SSブログ
F組三国志-03 ブログトップ
前の10件 | -

星屋和彦-01 [F組三国志-03]

 奥田さんと話す切っ掛けにもなり、小テスト団体戦は楽しかった。
 奥田さんは男子に負けてないけど可愛いという、漫画やアニメの世界にしかいないと思っていたキャラ。
 男前だけど可愛い女の子、彼女の様なリアル女子は中学にいなかった。
 岡崎をいじったりする感じが、アニメの一場面をリアルで見てる様な雰囲気で目が離せない。
 企画がなければ話し掛ける事すら出来なかった存在だが、自分の描いた設定にも戸惑いながら乗ってくれ、その辺りの微妙な感じがまた可愛くて理想の姉御だ。
 ネットでやるゲームも面白いが、リアルにカッコ良い姉御のチームで、弱そうな岡崎たちのレベルを上げてゲームに勝利というのは新鮮だった。
 まあ、あいつらは予想通り、サボってただけで力が無い訳では無かったし、奥田さんが気合を入れてくれたのがカッコ良くて。
 秋山さんの話だと、これからも続きそうだから、もっと楽しくして行きたいものだ。

 となると、姉御だけでなく…。
 まずは赤澤くんだな、姉御は彼のことを尊敬しているみたい、まあ、同学年とは思えないレベルだから。
 姉御という存在に対して赤澤くんは…、親分では、ちょっと、いや全く違う、う~ん、秋山さんの立場も考えないと…。
 秋山さんは、学年でも一二を争う美少女で、お姫さまってイメージだけど、赤澤くんとのからみだと、奥方さまか。
 う~ん、F組三国志だとしたら赤澤くんは皇帝か?
 でもそれだと自分のような下々の者は近寄れなくなるし、そもそも国に所属していないのだから根本的に違う。
 三国志で行くなら、彼はアイデアマンだから諸葛 亮 孔明しかない。
 なら、先生とか、お師匠さま、うん、こっちの方がしっくりくる。
 秋山さんは、やっぱ奥方さまかな…。
 待てよ、チームを国と考えると…。

「ねえ…、星屋くん、何ぶつぶつ言ってんの?」
「あっ、岡崎か、ちょっと考え事。
 そうそう、お前さ、奥田さんのことボスって呼んでるけど、やっぱ奥田さんは姉御の方がしっくりこないか。」
「そうかな?」
「それから、赤澤さんはお師匠さま、秋山さんは奥方さまでさ。」
「はは、何考えてんの?」
「自分なりに、もっとテスト団体戦を盛り上げたくなってね。
 ほら、奥田さんとか、麻里子さんとか呼んでるより、姉御って呼んだ方が、あっしは、姉御に一生ついていきやんす、って感じになるじゃないか。」
「それってちょっと違うっていうか、何か変じゃない?」
「でも、奥田さんはこの前、乗ってくれたぞ。」
「仕方なく、だったりして。」
「いや、俺の姉御はそんなお人じゃねえ。」
「おいおい。」
「でさ、クラスの席とかも、チームが集まるようにしたら面白いと思うんだ。」
「席替えか?」
「ああ。」
「う~ん、そっちは秋山さんに提案したら通るかもね、ほら、あそこにいるよ。」
「そ、そうか、よ~し奥方さまに提案してみるぞ。」

 このクラスは中学までのクラスとは全然違い楽しいクラスになりそう。
 お師匠さまや奥方さまが色々考えて動いてくれ、姉御も自分の世界観を受け入れてくれた。
 このままF組三国志を、もっと盛り上げたいと思う。
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

星屋和彦-02 [F組三国志-03]

「奥方さま。」
「はっ、はい?」
「私くしめは麻里子さま配下の星屋でございます。」
「は、はい。」
「この度、一つの提案がございまして。」
「はあ、真面目な提案なら歓迎よ。」
「ありがたき幸せです。」
「どんな提案なの?」
「クラスの席のことでござります。」
「はい。」
「現在はチームのメンバーがばらばらに座っておりますが、この戦乱の世、いささか不自然ではないかと。」
「う~んと…、席替えってことね。」
「左様でござりまする。」
「席替えか…。」
「如何でござりましょう?」
「考えてみる価値はありそうね、省吾たちと相談してみるわ。」
「かたじけのう存じます。」
「ふふ、星屋くんも色々考えてくれてるんだ、有難うね。」
「えっ、そのようなお言葉、もったいのうございます。」
「あっ、省吾たち集まってだべってる。
 えっと、まだ時間は有るわね。
 星屋くん、一緒に行きましょ。」
「は、はい。」

