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01 方針 [KING-05]

 マリアとの話は、子ども達に伝えられなかった事も含め、その全てを七人の仲間に話した。

「色々教えて貰って少しスッキリしたが、我々の課題は一気に増えたな。
 他の箱舟船団がどうなろうとも、私達はこの…、まだ宇宙船と言う実感は無いが、この世界の住人を無事惑星に移住させ、そこで自滅の道を歩ませない様に…。」
「第一世代の使命よね。
 でも、大きな目標の存在は、この世界の人達にとってプラスになると思うわ。
 キング、マリアさまから伝えられた事は全て公開して行くの?」
「全てをすぐに公表する必要は無いと思う、例えば、私達が八人だけの種族ということは重要では無い。」
「マリアさまにとっても謎とあってはね。
 マリアさまとマリアさま達も確認出来ていない未知の存在が、知らぬ間に協力して…、人間を改造して造り出したのが私達?」
「う~ん、城の子は神の子とも呼ばれているが、実は神の孫だとか…、まあ、色々ややこしくしない為にも私達の事は黙って置いた方が良い。
 子ども達が、普通の人間で無い事は誰もが知るところ、今更話すまでもないだろう。」
「この社会全体が惑星に移っても、今のままで有り続けられる様にしたいわね。」
「だな、少なくとも私にとっては、六人の子を産んでも全く変わらない美しい妻と素敵な子ども達に囲まれ…、過去の酷い記憶が有るだけに尚更、カタリナが、ここのことを天国だと話すのは、あながち間違いでは無い。」
「ねえ、地球の人類は限界を迎えていたのだと思わない?」
「そうだな、貧富の差を抱えたまま改善されず、科学技術は発達したが、精神科学は…、そう考えると、このお金の無い世界は、なかなかのものだ。
 一旦多くの事をリセットした人類が、新天地でその限界を越えられるかどうか、まあ、その限界どころか立て直しに時間が掛かりそうだがな。」
「多くの人が信じていた民主主義も怪しくなっていたでしょ、社会制度の根本から見直して行くのは有りだわ。
 原始共産制とも言えるこの社会、このまま大きくなって一つの惑星に一つの国家が理想かしら。」
「いずれ分裂して行くにしても、戦争抜きで文明を発達させて欲しいよな。」
「キング、子ども達はどんな選択をすると思う?」
「まだ分からないが、寿命をどう考えるかによると思う。」
「あっ、確かに、その問題は有るな。」
「三郎、どういう事なの?」
「私達八人が特別なのは、医学的見地から見ても明らかなんだ。
 この世界へ来た時、全員がそれまでの年齢に関係なく、二十四歳ぐらいの肉体を与えられただろ。
 それから今日まで、罰を受けた者は極端に不自然な老化を経験しているが、善良な市民は普通の中年になりつつある。
 だが、我々は不自然に二十四歳のままだと感じないか?」
「そうなのよね、地球にいた頃はお肌の手入れをしていても、どうにもならなかったのに。
 ここへ来て若返り、そのままなのだから、天国説に一票を投じるわ。」
「このままだと、同じ時を過ごしているのに肉体年齢に大きな差が生じるだろう、我々でさえね。
 ならば子ども達はどうなると思う?」
「私達を追い越して老化して行くとは考えにくいわね。」
「マリアは我々が常識だと思っていた概念の遥か上を行く存在、彼女達は肉体を持たないのかも知れない。
 何の根拠も無いが、将来、彼女達は私達の子を、彼女達の仲間とするのではないかと思う。
 そう考えて行くと、子ども達は人類に与えられた惑星に住み続けるべきではないのかも知れない。」
「う~ん、私達自身もこの先色々な選択を迫られそうね。」
「だな、城の子は我々の宝、将来へ向けての選択を誤って欲しくはないが、人類もまた…。
 これから向かうと言う惑星が、人類にとって最後のチャンスとなるのかも知れないのなら、その地で無駄な争いをする様にはなって欲しくないだろ。」
「第一世代は色々な試練を潜り抜けて来た人達なのよね。
 マリアさまの隠しカメラを使って監視を始めた頃は、私達に対して反感を持っている人がいるだろうと思って少し怖かったわ。」
「でも、違ったな、民主主義では無い社会体制がキング中心に形成されたけど、不満を口にする人が僅かなのは、マリアさまが思う通り、海と城の存在が大きかったと思う。
 海の解放感が人々を癒し、城の存在が…、圧政の象徴では無く文化と友好の象徴となった。」
「そして、神の子の存在か。」
「キング、子ども達による惑星への移住、具体的にはどんな感じになるの?」
「まず、城の子が高速宇宙船を完成させ、この箱舟船団より先に目的の惑星に到着し、惑星の改造を始める。」
「そこから始めるとなると、かなり先の話なのね。」
「希望の島の地下工場で高速宇宙船建造は進んでいる、私もこの話を聞くまで何を作っているのか分からなかったのだが。
 各コロニーの再編によって充分な材料が確保されているみたいだ。」
「子ども達が秘密基地と話している…、ふふ、秘密基地と言われてたから敢えて詮索しないでいたのだけど、そんな事をしていたのね。」
「子ども達とは一旦離れ離れになるのか?」
「いや、ゲートで行き来が出来る、ゲートで移動出来る距離には制限が有るそうだが、途中で中継する為の宇宙船も順次発進して行く。
 まあ、我々の箱舟船団は鈍足だという事だ。」
「箱舟だからマリアさまは色々な動植物を私達に与えて下さったと言う事か…。」
「まだ、特殊保存状態のまま保管されているものも多いそうだ。
 地球上に生きていた全ての種類を考えたら微々たる物だと話していたが。」
「勿論、人間にとって有益では無かった生物も含まれているのだよな?」
「ああ、その扱いに関しては子ども達が判断するだろう。」
「多くの事を公表して行く必要が有るし、多くの事をこの世界中の人達と考えて行く必要が有るのよね。
 まずは、その計画を…、城の子の視点で作って貰ったものと、私達の視点で考えたものを擦り合わせてから発表し…、国連を拡大して話し合って行くことに…、ただ一般の第二世代はまだ幼い、彼らがもう少し成長したら話し合いに参加して貰うか…。」
「教育方針も変えて行かないとな。
 今までは、この世界の維持を目標として来たが、新たな大地の開拓となると守りから攻めへ、意識そのものを変えて行く必要が有ると思う。」

 惑星の開拓は、大変な作業になるのだろう。
 だが、この社会の安定を作り上げて来た私達の、次なるステップと考えたい。
 私達は、この世界に一人で目覚めてから、様々な出会いと共にステップアップして来た。
 この先どうなって行くのか分からないが、人類の可能性を考えて行きたいと思う。
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02 宇宙船 [KING-05]

 惑星への移住に向けて、我々は動き出した。
 まず、和の国で私達が担って来た仕事は三丁目住人と、第一、第二コロニーの人達に委ねる事に。
 和の国の体制強化を理由に納得して貰う。
 それまでも雑事は自分達で行うからと、彼等がサポートしてくれていたので、組織の指揮系統を明確にするだけで済んだ。
 国連会議への出席も彼らと交代。
 しばらく隠しカメラ映像で見ていたが、我が国の新代表達はその任を卒なくこなしていると判断、今は完全に任せた。
 私達への報告は最低限で構わないと話したが、報告書は何時もきっちりした形で届けられている。
 私達は今後の移住に関する事をどう人々に伝えて行くか考えていた。

「翔、これが宇宙船なの?」
「うん、母さん、高速船でも外観は単独居住コロニーと同じなんだよ。」
「そうか、空気抵抗とか関係ないから外観はどうでも良いのね。」
「普段、人の目に触れることはないからね、見て貰えるのならもっとデザインを考えるのだけど。」
「今回は特別?」
「発進したら、この船を撮影出来る存在はないからね。
 さあ、中へどうぞ。」

「これって…、住み易く改修した居住コロニーとあまり変わらないわね。」
「変える必要はないでしょ、でも十二人分の研究室と長距離移動用ゲートは特別なんだ。」
「えっと、操縦はどこでするの?」
「聡の研究室、と言っても全自動で、聡が時々座標のチェックをするだけさ。」

 翔が高速宇宙船を紹介する様子は昇が撮影している。
 映像は、編集されテレビで公開する予定。

「尊、そろそろ、この船を何の為に作ったのか、テレビをご覧の方々にお話ししても良いのでは無いかしら。」
「そうですね、この高速宇宙船はある恒星の第四惑星を目指して、明日、僕たちの暮らす箱舟宇宙船団を離れます。
 その目的地で有る惑星は…。」

 尊は、我々が目指す惑星の話と共に、大人達にとっての母なる地球についてマリアから教えられた話をして行く。
 この世界の人達はこの番組を通し、初めて自分達の置かれている状況を認識し多くの事を考える事になるだろう。

 編集された映像は、国連会議の場で各国の代表に見せた後、テレビで放送。
 代表に前もって見せはしたが、マリアさまから城の子への指示で有り、我々も含めた大人は意見を述べる立場にないと、皆、理解している。
 テレビ放送時から、私達は手分けして人々の反応を観察した。

