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智里-01 [シトワイヤン-21]

アメリカから帰って、やることが増えた。
日頃から本間さんに言われているのは、仕事を自分で抱え込まない事だが、苗川高校生部会の紹介を英語に翻訳する作業は、担当希望者が少なかった事も有り、自分も取り組むことにしたのだ。
勿論英語の学習を兼ね、私達高校生が翻訳したものは和馬さんのスタッフに確認して貰うことになっている。

「万里、私が訳したの見てくれた?」
「うん、良いと思う、これで直しが入ったら私達にとって、とても参考になるね。
旅行を通して英語力は上がったと思うけど、会話には出て来ない単語が有るからさ。」
「そう言えば中学では英語の授業中何をしてるの?」
「一学期は、主に読書、ロスでの会話に役に立ったと思うわ。」
「基礎的な英語の授業時間を無駄な時間にしてないのね。」
「先生にお願いして自習の時間にして貰ったの、そのお願いを全部英語でしたのだけど、英語の先生は少し英語が怪しくてね、ずっと中学生レベルの英語にしか触れてなかったのかも。」
「う~ん、教師によって意識に差が有るのでしょう。」
「そうね、どんな教科でもそうなんだろうけど…、豊富な知識を持ちながら教えることの下手な先生もいそうだな。」
「英語に関してはそんな穴を、万里のミュージカル風英語教材で埋められると良いわね。」
「うん、一本目のロスアンゼルス旅行編、皆さんに喜んで頂けると良いのだけど。」
「完成が楽しみよね、教材としてだけでなく普通に歌を楽しんで欲しいわ、ヒットしたら日本人の英語力が向上するかも。
万里のお相手をして下さった方々は、日本ではあまり知られてないけど実力者ばかりなのよ。」
「ええ、凄く響く低音が魅力の空港職員役、向こうではそれなりに知名度の有る方でね。
初めての海外旅行で不安一杯の私を優しくサポートって感じが良かったでしょ。
撮影や録音が終わった後、演技も歌も上手く出来たって、私のこと凄く褒めて下さったのよ。」
「ふふ、半端ない身長差で、万里が一段と幼く見えたわ。」
「仕方ないでしょ、そのギャップが面白い場面なのだから。」
「でもさ、万里のDVD見て英語を学習した人が、空港で歌いだしたりしたら面白いと思わない?」
「歌でなら言葉が通じるってこと?
楽しいかもだけど、向こうの人は迷惑でしょうね。」
「通じないよりマシじゃない、日本語と違って英語は歌と同じ頭声発声でしょ、それが広まり下手な歌でも歌う人が増えたら、メロディーだけでも通じる様になったりしてさ。」
「曲が補助言語になるのか…、日本語で歌っても通じるぐらいなったら良いけど、時間が無駄に掛かりそうよね。」
「でも、広まれば世界共通の意思疎通手段になるわ。」
「う~ん、タクシー乗り場はどこですか、と聞くのを歌って伝えられる人はどれぐらいいるのかしら。」
「日本人は駄目でも、国によっては意外と多かったりして。」
「どうかしら、試してみたいけど、問題は音痴な人よね。」
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智里-02 [シトワイヤン-21]

メロディを共通言語化する取り組みを始めたのは、勿論遊びだ。
当たり前のことだが、意思疎通に時間が掛かり過ぎる。
それでも高校生部会のメンバーに話したら何人か乗ってくれた。
既存のメロディーを使う場合に著作権との関係はどうなるのか、といったことを調べるチームと、純粋に作曲から取り組むチームが立ち上がる。
人前で歌う事に抵抗の有る人は多いだろうから簡単にはいかないだろうが、まず苗川を歌声溢れる街にしようと盛り上がり始めた。