「ね~、席替えしない?」
「美咲、いきなりだね。」
「なんかあったの?」
「星屋くんからの提案でね、テスト団体戦のチームが固まって座るようにしたらってことなのだけど、省吾、どうかな?」
「う~ん、考えてなかったな…、うん、面白いかも、チームの団結とか強まりそうだ。
 問題は企画に参加してない人たちかな。」
「参加してないのは、後三人だったよな、何とかなるというか俺から話しても良いよ。」
「哲平も乗ってくれるのね。」
「ああ、でも、どんな感じで席替えするんだ、くじじゃないのだろ?」
「なあ、みんな、席替えイコールくじってどう思う?」
「席替えのドキドキ感は楽しかったなぁ~。」
「うん麻里子の気持ちは分かる、でもさ、俺らのレベルだったら、数学苦手で英語が得意な子と英語苦手で数学が得意な子が隣り合わせとかさ。」
「あっ、そうか、逆に趣味が同じで仲が良すぎる子は、離れた方が良かったりするのかも。」
「人それぞれだから簡単にはいかないかも知れないけど…、待って、クラスの席ってさ、固定じゃなくても良いんじゃない?
 グループ内で相談してみんながより集中出来るように調整したりとかさ。」
「寝てたい奴はみんなのじゃまになんない様にとかかな。」
「はは、今のF組でなら実験的に色々試せる気がするね。」
「やってみるか?」
「賛成~。」
「じゃあ、私は授業後にでも、先生と相談してみる。」
「チームリーダーの俺はメンバーに提案ってことかな、美咲さん。」
「ええ、お願いね、正信くん。」
「えっと、今、どのチームにも入ってないのは…、森の他は誰?」
「梶田梨乃さんと、三浦武敏くんよ、哲平さん。」
「了解、静さん。」
「ははみんなやる気満々ってとこね、じゃあうちらも相談するか、星屋。」
「へい、姉御、がってんでい。」

 やっぱり、F組のリーダーたちはすごい。
 秋山さんの一言でみんなが意見を出し合って、すぐ方向性を…、F組でなら実験的に色々試せるなんて、さすがお師匠さまだ。
 自分は…。
nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

星屋和彦-03 [F組三国志-03]

「省吾、机の配置も変えるってことか?」

 放課後、席替えが自分の思いつきとは違った次元で進行してる。
 お師匠さまと哲平さんに呼ばれて話を聞いているが、やっぱ、お師匠さまはすごい。
 チームごとの席、って自分ではすごく斬新なことと思って提案したのに、お師匠さまのお考えはそんなレベルではない。

「うん、哲平、星屋からの提案を俺なりに検討してみたんだ。」
「ああ。」
「四角い教室に四十人の生徒を効率良くと考えたら、確かに今までの、小学生の頃から変わらない机の配置が良いのかもしれないけど、今のF組だったら机の配置を変えることによって違った効果が期待できると思うんだ。」
「違った効果?」
「そうだな、先生に対して左右が前に出て、席の間の通路もなくす、教室の前の方の密度を高める訳だ。」
「そうすると?」
「前提は、前の方に座るみんなが授業に真面目に取り組む気持ちを持っていることだけどね。
 授業中、自分の視野に入る人たちが真剣に授業を受けていたら、自分もって気にならないかな?
 逆に言えば、寝てる奴とかの姿が目に入ったら、心理的にマイナスになると思うんだ。」
「う~ん、確かにそうかも。」
「で、美咲が言ってたみたいに、授業によって席を移動しても良いと思う。
 それぞれ、集中したい科目とかあるだろうし、時には教室の後ろの方で、のんびりしたいだろうからね。」
「そうだな…、ねえ、星屋はどう思う?」
「えっ、えっと…。」

 哲平さんにいきなり話を振られてしまった。
 が…、正直言って、彼と、彼らと話すのは苦手だ。
 人気者の哲平さんや、お師匠さまたちと親しくなれたら良いとは思うのだけど、そう思うと、どうしても緊張してしまう。
 自分なんかと話しても彼らは楽しくないだろうし…。

「星屋は前か後ろ、どちらが良い?」
「えっと、お師匠さま、前が良いです。」
「はは、師匠と呼んでるのは俺だけじゃないんだ、それにしても、お師匠さまとはね。」
「そ、尊敬していますので、て、哲平さんもですけど…。」
「はは、有難うな、でも、同い年なんだからもっと気楽にしなよ。」
「はい…。」
「なあ、姉御とは、どうなんだ?」
「はい、少しずつ雑用で使って頂けるようになりました。」
「お前は、麻里子のパシリで良いのか?」
「いえ、パシリという感じではなくチームの用とか…。」
「それにしても子分ってことだろ。」
「それでも嬉しいので…、自分、中学の頃は…、みんなから無視されるか、オタクってバカにされるか…。」
「そっか…、でも麻里子と親分子分じゃ、師匠と美咲のようにはなれないぞ。」
「そんな大それたことは考えていません、普通に話せませんし…。」
「まあ、星屋が良いっていうのなら構わないが…、そうだ、省吾はお師匠さまとして、他の連中の呼び方は?」
「まだ、考え中で…、秋山さんは奥方さまかなって程度です。」
「なあ省吾、みんなにニックネームってどうだ?」
「うん、面白いかも。」
「俺は麻里子のこと、姉御なんて呼べないけどな。」
「はは、麻里子的には、編集長とか呼ばれた方が嬉しいのじゃないか。」
「そっか、色んな呼び方があって良いわけだ。」
「哲平は親分、親方、大将、ボス…、ってとこか?」
「ひねりがないな…、星屋、どう?」
「哲平さんは入学した頃から、哲平って呼んでくれよ、って…、えっと、優しい感じなら哲平兄さん…。」
「う~ん、女子からそう呼ばれたら、少し嬉しいかも…、なあ星屋、俺のことは、哲平さんじゃなくて、哲平って呼んでくれないか?」
「でも…。」
「そうだな、星屋が哲平の前で緊張してしまうのは分かる気がする。
 俺だって美咲の前ではかなり緊張したからな。」
「それがあっという間にね…、ホントに緊張したのか?」
「初めてのデートの時なんて心臓が爆発寸前だった。
 あんな知的な美人と、何話したら良いか分からなかったけど、とにかく仲良くなりたかったからね。
 嫌われたり、自分のことダメな奴って思われたらどうしようって思ってた。」
「省吾って意外と普通だよな。」
「意外じゃないよ、俺は普通さ、哲平みたく女の子にもてるわけでもないしさ。
 星屋も、哲平とどう接したら良いか分からないから、哲平さんって呼んでるのだろ。
 でも、麻里子がね、星屋はクラスのことを考えてくれる仲間だって言ってたよ。
 つまり、星屋も俺たちの仲間ってことさ。」
「えっ…。」
「仲間なのだから気軽に話してくれよな。」
「は、はい…。」
「おっ、省吾の奥方さまは用が済んだみたいだぞ。」
「御免、星屋、この後美咲と約束が有ってね、また話そうな。」
「はい…。」

