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はじまり-01 [シトワイヤン-01]

「今の政党には魅力を感じないのよね。」
彼女が唐突に放った言葉は少し意外で、一瞬、彼女に似つかわしくないと思った。
大学入学から間もないサークル見学後の流れ、なんとなく一緒に歩いていた四人、もう一人の見るからに真面目そうな美人ではなく、派手目な美女の発言だったからだ。
「うん、選挙権が有っても、魅力を感じない政党に投票しようとは思わないな。」
すかさず返したのは、この場にいるもう一人の男子、棚橋とはサークル見学で知り合った。
先を越されて、とりあえず美女の発言がどういう脈絡で出たのか必死に考えてみる、美女達を前に俺は少々舞い上がり気味、だが何とかしないと、そう、こんな美女達との偶然を生かせなかったら、これからの大学生活に希望は持てない。
俺が冷静になろうと頑張ってるとこへ、もう一人の美女から。
「そうですよね、選挙へ行きなさい、投票に行かなくてはだめです、と言われても投票したくなる人がいないと、不祥事を起こす様な人でも当選してしまうの現実ですので。」
やはり見かけだけでなく真面目な人だと確認出来たが、この流れだと次は俺の番だ…。
「そうだよね。」
と、とっさに答えたのは話に加わる為、だが、どう考えてもポイントは低い。
「政治に興味が有るの?」
棚橋は、俺をスルーして、落ち着いた印象の美女に問いかけた。
「興味というか…、大学には政治的に極端な考え方をする人がいると聞いています、あなたもその一人ですか?」
あっ、極右や極左か、それにしてもはっきり聞く人だな。
「自分は中道だよ、極端な意見は何も生み出さないと思っている、瀬田くんはどう?」
いきなり振られたが、これには自分も同感だ。
「俺も中道だよ、でも中道の人達は盛り上がりにくいよね、何にでも反対してれば盛り上がるのだろうけど、ほら、対案を出せない様な野党なんて支持出来ないし。」
咄嗟にもっともらしい事を話したが、あっ、野党って盛り上がっていたっけ…、ここで野党を批判して良かったのだろうか…。
「政治って私達の生活に大きく関係する筈なのに、何かしっくり来ないのよね。」
派手目な美女は、何かしら政治に対して不満を抱いている様だから…。
「君はどこに違和感を抱いているの?」
「そうね…、若者の意見が入り込む余地が無いと思わない?」
「う~ん、そういう視点で考えてなかったよ、棚橋くんは?」
「そうだな、自分も…、選挙権から色々考えた事は有ったけど勉強不足だな。」
「あなた方は、そういうテーマに対して正面から向き合える人ですか?」
唐突だが冷静に話すメガネ美人の言葉に対して、俺は反射的に…。
「勿論です。」
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はじまり-02 [シトワイヤン-01]

