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山影静-01 [F組三国志-02]

「あらっ、静、スケッチブック、持って行くの?」
「うん、遠足だから。」
「今日は良いけど、勉強、しっかりしてね。」
「はい、いってきま~す。」

 母の話しは、私を憂鬱にしてくれることが多い。
 よく出てくるのは、山影家の長女だから、という言葉。
 兄か弟がいたら、もっと自由で、ずいぶん違ったのだと思う。
 妹は学校の成績もいまいちで…。
 でも、今日は遠足。
 スケッチとか考えてたら無駄に荷物が増えてしまった。

「山影さん、荷物多いね、持とうか。」
「あ、ありがとう。」
「ぼ、ぼくも持ってあげるよ。」

 えっと…、始めに声を掛けて来たのは、確か…、星なんとか、もう一人はいたぶられるのが好きな人…、興味が無くて名前を覚える気にもならない。

「自分で持てますので…。」
「学校まで大変だったんじゃない? 気にせず楽しなよ。」
「あらっ、お二人って意外と紳士なのね、じゃあ、はい。」
「はい、って? 斉藤さん?」
「私のは持ってくれないの?」
「斉藤さんに、その荷物は小さ過ぎないか?」
「そうかな、乙女の私にとっては充分重いのだけど。」
「う~ん、斉藤さんに言われても説得力がいまいちでさ。」
「どうして、山影さんと私じゃ…。」
「えっと…。」

「ごめん、待った?」
 あっ、赤澤さんだ。

「打ち合わせは済んだのね。」
「ああ、こっからは五人で行動するよ。」
「でもさ、同じとこへ行くのだから、みんな一緒でも良かったでしょ? 地下鉄だし。」
「斉藤さん、それも悪くは無いのだけどね、班員同士が語り合える時間があっても良いだろ。
 向こうでの企画を考えた上でね。」
「ふ~ん、色々考えてんのか…、でもね、この二人、私の荷物、持ってくんないのよ。」
「えっ? その荷物? 俺、持とうか?」
「いいの? ラッキー。」

 赤澤さんは大人だ。
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山影静-02 [F組三国志-02]

 東山公園までの時間、色々聞かれた。
 今まで皆と話さない様にして来たから仕方ないのかも知れないが、それに答えている自分が滑稽だ。
 赤澤さんは、そんな私を、にこにこしながら見てるだけ。

「スケッチブックを持って来たということは、絵が趣味なの?」

 スケッチブックを広げて見せる。
 最近描いた中では自分でもお気に入りの一枚。
 
「おっ、うまいじゃん!」
「ほんと、素敵ね。」
 いつもの様に褒められる。
 中学の頃から当たり前になっていた。
 でも、それが嬉しいから必要のないものまで持って来てしまうのだろうか。

「ねえねえ、画家志望なの?」
「そうですね…。」

 色々訊かれ、それに答える自分。
 少し面倒。
 赤澤さんが見ていなかったら、黙っていたかもしれない。

 赤澤さんには、いきなりグループに誘われた。
 しかも強引にだ。
 驚いたというか戸惑った。
 でも、さすがに遠足で単独行動という訳には行かず、断る理由もなく…。
 赤澤さんから遠足で絵を描いて欲しいと頼まれたのには本当に驚いた。
 私が絵を描くことを母は好ましく思っていない。
 当然、美術科進学は無理で、あきらめてから、高校では絵を描くまいと思った。
 だから美術部にも入っていない。
 私が人並み以上の絵を描くという事をこの学校で知っている人はいない筈だった。

「どうして私に絵を?」
「だって上手じゃん。」
「えっ、見せたことない筈だけど。」
「ほら、ノートの表紙に描いてたでしょ。」
「今度の遠足はね、クラスのみんなが親しくなれるきっかけにしたいと思っているんだ。
 で、山影さんは、話さなくて良いから絵を描いてくれたらと思ってさ。」
「授業中の暇な時に描いていましたが落書き程度の絵で…。」
「落書きで良いよ、描くのは好きでしょ。」
「はい…。」

 少し強引な赤澤さんに戸惑いはあったが、退屈そうな遠足が少しはましになるかもと思い準備していたら、荷物が増えてしまった。
 考えてみたら、動物を描くのは久しぶりのことで…、遠足を楽しみにしている自分がいた。
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山影静-03 [F組三国志-02]