 えっ、仲間? 
 お師匠さまや哲平さんと?
 姉御が自分を認めてくれた?
 なんか、ドキドキする…。
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

星屋和彦-04 [F組三国志-03]

「星屋。」
「あっ、はい、お師匠さま、何でしょう?」
「今日授業後予定ある?」
「えっと…。」

 予定…、あると言えばある。
 本屋へ行って、今日発売の雑誌を買って、それから今度発売されるゲームソフトの予約、レンタルショップでDVDを借りて…。
 でも、今日じゃなくても良いことばかりだ。

「特には無いですが。」
「じゃあ、スガキヤでラーメンでも食ってかない、おごるからさ。」
「えっ、そ、そんな…、悪いです。」
「なんだ、星屋は俺たちの仲間になりたくないの?」
「ま、まさか…、なりたいです…。」
「だったら、遠慮しないでおごられちゃえよ。
 仲間になる、お近づきの印ってとこだからさ。」
「はあ…。」
「変に遠慮してたら仲間にはなれないからね。」
「は、はい。」
「昨日話せなかったことが有るんだ。」
「はい。」
「ただ、時間は美咲の都合になっちゃうけど良い?」
「も、もちろんです。」
「委員長さまは結構お忙しいみたいでね、じゃ、授業後な。」
「はい。」

 仲間か…、昨日お師匠さまから言われるまで、あまり考えたことなかった。
 元気良く外で遊ぶ子ではなかったから、友達と呼べる子も少なかったし…。
 中学のクラスメートには多少いじめられもしてたから、自分の世界に独りでいる方が気楽。
 仲間か…、姉御とも仲間になれるのかな…。
 姉御は少し気が強そうだけど可愛い。
 ちょっとどきどきしながら姉御って呼んで話しかけたら、ちゃんと応えてくれた。
 仲間か…。
 お師匠さまとも…。

 キンコンカンコ~ン♪  キンコンカンコ~ン♪

 授業が終わって、近くのショッピングモールへ向かう。

「お師匠さま、秋山さんのことですが。」
「なに?」
「美咲さまとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「美咲さまか…、ああ、悪くないかな、でも麻里子みたいには応えられないかも。」
「それでもいいんです。」
「イメージとしてはどんな感じで?」
「お師匠さまの奥方さまで、自分はお師匠さまの門下生。」
「なるほどな…、ふふ、そうだ、その路線でやってみよう、美咲にも話しておくよ。」
「はい。」

 スガキヤについた。
 安くてうまい…。

「星屋は何にする?」
「ラーメンで。」
「じゃあ特製ラーメンでいい?」
「えっ、普通のラーメンで…。」
「遠慮するなよ。」
「では…。」

「ねえ、俺の門下生と、姉御の子分とは同じ人物なの?」
「同じでは無理がありそうです。」
「じゃあ、麻里子は星屋って呼んでるから、俺たちは和彦って呼べば良いかな?」
「は、はい…。」
「じゃあ和彦、まずは報告だ。」
「はい、お師匠さま。」
「この前のテスト団体戦、合計点を見ると僅差だったよな。」
「一点差でしたからね。」
「でね、二回目以降は採点方法を複雑にしようと思って、ちょっと違う計算をしてみたんだ。
 前回の得点と比較する形でね。
 そしたらチーム麻里子はダントツの一位になったんだよ。」
「どういうことです?」
「単純に、一回前のテスト結果をチームに当てはめて計算してみたら、チーム麻里子は他の二チームと比べてめちゃ点の低い最下位だったのさ。」
「ということは?」
「得点アップ率を考えたら、チーム麻里子はすごくがんばったと言えるだろうな。
 まだ案の段階なんだけど、二回目以降の小テスト団体戦は単純にテストの平均点で競うだけでなく、
満点だった人には二ポイント、第一回より点数を一点上げた人は一ポイント、二点上げた人には二ポイント、三点上げた人は三ポイント、だから第一回より三点上げて満点だったら五ポイント獲得。
 変わらなかった人はゼロポイント、点数を一点下げた人はマイナス一ポイント、点数を二点下げた人はマイナス二ポイントとし、チームごとの平均を出して、その結果でも競ったらと思ってね。
 平均点では二位でもポイントでは一位ということも有るだろう。
 そうすると、同じ得点でも、第一回より点を上げた人はチームに貢献したことになるし、点を下げた人はチームの足を引っ張ったということになって参加者の緊張感が増すと思うんだ。」
「なるほど、九点十点が取れない人でもチームに貢献出来るということですね。」
「うん、こんな話しをみんなとしていた時に、チーム麻里子の得点アップはどうして? ってことになってさ。
 そしたら、麻里子がね、岡崎、平岩、田中といったやっかいそうな連中を星屋が面倒みてくれたことが大きかったって。」
「えっ、姉御が…。」
「ああ、人は見かけによらないとも言ってたけどね。」

