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09 併合 [KING-04]

 城の子達が単独居住コロニーの保護を進める一方、八つの国、子どもの人数をマリア達が満足する二十人にまで増やすことの出来ていない国々は、城の大人達が中心となり我々の世界へと導いている。
 当初、ファーストコンタクトから対面までの準備に時間を掛けようと計画したのは、何らかの原因が有って人口を減らした国々なのだから、どんな落とし穴が有るのか分からず、念の為にサンフランシスコの時と同等の体制で臨もうと考えての事だった。
 だが実際には、単独居住コロニーと同様、問題になりそうな人はすでに人を殺すか殺されて消えていた様で、全体的にトラブルは少なく、スケジュールを前倒しする事に。

 ただ、一つの国はリーダーやリーダーグループが存在せず、ファーストコンタクトで躓いた。
 国のリーダーがいないと国家間で利用して来た端末が使えず、こちらは情報を得られても、端末を通しての通信が出来ない。
 そこで、この国とのファーストコンタクトは単独居住コロニーと同様、まずゲートを置き、隠しカメラ映像で反応を探るところから始めることに。
 城の大人主導で進めるが、各国のリーダーには送り込むモニターに取りつけたカメラからの映像を見て貰いながら待機していて貰い、状況に応じてはそのまま対面にまで持ち込む予定。
 我々は尊と巴と共に、隠しカメラ映像の確認を始めている。

「大人は全員で四十三名だから、ほとんどゲート前に集まったみたいね。」
「では、昇に作って貰った歩くモニターを送り込むとするか。」
「ウサギはやめたの?」
「人数に合わせてモニターを大きくして貰ったからな。
 この人数なら機械仕掛けでも大したプレッシャーにはならないだろう。」
「子ども達の映像に戸惑っているみたいだけど、画面上に自動翻訳の文が表示され始めているのよね。」
「えっと…、大丈夫だ、歩くモニターを正面から捉えてるカメラ映像で確認した。
 この映像をサブモニターに切り替えるよ。」
「字幕として表示されてるのは自己紹介、この後、我々の世界を軽く説明してからなのだが…。」
「単独コロニーほど寂しい思いをしていないのか、反応が弱いわね。」
「さてロックの話に、どんな反応を示すかだな。」

 ロックは代表者と話がしたいと呼びかけた。
 それに対して、六人が前に出て来る。

「この国を代表するのは?」
『この六人がそれぞれの居住スペースリーダーで同格だ。』
「成程、では私達から伝えたい情報は色々有るのだが六人を中心に聴いてくれるか?」

「顔を見合わせて相談を始めたが、三之助はどう思う?」
「戸惑っているのでしょうけど、六人は微妙な関係みたい、凄く仲が悪い訳では無いけど牽制し合ってるのか…、突然の事に判断出来ないという感じね。
 ここは尊と巴に登場して貰った方が話が早くなると思うな。」
「そうだな、少なくともこの堅い雰囲気は和らぐだろう、尊、頼めるか?」
「はい。
 巴、ロックおじさんの所へ行くよ。」
「はい、お兄さま。」

 ロックが二人を、我が国のプリンスとプリンセスだと紹介すると、彼らの表情が一変、そのまま跪き始めた。

「一瞬見ただけでか…。」
「服装を王族っぽいのにしたのが影響しているのかしら。」
「う~ん、推測でしかないが、全員を束ねるリーダー不在の状態で、他国とは言え王族の登場、しかも気品溢れる二人、そこに巴の能力が加わり、跪きたくなったのは自然なのかもな。
 王族に不快感を与えて、後々不利益を被りたくないとか…、そこまでは考えてなさそうだが…、三之助、どうだ?」
「ふふ、尊が話し始めれば、彼らは自分達のとった行動が間違っていなかったと知るでしょう。」

 ロックから話を引き継ぎ、尊は我々の世界の話をし、自分達の和の国や他の国とも友好関係を結んで欲しいと訴える。
 そして、対面後に起こるプロテクト解除時の説明をし、心の準備が出来たら、自分達もゲートを越えると話す。
 彼らは話し合いを始めたが、その間に尊が連絡して来た。