別に、美女に良い恰好をしたくて、いい加減な気持ちで応えた訳では無い。
兄貴に言わせると大学生には二通りの人種がいる、一つはいい加減で、一つは真面目。
我が兄ながら大胆な分類だが、自分は物事に対して真面目に取り組みたいと思った。
そんな話をしてたから、俺の心に迷いは無かったのだ。
「う~ん、大学生になったんだな~、高校時代は受験勉強に忙しくて、そんな事あまり考える余裕が無かったけど、ねえ柚木さんもそう問いかけたという事は社会問題に対して向き合って行こうと考えているの?」
清楚系美人が柚木さんだと分かった。
「ええ、さっき見学したサークルは少し残念でした、私は知的な人との交流を深め自身を高めて行きたいと考えていまして、勿論、この大学に入学した人ですから皆さん高い学力をお持ちなのでしょうが。」
「そっか、私も政治の様な固い話も出来る人と仲良くなりたかったのよ。」
「それで、政党の話を唐突に出したのか。」
「瀬田くん、唐突ではなかったよ、まあ、俺達は君たちの美しさに緊張気味でね、佐伯さんも許してね。」
あっ、しばらくぼーっとしていたのだと思う、美女二人との出会いは偶然の産物で…。
棚橋は俺よりうんと女子に慣れてるだけでなく、俺達と表現して、さりげに俺をフォローしてくれ、悪い奴ではないと確信、それから超高速で頭を整理しつつ、でもしきれなくて…。
「しょ、正直に話すと、君達の様な美女と今まで話した経験がなくて、緊張感が半端なくてさ…、でも真面目な学生生活を送りたいと思っている、その…、中高と男子校だったんだ…。」
「へ~、瀬田くん、私も緊張する様な美人なの、惚れた?」
「は、はい…。」
「やった~、大学デビュー成功ね。」
「大学デビュー?」
「入試に向け雑念を払う為に高校時代は極力地味に過ごして来たのよ。」
「自分みたいな男でも…、その…、嬉しいの?」
「そうね、瀬田くんがどんな人かによって嬉しさの度合は変わるかな、しょうもない男に惚れられても嬉しくないでしょ。」
「ねえ、佐伯さん。」
「何?」
「佐伯さんが瀬田くんに告白されたという体になってないかな?」
「違うの?」
「瀬田くんは柚木さんと佐伯さんの美しさに圧倒されてたのだよね。」
「う、うん。」
「何か問題が有る?」
「私も問題ないと思う、瀬田くんは私にもドキドキしてくれたのですよね?」
「勿論…。」
「なら、今度は私達をドキドキさせる様な真面目な話をして下さらないかしら。」
「は、はい、頑張ります!」
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はじまり-03 [シトワイヤン-01]

幸運としか言えないが、俺は彼女達と棚橋付きでは有るが仲良くなれた。
時間が合えば四人でお茶をしたり食事をしたり、話題は固いが元々そういう話は嫌いでない。
少し派手目な美女は佐伯愛華、大学入学早々、男子学生達の注目を集めているが、今の所、俺と棚橋以外の男子とはあまり交流していないみたいだ。
棚橋康太はそこそこのイケメン、美女二人が彼目当てで合っても驚かない。
清楚系美女の柚木清香は色恋沙汰に興味がないという振る舞い、遠慮のない発言もするが自然な気遣いをしてくれる。
まだ、出会ったばかり、友達になれたと思っているのが自分だけではないと信じたい。
「ね、和馬はお兄さんとも政治の話を良くするの?」
和馬とは瀬田和馬、俺の事だ。
「最近はね、兄貴は、実社会ではとても不可能なことを架空の世界でシミュレーション出来ないかと考えているんだ。」
「それって現実逃避ではないのですか。」
「う~ん、現実的な事も検討してるそうだけど、兄貴に影響されて俺が考え始めてるのもネット上に架空の政党を構築出来ないかという事だから、現実逃避かな。」
「シミュレーションと言っても、ネット上でならリアルな人の考えによって政党が形作られて行くのだろう、面白いかもな。」
「ああ、ただ政党を拡大して行くのは難しいし、拡大したら荒らす人が確実に増えると思うんだ。」
「党員資格とか明確にして、荒らしたら即退会とか出来ないか?」
「康太、俺はそこまでネット上のシステムに詳しくないんだ、SNSも狭い範囲でしか使ってなくてさ。」
「その前に、和馬が考える政党ってどんなものなの?」
「俺自身、まだ学習が足りてない、まあ一人の人間が国政すべてを把握出来る訳はないだろ、日本を良くする、その方向性の中で多少の違いを妥協し合いながら人が集まり、それぞれの力を発揮し協力して行く存在かな。」
「ならば市民政党を生み出せないでしょうか、今の日本に市民が意見を出し合って方向性を決めている政党は無いですよね。
新党が出来ても古い人達が名前を変えて自分達の職を維持しようとしているだけです。」
「同じ方向性持つ市民が集まって政党を形成する、和馬の発想は悪くないと思うわ。」
それから四人で話し合った。
「政党とは何かを考えながら、党としての基本方針を作ってみたいですね。」
「うん、まずはネット上で、それを公開して反応を見る場を検討してみようか。」
「でも党首が必要だわ。」
「ただ、人の輪を広げて行くとして俺達で責任が取れるのかな?」
「和馬は弱気なのね。」
「ええ、てっきり党首になって下さると思いましたのに。」
「ま、待て、俺はそんな器じゃない!」
「ですよね、軽い冗談です。」
「い、いや、清香さん、真面目な顔して重い冗談をおっしゃらないで頂きたいのですが。」
「でもさ、和馬が党首なら私はついて行くよ。」
「愛華さんまで…、党首は党のイメージでも有るのだから康太の方が相応しいと思わないのか。」
「だめです康太は、裏で悪事を働いていそうです。」
「え~、そんな事してないって。」
「まあ、軽い冗談です。」
「ねえ、市民政党が実現したら、すごい労力が必要にならないかな、四人だけでも大変なのに。」
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はじまり-04 [シトワイヤン-01]

