SSブログ
花鈴-04 ブログトップ

ピーマン-31 [花鈴-04]

「残念ながら魔法は使えないけど、理科の実験は魔法みたいに皆を驚かせそうなの?」
「驚かす程のは先生も考えてない、ただ自分が先生の授業を手伝うと言うことに驚いてるよ。」
「先生とは上手く行きそう?」
「一年生の頃の自分じゃないし、ここでは色々気を遣って貰ってるからな。
 社会科は先生の話をBGMに小学生の教科書ではなく中身の濃い本や資料で学習させて貰ってるだろ。」
「資料は私達で用意したのだけど、もっと良いのが有ったら教えてね。」
「う~ん、社会科は受け身かな、必要性は理解してるけど自分から積極的に取り組みたいとまでは思ってないんだ。」
「そっか、一応、歴史は中学生の範囲をざっと確認してから、特に興味を持った人物に付いて深めるとか、同時代の日本と海外の比較なんてことを考えているのだけどね。」
「もしかして花鈴姫が僕達の学習を担当してるとか?」
「社会科はね、落ち着いたら大賢者にも何か担当して欲しいかも。」
「まずは実験をきっちりこなしてからだな。」
「大賢者が今までに経験した実験にはどんなのが有るの?」
「実は映像を見るのが中心で生の実験はそんなに経験が無いんだ。
 でも映像と生の違いは理解しているつもり、映像では火が熱いって感じられないだろ。」
「そうなのよね、忙しい先生は実験をやりたがらない、その結果理科離れが進んだって教頭先生が嘆いてたわ。
 映像や写真だけでは分かったつもりになるだけ、海だって実際に見ないとその広さは実感出来ないのよ、それでピーマン栽培だけど、明日種蒔きするからね。」
「大切に栽培したピーマンを食べるなんて、僕には無理かも。」
「ピーマンだけじゃないから安心して良いわよ。
 ついでに絵梨のお母さんから色々聞かれるかもだけど、その見返りは有るからね。」
「取材対象として?」
「多分ね、本名を出したくなかったら仮名になるし写真にモザイクを掛けても良いのよ。」
nice!(11)  コメント(0) 

ピーマン-32 [花鈴-04]

 土曜日の朝、絵梨のお母さんが車で私達をかき集め、家庭菜園での作業が始まった。
 大した作業ではないのだけど、雑誌の記事にするため写真撮影やインタビューの時間も。

「小枝子さん、ピーマンだけで五種類も蒔くのですか?」
「花鈴ちゃんがまとめてくれたピーマン嫌いな子の話から話が広がっていてね、どれも知り合いが送ってくれたものなの、ちょっと辛いのも有るけど夏が楽しみだわ。」
「辛いのは兎も角、それぞれ味が違うのです?」
「そうらしいけど品種だけでなく栽培環境によっても違うそうよ、ピーマンだけでなくね。」
「微妙な違いなんて分からないですよ、野菜の味なんてそこまで気にして食べてないですから。」
「難しいのよね、本当に味が違うのか気分や体調によって違うのか分からないでしょ。
 その違いを文章で表現するなんて無謀で無意味だと思わない?」
「それでも、小枝子さんはもっともらしくまとめるのですね。」
「味や匂い熱量を表現しても微妙なのは映像も同じなのよね、だからテレビで美味しいと宣伝されたものは実際に食べてみるしかないのよ。」
「この前頂いたシフォンケーキは美味しかったです、あれは通販?」
「通販を主体にしたらこんな田舎でも店をやって行けそうだと考えて越して来た店の商品なの。
 子どもの将来を考え、もう少し売り上げを伸ばしたいそうだから宣伝を手伝っていてね。」
「こんな田舎にケーキ屋さんが出来たのですか…。」
「私も驚いたけど競争相手がいないし国道沿いだから普通に売れてはいるのよ。」
「そっか、転校が決まった頃は何も無い田舎に引っ越すと聞いたけど、実際に暮らしてみたら色々有りますものね。」
「それでも自然が好きではない人にとっては何も無い田舎なのでしょう。
 あっ、絵梨、準備は出来た?」
「ええ、大賢者達が働く姿を撮影するのでしょ。
 下準備から写さないと、ただ種をパラパラするだけでは無意味でしょ。」
「じゃあ、みんなお願いね。」