 はっきり言って人から認めてもらえることなんて…。
 自分のことを認めてくれてたんだ、姉御が。
 姉御…、一生ついていきます…。
nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

星屋和彦-05 [F組三国志-03]

「それでさ、和彦に提案というか相談があるのだけど。」
「和彦って呼ばれなれてないからなんか照れくさいです。
 でも…、もっとお師匠さまが門下生にって感じで話して下されば…。」
「う~ん、まあそこらへんは今後使い分けていくよ。
 ねえ和彦は今まで、リーダー論とかって考えたことある?」
「えっ、全然ないです、自分はリーダータイプではないですから。」
「俺はよく考えてるんだ。
 親父は教育の観点からよく話してくれるし、おじさんたちが遊びに来るとそんな話題で盛り上がるからね。」
「さすが…、家庭環境が自分とはずいぶん違います。」
「はは、そんな中でね、一人の叔父さんがいつも話すのは、教育の過程で集団やリーダーのことをきちんと学ぶ場が足りないってことでね。」
「集団やリーダーのことを学ぶ?」
「うん、数学や英語と同じように、きちんと学校で教えるべき、否、考える時間を作るべきなんだって。
 学校では、部活を通してとかクラスの運営を通してとか、せいぜい道徳の時間ぐらいでしか扱っていないけど、人間が社会の中で生きて行く時に、とても大切なことだろ。
 俺たちは社会の中で色々な集団に属しているけど、それぞれの集団との関わり方は様々だよね。
 個々の集団の目的にもよるし。
 でも、そんな中で、それらの集団とどう向き合って行くのか、その集団に於けるリーダーの役割なんてことをメンバー一人一人が考えて、その集団をより良いものにしようとしたら、その集団の目指してる成果に良い影響を与えると思うんだ。」
「はい、何となく…。」
「身近な例を挙げるとさ。
 チーム麻里子という集団を考えた時、チーム麻里子はテスト団体戦での勝利を目標とした。
 リーダーの麻里子はチームのみんなに明確な目標を提示し、檄をとばしたからね。
 それに対して、主に和彦、黒川、舘内さんの三人が動いた。
 この三人は集団の中で、教える立場になるのは自分だと判断し、それを実行した。
 そして岡崎たちは引っ張ってもらってでも高得点を取ることが、この集団の中での自分の役割だと認識してそれを実行。
 トップで引っ張った麻里子、それを支えた三人のサブリーダー、そして自ら頑張ったメンバーたち、この三者がうまくかみ合ったからこそ、チーム麻里子というチームは成果を出せた。
 そう、トップリーダーの麻里子だけの力じゃないってことだよ。」
「確かにそうです、田中や岡崎、平岩にも、なんとかしようって気持ちがあったから…、彼らは頭が悪い訳ではないですし。」
「でも、問題はこれから。
 今の状態を維持出来るのか、さらに上を目指せるのか、それとも後は下降線になるのか。」
「そうですね、高校受験が終わって気の抜けてた人たちが、今回のテスト団体戦で気合を入れ直したってとこです、でもそれを続けていくのは難しいかもしれません。」
「そこで、集団やリーダーということを考えてみて欲しいと思ったんだ。
 もちろん、チーム麻里子のことだけではなくね。」
「はい。」
「リーダー論って言うと、麻里子みたいな立場の人の話しだと思う人が多いけど、それだけじゃない。
 リーダーの補佐をしながらリーダーを育てるという考え方だってあるし、リーダーを生かす部下という考え方だってある。」
「あっ、リーダー論というのは単純にリーダーだけの話ではないのですね。」
「うん、組織論でも有る。
 F組という集団の中で、和彦の位置や役割をどうして行くか、というテーマはどうかな?」
「全く考えたことなかったですが…、お師匠さまの気持ちは分かります…。
 えっと…、考えてみます。」

 お師匠さまは、自分に足りてない部分について考える様にアドバイスして下さったのだと思う。
 F組という集団に対して、お師匠さま達と自分とでは関わり合い方が全く違う。
 それでも、小テストの企画を通して少しだけ…。
 えっと、集団の一員として前向きに動いたと認めて貰えた。
 こんな自分でも仲間だと…。
 自分の役割…。
 中学時代とは違う自分にならないと姉御やお師匠さまをがっかりさせる事になるだろう…。
 変われるのかな…。
nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

星屋和彦-06 [F組三国志-03]