「バキャラマモン♪」
「健司は、まだ中二病の真っ最中なのね、で、一応聞くけど、それ何の呪文?」
「俺の作った言語で腹減ったと歌ってみた、智里、なかなか良いだろう。
これが通じる様な世界になったら平和な世界になると思わないか。」
「あなたは充分過ぎるぐらい平和よね。
それで、歌うように話す世界共通言語でも目指すの?」
「それは良いかも。」
「でも、世界市民が、そのヘンテコリンな言語を使うのには抵抗を感じるわ。」
「う~ん、でも、結局、知らない言語なんてこんなものだろ。」
「せめてフランス語みたいな響きで、何度聞いても不快にならないメロディーとか。
まあ、メロディーだけに意味を持たせるのなら言葉は何でも良いし、楽器で演奏しても良いのだけど。
そうね、歌は曲によって言葉の意味合いを強調してるでしょ。
歌い方を工夫することで更に伝わる情報が多くなるわね。」
「問題は、話が長くなると、とてつもなく時間が掛かる言語形態ということだな。」
「ええ、でも、例えば論文のタイトルを見れば、その論文を読んだ人には内容まで伝わるよね、そう考えると、数文字のタイトルに膨大な情報量が詰まってると考えられない。」
確かにね、まあ、その論文を読んでない人には何も伝わらないのだろうけど。」
「何について書かれているかぐらいは、タイトルから判断出来るのが理想ね…、なかなか難しいかしら。」
「うん、タイトルに騙されるパターンだね、良くあるよ。」
「健司って、そんなに読書家だったっけ?」
「はは、タイトルがついてるのは本だけじゃないだろ、後は追及するな。」
「はいはい、男子ってそういうの好きなのよね。」
「俺は何も言ってないぞ。」
「態度ってのも、情報伝達手段の一つなのよ。」
「えっ、俺は何時も通り真面目な顔で話してたけど。」
「本人に自覚なしか、まあ、人と話してる時に自分の顔の事は意識しないわね。」
「そんなことないぞ、智里の前では理性的でカッコ良い雰囲気を醸し出してるだろ。」
「ふふ、健司がナルちゃん系だったとは知らなかったな。」
「なんだ、そのナルちゃんって?」
「勿論ナルシストのことよ。」
「俺が?
まあ良いけど、言葉を短くするのは言葉の文化としてだな…。」

高校生部会の仲間とは、時におバカな話で盛り上がることも有るのだ。
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智里-03 [シトワイヤン-21]

「ねえ、お姉ちゃんたちが始めたのって日常会話をミュージカル風にってことなの?」
「そんなイメージよ、ただ何語で歌ってもメロディー言語を知ってる人には伝わるという感じなの。」
「単語を増やすのは難しそうね。」
「ええ、それでも、既存のオペラから拝借という手は有るのよ。
ミュージカルの方が馴染み易いのだろうけど著作権の関係が有るでしょ。
個人的に使う分には問題なくても、テレビで紹介といった可能性は否定出来ないから著作権に引っかかる曲は除外ね。」
「ミュージカルってさ、話の途中で突然歌が始まるよね、そんな感じなの?」
「まずは、うちわだけでささやかに広げて行くから、そうなるかも。
例えば、十秒ぐらいのメロディーが万里を賛美する原稿用紙十枚程度の文を表すのよ。
その歌を会話の途中に挟むことから始めてみても良いわけ。」
「その歌詞が『万里は不細工でダメダメな子なんです~』だった場合、どちらを信じれば良いの?」
「勿論メロディーよ、メロディー言語を知らない人には偽情報を流せるの。」
「そんな使い方してデマが広がっても知らないわよ。」
「知らない人の前でメロディー言語を使える人はほとんどいないと思うし、通常はメロディーの意味にそった英語か日本語の歌詞を使うことになるから大丈夫。
メロディーと歌詞、場合によってはその意味の説明が付け加えられて一つのセットになるの。」
「なるほど、形が出来て来たら合唱部の人達にも教えてみるね。」
「原則、紛らわしいメロディーは使わないという約束だから、多少音感に問題が有っても大丈夫よ、人前で歌える人なら。
英語で歌い易くと考えてるから、英語の基礎も学べるの、小学生やそのお母さんにも教えてみたいわ。」
「そうね、『カレーライス食べたい』というメロディーで『ハンバーグが食べたい』と歌うと、お母さんが、『それで、どっちを食べたいの?』と聞き返す、そんな光景が浮かぶわ。」
「難しい話は無理でも、日常の簡単な会話ならピアノを使ってでも出来るのよ。
話すのが苦手でも楽器は得意という人にはお勧めかも。
作曲チームはピアノの練習曲としての使い方もイメージしてるの。」
「メロディーに意味が有れば練習に身が入るのかな。」
「楽しそうにカレーライス食べたいと弾いてごらん、とか、どう?」
「基礎中の基礎なのね。
でも『おっなかと♪ せっなかが♪ くっつくぞ♪』みたいのが使えないのが残念だな。」
「まあ、普段、日本人同士の会話の途中に入るのは問題ないわよ。」
「キャッシーが歌ったら面白そうなのに。
ねえ、高度なテクニックとしては、メロディーと言葉を別の意味で伝えられるのだから、真面目に二つの情報を同時にってどうかしら?」
「そこまでのセンテンスが揃わないだろうし、内容が濃くなったら理解出来る人が少なくなりそうだわ。」
「ついでに手話でも違う意味をとか。」
「訳わかんなんくなりそうだから私で試そうなんて思わないでね。」
「うん、ビデオに撮ってとか…、ねえ、未完成でも良いから少し教えて。」
「そうね、じゃあ、ピアノ弾きながら…。」

