来ないわ。」
「はは、中学生の頃はそうだったかしら…。」
「でも、お姉ちゃんみたいな人がいて、組織がまとまって行くのよ。」
「もう、ナマ言って。」
「皆さん、こんな姉ですが、今回の市民祭に合わせて動き始めた苗川高校生部会でも活躍して…、ねえ、お姉ちゃん、苗川高校生部会は今日のイベントで表に出てないから、ここで紹介させて頂いたらどう?」
「そうね…。」

思っていたより、準備に手間取ったお蔭で色々な話をさせて頂けた。
舞台上での万里とのトークは途中から万里のペース、その辺りから会場が盛り上がったと思う。
何を話せば良いのか私以上に分かっている、そんな妹なのだ。
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お祭り-08 [シトワイヤン-17]

神社へは浴衣を着て出かけた。
もちろん、お目当ては屋台。
食べ物すべてを姉妹で分け合うのは、量より種類を楽しみたいから。
万里が口を付けた残りを私が受け取るが、念の為、私も残り全部を食べず、近くで飢えた顔をしてる連中の餌に、市民祭の期間中は特に美味しい物を頂く機会が多いので注意が必要なのだ。
万里目当ての人垣が出来ているが、皆さんマナーを守って下さるので普通に楽しめている。

「高橋さん、たこ焼きの売れ行きは如何です?」
「おう、万里ちゃん上々だよ、どう、一つ味見する?」
「そうね、一つ下さい。」
「智里ちゃんの分と二つ、俺の奢りで良いよ。」
「いえ、二人で分けるから一つ、ね、この浴衣どうです?」
「似合ってるが…、なんか同じのを良く見てる気がする…。」
「Citoyenのなの、私がモデルでね。」
「なるほど。」
「ちゃんとモデル料を頂いてるのよ、だから利益が社会福祉に使われる高橋さんの売り上げに貢献させてね。」
「分かったよ、はい、どうぞ。」
「有難う。」
「万里、たこ焼きは私が先よ。」
「うん。」
「熱いからね、ちょっと待ってって…、ふ~ふ~、もぐもぐ、うん大丈夫ね、はい、あ~ん。」
「うん、美味しい、高橋さんの修業の成果が出てるのね。」
「はは、同級生の店を随分手伝ったからな。」
「なっかむっらさ~ん、たこ焼きを食べる姉妹と題して写真、お願い出来ませんか。」
「おう、任せな、俺のカメラでも撮って良いかな?」
「構いませんよ。」
「私も写して良いですか?」
「そうですね、万里を撮影したら下がって下さいね。」
「はい。」

暫く撮影会、その後、移動。

「お姉ちゃん、大人に注意されてるあの子たちさ、危ないと言えば危ないのだけど男の子にとっては普通の遊びでしょ。」
「あれぐらいは、私もやってたわ、万里はしないの?」
「しないわよ、どうしてみんなは高い所が好きなのかしら。」
「そりゃあ、見下ろす感覚、そこから勢いよくすべる爽快感。」
「ふ~ん、でも微妙なのよね『危ないからしちゃいけません』なのか『少しぐらいの怪我は経験の内』なのか。」
「簡単に怪我をする様な、どんくさい奴、鹿丘小にはいないでしょ。」
「でもさ、これから転校生が増えるでしょ、今でも真一は、自分達が当たり前の様に教えられて来たことを知らない転校生が、事故に遭わない様にって随分気を遣っていてね。」
「そっか、真一は本当に格好良い、絵里がいなかったら私の彼氏にしたいぐらいだわ。」
「絵里が傷つきそうな事は冗談でもしちゃだめよ。」
「分かってるわよ、でも夏休み明けにまた転校生を迎えるのだから、フォローを考えないと行けないかもね。」
「ねえ、大人だって移住して来て山や川のルールを知らない人がいると思わない?」
「うん、大人だから大丈夫って先入観は禁物よね、万里、ちょっと電話して良い?」
「良いわよ、あそこの射的で熱くなってる人を見てるから。」

