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11-愛華 [岩崎雄太-02]

しばらくして、新会社設立準備室は愛華をリーダーに十名となった。
メンバーは主に雄太の父親関連企業からの出向、それぞれが自分の役目を終えたら元の職場に戻る予定。
社名は株式会社岩崎、これには岩崎家の三代が責任を持つという気持ちが込められている。
本社は大鹿が手に入れてくれた隣村の一軒家。
一度現地を見ておきたいという準備室メンバーが友人を誘って訪問、綺麗にしてくれた。
だが実際に本社が機能し始めるのはまだ先の事。
準備室のメンバーは都会のビルで作業している。

「愛華、一次面接合格者の現地見学、費用はどうする、社長からは全額こちらで持っても良いと言われてるけど、入社する気の無い人が旅行気分で応募して来たら気分悪いわよ。」
「一次面接は慎重にやるけど…、そうね旅費は自己負担、但し採用させて頂いた方には後でお返しするというのも有りじゃないかしら、本気の人は気にしないと思うわ。
経済的問題の有る方は本気度を見て、その場でお返ししても良いわね。」
「そうね、その方向でまとめてみるわ。」

「愛華、役場に紹介して貰った林業関係の団体は、かなり力になってくれそうだよ、社員候補も紹介して貰えるかもしれない。
その関連で林業に携わってる会社を幾つか調べたけど、社長が考えておられる給与水準なら問題なさそうだね。」
「そうすると、団体の方とは社長との席を設けた方が良いのかしら。」
「出来ればね、オペレーターの研修に協力して頂けるし、会社を大きくして行く過程で力になって下さると思っている。」
「スケジュールを調整させて頂く方向で社長にお願いしておくわ、団体のデータは頂けますか?」
「ああ、林業系のスタッフ向けにまとめておくよ。」

「愛華、このプロジェクトの噂を聞いた知人が大工として雇って貰えないかと言って来たのだがどうだろう。」
「人物的には?」
「特に親しい訳でもないから、面接で見極めるしかないが。」
「では一次面接の日程を決めて下さい、準備室メンバーで対応します、本気の人なら隣村の住宅補修計画を作って頂きたいですね。」
「了解、住宅の確保は優先順位が高いから急ぐよ。」
「先々の事ですが、ご近所の住居補修を請け負う事も視野に入れて下さい、近くに工務店がないので遠くから来て貰っているそうです。」
「だろうな、建築部門は自社の建築物中心と考えていたけど、その視点も持っておく。」

「愛華、現状だと女性の応募が期待できないと思わない、華のない村だから。」
「華か…、商品として花ってどうかしら、温室を作っても良いし、ほら憧れの職業に花屋さんって有るでしょ。」
「う~ん、売るのと作るのとでは違うと思うけど、村のイメージ的には良いわね、愛華、調べてみるわね。」
「お願いします。」

「愛華、土地の方は現時点で大鹿さんが手に入れて下さったものも含めすべて新会社の所有という事に出来そうよ。」
「新会社は面積だけなら大地主になった訳ね、手続きの方は大変だったのでしょ、専門家に任せれば簡単なのに。」
「その分費用が嵩むわよ、でも実際にやってみたらそれ程大変でも無かったし、書類に不備が有ったら提出先の担当者が教えてくれるの、資金が無限に有る訳じゃないから、節約出来る所は節約しなきゃね。」
「さすが明香だ、今後も手放したい人の土地を引き受けて行くのよね。」
「村から車で一時間半ぐらいまでの範囲なら無条件かな。」
「新会社の任務は固定資産税を払う事なのかしら。」
「それだけでも社会に貢献してるって事でしょ。」
「そうね。」
「愛華の方はどうなの? リーダーとして。」
「メンバー全員年上という環境にも慣れて来たかな、始めは半端なくプレッシャーだったけど、皆さん気を使って下さってね。」
「問題はない?」
「色々有るけど、一つずつ皆で解決して行くしかないのよ、ただドキュメンタリー番組の撮影はね…、立場上出番が多そうでさ。」
「愛華の美貌を生かすチャンスじゃない、応募者が増えるわよ、愛華目当てで不便な田舎の会社に採用される、そして彼氏の存在を知り一同落胆、なんて構図、面白くない?」
「面白くない! 明香は良いわよ、もうすぐ婚約発表なんでしょ、祐樹は、はっきりしてくれなくてさ、ねえ、社長の愛人とかにして貰えないかな。」
「絶対だめ!」
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12-面接 [岩崎雄太-02]