 東山公園では他のグループと個別に合流してということに。
 少々面倒な気がする。
 一箇所目はサイ。
 赤澤さんの言葉に甘えて、とりあえずスケッチを始める。
 ふむ。
 普段描くことの無いサイはモデルとして結構面白い。
 形が出来てくると、何となく周りが騒々しくなって来た。
 人に見られながら描くというのは気恥ずかしいものだが、少し新鮮さを感じる。
 程よくサイが描きあがった頃、一グループ目との交流時間が終わったみたいだ。
 絵の方は自宅に帰って仕上げるか、そのままにするか…。

「山影さん、描くの早いね、びっくりしたよ。」
「集中してると、簡単なスケッチに時間は掛からないのです。」
「そうなんだ…。」

 なにやら、星なんとかという男子が色々話し掛けて来るが…、後は、面倒になって聞き流すことに。
 時々頷くふりをしていれば良いだろう…。
 あっ、赤澤さん。
 声を掛けられたが、とっさに返事が出来ず、頷いて済ませてしまった。
 少し緊張する。
 適当にあしらって済む人じゃない、というより済ませたくない。
 彼は授業中先生に問い掛けられると他の生徒とは明らかに違う視点で発言、その話は先生の話より興味深く楽しい。
 赤澤さんに対する気持ちは恋愛感情と言うより、尊敬という感覚。
 秋山さんとはお似合いで、二人を見ていると何故か心が癒される。
 私には彼氏なんて出来ないだろうが、二人みたいなカップルには憧れが有る。
 
「ねえ山影さん、山影さんの絵をさ、クラスのプリント、ほら遠足に関する連絡とかの印刷物配ったでしょ。
 あんなのに使わせて貰えたらと思うのだけどどうかな?」
「別に…。」
「良いんだね。
 あと、遠足の企画を振り返り、まとめたものを文化祭を意識して作成する予定が有ってさ。」
「テキストデータで文を下されば、イラストを入れて、レイアウトも組んで仕上げます。」
「ほんと、そりゃ助かるし楽しみだ。」

 どうして、こんなことを口にしてしまったのだろうと、すぐに後悔。
 母の目を盗まないと…、日頃とは違うスケッチ、遠足で浮かれているのだろうか。
 でも、やってみたいのは本心。

「DTP作業は好きなのです。」
「そうなんだ、じゃあDTPのソフトなんかも持ってるの。」
「はい。」
「なに? そのDTPって?」
「岡崎、DeskTop Publishingだよ。」
「えっ?」
「直樹くん、お兄さんはこちらのお姉さんと大切なお話しがあるからね、向こうのペンギンさんのとこへ先に行っててくれないかな。」
「は~い、って、ぼくはガキか?」
「ふふ。」
「え~っと、ソフトは?」
「PageMaker。」
「それならうちにもある、バージョンが違うかもしれないけど。」
「父の会社でなら、カラー出力も出来ます。」
「それは心強い、文化祭を視野に入れているからね。
 うちも親父関係で色々出来るから、また相談しよう。」
「はい。
 あっ、写真はどうしますか?」
「う~ん、極力、絵にした方が面白いと思うけど、写真を使うにしてもちょっと加工して個性的な感じにしたらどうだろう?」
「ふふ、良いですね。」

 あれっ、なんかわくわくしてる、私…。
 でも、良いのか…、問題は親だ。

「そう言えば、お母さんが絵を描いたりすることに否定的って言ってたよね、そっちは大丈夫?」
「だめかも…。」
「それは、なんとかならないかな。」
「数学の小テストで思う様に点が取れてないので…。」
「はは、みんな数学で苦しんでいるのか。」
「赤澤さんは数学得意だからうらやましいです。」
「小テストで点が取れたら、余裕が出来そうなの?」
「はい、小テストをクリア出来れば、定期テストもそれなりにと思っています。」
「ねえ、哲平と秋山さんとで数学の勉強会をやる予定が有るのだけどさ。」
「ふふ、照れないで、美咲とかで構いませんよ。」
「へへ、まあ、良かったら参加しない?」
「えっ、良いのですか?」
「嫌じゃなかったらだけど。」
「嫌な訳ありません。」