安全は最優先課題、関係しそうな人達と話してみたら、思っていた以上に見落とされていた感を受けたので、本間市長にメールを送る。
直ぐに来た返信は…。
『油断大敵、直ぐに指示を出す、何て書いてる私はアツアツのたこ焼きで舌が火傷気味なのだがね。』
そうそう危険はどこにでも有るのです。
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お祭り-09 [シトワイヤン-17]

市民祭の一環として、普段は市民政党若葉のシステム上で議論している人達のグループが苗川で顔を合わせてのフォーラムが開かれている。
その中で鹿丘小学校の活動に注目しているグループに呼ばれ参加する事になった。

「智里さんが『格好の良い子どもになろう』と提唱し始めた頃の小学校はどんな感じだったのですか?」
「他を知りませんが、普通の田舎の小学校だったと思います。
ただ、高校生になって他の生徒の話を聞いていると、純粋な良い奴ばかりだったみたいです。
大人達が変わろうとしてるの感じ取ってた子どもは私だけではなかったですし。」
「大人達の変化はそれほど顕著だったのですか?」
「本間市長の影響を一番早く受けたのは、お祭りの実行委員なのですが、小学生の子を持つ親は地域活動に参加する人が多いのです。
私の両親も『あまり肩ひじ張らずに子どもから尊敬される親を目指す』というテーマで討論していたそうです。」
「それを受けての『格好の良い子どもになろう』だったのですね。
高校生になられた今は、その時の意識改革をどう捉えていますか?」
「そうですね、小学生ながらに共通のテーマを持った事は本当に良かったと思っています。
スタートした頃は本当に試行錯誤でしたが、すでに鹿丘小の伝統となり妹達が引き継ぎ発展させてくれています。
これから転校生が増えますので形が変わるかも知れませんが、転校生達がどんな気持ちで田舎に越して来るにせよ意識改革の意味は強くなると思っています。」
「万里さんはそんな意識改革が進んだ鹿丘小で成長されたのですね。」
「いえ、私達も低学年ながら意識改革を進めてきました、むしろ高学年より視野の狭い子が多い訳で姉達とも色々相談したのです。」
「智里さんは低学年をどう見てたのです?」
「万里の言う通り、低学年は内面の格好良さというテーマを考えるには早いのですが、周りの環境が整っていれば効果的な教育が出来ると思っています。」
「鹿丘小ではその環境を作る事に成功したということですね。」
「はい、小学一年生だった万里は私達や大人の話を理解し、周りの子ども達に伝えてくれました。
ただの美少女ではないのですよ。」
「万里さんは、本当に理解していたのですか?」
「そうですね、姉や大人達の話に耳を傾けるのは好きでしたし、姉が正義感溢れる人ですので、私も周りの子の面倒を見ることを自然としていました。
ただ、鹿丘小で『格好の良い子どもになろう』が進んだのは決して特別なことではなく、単に児童の多くが『格好の良い子どもになろう』を意識しているからだけだと思っています。」
「それを意識させる切っ掛けを作って来たと考えれば宜しいですか?」
「はい、大人達もして来たことです。」
「私の住むエリアでも『格好の良い子どもになろう』を根付かせたいと考えているのですが、子どもの自主性任せでは難しい気がしています。
どう、切っ掛けを作れば良いと思いますか?」
「小学校へ見学に来られる方と話す機会が有り、同様の話を聞きますが、私は、大人扱い出来る子を見つけて大人扱いすることから始めてみては、と提案させて頂いています。
私達はまだ子どもで大人では有りませんので、すべてを大人扱いする必要は有りませんが、小さなことでも、それが増えれば。
苗川には私を大人扱いする大人が大勢いるから、今、この場に私がいるのです。」
「子どもによっては、大人扱いされることで成長する、と考えれば良いのでしょうか?」
「もちろん、背伸びをさせ過ぎて行けません、大切なのはバランスです。」
「はい、気を付けます。」

それから暫く大人達は万里から有難い言葉を頂くのに夢中になる。
話してる内容は凄く特別なことでも無いのだが万里が話すと心に響く様で、会が終わる頃にはすっかり主役となっていた。
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お祭り-10 [シトワイヤン-17]