「受け止め方は様々だな。」
「ああ、だが、それも時間の経過と共に変化して行くだろうし、翔、明日は高速宇宙船の発進映像と合わせて、箱舟船団を外から見た様子もライブ映像で伝えるのだろ。」
「ええ、漆黒の空間を進む箱舟船団、と言っても動いている様には見えないのですけどね。」
「今は戸惑っていて心の整理中みたいだ、移住に関する議論が始まるのは少しずつなのかな。」
「我々でさえ現実味を感じられていないのだから、一般市民は尚更だろう。
 今後の情報公開次第になるのではないか。」
「尊、今後はどうして行くの?」
「目指す惑星まで、高速船がどれだけ近づいたとか、箱舟船団の到達予測とかを知らせて行こうと思っています。
 僕らもまだ、マリアさまから教えられた事を整理中だと説明しつつです。」
「惑星に箱舟船団が到着するまで四年ぐらい掛かるのだから、それまでには議論も深まって行くだろう。」
「マリアさまからの借り物で有る、ここでの暮らし、それがマリアさまから与えられる大地での暮らしへと、それを第一世代がどう受け止めるのか、今後を見守り続ける必要が有りそうね。」
「状況によっては、他の箱舟船団の末路を伝え、この船団の役割を深く考えて貰っても良いが、今の所は箱舟という言葉に納得している様だな。」
「それでも、新たな大地への期待と不安が入り混じっているわ、翔、惑星の様子は何時頃見られる様になるの?」
「順調に行けば三か月後ぐらいかな。」
「随分早いのね。」
「高速船が早いと言うより、箱舟船団が遅いそうだよ、色々運んでいるから。」
「特殊保存状態の生き物とか?」
「うん、和の国の地下は巨大な倉庫だからね。」
「マリアさまの科学力なら、DNAを保管するだけで何とか出来そうだけど。」
「なるべく、そのままにというのがマリアさま達の方針だよ。
 大人達も、えっと…、肉体年齢を調整し記憶にプロテクトを掛けたぐらいで、後は殆どそのままだとか。」
「はは、それだけでも充分いじられ過ぎていると思うがな。」
「城は一般人が一夜を過ごさない方が良い特別な場所なのも、その…、改造に関係しているの?」
「マリアさまは、城の大人達が特別な存在だと分かってから、城を八人の為に最も良い環境に作り替えたと話してた。
 だから、惑星に到着しても、寝るのは城にして欲しいそうだよ。」
「う~ん、若さの秘訣が城に有るのなら守るしかないわね、でも惑星には降りてみたいわ。」
「ゲートを置くから大丈夫、僕らも城で過ごすからね、箱舟船団は一旦惑星の衛星にして改修して行くつもりなんだ。」
「どう改修して行くの?」
「和の国は大型高速船、他は箱舟としての倉庫かな。」
「大型高速船ということは、惑星の開拓が進んだら他の惑星を目指したりするのか?」
「その方が楽しそうでしょ?
 宇宙は凄く広いのに生き物の住んでる星はとっても少ない、将来に向けて人が住める惑星を増やして行くけど、人の住まない惑星に色々な生態系を造って行くのも面白いと思わない?」
「ええ、興味深いわね、カメラを設置して城で見られる様にしてくれるの?」
「勿論さ、条件の異なる惑星で生物がどんな進化をして行くのかを観察、マリアさまは大賛成してくれたよ。」
「マリアさまは傍観者と話してたそうだけど、城の子は違うのよね。」
「えっとね、試みる存在、人類も色々試して来たけど地球から広がることなく終わってやり直しでしょ。
 僕らは、マリアさまが眺めていて楽しくなる様な、多様な生態系を地球に存在した生物から創り出すと共に、僕ら自身のことを考えて行く。
 でもね、答えは無いんだ。
 どんなに失敗したと思っても、それは、そう思った人の価値観でしかないでしょ。」
「ええ、でも、人類移住の成功を共に祝える価値観は共有していたいわね。」
「うん、どうせなら楽しい未来の方が良いよ。」
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03 都市計画 [KING-05]

 城の子からテレビを通しての発表は一方的な布告とも言える。
 この世界の人達は受け入れるしかない。
 今のままが良いと思ってはいても、孫やひ孫の代を考えたら。
 マリアから借りてる宇宙船内の土地から、与えられる大地への移住と言われては。
 私達は戸惑い気味の人達に対して今後のスケジュール案を提示した。
 その柱は都市開発計画作成のタイムスケジュール。
 それは箱舟船団が惑星周回軌道に入って直ぐ、住宅などの建設作業を始めるとして、そこから逆算し作成した。 
 人口四千人にも満たない町からのスタートだが、城の子は、その拡大を意識して広大な土地を用意する。
 無計画に建設作業を進める訳には行かない。
 後から、住宅や農地、牧場などの配置を変えていては効率が悪い。

「ロック、都市計画作成チームはどうだった?」
「取り敢えずと言う感じで、各自が描いた図面を持ち寄って検討を始めていたよ。
 こちらからは、和の国と繋ぐ大型ゲートを一つ、町に設置とだけ話して、後は尊と翔が質問に答えていた。」
「どんな質問が?」
「やはり電気が一番気になるみたいだ、後は上下水道。」
「ここではマリアさまのテクノロジーに頼っていて、自給自足の範囲外だものね。
 で、どうなるの?」
「初期段階は城の子が必要なものを揃えるが、尊は少しずつ皆さんの技術に置き換えて行きましょうと話していたよ。
 町は一筋の川が流れる高い山の麓の平地、山が有る事で水の安定供給が出来、その水を利用した水力発電を考えている。
 生活廃水は海の栄養源になるそうで、下水管は用意するが、ごみを取り除くだけで殆どそのまま海へ流す。
 そうしないと、水産資源を増やせないそうだ。」
「へ~、そういった事もマリアさまから学んでいるのかな?」
「いや、データベースからの知識だよ。」
「ねえキング、私達が使って来たデータベースは、惑星でも使えるの?」
「少々手間だが、プリントアウトして図書館で閲覧可能となる。
 どこまでの技術を惑星で使える様にするのかはマリアと交渉になるが、自給自足のレベルを上げる事にはなっていて、今まで使っていたマリア達のテクノロジーの内代替手段の有る物は、移住の初期段階を終えた時点で、そちらに切り替えて行く。」
「馬車とか馬が活躍するのね。
 テレビ電話やテレビはどうなるのかな?」
「色々微妙でね、子ども達はここと同程度にしたいと考えているのだけど、マリアがね。
 文化レベルを江戸時代にまで戻す気は無い様だが、生活レベルを落とした人間がどう動くかに興味が有るそうで。
 彼女自身、ただの傍観者から研究者に変化しつつ有ると感じていて、それも謎の存在の影響かも知れないと話していたよ。
 そもそも、彼女達は、箱舟プロジェクトなんてことを考える様な存在では無かったそうでね。」
「人類が絶滅しない様に、謎の存在がマリアさま達を利用したのかしら?」
「かも知れない、そしてマリアさま達は傍観者で無くなりつつある、だがメインの作業は城の子任せだよな。」
「そうよね、でも…、マリアさまは私達を超越した存在だけど、傍観者に未来は有ったのかしら?」
「う~ん、そういう未来とかの感覚を持ち合わせているのかは疑問だわ、ねえキング、マリアさまは城の子が大好きなのよね?」
「それだけは間違いないと感じている。」
「人類滅亡の危機を迎えて、大きな出会いが有り、マリアさま達が変化し始め、城の子の存在が更にそれを、私はキングと子ども達を通してしかマリアさまを知らないのだけど、随分変わった気がするの。」
「ああ、確かに変わったと思う、子ども達と話す時は勿論、子ども等の話を私としている時もな。
 マリア達は子どもという存在を持っていなかったのかも知れない。
 例えは悪いが、私達が子猫や子犬を可愛いと感じる、それ以上に彼女が城の子の事を想っていると感じられる事が多々有った。」
「そうなると人々の生活レベルがどうなるのかは、城の子次第と言う事なのね。」
「ふふ、翔がね、尊はマリアさまの心を動かすのが得意なんだ、とか話してたわよ。」
「ただ、尊も自立の意味を考えているからな、三之助から教えられたバランス、新たな大地を物理的にも精神的にもバランスの取れた状態にして行きたいと考えているよ。」
「そっか、さすがキングの息子だなぁ~。」
「って、あなたの子でしょ、麗子。」
「私は、美味しい食材が手に入れば何とかなる、ぐらいしか考えてないから。」
「はは、何とかなるか…、今までは何とかして来たな。」
「麗子の料理も、海や城の存在と同じぐらい大きな存在だったのよね。
 美味しい食事と楽しい仲間がいれば、少しぐらいの不便は何とかなるのかも。」
「確かに重化学工業は必要ないのかもな。」
「人口が増えた時、第二世代以降がどう考えるかだ、データベースを書籍化して知識は残すが、戦争に勝つために科学が発達した側面があるだろ、平和なまま科学的な水準が低くても良いと考えるのか…、宇宙を目指すのかどうかも、今から考える必要は無いとは思うが、教育の方向性という課題は大きいぞ。
 当分の間、競争社会にはならないと思うが、向上心、競い合う心が成長に繋がるだろ。」
「そう言った事で意見が分かれた方が面白いと思うわ。
 多様な価値観を持つ人達が意見を出し合って、でも、互いに尊重し合える環境は整えて置きたいかしら。」
「そうだな、地球がどうなったかだけは第二世代にしっかり伝え、バランスの取れた社会を目指す事を教育の柱に据えるとか…、まあ、答えの出ないまま試行錯誤というのも有りだろう。」
「ふふ、どう考えても、山ほどの試行錯誤をして行く事になるのでしょうね、人類が地球でして来た以上に。」
「生活が安定していれば、道を誤る事は無いと思うのだけど…。
 キング、子ども達の計画は先々まで決まっているの?」
「しばらくは、惑星探査に出かけるとしても、目的地の第四惑星からは比較的近い所になる。
 人類がどれだけ人口を増やしても大丈夫な様に、別の恒星系にも人の住める惑星を確保して行くが、人が住むには不向きな、第三、第五惑星にドーム型のコロニーを建設し資源の確保を考えている。
 当分の間、第四惑星の人類をマリアと共に見守り続けながら、実験や研究をして行くことになりそうだ。
 到着後改装される和の国が遠くへ旅に出るのは先の事、子ども達がワクワクする研究対象は沢山有るだろうからな。」
「私達はそれに合わせれば良いのね。」
「ああ、ただ、この八人も城の子同様、少しずつ人類とは距離を置いて行く事を考えなくてならないだろう。」
「微妙な存在だからな、今のままだと、いずれ第二世代に肉体年齢的に追い越されるだろうが、そんな頃まで付きっ切りでいたら良くないと思う、第二世代の自立に対してマイナスにしかならないだろ。」
「そうね、マリアさまの神格化とは話が違うものね。
 どこかのタイミングで私達の事をはっきりさせるべきだわ。」
「この先、様々なイベントが有るのだから、そのどこかで…、でも…、どんな存在になるのか、まさに微妙だな。」