 秋山さんの前に哲平って…。
 哲平さんは私にないものを色々持っている、かっこいいし憧れている。
 遠い存在ではあるが、彼と一緒で嫌な訳がない。

「哲平のことは、あまり知らないかも知れないけど良い奴だよ。
 意外と真面目だしね。」
「はい、それで、何時ですか?」
「おっ、乗り気になってくれた?
 一回目は次の日曜日、基本、哲平の都合に合わせることになってるから二回目以降は未定だけどね。」
「ほんとに私も良いのですか。」
「うん、大丈夫、二人には俺から話しておくから。
 場所は俺んち、ほら地下鉄でここに来る途中、覚王山ってあっただろ、あそこから歩いて十分ってとこなんだ。
 で、少しお願いが有るのだけど。」
「はい。」
「当日はね、まず数学、それから今回の遠足のまとめ、ここまでは時間を区切ってやりたいんだ。
 だらだらとやるのではなくね。」
「はい。」
「で、終わったら、ちょっとおしゃべりしたりとかさ。
 俺も、まだ哲平や、み、美咲のこととかも、よく知ってる訳じゃないからね。」
「そうなのですか。」
「そうなんです~。
 で、もう一つ個人的なお願いがあって。」
「はい。」
「み、美咲を家へ呼ぶの初めてなんだ。
 で、ちょっとドキドキでさ。」
「ふふ、赤澤さんも普通の人みたい。」
「え~、俺、普通だよ~。」
「大丈夫です、ちゃんと協力しますよ。」
「よろしくね。
 あ、そろそろペンギンの前で集合する時間だ。」

 赤澤さんも普通の人なんだ~、ふふ、ちょっぴりかわいいかも。
 あれっ、そう言えば…、男の子と気軽に話してた…、私。
 始めは緊張してたのに。
 赤澤さんは不思議な人だ。
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山影静-04 [F組三国志-02]

 昼食は植物園で。
 食後、グループに関係なく、何となくみんな集まってだべってる。
 私はちょっと面白い花を見つけたから少し離れてスケッチ。
 あらっ、彼らは…。

「しかし、まいったね高木には。」
「ああ、結局、午前中ずっと一緒なんて有り得なくねえか?」
「先生、他の連中はいいんですかって訊いたら、問題ないの一言、俺たちゃ問題有りかよって突っ込みたくなったぜ。」
「適当に時間つぶすつもりが植物園巡りなんてな、おい森、ゲーセンはどうなったんだ?」
「知らないよ、俺だってちゃんと近くのゲーセン確認しておいたんだからな。」
「高校ってもっと自由じゃなかったのか?」

 企画に参加しなかった班とか、赤澤さんが話してたのは彼らの事か…、高木先生お疲れ様でした。
 あらっ、哲平さんと赤澤さんがこちらへ…。

「おう、森班は午前中どうだった?」
「ああ、哲平、高木とずっと一緒だったよ。」
「はは、先生と親睦を深めてたってことか。」
「深めたくなかったな、スキンシップなんてことを言い出してくるしさ。」
「スキンシップ?」
「あれは、やばいよな。」
「うん。」
「クラスにさ、ちょっと遊んでやった奴がいてさ。」
「うん。」
「なでてやって、友情はスキンシップからだよな~、って言ってやったんだよ、なあ富岡。」
「はは、森のなでるってのは多少痛いかも。」
「そいつ高木に話したみたいなんだ。」
「なんだ、お前らそんなことしてたのか。」
「へっ、俺は哲平と違って女子にもてないからな。」
「ふむ、それで、先生からは?」
「今度、俺とスキンシップするかってさ。」
「いいね~。」
「よかないよ、高木って柔道五段なんだぜ。」
「あっ、先生のスキンシップって柔道のこと?」
「ああ、それより何か用か?」
「うん、今日の遠足のまとめを作ろうと思ってね。」
「哲平、お前って意外と真面目なんだな。」
「はは、意外は余計だ。」
「で?」
「森班の様子も入れたいから、誰か協力してくれないかと思ってさ。」
「俺はパス、そうだ平岩がいいんじゃないのか。」
「え~俺かよ、メンドーなのは嫌だな。」
「俺だって面倒な班長やったんだからな。」
「って、何にもしてないじゃん。」
「ははは、まあ平岩で決定な。」
「え~。」
「オッケー、じゃあ平岩、また後でな。」