通称、清香村は、市街地から少し離れた廃村を整備し直しての開発が進んでいるエリア。
高級別荘地の他は、主に都会からの移住者が住んでいる。
車で二十分程度の距離だが、私達にとっては初めての訪問。
どんな村になっているのか興味が有る。
そこでのイベント『新しい村祭りを考える』へ招待されたのは、清香さんの、村人に私達を紹介したいという意図が有った。
行きの車中では…。

「万里ちゃん、結構山奥だろ。」
「はい、和馬さん、この辺りの道路工事は後回しなのですか?」
「ああ、この道から先は清香のとこの社員しか住んでいないからね、ファミリーが暮らし始める頃には間に合わせるそうだが、まだ先のことだよ。」
「という事は、新しい村祭りのスタートに子どもの参加は無いのですね。」
「村人の子どもはいないが、社員の子どもなら町に住んで鹿丘小学校に通ってる子がいるが、まあ神社のお祭りみたいには参加できないだろうな。
その代わりでもないが、苗川の舞姫が秋祭りに降臨という要望は出ているんだ。」
「万里の出番ですか?」
「はは、私としては智里ちゃんの舞も見てみたいのだがね。」
「お姉ちゃんが男装してというのはどうかしら、何の由来も伝承も無くて良いのなら。」
「なに、そんなものはでっち上げれば良いのさ。
取り敢えず女神像を祀って賽銭箱を置いてみたら結構儲かってね。
そうだ、万里ちゃん像を作ってだな、愛華、売れると思わないか?」
「そうね、家の守り神として買う人は少なくないでしょうね、売値は…。」
「あ、あの~、私のフィギュアなんて売れないと思うのですが。」
「万里ちゃんの写真が苗川のそこらじゅうに貼られているのは知ってるでしょ?」
「えっ、少し目にしたことは有ったけど…。」
「私達の写真やポスターも貼って頂いてるけど、完全に負けてるし、万里ちゃんの写真を拝んでる人の姿を良く見るわよ。」
「う~ん、時々私に向かって手を合わせる人はいるけど…。」
「孫が世話になってるとか、神様の子どもだからとか聞いたことが有るんだ。
伝説はすでに始まっているのさ、ストーリーは愛華が史実に則とってでっち上げる。」
「どうしてそうなるのですか?」
「それだけ、万里ちゃんの舞が神々しくて我々の心を射抜いたということさ。
舞を一緒に見ていたミュージシャンも射抜かれた一人で、次々と発想が広がっているそうだよ。」
「えっ、和馬さん、万里の舞はすごい大御所とご覧になられていたかと思いますが。」
「ああ、彼だよ、今頃、万里ちゃんの到着をワクワクしながら待ってるだろう。」

『新しい村祭りを考える』というイベントは私達が想定していたのとは全く違うものだった。
万里が村に降臨し繁栄をもたらす、なんて筋書きが出来ていて、一つの鼓に合わせシンプルに舞始め、ラヴェルのボレロ の様に盛り上がって行く曲のサンプルも出来上がっていた。

「私達は覚悟を決めて移住してきたけど、どこかに迷いが残ってた気がするのよ、それがね、万里さんの舞を見ていたらなんか吹っ切れてね、私だけじゃないの、そこのごつい男は目に涙を浮かべていたし、それでね、会った事もない神様より、私達の村の守り神には万里さんになって欲しいのだけど。」
「いえいえ、ただの子どもですから。」
「舞を見た後に告白して結ばれたカップルが何組かいるのだから、縁結びの神さまでも有るのですよ。」
「ついでに安産の神様とか。」
「はは、何でも有りだな、神様でなくても、精霊とか妖精とか座敷童でも良いんじゃないか。」
「万里、面白そうじゃない、そうね、捧げものはステーキとか、満月堂のケーキとかにして貰いましょう。」
「もう、お姉ちゃんたら、恥ずかしいわ。」

そして万里は神格化された舞姫となった。
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