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はじまり [心の中に日本を]

「えっと…、私は誰?」
「そうだな…、愛川優子、愛と優しさを感じさせるって…、そのまんまだな。」
「突っ込む前に自分で言っちゃわないで下さいな。」
「ははは。」
「それはそうと、先生? のことは何とお呼びすれば良いのですか?」
「そうだな…、ペンネームや本名よりも…。」

「…、あの~、一時間経つのですけど…。」
「う~ん、考えるのが面倒になったから、しばらくは先生と呼んでくれるかな。
それと、優子ちゃんに紹介しておくよ、福沢賢一くんだ。」
「よろしく。」
「よろしく。」
「賢一と優子ちゃんは、まあバーチャルな存在な訳だけど、とりあえずはこの三人で、『プロジェクト・心の中に日本を』 を始めることにするよ。」
「えっ? それって何のことなのですか?」
「賢一には有る程度話してあるから優子ちゃんに説明するという形で、話しを始めようかと思ってね。」
「はあ。」
「でも、もう少し設定を固めといた方が良いかも、な、賢一」
「はい、そうですね、ここまで読んで下さった方は、何のことやらさっぱり解らないと思います。」
「ここまでは、お話しを書き始める前の風景ってとこだからね。」
「私達三人の関係って?」
「そうだな…、もちろん作り話しだから有り得ない偶然でもでっち上げるとするか…。」


出会い [心の中に日本を]

陽が西に傾きかけた頃、愛川優子は自分の住むワンルームマンションの戸を開けた。
「あらっ?」
彼女は、そこに見慣れない人物が床に散乱したチラシを片付けているのを目にした。
彼女の意識がその人物へ向いたのは、その制服からマンションの管理とは関係のない人だと気付いたことによる。
ここはマンションの管理業者が月に二三度は掃除に来てはいるが、集合ポストへ入れられるちらしの量は、それには追いつかず、また住人のマナーも、決して良いとは言えず、結果、入り口のホールが散らかることもよくあるのだ。
もっとも、このマンションだけで四十人程の一人暮らしがいる訳だから、今の世の中、全員がマナーを守れる人だったら奇跡だろう
優子は幼い頃からきちんと躾けられてきたから、ここでのルールは守っていた。
それでも、他人の散らかした物までという気にはならない、ごく普通の女子大生だ。
「お疲れ様です、有難うございます。」
「こんにちは。」
そんな言葉を交わして自分の部屋に向かおうとした優子だったが、ふとその人物に声をかける。
「このマンションの方ではありませんよね?」
「はい…。
はは、まあ気まぐれでちょっと片付けてるだけですから。」
「有難うございます。」
「いえいえ、あの~、学生さんですか?」
「ええ。」

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「かなりうそ臭い出会いですね。」
「賢一もそう思うか、私もだ。
まあ気にするな。
それより、賢一との出会いが思い浮かばないんだ。」
「はぁ、それなら、その優子ちゃんの知り合いということとかでもいいですよ。
詳しいことは必要ないし、必要になったら決めればいいんですよね?」
「その通りだ、バーチャルだと色々自由が利くから楽だな。」

公園にて [心の中に日本を]

時折吹くそよ風が心地よい。
住宅地の、とある公園。
野球をする人、散歩をする人。
のんびりした空気が流れる。
その一角、幼児達が遊ぶエリアから少し離れたベンチにて…。

「…と、いうことは小さいことの積み重ねということなんですね。」
「うん、良くしていくのも、悪くなっていくのも小さいことの積み重ねのような気がしてきてね。」
「でも、どうして、心の中に日本を、なのですか?」
「そうだな、優子ちゃんは自分と日本の関係をどう考えてる?」
「えっ? 日本と自分ですか…、考えたことなかったです。」
「この国に住んでいて国籍もある訳だから、日本国民であることは間違いないだろ。」
「はい。」
「消費税とかの形で税金を納めている、君の通う大学は国からの補助を受けている。
二人とも自分と日本の関係を、少し考えてみてよ。」

「改めて考えてみると、近いような遠いような…、微妙ですね。」
「うん、賢一のように思う人は少なくないかもな。」
「う~ん、オリンピックとかで日本選手が活躍すると嬉しいわ。」
「確かに、自分の属する集団の一員が活躍すれば嬉しいよね。」
「集団…、か…、国って…。」
「人は生まれた瞬間から、家族という集団に属することになる。
そして、出生届けが出されて、正式に日本という国に属することとなる。
もちろん、本人にその認識も自覚もない。」
「集団に属するということは、集団に守られる…。」
「もちろん、集団の構成員としての義務も生じてきますよね。」
「うん、その通りだな…。
戦時下の日本では、お国のために死んでこい、なんて理不尽なことがまかり通っていたことは知っているよね?」
「はい。」
「戦後、その反動からか、自分の属する国のために、という発想がずいぶん弱くなった気がするんだ。
そうだな、国と個人の結びつきに目がいかなくなった。
そして地縁という発想もずいぶん弱くなった。」
「難しい話なんですね。」
「ああ、若い君達に対して、簡単に説明できるとは思ってないけど…。」
「少し、おじいちゃんやおばあちゃんに訊いてみたくなりました。」
「うん、ぜひ訊いてみてよ。」
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