 地球では、大きな貧富の差が有ったが、皆同じ人間だった。
 だが、この世界には魔法使いの如き城の子がいて、その親がいる。
 また、マリア達管理者の存在は第一世代全員が知っていて、更には未知なる存在も。
 人々はすでに城の八人を特別な存在と考えてくれてはいるが、それは和の国の王家や貴族階級の様な捉え方。
 この先、第二世代が成長した社会は、私達の指導によってではなく彼等自身の手によらなければならない。
 その時、私達を表す言葉は、なかなか思い浮かばなかった。
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04 国境 [KING-05]

 人々は惑星への移住に戸惑いながらも、新たな大地での生活を想定しながら議論を始めた。
 食料に関しては城の子が導いてくれるから問題ないと考えられている様だが、社会的な変化については、その対応に意見が分かれ、私達は諍いが起きぬ様、監視を強化することに。

「ゲートという国境がなくなる事の意味をどう捉えるか、人々の考え方は様々なのよね。」
「まあ、大きく分けると、同じ町にこの世界の全員が住む事になり、一つの国家としてまとまる事を歓迎する人と、独自の文化が廃れて行きそうで面白くないという人かな。」
「さすがに、新たな町に国境を儲ける話こそ出てはいないが、和の国でも日本人として伝統を守って行きたいと話す人がいる、だが、民族を隔てていた物がなくなり多民族国家となって行くのは間違いない。」
「今までも人数的には国家というより村の集まり、でも、言語や文化の違いははっきり有って、子どもが共通語を話す事を快く思っていない人もいるわ。」
「多様な文化を残して行く事は悪くないと思う、ただ、異文化を尊重する心が求められるのかな。
 各国のお祭りを楽しむぐらいの感覚になってくれたら良いのだけど。」
「日本の様に異文化のイベントでもお気楽に受け入れて来た人ばかりでは無いのよね。
 特に言語の問題は難しそうだわ。
 単独居住コロニー保護から、共通語を話す人が増えて、英語が世界共通語だと思っていたスコットランドやサンフランシスコの人達は苦々しく思っているみたいでしょ。」
「城の子にとっては英語も沢山ある言語の一つに過ぎないからな。」
「城の子が、共通語に漢字を元とした表意文字を組み込もうとして、その案を人々から広く集めてるでしょ。
それを切っ掛けに、日本語学習ブームがまた起き始めているみたいよ。」
「母国語が尊重されるのは普通に嬉しいけど、そう考えるとスコットランドの人達の気持ちは無視出来ないわね。」
「それでも、マイナーな言語は世界でも数人しか話せない訳で、この先、方言として残って行くのかでさえ怪しいレベルだろ。
 自分達の言語を残して行きたければ必死に使い続けるしかないが、それを第二世代が受け継ぐ事にどれだけの意味が有るのか分からないね。
 すでに公の場では母国語を使えなくなってる人が多いからな。」
「この環境下で、言語を残して行く意味は…、でも城の子は日本語を大切にしているのよね。」
「私達との会話が日本語だというだけでなく、古典にも触れ言語学を研究して来た結果だろうな。
 望は共通語の欠点として、文学的な味わいに欠けることを上げていたよ。」
「共通語は単語の羅列だけでも通じ易い言語形態だからな。
 言語研究から文化の違いとかも意識している様で、尊から英語と日本語の疑問文の違いは文化の違いなのかなって聞かれた事が有る。
 英語は話し始めて直ぐに質問だと分かるが、日本語ではそれが最後だったりするだろ。」
「それぞれの特徴か。
 まあ、この人数の多民族が多言語を使いながらでも、同じ町で暮らしてたらいずれ融合して行かざるを得ない、共通語では、新語が一般市民の間からも出始めたでしょ。」
「ああ、子ども達は喜んでいた、言葉は使う人によって変わって行くものだからな。
 そう考えたら多くの言語が淘汰されるのも自然な事だ、我々は傍観していれば良いだろう。」
「言語に関しては強制出来ないものね。
 ただ、第二世代の国際結婚に否定的なのはコロニーDの作家達だけではなくて少し心配だわ、まだ先の事とは言え。」
「民族主義的な意識や人種差別的感情は、表面上抑え込まれているだけかもな。
 だが、出会える異性には限りが在るし遺伝的な問題も有る、将来的にハーフやクオーターが増えて行くのは必然だろう。」
「過去を引きずらないで、この世界の未来を考えて欲しいわね、でないと親子関係とかに悪影響を及ぼしかねないわ。」
「今までも試行錯誤の繰り返しだったが、これからも地球では経験していない社会形態の国を創り出して行く訳だから、揉めながら形を作って行くしかないだろう。」
「なのよね、今有る国毎に土地を確保したいという人や、アメリカの開拓時代の様に早い者勝ちで私有地を確保とか、広い土地への移住と知って、変な欲が出て来たみたいでしょ。
 当分は原始共産主義的な生産活動が、最も効率的だと思うのだけどね。」
「その辺りの方向性を城の子から示して貰うべきなのかな?」
「そうね、でも、もうしばらくは様子見で良いと思う、まだ時間は有るのだから。」
「ええ、でも森の伐採作業は急がせているのよね。」
「木材はじっくり時間を掛けて乾燥させるのがベストだからな。
 ここと違って、四季が有り、地震や台風が起きるのだから頑丈な家が必要だ、建築チームは気合を入れていて、伐採チームに必要量を指示しながら、城の子と材料の交渉をしていた。
 石材やセメントの確保とかについてね。」
「まだ、詳しいデータは無いのでしょ?」
「ああ、城の子達もマリアさまの魔法を使わない建築を、データベースを参考にしながら学んでいる段階、でも、高速船が惑星に到着したら直ぐに作業を始められる様に準備を進めている。」
「すべき事が多過ぎたりしてないよね。」
「睡眠時間は変わって無いだろ、今は知的好奇心が満たされて充実した時間を送っているみたいだ。
 マリアがデータベースを拡充してくれたからな。」
「でも、我々が使ってる日本語データベースだけなのだろ、拡充されたのは。」
「ああ、マリアは日本語を特別な言語にする案を子ども達に提示していた。」
「何の為に?」
「城の権威を高めていった方が、惑星に誕生する新たな統一国家が安定し易いという考えだ。」
「そうね、知識を含め多くの力を城が握っている状態の方が、多民族国家をまとめ易いのかもね。
 高い知識を得たかったら日本語を学べ…、ラテン語の様な位置づけにするとか。」
「共通語への翻訳は考えてないのかな?」
「専門用語を新に作り出すのは手間が掛かり過ぎるでしょ。
 共通語に漢字のまま組み込んで行くか日本語で、そうね、医者は何が書いてあるのか患者に分からない様、ドイツ語を利用していた時代が有ったのでしょ。」
「専門家だけが理解出来れば良いのなら、それを日本語でという事か。
 確かに漢字は便利だからな、だが、反発が有りそうだ。」
「拡充された日本語データベースはプリントアウトして公開して行くのだから大丈夫じゃないか。
 翻訳したければ、翻訳したい人がすれば良い。
 それは城の子の役目では無いからね。」
「量が多いし、使い始めた頃は精度の高さに驚いた翻訳機だが、専門用語には弱い。
 翻訳して行くには日本語の知識が必要になるが、英訳したい人に限って日本語を学ぼうとはして来なかったよな。」
「能力的にサンフランシスコの人達には難しそうだ。」
「日本語メインに対して反発したくても、どうしようも無いという事か。」
「私達は日本語データベースで何の問題も無いのだから、この件に関してはスルーしましょう。
 でも教育の過程で、高度な教育を受ける人は日本語必修みたいにして行く事になるのかな?」
「私達が英語を学習して来たみたいにすれば良いと思うけど、最終的に決めて行くのは国連の教育部会になるのでしょ?」
「ああ、だがその国連自体、これからの形をどうして行くかで揉めそうだろ。」
「そうね、第一世代は程度の差こそ有れ、全員が過去の価値観を引きずっているものね。
 そういったマイナス要素を第二世代に伝えないでくれたらと思うのだけど。」
「そうだな、下らない価値観の相違が対立の元として残って行く事だけは何とか避けたいよな。」
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05 第四惑星 [KING-05]

 夢たち一年生が魔法の様なマリアのテクノロジーを覚え始めた頃、城の子の高速宇宙船は目標としていた恒星系、その第四惑星の周回軌道に到達していた。
 そこから初めて届いたのは、到底人が住めるとは思えない映像だったが、その後は惑星が人間向きに改造されて行く様を、尊たちの解説付きで見せて貰っている。
 私達も一度ずつ高速宇宙船まで行ってみたが、特別なゲートを使い中継用ゲート船六機を経由する長距離移動が体にこたえただけ。
 ガラス窓が有る訳でもない宇宙船で見られたのは城で見る映像と同じものにすぎなかった。
 子ども達の体調が心配になったが、彼らは長距離移動を負担とは感じていないそうで、気軽に行き来している。