俺が恐れているのは、小さくても政党が変に盛り上がってしまう可能性だ。
人数が増えてしまったら大学生のお遊びでは済まされないのだが、お遊びにすれば盛り上がる可能性が有る。
でもまあそれは先の話、俺達には考えるべき事が沢山有るのだ。

「社会問題を考えてると日本人って嫌、いえ、人間が嫌になるのよね。」
「どんな時?」
「例えば外国人技能実習制度、日本人の都合で始まって、法整備の段階から実習生に大きな制限を持たせたのでしょ、始めてみたら技能実習なんてまともに考えてもいない受け入れ先が、安価な労働力ぐらいにしか思っていなかった、なんて例が有るそうで、実習生がひどい目に遭っても何の対策も取られて来なかったじゃないの。」
「うん、親父に教えて貰ったんだけど、この問題は以前からしばしば報道されていたんだ、でも、政治家たちは何もしなかった、与党が更なる外国人労働者の受け入れを考え始めて、ようやく野党が動いたということかな。
色々な問題を孕んでいるのだけど、親父は今まで野党が見向きもしなかった点を指摘してくれたよ。」
「和馬、ちょっと考える時間を下さらないかしら。」
「ああ。」
「与党を追及するネタが色々有ったのかな?」
「あっ、票には繋がらないか。」
「そうね、得票に繋がらないだけでなく、受け入れ側の票を失いかねないです。」
「親父もそう言ってた、日本人の多くは彼らに興味が無さそうだろ、そんな事に労力を費やす気はなかったのさ、党利を考えたらね、知らなかったと言うのなら問題外だけど。
だが、労働力不足になるとして、また与党が動いた、外国人労働者の問題は技能実習生だけでは無くてさすがに影響が大きい、だから野党も動いたのさ。」
「日本側、企業側の受け入れ態勢がいい加減な状態だから、親と一緒に来日した子どもたちの中には、まとまな教育を受けていない子がいると聞いたことが有ります。」
「まあ、日本人ですら大切にされていない世の中だからな、愛華のいう通り嫌になるよ。」
「企業は自分達の利益が何よりも優先、そんな企業には就職したくないわ。
大きな利益を誇る企業が、自社の社員には多額のボーナスを支払いながら、下請けを平気でいじめたりしてるでしょ。
たまに日本人を礼賛する様な記事を目にする事が有っても、日本人なんて自己中の集まりじゃない、嫌な気分にしかならないわ。」
「結局、法律で規制されてないと人権を無視して最大限の利益を目指すのが日本企業の日本人だからな、中には法を軽視してる輩もいるしね。」
「でも、我々はそういう企業の恩恵を受けている。」
「そこで自己嫌悪に陥るのよ、今の生活を失しないたくは無いもの。」
「普通に考えたら、今の世の中をバランスの取れた形には出来そうにない、和馬の発想による市民政党が信じられないくらい上手く行ったとしてもね、お金持ちは更に資産を増やそうとしているし、才能のない貧困層は、安心して子育てが出来ない、そんな話をすると愛華が落ち込みそうだけど。」
「それでも、恵まれた環境に有る人は社会問題と向き合うべきなのです。」

