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01 世界平和 [KING-04]

 サンフランシスコは老化の進んでいた三人がショック死の如く亡くなった以外は大きなトラブルなく落ち着く。
 多くの労力を費やした事は無駄にならず、彼らは過去の犯罪を忘れ、全うな一市民として世界に貢献したいと話してくれた。
 金が無いから金にまつわる犯罪は起こり得ないし、彼らは罰の存在を再認識、その言葉に嘘はないだろう。
 また、心身ともに彼らの状態が良くなって来ていると、健康面の調査を続けている三郎から報告が入り、少なくとも老化現象は止まっている様だ。
 これはコロニーDメンバーを隔離した効果だと考えられるが、三郎はリーダーグループとブラックコロニーを除くと、全体的に知的能力が低く騙され易かったのだろうとも。
 そのブラックコロニーに対して、尊はよくやってくれている。
 スコットランドのリーダー達に趣旨を説明した後、連中とモニター越しに三回の対談、始めは子どもが担当という事に腹を立てた者も、すぐにそのプライドを打ち砕かれたそうで、尊の提案を受け入れた。

「明日は尊が居住コロニーへ訪問という事だが大丈夫か?」
「ここまでの監視映像では問題ない、有るとしたら組織的ではなく個人的な攻撃だが今まで武器は確認されていない、スコットランドも警護してくれる。」
「それにしても、自暴自棄になって攻撃してくる奴がいないとは言い切れないだろ。」
「大丈夫だ、マリアも見守り、守ってくれる。」
「それでキングは落ち着いているのか。」
「いや、三之助に手伝って貰って彼等の精神分析をし尽くした結果でもある、すでに彼等は無害だと思う、このタイミングで仕事を与える事により、この世界の真の住人となれるだろう。」
「他の国民に受け入れられるだろうか。」
「その辺りは望が考えている、時間は掛かるだろうが牢獄での終身刑よりはましな形で、皆には妥協して貰えると思う。」
「何とか良い方向へ向かって欲しいものだな、ところでキング、尊が話していた居住コロニーの整理はどうなってる?」
「翔が引っ越しの希望調査を始めた。
 国を越えて気の合う人を隣人にする事で、あまり仲良くなかった人と距離を置ける様に、それに伴い人数の少ないコロニーを廃止。
 体力の衰えから労働力の問題が出ていたサンフランシスコの為、そこで働いてくれる人を集めたコロニーを作り、そのゲートをサンフランシスコに繋いだりとか考えていてね。」
「居住コロニーの再構築ということか。
 サンフランシスコでは様々な作業を通して多国籍の人達が協力し合い国家間の交流が進んだが、更にと言う事だな。」
「子ども達はそれぞれの文化を尊重しつつ、世界が一つになる事を望んでいるのよね。
 マリアさまを信仰の対象にしたのは良かったと思うわ、過去の神様たちは安らぎ以外に争いを与えて下さったけど、マリアさまは子ども達を通して、目に見える形で生活環境を改善してくれている。
 マリアさまが何時も見守って下さっていると信じられているし、私達の監視を通して小さな揉め事を減らせているからね。」
「多くの不満は解消出来ていると思うが、見てる時に口に出してくれないと分からない、拾いきれているのだろうか。」
「ならマリアさまからのお告げという事にして、不満や希望が有ったら、そうだな…、城の正面にある欅の大木に向かって声に出して願えば叶う場合も有るってどうだ?」
「そうね、でもお告げより、まずは都市伝説的に噂を広めるってどうかしら、願いが叶わなくても諦め易いでしょ。」
「そうだな、やってみるか。」

 麗子と八重は翌日、食堂でさりげなく会話。

「ねえ、欅さまってどう思う?」
「一花は信じてるみたいよ、欅さまにお願いしたから誰よりも早く子を授かったのかもって。」
「偶然かもしれないけど、ちょっぴりロマンティックよね。」
「三之助は、声に出して自分の希望を言うことは大切だって言ってた、不満を持っていても黙ってたらマリアさまに届かないって。」
「そうか、まあ私等不満もないし、願い事は世界平和だから…、でも念の為に世界平和を欅さまにお願いしておく?」
「そうね、自分の気持ちの再確認になるのかな。」

 モニターで見ていて思わず笑ってしまう程に下手な芝居だったが、それでも二人の会話は素直な数人の市民が耳にし、都市伝説を広める事に成功した。
 そして、作られた都市伝説は思わぬ情報をもたらす。

「簡単に叶えてあげられるお願いをしてくれる人がいたおかげで欅の木に話し掛ける人が増えたわね。」
「しかし内容がな、軽めのならいざ知らず、私達の子を産みたいなんてストレートなのにどう対応すれば良い?」
「彼女達の気持ちは分かるわ、独身者もいるし既婚者子持ちだって本能的に優秀な子を産みたいと思うでしょうから。」
「でも正直不倫する気は…、ひとまず独身者同士、出会いの場を作ってごまかすか?」
「そうね、国際結婚が可能な状況になって来たのだから婚活の場を企画しましょう。」
「この先不倫や離婚といった事が表面化してくるのかな。」
「どうかしら、今のところ表立っては見つけていないけど、心の中の色々な思いが判明したわね。」
「遺伝的には、我々以外との不倫はそんなに問題ないだろう、普通の子が生まれるだけだからな。
 だが我々の遺伝子が一般人と合わさったらどうだ、天才を生む家系と一般人、その中途半端な存在を生み出したら、この社会の安定を損ねる存在にならないか。」
「可能性は否定出来ないわね、子どもは増やしたいけど気を付けて、ロック。」
「はは、最高の妻がいるのに何に気を付けるんだ、それより美人揃いなんだから君達も襲われたりしないように気を付けなよ。」
「その心配はないでしょ、でも皆さんがストレスを溜めない様にイベントを増やさない?
 平和な社会を皆で維持して行こうと強調しつつ皆が楽しめる様な。」
「そうだな、そのイベントで、あまり上手くないけど歌手になりたいって人にもチャンスをあげたら良いと思う。
 趣味の幅を増やせる環境を整えれば、生活が更に豊かになる、他の国とも相談して毎月開けないかな。」
「城下町では毎日がお祭り気分だ、そう言えばミュンヘンの人が城下町に店を出したいとお願いしていた。」
「直接話してくれれば良かったのに、遠慮が有ったのかしら、城下町が賑わうのは良い事よね。」
「表向きはマリアさまからキングに話が有った事にしてすぐ相談してみるよ。」

 実現が無理なもの以外は極力願いを叶えている。
 しばらくすると神頼み的なものではなく、マリアへの願い、もしくは我々へ要望が届く手段と認識された様で、無茶なお願いは少なくなった。
 その一方で、世界平和を祈る人が増えつつある、現在への感謝の言葉と共に。
 城の象徴でもある欅の大木は、マリアを崇拝する人々にとって心の支えとなっている様だ。
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02 緊急招集 [KING-04]

 サンフランシスコの人達がすっかり世界の一員として溶け込んだ頃、ブラックコロニーの連中は作家集団としての実力を認められ始めた。
 尊がマリアと交渉、許可を得て自ら製造した八台のワープロ、彼らはそれを気に入り、今は作家活動を生業としている。
 その小説には古い作品からの盗作も有ったが、この世界に法は無く、禁ずる理由が浮かばなかったので黙認。
 我々は自前の製紙技術を持ち合わせていなかったが、城の子に甘いマリアは、彼女達のテクノロジーを使っての製紙と印刷を許し指導してくれた。
 製本はその技術を覚えていた人が担当してくれ、彼の指示で必要な道具をロック達が用意。
 大量に発行する必要は無いので手作業で充分間に合う。
 本が発行され始めると、人々はかつての娯楽を思い出し、テレビを懐かしむ様に。
 人々は城の子にテレビの事を話したが、その心中に城の子なら何とかしてくれるだろうとの思いが有ったのは間違いなく、娯楽としてだけで無く情報伝達の手段としての有効性を訴えていた。
 その結果…。
 
「翔、今度の工作は何なの?」
「動画撮影用のカメラだよ。」
「使い道は?」
「母さん、昔テレビってのが有ったのでしょ、そんなのを始めようと思うんだ、端末でも撮影出来るけど使える人が限られるから、誰でも撮影出来る様にね。」
「放送はテレビ電話のモニターを使うの?」
「始めの内はね、でもモニターは簡単だから専用のを作るよ。」
「マリアさまが許して下さったのね。」
「うん、台数は控えめだけど、尊がね、昔、自分達の力で作れていた物を目にする事で、テレビ製造を一つの目標に、それが技術開発に取り組む気持ちにプラスになるからと、尊はマリアさまの心を動かすのが得意なんだ。」
「ふふ、マリアさまは城の子に甘いものね。
 それで、どんな番組が見られるのかしら?」
「望が中心になって考えてる、簡単なのは音楽村の演奏だけど色々有った方が楽しいでしょ、データベースを構築して選べる録画番組と、こちらから定時に放送する情報番組になると思う。」
「それは楽しみだわ、ねえ、昇もちゃんとやってるの?」
「大丈夫だよ、昇は僕らの中で一番工作が得意なんだ。」
「へ~、あなたたちは皆同じぐらいに何でも出来ると思っていたけど、得意な事とか有るんだ、まあ性格が違うから当たり前なのかしら。」
「そうだね、もう直ぐ四年生の四人は何でも出来ちゃうタイプ、昇、香、誠、巴は得意な事が有る代わりに苦手な事も有るかな、でも苦手でもやれない訳じゃないんだ。」
「他の子達は何が得意なの?」
「香はちっちゃい子の相手、巴は大人の相手、誠はプログラム管理、香と巴は分かり易いから、ちょっと見て上げてよ。」
「分かったわ。」

 一花から話を聞いて私達は改めて子ども達の観察を始めた。

「香が近づくだけで、ぐずってた子がにこにこし始めるのか、尊達も小さい子の相手は得意だと思っていたがここまでではなかったな。」
「そう言えば、サンフランシスコの時も、香を子ども相手の中心にしてたわね。
 香は特に何もしてない様に見えたのだけど。」
「目じゃない?」
「そうか、アイコンタクトだけで…。」
「こっちのモニター見てみろよ、巴が城下町を歩いているが。」
「城の子を見かけると皆さん何時も嬉しそうだけど、ちょっとレベルが違うかな、ルックスだけなら城の子達はタイプが違っても皆可愛いのに。」
「これは能力なのか?」
「翔は、得意な事って言ってたけど。」
「これで大人になったらどうなるんだ?」
「楽しみな様な怖い様な。」
「神の子としてか…、平八なんか拝んでるぞ。」
「これはこれで平和だから良いだろう。」

 今まで子ども達は各国の人達と良好な関係を築いて来た、ただ、それを特殊な能力によるものとは考えていなかった。
 だが、城の子は神の子とも呼ばれ始め特別な存在になりつつある。

 そんな城の子達の中でも、この世界全ての子のトップリーダー的存在となっているのが尊。
 彼が四年生になって直ぐのある日、尊にしては珍しく私の部屋へ駆け込んで来た。
 日頃から私の立場や仕事に気を配り、落ち着いて行動する子なので、本当に珍しい事だ。