 お師匠さまに言われてから沢山考えた。
 完全に答えが出た訳では無いけど、席が変わるのを機に新たな気持ちで色々なことに取り組みたいと思う。
 席替え。
 昨日のうちに並べ替えられた机の配置は、鶴翼の陣と呼ぶことに。
 机の配置を大きく変えるというF組からの要望があっさり認められ、生徒の自主性を重んじるという校風を改めて実感出来た。
 かなり攻撃的な布陣だが、授業は先生との戦いとなるのだろうか。
 チーム麻里子は第一回テスト団体戦の勝者ということで中央に陣取る。
 黒板に向かって左はチーム哲平、右はチーム正信。
 どちらも通常の席より前に出て、教卓を囲む形。
 自分はチーム最前列の右端に陣取るから右にはチーム正信の誰かが座ることになる…。

「あ~、隣は星屋くんなんだ~、よろしくね。」
「う、うん、こちらこそよろしく、清水さん。」
「なんか席の配置が変わって、ドキドキじゃない?」
「そ、そうだね。」

 少しじゃない、かなりドキドキだ。
 清水さんとは遠足の時にも話した。
 かなり普通に。
 今も普通に話しかけてくれる。
 中学の頃、自分に話しかけてくれる女の子はいなかった…。

「ふふ、私は省吾さん達の娘になったからね。」
「えっ?」
「お師匠さまの娘だから、星屋くんは、ちさとお嬢さまって呼んでね。」
「ど、どういうこと?」
「あら、まだお父さまから、お話し聞いていらっしゃらなかったのね。
 お母さまのことを美咲さまと呼ぶ、門下生の和彦さん。
 私は十三歳のおてんば娘って役どころ、和彦さんにもご迷惑をおかけするってとこかしら。」
「そうなんだ、面白くなるのかな…。」
「面白くするの、多少の演技指導は演劇部期待のホープ、ちさとお嬢さまがしてあげますからね。」
「そうか、演劇部だったのか。」
「うちのお父さまって、面白いこと考えるのよ。
 普段、気が向いたら、みんなで役になっておしゃべりして、形が出来そうだったら、脚本作って文化祭のネタにしても良いかなって。」
「あっ、そう言えば、一昨日お話した時、その路線でやってみよう、なんておっしゃってた。」
「脚本家の候補は外山留美、彼女も演劇部なの、で、お父さまの古くからのお友達の娘さん、十七歳ぐらいって設定よ。」
「お師匠さま、いつの間に…。
 あっ、お嬢さま、自分は何歳ですか?」
「ふふ、和彦さんは自分の歳を人に訊くのね。
 そうね、十六~十九ぐらいの間で自分で決めて良いわよ。
 性格は、内気なんだけど、もっと積極的になろうって悪戦苦闘してるって感じ、時に空回りしながらもね。
 そんな和彦さんを私のお父さまとお母さまが暖かく見守っているの。」
「そ、そうか…。
 ちさとお嬢さま、自分は嬉しいです、お師匠さまの心遣いが身に沁みています。
 これから、よろしくお願いします。」
「ふふ、しっかりしてね、私の兄貴的存在なんだから、がんばんないと、おてんば娘に引っ張りまわされるわよ。」
「はい、お嬢さま。」
「じゃあ、ここでスイッチ切って。」
「え?」
「私もずっとお嬢さまをやってる訳じゃないの、演技としての、ちさとお嬢さまと、星屋くんのクラスメート、普段の私、清水ちさととは別なのよ。」
「そっか、了解…、えっと、ちさとさん…。」
「ふふ、普段の星屋くんはどんな人なの?」
「えっと…、内気だけど、もっと積極的になろうって、時には空回りしてしまうかも知れないけど…。」
「それを省吾さんと美咲さんが暖かく見守っているって、ははは。」
「ほんとに空回りしちゃうかもだけど、今は頑張ろうって思ってるんだ。」
「おっけいおっけい、清水ちさとは星屋くんの味方だからね。」
「ありがとう。」

 自信はない、ないけど…、演じるか…。
 お師匠さまは、姉御の子分を演じてた自分のことを考えてくれたのだろう。
 ほんとにがんばってみよう。
 仲間も…、味方もいるんだ。
nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

清水ちさと-01 [F組三国志-03]

「ちさと、午前の授業どうだった?」
「まあまあってとこね、席が変わって新鮮だったから授業に集中できたかしら。
 そうそう、ちょっとした発見があったわ。」
「なに?」
「隣の星屋くんがさ。」
「あのオタクっぽくて頼りなさそうな人?」
「はは、美香もそう思ってたのね、それが結構頼れる人だったのよ。」
「そうなの?」
「うん、授業でちょっと分かんなかったとこ訊いたら、分かり易く教えてくれてね。
 テスト団体戦が始まってから、チームのメンバーに教えるようになり、自然と教えることを意識しながら学習するようになったんだって。」
「へ~、ということは頭良いんだ、彼。」
「と、思うわ。」
「人は見かけによらないものなのか~。」