一通りの形が整った所で社員募集開始。
少しずつでは有るが問い合わせも来ている。
不便な環境で生活する事は隠さなかったが、隣村の古い家に住むなら家賃は無料、新たに建設する住居に入居する場合も家賃は格安、食費はしばらく一食百円で提供、といった条件提示と自然環境に惹かれた人達が一次面接を受け始めた。

「一番近いコンビニまで車で一時間半といった田舎ですが大丈夫ですか?」
「はい、この募集を見て色々考えました。
岩崎社長は本気で過疎地の再生を考えておられる、他の大金持ちは考えもしなかった事です。
だったら力になりたい、自分もチャレンジしたいと思いまして。
私が大学卒業後入った会社は…、親に体を壊す前にやめなさいと言われる様な会社だったのです。
何とかやめてアルバイトをしていますが、働く事の意味を考えていました。
ただ生活費を稼ぐ為だけの労働ですから。
山奥での新たな集団形成、当然綺麗ごとでは済まされない事も有ると思っています。
でも、今までよりは人間らしく生きられないかと。」
「大学は経済学部だったのですね、経理とか事務的な作業は大丈夫ですか?」
「ええ、他に必要なスキルが有ればすぐにでも学習を始めます、もちろん林業の現場でも、初期は住宅の修繕に人手が欲しいとの事ですから、経験値は低いですがサポートぐらいならやりますよ。」
「そう言って頂けると助かります、初期は経理事務をしながら空いた時間で住宅の修繕とかお願いしたいです。
この後は現地の見学をして頂いてから最終面接で決定となります。
現地見学の日程はこちらから選んで下さい。」
「では第一回でお願いします。」
「電車ですか? お車ですか?」
「車で行きます。」
「分かりました、ガソリン代は経済的に問題がなければ自己負担ですが、入社が確定の場合は初回の給料でお返しさせて頂きます、幾ら掛かったか報告をお願いします。」
「家族が一緒でも構わないでしょうか。」
「ええ、ご家族の方にも是非どんな所か見て頂きたいです、今後ドキュメンタリー番組で伝えて行きますが、生の方が分かり易いでしょう。」
「番組って、テレビのですか?」
「ええ、社長のお父さまの会社がスポンサーです。」
「あっ、この会社ってものすごく安定した企業になるという事で…。」
「良い人材が集まればの話ですが、優良企業になると思います。」
「それなら両親にも話がし易いです、でも、そこまでの事は募集案内になかったですよね、書いてあれば応募も増えるのではないですか?」
「楽な仕事でもないので企業名に惹かれて安易に申し込まれても困るのです。
都会とは違う生活には安定企業であっても馴染めない可能性が有りますから、それなりの覚悟を示して下さった方にのみお伝えする様にと、社長からの指示です。」
「なるほど、どんな所なのか現地見学が楽しみです。」
「後は…。」
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13-現地見学 [岩崎雄太-02]