「父さん、子どもだけが五人残っている居住コロニーを和の国に接続して良いかな?」
「えっ、どんな状況なんだ?」
「第一世代が残っていないから僕らが導かなくてはいけないと、マリアさまから言われた。」
「そうか、ここに迎える事に何らかの問題を感じているか?」
「問題は向こうの子ども達が泣いていること以外には何も。」
「和の国成立以来、初めての形だという事は理解してるな。」
「もちろんさ、だから父さんの許しが必要だと思った。」
「接続に問題は無いが。」
「ほんとは時間を掛けて準備するべきだと思う、でも、マリアさまから見せられた映像からは…、気持ち良くないイメージが沢山流れて来る、それを僕たちは軽く出来ると思う。」
「分かった、城の住人を居住コロニーとの接続予定地点に集めて子ども達を出迎えよう、大人を迎えるのでなければ大きな問題はない、ただ大勢で取り囲んでは恐怖心を与えてしまうかも知れない、私は三之助に説明するから、尊は香に事情を説明してくれるか。」
「はい、全員への連絡は?」
「今、緊急招集をかけた、子ども達は初めてで戸惑ってるかもしれないからフォローしてくれ。」
「はい、場所は?」
「ひとまず城のホールにした、ゲートの位置は後で変えれば良いのだろ。」
「はい。」

 とりあえず急いだのは尊が気持ち良くないイメージと話したからだ。

「父さん、繋げる準備は出来たよ。」
「分かった、香は大丈夫か?」
「はい、尊から聞きました。」
「麗子がお菓子の用意をしに行ってるからな。
 まず尊と香が入って状況判断してから指示をくれ、ここにいる全員が尊の指示で動く。」
「分かりました、香、手を繋いで行こう。」

 二人がゲートを越える。

「翔は翻訳機の確認をしてくれるか。」
「はい、まだ言語は増えていません。」
「今まで出会った言語なのかな。」
「望、今までとは出会い方が違う、言葉が通じない事を想定して対策をとれないか?」
「はい、ぬいぐるみは用意してあります、愛は誠達とペットを取りに行っています。」

 尊から連絡が入る。

『三郎おじさん、すぐ来て! 怪我してる子がいるんだ!』
「怪我の程度はどうだ?」
『出血していて…。』
「分かった、すぐ行く。
 三之助、救急箱を取って来てくれ、私は取り敢えず止血しに行く。」
「分かったわ。」
「八重は、こちらでの受け入れ態勢を整えておいてくれるか。」
「ええ。
 尊、取り敢えず何が必要?」
『食事、お風呂と着替えが必要な事は間違いないです。』
「了解、ゲストルームで受け入れるから、直ぐでも大丈夫よ。」
「尊、クッキーと飲み物は暖かいのと冷たいのを用意したわ、巴に持たせるわね。
 食事は好みが分からないから何種類か用意しておくわ。」
『うん、母さんのなら何でも良いと思うよ。』
「尊、言葉は通じているのか?」
『父さん、全くだめです、聞いた事のない言語で、翔、別チャンネルで送るから分析してくれるか。』
「了解した。」
「子ども達の年齢は?」
『二歳から六歳ぐらいだと思います。』
「落ち着いているのか?」
『香の顔を見て、さっきまで泣いてた子が泣き止みました、今、巴からクッキーを受け取った所です。
 怪我してる子も大丈夫そうです。
 三郎おじさんの処置が終わったら、移動します。』

 しばらくして。

『父さん、もう少ししたら移動します。』
「そのコロニーの状況はどうだ?」
『怪我をした子のではないと思われる、沢山の血が残っています。
 コロニー内の状況から、絶望した大人が子どもと共に死のうと…、そういう考えに至る可能性は有りますか?』
「そうだな、有り得ない話ではない、何にしても心身のケアが必要だろう。
 こちらの受け入れは何時でも大丈夫だから、三郎と相談してくれ。」
『分かりました、五人の子達を一緒に連れて行きます…。
 あ~ん、よせって…。』
「どうした?」
『抱っこしてる子が、ほっぺを突いて来まして…。』
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03 孤児 [KING-04]

 五人の孤児たちはひとまず城の一室に落ち着いた。

「香は彼等の言葉が分かっているのか?」
「そうでもなくて、ただ何を伝えたいのか感じてるそうよ、それに対して笑顔で答えてると話してたけど。」
「あの子にそんな能力が有るとはな、でも嘘発見器と同等の能力を備える三之助の子なら有り得なくもないか。」
「尊、彼等のコロニーはどうだった?」
「ひどかったです、畑は貧弱で、テレビ電話や端末は見つかりませんでした、一つの居住コロニーだけで自給自足を試みてきたのが失敗に終わったのではないでしょうか、鶏を見かけないのに卵の殻が有りましたので、ここからマリアさまが転送したのかもしれません、後は翔が昇と調べています。」
「罰を受けて充分な食料援助をして貰えず、そして絶望したのかな…。
 尊の感じた通り、無理心中を図ったのかもしれないね、一人が別の大人を殺し、子どもに傷を負わせた時点で罰を受けて死という可能性は否定出来ない。」
「遺体はすぐに消滅し、先に殺された大人の血だけが残されたということなのね。
 問題は子ども達だけど、言葉が通じないのは大きなハンディだわ。」
「愛と巴が彼等の言葉を分析しています、それを元に共通語を教える準備を始めています。」
「そうか、望と香が五人に付き添っている、怪我をしてる子もいるから、まずは東城家で担当だな。」
「はい、ただマリアさまから極力短期間で城から移す様に指示が有りました、城で夜を過ごす事は彼等にとってマイナスになるそうです。」
「そうか、城は特別な場所なのか…、言語に関する話はマリアさまと相談しなかったのか?」
「したのですが僕らで解決するのがベスト、翻訳機に新たな言語を追加する必要はないと。」
「そうだな、子ども達の年齢を考えると、その方が早い、尊は彼らの今後について何か考えは有るのか?」
「まずは城下町の子どもの家で暮らして貰い、僕らが交代で面倒を見ます、お泊りに来る子達も協力してくれるでしょう。」
「大人の援助はどうする?」
「通常の保育担当者を増やすか、敢えて今のままにし、おっきい子達に手伝って貰うかです。
 子ども達の中には孤児も何人かいます、彼らに手伝って貰えば、彼ら自身の成長にも繋がると思います。」
「そうだな、城の子に面倒を見て貰った子達が、今度は面倒を見る側になるというのは良い事だと思う、八重とも相談しておくよ。
 問題は共通語に馴染むまでか…。」
「巴は、彼らが口にした単語は多くないと話していました。
 それを共通語に置き換えて行けば…、後は彼らの能力次第です。
 三郎おじさん、彼らの相手を出来そうな…、そうですね、四歳以上の城の子を部屋に集め、言葉について説明しておこうと思うのですがどうでしょう?」
「そうだな、まずは彼らに城の子達を紹介しよう。」

 城の大人達は別室に集まり、モニターを通して子ども達の観察をする事にした。

「語彙が少ないから、巴の解説でなんとなく分かるわね。」
「香が修正してる、もう会話し始めてたのかな。」
「まずは名前ね、自己紹介の意味は通じたみたい。」

「城の子達は呆れるほど早く言葉を理解して行く、あっ、食事は?」
「隣の部屋に用意しておいたのだけど…、尊が食事の指示を出したわね。」
「こういう指示は尊なんだな。」
「今回の事もマリアはまず尊に伝えた、翔達は納得してるのかな。」
「大丈夫でしょ、そういった分担もマリアさまと相談したそうよ。」
「まあ特に立場の違いが有る訳でもないか。」
「向こうの大きい子が運ぶのを手伝ってるね。」
「その調子で早く馴染んでくれると良いのだが。
 香は小さい子から離れずにいる、それだけで落ち着かせているのかな。」
「用意が出来た…、いただきますは…、手を合わせた、アジア系だと思うがどこの国だかさっぱり分からない。」
「すぐに和の国の国民になるだろう。」
「日本語も教えるのか。」
「どうするかは子ども達に任せよう。」
「おいしそうに食べてるね、食べ物の名前も教えている。」
「孤児になったのだからカウンセリングの必要が有るな。」
「望達と相談するわ、でも望と香に任せておけば大丈夫かも知れないわね。」
「だな、もうすっかりお母さんをやっていないか。」
「はは、自分達が三之助にして貰って来た事をちゃんとやっているよ。」
「今回こういう出会いが有ったという事は今後も有るという事かしら。」
「可能性は否定出来ないわね、国家を成立させる事が出来なかったコロニーは他にも有るのでしょう。」
「子どもが成長してからだと厄介かもな、まあ、マリアさま次第だが。」
「こういう形で子どもが増えて行くとなると城下町の住居建設計画も見直しか。」
「いや、昇と誠が彼等のコロニーを住み易く作り直して、子ども専用の居住スペースにするそうだ。
 公園を併設して、世界中の子ども達が遊びに行ける様にしてね。
 使い方は城下町の子どもの家と似た様なものにするそうだが、ゲートを子どもの家の中に付け替える予定だとか。
 専用コロニーでは共通語しか使えないというルールにして、共通語の欠点を見つけて行きたいと話していたよ。」

 五人の新しい友達は世界中の子に歓迎され、共通語に慣れて行く。
 もちろん、尊達の働きかけ有っての事だ。

「孤児たちに問題はないのか?」
「今の所は大丈夫、でも、ずっと見守っていて上げないとね。」
「孤児という事を考えて何人かが育ての親を名乗り出てくれているが、城の子達は言葉の問題も有ってまだ結論を出せていない、我々で判断すべきだろうか?」
「答えが一つじゃないから難しいと言ってたわ、でも早く落ち着かせたいとも話してくれたから、私達はのんびり様子見で良いのではないかしら。」