清香の一言は、俺達四人の会にささやかながら意味を与えてくれたと思う。
俺達には何の力も無い、だからと言って社会問題から目をそらしてはならないのだ。
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はじまり-05 [シトワイヤン-01]

四人での時間を持つようになってから、早い段階で彼女らに親父や兄貴の話をしたのは考え有っての事、自分の意見だけでなく、家族からの知識を披露する事で皆の視野が広がると思ったからだ。
勿論、自分の家族にも彼女たちとの話を紹介している。
そんな流れから。
「兄貴がね、もし良かったら今度スタートするシミュレーションゲームみたいなものに皆も参加して欲しいって、ベータ版以前のものだけど。」
「どんなゲームなの?」
「正直言って、面白さを見いだせるかは微妙なんだ、実験的に架空の村を作り参加者はその住人として、与えられた条件下で活動する、何もしないという選択肢も有るし起業して金儲けを目論むという選択肢も有る、まあ村を去るという選択肢も有って、どんな人が村を去るのかも研究の一部という感じ、ただゲームと言っても文字と数値だけの地味なものなんだ。」
「住人同士の交流は出来るの?」
「勿論、そこが最大のポイントでも有る、ただチャットの様に参加者を長時間拘束しかねない機能はあえて作らずメールのみでスタート、だからリアルでも友人という参加者は都合が良いそうだ。
初期設定は豊かな村、それがそのままの状態で有り続けるかどうかという実験であって、バーチャル世界の愛憎がリアルと連動する可能性を否定できないという側面がある。」
「怖そうな一面が有るのね。」
「村での人間関係が嫌になりそうなら村を去れば良い、三人が去ってもその後の状況は俺が教えるよ。
ゲーム内での人間関係を探るというのも目的の一つでさ。
兄貴はプロジェクトの中で、人間関係を好感度などでの数値化を画策している、研究しても何の役にも立たないかもと言いつつね、でもAIによる仮想人格を村人に加える事を想定していると言えば、ただのお遊びではないと分かってくれるだろ。」
「研究の一環なのね、それで、ゲーム内でも私達は友人なの?」
「それに拘る必要は無いけど…、もしゲーム内で喧嘩してもリアルでは仲良しのままでいて欲しいと心の底から願っている。」
「人間関係学の実験なのですね。」
「それも含むって感じなんだ、色々な研究室が参加してるプロジェクトで、完成度を高めて多くの人に参加して貰う、ただ、単なる現実逃避の場にはしたくないそうでね。」
「そうなる可能性もあるのか?」
「リアルで辛い思いをしたら現実逃避したくなる、でも、バーチャル世界に逃げ込んだ人にリアルで立ち直る手助けが出来ればとか、まあ、そんなことまで考えているから本当の完成までには途方もない時間が掛かりそう、欲張りな人の集まりなんだよ。」
「それなら、是非とも参加したいわ。」

三人とも参加してくれることになって嬉しい。
自分一人だけでも参加するつもりだったが、ゲームはみんなでやった方が楽しいのだ。
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はじまり-06 [シトワイヤン-01]

