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大下穂香-01 [化け猫亭-13]

私は大下穂香、二十歳、化け猫亭で働き始めてから半年近くになります。
働き始めてすぐ加奈お嬢さまのサポート役に、お嬢さまより一学年下の後輩第一号だという事ですんなり決めて頂けました。
化け猫亭は二十歳過ぎから大学卒業までが契約期間、三月生まれの先輩と比べたら在籍出来る期間が随分長いというメリットも有り、四月生まれで本当に良かったと思っています。
今まで、加奈お嬢さまのサポート役として随分学ばせて頂き、ここのスタッフになる事を勧めてくれた父には感謝しか有りません。
お嬢さまの事業展開を間近で見る事が出来ましたし、色々な会社組織の重役さん達から得られる情報は大学で学んでいる事の斜め上を行っています。
化け猫クラブが中心になっての企業グループ、その特殊性にもよるのでしょうが。
まだ大学二年生ですが就職の心配は全くしていません、私が希望すれば即内定という優良企業が数社有るのです。
今まで加奈お嬢さまのサポート役として頑張って来た実績を認めて頂けての事で正直嬉しくて…、あっ、そろそろホールに入る時間となりました…。

「穂香ちゃん、こっちこっち。」
「は、はい。」
「なあ、入居が一段落したシェアハウスへ視察に行ってきたのだろ。」
「はい、加奈お嬢さまのお供をさせて頂きました。」
「入居者達はどうだった?」
「どうなのでしょう…、もう少し落ち着かないと問題は見えて来ないと思います。」
「そうか…、当初はシングルマザーを意識して建設を始めたシェアハウスだが、寮や社宅が増えた結果、より実験的になったじゃないか、トラブルがなければ良いと思うのだがね。」
「加奈お嬢さまは、トラブルが起きてみないと見えないものも有ると話されていました。
社会的弱者ばかりで構成するコミュニティですので、精神的に疲れている方もみえます、勿論カウンセラーの方が頑張って下さるとは思いますが。」
「心配なのは、株式会社と社会福祉法人の関係性なのだが。」
「加奈お嬢さまの下に平等、ハンディの有る人に対する心遣いが出来なかったら別の施設へお引越しです、私が行った時は、女神さまご降臨に皆さん大喜びで個人の不満に触れる状況では有りませんでしたが。」
「まあ、そうだろうな…、穂香ちゃん、生活保護世帯に対する支援と行政サイドの対応に関しての問題はどうなってる?」
「加奈お嬢さまは、子どものいる生活保護家庭を行政から離して保護する事を意識されていました、ただ、そうしてしまうと、こちらの予算が嵩み保護を広げる事にはマイナスになります。
そこで今は、生活保護世帯に対して民間が支援をし易い法整備を法学部中心に検討しています。」
「そうか、テレビ番組では加奈さん、同じ島国に住む人を仲間と考えなくなって貧富の差が加速したが、私達の保護下に有る部族では、仲間が困っていたら助け合うと話してたね。」
「今までは民間に生活保護世帯への支援という発想が有りませんでしたから、法整備の必要は有りませんでした。
でも、我らが女神さまは、せめて子どものいる世帯だけでも支援したいと話されまして、無能な国会議員も、これをスルーしたら選挙で不利になると考えているみたいです。」
「そこまで進んでいるのか。」
「通称、女神さま法案とか、加奈お嬢さま法案とか呼ばれる様になるのでしょうね。」
「穂香ちゃん、これまでの生活保護世帯への支援は評価されているのかな?」
「高校生以下の子どもがいる二十世帯程を保護下に置いて、どういう支援をしているかを公開しています。
それに対して、応援するメッセージや金品による支援を受け取っています。
加奈お嬢さまは、行政が考えるところの、健康で文化的な最低限度の生活よりワンランク上の生活を生活保護家庭の子に味わって欲しいと日頃から話されています。
それに対する議論も盛んになされていまして、例えば、生活保護家庭の子が自信を持って社会に出て自立出来る環境が有ったら、その子が先々親の面倒を見てくれる可能性が有ります。