 私もそれで良いと考えていたのだが、翌日マリアから話が有り、緊急会議を開くことになる。

「キング、重要な話とは?」
「忙しい所をすまない、マリアから今後についての相談が有った。
 まず、マリア達は先日孤児と出会った様なコロニーをまだ幾つも持っている、国の集合体を形成する要件を満たせなかった国もだ。
 だが、コロニーで生まれた長子が七歳になるまでに他のコロニーと接続出来なかったコロニー、同じく八歳になるまでに子どもが二十人を超える事無く、多国家からなる世界の一員となれなかった国は、居住者ごと破棄されるというのが、彼らの計画としてプログラムされている。
 因みに、この世界以外にも似た様な世界は幾つか有るそうだが、我々がそこと交流する事は一切出来ない、そこへも我々の食糧支援は届いていたそうだがね。
 そんな世界の中でもマリアが管理するこの世界は、最も成功したと判断され、更なる拡大を認められる事になった。
 ただ、その拡大はこの先破棄される予定だったコロニーを吸収してとなる。
 この拡大は困難を伴うだろうが、世界の維持発展の為には遺伝的要因も含めプラスになるとマリアは判断している。
 私もその判断は正しいと思うし、何と言っても、居住者ごと破棄されるというコロニーの存在を見過ごせない。
 これは、私達の世界、ここの誰から反対されようと推し進めて行かなくてはならないと考えている。」
「私は反対しないわ、反対出来る訳がないでしょ。」
「城の住人の総意なら、誰が反対しても無駄だな。
 今日まで共に歩んで来た城の仲間が人を見捨てるなんて選択肢を選ぶ訳がない、だろ?」
「マリアは子どもを守って欲しいと、大人に関しては私達の判断で決めれば良いというスタンスで、和の国へ子どもだけ移動か、親も一緒にコロニーとゲートを繋ぐか、どちらでも良いと言われた、ただ大人も一緒だとかなり人口が増える事になるそうだ。」
「子どもだけでは可哀そうだわ、保護した子達も口には出さないけど、親子でいる人達を見て寂しそうだもの。」
「望の言う通りだよ、人口が増えても大丈夫さ、今までマリアさまが転送していた余剰生産分が減っても食べてる人は同じだと思う、マリアさまが送った先で食べてるか、ここで食べてるかという事だろう、まだ生産能力にはかなりの余力が有るしな。」
「それなら、この先のスケジュールはこちらの都合に合わせてくれるそうだ、その管理をマリアは誠にお願いしたいと話してたのだが、頼めるか、誠。」
「うん…、じゃなかった、はい。」
「この事はもちろん国連の場でも相談するが、このメンバーが中心にならざるを得ないだろう。」
「これから出会う子ども達の面倒は望と香中心にお願いしたいが、良いかな。」
「はい。」
「もちろん皆でカバーする。」
「なら私は調整役になるわ、誠が動き易い様に。」
「愛がそっちを担当してくれるなら、僕はコロニーの環境改善を、昇、手伝ってくれるか。」
「うん、兄ちゃん、がんばるよ。」
「巴は僕と大人の相手をしよう、大丈夫か。」
「はい、お兄さま。」
「大人相手は大変だぞ…、そうだな二人にはこの際プリンス、プリンセスという称号を授けようか、尊、肩書を有難がる輩には効果的なんだ。」
「二人だけというのは嫌です、僕ら八人…、いえ夢や聡達僕らの妹、弟全員、同じ様にして欲しいです。」
「城の子、神の子という名称はこの世界では当たり前になっている、だが、これから出会う人達にとっては、すぐには馴染めないだろう、う~ん…、八人とも貴族階級の子弟という事にするか?」
「そうね、国連メンバーとも相談してみましょう。」
「城の子に限っては、これまで世界中の人々の為に働いて来たのだから反発もなかろう、他の国のリーダーが真似したら顰蹙を買うだろうがな。」
「特権階級として私達の存在も強調するのか?」
「新たに出会う大人達に向けてと話せば反発する人はそんなにいないと思うわ。」
「貴族となって特権を振りかざしたい訳じゃないが、この世界は民主主義とは違う。
 国民がどういった反応を示すかに興味が有るよ、絶対王政だって王が国民の幸せを真に願っていたら違ったものになっていたと思うし。」
「翔はどう思う? キングの息子だから尊はプリンスという事になるけど。」
「何か問題が有るのですか? 尊は僕らのリーダーですよ、城の子皆でこの世界を守って行くその代表です、僕らにはそれぞれ役割が有り、尊は最終判断を担当して貰っています、今まで尊の判断は間違っていません。」
「そんな風に考えていたのね、これから、もっと真面目な話をする機会を増やさないといけないのかな。」

 確かにそうだ、彼等の本心は、その天才性故に聞きにくくなっていたと思う。
 これから共に世界の為に働く過程で、また違った親子関係が構築されて行くのかもしれない。
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04 コンタクト [KING-04]

 これから保護し受け入れて行くコロニーの情報を城の子達と共にマリアから教えて貰い整理する。
 単独居住コロニーは大小様々で六十七、それぞれ大人は三名から八名、子どもは一名から十二名。
 一つの単独コロニーでさえ子どもを十二名儲ける事が出来たと考えると、八つのコロニーが集まっても子どもが二十名に満たないという国というのはやはり何かしらの問題が有るのだと思う。
 そんな国が八つ、大人の人数は三十名から五十名程度。
 先回の様な孤児を生み出す事態は何としても避けたいが、それぞれにどんな問題を抱えているのか分からず、我々にとって大きな試練と言える。
 作業を進めるにあたり、マリアは各コロニーの隠しカメラ映像を見られる様にしてくれた。
 その映像を元にコンタクトの優先順位を決める。

「子ども達の作ったスケジュールはどうだ?」
「妥当な所ね、映像からの判断で優先順位を決めたそうだけど、まずは二つの楽そうなコロニーで手順を確認してから、単独居住コロニーはキングと子ども達で。
 国の方は今までの経験を生かして私達が担当。
 子ども達の案では、サンフランシスコの時と同様、対面までに時間を掛けて準備し、対面時には見守る。
 サンフランシスコの様な特別な集められ方はしていないとは言え、どんな問題が有って国の発展に失敗したのか分からないのだから、子ども達が考えた通り慎重に取り組むべきでしょうね。」
「サンフランシスコを経験した私達だ、油断さえしなければ大丈夫だとは思うが、八回も続くのだからな。
 出来れば単独居住コロニー保護のフォローもしたいが、我々に出来るのは要所要所で見守るぐらいか。」
「翻訳機が使えないと、私達に出来る事は限られるものね、子ども達はすでに準備を進めているそうだけど任せるしかない…、でも、先回と違って大人相手でしょ、難しくないかしら?」
「あっ、キングからだ。」
『試験的に一つの単独コロニーとコンタクトを取ってみようと思う、来てくれるか?』
「分かった、すぐ行くよ。」

 城の十六人が集まった。

「今回の問題点は向こうに端末どころかテレビ電話さえ存在しないという事と言葉が通じないという事だ、愛と巴が映像から言語の解析を進めてくれてはいるが、相手は大人、先回の様には行かないと思う、そこで今回の作戦だ、尊から説明して貰う。」
「はい、今回一番重要になるのはファーストコンタクトです、向こうの大人がこちらの人と対面してしまうと記憶の蘇りが何の予備知識もないまま始まってしまいます、出来れば時間を掛けて準備したいのですが、時間を掛け過ぎていては残っているコロニーを長期間放置する事になってしまいます。
 今回は翔中心に作成して貰っている映像を見て貰う所から始めます。
 その第一段階として、まずゲートを置き、モニターを背中に括り付けたウサギを越えさせます。
 モニターでは共通語と身振り手振りで、こちらの情報を、この世界の映像と共に流して行きます。
 このゲートは子どもだけが行き来出来る設定にして始めます。
 そのことを、子どもが通れて大人は通れないという場面を撮影した映像で説明し、その反応を見ながら彼らがどの程度理解したかを判断して行きます。」
『尊、ゲートとウサギの準備は出来たよ。』
「おっけい、翔、こちらは隠しカメラ映像をモニターで確認して行くよ。」

 その映像では、まずコロニー内にゲートが出現。
 それに気付いた一人の大人が慌てた様子で他の人を呼びに行く。
 八人の大人が十二人の子どもを連れてゲート前に集合。
 まずは楽そうなコロニーで手順を検討したいと考え、このコロニーを選んだのは大人が八人揃っていて比較的落ち着いた感じだったから、死者が出ていないという事で少し安心感が有る。
 コロニーが広めなので、今後の作業拠点としての利用も視野に入れてのこと。
 向こうの人達がゲートについて話し合っている所へモニターを背負ったウサギがゲートから現れる。
 当然、驚いているが、無害なのは一目瞭然で近づいて来る。
 この役目をウサギにしたのは、犬が吠えたら子どもが怯える、猫が引掻いたら、機械仕掛けより生物の方が警戒されにくいとか考えてのこと。
 ウサギは逃げようとするが、モニターを背負っていては素早く動けない。
 そのモニターには城の子達が笑顔で手を振る映像が流されていて、こちらに敵意は無いと…、どうやら気付いて貰えた様だ。
 ウサギが食用になる可能性も考えてはいたが、取り敢えずペット的な扱いを受けている。
 それから大人達はモニター映像にくぎ付けとなり、その意味を考えている様だ。
 城の子は相手の反応に応じて、色々な映像を用意していたが、大人達が比較的落ち着いていると判断したのだろう、子どもだけがゲートを通れ、通るとお土産を持たされて帰されるという映像を選んだ。
 これには大人達が戸惑った様子を見せた。
 子どもを危険な目に合わせる訳には行かないと考えているのだろう。
 それも予定に入っていたので、次はゲートから、袋に入れたお菓子を投げ入れる。
 ここでモニターの映像はライブに切り替え、投げ入れたお菓子と同じ物を城の子が食べてる映像に。
 その意図を好意的に受け止めた一人がお菓子を拾い上げ口にする。
 麗子特製のクッキーを口にし、おそらく久しぶり、いやこのコロニーで暮らし始めて初めての味だろう、直ぐに他の人に勧める。
 恐る恐る口にした人の表情は、その美味しさを見事に表現していた。
 今度はぬいぐるみを投げ入れる。
 これには子どもが反応した。
 六歳ぐらいの男の子がゲートへ向かう、それを止めるかどうか、大人達が迷っている間に彼は好奇心のままゲートを越えてくれた。
 その彼のライブ映像を向こうのモニターに送り大人達を安心させる。
 香を見てにっこり笑う子の頭を撫でた香は、その子を抱きしめてから、おもちゃと果物を持たせ共通語でお母さんに上げて来て、と話した。
 言葉の意味は分からなくても、手振りから香の意図したことを理解出来た様で、直ぐさま自分のコロニーへ戻る。
 大人達はほっとした表情で果物を子どもから受け取る。
 次に映像を語学教育初級編に切り替え、共通語の文字と発音を絵や写真動画と組み合わせながら流した後、写真を使ったメニューを見せ昼食を選んで貰う。
 彼らは写真からカレーライスを選択した。
 そこからは、望が城の説明をしながらレストランに向かい厨房へと向かう映像、翔が撮影し向こうのモニターへ送っている。
 望は時折、指で指しながら椅子や机を共通語で発音して見せた。
 調理場ではカレーライスを望が味見した後、食器と共にゲートまでは誠が運ぶ。
 その間、望はずっと語学講師として、様々な物の名称を発音して行く。
 一連の流れを見せたので、ゲートから昇の自信作、歩くテーブルに乗せられて運び込まれたカレーは安心して食べてくれた。
 食べた後食器はそのまま歩くテーブルに乗せる様に絵を使って説明したが、彼らは洗いに行き、綺麗にして返してくれた。
 その後、こちらの情報を伝える映像を流し、また明日と絵を使って説明し今日のコンタクトを終える。

 その夜は四年生の四人と。

「尊、感触は良さそうだったな。」
「はい、カレーを美味しそうに食べ、食器を洗って返してくれましたからね。
 やはりお母さんの料理は僕ら最大の武器ですよ。」
「はは、胃袋を掴むのは外交の基礎になりそうだな。
 しかし、今日の様な過程を、これから六十六回繰り返すと言うのは大変だ、これで終わりでもなく、これから大変な作業が待っている訳で。」
「ですね、でも今日の映像を編集して次からのコロニーで使います。
 自分達と同じ様な境遇のコロニーと和の国のコンタクト風景を見せて行く事によって、理解が早まると思うのです。」
「それでも、大きな労力を必要とすると思うが、今日のコロニーとは明日からどう向き合って行くのだ?」
「昼食と食材を提供しつつ語学教育と、こちらの世界の紹介を続けますが、記憶のプロテクトに関する説明は難しくて。」
「そうだな…。」
「尊、あまり完璧を考えなくて良いと思うぞ、彼らを迎える時は英語禁止にするのだから、私達の時の様な苦しさはない代わりに、じわじわとプロテクトが外れて行く、その時に和の国の豊かさを実感して貰えれば、それが彼らにとっての希望になると思うよ。」
「そうね、多少の戸惑いと苦しさは避けて通れないこと、八人の大人に対し二十四人ぐらいの大人をフォローに付けることも可能だわ、子どもに対しては各国の子ども達も手伝ってくれるのでしょ。」
「はい、但し、こちらは状況を把握出来ますが、彼らにとっては全てが突然の出来事、突発的に想定外の事が起こりかねないと考えています。
 そんな時は父さんに頼るしかないのですが。」
「そうだな、私でも判断を誤るかも知れないが最善を尽くす、尊、のんびりしてる時間はない、今回は大胆に行こう、時間を掛け過ぎる方がリスクが高いと思うのだ。」
「そうでしたね、孤児を生み出したコロニーと同じ道をたどりそうなコロニーも有ります。
そこに対応するにはもう少し準備が必要ですが、より効率的な手法を考え、躊躇せず前に進んで行きたいです。」