「ねえ、大賢者…。」
「花鈴姫、何ですか?」
「これから嫌いなピーマンを見ると私達のことを思い浮かべることになるのだけど、私達のことをあまり嫌いにならないでね。」
「うっ、そ、それは…。」
nice!(9)  コメント(0) 

ピーマン-33 [花鈴-04]

 ただ種を蒔くだけなら簡単なことだが、それぞれの品種が分かる様にする作業と、畑に植える準備もしたのでそれなりに時間が掛かった。
 それでも、皆の家族が昼食に合わせて集まって来る頃には着替えも済ませて。

「花鈴は畑を耕したのか?」
「少しだけね、でもお父さん、張っ切ってた大賢者はミミズも苦手なのよ。」
「い、いえ、苦手と言うより今まであまり見たことが無かったので…。」
「ミミズはピーマン栽培に有用なだけでなく、小動物の餌としても役に立っているのだけどな。」
「はい、小栗さんから色々教えられました。」
「竹中くんにとって自然の循環は興味の対象外だったのか?」
「そうですね学習はしていましたが、実際に畑を耕しながらその意味を教えられると、もっと知りたいと思うように、窒素が肥料だなんて知りませんでしたので。」
「まあ、普通の五年生は知らないことだから気にしなくて良いさ、絵梨ちゃんは一つのテーマとして、この家庭菜園に取り組んでいる、今年はその中心がピーマンの栽培になるかな。」
「はい、大賢者にも楽しんで貰います、ピーマン嫌いの大賢者が大人になった時、ピーマンを見る度にここでの暮らしを思い出すのです。
 それが、楽しい思い出になるのか、切ないもの悲しいものとか、どうなるのかは分からないけど、取り敢えずピーマンが特別な存在になる様に頑張る、花鈴の考えることは面白いです。」
「ふう~、どうしてピーマンなのかな~。」
「好き嫌いの感覚、感情に付いて考えてるの、私達が恋をして共に子どもを産み育てたいと思うレベルのことはまだ全く分かってないけどね。
 大賢者がピーマンを好きになる必要はないの、ただピーマンに対する苦手意識を分析したくて、夏休みの自由研究のテーマでも有るからよろしく。」
「ピーマンが嫌いだなんて教えなければ良かったのかな。」
「そうね、お菓子が嫌いだと言ってたら、今頃目の前には沢山のお菓子が並んでいたのかも。
 私達の手作りクッキーだから、無理して食べなくて良いのよと言いながら私達は美味しく頂くの。」
「美味しいの?」
「ピーマン嫌いの人とは味覚が違うかも知れないから何とも言えないわ。」
nice!(11)  コメント(0) 

ピーマン-34 [花鈴-04]