ですが、ひどい環境のまま育ったら親を恨むかも知れません。
シェアハウスで出会った女の子は、思いっきりの笑顔で加奈お嬢さまに感謝の言葉を口にしていましたが、その笑顔の裏にこれまでの苦悩が隠されているのではないかと思うと…。」
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大下穂香-02 [化け猫亭-13]

「穂香ちゃん、今まで、どんな事情の家族を保護して来たの?」
「メインは病弱な母親と子どもの家庭です、シングルマザーで苦労して来た人達ですので、寮でもシェアハウスでも、スタッフ全員でフォローして行こうという雰囲気になっています。
おっきい男の子達は男子寮で、少しおっかないけど優しい寮母さん達に見守られながら、児童養護施設出身の先輩達と女神さまを崇めるチームになっています。
少し人の道をはずれ掛けてた子も、女神さまご降臨の時は真っ赤になって何も言えなくて可愛かったですよ。」
「加奈お嬢さまは男子寮へも行ってるんだ。」
「回数は少ないですが、お土産持参で。」
「それは大喜びだろうな。」
「それが、皆さんシャイで、緊張し過ぎて倒れる子がいました。
寮生代表が自分達の近況報告をしてくれるのですが、締め括りの言葉は、加奈お嬢さまの為に我々は全身全霊を捧げます、みたいな。」
「美の女神さまに保護して頂いたらそうなるのかな、彼らは真面目にやっているのか?」
「はい、学校とは少し違う角度からカウンセリングをしていますので。」
「どんな?」
「高校の成績が悪い子には勉強しなさいではなく、就職までの流れを説明しつつ工場見学、農場見学などをして貰っています。」
「結果は?」
「まだ、何とも言えませんが農業に興味を示している子がいたり、仕事という事を真面目に考え始めた子もいます。」
「そうか、進学とか考えてる子はいないのか?」
「生活が落ち着いて、一気に学年順位を上げた子がいます。
元々頭の良い子だったのでしょうが、こういう例を目にされた加奈お嬢さまは、もっと活動を広げなくてはと、話しておられました。」
「持っている能力だけでなく、環境によって可能性に差が出てしまうのか…。」
「はい、男子寮では加奈お嬢さまに恥ずかしくない男を目指そうと、学習会を開いたりしています。
部族の男としてどう有るべきかをカウンセラーを交えて話し合ってもいるのですよ。
報告を見ていると、女神さまに対する絶対的な忠誠心が感じられて頼もしいです。」
「色々な子がいると思うが、いじめみたいな事はないよな?」
「始めの内は誤解が有ったそうですが、今は、この社会事業を加奈お嬢さまの名の下に進めて行くのが自分達の役割だと考えていますので、自ずと思いやりの気持ちが高まっています。
休みの日には子ども達の相手をしに女子寮へ、敢えてタイプの違うメンバー、元気な子の相手をする人と大人しい子の相手をする人、勉強を教える人が組んで、まあ、女子高生目当てでも有るのでしょうが楽しそうにやってます。」
「予算面は大丈夫なのか?」
「男子寮の維持費は社会福祉法人を支えるという形でスポンサー企業が援助して下さっています。
それを受けて、再就職を目指し研修を受けている人達は、スポンサー企業で活躍したいと話しています。
独り立ちして寮の部屋を後輩にという事も考えてくれています。
落ち着いて働ける様になったら、例え僅かでも維持費を出す、それを目標にしている人もいるのですよ。」
「そうか、無理せず結婚と子育てを考えて欲しいのだがな。」
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大下穂香-03 [化け猫亭-13]

「再就職支援に対する応募者も寮で受け入れてるのだったね?」
「はい、家賃が気になって落ち着いて研修が受けられないという人がいまして、児童養護施設出身で早期退職した人達と励まし合いながら研修や、職場実習に出かけています。」
「再就職には時間が掛かるのかな?」
「本人達にも企業側にも焦らないでと、職場実習が新人研修を兼ると考えて貰っています。