 尊と話していると、成人した息子と話しているかの様な錯覚を覚える。
 かつての部下、その誰よりも頼りになる息子だ。
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05 希望 [KING-04]

 言葉の通じない相手に、記憶が蘇る過程をどう説明するか、翔は、その答えとしてショートドラマ仕立ての映像作品を即席で用意することにした。
 台本は大人達が経験を元に書き、演技は各国の有志による。
 過去のシーンは絵描きが協力してくれた。
 言語は相手にとって耳慣れない共通語、言葉で伝わらないというハンディが有るが、そこは俳優達の熱演でカバー。
 とは言え、今回は時間を掛けられなかったので、このチームは次回以降のコンタクトを意識し、すでに次の作品に取り掛かっている。

「なぜショートドラマを見せたのか分かってくれれば良いけど、愛、どうだろう。」
「翔、ただの娯楽番組を見せられているとは普通考えないわよ。
 それよりモニター越しでない生の巴に向こうの大人達がどう反応するかに興味が有るわ、香が子ども達を引き付ける力の強さは、もう疑いようが無いけど、大人は事情が違うと思うの。
 この世界では私達が特別な存在だと知られている、でも彼等はそれを知らない、その状況で巴にどんな態度をとるのかによって、今後の作業が違って来ると思うわ。」
「確かにそうだな、巴は尊の様に表立った仕事をあまりして無いにも関わらず、大人達の間で人気が…、可愛さでは愛と大差ないと思うのだけどな。」
「ふふ、有難う。
 あらっ、尊からだわ。」
『愛、翔、予定通りに行くよ、訪問の最終調整に入って貰えるか。』
「分かった、リハーサルは何度もして有る、ゲートの部屋まですぐ行くよ。」

 単独居住コロニーの大人達との対面はファーストコンタクトから四日目に。
 決断を下したのは尊、皆がそれに従う。
 向こうのモニターで城の子達の様子を流し、それを見る大人達の表情から三之助も大丈夫だと判断した。
 ミッションのスタートにあたり…。

「向こうへは、僕と巴、必要ないと思いますが心配する人がいますので護衛役として六人の方にお願いしました。」
「相手方の大人は八人だが大丈夫なのか?」
「多過ぎると警戒されてしまうでしょう。
 見掛けは小柄な女性達ですが武術同好会のメンバーです。
 今も彼らは僕らの様子をモニターで見ていますから、八人がゲートを越える事を理解してくれていると思います。」
「巴は大丈夫なのか。」
「はい、お兄さまと一緒ですから。」
「尊、我々大人の役割は?」
「元々問題の少ないコロニーです、今回は見守っていて下さるだけで充分です。」

 コロニーを訪問する準備は整った。
 作戦開始の時は世界中の人が注目している。
 コンタクトの様子は翔が撮影し編集、テレビの試験放送として配信して来た。
 今はライブ放送中。
 ライブ映像は直接係わらない者にとって、良い娯楽になるのだろうが、映像を通してこれから仲間が増えて行くと実感して欲しいものだ。
 麗子は不安を隠さなかったが、それでも子ども達を見送る。
 城の大人達は非常時に備え待機しつつ子ども達を見守る。

「護衛、しっかり頼むな。」
「はいキング、任せて下さい。」
「静子さんは小柄で可愛らしいから、相手に余計なプレッシャーを与えないと思っています。」
「はは、尊さまったら。」
「おい、静子、浮かれるなよ。」
「分かってるわよ、相手にプレッシャーを与え過ぎそうな親衛隊長の出番が無いように気を付けるわ。」
「映像で常に確認しているが、いざという時は先頭で入る静子に掛かっているからな。」
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ、じゃあ皆行くよ。」
「尊さま! 私の後ろに!」

 先頭に静子、尊と巴、後ろに五人の護衛を従えゲートを越える。
 尊達、その訪問の瞬間は、全く予想していない展開となった。
 彼等は尊と巴を跪いて迎え入れたのだ。

「これは驚いたな、翔の映像効果か、麗子の食事が効いたのか、何にしても上手く行きそうだな、翔。」
「はい、僕らが観察してる中でも危険は感じませんでしたが、こうなるとは思っていなかったです。」
「手土産も押し戴くという感じね。」
「この形でスムーズにコミュニケーションは取れるのかな。」
「彼等は身振りを交えながら共通語に挑戦していますね。」
「記憶の蘇りは静子さんと対面してスイッチが入り数分後に始まるという予定だったでしょ。」
「その筈だが、未だに冷静だな。」
「彼らは輪を作って話し始めた、愛、何を話してるのか分かるか?」
「だめです、初めて聞く単語が多過ぎて。」
「尊達はにこにこしながら聞いているが。」
「たぶん分かって無いと思います、でも巴たちがいるだけで心が軽くなるのかな。」
「泣き始めた人がいますね。」
「それでも表情が穏やかに感じる。」
「尊が端末に手を伸ばしたぞ。」
『愛、お茶を頼めるかな。』
「ええ、すぐに用意するわ。」
『香、大丈夫の様だから子どもと遊ぶ用意をしてくれるか。』
「はい、誠たちとそちらへ行きます。」
『翔、予定より早いがテレビ電話を設置したいと思う。』
「ああ、すぐ持ってくよ。」
「キング、この状況はどういう事でしょう?」
「親衛隊隊長、彼等はコロニーでの生活に苦労していた、蘇りつつ有る過去の記憶も良いものだとは思えない、だが、翔の映像や実際に尊や巴と会い、彼等に希望が芽生えたとは考えられないか。」
「あっ、そういう事ですね。」
「その希望をさらに強く感じさせる為に、尊はテレビ電話を使うのだろう。」
「なるほど、ここの住人とは早く仲間に成れそうです。」
「ああ、そうして行かないと、先は長いからな。」

 その後は交代で食事を差し入れたり、テレビ電話の使い方を説明し、城の子達と少しの共通語と身振り手振りでの対話を試みたりしたが、そう言った交流が精神状態に良い影響を与えた様で、巴が戻った後も穏やかに進行した。
 蘇る記憶より、共通語を早く覚えたいという気持ちや、狭いコロニーでの先の見えない生活から解放される喜びの方が大きかったのかも知れない。
 今回の事で我々が保護して行く人達の気持ちが分かった気がする。
 子ども達も、これから出会う人達へ一刻も早く希望の光を届けたいと話してくれた。

 翌日以降は、和の国の大人も含め交代で訪問し、言葉を教えたり農作業を手伝ったり、レストランから届けられた食事を一緒に味わったりしながら、交流を深めて行く。

「なあキング、あのコロニーの人達に問題を感じないのだが、どうして単独のままだったのだろうな。」
「ああ、私も疑問に思いマリアに尋ねてみたよ。」
「マリアさまは何て?」
「彼らに問題が有ったのでは無く、繋がる筈のコロニーに問題が有ったのだとか。
 サンフランシスコ以外は同じ人種で国を構成しているだろ。」
「えっ、単に運の無かった人達なのか…。」
「だと思う、人間性は悪くないと感じられるし、学習能力が高いと感じられる。
 子どもが十二人いるのも…、正常に国家を形成出来ていたら、子ども二十人の国家という条件は簡単にクリアしていただろうな。
 この先保護して行くコロニーとはデータ上もかなりの差が有る。
 尊は、予想以上なので、これから保護して行くコロニーをまとめて行く時の中心になって貰いたいと、語学学習が進んだらお願いするつもりで、彼らの為にリーダークラスが持つ端末の製造を昇に指示していた。
 三之助も農作業より城の子をサポートして貰うことを考えて良いとね。」
「そうだな、保護される側の気持ちも分かるだろうし。
 大人達には次の保護作業を見て貰っても良いのではないか。」
「そうだな、尊にも伝えておくよ。」

 一つ目のコロニーとのコンタクトには成功したが修正の余地は有り、次の保護に向けて新たな仲間となってくれたら心強い、そう感じさせてくれる人達。
 城の子も…。

「翔、あの人達、共通語の理解が早いと思わないか?」
「ああ、必要性を強く感じてるのだろうけど、熱心なだけでなく能力の高さを感じさせてくれるよな。
 この言語は覚えやすいと話してくれて、僕らが作ってると伝えたら驚いていた。
 分かり易く、が成功したみたいで嬉しかったよ。」
「どうだろう、もしかして英語が話せるとは思わないか?」
「あっ、可能性は有る。
 もう試して良いかマリアさまに確認しよう。」

 尊がマリアに確認を取り英語で話しかけた所、彼らは驚いた表情をした。
 英語の事をすっかり忘れていたというが、二人にはアメリカ留学経験が有り一気に話が進む。
 他の六人は得意では無いものの有る程度理解出来る。
 それからは、こちらの事情を伝え彼らの事を教えて貰う。
 我々の事情を把握してくれた彼らは、是非尊たちのチームで働かせて欲しいと。
 そして、英語は楽だが、共通語は興味深くマスターしたいと話してくれた。
 英語の得意でない人達も、英語の学習をするより楽しいと笑いながら、子ども達と共に学んで行くと。
 次のコロニーとの接触は彼等への説明の為、少し遅らせる事にし、その分三つ目からはスピードアップする方向で相談を始めた。
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06 新体制 [KING-04]

 新たな仲間は英語で会話が出来る様になってからも城の子を敬ってくれ、城の子達は私達と接する時と同様、尊敬の念を持って彼等と接する。
 互いに尊重し合っていれば良いチームを形成出来るだろう。
 尊は更に…。

「ねえ、今回は子どもが十二人だったことも有って、香たちは少し大変そうだったろ。」
「そうね、今後は一つのコロニーあたりの人数が減るとは言え、複数のコロニーを同時進行でと考えると余裕が欲しいわね。」
「それでさ、夢たちは一年生になるまでまだ少し有るけど、手伝って貰うってどうかな?」
「八人より十二人の方が心強いわ、保護した子ども達と友達になってくれるだけでも助かると思う。」
「夢の歌は、ほっこりさせられるのよね。」
「だろ、共通語を覚えるのに役立つ様な歌の作曲を音楽村の人にお願いして、夢に歌って貰えたらとも思うんだ。」
「良いかも、キングと相談する?」
「一年生になるまでは端末を持たせてあげられないけど、四人とも手伝いたいって話してたよ、最近一緒に遊べなくなった代わりに一緒に作業するのも悪くないな。」
「じゃあゼロ年生ということね。」

 子ども達からの提案を受け入れ、単独居住コロニー保護チームの体制を強化することに。
 城の子は八名から十二名に、新たに仲間となった八名の大人達は一旦見習いとして、護衛スタッフは十名が必要に応じて対応。
 後は、語学教材などの作成の為、翔の指示で動く二十名ほどの集団が有り、相手の胃袋を掴むべく、レストランも全面的にバックアップする体制を整えた。