「キング、地球と同規模の惑星とは言え、マリアさまはどうしてこんな星を選んだのだ?」
「重力が地球に近い事と、水や空気を地球並みに出来る条件が整っているからだ。
 諸条件を甘くすれば、もっと地球から近い惑星は有ったが、改造の手間とその後の住環境を考えて選んだのだとか。
 まあ、人間は急激な体重増加を好まないと、マリアが理解してくれてた事に感謝すべきだと思うな。」
「しかし映像で見る限り、人の住める惑星になると言うのは、まだ信じ難いね。」
「そうよね、翔は全然問題ないと話してたけど、あの子達は地球を知らないでしょ。」
「マリアは江戸時代ぐらいの環境データに合わせると話していた、彼女が指導して、ここと同程度の環境にするそうだから心配ないだろう。
 勿論宇宙船の中では無いから、気象の変化は覚悟しなくてはならないが。」
「海を造りながら大気圏を生成してる映像と言われてもね、でも惑星を改造している映像を人々に見せているのは正解みたい。
 最期の人類かも知れない人達への贈り物、そのスケールの大きさに人種や国といった小さい事で揉めてた人達の考え方が変わって来たみたいなの。
 神の子が自分達の為に、地球規模の惑星を改造してくれていることを実感し始めてね。」
「ある意味、リアルな天地創造だからな。
 だが、箱舟船団が到着するまでに人の暮らせる所まで改造が進むのだろうか。」
「それは微妙なので、始めはコロニーの一つを改造して地上に降ろし密閉型のドームとして居住地建設を始めて行く計画も有る。
 状況に応じてドームを拡大し、内部で町の建設を進めて行き、惑星の環境調整が進んだらドームを撤去するという案だ。
 ただ今の所は順調なのでゲートだけを地上に降ろす事になりそうだな。」
「あの状況が順調だとは思えないのだけど、そのゲートから物資を降ろし開拓が始まるのね。」
「当分の間は箱舟船団で生活し、惑星へは各作業チームがゲートを使って行き来することになる。」
「危険は無いのかしら?」
「町を建設して行くのは地震の起きにくいエリア、安定するまでは気象も管理、徐々に自然任せにして行くそうだ。
 危険な生物は、まだ、いる訳ないだろ。」
「まだって?」
「危険では無いと思って星に降ろした生物の子が、突然変異する可能性が有る。
 宇宙船内では問題の無かった細菌が変異することも。」
「そういうリスクか…、それに対応出来るのかしら?」
「事前には準備出来そうにないが、三郎、医学全般を学んでいる望はどうだ?」
「彼女は優秀な学生だよ、データベースの情報だけでは足りない所を各国の医者にフォローして貰いつつ、今後の医学教育を視野に入れてるからね。」
「医者を育てて行くのは大変なのでしょ?」
「それに関しては少し緩やかに考えていてね、どんな病も直すという発想ではなく、患者の負担軽減をメインに置いている。」
「場合によっては見捨てると言う事なの?」
「まあ、無理な延命をするよりは、苦しみの少ない最期を迎えて貰う場合も出て来るだろう。
 基本的に自然治癒力の手助けをするのが医学で、この方針は医師達の総意なんだ。」
「望がマリアさまにお願いしてとかは?」
「基本、不自然な延命処置に労力を使うべきではないと言うのが、マリアさまのお考えだそうでね。
 人間としての寿命を終えた肉体を機械仕掛けで動かすことに何の意味が有るのか分からないと、かつて行われていた終末医療について教えられたとか。
 経験の無い望がどれぐらい理解出来たのかは分からないが、人は老い、やがて死に逝くのが自然な姿だろ。」
「そうね…。」
「本当に基礎的な知識は小学生の頃から学習、生きて行くのに必要な知識は優先的に教えて行くべきだからな。」
「でも、将来的には医師を養成して行くのだよな。」
「ああ、医師も必要になるだろう、子ども達の適性を見極めるにはまだ早いが、子ども達の能力を考えながら教育プログラムを組んで行く事になる
 社会を維持して行くのに必要な人材を適材適所に配置出来るのが理想だね。」
「そうだな、移住が発表されてから、大人達の人員配置が変わったが、子ども達のお手伝いにも変化が有るのだろ。」
「ええ、第四惑星に降り立った時、子ども達にも少しずつ責任ある作業を任せて行きたいとね。
 到着の頃には十五歳ぐらいになってる子もいるのだから。
 新たな町で新たな社会を創り出して行く、その意味を子どもに伝える為にも仕事を、大人達は、お手伝いとして教え始めたわ。
 和の国よりうんと広い大地は第二世代のものだと自覚して貰わなくてはいけないでしょ。」

 和の国が広いと言っても島に過ぎず、何処までも広がる大地と言うのを第二世代は知らない。
 海だって、無限の広さを感じられはするが本物ではない。
 和の国以外の子ども達は壁に囲まれたエリアで生活して来た。
 そこから惑星への移住。
 箱舟船団が到達までに準備しておくべきことは多い。

「ねえ、翔、第四惑星は箱舟船団の環境と若干違うのよね、重力とか。」
「うん、教えて貰っても始めはイメージ出来なかったけど、体が少し軽く感じられるみたい。」
「どうかな、向こうに着くまでに少しずつ体を慣らしておくことは出来ないかしら?」
「慣らす?」
「ええ、ここの重力を人が気付かないぐらい少しずつ第四惑星の重力に近付けておけば、惑星に降り立った時の違和感を減らせるでしょ。」
「そっか、出来ると思うよ、でも…、問題は起きないのかな?」
「大人達には告知しておかないと、作業時の量を間違える事になり兼ねないわね。
 料理人は微妙な匙加減の微調整が必要かも知れない。」
「うん、麗子総料理長の感覚が狂ってしまったら大変だよ。
 大胆な味付けをしてるかと思えば、僅かな量に拘ってる調味料が有るでしょ。
 どう調整して行くか相談しておくよ。」

 城の子は二十回に分けて段階的に重力調整をして行く事にし、僅かな変更毎に告知して行く。
 普通の人には感じられない程度の変化なのだが、多少影響を受ける作業が有った。
 そして、これ以上に大きな問題として…。

「自転周期が二十四時間二十三分という問題はどうする?」
「強引に二十四時間で生活するか、惑星の一日に合わせるかだけど、体内時計のリズムが狂って行くのかしら。」
「元々、人間は一日二十四時間に合っていないという説を聞いた覚えが有る。
 二十三分ぐらいなら、大きな影響はないと思うがどうだろう。」
「和の国の一日は今のままにしておきたいと尊が話していた、惑星と時差が生じてもね。
 惑星上の時間に関しては、二十四時間二十三分を二十四で割った物を一時間にするという案が出ている。」
「一秒の長さが違うとややこしくなりそうね。
 でも、第四惑星標準時と宇宙標準時の二つで、秒とかの呼び方を変えたりすれば良いのかな。
 試しに惑星用の時計を作って貰う?」
「そうだな、まずは東経西経零度を町の中心となるゲートの場所にして…、地軸の傾きはどれぐらいなのかな…。
 恒星と第四惑星は、太陽と地球の関係と同じなのだろうか?」
「同じなら、午後零時を恒星の南中時にすれば良いのよね。」
「第四惑星標準時間の一時間は、およそ六十点九五八三三分になる…。
 一時間が六十分である必要はないのだが、慣れ親しんだままが良いだろう。」
「公転が三百八十二日というのは身体的な影響はないと思うけど、歳を取るのが遅くなるのよね、暦も新たな物が必要になるわ、えっと…、夏至冬至春分秋分は有るのでしょ。」
「船団が向こうに付くのは春分近くになるらしい。」
「ならば春分の日を一月一日にする?」
「一年は十二か月にするのか?」
「一か月が少し長くなって、月によって三十一日だったり三十二日だったりでどうかしら。」
「ひと月三十日の十二か月、プラス二十二日の十三番目の月という手も有るな。」
「簡単に四つに分けられた方が良いと思うわ。」
「今までの暦は宇宙歴として残すにしても、互換は難しくなってしまいそう。
 私達の記録は宇宙歴で残しておいて…、でも過去の出来事はそれ程重要ではないのかも。
 第四惑星で、新たな歴史が作られて行くのよね。」
「なあ、月が人間に微妙な影響を与えていたのはどうなるのだろう?」
「そうね、月と呼べる程の存在が無くて、衛星が五つか…。
 箱舟船団での移動中、全く意識して無かったのだから問題はないでしょう。」

 暦などに関して、国連の場でも意見を出し合った結果、私達が第四惑星に降り立つ日を、現地の春分の日とし、惑星歴零年一月一日月曜日と定めることに。
 一月と七月を三十一日とし他の月は三十二日、一日は二十四時間だが一秒が長くなる。
 決定後すぐに、新しい時計が作られ宇宙標準時と共に第四惑星標準時を刻み始めた。
 今は紀元前三年となり、一年を三百八十二日として到着までのカウントダウンもスタート。
 今後、和の国以外の国は順次第四惑星時間に切り替えて行く予定で、全居住コロニーの日の出や日没時刻も城の子が調整していく。
 和の国とは時差が生じて行くが、問題の見落としがないかのチェックをしながら、少し長くなる一日に慣れて貰う。
 こう言った発表は人々に、新たな緊張感や期待感、高揚感を与えた。
 そう、第四惑星という新たな大地は彼らのものになるのだ。
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06 開拓者 [KING-05]

 翔が十六歳になる頃、箱舟船団は第四惑星の周回軌道に入った。
 第四惑星での作業に当たる城の子は、弟や妹を加え二十名に増えていて、第四惑星の環境調整をしながら、第三、第五惑星の探査も進めている。
 予定していた第四惑星に於ける春分の日、ゲートを積んだ着陸機が町の中心となる地点に降り立つ。
 空気などに問題の無い事が再確認された後、惑星に降りた人々が目にしたのは、牧草や小麦などが雑草の如く一面に広がる風景。
 それは和の国で備蓄していた種子の一部を、収穫を目的とせず適当に撒いた結果だ。
 緑の広がる大地、肥料が充分ではなく管理されていない状態では有ったが、人々は緑の大地に歓喜した。
 そして彼らを更に興奮させたのは、その頂きを雪で白くした雄大な山々。
 城の子は、その光景が大人達を喜ばせると知ってか知らずか、素晴らしい大地を作り上げていた。
 人々は改めて、宇宙船という限られた空間で生活して来たのだと実感した、広いと言われて来た和の国で暮らして来た人でさえ。
 国連主催の記念式典では、数種類の草食動物を野に放つ。
 野生化するのか、人間と共生して行くのか分からないが、充分過ぎる餌の中、思い思いに広がり餌を食べ始めた。
 この夜は城下町を中心にお祭り騒ぎとなったが、その光景を映像で見ながら。
 