『先方に六人の代表がいては本格交流までに手間取ると思います。
 彼らが戸惑っている間に、一気にこちらのペースで進めてしまいましょう。
 プロテクト解除時の見守りは、ここにいる各国代表だけで充分だと思います。
 お風呂に入って貰い、プレゼント用に用意した服と着替えて頂いて、昼食は…、母さん、お城のホールで何とかならないかな?』
「大丈夫、すぐに応援を呼ぶわ、まずは着替えて貰わないとね、彼等がお城で惨めな気持ちにならない様に、女性の為に美容系のスタッフも集合して貰いましょう。
 尊、テレビでは各国代表が見てるのと同じ映像を流しているのでしょ?」
『うん、テレビを通して協力を呼び掛けた方が早いかな?』
「尊、食事会までの準備はこちらで進める、尊は対面…、はは、彼らはまだ対応を決めかねているな。
 まあ、急ぐ必要はないから、彼らのプロテクト解除スタートの方を頼むよ。」
『分かりました、それで…、各国リーダーの方々とも相談しますけど、あの状態の国です、彼らの中から国のトップリーダーを決めて貰い、国交を開くと言うのは難しそうで、上手く行ったとしても時間が掛かり過ぎると思います。
 データから分かる通り、自給自足が上手く行ってないことからも推測できます。
 また、老化が進んでいないことから、罰を受ける事なく私達からの支援物資を受け取って暮らしているのだと思いますが、衣服の状態から、あの国の管理者は食料援助はしても、それ以上の事は一切して来なかった様です。
 そこで、あの国の今後についてですが、選択肢の一つとして和の国に併合する事を考えても良いと思うのです。』
「そうだな、尊、各国のリーダーと調整してくれるか。
 彼らが反対しなければ、特に問題はないだろう。」
『分かりました。』

 国をまとめるリーダーが居なくては色々と効率が悪い。
 尊の提案に対し、場にいた城の大人達は賛成の意思表示を直ぐにしていた。
 尊は和の国に併合する話をリーダー達と交渉…。

「一旦和の国に併合した後は、彼らの意向に沿い、居住コロニーのゲートを皆さんの国と繋ぎ変えて行くことも視野に入れています。
 すぐに結論を出す必要は有りませんが検討して頂けたらと思います。」
「そうだな、私は尊の意見に賛成だ、これだけ時間が掛かっても結論を出せないのだからな。
 和の国で管理してくれるのなら、それが一番だろう。」
「我々は他の国との国交も進めて行かなくてはならない、この国を尊が引き受けてくれるのなら助かるが、尊、単独居住コロニーの保護に影響は出ないのか?」
「あの国の資源も、かつて和の国が併合したエリアと同様、島に使おうかと、希望の島を広げるか、もう一つ島を造り、受け入れ態勢を強化したいという理由も有るのです。
「ならば、城の子にお任せするしかないな。」
「有難う御座います、彼らの意向にもよりますが…、そろそろ決断を迫って上げないと先に進めそうに有りませんね。」

 尊に促され、彼らは話し合いを終えたが、結論が出た訳ではなさそう。
 それでも、尊は今からゲートを越えて行きますと話し、モニターを通して、これから訪問するメンバーを紹介して行く。

「カタリナがトップなのは何か理由が有るの?」
「はは、尊は独身のカタリナにお婿さんをと話していたから、そんなとこじゃないのか。
 彼女は気品が有る、向こうの男性達の表情が変わったから正解だろう。」
「護衛の静子たちも服装をそれらしくしたのね、うん、なかなか恰好良くて似合ってる、馬に乗っての登場でも良かったのでは?」
「今以上の格差を見せつける必要はないさ、彼らの服は昔見た映画で奴隷が着ていたものを思い出させてくれるだろ。」