 その新体制、ゼロ年生の四人は主に望が指導。
 勿論無理な作業をさせるつもりはなく、夢が歌の練習をする以外は見習いとなった人達の子に遊びながら共通語を教えると言うのが一番の仕事、これは望が付きっ切りではなく四人に任せ時折モニターで様子を確認している。
 見習いとなった人達は、女性が交代で乳児の世話をする以外は、主に尊から説明を受けている。
 尊は自分の作業をこなしながらだ。
 作業の話は主に英語、雑談は共通語だが、翻訳機を置いて常に二つの言語を確認出来るように、難しい話は英語の得意な二人が彼らの母国語で説明を加える。

「尊、彼らの記録映像を編集したものは見て貰った?」
「ああ、あの時の状況を考えたら良い作戦だったと話してくれたよ。
 これから保護して行くコロニーで見せれば理解が早まるだろうと。
 翔たちが作ってくれたプロテクトが外れる時のショートドラマも、見た時は良く分からなかったが、その時になって理解出来、とても助けられたそうだよ、対面前に見て貰って正解だったな。」
「そうか、それなら二作目がもう直ぐ形になる、見て貰ってアドバイスを頼もう。
 対面するまでに沢山の情報を伝えておくことは良いことだと確信できたからな。」
「ねえ翔、映像を利用しての共通語教育プログラム、基礎は何とかなると思うけど、その先は相手の言語を理解出来ていないと難しくないかしら?
 今回は英語を話せる人達だったからスムーズに進んでるけど。」
「ああ、そう思って、更にドラマ作品の制作を進めていてね。
 早めに覚えて欲しい言い回しを強調する形のドラマ番組、台本はサンフランシスコの作家集団に依頼して有るんだ。」
「あのブラックコロニーは、もう大丈夫なの?」
「愛はまだ心配かい、彼等も、この世界での役割を持つ事が大切だろ、僕の要望に真面目に取り組んでくれてるよ、トリッキーで面白い話を作るのは得意みたいだからね。
 共通語の学習も進んでいるのだけど、彼らは知能犯だったんだ。」
「知能犯?」
「頭の良さで人を騙すのが得意だったのさ、サンフランシスコで一番頭が良いのかも知れない。」
「そうか、騙すとか全然知らない言葉だったよね、共通語にも入れる?」
「そうだね、疑うとかは実験結果を疑う、みたいな形で使うから入れたけど、嘘とかも…、城の子には必要のない言葉だけど入れておくべきだね。
 これから作って行くドラマでも出て来そうな言葉だから。」
「そっか、どんなドラマが出来るのか楽しみかも。」
「望も出演する?」
「そうね、考えておくわ。」
「ねえ、それよりさ、今回は和の国十二丁目の形でゲートを繋いだけど、この先はどうするの?
 尊、和の国がゲートだらけになってしまうのはどうかと思うのだけど。」
「そうだな、流れとしては、まず子ども専用コロニーへ繋いで、作業を進めているコロニーの子ども同士も、対面して貰おうと思う。」
「そうね、並行して進めて行かないと時間が掛かり過ぎるものね。
 他の子どもの存在を知らずに育って来たのだから、子どもの集団にも慣れて貰わないといけないし。
 でも、大人達が落ち付き始めたら、子ども専用コロニーではだめよね。」
「ああ、そのタイミングで一旦島に繋ぎ変える、島は英語禁止にして、まずはお花畑で交流して貰いながら共通語の学習。
 それと並行してコロニーを整理して行き、島を広げ共通語中心のエリアに、翻訳機に有る言語を使える人がいたら別で考えるとか、どうかな。」
「うん、新しい仲間をまとめた方が安心出来るかもね。」
「ねえ、島の名前を決めて無かったけど希望の島にしない?
 新しい仲間の希望の島、お花畑の管理をして貰いながら、地下迷路に遊びに来る人の為にお店を開いて運営して貰っても良いわ。」
「でも、余裕は有るのだから、作業より共通語の学習をメインと考えて貰えば良いと思うな。」
「そうね、では単独コロニーと、どんどん繋がって行きますか。」
「望、僕は構わないが、急ぐと皆の負担が大きくなるよ、言葉の行き違いによるトラブルも予想されるだろ。」
「ふふ、尊と巴がいれば大丈夫よ。
 映像で、香と子ども達とのシーンや、尊と巴を跪いて迎え入れた映像を強調しておけば…、そう言えば、巴のプリンセスとしての衣装を中心に私達の衣装が届いていたわね、何でも巴が跪かれるシーンを見て制作した貢物らしいけど。」
「僕らも見たよ。
 それでね、見習いになってくれた人の中に、その道のプロだった人がいて、衣装だけでなく髪型を変えると、もっと跪きたくなるでしょうって。」
「そういうイメージの事はあまり考えて無かったね。」
「愛や望も、もっと可愛くできるってさ。」
「今のままで二人とも、とても可愛いし、髪型を変えても中身は変わらないだろ。」
「それでも、初対面の人は外見で判断するしかない。
 コンタクトの始めが僕らの映像だったから不安が少なかったそうだよ。
 彼女は、更に安心感を与えるスタイルを検討してくれているんだ。」
「そうか、私達はそこまで考えて無かったね。」
「今後は色々な服で登場し、僕たちはお洒落に気を遣うだけの余裕が有るのだと思って貰う。
 それだけでも印象が良くなり交流にプラス、食べ物だけでなく衣服をプレゼントする案も出してくれたんだ、服を変えれば心も明るくなるそうでね。」
「確かにそうね、落ち着いてから服をプレゼントしたけど、もっと早い方が良かったのかも。」
「好みの問題が有るけど、世界中の人達と相談しよう。
 料理のメニューの様に服のサンプルも写真で見て貰える様にしようかな。」
「そうだな、次のコロニーには間に合わなくても、翔、頼むよ。」

 見習いになってくれた人達は我々とは違った視点で考えてくれている。
 衣服に関しては各国が協力を約束してくれたが、これを機に世界のファッション事情が変わって行きそうだ。
 それが我々の文化を発展させて行くことに繋がるのかも知れない。
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07 絶望 [KING-04]

 新体制で保護に臨む最初の単独コロニーは大人八名子ども九名、便宜上第二コロニーと呼ぶことに。
 問題なさそうという当初の見込み通りにファーストコンタクトは上手く行き、今回は音楽村の演奏や夢の歌を聴いて貰い音楽による癒しも試みた。
 それに対し涙する人がいて、彼らの表情からも音楽の効果が確認され、今後もファーストコンタクト後のプログラムに入れて行く事にする。
 このコロニーの子は頻繁にゲートを越えてくれるが、その相手は香とゼロ年生に任せた。
 第一コロニーの子や和の国の子も遊びに来ているが、みんな香の言うことを良く聞いて慣れない子ども達と友達になろうとしてくれている。
 子ども同士言葉が通じなくても問題はなさそう。
 大人達には対面までの期間、録画映像をモニターで見て貰う時間を多く取るので、尊たちは直ぐに第三コロニー、一番小規模なコロニーにも取り組み始める事に。
 大人三名子ども一名の様子を、まずは隠しカメラ映像で見ながら…。

「第三コロニーの人達って表情が暗く感じるのだけど、元々そういう顔なのかしら?」
「どうだかね、子どもは一人だけ、あの子ではゲートを越えて貰えそうにないな。」
「子どもの行き来がないと、安心して貰うまでに時間が掛かるかもだけど、モニター映像と贈り物で何とかしよう。
 こちらに対する警戒心が薄れるまでに時間が掛かりそうなら、次の第四コロニーにもモニターを送ろうか。」
「ねえ、第一コロニーの記録映像だけでなく、第二コロニーの様子も少しずつ見て貰わない?
 場合によっては第四コロニーのも。」
「そうだな、第四コロニーは大人四名子ども二名だから規模が近い、相互に見て貰うというのも有りだね。
 自分達と同じ様なコロニーが存在すると知れば安心出来るかも知れないわ。」
「でも、自分達も見られていると知ることになるだろ、マリアさまが見守っているとは伝えられそうにないから、今は記録映像だけにした方が良いかも。」
「それもそうね、第一コロニーの映像も、対面後を中心にした方が良いかも。」
 それでも、スタッフの顔を覚えて貰え、後の作業が楽になると思うわ。」
「じゃあ、第二や第三コロニーの映像も対面以降を編集して見て貰える様にして行く、ドラマ制作チームに手伝って貰うよ。」
「翔、ドラマ制作が遅れることにはならないの?」
「いや、趣味として取り組みたい人がいて、増員を考えていたんだ。
 サンフランシスコの生産性が上がって来て、余力が有るだろ。」
「うん、作業効率の改善が進んでいるだけでなく、サンフランシスコの人達は少し若返っているみたいだね。
 国全体の雰囲気が明るくなり、リーダーは最近体が軽くなったと感じてるとか。
 僕らが保護して行くコロニーで英語を話せる人がいたら積極的に協力して行きたいと話してくれたよ。」
「それは心強いな、場合によっては単独コロニーをサンフランシスコに繋げても良いね。」
「ああ、他の国はこれから保護する国とのファーストコンタクトが始まる、応援を依頼するにしても大勢とは行かないからな。」
「じゃあ、第三コロニーとのファーストコンタクトは明日でも良いか?」
「大丈夫だ、手順は第二と同じ、但し、子どもの行き来は省略だね。」
 第三コロニーがどんな理由で今の人数になってしまったのかが気に掛かるが、問題が有ったとしても人数が少ないから何とかなる、対面時の見守り人数も少なくて良い訳だから、第四コロニーを意識してスタッフを分けても良いと思うけど。」
「そうね、じゃあ、どういう風に分ける?」
「巴がね、ずっと観察して来た結果、人それぞれ好みが違うと話していてさ。
 第一コロニーの人は、特に望の映像が好きだとか、第二コロニーの男性は愛が出て来るシーンの時に一番表情が緩んでいるとか、そんなことを基準にして担当を分けても良くないかな。」
「へ~、そんな事考えもしなかったわ、さすが巴ね。」
「では、第二、第三コロニーの人達には、見守り担当を予定しているスタッフ全員の映像を見て貰い、その表情から今後の担当を巴に判断して貰えば良いね。
 それでさ、僕らの端末には人の感情を数値化する機能が有っただろ。
 あれは表情と言葉から判断するのだけど、端末にない言語でも使えるかどうか試してみないか。」
「うん、今から取り掛かればスタッフの映像も今日中に準備出来る。
 人の感情を数値化する機能、第三コロニーではファーストコンタクトから試してみようよ。」

 すぐさま翔の指示で動き、護衛スタッフ、第一コロニースタッフ、新たに見守り担当になって貰うため巴が選んだ人達を撮影。
 一人一分程度の動画で、シンプルな自己紹介と共通語の単語説明を試みて貰った。

 翌日。
 まず、第二コロニーの人達に見せ皆で観察。
 その結果、人によって若干の差は見られたものの、端末に表示された数値は全員の好感度を高く示した。
 護衛スタッフは巴と尊が選び、第一コロニースタッフは城の子全員が好感触を持った人達だから当然と言えば当然。
 子ども達は好感度の低そうな人もサンプルに入れようと話し合ったが、その作業に取り組む前に第三コロニーとのファーストコンタクトが待っている。
 そのミッションがスタートして…。

「突然現れたゲートに驚いてはいるけど…、さてモニターを背負ったウサギにはどうかな…。」
「子どもが興味を持って近付きたがってるわね。」
「さあ、僕らが手を振る映像にどういう反応をしてくれるかな。」