現地見学会、一回目は五名の希望者とその家族となった。
雄太も時間を合わせて大鹿と共に出迎えた。

「遠い所ようこそ、株式会社岩崎社長、岩崎雄太です、よろしくお願いします。」

一同はイケメン社長の丁寧さに戸惑いながら挨拶。
村を車で一回りした後、本社となる一軒家での夕食となる。
用意は明香と大鹿の妻が。

「社長、確かに不便な所ですね、過疎地の現状を調べてはみましたけど自分の目で見てみないと分かりませんでした、自然の良さもですが。」
「ですよね、まずは崩れかけた空き家を取り壊す所から始めねばなりません、幾つか有る集落を一つ一つ再生という事になります。
農地は…、一旦全部平らにして一から構築し直して行く事になると思います。」
「かなりの初期投資をお考えなのですか?」
「はい、良い人材を集める事が前提ですが小さな活動に留めたくは有りません、ここを成功させ世間にインパクトを与えたいですからね。
でも、詳しい事はもう少し待って下さい、大人の事情ってのが有りまして。」
「は、はい…。」
「社長、よろしいですか?」
「はい。」
「学校を設立する予定が有るそうですが。」
「ええ、すぐには開校出来ないので、しばらく小中学生は車で送り迎えとなります。
その送迎も社員の業務の一つと考えています。
高校生は通信制を併用したシステムを構築しつつ能力や進路希望に合わせた環境を整えたいと思っています。
設立予定の私立岩崎学園は個人の能力に合わせた学習を目標に準備を進めています。」
「今日は弟に付いて来たのですが、私も入社させて頂けたらと考えています、ただ子どもが小さいので。」
「五歳と三歳でしたね、ご存知の通り診療所までは車で一時間、将来はここに病院を建てたい所ですが、ハードルは学校の何倍も高いです。
学校の方はお兄ちゃんが一年生になる頃までにスタート出来ると思っています。
教育に関しては大鹿が中心になります、学園長候補ですから一度相談なさって下さい。」
「はい、家族で移住する者が出れば、検討している人のハードルが下がると考えています、妻が決心してくれたら一次面接をお願いします。」
「いえ、その気になって頂いた段階で採用です、もちろんこの環境で幼児を育てるのは大変だと思いますから無理にお願いは出来ません、でも入社して下さったら会社としても支援を考えさせて頂きます、募集内容に保育士を加えますよ。」
「そこまでは…。」
「女性も応募し易くしたいのです、どうしても男性の比率が高くなってしまいそうですから。」
「人件費が嵩んで赤字になりませんか?」
「とりあえず二十億ぐらいは回収する必要のない資金が有ります、他にもサイフが三つ有りますからご安心下さい、借入金なしで運営して行きますので余程の事が無い限り倒産は有りません。」
「う~ん、弟が安定した会社になると話していたのはそんな裏が有ったのですね、妻が決意したらよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
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14-採用 [岩崎雄太-02]

一回目の現地見学会、宿泊は本社となる一軒家。
夜は酒も入り、雄太中心に話が盛り上がる。

「皆さん如何ですか、まだ携帯の使えない不便な所ですが、ここで働けそうですか?」
「はい社長、自分は工務店で働いていましたので建物の補修は任せて下さい。」
「不便かもしれませんが山並みが綺麗で落ち着けます、一次面接では経理をというお話でしたので、頑張りたいと思います。」
「経験はないのですが林業に興味が有ります、機械化された林業を体験したいです。」
「私は何でもやりますよ、建物の解体作業でも林業でも農業でも、村が出来て行く過程を見てみたいですからね。」
「社長、モトクロスやクロスカントリーといったコースを作りませんか、競技人口が多い訳でも有りませんが愛好者が来てくれたら少しは賑やかにならないでしょうか?」
「鈴木さんはモトクロスとかやってみえるのですか?」
「いえ、見て楽しむ側の人間です。」
「入社の意思は?」
「もちろんやる気満々ですよ。」
「では、皆さん入社日を決めて下さい、その日から給料が発生します。
鈴木さんは入社日以降、山を利用したスポーツの現状を調査し、うちがスポンサーとして後押し出来そうな競技を一つ決めて下さい、コースと宿泊施設を作る前提でお願いします。
ここへの引っ越しは調査が有る程度まとまってからお願いします、ここから競技団体とかと交渉するのは効率的では有りませんからね。
田中さんは入社後、建物の改修計画を立てて下さい、改修作業と並行してお願いしますが状況によっては専門業者に委託します、その時は会社側の担当となって下さい。
佐藤さんは経理を担当して頂きますが、副社長としての研修も受けて下さい、しばらくは会社設立準備室の方へ出勤して頂きます。
伊藤さんは林業関係の団体で講習を受けて下さい、林業機械メーカーへも話は通して有りますから、そちらでも講習を受ける事になります。
佐々木さんは建設機械オペレーターの資格を取って下さい、それと並行して温室で花を栽培する事を調べて下さい、利益率の高い花を数種類ピックアップ、そうですね設備に金を掛ければ素人でも失敗しにくい花が見つかると良いのですが。」
「はは、微妙なスタートですね、すぐに引っ越せるのは田中さんだけなのですね。」
「それまでも連絡は取り合いましょうよ。」
「後、皆さんにお願いしておきたいのは、現時点では皆さんがそれぞれの担当部署の長となりますが、今後入社して下さる方のスキルによっては交代という事も有りうると考えて下さい。
我が社は年功序列ではなく、実力の有る人がリーダーとなって引っ張るという形にしたいのです。」
「それは覚悟していると言うか、社長が雑誌のインタビューを受けた記事を読みました、そんな社長の姿勢に賛同して、自分は今ここにいます。」
「私は素人ですから何も言えません。」
「もう一つお願いしておきたいのは、村の将来像を皆さんで描いて頂きたいという事です。
今決まっているのは私の家の場所ぐらいです、他に必要になるのは林業機械や建設機械の保管場所、製材所や木材の保管場所とヘリポートが確定ですが場所は決まっていません。」
「ヘリポートですか?」
「ええ、通常の移動の他、緊急時に役立ちますし、観光飛行も視野に入れています、騒音が気になるかもしれませんが診療所まで遠いですからね、場所が決まったらすぐ着工します、近い将来整備も出来る様にしたいですが、単純にヘリポートだけなら簡単なんですよ。」
「それなら複数作れますか?」
「そうですね、頻繁に発着する観光用は居住地区から離れた所に、緊急用は居住地の近くにというのも有りです。」
「社長、先に言わないで下さいよ、名案を出せると思ったのに。」
「はは、でも社長、今後人口がどの程度増えて行くかによって計画は随分違ったものになると思うのですが。」
「ですね、こればかりは何とも言えません、村が落ち着いたら色々な境遇の方を受け入れて行きたいとは思っていますが…。」
「まずは核をしっかり作って、貧困にあえいでいる人達を受け入れたいですね、その為には暮らしを良くして田舎暮らしのハードルを下げたいです。」
「なるほど、佐藤さんを副社長に指名された理由が分かりました、核を作れるぐらいの人数は集りますよ、みんながんばろうな。」
「もちろんだ。」
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15-新入社員 [岩崎雄太-02]