 ほんとに見かけによらない、と言うよりきちんと接しないと彼の良さとか分かんないってことだろうな。
 ふふ、ちさとは味方だよ、星屋くん。

「ちさと、午後の数一って教育実習の先生なのよね。」
「あっ、そうだった、省吾さんの予習プリント…、じゃなかった、お父さまの予習プリントを…。」
「えっ? お父さま?」
「うん、省吾さんは私のお父さまってことになったの。」
「どういうこと?」
「私が演劇部に入ったのは色々な役を演じてみたかったからなのだけどね、今は道具を作ったり基礎練習ばかりで、役を演じるなんて全然だめ、って話したことがあってね。
 省吾さんは、それを覚えていてくれて、文化祭のネタになるかどうかは微妙だけど、ちょっと遊んでみないかって。」
「お遊び?」
「うん、最初はそう思ってた。
 でもね、今日気付いたのだけど、私のお父さまは色々企んでたの。
 和彦さんとかが絡んでくるのだけど…、あっ和彦さんって、星屋くんのことよ。
 そのことに和彦さんも気付いて、すごく嬉しそうだった。」
「う~ん、よく分かんないわ。」
「ふふ、しばらくすれば分かると思うから、ちょっと待ってて。
 で…、美香の役はね、十三歳のおてんば娘の友達…、はは、やっぱ近所の嫌なおばさんかな~。」
「なによ、それ!」
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

清水ちさと-02 [F組三国志-03]

 さてと、数学の授業が始まるから、頭のスイッチを切り替えなきゃね。
 清水ちさとは数学の得意な女の子、予習もきちんと済ませてある、数学の授業は大好きで…。
 う~ん…、まだ役になりきれてないかな…。
 ふふ、自己暗示、数学の得意な女の子になりきれたら、ほんとに数学が得意になるかもって。
 省吾さんのアドバイスは、なんか不思議。
 演技の練習しながら学習への集中度を高めるなんて、考えもしなかったわ。
 さ~、大好きな授業の始めは、やっぱ先生の自己紹介なんだろうな、教育実習生だから。

「えっと、みなさんこんにちは。
 教育実習でお世話になります、こ、小山勇です。
 私はこの高校の卒業生で…。」

 うわ~、先生、緊張してる~。
 そりゃそうか、慣れてるわけじゃないし、この席の配置じゃプレッシャーも大きいわね。
 公民の先生も、いつもと違って緊張してたみたいだったもんな。
 私があそこに立つとしたら…、やっぱ何事にも動じないベテラン教師。
 これくらいの舞台がこなせなかったら、大舞台なんて無理でしょ。
 でも、舞台は観客との距離が離れているから、どうなのかしら?
 今日部活の先輩に訊いてみようかな。
 おっと、数学、数学。
 でも、このあたりは教科書と省吾さんのプリントで理解済みなのよね。
 こんな時、先生の話しは適当に聞き流して、練習問題を解いてみたり、先の内容の予習をしたりしても良いって省吾さんは言ってたけど…。
 あれっ?
 あの数式おかしくないかな?
 おっ、みんなもざわついてる。

「先生、その数式違ってませんか?
 エックスが抜けてるのか、えっと…。」
「あっ、ご、ごめんごめん、君の言う通りエックスが抜けてたよ。」

 うわ~、先生、ミスして、さらにガチガチじゃん。
 手も震えてるし…。

「先生、俺代わりに書いたげるよ。」
「おっ、林、かっこいいぞ~。」
「はは、まかせとけ。」

 はは、林くんたら、調子に乗って。

「さあ書けた、はい、この例題解ける人。」
「林~、先生の仕事取っちゃだめだぞ~。」
「ははは。」
「解けない人を聞いた方が早いんじゃないのか。」
「うん、そうかもな、まあ面倒だから俺が解いておくよ。」
「あっ、ずっる~い。」
「そんな簡単な問題解いたっていばれんぞ。」
「ははは。」
「さあ、解けた、ついでに解説もしようか?」
「必要な~し!」
「じゃあ、続けて、次の問題。」
「ちょっと待て、徹。」
「あっ、淳一、質問か?」
「な、訳ないだろ。
 昨日予習していてちょっと面白い問題見つけたんだ、次は俺にやらせろ。」
「え~。」
「林、替われ~。」
「替わってやれよ。」
「ち、仕方ないな、淳一、つまんない問題だったら許さないぞ。」
「はは、ちょっとひねりが入るから徹に解けるかな。」
「お~、バトルだ~。」
「林、解けなかったらチームの恥だと思えよ。」
「それより、みんながあっさり解いたら、チーム麻里子のポイントダウンだよな。」

 はは、みんな小山先生そっちのけで勝手に盛り上がってる。
 でも、一応、数学やってるのよね。
 え~と、あっ、応用ってことか、これは…。

「あっ、解った。」
「えっ、まじ。」
「ちさと、早すぎ。」
「あっ、そうか、俺も解けたぞ、お~い林、まだ解んないの~?」
「え~、解んね~。」
「はは、じゃあ、清水さんに解いて貰って、解説は小山先生にお願いするかな。」

 ふふ、黒川くんは小山先生に授業をお返しするつもりだったのね。
 さ~て、たぶん間違ってないと思うぞ~。
 なんたって数学は得意だから。
 うそだけど。

「先生、どうでしょう?」
「うん、いいよ、林徹くん、黒川淳一くん、そして清水ちさとさんありがとう。
 じゃあこの問題のポイントを確認してみようか。」

 小山先生、少し落ち着いたみたい。
 はは、先生の話しは適当に聞き流そうかと思ってたけど、暖かく見守ってあげなきゃだめよね。
nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

清水ちさと-03 [F組三国志-03]

 さ、授業も終わったし、今日は…、あらっ?