 恐る恐るウサギに近づき、背中に括りつけられたモニターの映像を見た彼女達は、歓喜に満ち溢れた表情に。
 モニターに映る城の子達が手を振る映像に向かって手を振ったかと思うと、モニターにキスする者も。

「凄く喜んでくれてるね。」
「端末情報では喜びが最大値になってるわ。」
「はは、見れば分かるよ、でもどうしてこんなに。」
「翔、この人達は絶望していたのだと思う、君たちはゲートが現れる前から観察していただろ。
 あの暗かった表情は、何の希望も無い状況だったからだと思う、女性三人と女の子、女の子はこの先兄弟も友達も出来ず、大人が年老いて亡くなったら独りぼっちになる運命だった。」
「そうか…。」
「ねえ、父さん、喜んでいる今なら、プロテクトが外れる苦しさを乗り越え易いという事は無いかな。」
「予備知識なしでか…。」

 それから、彼女達には用意して置いた映像を見ていて貰い、私達は急遽相談を。
 第一コロニースタッフは、喜びが苦しさをかき消すだろうと自らの経験から示唆してくれた。
 だが言葉の問題は有る。
 一通り皆の意見を聞いた後、尊は、彼女達を待たせないという選択を、そして英語で話しかける事も決めた。
 理解出来る人がいたら、その人の苦痛がとても大きくなると理解した上で。
 和の国の人達は強い苦しみを受けたが全員乗り越えられた。
 もし英語を理解出来る人がいて大きな苦痛を味わう事になったとしても、理解出来る言語で励まされたら乗り越えられるのではないか、そう判断しての決断だ。
 対面に向かうメンバーを決め、ゲートを越えるまで時間を掛けなかったのは、彼女達の喜びが薄れる前にと考えての事。
 ゲートを越える前に、モニター映像を尊、巴、香と五名のスタッフに切り替え、英語で紹介、今から訪問すると告げて、ゲートへ。

 彼女達はゲートから姿を現した八人を、少し戸惑いながらも嬉しそうに迎えた。
 そして…、三人は、第一コロニースタッフの女性達に抱きしめられると大粒の涙を、だが抱きしめているスタッフ達も涙が止まらない。
 一人の女性が英語でカタリナと名乗り話し始めたが、直ぐに苦しみ出す。
 急いで記憶プロテクトの話しをした二人のスタッフは説明しながら見守ることしか出来なかった。
 他の二人は英語が理解出来ない様で、巴と身振り手振りでコミュニケーションを。

 それから尊は次々と指示を出して行く。
 香が子どもを抱き抱え、愛がお茶を運び込み、男性スタッフ達は椅子やテーブルを持ち込み始める。
 急遽呼ばれた音楽村のメンバーが演奏を始め、夢の歌も。
 レストランのメニュー写真をモニターに表示し、食事を選んで貰いながら、お酒の注文を取る。
 彼女達はワインを選択。
 尊によって急遽決められた野外パーティー、その準備が整う頃には、英語を話せるカタリナが落ち付き始めていて、もう泣き笑いしながらおしゃべりに夢中。
 彼女は神に見捨てられた四人という言葉を何度も口にし、城の子の耳に入らない所でここの事情を教えてくれた。
 男女八人でこのコロニーが形成され、リーダーとその管理者だけがコンタクトを取れる状態になった後、しばらくして喧嘩が始まったそうだ。
 和の国三丁目でも起こった事で不思議ではない。
 ただ、運悪く、リーダーが殴られ倒れた拍子に頭を強打して死亡し消え、殴った者も苦しみながら意識を失い、そして消えたという。
 八人が揃ってから僅かな間に、彼らは二人の仲間と管理者を失ったのだ。
 個人で暮らしていた頃の管理者とは全くコンタクトが取れず、六人は途方に暮れた。
 そこから、子どもには聞かせられない様な男女の諍いが有り…。
 結局一人が身籠って間もなく、今の人数にまで減ってしまった。
 子どもが生まれてからは、子どもが希望で有ると同時に、その子の将来に希望がないという絶望感の狭間で…、それでも残った三人は喧嘩することなく細々と生きて来たという。

 カタリナの話は、どこの単独居住コロニーでも起こり得たと思う。
 八人だけの社会、その内の一人がエゴイストで有るだけでも…。
 今でこそ和の国では重要な立場に有る三丁目の連中でも、このコロニーと同じ道を歩んでいたかも知れないのだ。
 まあ、そんな込み入った話までしてくれた事で、こちらは話を進め易くなった。
 急遽開かれた屋外パーティーで、彼女達の気持ち『喜び』を持続させるという尊の判断は正解だったと思う。
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08 希望の島 [KING-04]

 第三コロニーを予定外の手順で保護したことから、ファーストコンタクト以降の流れを大きく見直すことに。
 今後もファーストコンタクト時の反応が第三コロニーと同じで有れば、即席パーティーを開き、どさくさに紛れて馴染んで貰うというスタイルを取ることは悪くないと判断。
 モニター越しの交流より遥かに効率が良いからだ。
 ただ、ここでポイントになるのは、記憶のプロテクト解除。
 私達は保護される側のストレスを考えた上で、事前情報のないままに突然プロテクト解除が始まる事は避けるべきだと考えて来た。
 ただ、尊の判断でその過程を飛ばした第三コロニーの女性達を見ていると、今まで気にし過ぎていたのかも知れないと思う。
 英語を耳にすることにより、プロテクトを一気に解除してしまうという絶対避けるべきと考えていた事でさえ、例え激しい頭痛を伴い大きな苦痛を受けたとしても、見方を変えれば短時間で落ち着くというメリットが有る。
 尊は、事前情報のないまま酷い状態を体験させてしまったカタリナが、どう感じたのか気に掛けていた。

「カタリナ、僕の判断で辛い思いをさせてしまってごめんね。」
「いいえ、尊、確かにいきなり頭が激しく割れそうになり、私は大きな罰を受けているのだと感じました。
 そこで蘇った記憶が示す過去は地獄。
 また、四人だけの生活も社会から見放された孤児の様で辛い状態でした。
 でも今は…、ねえ尊、私、本当は死んでいて天国にいるのでしょ。
 この世界の食事はとても美味しく、この世のものとは思えないわ。」
「う~ん、僕は天国という所へ行ったことがないからね。」
「ふふ、天国で暮らしている方にとって、ここでの生活は当たり前なのですね。」
「良く分からないです、でね、カタリナは僕たちのチームが取り組んでいる事は教えて貰ったのでしょ。」
「はい、神に見捨てられた人達がまだいるのですね。
 それを救うのが尊の役割なら、私はそのお手伝いをさせて下さい。」
「有難う、是非お願いします、カタリナが手伝ってくれたらとても心強いです。
 それで…、僕らが英語を使わなかったら、カタリナも他の二人の様に…、その…、大きな試練を受けずに済んだのですが…。」
「お気になさらないで、大きな罰を頂いた事で…、そうね…、過去を吹っ切れたというか…。
 今は色々教えて頂いて、私はもう一度やり直せるという気持ちになりました。
 あの時、英語で話し掛けてくれなかったら、それはそれで別の不安が芽生えたと思うのです。
 モニターで皆さんの姿を見せて頂いた時は、あの子に可愛らしいお友達が出来るかもと興奮気味でしたが、英語で話し掛けて貰って更に、モニターでは始め共通語だったので何を話しているのか分からなかったのですから。」
「そうですか、明日は第二コロニーと対面、近い内に第四コロニーとのファーストコンタクトを予定しています。
 カタリナも同席して、気付いた事があれば教えて欲しいのですがお願いできますか?」
「勿論です。」

 カタリナは名家の出身、英語が堪能なだけでなく理知的な人、苦しい試練を乗り越えた後は、すぐに二人の仲間の為、通訳をし手助けをしていた。
 落ち着いてからは、この世界の事を学んでくれている。

 カタリナと共に臨んだ、第二コロニーとの対面は第一コロニーの時と同様スムーズに、今回は試しに、英語で話し掛けたりドイツ語などで話し掛けたりもしてみたが通じなかった。
 それでも、共通語を覚える意欲の強い人ばかり、不安定な精神状態を押し殺す為にも必死で共通語を覚えようとしている様にも感じられる。
 ファーストコンタクト以降、ゲートの行き来を楽しんでいた子ども達とも共通語の練習をしていて、時に子どもから教えられる事が楽しいと片言の共通語で話してくれた。

 次は第四コロニー。

「第四コロニーで話されているのがスペイン語だって分かったのはラッキーだったね。」
「テレビの試験放送で第四コロニーの映像を使ったのは正解だったわ。
 試験放送を見て指摘してくれたスオミの人はどう?」
「協力を要請したら快く引き受けてくれたよ。
 今回は共通語を教える前に一気に説明できて、文字通り話が早くなりそうだな。」
「でも、セブンおじさんの心配はどうかしら?」
「私達がこの世界の人達のことをマリアさまの隠しカメラを通して監視している事に気付かれる可能性が有るのよね。
 今の所、それに関しては何の反応もないけど。」
「僕はそんなに心配していない、プロテクトを掛ける様な事にはならないと思うよ。」

 一早くその可能性に気付き指摘して来たのはコロニーDの連中、自分達も監視されていたのではないかと。
 それに対して、心配していないと話した尊が対応、マリアから特別にコロニーDを見張る様指示が有ったと回答した。
 それは真実ではない、だが尊は必要な嘘ということを、すでに学びつつある。
 今回は城の住人以外に知る由の無い事であり、問題ないと考えての判断、でも事前に話してくれ、私はその判断を支持した。
 マリアを持ち出されたらコロニーDの連中は何も言えない、負い目も有る。
 更に尊から、マリアさまは何時もあなた方を見守って下さっていると言われては…。
 他の人達が気付いたのかどうかは分からないが、マリアさまに見守られているとの考え方は城の子が子ども達に広め、そこから大人達へも。
 監視の可能性を問題視する以前に、この世界で悪事を企てる人は見当たらず、監視されていたとしても平気なのではないかとも思う。
 尊はそう言ったことを総合的に考え、保護して行く単独居住コロニー映像のテレビ放送を進めていた。
 第四コロニーとのファーストコンタクトは、その予想していなかった成果のお蔭で…。

「もう、対面なのね、第一、第二コロニーの時には随分時間が掛かったのに…、言葉が通じる意味の大きさを改めて実感させられるわね。」
「スオミからの応援者も張り切っていたからな、自分のスペイン語が役に立って嬉しいと話していたよ。」
「改めての自己紹介が済んだみたいだな。」
「今回は男性一名女性三名と男の子が二名なのね、尊と巴は説明をスオミの人に任せ、自分達は見守っているというスタンスだけど、向こうの人達は、どう感じているのでしょう。」
「今は、プロテクトが外れ始めてるだろうし、彼の話に夢中なのでは、指示が有れば翔がモニター映像を切り替えて行く事になっているが、誰もモニターを見ていないからな。」
「子どもは、三歳と五歳ぐらいかしら、香は共通語で話しかけてるけど、何となく理解してるみたいね。」
「ふふ、香はお菓子の魔法を使って共通語を教えると話してたけど、あの子は根気良く教えるのよ。」
「相手の子達の笑顔からすると、彼らはもう香に心を奪われている様だな。」

 しばらくしてお茶の時間、そして食事。
 食事に関して、麗子は、かつてスペイン語を話していた国を幾つか想定しメニューを用意していた。
 それが正解だったようで、彼らの胃袋を掴む事に成功。
 第四コロニーの人達も大きな問題なく我々の仲間となって行く。