五人の新入社員は入社前から動き始めた。
そして、それぞれが仕事として動ける状況を見極めてから、本人の判断で入社日を決定。

「佐藤さん如何です?」
「はい、これまでの資料に目を通しましたが見事に支出ばかりですね、この状態がしばらく続くというのは普通の感覚ではやって行けませんよ、火室さん。」
「ですよね、私が社長の起業に参加させて頂いた時は、すぐに利益が出ましたから…、でも大金持ちのお遊びでは有りません、社長はこのプロジェクトに参加して下さった全員、死ぬまで面倒を見られるシステムを構築したいと話しておられます。」
「う~ん、人は石垣人は城と言いますが、それは城主有っての事なのですね、もっと人を増やしたいのですが応募状況はどうですか?」
「二回目の現地見学会は六名全員採用、三回目は今の所四名が参加予定です、後は佐々木さんのお兄様の入社が確定しました、家族で移住となります。」
「そうか、奥さん腹を括ったんだ。」
「奥様自身も田舎生活してみたかったそうです、ただ子どもが小さいから躊躇してみえたのでしょうね。」
「皆で守って行かないといけません、今回採用された方の担当はどうなりますか?」
「林業研修に三名、佐々木さんの部下と言う形で一名、二名はひとまず田中さんの下で建物の補修に、佐々木さんのお兄様は村全体の設計を担当して頂きます。」
「引っ越しは何時頃になりますか?」
「講習の無い方は来月の中頃以降と考えておられます。」
「そうですか…、私もそれぐらいまでに移住したいのですが。」
「大丈夫だと思います、事務系の引継ぎも順調ですし。」
「名前だけの副社長ですからね。」
「あっ、それは違います、佐藤さんは重要なポジションにいると考えて下さい。
御免なさい、現時点でとしか言えませんが、佐藤さんは社長候補なのです、岩崎社長はお父上の企業でも要職に就かれるお方、幾つも兼務というのは良くないと考えておられます。」
「そうですか…、心して仕事に励みます。」
「後、佐々木さんのお兄様が村長候補です、役割の分担は考えて下さい。」
「彼の方が副社長に相応しいとも思いましたが、それなら協力してやって行けると思います。」
「他の方とは如何ですか?」
「連絡を取り合いながら、少しずつ自己紹介をしている段階です、村で暮らし始めないとまだまだ見えて来ないですね、ただ現地見学会の時は皆さん、このプロジェクトを成功させようようと熱く語っておられましたから大丈夫だと思っています。」
「心強いですね、大鹿さんも頼もしい若者ばかりだと話しておられました。」
「ここでの研修中は面接の席にも同席させて下さい、後、三回目以降の現地見学会は我々の手で行いたいと思います。」
「はい、お願いします。」
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16-移住 [岩崎雄太-02]