メロディーに個別の意味を持たせるメロディー言語は単純に面白くてやってること。
だが、世界共通言語に難しい言葉は要らないので、ある程度基本的な会話が成り立つ様に出来たら発表したいと考えている。
私達は苗川発の話題を増やして行きたいのだ。
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智里-04 [シトワイヤン-21]

メロディー言語は仲間内でささやかに利用を始めている。
元々、仲間内で良く使う言葉を選んで作り始めたからでも有るのだが『おはよう♪』みたいなのは何となく周りにも広まりつつ有って、おはようのメロディーで眠い~と歌う友人が増え始めた。
そこから、ちゃんと寝なよと突っ込むメロディーを増やすことに繋がる。

「智里、メロディー言語は面白いし、のんびり気分に浸りたい時に良いわね。」
「そうね、良く使ってるメロディーは、近くで聞いてる人達にも浸透し始めてるみたい。」
「普通に英語の短い歌を聞いてる内に、言葉が無くても意味が分かる様になるみたいだけど、幼児が言葉を覚えるのと同じなのかもね。」
「ねえ、愛を告白するメロディーを男子に理解させる方法ってないかな?」
「梨花はついに告白を決意したのね。」
「聡のことなんて大嫌い、メロディー言語的には大好きって歌ってみたいのよ。」
「微妙な乙女心か…。」
「だって、ずっと誰よりも仲の良い友達のままなんて、聡はね…。」
「まずは大好きってメロディーを浸透させる方法かな?」
「ねえ、万里ちゃんのことが大好きというメロディーと異性の…、あなたの事が大好きなんです、というのはニュアンスが違うよね、この手のメロディーは複数有って良いと思わない?」
「そうね、複数の案を用意してから聡に相談する形で、彼の脳にメロディーをインプットしてあげようか。
聡は何となく影響されてメロディー言語を使い始めてるから問題ないでしょう。」
「お~、持つべきものは友だ!」
「まずは皆で相談ね、それにしてもお遊びで始めたのに、人数増えたな。」
「合唱部を始め音楽系の部活中心に、他校でも静かに広まりつつ有るみたいね。」
「ええ、中学も含めてね。
そうだ、I LOVE YOUの基本日本語歌詞は『月が綺麗ですね』にしよう。」
「あっ、夏目漱石ね、良いかも。
でも、あえて長めのメロディーにして歌詞に自由性を持たせたいかな。」
「告白だもんね。」
「聡の欠点を沢山用意しとかなきゃいかんな。」
「おいおい。」
「欠点を知っていても好きだ、という方が安心して受け入れてられそうじゃない?」
「お~、恋する乙女は乙女なりに考えてるんだ。」
「ねえ、キャッシーにはメロディー言語のこと伝えて有るの?」
「ええ、向こうでも試してくれてるし、向こうのチームも作ってくれている、鼻歌検索アプリのメロディー言語版制作も考えてくれているのよ。
まあ、お遊びなんだけど。」
「ふふ、お遊びで終わらせる気なんてないでしょ?」
「まだ、始まってもいないわよ。」