 当初、単独居住コロニーの保護は、その数の多さも有り大変な作業だと考えていた。
 実際にそのスタート時は、試行錯誤の連続だったと言える。
 だが、第七コロニーとファーストコンタクトを取る頃には、思っていた程では無いと感じる様に。
 城の子達もだ。
 どのコロニーも、少人数で先の見えない生活を送っていた所へ、可愛らしい城の子と頼れる大人が現れた訳で、それは記憶のプロテクトが外れる戸惑いや苦しさを遥かに超える喜びとなった。
 また、大人の人数が少なくなっていたコロニーは、暴力的とか問題の有った人がすでにいなくなっていた訳で。
 残ったのは互いに支え合い励まし合って生きて来た人達。
 彼らはプロテクト解除に伴う諸々のマイナス要素が、新たな出会いの喜びにかき消されたと話す。
 それだけに保護された人は次に保護される人達の事を思い協力的。
 保護のペースを上げても問題はなかった。
 保護したコロニーは住環境を改善し希望の島に接続。
 そこで共通語に慣れつつ、世界各地を訪問、時に作業を手伝いながら交流を深めて行くが、テレビで紹介していることも有り馴染むのは早い。
 何と言っても少人数で暮らして来た人達にとって、慣れない言語を使ってでも多くの人達と語らう事は新鮮な喜びだ。
 この訪問によって、これまであまり共通語学習に熱心ではなかった人達が刺激を受け、共通語を使う人が増えた事も国際交流を進める事に繋がり良かったと思う。
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09 併合 [KING-04]

 城の子達が単独居住コロニーの保護を進める一方、八つの国、子どもの人数をマリア達が満足する二十人にまで増やすことの出来ていない国々は、城の大人達が中心となり我々の世界へと導いている。
 当初、ファーストコンタクトから対面までの準備に時間を掛けようと計画したのは、何らかの原因が有って人口を減らした国々なのだから、どんな落とし穴が有るのか分からず、念の為にサンフランシスコの時と同等の体制で臨もうと考えての事だった。
 だが実際には、単独居住コロニーと同様、問題になりそうな人はすでに人を殺すか殺されて消えていた様で、全体的にトラブルは少なく、スケジュールを前倒しする事に。

 ただ、一つの国はリーダーやリーダーグループが存在せず、ファーストコンタクトで躓いた。
 国のリーダーがいないと国家間で利用して来た端末が使えず、こちらは情報を得られても、端末を通しての通信が出来ない。
 そこで、この国とのファーストコンタクトは単独居住コロニーと同様、まずゲートを置き、隠しカメラ映像で反応を探るところから始めることに。
 城の大人主導で進めるが、各国のリーダーには送り込むモニターに取りつけたカメラからの映像を見て貰いながら待機していて貰い、状況に応じてはそのまま対面にまで持ち込む予定。
 我々は尊と巴と共に、隠しカメラ映像の確認を始めている。

「大人は全員で四十三名だから、ほとんどゲート前に集まったみたいね。」
「では、昇に作って貰った歩くモニターを送り込むとするか。」
「ウサギはやめたの?」
「人数に合わせてモニターを大きくして貰ったからな。
 この人数なら機械仕掛けでも大したプレッシャーにはならないだろう。」
「子ども達の映像に戸惑っているみたいだけど、画面上に自動翻訳の文が表示され始めているのよね。」
「えっと…、大丈夫だ、歩くモニターを正面から捉えてるカメラ映像で確認した。
 この映像をサブモニターに切り替えるよ。」
「字幕として表示されてるのは自己紹介、この後、我々の世界を軽く説明してからなのだが…。」
「単独コロニーほど寂しい思いをしていないのか、反応が弱いわね。」
「さてロックの話に、どんな反応を示すかだな。」

 ロックは代表者と話がしたいと呼びかけた。
 それに対して、六人が前に出て来る。

「この国を代表するのは?」
『この六人がそれぞれの居住スペースリーダーで同格だ。』
「成程、では私達から伝えたい情報は色々有るのだが六人を中心に聴いてくれるか?」

「顔を見合わせて相談を始めたが、三之助はどう思う?」
「戸惑っているのでしょうけど、六人は微妙な関係みたい、凄く仲が悪い訳では無いけど牽制し合ってるのか…、突然の事に判断出来ないという感じね。
 ここは尊と巴に登場して貰った方が話が早くなると思うな。」
「そうだな、少なくともこの堅い雰囲気は和らぐだろう、尊、頼めるか?」
「はい。
 巴、ロックおじさんの所へ行くよ。」
「はい、お兄さま。」

 ロックが二人を、我が国のプリンスとプリンセスだと紹介すると、彼らの表情が一変、そのまま跪き始めた。

「一瞬見ただけでか…。」
「服装を王族っぽいのにしたのが影響しているのかしら。」
「う~ん、推測でしかないが、全員を束ねるリーダー不在の状態で、他国とは言え王族の登場、しかも気品溢れる二人、そこに巴の能力が加わり、跪きたくなったのは自然なのかもな。
 王族に不快感を与えて、後々不利益を被りたくないとか…、そこまでは考えてなさそうだが…、三之助、どうだ?」
「ふふ、尊が話し始めれば、彼らは自分達のとった行動が間違っていなかったと知るでしょう。」

 ロックから話を引き継ぎ、尊は我々の世界の話をし、自分達の和の国や他の国とも友好関係を結んで欲しいと訴える。
 そして、対面後に起こるプロテクト解除時の説明をし、心の準備が出来たら、自分達もゲートを越えると話す。
 彼らは話し合いを始めたが、その間に尊が連絡して来た。

『先方に六人の代表がいては本格交流までに手間取ると思います。
 彼らが戸惑っている間に、一気にこちらのペースで進めてしまいましょう。
 プロテクト解除時の見守りは、ここにいる各国代表だけで充分だと思います。
 お風呂に入って貰い、プレゼント用に用意した服と着替えて頂いて、昼食は…、母さん、お城のホールで何とかならないかな?』
「大丈夫、すぐに応援を呼ぶわ、まずは着替えて貰わないとね、彼等がお城で惨めな気持ちにならない様に、女性の為に美容系のスタッフも集合して貰いましょう。
 尊、テレビでは各国代表が見てるのと同じ映像を流しているのでしょ?」
『うん、テレビを通して協力を呼び掛けた方が早いかな?』
「尊、食事会までの準備はこちらで進める、尊は対面…、はは、彼らはまだ対応を決めかねているな。
 まあ、急ぐ必要はないから、彼らのプロテクト解除スタートの方を頼むよ。」
『分かりました、それで…、各国リーダーの方々とも相談しますけど、あの状態の国です、彼らの中から国のトップリーダーを決めて貰い、国交を開くと言うのは難しそうで、上手く行ったとしても時間が掛かり過ぎると思います。
 データから分かる通り、自給自足が上手く行ってないことからも推測できます。
 また、老化が進んでいないことから、罰を受ける事なく私達からの支援物資を受け取って暮らしているのだと思いますが、衣服の状態から、あの国の管理者は食料援助はしても、それ以上の事は一切して来なかった様です。
 そこで、あの国の今後についてですが、選択肢の一つとして和の国に併合する事を考えても良いと思うのです。』
「そうだな、尊、各国のリーダーと調整してくれるか。
 彼らが反対しなければ、特に問題はないだろう。」
『分かりました。』

 国をまとめるリーダーが居なくては色々と効率が悪い。
 尊の提案に対し、場にいた城の大人達は賛成の意思表示を直ぐにしていた。
 尊は和の国に併合する話をリーダー達と交渉…。

「一旦和の国に併合した後は、彼らの意向に沿い、居住コロニーのゲートを皆さんの国と繋ぎ変えて行くことも視野に入れています。
 すぐに結論を出す必要は有りませんが検討して頂けたらと思います。」
「そうだな、私は尊の意見に賛成だ、これだけ時間が掛かっても結論を出せないのだからな。
 和の国で管理してくれるのなら、それが一番だろう。」
「我々は他の国との国交も進めて行かなくてはならない、この国を尊が引き受けてくれるのなら助かるが、尊、単独居住コロニーの保護に影響は出ないのか?」
「あの国の資源も、かつて和の国が併合したエリアと同様、島に使おうかと、希望の島を広げるか、もう一つ島を造り、受け入れ態勢を強化したいという理由も有るのです。
「ならば、城の子にお任せするしかないな。」
「有難う御座います、彼らの意向にもよりますが…、そろそろ決断を迫って上げないと先に進めそうに有りませんね。」

 尊に促され、彼らは話し合いを終えたが、結論が出た訳ではなさそう。
 それでも、尊は今からゲートを越えて行きますと話し、モニターを通して、これから訪問するメンバーを紹介して行く。

「カタリナがトップなのは何か理由が有るの?」
「はは、尊は独身のカタリナにお婿さんをと話していたから、そんなとこじゃないのか。
 彼女は気品が有る、向こうの男性達の表情が変わったから正解だろう。」
「護衛の静子たちも服装をそれらしくしたのね、うん、なかなか恰好良くて似合ってる、馬に乗っての登場でも良かったのでは?」
「今以上の格差を見せつける必要はないさ、彼らの服は昔見た映画で奴隷が着ていたものを思い出させてくれるだろ。」

 ゲートから尊が登場すると、彼らはもう一度跪いた。
 尊はもう一度説明を始める。

「すぐに皆さんは忘れていた過去を思い出し始めます。
 その過去は恐らく思い出したくない類のものでしょう。
 そんな過去はすぐに忘れて下さい。
 しばらくは落ち着かない状態が続くと思いますが、皆さんがそれを少しでも楽に乗り越えられる様に私達は準備しています。
 このゲートの向こうにはお酒と料理が用意して有りますが、お風呂と着替も。
 言葉は翻訳機を通すことになりますが、その数に限りが有りますので、各コロニースペース毎、男女のグループに分かれて下さい、この後、入って来るのは、私どもの和の国と協力関係にある諸国の代表です。
 彼等と交流を始め、彼らの誘導に従って下さい。」

 一度にゲートを越えなかったのは、彼等を脅かさない為。
 プロテクトが外れ始めても、特に問題行動を起こす人は現れなかったので、城の大浴場へ向かって貰う。
 
 風呂に入り、各国から提供して貰った服に着替え、髪を整えて貰う頃から、女性達は蘇る記憶の不快感より、喜びが勝り始め、城のホールで昼食会が始まると、その表情はすっかり明るくなった。
 音楽村メンバーの演奏、夢の歌声、この世界に来て初めて口にする酒に酔いしれて貰った所で、明日以降のスケジュールを相談、というよりロックがほぼ決定事項として伝えたが、誰からも反論は無く、尊の考えた通り、一気にこちらのペースで併合まで持ち込めそうだ。
 食料は提供するので農地は放棄して構わない、その代わり落ち着いたら和の国で働いて欲しいと話し、酔いつぶれた数名を残して和の国を案内、その途中、一人が昔の職業を話し始めると、他の人達も。
 私達の世界は新たな技術を手に出来そうだ。

 彼らの国が六つのグループとなったのは、和の国二丁目に相当する通称ブラックコロニーが暴力的で、その動きを抑え込もうとしたリーダー達と争いになり、リーダーグループとブラックコロニーメンバー双方が全滅したから。
 国家リーダーを失った後、コロニー同士のトラブルが起き死者を出した。
 それからは、トラブルを恐れ、互いに距離を置いての協力関係、全体を見て指示するリーダーがいない状態では当然作業効率が悪く、コンタクトの取れない管理者は時折食料を支援してくれるだけだった。