翌々日の昼休みは、シミュレーションゲームの話を切っ掛けに人間関係の話題が。
「人間関係って互いの好感度によって形成されるのかしら。」
「そうだな…。」
「ねえ、好感度の低い人とも付き合っていかないとダメなのよね、嫌でも。」
「愛華って見た目は明るくて性格もポジティブだと思っていたのに結構ネガティブなんだな。」
「最近、嫌味な感じの女子がいてね、何か僻んでるっぽいのだけど。」
「そういう人は、基本的に無視すれば良いのです。」
「清香はそれで友達減らないの?」
「友人は量より質、幸い大学に入り質の高い友人が増えましたので、勿論今後交友関係は広げて行きたいですが…、愛華が好感度の低い人とも付き合って行くべきだと考える根拠は何かしら?」
「そうね…、場の雰囲気とか…、人に嫌われたくないでしょ。」
「世の中色んな人がいるのだから、自分を嫌う人がいても良いと思います、その人の事をこちらが積極的に否定しなければ何とかなります。」
「もしかして清香は修羅場をくぐり抜けて来たとか?」
「いえ、一応、好感度を落とし過ぎない様にして来ましたので。」
「意識的に?」
「ええ、でも、必ずしも高い好感度を持って貰う必要はないのです。」
「人によって感じ方が違うからな、う~ん、人間関係について好感度以外の要素は…。」
「利害関係が有るだろ。」
「あっ、そうね、利害関係的に親しくしなくてはならない人、その人の好感度が低かったら最悪かも。」
「好感度の高い人との絆を強め、その人と仕事をして行けば良いんじゃないのか?」
「それが一番だけど、一緒に仕事をして行く好感度の高い人を見つけられなかったら…。」
「ブラック企業に就職してしまったら難しいかもな。」
「はは、好感度どころでは無いね。」
「でも、ブラックな一面を持っていても企業として成り立っているのなら、全員がそうとも限らないし、むしろ、客にとっては低料金、高サービスで企業の好感度は高いのかも知れない。
一部の従業員が酷い目に遭っていても客は気にしないだろ。」
「客と企業の利害関係か。」
「そう考えると、好感度の高い悪人もいそうです。」
「人それぞれ価値観が違うからな、とても良い人なんだけど私利私欲しか頭にない、私欲の為に愛想良くしていても好感度は高くなる、純粋な人でも自己表現が下手だったら好感度は低くくなるのかな。」
「利害関係、価値観の相違が好感度に大きく影響しますが、愛華が感じてるのは相手の態度、相手からの自分に対する好感度の低さが、愛華視点で、彼女の好感度を下げているという一面は有りませんか?」
「そうね、そんなところなのかな…。」
「愛華の美しさに嫉妬してるのだったら、二人の人間関係は改善されそうにないな…、愛華は学友との人間関係に悩んでいるみたいだけど、清香はどう?」
「そうですね、大学に入って楽になりました、色々と。」

にっこり微笑む清香の、色々と、が気にはなったが、午後の講義が始まる。
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はじまり-07 [シトワイヤン-01]

四人での真面目な話は愛華がまとめて記録を残している、後日見直して再討論という事も。
一時間の話を数行にまとめる彼女の才能は敬服に値する。
始めはぎこちなかった俺達の学習会は、週に三回程度、それとは関係なく昼食を共にすることも有り、四人だけのサークル活動として続いている。
そんな学習会の終了後、清香から…。
「皆さん、よろしかったら今度の休みにでも私の自宅に来て頂けませんか。」
「俺は予定ないから喜んで。」
「和馬が行くのなら私も行くわ。」
「他の予定をキャンセルしてでも訪問させて頂くよ。」

という事で俺達は清香の家に来ている。
「庭が広くて良いわね、うちはマンションだからさ、和馬はマンション暮らしなの?」
「うちは一戸建てだよ、そう言えば愛華は高いとこに住んでるって言ってたよね、地震が起きたら大きく揺れそうだし、停電したら階段の上り下りが大変じゃないか?」
「そういう事が起きないと過信してそうだな。」
「う~ん、否定できないし…、エレベーターという密室が少し怖くも有るのよね、全く知らない人と二人きりなることが有って。」
「人を見下したい人は、それなりの代償を背負う訳だ、で、和馬んちの庭は広いの?」
「それが、庭というより畑でね、夏場なら採れたてのトマトとかご馳走出来るよ。」
「田舎という訳でもないのでしょ?」
「ああ、大学まで二十分ぐらい、康太のワンルームよりは不便かな。」
「いや~、実家暮らしは、とても便利だと気付かされてるよ。」
「でしょうね、それで清香、今日のテーマは?」
「父を紹介したいのですが、よろしくて?」
「それは嬉しいね、清香のお父様なら色々勉強させて貰えそうだ。」
「おい、和馬は緊張しないのか?」
「緊張してるさ、でも、始めて愛華と清香に会った時と比べたらね。」
「それって真面目に話してるの?」
「勿論さ、男子校から進学して、いきなり二人の美女とお近づきになれてだな、あの時ほど緊張したことは今までなかったよ。」
「和馬は緊張しないで話せそうだから友達になれると思ったのよ。」
「愛華さん、それってある意味問題外って事ですか?」
「ふふ。」
「あっ、ごまかした。」
「それより清香の親父さんってどんな人?」
「会えば分ります、父を呼んで来ますね。」
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はじまり-08 [シトワイヤン-01]