実用性は無いし、学校ならともかく会社で歌っての会話は難しいだろう。
それでも、母国語の壁をメロディーで越えられたら楽しいと考えている。
世界共通の遊びとして各国に広げることが出来ないか、キャッシーとはその為のアイテムを提供する会社設立を目論んでいる。
勿論、地球市民が言語の壁を越えて歌ったり演奏したりして会話する世界を夢見ての事だ。
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智里-05 [シトワイヤン-21]

「お姉ちゃん、手話をしながら歌ってみたビデオ、見てくれた?」
「見たけど、三人の人と会話するという想定なの?」
「まだ、三人の人に対して一方的に話すレベル、対話になるとメロディーで話してる人と歌詞での人でタイミングが違って来るでしょ、手話の人は独立してるから問題ないけど。」
「話の内容が単純だから何とか三つの情報を受け止められたけど、三人同時に違う内容をまともに伝えるなんて無理だし、出来たとして何かメリットが有るの?」
「メロディー言語を世間にアピールして行くには、色々なパフォーマンスを考えなきゃ。」
「遊びなんだから難しくしない方が良いのよ。」
「でもね、どんな分野でも高いレベルを目指し道を究めんとする人がいるでしょ。
メロディー言語の可能性を示して行けばそうゆう人が現れるだろうし、それに釣られて基本的な会話に触れる人が増えるのよ、そうなればキャッシー達と考えてる会社が儲かる事になるわ。
手話を入れてみたのは、ちょっとやりすぎかもだけどね。」
「三人の人に違う話を同時に伝える、というサンプルとしてなら問題ないわよ。」
「他に、ピアノと歌で三つの話を同時進行というのも考えたのだけど、ピアノと歌のメロディーを聴き分けて理解出来たとしても、音楽的には悲惨な結果になってしまうのよ、二つの言語メロディー同時進行は駄目みたい。」
「でしょうね。」
「歌とピアノの掛け合いで一人で対話するという少し寂しいバージョンは成立するのだけど…。」
「ピアノは伴奏として言語ではなく話す時の口調…、というかイメージを伝えるのに使えば良いんじゃない?」
「イメージか、それも一つ情報なのよね、対話の時は表情も情報の一部、それに代わる…。
単なる言語に捕らわれず、もう一つの情報としての伴奏は成立するかもね。」
「二台のピアノによる弾き語り風、即興対話的演奏なんて、パフォーマンスとしては面白いだろうな。
あえて歌詞とメロディーで意味を変えて、情報量が増えてるところをピアノがどうフォローして行くかなんてどう?」
「問題はメロディーがあくまでも言語だから、総合的に見て音楽的レベルが低くなるという事かな。」
「そこは、歌とピアノでカバーしてよね、万里。」
「えっ、私がやる前提?」
「色々なパフォーマンスを披露して行かないとダメなんでしょ?」
「お姉ちゃんと対話するの?」
「私には無理、まあ、高校生達に挑戦状を叩きつければ誰かが…、まあ、万里と一緒に遊べるのだから頑張る人が現れるでしょう。」

頑張る人は何人も現れた。
実験的に行った演奏会風の対話は、ぎこちなく始まったが、演奏者が慣れて来ると結構聴けるレベルに。
ただ、普通の弾き語りでさえ簡単ではないのに、即興で伴奏を付けながら歌で会話するというのは長く続く筈がない。
万里だけは平気なようで、相手から話を引き出したりしたのだが、長い対話は精神的にも無理という結論に至る。
パフォーマンスを披露するにしても、即興ではなく台本が必要なようだ。
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智里-06 [シトワイヤン-21]