「小山先生、どうかされました?」
「ああ、確か清水さんだったね。」
「はい。」
「今日の授業は大失敗だったからみんなに謝らなきゃ、と思って。」
「そうなんですか…、え~っと、じゃあ。
 お~い、みんな~、小山先生よ~!」
「声、でかいね。」
「ふふ、演劇部で鍛えてますから。」

「F組のみんな、今日は緊張しすぎてごめんな。」
「はは、仕方ないですよ、鶴翼の陣はかなり攻撃的な陣形ですからね。」
「公民の先生もびびってましたよ~。」
「実は昨日、教育実習の先生にはかなり酷かも、なんて話しをしてたのです。」
「あっ、黒川くんそれで…、有難うな。」
「へへ。」
「C組の授業は普通にやれたので油断もしてた、でも、この席の配置…、そうか、鶴翼の陣なんだ。」
「どうでした? 鶴翼の陣。」
「C組とは雰囲気がずいぶん違っていて…、正直言ってプレッシャーが強過ぎだったよ。」
「でも、俺らのやる気の現れだから先生も許可してくれたのです。」
「すごいね、自分の高一の頃はC組みたいな普通のクラスだったから。」
「まあC組とは…、先生、小テストの平均点の差、ご存知です?」
「ああ、F組は前回の数学小テストでダントツだったと、さっき聞いたよ、前もって聞いていればもう少し心の準備が出来たのに。」
「はは、その前の小テストは、他のクラスと大差なかったのですけどね。」
「えっ、そうなの? じゃあ短期間で大きく差がついた理由は?」
「やっぱ赤澤夫妻のおかげでしょ。」
「えっ、赤澤夫妻?」
「あら、私たち婚約はしてるけど、結婚はまだよ。」
「あ~ん、お母さまったら、それじゃ娘の立場が~。」
「ちさとは美咲の隠し子だったのか?」
「いつの間に?」
「おいおい、そんな話ししてたら小山先生がわかんないだろ。」
「ぼくもわかんない。」
「岡崎は黙ってなって。」
「小山先生、私たちの数学の先生は、実質、赤澤さんなんです。」
「大久保先生には内緒ですけどね。」
「いや、もう大久保先生も気付いてるだろ。」
「大久保先生、自信失ってないのかな~。」
「赤澤さんって?」
「彼です。」
「ども。」
「君がみんなに数学を教えたの?」
「そうですね…、直接教えることもあったけど…、ほんとの先生はクラスのみんなです。
 自分は、少々策略を練っただけで、後はみんなの実力ですよ。」
「お師匠さま、そこまでご謙遜なさらなくとも、みなの実力を引き出したのはお師匠さまのお力ですから。」
「はは、嶋は星屋の真似か?」
「ははは。」
「赤澤くん、もっと話しを聞かせてくれないかな?」
「良いですけど、とりあえずみんなは部活とかあるんで、ここで区切りをつけますね。」
「あ、すまん。」
「じゃあ美咲。」
「うん。
 みんな、明日も鶴翼の陣で行くわよ。」
「おう。」
「それから、一学期期末考査まで日があると思わないでね。
 こっちのチーム戦も、反対意見が出なかったから、配ったプリント通りで行くわよ。」
「うお~、ガチンコ勝負、燃えるぜ。」
「個人賞もあるんだよな。」
「チーム対抗だけど、大きな目標はF組が一年のクラスでダントツ一位になることだからね。
 みんなで結果を出して楽しい夏休みを向かえましょう。」
「美咲は省吾さんとの楽しい夏休みを思い描いていそうね。」
「当たり前でしょ、もうワクワクよ、でもその前に、そのために。」
「あたしゃ彼氏いないけど、しゃ~ないから付き合ったげるよ。」
「ははは。」

 確かに期末考査で結果を出しておけば、というより、結果を出さないとね~、予備校とか進学塾の夏期講習には行かないって、親に宣言したから。
 クラス順位は、みんなもがんばりそうだから難しそうだけど、学年順位で結果を示さないとね。
nice!(7)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

清水ちさと-04 [F組三国志-03]