会えば分かるとは外見の事だった。
どうして映画に出て来る様なやくざの大親分が、華奢で素敵な美女の父親なのか納得が行かない。
それでも、落ち着いて観察させて頂くと僅かだが似てる所が有る様な気がしてくる、清香の父親だという情報が無かったら全く気付かないレベルでは有るが。
その大親分は、俺達を威圧するでなく、会社を経営していることなど話して下さった。
そして…。
「和馬くん達は政党を立ち上げるそうだね。」
「政党と言っても大学生のお遊びレベルですし、自分達はまだまだ勉強不足ですので先の話です。」
「そうなのか、和馬くんの話は娘から色々聞かされていてね。」
「えっ?」
「君たちとの時間は清香にとってとても新鮮で楽しいみたいだよ、なあ、清香。」
これは微妙な発言だ、俺は少し謎に包まれている清香嬢に遊ばれてる感が有るのだが…、お嬢様は頬を少し赤らめ頷いていらっしゃる、とりあえず父君の事は柚木さんと呼ばせて頂くのが無難そうだ、間違ってもお父さんなどと、お呼びしてはいけない。
「柚木さんは政党について何かお考えが有るのですか?」
「君たちと変わらないよ、積極的に支持出来る政党はない、消去法で与党ってレベルなんだ。
だから面白いと思ってね、大学生のお遊びで始めても策を練れば泡沫野党より上になれるだろ。」
「はい、演出がはまれば可能かも知れません、ですが外交問題なども有り多岐に渡る政策を語るのは、しっかりとした理論武装が必要です、魅力的では無くとも昔から有る政党には安心感が有るのです。」
「確かにそうだな、でも、政治はやってみなければ分からないことも多いんだよ。
なぜ非正規雇用が増えたのか、そういう法案を通した人達は企業の利益になると考えたのだろうが、そこから貧富の差が広がり少子化に繋がるとまでは考えてなかったのではないかな。
また、頭の可笑しい人が総理大臣になったおかげで、多くの人達が迷惑を蒙った、だが、そんな人が党首の政党を、かつての有権者たちは政権与党にしてしまったのだよ。
そんな失敗を知る人達が市民政党を構築をしたら、少しはましな国になると思わないか?」
勿論反論は出来ない、ただ…。
「動く人がいないという事が問題ですね、外野で文句を言ってる人ばかり、そのポジションは居心地が良いですから…、自分達も似た様なものですが。」
「急ぎはしない、だが君たちが動き出すのであれば、そうだね、失敗したって構わないと思う、私達の世代が表に立っても、泡沫政党すら出来ないと思うんだ、でも明日を担う若者が立ち上がるのなら、私は全力で応援するよ、それで党名はどうするのだ?」
「まだそこまでには至っていません。」
「はは、急ぎはしないと言いながら、すまんな、それで…。」

柚木氏との会話は、何故か俺が中心になってしまったが、会社経営者の視点から見た社会問題の話も聞かせて頂き有意義な時間となった。
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はじまり-09 [シトワイヤン-01]