それでも、今までに二十数名が再就職を決めましたので、次の募集をしています。」
「若年層再就職支援プログラムは充分機能しているという事だね。」
「はい、再就職後の転職も気にせず相談するように伝えて有りますが、今のところは大丈夫の様です。」
「一旦加奈お嬢さまの保護下に入ったら、ずっと部族の一員というのは気持ち的に大きいのかな。」
「そう思います、今まで何らかの問題を抱え不安な時を経験してきた人達です。
就職した人達へは、何度でもやり直せる、との言葉が贈られていまして…、普通は頑張れとかですよね。」
「そうか、甘過ぎるかもしれないが…、かえって気が楽になって仕事に励めるのかもな。」
「はい、カウンセラー達もそう考えています、人を押しのけてでも出世する様な人材でなく、企業をしっかり支えてくれる人にとなって欲しいとも。」
「カウンセラーには結構な経費が掛かっているよね。」
「はい、シングルマザースタッフにも研修を受けつつカウンセリングをして貰っていますが、精神的に不安定な人は部族の中に少なからずいまして…、虐待経験からトラウマを抱えている子も。
ですが、多くのスタッフは、助けて貰った恩を返したいと考えています。
今は仕事としてカウンセラーを捉えていますが、先々はその経験を生かして、例えば、お店で共に働く後輩にアドバイスしたり出来ればとか先を見据えているのですよ。」
「あっ、部族内でのスキルアップと考えれば良いのかな?」
「はい、心に傷を負った人ばかりの部族ですが、力強く立ち上がった人達は後輩の事を考えているのです。」
「そうか、社会福祉法人として…、会社とはどうなのかな?」
「株式会社と社会福祉法人の線引きが気になると思いますが、株主の了解を得て会社の利益は会社の拡大、つまり弱者救済の活動拡大にと、配当は考えていないのです。
法的には二つの組織であり資金の流れや使途は違いますが、目指す所は同じ、部族として一つの組織と言えるのです。」
「そうか、京都支社が立ち上がった後、支社候補が幾つか出て来ている、中小企業からの支援と自分達で稼いだ資金で、不幸な立場に有る子どもを一人でも多く助けて行きたいよな。
穂香ちゃん、色々教えてくれて有難う、私も自分に何が出来るか見直してみるよ。」
「暫くお忙しかったそうですが大丈夫なのですか?」
「ああ、落ち着いた、今まで、さぼりがちだったが私も化け猫クラブのメンバー、会の一員として恥ずかしくない活動をしないとね。」
「宜しくお願いします。」
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大下穂香-04 [化け猫亭-13]

「佐々木さん、お久しぶりですね。」
「ああ、穂香ちゃんに会えなくて寂しかったよ。」
「ふふ。」
「なあ、京都支社はどうなってる?」
「気になりますか?」
「そりゃあ気になるさ、情報が少ないだろ。」
「そうですね、まだ研修が中心ですので、特にお知らせする事がないのです。
それでも、名古屋からの応援組が頑張って下さったおかげで、協力企業への派遣が始まり、お店の開店準備が進んでいるのですよ。」
「トラブルなく進んでいるのかな?」
「どうでしょうか、でも名古屋での経験が京都でも活かせる様にと、藤沢常務の指示で今まで起きたトラブルはデータベース化されています、その情報を参考にしてくれると思います。
まだ向こうの寮に余裕が有りますので、こちらのスタッフが観光を兼ねて交代で行って相談相手にもなっているのですよ、部族の一員同士として。」
「そうか、穂香ちゃんは、本当に詳しいね。」
「加奈お嬢さまのサポートとして学習して来ましたし、卒論のテーマにするつもりです。」
「それは良い、完成したら読ませてくれな。」
「はい、でも、佐々木さんは、他にも気になる事が有りそうですね?」
「それは私だけではないだろう、実際の所、松尾常務はどうなんだ?」
「サポートチームを個人のポケットマネーで結成し、次の支社候補地を確認しつつ、首都圏の貧困層を地方で再生させる道筋を検討されています、それに関しては間もなく発表が有ると思います。
えっと…、加奈お嬢さまとの距離はかなり近づいているかと…。」