「梨花、朗報よ!」
「どうしたの?」
「メロディー言語の中に著作権上問題が有るものが存在しないか調べて貰う過程でね、ちょっとしたきっかけから著作権者の中にメロディー言語の趣旨を理解して下さる方が現れたの。
誰もが知ってる様な曲の一部をメロディー言語として使うことに許可頂ければ、無料で、舞台とか公の場で披露させて頂いても問題なくなるのよ。
資料上には元歌の作詞作曲者と曲名を明記し、有名な曲のフレーズですがメロディー言語としてこの部分のみを利用する場合につきましては著作権者の許可を頂きました、として発表させて貰うことになるわね。」
「メロディー言語辞典が充実するのかな。」
「たぶんね、著作権者にとってもメリットが有るのよ、世代が違ったり国が違ったりして全く知らなかった人が、メロディー言語を通して知り興味を持つ可能性が有るでしょ。
日本で有名な曲の一番印象に残る部分が英語圏でも歌われ始めたら面白いし。」
「確かにそうね、私達としてはそのまま使いたかったメロディーを堂々と使える様になる訳で、でも英訳しにくいのはどうするの?」
「意味や使い方を明記してローマ字表記で良いのよ、SUSHIみたいにね。」
「公式な場ではその部分のみでも、友達同士の時はもっと歌っても良いのよね。」
「勿論。
メロディー言語は、英語ベースで構築しながら日本人しか知らない歌を発信という一面を持つ、大いなる歌遊びになるのよ。」
「その歌遊びを一番喜んでるのは合唱部の連中よね。
休み時間はずっと歌って話してる、そうそう、授業中、思わず歌って答えてしまった人がいたのよ。」
「はは、先生に怒られた?」
「先生は歌って注意、場が和んだわ。」
「そっか、歌の好きな先生がチェックしてるって聞いたことが有る。
ねえ、複数のメロディー語を同時に歌うとハーモニーになるというのは、まだ合唱部ぐらいしか使えてないけど聴いてみた?」
「ええ、メロディー言語の普及を目指して、ミニコンサートを開けないか検討してるそうよ。
練習してる曲の間に入れてとか。」
「まだ作られてない言葉は工夫して合唱曲としても歌える様に作ってみようとしてる人もいるから、完成したら是非合唱部で歌って欲しいわね。」
「智里、ロスアンゼルスの方はどうなの?」
「音楽好きが多いから、楽器での対話とかでも盛り上がってるそうよ。
キャッシー達が立ち上げたMAIHIME Corporationはサイトのベータ版スタートに向けて準備を進めてるところ、プロモーションビデオ作製の為、日本に送り込んでくれる歌手のトレーニングも順調なんだけど、その中にね、梨花は万里のDVDで凄く低音の素敵な男性、記憶にない?」
「あっ、空港職員役ね、向こうでは結構有名なんでしょ?」
「ええ、その彼も押さえてくれてね、万里と二人を事業展開の中心に。」
「万里ちゃん忙しくなり過ぎない?」
「大丈夫よ、色々刺激が欲しいみたいでね。
中学の授業は先生と交渉して眠くならない様にしてるそうだけど、仕事を理由に多少休むのは有りなの。」
「知的欲求が満たされてないの?」
「口には出さないけど多分ね。
だから、万里のミュージカル風英語教材第二弾とメロディー言語紹介ビデオ作製、和馬さんと番組出演とかでストレスを発散させるべきなの。」
「うわ~、そんなの私だったらストレスが溜まりそうだわ。
万里ちゃん自身は何て?」
「とても楽しみだって歌ってわ。」
「ふふ、言ってたじゃなく歌ってたなのね。」
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智里-07 [シトワイヤン-21]

メロディーで会話するというお遊びを世界に広げる為、キャッシー達が立ち上げたのはMAIHIME Corporation。
キャッシーが株式会社舞姫の株式を買い、そのお金でMAIHIME Corporation株の四十九%を舞姫が手にした。
広げるのはお遊びでも私たちは真剣な事業展開を考えている。
柱になるのはネット上に立ち上がった、メロディー言語の紹介と学習を目的としたサイト。
まだベータ版だが日本とロスアンゼルスからのアクセス数が伸び始めている。