単身者の引っ越しは簡単だった、男性ばかりという事も有ったのかもしれないが共同生活で家電製品など会社が用意した事にもよる。

「明日は家族での移住者受け入れだからしっかり手伝おうぜ。」
「ああ、三歳と五歳…、うまく俺達の集団、出来立ての集団で受け止めたいな、俺達の子どもでも有ると考えたいと思わないか。」
「だよな、その気持ちが無かったら村作りは出来ないだろう。」
「子育てか、次の見学会には女性が二名参加と聞いたが。」
「女性にとって、ここへの移住はハードルが高いだろうな。」
「だな、せめて俺達が紳士的に振る舞わないと。」
「俺は女性を相手にすると緊張してしてしまうのだが。」
「それで、こんな田舎でも抵抗なくという事か、少しずつ馴染める様協力するよ。」
「佐々木は彼女が居るのだろ?」
「ああ、遠距離になって切れるならそれだけだし、こちらに来るだけの覚悟が出来たら結婚と考えている、彼女の事は好きなのだが、ここでの生活を優先したいと考えているんだ。」
「すごい覚悟だな、俺はこの容姿だから諦めてここに来たが。」
「田中さんの良さに気付く人がきっと来ますよ、俺達村民が皆紳士的であれば、移住者は男女問わず仲間になる訳じゃないですか、互いに心を開いていかないと良い村にはなりませんよ。」
「そうだな、佐々木村長中心に村を、佐藤副社長を中心に会社を、二人ともスキルの高さを感じさせてくれる、そして社長は年下なのに尊敬できる、若殿さまといった所か。」
「ご自身の起こした会社は従業員百名程度ながら右肩上がりの業績アップを続けてこられた、いずれ父上の跡を継ぐだろうと言われているお方だからな。」
「社長自らここへの移住を考えておられる、その為のヘリポートでも有るんだろ。」
「田中さん、社長の家とかはどうなっているのです?」
「今、設計中なんだ木を贅沢に使う形の家をな、俺達の家もそのデザインに合わせた形で個性を出しつつ集落全体で統一感の有る建物になるそうだ。」
「自分はここで充分ですが。」
「だめだよ、ここは後輩を受け入れる為に明け渡して行かないと、新築の独身寮に住むのか夫婦で住む一戸建てにするのか希望を出してくれな、完成までには時間が掛かりそうだが。」
「会社としては一戸建てに住む人を増やしてアピールしたい所だろうが、俺には相手がいないからな。」
「独身寮は男性棟と女性棟が隣り合わせになるそうだ、問題は女性棟への入居者がいるかどうかなのだが。」
「社長は、田舎への移住を考える少数民族の掘り起こしを考えると話しておられました、広報部を立ち上げ田舎暮らしを発信の他、ネット環境が整ったら色々な職種の人を雇えます。」
「そうだよな、農業や林業だけにこだわる必要はないね。」
「移住者が増えたら楽しくなりそうだよな。」
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17-女性 [岩崎雄太-02]

女性の参加無くして健全な村作りはないと考えていたスタッフにとって、二名の女性が現地見学会に参加してくれた意味は大きかった。

「山川さん如何でしたか、廃村状態の集落はまだ手付かずですが、この集落は建物の補修が進んでいます。」
「はい社長、まずは住まいの確保なのですね、実際に住んでみないと不便さは分からないでしょうが、それも皆で乗り越えて行く、私は部活のマネージャーみたいな立ち位置でよろしいですか?」
「ええ、色々な作業が有りますから佐々木さんの奥さんや大鹿さんの奥さんとも相談して下さい、女性向け作業リストにも目を通して下さいね。」
「社長、最終面接は何時で結果はどれぐらい先になりますか。」
「山川さんさえよろしければ、採用させて頂きます。」
「有難う御座います、入社は何時に?」
「山川さんの御都合に合わせますよ。」
「では、今からという事でも良いですか?」
「こちらは構いませんが、ご両親は大丈夫ですか?」
「大丈夫です、先ほど話しておきました、一次面接でも親子三人での移住可能と聞いていましたので。
私、父が五十の時に生まれたのです、ですから父はもう定年を過ぎていまして、老後は田舎暮らしも良いかななんて話してたのです、両親は帰ったら引っ越しの準備を始めます、私は副社長と村長に挨拶したら花柳さんの手伝いをします。」
「なら、明日の朝にでも自分達の住む家を田中さんと相談して決めて下さい。」
「はい。」
「山川さん、もし私が採用されたら、同居というのは無理ですか?」
「水沢さん、もちろんオーケーですよ、ここで一人暮らしというのは寂しすぎますよ。」
「社長如何でしょうか?」
「水沢さんが覚悟されたのなら、もちろん採用です。」
「お願いします、身辺整理をして来週ぐらいには引っ越したいと思います。」
「ネット環境が整えば水沢さんのスキルを活かせる仕事も色々有ります、でもまずは仲間との時間を大切にして下さいね。」
「はい。」