「そうか、私なりに調べさせて貰った範囲では何の問題もないのだが、実際に会った印象はどうだった?」
「そうですね、凡人の私にはついて行けない所が有りますが、お嬢さまの笑顔から判断すると悪くないカップルだと感じました。」
「とりあえず会社の株に三億、三億を社会福祉法人に寄付だからな…。」
「自称、お金儲けの上手な変人と話しておられますが、真面目な方だと思います。
お金目当てで媚びて来る人にはうんざりしていらしたそうで。」
「高松社長や会長は?」
「社長は早く結婚して孫の顔を見たい人です、能力的には全く問題なく、学者の家系に生まれた異端児を後継者に出来たらと話しておられました。
会長は、加奈お嬢さまが幸せになる事だけを願っておられます。」
「そうか、このままうまく行くと加奈さんは東京へ行ってしまうのかな。」
「松尾常務は合宿所の近くを本拠地にしようと話しておられました、ご自身の会社も東京に拘る必要は無いそうで。
貧富の差だけでなく過疎過密の問題も考えておられるのです。」
「頼もしいな。」
「加奈お嬢さまに夢中なのですよ、ご本人は必死に隠そうとしておられますが。」
「対抗馬はいないのか?」
「加奈お嬢さまの女神さまオーラは更に強くなった気がします、お側に居させて頂いて、この人は本当に女神さまなのではないかと思う事が有るぐらいに、自分によほどの自信が無いと近づけないでしょう、松尾常務の存在も有りますし。」
「そうか、加奈さんが幸せになってくれたら良いのだが。」
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大下穂香-05 [化け猫亭-13]

「穂香ちゃん、松尾さんは本気みたいだね。」
「はい、高川さん、すでに色々動いているのですよ。」
「自社の本社を東京から岐阜県にと表明されたが、化け猫クラブが進めてきた再開発事業を後押しする狙いが有るのだろ。」
「はい、東京でなくても構わない部門全部を移転する事で、社員の為のニュータウン建設費用を捻出出来るそうです、用地買収に関しては桜さんの所のスタッフがすでに動き調整中です。
すでにかなりの面積が買収済みで土地区画整理事業も進んでいます。
東京の狭い住宅と同程度の家賃で、庭付き一戸建てへ、社員全員がそれを望むとは限りませんが、子どもに対する教育サポートシステムも表明されましたので、高川さんも興味が有るのでは有りませんか?」
「ああ、もっと知りたいよ、藤沢くんと組んだとも聞いたからね、あのレベルの人達が手を組んで何をするのか、少し怖くは有るな。」
「藤沢常務も松尾常務も加奈お嬢さまの僕なのですよ。
彼らは、不幸な子どもを日本から無くす事を一つの目標にシステムを考えたり、その為のお金儲けを考えたりしています。
そこに小夜さんも絡んでいますから、桜さんでさえ完全に受け身ですよ。」
「天才レベルって協調性が無いというイメージが有るのだがな。」
「ですね、加奈お嬢さまの存在は大きいです、お嬢さまがいなかったら、藤沢常務と松尾常務、二人の天才が協力するという事は無かったと思います。」
「天才たちはどう協力し合ってるの?」
「松尾常務はすでに首都圏を中心に幾つもの事業展開をしておられますが、それを藤沢常務と小夜さんの協力の下、名古屋圏で拡大しつつ新たな展開も、兎に角稼いで会社は優秀では無い人にも楽しい職場にと考えておられます。
勿論、事業が拡大すれば加奈お嬢さまの所で保護した人達を積極的に雇って行ける訳です。
先日は、暴力団から抜けたい人の受け皿、少年院や刑務所から出て来る人達への支援を…、安川さんの所では比較的罪の軽い人を対象にしていますので、もっと重い罪を犯した人に再犯させないシステムを検討しておられました。」
「女神さまの下に天才が三人集まると何でも出来るのかな。」
「はい、そんな気になってしまいます。
不可能とか出来ないという発想は無く、すぐに少年院や刑務所、暴力団についての調査が指示されていました。」