「山に心が踊らされるというのは、忘れていた感覚だったわ。」
「不思議だよな、単に地形的な特徴と言うのでなく、昔、山が信仰の対象になっていた事を思い出したよ、機会が有ったら登ってみたいものだね。」
「尊、今までこの地の風景を公開して来なかったのは意図的なことだったの?」
「ええ、地球を懐かしむ話は色々聞いていましたので、ささやかなサプライズになればと、気に入って頂けた様で嬉しいです。」
「はは、お祭り騒ぎを見てるとささやかでは無かった様だな。
 この調子なら明日からの作業がはかどりそうだね、まあ、彼らが二日酔いになっていなければだが。」
「まずは、道路網の整備に合わせて植物の刈込か、計画が分かり易くて良いが、都市計画図を見ると道幅の広さは随分思い切ったな。」
「過去の都市では、町の発展に伴う道路拡張にかなり手間取ったと聞きましたので、将来を見据え無駄に広い道路を提案し、受け入れて貰いました。」
「何世代か後の住人が、その事に気付き感謝してくれるかしら。」
「どうでしょうね。
 尊、マリアさまのテクノロジーを利用した機械は何時頃まで使って行く予定なの?」
「少なくとも全員が町に家を持ち食料生産に問題が無いと判断できるまではと考えています。
 水力発電による電力供給はマリアさまのテクノロジーを利用して整備しますが、その維持は皆さんにお任せできるシステムです。」
「だが、本格的な電化製品の製造までには時間が掛かるだろうな。」
「大丈夫よ、人々はシンプルに生きて行く最低限度の生活というのを話し合っていたでしょ。
 地球で暮らしていた頃より物質面で劣るにしても、精神的には遥かに上を行く社会構造が出来つつ有ると思うわ。」
「だよな、地球は便利な物で溢れていたかも知れないが、様々な社会問題が有った。
 我々の社会にも問題は残ってはいるものの、それを解決して行く事が、この社会の目標だと捉えられている。
 新たな大地を喜ぶ人達が今の気持ちを忘れないでいてくれたら、地球とは全く違った文明社会に成長して行くと思うよ。」
「それでも…、尊、科学技術の発展を目指すのだろ。」
「はい、人類の技術による、まずは製鉄だと思うのですが…。」
「鉄は地球でもうんと昔から使われて来たのだから難易度は低そうだな。
 鉄鉱石とかは簡単に確保出来るのか?」
「大丈夫です、ただ、えっと…、化石燃料と呼ばれるものは存在しませんのでその辺りがネックになると思います。」
「この星には植物が繁殖していなかったのだから仕方ないか。
 木材は手に入るのだから炭焼きに挑戦するか?」
「データベースには炭焼きの事も有ったのですが、その経験者は一人もいませんし、製鉄経験者も、やはり難しいのでしょうか。」
「難しくても、技術開発チームで試行錯誤して行く事になるだろう。
 彼らはそんな試行錯誤が結構好きなんだ、沢山失敗しても、きっと成功させるさ。」
「ふふ、ロックの研究者魂にも火が付いているのでしょ。」
「まあ、鉄の加工は今までもしてきたからな、尊、銅とか他の金属はどうだった?」
「データベースに記されている金属類はほとんど手に入ると思います。
 第四惑星で発見されていない金属でも、第三、第五惑星で発見されています。」
「第三、第五にも人々が行ける様にするのか?」
「今の所は、僕たちが多少の資源を第四惑星に移動するだけにするつもりです。」
「そうだな、当分の間大量の金属が必要になるとは思えない。
 当面は住居の建設がメインだろ。」
「住宅向けの木は充分な太さとは言えないのでしょ、何とかなるの?」
「石や土も使って行くし、地球の世界各地、様々な環境で暮らして来た人達が集まってる訳だろ。
 皆で知恵を出し合って、新たな町の環境に合った住宅を、手に入る物を活かして建てて行くさ。
 まずは交代でキャンプ生活を体験しながら、新たな環境に慣れて行って貰う事になるのかな。
 アメリカ開拓時代の話とか、原始時代の話をしながらね。」
「焚火を囲んで?」
「大人も子どもも広大な大地にワクワクしているよ。
 城の子が改修してくれた居住コロニーは快適だが、そこから引っ越す心の準備は充分に出来ている様でね。」
「もう、開拓者気分なのかしら?」
「大人達の多くは、開拓者になる事を楽しみにしているし、そうでない人達も子ども達が移住を負担に感じない様にと考えているみたいよ。
 無限の大地が広がっている訳だから小さい事を気にはしていられないでしょう。」

 翌日、建設チーム以外の人達も積極的に惑星へ降りキャンプの準備を始めた。
 当分は箱舟船団で食料の確保をしなくてはならないので全員が降りる訳には行かなかったが、必要な物をどんどん運び降ろして行き、すぐにテントが立ち始め、夜にはあちこちで焚火を囲む輪が出来ていた。
 夜が更け冷え込んで来ても居住コロニーへ戻ろうとする者はなく、母なる地球を遠く離れた人々は新たな大地に抱かれんとしているかの様だ。
 それは翌日以降も…。

「人々の大地に対する気持ちは少し意外だったわ、居住コロニーの方が快適でしょうに。」
「人間の記憶の根底、そこに遠い昔では当たり前だった火を囲む光景が刻み込まれていたのかもな。
 それがここの雄大な風景に刺激されて蘇っているとか。」
「こうして皆と火を囲んでるだけで楽しいというか嬉しいというか、ねえ、シンプルな料理も良いものでしょ?」
「不思議よね、毎日美味しいものを食べてるのに一段と美味しく感じるわ。」
「ねえ、人間にとって本当に必要な物は意外と少ないのかもって思わない?」
「そうだな、開拓者たちは焚火を囲みながら、それを実感しているのかも知れない。
 食料と…、共に火を囲む仲間が居れば何とか…、いや、楽しく生きて行ける。」
「地球にいた頃、文明社会から取り残されてた人を哀れに感じていたけど、実は私達の方が余計な物に支配され、無意味な競争をさせられて、心身を擦り減らしていただけだったのかもね。」
「だな、自殺する人もいたし。」
「あっ、キング、翔が十六歳になってマリアさまの罰はもう下されないのか?」
「そう言えば忘れていたな、だが、この惑星の改造映像を見始めてから罰を受けそうだった人が変わり、今では皆が一つになって、一つの国家を建国して行こうと言う雰囲気になって来ているだろ。
 罰に関してはマリアに確認してみるが、今は気にする必要がなさそうだな。
 箱舟を離れる時間が長くなるにつれ、マリアの管理下からも離れて行く事になるのではないか。」
「そうね、不便になって行く代わりにゲートの制約から解放されて…、この雰囲気だと移住終了は予定していたよりかなり前倒しされそうだわ。」
「ああ、作業用に用意してあったテントを直ぐに宿泊用に作り替えて、いきなり寝泊りが始まるとは思ってなかった。」
「昼はしっかり働いて…、夜のお祭り騒ぎはしばらく続きそうよね。」
「カタリナみたいにあちこちの輪を行き来する人が増え始めたからな、このまま今までの国への拘りが薄らいで行けば、この惑星に一つだけの国家としてまとまって行くと思うのだが。」
「ねえ、大きな声では言えないのだけど、皆が協力しないと乗り越えられない様な困難を演出って、どうかしら?」
「そうだな、すぐには必要ないと思うが、人々の様子を見ながら準備しておくか?」
「自然災害みたいな?」
「城の子が、近くの惑星探査に出かけている隙に、宇宙人の襲撃とかどうだ?
 実行に移すかどうかは別にして、子ども達と壮大ないたずらを考えるのは大いに有りだな。」
「ふふ、そうね、子ども達に宇宙人のデザインを考えさせると可愛くなってしまいそうだから、恐ろしげなのを創りましょうか。」
「外敵の存在を匂わせる程度でも、人々を一致団結させる事は出来そうだけど、敵の存在に対して軍事力とかを考え過ぎ無い様な存在が好ましくは有るわね。」
「その前に冒険心を持ち過ぎてる人を牽制しておく必要が有るでしょ、旅に出て貰うにはまだ早いのだから。」
「そうだったな、その辺りの作戦を立てる必要が有るな。」
 
 城の子が地形を作り上げる作業はまだ進行中で、山に登りたい、探検に出たいといった冒険心を満足させるにはまだ早かった。
 私達は、彼らの団結力を高めると共に探索出来る範囲内で行動して貰う為の工夫を子ども達と考え始める事に。
 子ども達と罪の無いいたずらを考えるのは楽しく、私達の新たな娯楽となった。
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07 緑化 [KING-05]

 惑星への引っ越し作業は少しずつ進んでいる。
 囲いを作りながら家畜を移動させる作業など手間の掛かることは多いが、急ぐ必要はなく人々は作業を楽しんでいる様だ。
 環境の変化が動物にストレスを与えないか心配していたが目立ったトラブルは無く、惑星で暮らす家畜の数は順調に増加中
 惑星への移動に合わせ環境調整をして来たことが良かったのか、人も家畜も健康を害することはなかった。
 農作物は気候を考慮して、今まで栽培して来た作物とは違う品種の栽培にも取り組み始めた。
 第四惑星に降り立つまで、惑星環境に合う作物の試験栽培をして来た事も有り、今の所、大きな問題は起きていない。
 ただ、食料の備蓄は充分有るが、広大な惑星全体の緑化を考えると植物資源は全く足りていないと言える。
 緑化が進み始めているのは、まだ町の周辺のみに過ぎないのだ。

「尊、植物が増えないと惑星の環境が安定して行かないのだろ?」
「はい、町の環境は人工的に維持している状態で、目標としている自然な形での循環には時間が掛かりそうです。」
「町の人達にも緑化に対しての意識を高めて貰うべきではないのか?」
「そうですね、作業は順調に進んでいますので、周辺地にも目を向け緑化作業を考えて貰えると、僕らは遠隔地の緑化に力を入れられます。
 箱舟宇宙船の農地は、少しずつ惑星の緑化促進に向けての育苗中心に切り替えて行こうと考えていましたが、皆さんに手伝って頂けると早くなります。」
「まずはこの惑星の現状を知って貰う必要が有りそうだな。」
「そうですね、皆さんをちょっとがっかりさせてしまうかも知れませんが、空からの映像を中央広場のスクリーンで紹介してみましょうか。」