明るい性格の山川はすぐに男性社員達の人気者に、水沢は広報担当としてその力を発揮。
二名の女性が田舎暮らしを始めたという事実は、間違いなく次に応募を考える女性達のハードルを下げた。
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18-過去 [岩崎雄太-02]

副社長佐藤は移住から三か月、村での生活に随分慣れて来ている。
不便な事も有るが、食事の心配はなく、仕事をして家で寝るというだけだから、さほど大変とは感じていない。
休日は皆で町までドライブという時も有る。
何となくグループだったりペアだったりが出来始め、彼は水沢と。

「佐藤さんは社長に惚れこんでいるのですね。」
「ええ、水沢さんもでしょ?」
「私の場合は社長に惚れてというより、都会から逃げ出したい衝動に駆られて移住の道を選びました、イケメンで大金持ちの社長なんて、近くにいたら疲れるだけです。」
「はは、でも社長は他の大金持ちとはちょっと違うだろ。」
「ですよね、過疎の村や廃村の再生なんて、余程上手く行っても初期投資が回収できるかどうか分からない、ただのお金大好き人間なら取り組まないでしょう。」
「社長は日本のバランスを取り戻すきっかけを作りたいと考えておられる、世界中の富は僅かな人の手に片寄り過ぎているよね。
日本中の大金持ちが社長の様に考え真剣に取り組んだら、もっと良い国になってたと思うな。
俺達は大赤字会社なのに充分な給料を頂いている、社長が学生時代に起業された会社は社員の給料の良さが話題になっている、自分が大卒で入社した会社は給料こそ今と変わらないが、それは過酷な残業を耐えての事、自殺した同僚もいて退職を決意したよ。」
「売り上げ至上主義だったのですね。」
「ああ、その後はアルバイト生活、低賃金労働で企業の利益に貢献していた。
大きく考えたら、主婦のパートはともかく俺達の世代が非正規低賃金で働いていては内需の拡大なんて望めないだろ、それが輸出依存の日本経済が安定しない要因になっているのだが、それを作り出したのは誰なのかって事さ。」
「社長は、こんな田舎から変えて行こうと考えておられるのね。」
「社長のお父上関連の企業も賃金の見直しを始めているとニュースになってた、その分人件費は増えるが、良い人材を集めやすくなり企業イメージも上がるだろう。」
「良い人材が増えれば企業も安定するという事かしら。」
「規模が大きいから単純な話ではないだろうがね。」
「うちは小さい会社だったからな…。」
「どんな?」
「従業員二十人そこそこなのに人間関係がひどくて、満員電車で出社すると、同僚からはミスを押し付けられ、上司に罵声を浴びせられ、それを耐えきった所で何もないって気付いた時に、偶然募集を見つけて、ふふ、不便なんだろうなって覚悟を決めて移住してみたら、全然不便じゃないし仲間はみんな…、それぞれ辛い過去をお持ちだと思うのに、いえ、それだからかもしれませんが、皆さん優しくて。」
「だね、多少のトラブルは覚悟していたのだが、都会が恋しくなって帰る人も今の所いない。」
「ねえ、佐藤さん…。」
「うん、えっと、俺と付き合ってくれないか、もちろん結婚を前提に。」
「お願いします。」
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19-菜園 [岩崎雄太-02]

会社の仕事は週四十時間、残業は許されていない。
だが社員達も真剣に村の再生を考えている。
充分な給料を得ている事も有り残業代が発生する労働は避けたい。
サービス残業は絶対禁止。
そこで相談して決めたのは、会社の仕事、村の仕事と分ける事だ。
村の草刈りなどは村の仕事として会社の労働時間外に行う。
さらに、共同菜園、共同果樹園の用地を雄太に頼んで確保して貰い、ささやかな農業実習をしている。