「そうか…、私達も負けてはいられないが、少年院に関しては化け猫クラブでも検討を始めているんだよ、例えば暴走族から組員になるか更生するか、根性の有る奴が更生すると結構良い仕事をするが、組員になってしまってはな。」
「はい、草食系男子が増え過ぎて社会が弱くなってると話されるお客様がおられました、根性の有る子が少年院から出て来た時が狙い目なのですね。
やはり、加奈お嬢さまの保護下という形にするのですか?」
「それが一番だろうが、保護される事を望まない奴もいそうだな、あっ、うちでも調査を始めているから、藤沢くん達と重複しては無駄になる、連絡は取れないか?」
「お任せください、それこそが私の役目です、今すぐ連絡をしますので少し失礼します。」
「ああ、頼むよ、えっと…、うちの担当スタッフの連絡先は…。」
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大下穂香-06 [化け猫亭-13]

「高川さん、お待たせしてすいませんでした、一通り連絡を取りましたので少年院関係は話が早く進みそうです。」
「有難うね、少し考えていたのだが、少年院や刑務所からの出所者が良い形で就職出来、一般社会の中で生活出来る環境を作れたら、労働力になり犯罪も減ると思うんだ、簡単でも単純な話でもないだろうが。」
「そうですね、刑務所の場合、長期間一般社会とは隔離された環境で生活して来た人達が充分なフォローもないまま出所するのですから、再犯率の高さはそのシステムにも問題が有ると思います。」
「だね、何とかしたいが難しい問題も少なくない、精神鑑定の結果責任能力が有ると判断されて有罪になった人は刑期を終えた段階で、精神鑑定の結果責任能力が無いと判断された人と…、境界が微妙だと思わないか?」
「ですね、性犯罪を犯した人が刑期を終えたからと言って、その性癖が消えるとは限りません。」
「山奥で隔離したいが、人権団体がな。」
「少年院のレベルではどうなのでしょう?」
「薬物関係の奴らは難しいかも知れないが、若いし、少年院は少年を更生させる為の施設、出た後を複数の人が違う視点でしっかり見守って行けば社会人として独り立ち出来ると考えているんだ。」
「そうすると、薬物に手を染めない環境作りも考える必要が有りますね。」
「普通の高校生がちょっとした好奇心から落ちて行くという話を聞いた、反社会的勢力が形を変えて警察の手に負えなくなっていたり、グレーゾーン、つまり違法すれすれだったり、警察も頑張ってくれてるのだけどな。」
「ふふ、やはり闇の組織は必要みたいですね。」
「あっ、小夜さん。」
「御免なさい、楽しそうな話をしてるから聞き耳を立ててしまったの。」
「久しぶりだね、一段と綺麗になって、やはり恋する乙女の輝きは違うという事なのかな。」
「高川さんは少しやつれた様ですが大丈夫ですか?」
「えっ、そう見えるのか?」
「ふふ、冗談ですよ、適度な運動を心掛けてる効果は出てます。」
「ああ、医者からも…、なんて事より闇の組織って?」
「私達、暴力団を作ろうと思っているのです。」
「え?」
「猫田組初代組長、猫田小夜、よろしくな。」
「えっ?」
「はぁ~?」
「表向きは暴力団、でも実際は株式会社、組員には順法精神を叩き込むけど、やらかしちまった時は面倒を見る、出所者の受け皿となってね、加奈の下には置けない様な連中の面倒をみようという訳。
愛知県警と相談して若頭とかには県警OBになって貰う話を進めているの。」
「普通の会社じゃだめなのか?」
「組長命令は絶対、みたいな掟が有った方が良いの、その代り舎弟の面倒はきっちりみさせて貰う。
仕事は合法な風俗中心、夜の仕事をやめたくなってる人を見つけたら女神さまの下へとかは考えてるの。」
「風俗だと本物の暴力団とトラブルにならないのかな?」
「なったら面白いかも、犠牲者が出てしまったら心苦しいけど、そんな暴力団は徹底的に調べて警察と連携、巧妙に潰して行けないか検討してるの。
猫田組に手を出した事が原因だと気づかれない様にね。」
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大下穂香-07 [化け猫亭-13]