 箱舟船団と町を繋ぐゲート周辺は中央広場として整備されつつあり、市民全員が集まれるだけの広さが有る。
 ここに大型のスクリーンやモニターを設置し始めているのはテレビを導入する代わりで、人が集まる娯楽の中心として行く予定。
 尊が、改めてこの惑星の現況を紹介するとアナウンスした所、多くの人が集まった。
 大型スクリーンには、第四惑星の様々な場所を様々な高さから撮影した映像が映し出され始める。
 私達は同じ映像を城のモニターで見ながら…。

「こうして空からの映像を見せられると、町は惑星上の点に過ぎないのだと改めて感じさせられるわ。
 町にいると気付かないけど、広大な荒れ地が広がっている惑星と言うのが現状なのね。」
「なあ、愛、緑化作業は難しいのか?」
「そうでもないのだけど、今は土地の広さに対して種子が少なすぎるし、箱舟としての役割を考えたら気軽に試せない種子も有るわ。
 小麦や牧草なら、枯れてしまっても次への肥料になるぐらいに考えて良いのだけど。
 生き物の循環を促す微小な生物が増える必要も有るでしょ。」
「そうか…、一旦増え始めたら一気に広がりそうな植物も有るとは言え、大地の広さに追い付くまでには時間が掛かりそうだな。」
「惑星が牧草ばかりでは味気ないし、木は生育に時間が掛かるのよね。」
「愛、町の周辺以外はまだ緑化に取り組んでいないのか?」
「赤道付近で一か所、南半球で一か所、気候調整をしながら始めていて、赤道付近は町周辺より早く植物が生長してるわ。
 牛や豚がそれを食べて、その糞が微小な生き物によって分解され植物の生長を促すという循環がささやかに出来つつ有ってね。」
「その映像も人々に見せて行くのか?」
「勿論よ、手付かずの所ばかりを見せられては残念な気持ちしか残らないでしょ。」
「愛、そうでもなさそうだぞ、スクリーン前での会話を拾い聴いているが、緑の範囲を広げて行く話で盛り上がっているのが分かる。
 和の国の森でどんぐりを拾ってとか、挿し木で増やすとか、散歩道を海と山に向けて整備して行く話は具体的な案が出て来ているよ。
 食料生産に余裕が有るのだから、城の子に頼ってばかりではなく自分達もこの惑星を住み易くする為に働こうってさ。」
「尊が協力要請の話をする前に、皆さんその気になってるということなの?」
「みたいだな。」

 緑化推進は人々にとって新たな目標の一つとなった。
 緑に覆われた大地を作って行くのは自分達なのだと。
 希望の島で花の種を採取するのは子ども達の役目となる。
 大きい子達は苗床を作り生育状況を観察。
 大人から季節の話を教えられ、今回芽が出なかったり枯れてしまったとしても時期を変えて挑戦すれば…、そう、子ども達は、これから初めての夏を経験する。
 翔は極端に暑くならない様に調整すると話していたが、四季の有る生活が始まったのだ。
 川沿いでは馬車道と散歩道を作る作業と共に花壇の整備が始まり、希望の島から移植された花が目を楽しませ始めた。
 そこには様々な木が植えられ始めたが、勿論若い木ばかりだ、枯れてしまうかも知れないが敢えて植えた木も、それぞれの木々は大人達の地球での想い出を象徴していたりする。

「海までの道はもう直ぐ完成ね。」
「ああ、歩いて海水浴に行けそうだな。」
「望、海の生き物はどうなってるの?」
「和の国の海でちっちゃい子達が採って来た海藻とか蟹や貝から始めているけど、海の広さを考えたら微々たるもの、増えるまでには時間が掛かるでしょうね。
 魚を泳がせても良いのだけど、餌が充分に増えてからでないと難しそうなの。
 当分の間、食卓に並ぶ魚は和の国の海だけが頼り、川も餌が増えないとね。」
「餌を増やしている段階か?」
「ええ、でも、餌の餌が増えないとだめだから時間が掛かるのよ。」
「そういう餌の繁殖力は旺盛なのだろ?」
「それでもね、データで見る地球の日本の様な状態になるまでには何年掛かるのか見当が付かないわ、マリアさまが箱舟に入れなかった生き物がいないと、生きて行けない生物がいるみたいだし。」
「そうか…、かつての地球では絶滅して行く種も少なからず存在したのだが、原因は環境の変化、その変化は人間の手によるものも多く、自然界のバランスを壊して来たのが人間だった。
 絶妙な自然界のバランスを創り出す事の難しさは分かるよ。」
「この惑星は人類にとって地球以上の環境にするのよね、でも城の子の力無くしてはこれを維持出来ないのでしょ?」
「今はまだね…、でも、海中を含めて植物が充分に広がり生長すれば、動物と共存しながら大きな循環を完成させられると思うわ。」
「この惑星以外にも人の住める惑星を作って行く計画が有るのだろ、そっちはもっと時間が掛かると言う事なのか?」
「今の所、実験の候補に上がってる惑星は重力がこことは違っていてね、本格的に人が住める様にとは考えていないの。
 微生物の繁殖だけに終わってしまいそうな惑星も有るし、それでも秘密基地には段階的に重力を変化させて行く研究施設が完成し、それぞれの惑星向けに実験生物の繁殖を試み始めたところよ。」
「違う環境に適応する生物と言うのは興味深い、どれぐらいの範囲まで適応出来るのだろうな。」
「そこが研究のメインになると思うわ、都合良く環境改善に役立ってくれる植物が見つかれば、様々な作業をスピードアップさせられるのだけどね。」
「簡単ではなさそうだ、その植物が次のステップへの障害になる可能性は否定出来ないだろ。
 まあ、今はこの惑星の緑化が成功すれば良いのだが。」
「シミュレーション的には問題ないのだけど、どれだけ時間が掛かるのかが掴みきれてないの。」
「まだ、変数が多過ぎるという事か?」
「ええ、マリアさまも、本格的な惑星改造は初めてだと言うし。」
「だろうな、元々は傍観者だったのだから。」
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08 告白 [KING-05]

 惑星への移住スタートから四か月ほど経過した段階で、人々の意識調査を行う。
 調査は今までも定期的に行って来たが今回は内容を少し変え、この社会の今後についての設問を増やした。
 総人口が四千人を超える程度なので全数調査が可能、標本調査より精度が高い。
 今まで、その結果から社会環境改善を試みて来たので皆協力的だ。
 城の子は移住後にマリアが設置していたのと同様の隠しカメラやマイクをあちこちに設置したが、そこから本心が分かるという訳でもなく、私達は重要な調査だと位置づけている。
 望たちはその結果を見て…。

「尊、思っていたより、キング中心の王国というスタイルを推す声が多かったわね。」
「和の国は常に全体の安定を考えて来たし、お父さんを通してマリアさまに守られていると感じているのだろうな。」
「この結果を発表したら、全員が王国という形態を受け入れるのかしら?」
「全員が賛成とはならないだろうが、反対派はかなり少数で妥協するしかないと思う。
 国連代表の一部は全体の安定より自分の立場を考えていて…、その能力の低さからあまり信頼されていないだろ、王国の建国を主張している人達には勝てないと思うな。」
「選挙で指導者を選ぶべきだと話す人がいるけど、この結果をみたら無意味よね。」
「うん、ただ…、僕らが和の国を高速船に改造して旅立つ時はお父さん達も一緒なのだから、その時の政治形態を考えておく必要はあるのかも。」
「旅に出ても影響力は残せるでしょ。」
「そうだけど、不在が長引くと…、人の心は移ろい易いそうだからな…。」
「今回の調査ではキングに対して尊敬という感情を示す人が多いのだけど…。
 私達に対しての事が少し…。」
「なんだ、望、はっきりしないね。」
「香りがね、子ども達に連れられ、新しく完成した家を回ってるのよ。
 そこには私達の写真が、結構あちらこちらに貼って有ったそうでね、そして女の子同士の会話から、尊さま派と翔さま派に分かれているそうなの。」
「良く分からないが?」
「尊を好きって人や翔を好きって人が沢山いるのよ。」
「それは僕達にとって光栄なことなのかな?」
「ええ、とっても。
 だけど、何かな…、私は尊さま派だからね。」
「有難う…、僕は望の事が大好きだよ。
 愛や妹達の事も好きだけど…、少し違うと思ってる…。」
「うっ、うん。」

 城の子達が恋愛に関して疎かったのは身近な先輩がいなかったからだと思う。
 そんな状況でも十六歳にもなれば自然な恋心が芽生えて当たり前だ。
 こんなやり取りがあった事を私が知ったのは、緊張した面持ちで尊と望が私の元へ来た日からしばらくしてからの事。
 その日の二人は何時になく緊張していて…。

「父さん、相談が有るのですが良いですか?」
「どうした?」
「えっと、父さんは母さんの事が好きだったから結婚したのですよね。」
「ああ、今でも大好きだ。」
「僕…、僕と望が結婚するって、ど、どうでしょう?」
「あっ、そうだな…、良いと思う、お互い生まれた時から一緒で相手の事を良く理解しているだろう。
 尊がどうして望を選び、望が尊のどこに惹かれたのかも分かるっているよ。」
「でも、結婚ってどうしたら良いのか分からなくて…。」
「そうだったな…、すまない、私がうっかりしていた、城の大人達を集めて相談するよ。
 えっと…、お前たちは今から付き合ってるいう状態になる、休みには二人だけで遊びに出かけたりするのも良い。
 尊は多くの女の子に人気が有るが、他の女の子と親密になりすぎると望が傷つくと覚えておきなさい。
 後の事は近い内に説明させて貰う、しばらくは秘密にしておいてくれるか。」
「はい、分かりました。」