「皆さん、そろそろ焼けて来ましたよ。」

 五家族の大人達が小枝子さんの指示で動いていたのでバーベキューの準備は早かった。
 特にお父さんとお兄ちゃんは何度もやってることなので手際が良いのだ。

「まずはピーマン、うん、美味しいわ、これはビニールハウスで栽培されたものなのね。
 小枝子さん、ここにビニールハウスは建てないのですか?」
「協力してくれてる人次第かしら、冬場に遊びを兼ねて来てくれる人が増える様なら考えてみても良いのだけど。」
「田中くんを農業に目覚めさせることに成功したら、ビニールハウスの名前はひろっちハウスにしてもいいよね?」
「ひろっちはどうなの?」
「お嬢様からこの家庭菜園に植えて行く野菜の話を聞いて興味は有ります。
 スイカやトウモロコシ、トマトなども栽培するそうで。」
「ピーマンのついでにね。」
「纐纈社長、社長がここを手伝うことも有ると聞きましたが。」
「田中さん、私が手伝うのは主に食べる方ですが、ちょっとだけなら畑の作業は楽しいものですよ。」
「そうですか、家内とは折角田舎暮らしをするのなら家庭菜園に挑戦したいと話していたのです。
 ここは家族寮から近いですし私達も休日にお手伝いさせて頂けたらと思うのですが如何でしょう?」
「それなら耕作地を広げましょうか、隣の耕作放棄地も購入済、小枝子さんの取り組みを見ながら考えようと思っていたのです。」
「田中さん、この畑も纐纈さんに借りているのですよ、私達には農業体験と言う企画が有るのですが、元は花鈴ちゃんの一言だったそうです。」
「はは、花鈴が二年生の時に行ったいちご狩りで、美味しく実った所を食べるだけだなんて何か違う気がすると言い出しましてね。
 それなら自分で栽培してみようと、引っ越しの予定は有りましたので、この土地を購入したのです。
 花鈴、イチゴの収穫は何時頃からになるんだ?」
「五月の終わりぐらいかしら、去年は知識不足で今一だったけど、その失敗を活かしてるから期待して良いわよ、実は小さいけど、その方がリスクが少ないの。」
「花鈴お嬢様、やはり自分の手で栽培するのは楽しいですか?」
「田中さん、お嬢様はダメよ、そんな呼ばれ方をしたら隣の土地を耕しておきなさいと命令しそうになるでしょ。
 仕事としての農業は大変そうだけど無理の無い野菜作りは楽しいし、近所の人達が手伝ってくれたり採れ過ぎた大根をお裾分けしてくれたりするのですよ。」
「う~ん、花鈴お嬢様の下で菜園に取り組むのは楽しそうですね。」
「はは、日頃部下に指示してるからか?」
「ええ、纐纈社長、息子の浩紀から毎日の様に花鈴お嬢様の話を聞かされていましてね。
 私も仲良しグループの一員になりたいのですよ。」
nice!(11)  コメント(0) 

ピーマン-35 [花鈴-04]

「何故か近所の大人達は花鈴ちゃんを見掛けると手伝いたがるのよね。
 纐纈社長と相談してこの菜園を開いた時は誰も関心を寄せてくれなかったのに、花鈴ちゃんが手伝いに来てくれる様になってからは自分の作業そっちのけで。」
「小枝子さん、仕方ないですよ、社長令嬢と言う肩書、人は肩書に弱いのです。」
「花鈴ちゃんはそのことについてどう思ってるの?」
「偉いのは大きな会社を動かしている父で有って私ではないです。
 私は、まだ社会の役に立てる大人になる為の学習をしてる段階ですから。」
「さすが優等生、絵梨も優秀だけど本音で生きてるから、そんな話はすらすら出て来ないのよ。」
「そんな風に育てたのはお母さんでしょ。」
「はは、社内報、小栗小枝子さんの記事そのままなのですね、本社移転予定地での生活紹介や個人でやってらっしゃるYouTubeチャンネルの影響で私を含めた本社勤務希望者が増えたのですよ。」
「ですが、問題はずっとここで暮らせるかですよね、纐纈社長。」
「別に永住しなくったって良いのですよ、しばらく暮らした経験が想い出として残るだけでも。
 ここにやって来る子ども達の中には、成長し海外へとその拠点を移す子が出て来るかも知れません、そんな彼らが子ども時代の風景として、この地を思い出してくれたら素敵じゃないですか。」
「う~ん、そのお言葉、次回の社内報向け記事に入れさせて頂きます。」
「それより今日のメインゲストは竹中さんだろ、竹中さん、ここでの生活には慣れましたか?」
「お陰様で落ち着きました。」
「お仕事面での不自由とかは?」
「ネット環境さえ整っていれば出来る仕事ですので問題有りません。
 それより息子の表情がここに来てから随分変わりまして、やはり能力の高い同世代の子の存在は大きいと痛感しています。
 東京から越して来て良かったですよ。」
「苦労されてたのですね?」
「子どもの才能は伸ばしてやりたいじゃないですか、でも日本の教育制度にはそんな考えは無いと改めて思い知らされました、自分の子ども時代と何も変わって無くて。」
「教師に余力は有りません、花鈴は先生の手助けもしているのだろ?」
「うん、この地を学校から変えて行こうと考えてる大人達が教頭先生を動かしてくれて自分達の意見が通る様になったからね。」
「やり過ぎてはいないよな?」
「どうかしら、でも五月になったら研究室の大学生が来るでしょ、先生達はそれにどう対処するとか、色々迷ってるみたい。」
「情けないのよね、ただ教えられて来た様に教えてるだけだから、花鈴より教えるの下手だし、特別実験校になることについて行けないのよ。」
nice!(14)  コメント(0) 