「ベータ版が始まってからメロディーを変更する提案が届き始めたのだけど万里はどう思う?」
「人によっては違う意味の言葉を強く連想させるメロディーなのでしょ。
変更した方が良いと多くの人が思うのなら今の内に変更すべきね、もう慣れてしまった人には申し訳ないけど、日本語にだって使われなくなった古い言葉が有るのだから。
使ってる人の少ない今なら影響は最低限に抑えられると思うわ。」
「そうね、もしブーイングが起きたら、万里、お願いね。」
「何とかなるでしょ、ねえ、英語と日本語以外はどう?」
「自分の母国語を話す人にも広げたいという人は少なからずいて、幾つかの言語はすでに十名以上の協力者が集まり、システム拡張を始めているの。
それぞれのメロディーがどんな言葉を表しているのか、文字と歌で少しずつ加えられて行くから全然知らない国の言葉を学習する教材として活用出来るかも。」
「そっか、ドイツ語とか学習してみようかしら。」
「基礎の基礎だけど、少しは役に立つかもね。」
「ねえ、お姉ちゃんは地球市民という目線で考えた時、言語による意思の疎通は上手く行ってると思う?」
「意思疎通以前に利害関係を重要視する人が多いかな。
普段は日本語で全く問題が無いのに、何か都合が悪くなるとニホンゴ、ワッカリッマセ~ンなんて人、普通にいるみたいよ。」
「そっか…、言葉が通じないフリか…、う~ん、通じなければ通訳にお願いだけど、もし悪意有る通訳がいたら怖いよね。
通訳が一方の利益を優先させるとか、人を簡単に騙せてしまいそうで。」
「それは、怖すぎるわ…。
勘違いの誤訳だって有りそうだけど、英語ならともかく全く知らない言語だったらどうにもならないものね。
メロディー言語が悪意を持って使われない事を祈るのみだわ。」
「悪意も無く、同じ言語を使ってる人同士でもすれ違うことが有るぐらいだからな。
同じ単語でも人によって受け止め方が違うことも有るよね。」
「そうね、方言と同様に地域差が有っておかしくないし、その言葉とどう接してきたかで…、差別用語を無意識に使う人も居る訳で。」
「色々考えると言葉って難しいのね、情報伝達になくてはならないものだけに。」
「気軽に使ってるけどね。」
「ねえ、言語情報を整理して、文章だけの情報を一次元と考えてみるのはどう。
二次元は電話、音声情報は言葉の抑揚など文字だけでは伝わらない情報を持つ。
三次元は顔を見ながら話す、音声情報に加え表情という情報が加わるし、場合によってはボディーランゲージが加味されるかな。
メロディー言語は顔を見ながらなら四次元と言えるかも。」
「歌詞による情報にメロディーからの情報、歌い方や表情からということね、伝達速度が遅いという欠点は有るけど。
メロディー言語をアピールする時に四次元言語とかでっち上げても良いかもね。」
「手話を加えたら五次元か…。」
「はは、万里はまだ複数人との同時対話をあきらめていないんだ。」
「複雑さが良い刺激になるのよ、脳みそにとって。」
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智里-08 [シトワイヤン-21]

メロディー言語のシステム構築は和馬さん達が市民政党若葉を立ち上げる時にシステム構築した方々が引き受けて下さった。
そんな関係も有り、和馬さん達も私達の取り組みに気を掛けて下さっていて、本間さんの家で顔を合わせた時などは…。