 大人の会議前に十六歳という年齢をどう考えるのかをマリアに相談したが無意味だった、望は子を産めるだけに成長しているとしか応えてくれなかったからだ。
 城の大人達は尊達の成長を一様に喜んだ。

「恋愛について情報を与えて来なかったのは間違いだったのかもね、あの子達にはお手本がいないのだから。」
「良い機会だ、この国の…、もう国と呼んでも良いだろ?」
「この惑星に一つだけの国よね。」
「ああ、この国の、恋愛から結婚までのルールを決めてしまわないか。」
「告白する所から?」
「特別に好きな人が出来たら、好きですとその人に告白しましょうとか。」
「年齢制限は有るの?」
「十六歳ぐらいかな?」
「それまででも好きな子に好きと言いたくはならないかしら?」
「正式な告白は二人が十六歳を過ぎてから、それまでも男女仲良くして良いけど相手の良い所や悪い所を知る事。」
「告白されたら?」
「告白された時、自分も相手の事が好きだったら『はい』と答えて付き合い始める、そうでもなかったら『御免なさい』、相手の事が良く分からなかったら『友達から始めましょう』と答えて相手の事を知る、それで好きになったら『好きになりました』と告白して付き合う、好きになれなかったら、やはり『御免なさい』とか。」
「まあ、そんなとこかな、ルールというより指針だね。
 付き合いに関しては?」
「お互いが好きとなったら、親に誰と付き合うか話す、この時、親が反対出来るのは相手が結婚してる時…、既婚者への告白も既婚者からの告白も禁止にしないとだめだな。」
「そう言えば、浮気の話も離婚の話も今までなかったわね。」
「環境が変わったから、これからは分からないわよ。」
「その辺りはほかっておいて、今は若者の事を考えようじゃないか。」
「デートを重ねてお互いを知り、この相手となら子を持ちたいと思ったら結婚を考える。
 この人とは無理だと思ったら御免なさい。」
「御免なさいがスムーズに行かない時は、親か友達と相談する。」
「翔と相談して子ども向けの恋愛ドラマを作って貰うか?」
「ああ、翔も尊達の事を知れば、愛と付き合い始めるだろうからな。」
「婚約から結婚の辺りは民族によってしきたりが違わないのか?」
「あまり堅苦しいのは必要ないと思う。」
「ふふ、私達の結婚式はこの八人だったわね。」
「娘達が結婚を考えるまでに成長したんだな…。」
「感慨に浸る前に尊達の為に流れを作ってあげないと。」
「こういった事は三之助より一花に任せた方が良いだろう。」
「そうね、一組目の流れを見せれば、次からはそれに倣うでしょう、結婚の演出は一花にお願いしたいわ。」
「派手過ぎず地味過ぎずという感じかしら、まずは二人に色々教えてあげないと。」
「私達が若かった頃は恋愛に関して色んな情報が入って来たのよね、親世代との間に誰もいないと言う不自然な状態は第二世代の大きい子達にとってハンディだわ。」
「直ぐに結婚や出産を許して良いのかな?」
「城の子にとっては自然であれば良いと思う。
 ただ、早すぎる妊娠は母体に悪影響を与えるという事だけは国民に徹底したいし、性教育を充実させる必要が有るわね。」

 尊と望の婚約発表は、大人達を喜ばせたが、二人に憧れていた子ども達をがっかりさせる事になる。
 それでも、このタイミングで城の子と一般の子は結婚出来ないという事を発表した為、子ども達の意識が変わり始めた。
 絶対的に魅力的な城の子は憧れの存在のまま、身近な異性を意識し始めたのだ。
 城の弟や妹達も、それまでは考えもしていなかった結婚を意識し始めたが、城の子は特別な存在として大きなハンディを持つ、付き合う相手は城の子に限られ更に兄弟は除外されるからだ。
 香たちが戸惑いを隠さなかったのは、大好きな尊と翔が望や愛を選んだからだ。
 巴は大好きな兄とは結婚出来ないということに、生まれて初めて大きく落ち込んでいた。
 可哀そうだとは思うが、避けては通れない人生経験、こうして大人になって行くのだろう。
 しばらくは気まずい雰囲気も有ったが、城の子達は皆仲良しでほどなく落ち着いて行く。
 ただ、選択肢の少なさが大きな問題に、私達の子ども達は結婚の形について考え始めた。
 巴は…。

「お父さま、遺伝学的に私がお兄さまと子をなすべきではないと理解しました。
 では、私は、夫となる男性の子しか産んではいけないのでしょうか?
 種としての可能性を考えたら、様々な組み合わせを…、私はお兄さまの事が一番好きですが、他の子達も好きです。
 おそらく、男の子の多くは香との結婚を望むでしょうが…。
 例えば、香が初めに昇との子、次に誠との子を儲けるというのに何か問題は有りますか?」
「う~ん、そうだな…。」

 私は即答する事が出来ず、巴から考える時間を貰う。
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09 家族 [KING-05]

 巴からの真っ直ぐな問い掛けを自分なりに考えた上で大人の会議を開く。

「キング、確かに城の子を種族として捉えたら簡単には答えられないな。
 普通の人間とは前提条件違う訳で…。
 尊たちは私達の結婚形態を疑う事無く受け入れたが、それは私達の長子四人がこの世界の子ども達を導く立場として、協力し様々な問題と向き合って来た結果だと思う。
 我々の慣習を踏襲というか、そういう判断を無意識にしたのではないだろうか。」
「そうよね、四人の結びつきはとても強く、僅かな理由から尊と望、翔と愛という形になりはしたものの…、巴の話を教えられてから考えていたのだけど、尊たちが一対一の結婚でなく二対二の結婚を考える可能性は充分にあったと思うの、彼らが生まれてから四人で過ごして来た姿を思い起こしてね。」
「城の子が特殊な存在で有る事を考えたら、私達が地球で過ごして来た時の常識を彼等に当てはめる事は出来ないだろう。
 すでに四組の兄弟姉妹が強固な絆を持ち、一つの社会を築き上げている。
 彼らは宇宙の開拓者になって行くのだから、我々に合わせる必要はない。
 結婚形態だって、昔は一夫多妻とかも有ったのだからな。」
「はは、誰も反対しないのか?」
「城の子同士なら問題ないでしょ、一度子ども達と、そうね、年長の八人と話し合ってみましょう。」

 大切な子ども達の将来に関わる事、城の大人八名と子ども八名の話し合いにはそれぞれが準備して臨んだ。

「巴がキングに話した事は、皆、知ってるのだろ?」
「はい、良く分から無いまま巴を傷つけてしまって…、僕らも話し合いました。」
「子ども達の中で結論は出たのか?」
「結論と言うか…、望と僕との関係が変わった切っ掛けは、多くの女の子達が僕の事を好きだと望が知ったからで、望はその感情が嫉妬ではないかと考えています。
 ただ、巴が落ち込んでしまってから…。」
「そこからは私が話すわ、私は巴の事も大好きなの、だから落ち込んだ巴を尊が抱きしめていても、なんかな、キングは尊が他の女の子と親密になりすぎると私が傷つくと話してたけど、全然そんな感じじゃないし、妹だからという事でも無くて…、えっとね、尊が城の子ではない女の子を抱きしめていたら凄く嫌な気分になると思うの。
 私には、香が全ての子ども達に愛情を注ぐことにもすっきりしない感情が有って…。
 人種差別と言われてしまうのかもしれないけど、私の大切な香の気持ちが城の子以外に向けられるのはね…。
 私は香の様な広い心の持ち主ではないわ。
 でもね、城の子同士なら、例えば愛が尊の子を産むのも有りだと思う。
 私達、城の子と呼ばれる種族は、八人の遺伝子から始まっている訳でしょ。
 この先、そこに他の遺伝子を入れるべきではないと、マリアさまは考えているし私達も。
 だとしたら、巴が尊の子を産むことだって、私達は経験しておいても良いと思うの。
 遺伝や遺伝子の研究を始めたのだけど、私達は遺伝子レベルから他の人達と違うみたいでね。
 町の子達には兄弟でそっくりな子がいるでしょ。
 でも、城の子は兄弟でもそんなに似ていない。
 まだ仮説の段階だけど、お母さんたちは子ども毎に違う遺伝子情報を伝えているのではないかと考えていてね、遺伝子を観察できる装置が完成したら研究を始めるの。」
「どうして、そういう仮説にたどり着いたのだ?」
「反抗期というのを教えられたけど、私達は誰も経験していないでしょ。
 お父さんの子を産む様なことの無い様に、親離れのメカニズムの筈なのにね。
 町の人からは普通に反抗期を迎えている子どもの話を聞くけど、ここの八人は、ずっとお父さんお母さんが大好きなままなのよ。
 私達はマリアさまのテクノロジーを使えない親から生まれているのに全員が使える。
 それなら、お父さんとお母さんの遺伝子以外の要因が考えられるでしょ。
 妹や弟たちは何故か得意な事があるけど、兄弟でもそれは一人ずつ違うわ。
 遺伝的な問題が解明され、問題がなければ、私達は一つの家族として、結婚という概念に囚われる必要はないと考えてるの、兄妹で子を儲けてもね。
 私達の結婚式は町の子達へ刺激をあげる為に行うけど実質的には…、そうね十六歳になったら親集団の仲間入りかな。
 お父さん達は四組の夫婦として私達を育ててくれたけど、誰の子かなんて気にもしていなかったじゃない。
 私達は更に踏み込んで、夫婦という形を取らず、生まれて来る子ども達を全員で育てて行くの、勿論これから生まれるお母さんの子、私達の妹や弟も一緒にね。」
「なるほどね、町の子には真似出来ない家族形態でも、あなた達ぐらい仲良しの集団なら問題なさそうだわ。」
「遺伝子研究には私も参加させて貰えないか、我々八人と町の人との違いとかも探ってみたい。」
「お願いします、私では巴の喜ぶ結果にばかり目が行きそうで、科学者として冷静な立場で見て貰えたらと思います。」
「望たちの妊娠期間とかは私達と違うのかしら、違いが少し心配になって来た…。」
「大丈夫だろう、望に子どもが生まれたら私はお爺ちゃんか、全然実感が湧かないぞ。」
「お父さん何言ってるの、まだ妊娠してませんよ。」
「はは、そうだったな、なあ、望、私達は肉体年齢が二十四歳からあまり変わっていないのだが、まさか、お前たちに抜かされるという事はないよな。」
「それは大丈夫、追いつくだけで抜かす事は無いみたいだから。
 私達は、町の人達とは違った時を過ごす、だからお母さん達の様に沢山の子を授かる事が出来るの。」
「やはり町の人達とは距離をとって行くべきかな?」
「そうね、王国になりそうだから王様はお城で、お父さん達も城から指示を出していれば良いと思うわ。」
「今後は和の国の管理を担当しないとな。
 城下町の建物も移築が進んで、尊、和の国の改造は大規模なものになるのか?」
「そうですね、この機会に思い切った模様替えをしても構いません、城に合わせたデザインで有れば。」
「それって、城以外はどうにでもなるということなの?」
「ええ、本物の高い山とかは無理ですが、雰囲気を出すだけなら大丈夫ですよ。」
「今のままで特に不満はないのだが、和の国の元国民達も全員下界で働く様になるのだろ、そうなっても名称は和の国のままなのか?」
「永遠に平和で有り続ける事を願って定められた国名ですから、住人が僕たちの家族だけになってもそのままで良いじゃないですか。」
「そうだな、国のデザインは子ども達の好きな様にすれば良いと思うが…。」
「ふふ、変えないわよ、尊は模様替えできると言ってみただけだけ、私達だってキングとマリアさまが作ってくれたこの風景が大好きなのだから。」
「思い出が沢山詰まっているしね。」
「何だ、愛はともかく、翔は大改造したいのかと思っていた。」
「改造はしますが、見えない所ばかりですよ。
 箱舟倉庫エリアは完全に本体から切り離し再編成、必要に応じて高速宇宙船和の国の後からついて来る様にします。
 倉庫は高速にする必要がないですからね。」
「沢山有る居住コロニーとかはどうするのだ?」
「惑星の環境調整装置にして行きます。
 大地に植物を増やす為には…。」