「お父さま。」
「どうした、ちさと。」
「お父さまは、昨日、小山先生とどの様なお話しをされたのですか?」
「まあ、テスト団体戦のこととかね、とりあえずは次の授業がF組のみんなにとって、より有益になるよう、授業内容のお願いをしておいたよ。」
「さすがお師匠さまです、学問所の見習い先生にもご指導なさるなんて。」
「和彦、指導じゃないよ、簡単に説明させて貰っただけさ。
 で、これが次回の授業に向けたプリント。」
「えっ、先回よりずいぶん多くないですか…、お父さま?」
「小山先生にもこれを渡して、テスト範囲まで一気に済ませて貰おうと考えている。
 密度が高くなるから、ついて行けない人が出てくるかもしれないけど、そこは復習で補う。
 予習に比重を置いていた部分を、復習に回すと考えてくれてもいい。
 とにかくテスト範囲まで早めに済ませて、後に余裕を作るという作戦さ。」
「ということは、予習は軽めでも良いってことですか?」
「うん、でも一度はこのプリントに目を通しておいて欲しいかな。」
「じゃあ省吾、プリントを配る時に、そのあたりの事も話しておいた方が良いわね。」
「ああ、美咲、頼むよ。
 そうだ、和彦、プリントの印刷とか、美咲の手伝いを頼めないかな。
 俺は、別で作っておきたいプリントがあってさ。」
「承知いたしました、お師匠さま。」
「お父さま、私もお手伝いしますわ。」
「おお、ちさと、有難うな。」
「いつも美咲さまにはご迷惑をおかけしてしまって。」
「あら、和彦さん、お父さまとお母さまは楽しんでやってるのよ、ね、お母さま。」
「ふふ、そうね、夫婦で一緒に働くって楽しいことなのよ、和彦。」
「でも、お師匠さま達は何時も忙しそうです。」
「ああ、美咲にはテストが終わったら少しゆっくりしてもらうつもりだよ。
 俺はいつも適当だから。」
「そういえば、お父さまって授業中はあまり目立たないですね。」
「まあ、授業と違うところを学習してることが多いからな。」
「えっ?」
「数学の時間は数学やってるけど、高三の内容だったりする。」
「でも…、お師匠さまが先生に注意されたりしないのは、こっそりやってるからですか?」
「ふふ、先生方も省吾が高一の内に高三までの範囲を終わらせるつもりだってご存知なのよ。」
「ほんとに!?」
「ああ、中二の終わり頃から高校の学習内容に入っていたからね。
 時間の無駄を減らしたかったから、高木先生に相談したんだ。」
「そしたら高木先生が色々動いて下さったそうなの。
 で、最近は、私が職員室へ行くと、なぜかすぐに省吾の話題で盛り上がるのよね~、先生方。
 大学はどこを目指してるとか、将来は理系か文系か、とか…、いつ結婚するのか、なんて…。」
「あら~、お母さまったら、職員室でものろけて来るのですか?」
「う~ん、私はそんなつもりじゃないのだけど。」
「はは、でもね、まだ先生方にも話してない企みがあって微妙に進行中なんだ。」
「えっ? お師匠さま、どんな企みなのです。」
「鶴翼の陣には秘密があってね、実は教室の後ろの方こそが重要なんだ。」
「えっ、後ろの方は寝てたい人のためとか…。」
「昨日誰が座ってた?」
「え~と、哲平さん、麻里子さん、うちのチームの正信くん、お父さまとお母さま、誰も授業中に寝てたいお人じゃないわね。」
「もちろんさ、で、三人のリーダーと美咲は授業中に余裕があると感じたら、自分の苦手なとこの学習に取り組んでいたんだ。
 前の席で先生と向き合う人たちが頑張ってくれてたから、ずいぶん自分の学習がはかどったみたいだよ。」
「え~っと真面目に授業に取り組むための鶴翼の陣だと思ってたけど…。」
「はは、これから、鶴翼の陣は変えていきたいっていうか変わっていくと思っている。
 根本は、授業は何かってことだよ。」
「授業は教えて貰う場ですよね。」
「まあそうだけど、自分から学習に取り組んだら、教えて貰う必要のないことはいくらでもある。
 自分で、教科書や参考書を読めば理解出来るだろ。
 教科書に書いてあること以上の、内容の濃い授業は大いに聞くべきだけどね。
 大きな声じゃあ言えないが、F組のメンバーが聞く価値のない部分が授業中に結構あると思わないかな?」
「そう言われてみると…、がんばろうってモチベーションあげても、いまいち集中できなかった授業は…。」
「無駄でしょ、その時間を自分の苦手克服に当てた方が有効だし、哲平なんて部活でずいぶんな時間を費やしているから、はっきり言って学習時間は貴重なんだ。
 授業時間をより有効に生かすことを、F組のみんなが考え始めたら、鶴翼の陣はその形を変えるということだな。」
「自分は、最前列で岡崎たちへ刺激を与えて、と考えていたのですけど。」
「その必要はもう無いのじゃないかな、彼らも自覚し始めてる。
 それより、後ろへ下がって自分の時間を有効に使い、岡崎たちに教える時のことを考えてた方が効率的かもしれないよ。」
「はい、一度、麻里子さまとも相談してみます。」
「ふふ、姉御じゃなくて、麻里子さまなのね。」
「この世界にいる時は、ってことで、ちゃんと麻里子さまのお許しも得てあります。」
「そうなんだ。」
「でも、お師匠さま、自分が陣の後方へ下がると、ちさとお嬢さまのお世話が出来なくなりますが。」
「ちさと、どうする?」
「私も…、教科によって動いても良い訳だから、はは、和彦さんが近くにいなくても大丈夫よ。」
「はは、和彦はちょっと残念そうだな。」
「は、はい…、ちさとお嬢さまは、自分の大切な味方ですから…。」

 あっ、それって…、私のことを大切に思ってくれてるってこと?
 星屋くん、はっきり言ってくれた。
 ほんとに積極的になろうとしてる現われなのかな…。
nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー
前の10件 | - F組三国志-03 ブログトップ