「智里ちゃん、システムのベータ版は特に大きな問題なく運用されてる様だね。」
「はい、いきなり本格運用でも良かったぐらいです。」
「今回は新しいプログラムを多用してるそうだから、そうも行かないのだろう。
ある程度多言語との対応を進めてみて問題がなければ本格運用開始だと聞いてるが、収益性の方はどう?」
「すでに万里関連のものがサイト経由で沢山売れています。
キャッシーに紹介されたミュージシャン達が演奏の合間、楽器でおしゃべりしながら説明してくれたことも有りまして、そこからメロディー言語に興味を持ち、サイトにやって来て万里の動画を目に、そして思わずDVDを買ってしまう、という流れでしょうか。」
「ミュージシャンはキャッシーの知人?」
「彼女の両親は広い人脈を持ってるそうです。
お願いして、と言うより、万里たちが歌ってるメロディー言語のサンプル映像を見せたら、面白がる人が多かったと話していました。
メロディー言語用に自分の曲から修正して登録したいという話も幾つか出ていまして、語彙が豊富になりそうです。」
「語彙が増えると覚えるのが大変になりそうだな。」
「どんな言語でも同じですよ、言わば時代に逆行したのんびりした言語、ただ世界共通語と広め易い一面が有る、残念ながらメロディーを覚えることの苦手な人には向きませんが。」
「まあ、今は国内中心だから問題ないだろうが、これから共通語として使う機会は出来そうなの?」
「ふふ、ビッグチャンスがやって来るのです。」
「やって来る?」
「はい、日本ツアーの途中で苗川にも立ち寄って下さる歌手がいるそうで、今、調整をしています。」
「わざわざ苗川に?」
「はい、万里に会ってみたいそうで、苗川の自然溢れる風景と私達との映像も撮影するそうです。
歌による対話が上手く成立するかどうか楽しみですね。」
「ライブもして貰うの?」
「苗川には広い会場が有りませんので、正式にチケット販売する様なライブは難しいです。
それより、苗川ではゆっくりして頂いてリピーターになって頂きたいと。」
「そうだな、忙しい思いをさせるより苗川に対して良い印象持って帰って頂くことが大切だ…、が、こちらで取材させて頂くことは可能かな?」
「メロディー言語でのインタビューは出来ます?」
「うっ、そう来たか。」
「英語も分かるメロディー言語通訳者は用意出来ますが、料金は少々高くなりますよ。」
「はは、智里ちゃんも商売を考える様になったんだね。」
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智里-09 [シトワイヤン-21]

メロディー言語検索システムがベータ版から正式運用されるのに合わせ、苗川市の体育館でイベントが行われた。
全体を編集して放送するテレビ局はロスアンゼルスと日本の二社。
その二社が協力して撮影を行う。
イベント準備期間中、特別ゲストの存在は伏せられていたが、万里が出演するとあってチケットは直ぐに売り切れた。
入場資格はメロディー言語検定五級以上の者。
撮影目的なのでテレビに映っても構わない人という条件が付く。
オープニングは万里によるゲストの紹介。

『こんにちは♪ 鈴木万里です♪ みなさん今日はようこそおいで下さいました♪ 』

万里はメロディー言語の意味に合わせ日本語で歌う。

『初めに紹介させて頂くのは♪ タイから来て♪ 苗川で働いている♪ 私達の仲間です♪ 』

紹介されて出てきた女性はタイ語で素朴に歌う。
会場にタイ語の分かる人はいないが、全員、何を話しているのかメロディーで理解する。
自己紹介の後、彼女はタイの歌を一曲披露してくれた。
続いてはイタリア人男性、イタリア語でオペラ調に歌っての自己紹介をした後、美しいテノールでオペラから一曲。
こんな調子でアラビア語、スワヒリ語と続いた後に英語、スペシャルゲストの番となる。
万里は特に紹介するでなく、そのゲスト一番のヒット曲を英語で歌い始めた。
そこに登場したのは現在日本ツアー真っ最中の人気女性歌手。
途中から万里と一緒に歌い始める。
客席は興奮を抑え切れない。
洋楽ファンでなくとも知っている歌手の登場は、高校生でも購入し易い価格のチケット代から想像すら出来ないことなのだ。
ヒット曲に続きメロディー言語での対話となる。
日本語と英語での歌の掛け合いが始まるが、途中から万里のピアノにスキャットで応える大物女性歌手の歌声は鳥肌もの。
万里に会えて嬉しいという気持ちが観客にも充分伝わったところで、他のゲストを交えてとなる。
英語の歌にスワヒリ語の歌で応えても、歌が対話として成立している状態はとても奇妙な光景。
タイ語の素朴な歌とオペラ調が何ともミスマッチだったりするのだが当人たちは意に介していない。
その光景は、メロディー言語を理解している者にとって…、お遊びで始まった言語が本当に国境を越えた瞬間。
言語構築のメインスタッフの中には涙を浮かべる者もいる。
私たちの大いなる遊びはここに一つの完成を見たと言って良いと思う。
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智里-10 [シトワイヤン-21]