ピーマン-36 [花鈴-04]

「絵梨ちゃん、特別実験校になるのに先生は特別ではないのかい?」
「普通の公立学校の見直しなのですよ。
 大きな学校では大変だから児童数が程良く、地元の理解を得られていると言うか児童数の増加を目論んだ、ここの大人達が頑張ってあちこちに掛け合って何とか実現したことなのです。
 ですから教頭先生は乗り気でも他の先生は今一つで。
 五年一組の担任は教頭先生に言われて理科の実験準備を竹中くんと取り組み始めてるのですが、口癖は忙しくなったなのです。」
「だから先生に成り代わって?」
「正直な話、花鈴と私で教えた方が効率的なのです。
 英語はLilyに勝てる先生がいないのですし。」
「ALT、外国語指導助手はいるのだろ?」
「体が大きくて少し怖いのです、男性の低い声よりLilyの方が断然分かり易いです。」
「言われてみればだな、かと言って小学生は雇えない訳だ。」
「授業に関係なくLilyと話し教えられてるから絶対普通に話せる様になろうって花鈴と頑張ってるのです、あっ、竹中くんと田中くんもついでにです。」
「その、ついでにって言ってしまうとこが絵梨で、御免ね田中くん。」
「いえ、僕はついでで充分です、ここに来てから学ぶことが多くて大変ですが、充実した毎日を送っていることは間違いないです。
 前の学校で受けてた退屈な授業と違い中身の濃い学習は自分の能力を伸ばしてくれてると実感しています。」
「田中くんも大人びた話し方をする子なのね。」
「竹中くんの様な高い才能を持っている訳では有りませんが、同級生と話すより大人と話す方が楽で。」
「今は花鈴ちゃんと話すのが楽しいとか?」
「はい、毎日が刺激的ですから、竹中くんもでしょ?」
「勿論さ、ピーマンで盛り上がってることだけは納得出来てないけどね。」
nice!(13)  コメント(0) 

ピーマン-37 [花鈴-04]

「ピーマンへの取り組みは五月から来る大学生にも伝えて行くつもりなのか?」
「勿論よ、労働力にもなって貰うつもり、手伝ってくれない人の質問に応える必要はないでしょ。」
「そうか、ならば田中さんも手伝って下さると言うことで、そろそろ隣の耕作放棄地をきちんとして貰うかな。」
「纐纈社長の土地はどれぐらいの広さなのです?」
「ここから見える田植えの準備が始まってないエリアで、一部は道路と駐車場になります。」
「かなりの広さですね、何か戦略でも?」
「戦略と言うほどのことでは有りませんが、ここを訪れた観光客が実際に畑で栽培されてる野菜を見られる様に出来たらと考えています、いずれは農業公園にしたいですね。
 猪や鹿の肉を売りながら赤字にならない程度に出来ればと。
 ピーマンばかりにはしないから安心して良いよ、竹中くん。」
「はい、野菜がどんな風に栽培され実を付けているのか写真でしか見た事ないので興味は有ります。」
「自分達が食べてるもののことをもっと知って欲しいのだよ、ついでに日本の食料自給率が低いこともね。」
「食糧自給率?」
「突然輸入が止まったら大変なことになるんだよな、花鈴。」
「食糧や燃料を輸入に頼ってるから、それが止まると社会経済が混沌、お父さんの会社も大変なことに、でも私達はそうなっても自給自足で取り敢えず問題なく暮らせる様に考えてるのよ。」
「う~ん、学ぶべきことが増えて嬉しいよ、ひろっちは聞いてたのか?」
「うん、まだピンとは来てないけど。」
「えっと、花鈴、Lilyちゃんはまだ紹介して貰ってないぞ。」
「そうね、Lily、そんなに緊張しなくて大丈夫だから、お父さん、英語で話して上げて。」