「暴力的な事はしないのだよな?」
「それは組員次第、カッとなってやってしまう様な人も受け入れるつもりですので。
被害者への補償を考えなくてはいけないから、頑張って稼がないといけません。」
「それって…。」
「被害者への補償が出来ない状況で殺人や傷害事件を犯すよりはマシでしょ。
薬物から抜け出せない組員の指導中に事故が起きるかも知れないし、突然他の組の組員に襲われたら自分の身は自分で守って欲しいわ。」
「う~ん、どんな組織になるのか…。」
「会社組織と同じですよ。
十人程度集まった時点でスタート、健全な元犯罪者受け入れ組織として発表するつもりです、今は三人が研修を受けています。」
「マジなのか…。」
「私はいつだって真面目です。」
「組長ね…。」
「組員が増えたら私の前に勢ぞろいさせるの、気持ち良いと思いません。
そうね、姉御と呼ばせるか姉さんと呼ばせるか…、やっぱ組長が一番かな。」
「遊びじゃないよね?」
「勿論よ、加奈だって腹を括って大勢の人を保護してるでしょ、半端もんはうちで面倒みて行くという感じ。」
「だが、そういう人達だと…、非合法な事をしてでも金儲けを考えたりしないのかな。」
「若い人は分からないけど、ムショ暮らしを経験して歳を重ねると違うみたい、一応各自の力関係を考慮しながら資金の流れを明確にする事で不正を防げないか考えているのだけど、結果を出した人は少しぐらい見栄を張れるだけの給料にすれば良いかも。
まあ、知能犯は来ないでしょうから心配いらないかも知れません。」
「実現したら、社会の底辺を変える事になるのかな?」
「すぐにどうこうは無いでしょうが、仁義を守り人様に迷惑を掛けない組織が健全に大きくなったら、ホームレスとかも取り込んで行きたいかな、社会の暗部を知るには、そこと真面目に向き合わないとダメでしょ。
県警も出所後の行動が把握し易くなるというメリットが有り協力的、普通は次の犯罪を犯すまで関わりにくいみたいで。」
「だろうな、そのまま健全に生きてくれるのが一番だろう。」
「高川さんも猫田組傘下の組長になりたかったら言って下さいね、うちは上納金とか必要有りません、組員を養う資金が不足する様ならこちらから出しますよ。」
「小さな組の組長か…、私には幼稚園のチューリップ組ぐらいが精一杯かな。」
「猫田組傘下のチューリップ組、厳つい組員が百人とか良いですね。」
「はは、チューリップ組では組員が集まらないだろ。」
「可愛らしくて良いじゃないですか。」
「どこまで真面目なんだか…。」
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大下穂香-08 [化け猫亭-13]

「穂香ちゃん、しばらく前に高川さんから聞いたのだが、小夜ちゃんの猫田組は真面目に進行しているのか?」
「ええ、組員が増えましたので次回の番組内で発表するそうです。」
「暴力団ではないがそれに近い形態を取るのだろ、普通の会社ではだめだったのかな?」
「刺青入れてたりとか、今更堅気の仕事というのに馴染めない人もいるそうです。
風俗関係やお祭りのスタッフ的な仕事なら堅気感が弱いそうで、非合法の仕事を一切禁止されても抵抗が少ないそうです。」
「そういうものなのか…。」
「今は研修を受けたり、組長の運転手を交代でしながら今までの経験を猫田組長に話したり。
何でも夜の店を運営していた人がいるそうで、早ければ来月に一店舗目をオープンさせると話してみえました。
小夜さんは店員に人の心理を教えながらトレーニングしてみたいと、マスターは県警OBが務めるそうです。」
「健全な夜のお店だと、何か売りが必要じゃないのか?」
「女性組員の内二人は接客経験者で美人の部類に入るそうです、一応組員の体験談が聞けるというのを一つの売りにするそうですが、スタートの売り上げは警察官の方に頼る事になるかも知れません。
近くに警察の独身寮と組事務所が有るので、敢えてそこを選んだとか。」
「私達は行かない方が良さそうだな。」
「はい、口紅が付いたワイシャツに香水とタバコの匂いが染みついたスーツで帰られては奥さんが傷つくでしょう。」