柚木氏との歓談後は清香の部屋に移動した。
「俺のワンルームの十倍は有るな、さすがお嬢様だ。」
「そういう康太だって実家は広いんだろ?」
「いやいや田舎だから敷地が広いだけで、そんな事より和馬の受け答えには驚いたよ、柚木氏との対話を和馬がしてくれなかったら、俺はやばかったな。」
「貫録有る方ですものね、和馬、ちょっと見直したわよ、またお邪魔しますなんて社交辞令も言えたし。」
「別に社交辞令じゃないよ、うちの親からは大人との付き合いを大切にする様にと、日頃からね。
言うだけでなく、そういう機会を作ってくれるんだ、柚木氏からは経営の事とか学べそうだろ。」
「父の前で緊張する人は少なくないですが、なんか、和馬は私と話す時よりリラックスしてる様で少し複雑な気分でした。」
「だから、清香や愛華みたいな美人というか同年代の女性と話した経験が少なくてさ。」
「少ないだけで有るのね?」
「まあ、友人の姉や妹と話す機会は有ったさ。」
「そういう時はドキドキしたの?」
「そりゃあ少しは、でも、君たちほどの美人じゃなかったからね…、愛華さん、そろそろ許して下さいませんか。」
「で、大人の男性とは話す機会が多かったって事なの?」
「相手に失礼のない会話が出来る様になってからは、親父の取引先の方とバーベキューをしながらとか。
少し背伸びした質問をさせて頂くと色々教えて下さるんだ。」
「へ~、バーベキュー、今もやってるのなら私も参加したいな。」
「ぜひどうぞ、肉ばかりでなく畑で採れたての野菜も食べてね、親父も喜ぶと思う、次の日程が決まったら教えるよ、場所はうちの畑だけど雨だったら室内、雨天中止はないからね。」
「俺も良いのか?」
「勿論さ。」
「和馬の謎が一つ解けました。」
「えっ、俺には謎なんてないよ。」
「そうかしら、それで市民政党はどうしますか?」
「俺達の学習は決して進んでいるとは思ってない、もし立ち上げるとしても俺達は教えられる立場になると思う、それでも実験的に始める事は可能だと、柚木氏と話していて思ったよ。」
「和馬を党首に始めるか?」
「康太、少し考えていたのだが、暫定的な党首は美貌と明るさを兼ね備えた愛華が良いと思うんだ。」
「私?」
「まだ中身が無いから、絶世の美女が微笑まないと人は集まらない、その傍らに清楚系美女とイケメン男子が立っていれば、何人かは確実に集まるだろう。」
「和馬は?」
「あっ、愛華、俺をさり気にイケメン男子から外したな…、そうだな俺はカメラマンから始めるとしよう、愛華を中心に三人集まってくれよ。」
「だめよ、四人一緒じゃなきゃ。」
「そうね、お父さまから三脚を借りて来ます、和馬のスマホでなく私のカメラで写しましょう。」

自分が思っていたより俺達四人は親密になっているのかもしれない。
ただ…、女という奴は良く分からなくて…。
「和馬、表情が固い、康太を見習って、はい次のポーズはね…。」
モデル気分なのだろうか、楽しそう。
でも…、清香お嬢様、愛華お嬢様、今回のは少し近過ぎませんか…、そんなに近づいて下さると私の胸の鼓動が…、もう限界です。
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はじまり-10 [シトワイヤン-01]