 あんなレベルの連中なんて、哲平さんたち、相手にしなくても良いのに…。

「あっ、山影さんここにいたの。」
「おい省吾、この絵、見てみろよ。」
「おお、いいね、写真とは全く違った良さがあるよな。」
「なあ、今回の、お真面目企画『発見、気付いたこと』ってさ俺はどうかなって思ってたんだ。」
「どうって?」
「何にも発見出来ない、気付かないかもってさ。」
「うん。」
「でも、午前の、お気楽企画とかを通して、沢山の発見があったと思うんだ、俺なりにね。」
「そりゃ、哲平が見る目を持っているからだな、山影さんもそう思うでしょ?」
「は、はい。」
「絵を描いてる人って、人が気付かないことにも色々気付いて、それを絵で伝えてくれるのだよね。」
「あっ、え…、え~と…。」
「どうしたの?」
「そうですね…、私…、当たり前のように絵を描いて来ましたが…、大切なことを忘れていた気がします…。
 ふふ、哲平さんの様に、私も発見したみたいです、赤澤さん、哲平さん有難う御座います。」
「そうなんだ、でも、なんで哲平さんで、俺は赤澤さんなんだ?」
「哲平さんは、シロクマの所で、俺のことは哲平って呼んでくれよって言って下さいましたので。」
「じゃあ、俺のことも省吾って呼んでよ。」
「ええ。」
「そうそう、勉強会のことだけどね、二人の了解はとったから、それから後、一人か二人増えるかもしれないけどよろしくね。」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」

 哲平さんも省吾さんも一緒にいると楽しくて、もっと仲良くなりたいと思う。
 勉強会では憧れの哲平さんと…、なんかドキドキが止まらない。
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山影静-05 [F組三国志-02]

 まだ、陽は高い。
 でも、植物園を出た所で遠足は終わり、後は自由に帰宅ということになっている。
 とは言えみんな地下鉄へ向かうのか、ばらばらになるでもなく、上池の方へ。
 あらっ?

「お~い、みんな集まってくれ~。」
「哲平、どうした?」
「なんだ~?」
「みんなさ、ここの都市伝説知ってるだろ。」
「はは、『東山公園のボートにカップルで乗ると、そのカップルは別れる。』ってやつか。」
「でさ、せっかくだから実験してみないか?」
「実験?」
「カップルと言えば?」
「そりゃ、赤澤と秋山だわな。」
「ということで、お二人でボートに乗って頂こうかと。」
「なに~、聞いてないぞ!」
「実験なんて…。」
「美咲、逃げるか?」
「ええ。」
「甘いな、奥田さん頼む。」
「えっ? 麻里子もぐるなの~。」
「F組の団結力をなめちゃだめよ~。」
「あっ、囲まれてる、哲平、謀ったな~。」
「麻里子ったらひど~い。」
「はは、秋山さん、団結したF組の姿、嬉しいでしょ。」
「え~。」
「乗っちゃえ乗っちゃえ。」
「クラス公認のデートなんだからさ。」
「でも…。」
「まあ、実験に協力してくたら、ボート代は俺たちが持つし。」
「哲平…。」
「さらに、都市伝説に打ち勝つようなら、私たちはお二人を暖かく見守ってあげるからさ。」
「麻里子…。」

「美咲、こりゃ勝てないよ。」
「みたいね。」

「淳一、ボートの手配は?」
「おう、大丈夫だ。」

「ではこちらへどうぞ。」
「さ、手をつないで。」
「ちゃ~ん ちゃちゃちゃ~ん♪ ちゃんちゃちゃちゃ~ん♪ …♪」
「おいおい、ワーグナーか?」
「ローエングリンね。」
「なんで婚礼の合唱なんだよ!」
「はいは~い、細かいことは気にしないでお足元にご注意くださ~い。」

「どうして手漕ぎボートなんだ。」
「基本だろ。」
「別れるって話し、親父が中学生の頃には、普通に広まってたらしいぞ。」
「でも、なんか羨ましくもあるな。」
「あの二人、お似合いだから、ずっと仲良くしてて欲しいわね。」
「その割に、この企みに積極的だったのはどなた?」
「だって、だって、楽しいじゃん。」
「ははは。」
「あの二人、こっち見ないようにしてるぞ。」

「で、俺たちこれからどうすんの?」
「私もボート乗りた~い。」
「じゃあ、希望者で適当にペアとか作って乗るか?」
「さんせ~い。」
「でも二人のじゃまはだめよ。」
「了解。」
「じゃあ、二三人で組を作って、組が出来たところからボートの方へ行って。」
「おう。」

 な、なんか盛り上がってる。
 F組がこんなクラスだとは思っていなかった、不思議な気分。
 あらっ、哲平さんは組み合わせの調整をしていて…。

「乗る人はみんな乗ったのかな、あっ、谷口さんは?」
「私、船はだめなの、哲平くんは乗らないの?」
「そうだな…。
 山影さん、一緒にボート、乗らない?」
「えっと…。」
「いいじゃん、まだカップルって訳でもないし、手漕ぎじゃなければ大丈夫だよ。」
「はい。」