 気が付けば、話しは当初のテーマから随分外れていた。
 それは、子ども達が皆の幸せを…、巴の気持ちを大切に考えている事を改めて確認出来、安心してのことだと思う。
 大人達にとっても沢山の想いでが詰まった和の国は、これからも私達の大家族を見守り支えてくれることだろう。
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10 王国 [KING-05]

 箱舟船団から大地に降り立った開拓者達は、その人数には全く相応しくない広大な土地を前にして、王国という国家形態を選択した。
 人々は思っていた以上に統合の象徴という存在を必要としていたのかも知れない。
 私達は特権階級の存在に対して、もう少し反発が有るだろうと思っていたが、考えてみれば城の子はそう言うレベルではなく、人々が自分達と同列に置く事の出来ない存在。
 城の大人は少々インチキでは有るが、隠しカメラを活用しながら要所要所でリーダーシップを発揮して来た。
 我々をここまで導いてくれた管理者の内、唯一残ったマリアとコンタクトが取れると言う事も私を王にと考えた理由だろう。

「キング、国王の権限はどうして行く?」
「そうだな、王国のスタート時は絶対王政、その後、城のメンバーが指導しつつ議会や政府を作り、国王から権限を委譲して行くというのはどうだ。」
「民の事を第一に考える絶対王政というのは是非試してみたいね。
 国王がこの惑星でずっと暮らすことにはならないのだから、政治は町の人達に任せて行くという事だな。」
「まずは国連を解散して、それに代わる議会の設立ね。
 試しに、国王が指名した人による議会と、選挙によって選ばれた人による議会の二院制ってどうかしら?」
「面白いかも、選挙に当選した人達が、無意味な議論を展開する様なら国王が却下して良いのだからな。
 これから人口が増えて行く事を考えたら、立法府は必要になるのだろうが、国連での議論を通して代表達の資質は把握出来ている。
 政府の代表は国王が指名しても良い。」
「地球での政治形態を踏襲して行くの?」
「絶対王政の期間中に色々試しながら、第二世代と相談して行くのが理想ではないかな。
 第二世代は国家という概念がまだ分かっていないと思う、組織を構築して行くことも教えて行かなくてはならないだろう、社会と個人の関係からじっくりと、人口が増えた時に備えてね。」
「そうだな、今の原始共産制は個々の人が社会の中での役割を真面目に考えている事で成り立っている。
 第一世代はこの社会の安定を考えている人が殆どだからな。
 それを、良い形で第二世代に踏襲して貰わないと、共産制の王国という、我々の記憶に無い国家形態は崩壊しかねない。」
「昔の共産主義って、強引な指導者が絶対王政下の国王が如く振る舞っていた様な気がするのよね。
 自由主義経済を経験して来た人達を強引に共産制へ…、強引に思想を変えさせる様な手法を取らないと成立させられなかったのが共産主義、社会主義だった気がするわ。
 でも、この王国はお金の存在しない原始共産制からスタートしていて貧富の差はない。
 問題は自由に競争しない社会、競争相手のいない社会が上手く発展して行くかどうかね。」
「頑張ってくれた人に、ご褒美は必要かもな。
 今までは、みんなで有難うと言うぐらいだったか…。」
「もう少し目に見える形で、社会貢献をした人が優遇される…、ささやかでも頑張ってる人が社会から認められるシステムが有った方が良いのかな?」
「誰しもが、この国に於ける普通の、健康で文化的な生活を送れる様にしつつ、ご褒美の形で少し贅沢な物を優先的に手に入れられる、その為の報奨金とかはどうだろう?」
「ご褒美用の通貨を発行するの?」
「否、ご褒美の意味と金額を公開し、それを何に使ったかも含めて明示するというのはどうだ。
 ある意味キャッシュレス決済、すべての情報が開示される形で多少の手間は掛かるだろうが今の人数なら可能だろう、その形を試しながら人口が増えた時をイメージしても良いのではないかな。」
「そうね、オーダーメイドの洋服とか、特別な料理とかの贅沢品をその対象にすれば、皆さんの励みになるかも。」
「そういう事なら、惑星一周空の旅とかを用意しましょうか?」
「尊、可能なのか?」
「ええ、その映像を皆さんに見て頂いて、惑星の今を知って貰いましょう。
 先回見て頂いた時よりは緑の大地が広がっていますからね。」
「城の子が案内してくれるそんな旅がご褒美なら…、例えば学力勝負のゲームとか、緑化事業コンテストとか、そんな企画の賞品にしても良いな。」
「ストレートに競い合って貰うのね。
 名誉と言うご褒美を考えても良いと思うけど、やはり目に見える形の賞品が有った方が嬉しいでしょう。」
「積極的に大地を切り開き緑地を広げて行くような開拓者魂を、子ども達にも持って欲しいと思うから、緑化事業コンテストの様なのは是非実現させたいね。」
「大地の開拓事業案と、実際の開拓実績で競って貰おうか?」
「そうだな、企画を検討してみよう…。」

 国の子ども達は、闘争心を持つ人が罰によって淘汰された事や、親たちが協調性を重視して育てた為か、競争心が弱いと感じられる。
 人種を越えて仲が良いので安心では有るが、上を見る気持ちが弱過ぎては心許ない。
 私達は王国のスタートに合わせ、様々な企画を用意する事にした。

「王国の方針と様々な企画、国民に告知して行く事は山ほどあるね。」
「毎日少しずつ発表して行けば、国民は毎日新鮮なニュースに接する事が出来て楽しめるのではないかしら。
 まずは、王国の建国記念イベントからね。」
「ここの大地を踏みしめてから一年となる記念の日から始まる王国建国記念祭、今までも適当にお祭り騒ぎをしてきたけど、国としては初めての正式なお祭りになるわね、でも、マリアさまのテクノロジーはこの日から少しずつ減らして行くと宣言済だから、心から楽しめないかも。」
「それはどうかな、この一年で町の形が出来上がり、食料の備蓄を増やせた。
 夏は冷房なしで過ごせたし、冬も薪を利用した暖房で問題無かっただろ。
 冷凍庫や冷蔵庫はこの先も今のまま使って良いとマリアさまが許してくれたのだから、そんなに不便にはならないと思うね。」
「そうだな、町に関しては問題の無い様に、尊がマリアさまと交渉してくれた。
 荒野を貫く道路も山に向かう道路も、現時点では充分過ぎる距離を完成させている。
 マリアさまのテクノロジーによる機械が減る事に対して具体的な話をしていても、素直に受け入れて行くという感じだった。
 尊もそう感じただろ?」
「はい、特に技術屋さん達は、自分達の手に負えないテクノロジーに頼りたくは無いそうで、本当は冷凍庫だって自力で作りたいと話していました。」
「それなら安心かな、何処までもマリアさまに依存する様な社会では、自立して行けないものね。
 マリアさまに対する感謝の気持ち、マリアさまが見守っていて下さるという気持ちが有っての事なのだから、今のまま優しい社会が続きそうだわ。」

 この惑星の春分の日、一月一日に始まった王国建国記念祭では馬や馬車が活躍しマリアのテクノロジーを使った物はほとんど使われなかった。
 祭りは家畜の世話など休めない作業を交代で行いながら十日ほど続けられ、その間に少しずつ城からの発表を行った。
 王国の名称は緑の王国、この惑星が豊かな植物で覆われん事を願って付けられた。
 緑の王国、初代国王で有る私には城の連中が『全ての始まりの王』という別名を付けてくれたが人々に浸透しそうになく、ニックネームレベルのキングという呼び名が、その持つ意味のままとなっただけの様な気がする。
 企画の発表はその賞品の豪華さに国民を奮い立たせる事になった。
 特に城の子主催のパーティーや惑星一周旅行には十代の子ども達が色めき立つ。
 能力の高い者が勝てるゲームだけでなく、ルールを工夫して能力的に劣っていても勝利出来る企画も用意した。
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