柚木家への訪問が楽しかったということで、愛華が是非うちへもと招待してくれた。
勿論断る理由は無く翌週は高級マンションの最上階へ…。

「皆さんゆっくりして行って下さいね。」
出迎えて下さったのは愛華のお母様、さすがに愛華の母親だけあって美人だ。
「おじゃましま~す。」
康太は柚木氏との時とは打って変わってリラックス、イケメンは女性に強いということだろうか。
俺はと言えば普通に緊張、美女は清香と愛華で多少慣れはしたものの、年上の女性と何をどう話せば良いのか全く分からない、バーベキューをする時も兄貴に任せ距離を置いてきたのだ。
「あなたが和馬くんか、愛華のことよろしくね。」
えっ、よろしくと言われましても…。
「は、はい…。」
と、まあ何とも情けない返事をしたところへ。
「柚木清香です、よろしくお願いします。」
「清香さん、お綺麗ね、でも面白いわ、雰囲気の全然違う二人が親友になるのだから、娘とは…。」
清香に助けられた、彼女が困惑している俺に気付いて声を掛けてくれたのは間違いない。
しばらくして試練の時は終わり、いつもの四人の時間。
部屋からの眺望は抜群で…。
「なあ、愛華は眼下に人を見下ろして優越感に浸ってるのか?」
「そんな訳ないでしょ、康太の辞書にデリカシーという言葉は無いの?
夜景を見る時は、一つ一つの明りにどんな営みが有るのかなって考えてるわ。」
「眼下…、多種多様な人達が愛憎入り混じる人間関係の中、幸福を求めている…、幸福を感じている人がいれば、自分を不幸だと思っている人も、そこに利害関係が入り混じる混沌が、実は平和そうに見えるこの町に存在するのです。」
「清香はそういう見方をするのか、う~ん、カオスね…。」
「足るを知ってる人がいれば、自分の欲に正直な人もいるからな。
如何に法の隙をついて金儲けするか、社会制度の盲点を突くとかと考える人達のおかげで、闇が深まってるのだろう。」
「会社経営や株式投資は、合法ギャンブルの一面が有ると父は考えています。
法に抵触さえしていなければ、人に不快な思いをさせても合法ギャンブルで、成功すれば大金が手に入ります。」
「結局は、弱肉強食なのかしら?」
「そうかもな、お金持ちは弱者を食い物にして。」
「でも、食い物にするというより、消費者の方に良い商品を提供していかないとだめだろ、単純な話ではないのさ。
柚木氏は社員の幸せを考えておられたし、提供する商品やサービスの質にこだわっておられただろ。」
「あっ、御免、視野が狭かったかも。」
「自由競争ですから弱肉強食で間違いないと思います、ただ、お肉に対する思いやりがないと行けません。」
「焼肉定食なら人を幸せに出来るのにな。」
「康太、その路線で進むと寒いおじさんになるわよ。」
「山下さんに、親父ギャグは通じるのですか?」
「まだ分からないが、多分大丈夫だよ、向こうから告って来たのだし。」
「あの~、焼肉定食辺りから話が見えなくなったのだけど、山下さんって誰?」
「えっ、康太の彼女を知らないのですか?」
「知らない。」
「結構噂になってるわよ、康太のハートを射止めるのが私達のどちらかだと思われてたみたい、それが突然可愛い系女子と親密になったって。」
「へ~、それで二人は悔しくないの?」
「どうして? 和馬は私にとって好感度の低い人を、私の美しさに嫉妬してる、と表現してくれたけど、もしかしたら康太の友人だからかもと思い至ったのよ。」
「そうです、康太たちが上手く行けば、愛華の人間関係が改善される可能性が有ります。」
「そうなんだ、清香は?」
「私の場合、康太は友人で恋愛対象では無いと公言していましたので何の問題も有りません。」
「そういうもんなんだ。」
「こいつら酷いだろ、こんな良い男を邪険に扱って、でもこれからは、和馬が心配だな?」
「えっ?」
「美女二人との関係を男子学生から問い詰められるかも知れないぞ。」
「別に本当のことを言えば良いだけだろ。」
「この写真を公開してもよろしいですか?」
清香に見せられた写真は柚木家で撮影された内の一枚、二人に挟まれ真っ赤になってる自分が写っていた。
「そ、それは…。」

この状況になると俺は無力だ、始めて出会った日から俺は二人に惚れているということになっている、まあ間違ってはいないのだが、その辺りを遊ばれてしまう。
救いは、真面目な話をしている時にはイジって来ないことと、どちらが好きなのかといった最悪の質問をしないことだ。
一人を選ぶことも一人に選ばれることもなく、ずっと友達…、康太と違って女子受けしない俺は彼女と呼べる存在無く学生生活を送るのかも知れない。
だが、二人は、それでも良いと思わせるだけの魅力的な女性なのだ。
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