「そっちの心配か…、化け猫亭とは大きく違うとして、小夜さんは店に立ったりするのかな?」
「警察官の武勇伝を聞きたいと話されていました、でも、店には元受刑者がいる訳で酔った警官と喧嘩とか…、それだけでも危険なのに近くには組事務所、心配ですよね。」
「なんか有ったら店員と客で小夜ちゃんを守るという事なのかな。
う~ん…、司法試験を考えて、敢えてそういう環境がプラスになると彼女は考えているのか…。」
「あっ、そうですね、たまに法的な視点で説明して下さいます。」
「さすがに化け猫クラブの面々は猫田組とは距離を置いているのだろうな。」
「そうでもないです、接待に使える高級感の有る店を提案している人もいます。」
「そういう店だと質の高い女の子の確保が問題だね。」
「化け猫亭とは違う大人の女性という事ですか?」
「ああ、うまく従業員を集められるのかな、風俗系の人脈は無いと思うし。」
「どうなのでしょう、組員の知り合いを呼べるかも知れませんし、番組を利用してアピールという手段も有ります。」
「そうか、小夜ちゃんは番組内で風俗の必要性を語っていたから、集め易いかも知れないね。
研修はきっちりやるだろう、彼女の事だから色々考えが有るかもな、我々は遠くから見守るとするか。」
「はい。」
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大下穂香-09 [化け猫亭-13]

「穂香ちゃん、小夜ちゃんのテーブルに見かけない人がいるね。」
「はい、猫田組の組員です、超健全な店を経験させるとかで、研修の一環だそうです。」
「スタッフの子に不安は無いのかな?」
「誰も心配していません、問題を起こしそうな人を小夜さんが店に入れるとは思えませんので。
今日来てる人達は会社で言うところの管理職だそうです。」
「そうか、店のオープンが決まったのだったな、テレビで見たよ。」
「その番組の反響が大きくて、今後の流れを軌道修正なんだそうです。」
「反響というと?」
「前回より猫田組の事を詳しく説明したではないですか。
それで、高校をやめたとか、やめたいという子達が猫田組に入りたいと、それが結構な人数なので、どう受け入れて何をさせるか…、甘くし過ぎる訳には行きませんので、受け入れたとしてもそこからドロップアウトする子達をどうフォローして行くのか等、検討しているそうです。
小夜さんは番組で、少し過激だけど正義を貫く感じ、その感覚が若者の心を掴んでいると思います。」
「ほかっておいたら良からぬ事をするかも知れない連中だから組の配下に入れて見守るのかな?」
「中退イコール犯罪では無いと思いますが、小夜さんは彼らの為に目標を作りたいと話していました。」
「目標は必要かもな、それで何人ぐらいの問い合わせが有ったの?」
「今のところ五十人ぐらいだそうですが、まだまだ増えそうだと聞いています。
募集をしていないのにこの人数、組員募集を正式に発表したらそれなりの人数になるでしょう。」
「高校や大学を卒業して就職という流れから外れた子達を守って行けたら大きいだろうな、猫田組長を心の拠り所にしてか…。」
「強者の下に居たいという心理が有ると思います。
小夜さんは社会の常識に対して怯む事無く自身の主張をされています、彼らの英雄ではないでしょうか。」
「英雄と女神…、そこに常識人としての桜さんと藤沢くんや松尾さんという天才…、穂香ちゃん、日本が変わりそうな気がしないか?」
「ふふ、もう変わり始めていますよ。」
「これから支社がどんどん増えて行きますが、それに対する資金援助も膨れ上がっています。
松尾常務の会社もこの事業に大きく貢献している事が知られてから更に売り上げを伸ばしているそうです。
猫田組が良い形で広がってくれたら更に勢いづくのではないでしょうか。」
「大きな組織になりそうだね。」
「はい、ファンクラブ、加奈お嬢さまの僕達も拡大を続けています。」
「大きくなるとトラブルも多くなりそうだが…。」
「仕方ないです、加奈お嬢さまには詳しくお伝えしない事になっていますが…、子どもを残して亡くなってしまったスタッフもいますし。」