 って、まだ? 手漕ぎじゃなければ大丈夫?
 哲平さんと…、なんかドキドキしてきた。

「どうだった、山影さん、今日は楽しかった?」
「はい、とっても…。」
「よかった。」
「静と呼んで下さったらもっと…。」

 ああ、何言ってるんだろ、私…。
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平岩周-01 [F組三国志-02]

 まったくひどい話だ。
 森の『平岩で決定な。』の一言で、遠足について面倒なことを押し付けられた。
 四月頃は森たちとつるみ新鮮で楽しかった、岡崎とかをパシリにして。
 それが最近じゃ、岡崎の近くには赤澤や女子がいるし、他の連中も遠足後、急に仲良くなっちまって、結局俺が森のパシリみたいなことに…。
 あ、赤澤。

「どう、遠足のレポート書けた?」
「いや、まだっていうか書かなきゃいけないのか?」
「別にインタビュー形式でも良いけど、時間とれる?」
「それなら…。」
「何時が良い?」
「そうだな…。」

 そう言えば森が今度の日曜日、ナナちゃん人形の下で集合とか、冗談っぽく言ってたけど、なんか、もう本格的にパシリさせられそうな雰囲気だった。
 逃げる口実に…。

「次の日曜日なら良いけど。」
「日曜日か…、そう言えば平岩って家どこ?」
「名東区、本郷の近く。」
「じゃあ学校までは地下鉄だろ、定期だよね?」
「ああ。」
「俺んち覚王山だけど、来る?」
「行っても良いけど。」
「午前中に数学の勉強会やってから、遠足のまとめをする予定なんだ。
 終わってからちょっとおしゃべりってとこかな。
 メシの心配はしなくて良いからさ。」
「はは、赤澤の手料理か?」
「まあね、みんなにも手伝って貰うけど。
 別にずっとじゃなくて良い…、そうだなインタビューだけだから食事前からで良いよ。」
「数学の勉強会って?」
「哲平たちからリクエストがあってね。」
「俺も参加して良いのか?」
「もちろんだ。」
「森たちと遊んでばかりだったから、かなりやばくてさ。」
「なるほど、じゃあ中三の…、ちょっと待ってて。」

 はっきり言って数学、やばいんだよな…。
 でも、勉強会ね~、やっぱり真面目な奴らは違うな。
 俺、ほんとに行っても良いのか?

「おまたせ、中三の時のさ、このあたりを中心に復習しておいて欲しいのだけど。」
「中三の教科書、持って来てるのか。」
「ああ、最近数学の質問をよく受けるからね、説明するのに便利なんだ。
 ここに受かるくらいだから、みんな中三の数学はそれなりに出来てるからね。
 平岩はどう?」
「まぁ、俺も受験勉強はそれなりにやったから。」
「なら大丈夫、復習はどちらでも良いけど、やっておいてくれると説明が早く済むんだ。」
「わかった、で、他に誰が来るの?」
「哲平に美咲、静さん、山影静だよ、それと奥田麻里子ってとこかな。」
「へ~、俺なんかが行っても本当に良いのか?」
「ああ、できたら遠足のまとめとか手伝ってくれると嬉しいけどね。」
「う~ん。」
「パソコンとかは?」
「まあ普通に使えるけど。」
「じゃあ、よろしく頼むよ。」
「い、いや、こちらこそ。」

 なんか変なことになった。
 でも…、山影って結構美人だよな、奥田は明るくて可愛い、まあ秋山は別格として、俺入れて男女三人ずつか…。
 怖いような、楽しみなような…。
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平岩周-02 [F組三国志-02]

