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ピーマン-32 [花鈴-04]

 土曜日の朝、絵梨のお母さんが車で私達をかき集め、家庭菜園での作業が始まった。
 大した作業ではないのだけど、雑誌の記事にするため写真撮影やインタビューの時間も。

「小枝子さん、ピーマンだけで五種類も蒔くのですか?」
「花鈴ちゃんがまとめてくれたピーマン嫌いな子の話から話が広がっていてね、どれも知り合いが送ってくれたものなの、ちょっと辛いのも有るけど夏が楽しみだわ。」
「辛いのは兎も角、それぞれ味が違うのです?」
「そうらしいけど品種だけでなく栽培環境によっても違うそうよ、ピーマンだけでなくね。」
「微妙な違いなんて分からないですよ、野菜の味なんてそこまで気にして食べてないですから。」
「難しいのよね、本当に味が違うのか気分や体調によって違うのか分からないでしょ。
 その違いを文章で表現するなんて無謀で無意味だと思わない?」
「それでも、小枝子さんはもっともらしくまとめるのですね。」
「味や匂い熱量を表現しても微妙なのは映像も同じなのよね、だからテレビで美味しいと宣伝されたものは実際に食べてみるしかないのよ。」
「この前頂いたシフォンケーキは美味しかったです、あれは通販?」
「通販を主体にしたらこんな田舎でも店をやって行けそうだと考えて越して来た店の商品なの。
 子どもの将来を考え、もう少し売り上げを伸ばしたいそうだから宣伝を手伝っていてね。」
「こんな田舎にケーキ屋さんが出来たのですか…。」
「私も驚いたけど競争相手がいないし国道沿いだから普通に売れてはいるのよ。」
「そっか、転校が決まった頃は何も無い田舎に引っ越すと聞いたけど、実際に暮らしてみたら色々有りますものね。」
「それでも自然が好きではない人にとっては何も無い田舎なのでしょう。
 あっ、絵梨、準備は出来た?」
「ええ、大賢者達が働く姿を撮影するのでしょ。
 下準備から写さないと、ただ種をパラパラするだけでは無意味でしょ。」
「じゃあ、みんなお願いね。」

「ねえ、大賢者…。」
「花鈴姫、何ですか?」
「これから嫌いなピーマンを見ると私達のことを思い浮かべることになるのだけど、私達のことをあまり嫌いにならないでね。」
「うっ、そ、それは…。」
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