 お父さんとLilyは暫く英語での会話、何を話しているのか分かる所も有るが、まだまだ学習の必要は沢山有りそうだと感じた。
 聞くのをやめたのは、二人が私の話ばかりしていたから。
nice!(13)  コメント(0) 

ピーマン-38 [花鈴-04]

 私は、娘を心配そうに見ているLilyのお父さんに声を掛けることにした。

「伊藤さん、ここでの生活は如何ですか?」
「花鈴お嬢さま、極めて快適で本社勤務をお願いして良かったと思っています。」
「会社ではどの様なお仕事をなさっているのです?」
「色々やっていますが、海外の事業所などとの電話対応を任されています。
 英語に堪能な方は多いのですが電話になると少し勝手が違いますので。」
「難しいのですか?」
「面と向かって話す時は相手の表情などから無意識の内に色々な情報を得ているのです。
 電話ではそれが無く、初めて話す人だと誤解を生じかねません。
 極端な話、怒っているのか喜んでいるのか分からないことも有るそうです。」
「言われてみればそうですね、面と向かってなら指で物を指したりも出来ますから。
 Lilyからは沢山教えて貰っていますが彼女に問題はなさそうですか?」
「お陰様で佑理は明るくなりました。
 最初にお嬢さまのメイドになると聞かされた時は良く分からなかったのですが、とても良くして下さってるからだと知り安心しました。
 花鈴お嬢さまは人の器とか考えられたことは有りますか?」
「器?」
「纐纈社長を尊敬出来るのは社長の器を持っておられるからです。
 佑理の話を聞いていると、お嬢さまもリーダーとしての器を持っておられる。
 だから子どもだけでなく大人も集まって来るのでしょう。」
「リーダーの話は兄から聞かされていますが、まだ分かっていません。
 ここの大人達は優しい人ばかりなので相談に乗ってくれたり菜園を手伝ったりして下さいます。」
「私にもお手伝いさせて下さい、報酬はピーマンで構いませんので。」
「ふふ、ピーマンだけでは有りませんよ、野菜の自給自足を目指していますから。」
「始めは何の変哲もない田舎だと思ったのですが、こうした時間を持てる環境は悪くないです。
 娘共々よろしくお願いします。」
「こちらこそお願いします。
 ここだけの話ですが、もうすぐやって来る大学の学生達、その英会話能力がどれぐらいなのかに興味が有るのです、でも私では判断出来なくて。」
「国立大学の学生だと聞いてますのでそれなり話せると思いますよ、三流大学の学生とは違いますから。」
nice!(13)  コメント(0) 

ピーマン-39 [花鈴-04]

 昼食の後片付けが早かったのは、お父さんが大人達に、お兄ちゃんが子ども達に指示を出していたから、伊藤さんが話しておられたリーダーとしての器ということか。
 小枝子さんによってピーマンの会と名付けられた五家族の昼食会は終わったが、これから更に交流を深めるそうで、大人達は夜に我が家で酒盛りすることが決まっている。
 私達は絵梨の家で作戦会議。

「畑が広がったら野菜だけでなく色んな物を栽培してみたいわね。」
「自給自足となると量も必要じゃないの?」
「大賢者、良く食べる物はご近所から貰えるから量は控えめで良いのよ。」
「お嬢さま、果物はどうですか?」
「ええ、木を植えたいわね、夏に木陰は必要でしょ。」
「良いけど、桃栗三年柿八年でしょ、食べられるまでがね。」
「苗木を買って来ればとは思うけど、この五人が八年後に柿の実を食べに集まるとか考えるのも楽しいと思うな。」
「纐纈社長が話しておられた農業公園を目指すなら、色々な果物も植えるべきだと思う、例え名称がピーマン農業公園になったとしても。」
「ひろっち、ピーマンはもう勘弁してくれよ。」
「でも今日は食べなかったのだろ、自分達で育てたのを楽しみにするとか言って。」
「それは…。」
「大賢者、諦めるしかないわよ、お母さんがピーマンの会と命名してしまったから、それなりの人達がピーマンの会に注目することになるの。
 YouTubeチャンネルのネタになるし、田舎暮らしの紹介がお母さんの仕事だからね。」
「僕らもYouTubeに登場するのかな?」
「そこは相談になる、私と花鈴は顔を出してるからお母さんが細かく計算したギャラが貰えるけど、今日撮影したものでも編集して大賢者がいなかったことにも出来るの、お父さんがドローンを飛ばして撮影したものは誰だか分からないけど、それでも了解を得て使うのよ。」
「ギャラか、それは魅力的だね。」
「その辺りは親子で話し合ってからになるけど、魅力的な番組制作に大賢者が協力してくれたら閲覧する人が増えてお小遣いアップかな。」
「そう言うものなの?」
「五年生が難しいことを分かり易く説明するとか、今までは可愛い花鈴目当てで見る人が多かったのだけど違う視聴者層を呼び込みたいのよね。」
「う~ん、絵梨、ピーマンを語る天才少年ってどうかしら?」
nice!(8)  コメント(0) 