「結局、全部のグループが和の国に所属する道を選んだのね。」
「早々と決めた居住スペースリーダーからは、苦渋の決断という雰囲気は微塵も感じられなかったからな。
 リーダーという重荷から解放されるという安堵感を感じさせてくれた人もいたし。」
「迷っていたグループも、他が和の国を選び、生活環境を整えて貰うのを見てはね。
 和の国からの提案を受け入れた方がうんと楽で快適な暮らしが出来る。
 言葉の問題は有っても翻訳機が使える、単独居住コロニーから保護された人達よりはマシだと気付いたのでしょう。」
「その分、共通語の学習には熱が入らないようね。」
「今は仕方ないさ、でも、翔はあの国の言語をテレビで流す事も、訳の字幕を付ける事もしないと話していたから、その内共通語に馴染んで行くだろう。」
「そうね、保護した他の国では、各国のリーダーグループが翻訳作業をしているものね。」
「でも、リーダーによっては、敢えて共通語の学習に繋がる様に工夫をし始めてるとか。
 今回の事で改めてリーダーの資質とか考えさせられたわ。」
「だな、居住スペースリーダーを名乗った人達に、もう少し力が有ったら、また違った形になっていただろう、それが良い結果に繋がったとは言い切れないが。」
「尊たちは併合出来て資源が増え、保護した単独居住コロニーの人の為に希望の島を充実させられると喜んでいたわね。
 これで、少しは保護作業に目途が立ったのかしら?」
「一番厄介そうな国が保護出来、単独居住コロニーもデータ上に大きな問題を抱えているコロニーは残っていない、油断は禁物だが大丈夫だと思うよ。」
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10 世界 [KING-04]

 夢たちが一年生になる頃、私達の世界は六十七の単独居住コロニーと八つの国の保護を終えていた。
 新たに我々の社会と繋がった人達は、城の子達から共通語を教えられながら、彼らの過去を城の子に語ったりしている。
 ただ、その話は私達の記憶同様、断片的過ぎて、そこから全体像を掴む事は出来ない。
 私達が暮らしていた世界がどうなったのか、今も気にはなっているのだが。
 自分達の記憶プロテクトが外れた頃、マリアに尋ねた事が有るがその時は教えて貰えなかった。
 そのまま再度問いかける事を控えていたのだが、翔が…。

「マリアさま、大人達が暮らしていたという世界はどうなったのですか?」
『子ども達、そしてキング、この世界の人達はその答えを知るべき時が来ました。
 今から話す事は…、そうですね、翔、テレビを通してで構いませんから、この世界の人達に伝えてくれますか?』
「はい。」

 知るべき時、マリアはタイミングを考えていたのだろうか。
 マリアは翔の質問に対し、質問以上の事を話してくれた。
 マリア達は傍観者として、私達が地球と呼ぶ惑星に生命の欠片が誕生した頃から観察して来たこと。
 そして、気が遠くなりそうな年月を経て、人類が文明社会を築き上げ、自らの手で滅びの時を迎えたと。
 今の地球には過酷過ぎる環境でも生き続けられる微小な生命しか残っていないという。
 核シェルターで生き延びた人もいたが、彼らの住環境は快適と言えなかったそうで…。
 人類の指導者は終末戦争という、あまりにも馬鹿げた事を実行に移した。
 いや、地球を破壊する兵器は指導者の手を離れていたのかも知れない、頭の悪い指導者の裏をかく事の出来る、頭のおかしな科学者がいたとしても不思議ではない。
 情報を遮断し混乱させ…。
 マリアの話を信じるのなら、我々の母なる地球は…。
 孤児…、そんな言葉が頭をよぎる。

『私達は傍観者であり、人間が絶滅しようと構わなかったのですが、実験をしてみたいという話が出ました。
 消えて無くなる種族なら、私達の…、あなた方の言葉で言う所の暇つぶしにしても構わないだろうと。
 それが、我々の箱舟プロジェクトなのです。』
「箱舟?」
『どうしてその名が付いたのかはキングが知っているでしょう。』
「ああ、教えてくれた事は我々が予測していた範囲、子ども達には私達の役割を含めて話すよ。
 それで…、マリア、地球がそういう状態になってしまったという事は、我々が今暮らしているのは、違う星と言う事なのか?」
『いや、キング達の言葉で言うならば、巨大な宇宙船だ。』
「そうか、ゲートの存在から、その可能性も考えてはいたが…、では、どこかに目的地が有るのか?」
『ある惑星を目的地としている。』
「我々はそこへ移住するということに?」
『そうとも言えるし、そうでは無いとも、子ども達には選択肢が有る。
 この世界には大きく三つの種族が存在していることは理解しているだろうか?』
「それは…、城の子とそれ以外と言う様な意味でか?」
『ええ、私の大好きな城の子、この子達を産み育ててくれた城のコロニーメンバーには感謝している。
 そして、キング、あなた達は偶然が重なって誕生した八人だけの種族、その子である城の子という種族は大きな可能性を秘めている。
 おろかな人間の血だけを引き継ぐ種族、彼等には新たな惑星を与えるというのが私達の計画。
 彼等は、類として成長するだろうが、やはり自らの手で滅びの道を選ぶのかどうかを、私達は観察して行く事になる。
 城の子には選択肢が有る、その惑星に留まるも良し、新たな惑星を開拓するも良し、人間を降ろした後のこの宇宙船団は、子ども達が自由に使えば良い。
 ただ、人間達に住まわせる惑星は、城の子の手で環境を整える必要が有る。』
「人が住めない様な惑星なのか?」
『今はそうでも、地球を再生するよりは遥かに簡単に改造出来る、城の子の力が有れば。』
「そうか…、マリアは私達以外の世界について少し話してくれたが、彼らも同様に惑星を目指しているのか?」
『当初はその様にプログラムが組まれていたが、幾つかはすでに廃棄した、残っている船団も我々が惑星を改造しても無駄になりそうで、この船団だけが新たな大地を踏みしめる可能性が高い。』
「その…、廃棄された船団を我々の保護下にすることは出来なかったのか?」
『距離的な問題が有る、遠く離れるまではここから食料支援をしていたが、すでにそれもかなわないほど距離が離れた、我々の技術をもってしても限界は有る。』
「この世界の安定に対して私達は大した努力をしたとは考えていないのだが…、人選には実験的な偏りがあったのだろうか?」
『いや、船団間の相違は僅かな物だ。
 ただ、国を繋ぎ始めた段階で、和の国の様な突出した存在は生まれなかった。
 我々は、この世界の国々が和の国に対してもっと攻撃的になると考えていたのだが、予想に反し和の国を中心にまとまった。
 他のコロニー船団では、他より優位に立ちたいと考える複数の国家間で折り合いが付かず、国家間の協力体制を築き上げる事が出来ないまま非効率な生産体制を維持するのが精一杯、そんな状態でも如何にして他国を出し抜くかを考える様な普通の人間達だった。』
「私達は、マリア達のテクノロジーで守られて来たから効率の良い生産体制を構築出来たと考えているのだが。」
『他の世界も初期段階は同じ、同じ様な条件からスタートした。
 八人の単独居住コロニーは沢山作られたが、キングを中心とした八人のグループほど、奇跡的なことを成し遂げるまでに成長したコロニーは無い。』
「それはマリアの力なのだろ?」
『同様の事を、スコットランドやコペンハーゲンでも行って来たが、彼らの子は普通の人間に過ぎない。』
「そうか…。」
『子ども達、あなた達の親もまた、特別な存在だということを忘れないで下さい。
 そして、これからのことですが…。』

 マリアはこれから先の計画を子ども達に説明した。
 この世界の住人、おそらく人類として生き残る最後の集団の移住先について。
 その移住までのプロセスについて。
 多くの人を保護して来た城の子に新たな課題が与えられたが、子ども達の目は輝いている。
 それが新たな使命に対してなのか、新たな遊びを与えられてなのかは、問わないでおこう。
 子ども達を交えての時間が終わった後、私はマリアと…。

「なあ、マリア、私達の事を高く評価してくれた事は嬉しいが、我々と他国の指導者との違いが今一つ理解出来ない。」
『子ども達には話さなかったが、我々の箱舟プロジェクトには多くの意思、意識が関わっている。
 だが、その誰にも分からない事が起きた。
 この世界の者達がしばしば語る所の、神という存在がなした事かも知れないと言い出す者がいるぐらいの謎だ。』
「マリア達が神ではないのか?」
『違う、我々は傍観者に過ぎない。
 今回は研究と称して暇つぶし的な事に取り組みはしているが。
 キングは、我々が意図的にブラックコロニーと呼ばれている存在を、国の要素として入れた事は理解しているだろうか?』
「そうだな、貴重な存在、集団の中に弱者がいることで集団はより強固なものになる。
 私達も始めは戸惑い、上手く導くことが出来ず、二名の死者を出してしまったことは残念に思っているのだが。」
『その考え方をする者は他の箱舟にはほとんどいなかった、この世界のリーダー達も城の住人と出会っていなかったら保護の対象とは考えもせず、厄介者、だが、罰が怖くて殺す事も出来ない存在だと捉えていただろう。
 彼らの信仰心は観察していて面白い、言ってる事とやってる事が異なっていても平気だ。
 だが、信仰心をあまり持ち合わせていないと言う城の者達は、強い思いやりの心を持ち、弱者の為にも力を合わせて取り組んだ。
 破棄した国が、社会的弱者の排除方法に頭を巡らせている頃にだ。
 それが理由なのかどうかは分からないが、我々は未知なる意思の存在を感じている。』
「それは…、マリア達とは違う存在がいるという事なのか?」
『この広い宇宙に、意志有る存在、文明を築き上げた生命体は極めて少ない。
 だが我々と同様に、人類の滅亡を見ていた存在が、我々とは違う力を使った可能性が有る。
 これは我々にとって重大な出来事だ。』
「そうか…、マリア達とは違う意思の存在には私も興味が有る、良かったら教えてくれないか?」
『そうだな、キングが大きく関係しているので、何か気付いた事が有ったら指摘して欲しい。
 私にとってのキングは、当初、ただの観察対象、研究材料の一人でしかなかった。』
「だろうな。」
『だが、私は何故か計画に全くなかった城の建造に多くの労力を費やした、そして海を含む広大な面積を、ただの実験体で有る筈のキングに言われるがままに用意した、何の疑いもなく。
 地球に近い頃で転送が楽だったとは言えおかしな事、それを私自身が指摘されるまで気付かなかったと言うのはもっとおかしな事。
 あの時点で、そこまで試験体に差を付ける予定は全く無かった。』
「えっ、海は…、広い窓から海が見渡せる部屋が理想、とか話した瞬間に現れたと記憶しているが。」
『普通では絶対やらない事を無意識の内に行っていた。
 だが、城も海も、コロニーが発展し和の国がこの世界の中心となって行く過程で、とても重要な役割を果たしたと思わないか?』
「ああ、だからマリアには感謝しているよ。」
『私のしたことは我々にとっても私にとっても完全にイレギュラーな事だったとしたら、キングはどう思う?
 私が私の意識に全く無かった城と海を作った事、それが箱舟プロジェクト最大の謎だと我々は捉えているのだ。』
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