 えっと地下鉄覚王山駅の、一番出入口を上がった所だから…。
 あっ、笑い声が聞こえる。
 みんな来てるのかな…。

「平岩くん、おはよう。」
「ああ、おはよ。」
「おはよう、これでみんな揃ったな。」
「じゃあ、行く?」
「うん、あっ、静さん、荷物多いのね。」
「お、俺が持つよ。」
「大丈夫です。」
「へ~、平岩くんって紳士なんだ。」
「い、いや、そんなんじゃないけど、今日は仲間に入れて貰ったって感じだからさ。」
「それなら、静、持たせてやれよ。」
「はい、哲平さん。」
「省吾の家までは遠いの?」
「日泰寺の裏を下りたとこ、少し有るけど、みんなで歩くのも悪くないだろ。」
「風が気持ち良いものね。」
「そうそう、遠足の写真持って来たわよ。」
「麻里子、見せて見せて。」
「おいおい、歩きながら見ててこけるなよ。」
「大丈夫よね~、そんな時は省吾さんが支えてくれるもの。
 ほら美咲、これなんかどう?」
「あ~、ボートの時の! やっだ~!」
「お似合いよね~。」
「しかし、まいったよな、哲平たちがあんな企みをしていたとは。」
「麻里子は信じてたのに…。」
「楽しい青春の一ページということで、クラスが盛り上がったでしょ。」
「ははは。」
「も、もし省吾と別れることになったら一生恨んでやるからね。」
「お~こわ。」
「たかが都市伝説じゃない。」
「されど都市伝説よ。」
「でもさ、由香って美咲とは付き合い長いじゃない。
 その彼女が二人は簡単には別れないって断言してたわよ。」
「その根拠は?」
「二人の性格とか、占いもほどほどに良いんだって。」
「なんだ、すごく相性ピッタシとかじゃないのか。」
「良過ぎるのって結構だめらしいわよ。」
「ふ~ん。」
「ねえ、静さんはどうなの?」
「どうって?」
「好きな人とかさ。」
「えっと…。」
「そうか、うふふ、いるんだ、って意外と分かり易い人なのね。」
「麻里子、静ちゃんをいじめちゃだめよ。」

 はは、奥田麻里子ってほんとに元気で、かわいい…。
 森たちとつるんでるより、うんと楽しい。
 おっ、あっという間に到着か…。

「え~、遠路はるばるお越しくださいまして、まことに有難うございます。」
「へ~、立派な家ね。」
「ただいま~、皆を連れてきたよ~。」
「はいはい、みなさんようこそ、今日はゆっくりしていって下さいね。」
「おじゃましま~す。」

 綺麗で広い部屋、うちとは大違いだ。
 親父さんも一緒なのか…。

「まずは勉強会の流れを説明しておくね。
 最初に今後の数学小テストの流れとポイント。
 中学で学習したことにプラスされて、高校の数学がある訳だけど、中学で学習した筈のところが、先生の説明では中学と微妙に表現が違っていたりして、全く違うことのように感じてる人が少なくないみたいなんだ。
 だから、まずは、そのあたりを説明させて貰うね。
 その後は個別学習、で特に質問とかあったら答えていくけど、今日は親父も同じ部屋で仕事してるから、俺が手一杯だったら親父に聞いてくれても構わないよ。
 親父からは何かある?」
「そうだな、今日は息子の先生ぶりを見せて貰う、ってとこなんだけど、私でも高校一年生の数学なら大丈夫、だから気軽にね。」
「じゃあまずは…。」

 へ~、うちの親父とはずいぶん違うな、やっぱ大学教授ってことか。
 折角だから真面目にやるかな。
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平岩周-03 [F組三国志-02]

 あっ、もう十二時か、集中してたら、あっ、という間だった。
 分かって来ると数学も面白いもんだ。
 なんか入学してからの分を一気にやった気がするけど、省吾も親父さんも教えるのうまいな。
 数学の先生なんて何言ってるのかさっぱり解かんないのに。

「みんなお疲れ、今日の学習時間はここまでだよ。」
「有難う御座いました。」
「お父さまも、有難う御座いました。」
「どういたしまして、でも、さすがだな、省吾。」
「でしょ。」
「どういうことです?」
「中学の時も勉強会をやったことが有ってね。」
「そっか。」
「その時も学校の成績関係なくだったのだけど、さすがにピンキリでさ。」
「今日のメンバーは教え易かったね、みんな優秀だよ。」
「へへ、数学の小テストに苦しめられていたのですけどね。」
「ははは。」
「それにしても、省吾さんもお父さまも教えるのが上手くてすごいです。
 学校の数学の先生なんて…。」
「有難う、まあ、私は教えることのプロだからね。
 省吾にも小さい頃から教える時のポイントとか仕込んできたし。」
「なるほど。」
「さ、じゃあ昼飯にしようぜ。」
「ご飯は何?」
「まあ無難にカレーにしといたけど、どうかな?
 辛いのが良いとか、甘いのがってリクエストがあれば調整出来るからね。」
「私、手伝うわ。」
「私も。」

 あっ、女の子、みんな連れて行っちゃった。
 省吾、独り占めかよ…。

「で、あの美咲って子が省吾の彼女なのかい?」
「あっ、分かりましたか?」
「君たち気を使い過ぎてないか?」
「え? 特には…。」
「省吾が美咲さんに説明してる時だけは、誰も省吾に声を掛けないで、私の所だったろ。」
「はは、勉強に夢中で、他の連中の行動まで見てませんでした。」
「で、どうなんだい?」
「俺は応援してます。
 省吾、省吾くんにはすごく感謝してるのです。
 数学を教えて貰ってるだけではなくて、学校が楽しくなりました。
 そのきっかけをくれたのが美咲だったのです。
 まあ、それを利用して省吾が上手くやったという事なのですけどね。」
「ははは、そうかそうか、哲平くんの話しは省吾からもよく聞くよ。
 さっぱりしたスポーツマンで、一緒にいると安心するって。」
「はは、照れます。」

