SSブログ

お祭り-10 [シトワイヤン-17]

通称、清香村は、市街地から少し離れた廃村を整備し直しての開発が進んでいるエリア。
高級別荘地の他は、主に都会からの移住者が住んでいる。
車で二十分程度の距離だが、私達にとっては初めての訪問。
どんな村になっているのか興味が有る。
そこでのイベント『新しい村祭りを考える』へ招待されたのは、清香さんの、村人に私達を紹介したいという意図が有った。
行きの車中では…。

「万里ちゃん、結構山奥だろ。」
「はい、和馬さん、この辺りの道路工事は後回しなのですか?」
「ああ、この道から先は清香のとこの社員しか住んでいないからね、ファミリーが暮らし始める頃には間に合わせるそうだが、まだ先のことだよ。」
「という事は、新しい村祭りのスタートに子どもの参加は無いのですね。」
「村人の子どもはいないが、社員の子どもなら町に住んで鹿丘小学校に通ってる子がいるが、まあ神社のお祭りみたいには参加できないだろうな。
その代わりでもないが、苗川の舞姫が秋祭りに降臨という要望は出ているんだ。」
「万里の出番ですか?」
「はは、私としては智里ちゃんの舞も見てみたいのだがね。」
「お姉ちゃんが男装してというのはどうかしら、何の由来も伝承も無くて良いのなら。」
「なに、そんなものはでっち上げれば良いのさ。
取り敢えず女神像を祀って賽銭箱を置いてみたら結構儲かってね。
そうだ、万里ちゃん像を作ってだな、愛華、売れると思わないか?」
「そうね、家の守り神として買う人は少なくないでしょうね、売値は…。」
「あ、あの~、私のフィギュアなんて売れないと思うのですが。」
「万里ちゃんの写真が苗川のそこらじゅうに貼られているのは知ってるでしょ?」
「えっ、少し目にしたことは有ったけど…。」
「私達の写真やポスターも貼って頂いてるけど、完全に負けてるし、万里ちゃんの写真を拝んでる人の姿を良く見るわよ。」
「う~ん、時々私に向かって手を合わせる人はいるけど…。」
「孫が世話になってるとか、神様の子どもだからとか聞いたことが有るんだ。
伝説はすでに始まっているのさ、ストーリーは愛華が史実に則とってでっち上げる。」
「どうしてそうなるのですか?」
「それだけ、万里ちゃんの舞が神々しくて我々の心を射抜いたということさ。
舞を一緒に見ていたミュージシャンも射抜かれた一人で、次々と発想が広がっているそうだよ。」
「えっ、和馬さん、万里の舞はすごい大御所とご覧になられていたかと思いますが。」
「ああ、彼だよ、今頃、万里ちゃんの到着をワクワクしながら待ってるだろう。」

『新しい村祭りを考える』というイベントは私達が想定していたのとは全く違うものだった。
万里が村に降臨し繁栄をもたらす、なんて筋書きが出来ていて、一つの鼓に合わせシンプルに舞始め、ラヴェルのボレロ の様に盛り上がって行く曲のサンプルも出来上がっていた。

「私達は覚悟を決めて移住してきたけど、どこかに迷いが残ってた気がするのよ、それがね、万里さんの舞を見ていたらなんか吹っ切れてね、私だけじゃないの、そこのごつい男は目に涙を浮かべていたし、それでね、会った事もない神様より、私達の村の守り神には万里さんになって欲しいのだけど。」
「いえいえ、ただの子どもですから。」
「舞を見た後に告白して結ばれたカップルが何組かいるのだから、縁結びの神さまでも有るのですよ。」
「ついでに安産の神様とか。」
「はは、何でも有りだな、神様でなくても、精霊とか妖精とか座敷童でも良いんじゃないか。」
「万里、面白そうじゃない、そうね、捧げものはステーキとか、満月堂のケーキとかにして貰いましょう。」
「もう、お姉ちゃんたら、恥ずかしいわ。」

そして万里は神格化された舞姫となった。
nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 13

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。