「智里、放送見たわ、イベントが上手く編集されてたよね。」
「うん、梨花もちょっぴり映ってた。」
「えっ、気付かなかった、というか気にしてなかった、帰ったらもう一回見ようかな。
メロディー言語って、音楽的には、良く分からない現代音楽よりマシかなというレベルだと思ってたけど、イベントを通してイメージが変わらなかった?」
「多言語による対話がメロディーよって成立…、でも微妙なところも有るでしょ?」
「普段耳にしないタイ語とかの響きが、意味を持つメロディーによって、新たな芸術分野を創造したとか、考えていたのだけど。」
「新たな、か、新しい遊びを生み出したとは実感したけど、まだこれから可能性を試して行く段階なのかな、プロが歌うと私達とは全然違うし。」
「大きい人の隣で一段とちっちゃく見えた万里ちゃんが、演奏では全然負けて無くて素敵だったわよね。」
「皆さんに褒めて頂いたわ。
演奏終了後、あの大きい人は万里をなかなか離さなくてね、英語で随分話してたのよ。」
「へー、何を話したのか聞いた?」
「ええ色々、それで次の名古屋公演に特別ゲストとして出演して欲しいって。」
「出るの?」
「ツアーの日程を調整して苗川まで来て下さったのよ、断れないでしょ。」
「見に行きたいけど、元々チケット高いし売り切れてるだろうし、それ以前に学校が有るからな…、万里ちゃんの生演奏が見られることを知らずに会場を訪れた人はどんな反応をするのだろう…。
もう、知名度はかなり上がってるけど、客層は違うよね?」
「万里のファンが更に増えてしまうのは間違いなさそうよ、名古屋公演はライブDVDを出す予定が有るそうで。」
「万里ちゃん目当てで買う人が少なからずいそうだわ。
万里ちゃん関連はアメリカでも売れ始めているのでしょ?」
「キャッシーがしっかり働いてくれましたからね。
メロディー言語関連のDVDも、思ってたより早く売り上げが伸び始めてると報告が入ったわ。
言語を覚えたいのか万里目当てなのかは分からないそうだけど。
でも、日本語バージョンを買って日本語の学習に役立てるという使われ方も有るみたい。
サイトでは基礎しか扱っていないからか、応用編紹介も売れ筋なのよ。」
「同じ言語を話す人同士なら応用編よね。
でも、万里ちゃんの離れ業に挑戦する人いるのかな。」
「台本が有っても無理よね、三人を相手にメロディーと歌詞、それと国際手話で対話、相手はホワイトボードを使った筆談二人と国際手話、万里には国際手話の存在を知って欲しいという思いが有ったみたいだけど。」
「録画されたのには台本が有ったの?」
「ええ、ただ、その前後には台本なしで結構対話してたのよ、三人を相手に。」
「う~ん、凡人はメロディーと歌詞を変えて情報量を増やすだけでも悩ましいのに。
でも安心したわ、万里ちゃんのDVDが売れてるという事は会社は安泰なんでしょ。」
「うん、キャッシーと手を組んだことが大きかったわ、著名なミュージシャンを動かしてくれたからね。
メロディー言語用に自作を登録して欲しいという依頼が増えてるの。
ということは、一瞬のブームで終わらない可能性を示唆してる訳でしょ。」
「そっか、ところで最近、智里は前以上に固い日本語を使ってない?」
「うん、万里の影響も有るけど、言葉について考えることが多くなって日本語を見直しているのよ。
日本語で話す時はメロディー言語化しにくい語句を使いたいとか。」
「英語で話す時も?」
「まだ余計な事を考える余裕、全然ないわ。」
「キャッシーとはテレビ電話で話したりしてるのでしょ?」
「困った事に、彼女は直ぐに私の英語力の低さを忘れてくれるのよ。
いつも近くに万里がいる訳じゃないって、梨花、キャッシーに言ってやってよ。」
「今度会った時にね。」
「ふふ、会う予定が全くないと思っているのね…。」
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