「は~い、お待たせ~。」
「おっ、うまそうなにおいだ。」
「沢山食べてな。」

「みんなオッケー?」
「あっ、それは静ちゃんの激辛だから危険よ。」
「えっ?」
「こっちが平岩くんの普通の辛口、はいどうぞ。」
「あ、有難う。」
「あっ、スプーンが足りなかった。」
「省吾、私、取ってくるわ。」
「おお、頼む。」
「あのさ、省吾…、ふふ、なんでもないわよ。」
「なんだよ、麻里子。」
「麻里子、隠さなくても、もうお父上にばれてるよ。」
「はは、な~んだ、哲平がばらしちゃったの?」
「え~!」
「いやいや皆さんの様子を見ていたらね。
 省吾、いい友達を持ったな。」
「それは否定しないけど…。」

「はいスプーンないの誰?」
「美咲、お父さまよ。」
「はい、お父さま、どうぞ。」
「美咲、お母さまにはご挨拶したの?」
「えっ?」
「美咲さん、省吾の母です、改めてよろしくね。」
「は、はい、よろしくお願いします、お母さま。」
「母さんまで悪のりしすぎだよ~!」
「で、お式は何時?」
「えっ? お式…? あ~、やっだ~! はずかし~、お父さま、お母さまなんて、ご、ごめんなさい失礼しました。」
「ははは、気付くの遅すぎ。」
「私は構わんがね。」
「私もよ、息子の嫁にはもったいないかしら。」
「ははは。」

 ははは、楽し~、でも、うらやましくもあるな。
 良い友達か。
 俺の友達…。
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平岩周-04 [F組三国志-02]

 カレー、うまかった~。
 秋山も、真面目で綺麗なだけでなくかわいい所あるよな。
 赤澤も冷静沈着な男かと思っていたらあせりまくってた。

「ごちそうさまでした。」
「おいしかったし楽しかった、ははは。」
「はははって、麻里子ったら、もう~。
 静ちゃんは、私の味方よね。」
「もちろんです、それで、お式は何時なのですか?」
「おっと、静さんの口からも!」
「ははは。」
「も~う、開き直ってやる。
 ねえ、省吾、結婚式は何時にする?」
「そうだな、洗い物でもしながら考えるか?」
「うん、じゃあ麻里子と静ちゃんでお茶、お願いね。」
「皿は運ぶから。」
「おっけ~、後は任せといて、省吾。」
「あっ、美咲が開き直った。」
「省吾が冷静になった。」
「でも静さんが冗談言うなんて思ってもみなかったわ。」
「だよな。」
「えっ、私は冗談なんて言ってませんよ。」
「まじだったんだ~。」

 ほんとにあの二人、結婚までいっちゃいそうな感じだよな。
 まだ、高一だぞ。
 でも、うらやましいか。
 森のパシリやってて、まともな女子との出会いなんて有るのか…?
 おっと午後は遠足のまとめだったな…。
 勉強教えてもらってカレーごちそうになって、ずいぶん楽しませて貰って、こりゃ真面目にやるしかない、と、言っても大した遠足ではなかった。
 まあ高木のことには少し詳しくなったが。
 高校って担任との接点多くないから、そんなネタでも話すかな。
 ゲーセンに行こうとしてたことも…。
 何か今日のメンバーには色々聞いて欲しいと思う。
 色々話したら、俺も仲間に…、なれるのかな…。
 おっと片付けが済んだみたいだ。

「じゃあ遠足のまとめ作業を始めるわね。
 今日は平岩くんも来てくれているから、もう一度基本から確認しておくわよ。
 まず、午前中のお気楽企画だけど、楽しいクラスにしたいという私の願いを省吾が叶えてくれたと思っています。
 ちょっとしたアイディアだけど、動物園の中で他のグループとの出会いが有るなんて新鮮で楽しかったもの。
 アンケートでもみんな高く評価してくれて、さすが私の省吾ってとこね。」