ピーマン-40 [花鈴-04]

「どうせならピーマンではなく得意なことの話をしたいのだけど。」
「それには、もう少し分かり易く説明出来るトーク力が必要だわ。
 どんなに凄いことを考えていても、それを人に上手く伝えられなかったら無意味でしょ?」
「う~ん、そんなこと考えたこと無かったけど…、分かり易い説明は花鈴姫や絵梨先輩の得意分野だと言うことは分かるよ。」
「ねえ、大賢者が今取り組んでる数学のことは全く分かりそうにないのだけど、それを理解する為にはどんな知識が必要なのかって考えてみてくれないかな。
 私達はその必要な知識を学んでないのだから、それを学ぶまでのステップも、今大賢者が取り組んでるのは高校生レベルの数学なのでしょ。
 私達凡人の五年生が今の大賢者にたどり着く道筋を知っておきたいの。
 高校生までに普通に学習して行くことかもだけど、大賢者は凡人のことを知っておくべきだと思うのよ。」
「能力の高い花鈴姫が凡人だとは思えないけど、自分も順を追って学習して来たのだから難しいことではないと思う、君達にならある程度の所まで教えられるかも。」
「それはそれで微妙だわ、今は畑のこととか考えることが多いでしょ。」
「絵梨はお小遣いが掛かってるものね、でもピーマン関係の動画と並行して一本ぐらいならお兄ちゃんが手伝ってくれるかも知れないわよ、大賢者、中三のお兄ちゃんは高校の数学に取り組んでるの。」
「うん、社長になると言う明確な目標が有って学習に取り組んでるそうだとお父さんから教えて貰った、今日はあまり話せなかったけど、今興味がある人の一人なんだ。」
「お父さんの会社を継がなかったとしてもプログラミング関係の会社を立ち上げるのだとかで、お父さんとは起業の話もしてるのよ、でも難しい話はここまでにして畑の相談をしましょ。」
「そうね、私は四角くない畑が良いわ、同じ作物を沢山栽培するのなら四角いのが効率的なんだろうけど、面白くないでしょ。」
「一年生の頃にチューリップの球根を植えた時は、花壇が四角かったので真っすぐ並べて植えましたが四角に拘る必要は無いのですね。」
「花壇をイメージした畑は良いかも、ついでに花も栽培する?」
「栽培しなくても小さな花は私達の菜園にいっぱい咲いてるでしょ?」
「私達しか気付かない小ささでは華やかさに欠けるわ、野菜ばかりでないと示すことで私達の心のゆとりを感じて貰うのよ。」
「作業効率を考えなくて良いのが家庭菜園の良さだけど、これからはかなりの広さになるのよね。
 作業分担することになるだろうから、私達のエリアを確保して、少なくともそこだけは効率無視で…、日々の変化をより感じられる畑にしたいな。」
「日々の変化?」
「普通に畑をやっていても蕾が出来て花が咲いて実を結ぶのだけど、そこに目を楽しませてくれるプラスアルファがあればYouTubeを見てくれる人が増えるかもでしょ。」
nice!(11)  コメント(0) 
花鈴-04 ブログトップ