 ゲートから尊が登場すると、彼らはもう一度跪いた。
 尊はもう一度説明を始める。

「すぐに皆さんは忘れていた過去を思い出し始めます。
 その過去は恐らく思い出したくない類のものでしょう。
 そんな過去はすぐに忘れて下さい。
 しばらくは落ち着かない状態が続くと思いますが、皆さんがそれを少しでも楽に乗り越えられる様に私達は準備しています。
 このゲートの向こうにはお酒と料理が用意して有りますが、お風呂と着替も。
 言葉は翻訳機を通すことになりますが、その数に限りが有りますので、各コロニースペース毎、男女のグループに分かれて下さい、この後、入って来るのは、私どもの和の国と協力関係にある諸国の代表です。
 彼等と交流を始め、彼らの誘導に従って下さい。」

 一度にゲートを越えなかったのは、彼等を脅かさない為。
 プロテクトが外れ始めても、特に問題行動を起こす人は現れなかったので、城の大浴場へ向かって貰う。
 
 風呂に入り、各国から提供して貰った服に着替え、髪を整えて貰う頃から、女性達は蘇る記憶の不快感より、喜びが勝り始め、城のホールで昼食会が始まると、その表情はすっかり明るくなった。
 音楽村メンバーの演奏、夢の歌声、この世界に来て初めて口にする酒に酔いしれて貰った所で、明日以降のスケジュールを相談、というよりロックがほぼ決定事項として伝えたが、誰からも反論は無く、尊の考えた通り、一気にこちらのペースで併合まで持ち込めそうだ。
 食料は提供するので農地は放棄して構わない、その代わり落ち着いたら和の国で働いて欲しいと話し、酔いつぶれた数名を残して和の国を案内、その途中、一人が昔の職業を話し始めると、他の人達も。
 私達の世界は新たな技術を手に出来そうだ。

 彼らの国が六つのグループとなったのは、和の国二丁目に相当する通称ブラックコロニーが暴力的で、その動きを抑え込もうとしたリーダー達と争いになり、リーダーグループとブラックコロニーメンバー双方が全滅したから。
 国家リーダーを失った後、コロニー同士のトラブルが起き死者を出した。
 それからは、トラブルを恐れ、互いに距離を置いての協力関係、全体を見て指示するリーダーがいない状態では当然作業効率が悪く、コンタクトの取れない管理者は時折食料を支援してくれるだけだった。

「結局、全部のグループが和の国に所属する道を選んだのね。」
「早々と決めた居住スペースリーダーからは、苦渋の決断という雰囲気は微塵も感じられなかったからな。
 リーダーという重荷から解放されるという安堵感を感じさせてくれた人もいたし。」
「迷っていたグループも、他が和の国を選び、生活環境を整えて貰うのを見てはね。
 和の国からの提案を受け入れた方がうんと楽で快適な暮らしが出来る。
 言葉の問題は有っても翻訳機が使える、単独居住コロニーから保護された人達よりはマシだと気付いたのでしょう。」
「その分、共通語の学習には熱が入らないようね。」
「今は仕方ないさ、でも、翔はあの国の言語をテレビで流す事も、訳の字幕を付ける事もしないと話していたから、その内共通語に馴染んで行くだろう。」
「そうね、保護した他の国では、各国のリーダーグループが翻訳作業をしているものね。」
「でも、リーダーによっては、敢えて共通語の学習に繋がる様に工夫をし始めてるとか。
 今回の事で改めてリーダーの資質とか考えさせられたわ。」
「だな、居住スペースリーダーを名乗った人達に、もう少し力が有ったら、また違った形になっていただろう、それが良い結果に繋がったとは言い切れないが。」
「尊たちは併合出来て資源が増え、保護した単独居住コロニーの人の為に希望の島を充実させられると喜んでいたわね。
 これで、少しは保護作業に目途が立ったのかしら?」
「一番厄介そうな国が保護出来、単独居住コロニーもデータ上に大きな問題を抱えているコロニーは残っていない、油断は禁物だが大丈夫だと思うよ。」
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