 あっ、秋山さん完全に開き直ってる。
 誰も突っ込めなくなってるし…。
 そうか、俺たちが参加しなかった企画は…、俺たちが勝手に仲間はずれになってたってことか…。

「平岩くん、高一、その五月の遠足で、こういった企画をすることの意義を、後輩たちにも伝えたい。
 ならば、きちんとした記録として残しておこうってことになったの。
 で声をかけて手伝って貰うことになったのが、静ちゃんと麻里子でね。」
「なんとなく分かったよ。」
「でも、全員が参加した訳でもないから、そのあたりを平岩くんに教えて欲しくてさ。」
「うん、俺もみんなに色々話したいと思う。」
「じゃあよろしくね。
 それと、お真面目企画『発見、気付いたこと』の方も、自由参加だったのにもかかわらず、沢山の発見が寄せられています。
 今からは、まず、ここまで各自が進めて来た作業の確認から。
 あっ、平岩くん何?」
「秋山さん、俺、自分の考え、やっぱり自分で書くよ。
 出来ればパソコンとか使わせて貰えると助かるのだけどどうかな?」
「その方が全体の作業がはかどるわね、省吾、どう?」
「じゃあパソコンは俺のノート使ってよ、で、文章の編集とかは麻里子の担当だから、ある程度書けたら彼女に見せてくれるかな。」
「うん、分かった。」
「じゃあ始めよっか。」

 作文ってあんまし得意じゃないけど、みんなの足を引っ張らないようにしなきゃな。
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平岩周-05 [F組三国志-02]

 う~ん、あまりうまい文とは思えないけど何とか書けた。
 え~っと奥田に見て貰えば良いんだよな…。

「奥田さん、一応書けたけど、どうかな?」
「う~ん、どれどれ…。」
「まあこれだけ書けてれば良いわよ。
 後は、私の方で手を加えるから、それを確認してね。」
「うん、じゃあ後は、俺に手伝えることとか有るのかな?」
「そうね…、作業のメインは私が文章の整理編集、静さんが絵とDTP作業って感じで、もう大分進んでいるから…。」
「大変そうだな。」
「はは、私は将来編集の仕事とかやりたいと思ってるし、静さんもDTP作業とか好きって言ってたからね。」
「ふ~ん、それにしてもみんな手際良さそう、一緒に作業することに慣れているんだね。」
「みんなで作業するのは今日が初めてよ。」
「えっ?」
「みんなの頭の中には完成したものが大体出来てるの。
 それに向けて、各自それぞれの分担をきちんとこなしてるってとこね。」
「へ~。」
「今日の作業予定分はもうすぐ終わると思うわ。
 後は、残りの文を私が整理して、静さんに渡せば数日で形になる。
 それをみんなで見直して完成。」
「なんかなあ~。」
「どうしたの?」
「俺なんか、高校へ入ってから惰性でさ、特にやりたいこともなくて。」
「ふふ、今からでもぜんぜん遅くないと思うわよ。」
「うん。」
「省吾たちも終わったみたいね。」

「麻里子、そっちはどう? 区切りついた?」
「ええ、哲平たちは?」
「今日の予定分は済んだってさ。」
「じゃあ片付けるわね。」
「ああ、簡単で良いよ、どこへ戻せば良いか分からないのも多いだろ。」
「ごめんね、皆で押しかけて。」
「気にしなくて良いよ、美咲はお茶の用意に行ってるから。」
「了解、手伝いに行くわ。」
「なんか、息が合ってるね。」
「はは、出来たばかりのチームだけど、一緒にいて楽しいもの。」

 なんか自分がすごく子どもに思えてきた。
 同い年なのに全然違う。
 彼女達は充実した時間を過ごしているのだろう。
 高校に合格する為、結構頑張って来たのに、今の俺って…。

「みんなお疲れ様。」
「結構順調に進んでるわね。」
「うん、麻里子と静さんのおかげだ、有難うね。」
「どういたしまして。
 でも、私はともかく静さんのテクニックはすごいわよね。」
「ああ、俺も理屈では分かってるつもりだけど全体のバランスとかね。
 絵と文のバランスが良いよな、さすがだね静さん。」
「あらっ、全体の配置は哲平さんにおまかせしてますけど。」
「えっ、哲平ってそういう感性を持ってたの。」
「はは、ラグビーボールを追っかけるだげの男じゃないぜ。」
「人は見かけによらないなぁ~。」
「ははは。」
「なあ省吾、そろそろ次の企画のこと話して良いんじゃないか。」
「そうだな、麻里子にも頼みたいことあるし。」
「えっ?」

 遠足で忙しかったろうに、もう次の企画か。
 すごいな…。
 俺も少しは…、真面目にやってみようかな…。
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