「ああ、元々病弱だったのだろ。」
「はい、子どもはスタッフが面倒を見て行くからと言われて、安心したのか穏やかな最期だったそうです。
ただ、赤の他人が面倒を見て行くには法的な問題が有りまして。」
「解決出来たの?」
「はい、何とかなりましたが、今後の事も考え児童養護施設の運営を始める事になりました。
親に何か有っても対応出来ますし、養護施設出身の人達が沢山のお母さんに守られる環境は絶対良いと力説したそうです。」
「病気以外の理由で不幸な子達を本格的に救って行けそうなのかな?」
「世のお金持ちが無視出来ない存在になって来ました。
お金儲け自慢をすると、どれだけ社会的弱者に対して支援をしているのかを問われる風潮が芽生えつつ有るみたいです。
松尾さんがテレビ番組で、色々語って下さったのが大きいのでは有りませんか。」
「あれはすごい宣言だったな、近い将来、働く意欲の有る障碍者は全員我が社で雇い守って行ける体制を作る、社会的弱者を我々の保護下に入れていく事で日本を再生する。
今まで誰も口にした事のない…、だが彼なら、いや彼等なら女神さまに見守られてやってくれそうな気がするよ。」
「ふふ、その彼等には斉藤さんも含まれますよね?」
「はは、とてつもなく微力だがな。」
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大下穂香-10 [化け猫亭-13]

「穂香ちゃん、猫田組の新情報はないの?」
「組員の一般募集が始まります、公募一期生にはかなり厳しい条件がついていますが、組織が固まったら少しずつ緩めて行くそうで、一期生は幹部候補だそうです。」
「厳しいと言うと?」
「九九が言えるぐらいではダメです。」
「それはそうだろ。」
「でも、因数分解が出来なくても問題ないそうで、弱者の味方になれるかどうか人間性を試すと。」
「人間性か…。」
「まずは掃除が出来るかどうかから始めると聞いています。」
「応募してくる人の中にはやんちゃな奴もいるのだろ、出来るのか?」
「やくざの世界でも下っ端は掃除とか雑用なんだそうで、それすら出来ない様なら幹部候補にはなれないのだとか。」
「う~ん…。」
「学校とは違う基準で各自の能力を判断し育てて行くそうです、組長には絶対服従が条件、その辺りを踏まえてどれぐらいの応募が有るか楽しみです。」
「変人系の応募も有りそうだが。」
「それでも構わないそうです、普通の新人教育とは違った視点で個々の特性を見極めながらの教育を、担当スタッフ達も考えているそうで。」
「あっ、研究対象なのか。」
「はっきり言っては駄目ですよ。」
「はは、まあ資金面には余裕が有るだろうから、組員を立派に育てて欲しいな。」
「室田さんはバトルの話、ご存じですか?」
「え? 何の事?」
「ルールの有る喧嘩で各世代の一位を決める企画です。」
「喧嘩? 格闘技ではなくて?」
「新しい格闘技だそうです、場所はリングではなく砂浜とか芝生広場とか、まずはネット配信から始まりますが興味を示しているテレビ局が有るそうです。」
「それを猫田組が仕切るという事か?」
「はい、賞金百万円ぐらい軽く出せる収益を期待しているそうです。」
「もう調査済みという事か。」
「暴力的な衝動を発散させる場にならないかという事ですが、効果の程は分かりませんよね。」
「その過程で人物を見極め、場合によっては猫田組へと考えていそうだな…。」
「組員同士の喧嘩は禁止だそうですが、ルールの有る喧嘩は推奨だとか。」
「喧嘩したくなったら公式戦という事なのか?」
「はい、松尾常務は口喧嘩も有りだと話しておられました。」
「えっ? ルールの有る口喧嘩?」
「やってみないと分かりませんよね。
でも、言いたい事を思いっきりぶつけ合って勝てたらストレスが発散出来そうです。」
「負けたらある意味悲惨かな、勝敗をどうつけるのか分からないが、まあ、猫田組の今後には注目だね。」
「はい。」
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