「こうやって収穫出来ると嬉しいよな、このまま村人が増えても自分達の食べる野菜ぐらいは有る程度確保出来るんじゃないか。」
「ああ、大鹿さんに農業教えて貰うのも社長は仕事の一部と考えておられたそうだけど、それでは仕事が進まないからな、充分な給料も頂いてるし、皆で作業するのも楽しい、休日の朝は皆で作業が当たり前になって来たよな、強制参加じゃないが、参加しないと仲間外れの気分だぞ。」
「はは、その前にお目当ては誰なんだ。」
「女性社員が増えたとはいえ、競争率高いよな、水沢さんは佐藤副社長と良い感じになってるし。」
「でも、まだまだ小さい集団だからふられた時のリスクは大きいだろ。」
「まあ全員仲間なんだから、一緒に作業しながらお互いの事を知って行けば…、お前がふられた時は慰めてやるよ。」
「はは、頼むな、それより商品作物の候補はどうする?」
「高原野菜の定番と言えばレタスか?」
「絞りこむ必要はまだないよ、色々作ってみるだけの土地は有る、利益率とか考えて数種類に絞り込んで行けば良い、温室での蘭も計画規模から広げない方向性で、単一作物の大規模農場ではなくリスク分散型で、作業効率は落ちるだろうが比較的近い消費地中心に捌ければ、輸送コストを抑えられ鮮度を維持出来るというのが社長のお考えなんだ。」
「そうか、俺達林業チームは農業チームの動きを気にしてなかったけど、着実に動いているんだな。」
「ああ、お互い本格的に利益を出すのは先の事だが。」
「しかし、すごい金額の先行投資だよな、でもそれだけの投資が無かったら過疎地の再生なんて有り得ないだろう。」
「社長が相続した土地は所有者が複数じゃなかったから思い切った再生が出来る、だが悲しいかな、今俺達が住んでる村でも再生を画策してるのに利害関係から…、県道の整備関連で土地を高く売ろうとすしてる輩がいるんだ。」
「高く買うのか?」
「いや、今の所ただ同然で土地家屋を譲ってくれた人達との兼ね合いも有る、北部地区の県道は我々の活動に大きな影響もないから地主が亡くなるまで放置という方向性だ、元々社長が地元の人の暮らしを良くする一環で提案した事だからね。」
「生活が苦しいとかではないのか?」
「調べた範囲では、ただのお金大好き老人だそうだ、亡くなったら息子さんが沢山相続税を納めて社会貢献してくれるだろうね。」
「俺は生きて行けるだけの収入が有れば充分だ、ここで暮らしていれば老後の備えも簡単に出来そうだしな。」
「差し入れが多いから都会暮らしの時より良い物食べてる、貯蓄も大切だがこの村にとってプラスになる金の使い方を考えたいのだがどうだ?」
「菜園で採れた物を買い取って親戚に送ろうかな、始めは余ったら貰うという事も考えていたが金に余裕が有る。」
「成程、村営農場だから売り上げは村の金だ、その金で村を良くして行こう、村長とも相談だな。」
「ああ、バーベキューの時にでも提案してみよう。」
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20-岩崎村 [岩崎雄太-02]

廃村となっていた集落は本社の有る隣村に近い所から廃屋の解体、造成が進められている。
電柱の無い村を目指しての共同溝工事、下水工事が終わったらまとめて道路舗装、住宅の建設も始まった。

「明香、社員の皆さんが勝手に岩崎村佐々木集落と名付けたここも、ようやく形になってきたな。」
「ええ、道幅も広くなってブラウンの舗装は落ち着いた感じで良いわね。」
「社員の皆さんも気に入って下さった、佐々木村長や佐藤副社長の家も形になりつつあるな。」
「敷地はともかく、建物は大きくないのね。」
「彼等なりに色々考えてくれてるのさ、広すぎる家は掃除が大変だと話していたが、実際は建設費を安く抑える事を考えている、安い家賃を払う形でなく建物の建設費を分割で支払う形も提案してくれた、前提はここでの定住、さらに建設費を会社へ戻す事によって次への投資が可能になる、佐藤さん曰く給料の使い道がないとか。
必要になったら増築となるが、それも基本設計に組み込まれているよ。」
「へ~、そうなんだ、なら私達の家も始めは小さくで良いよね。」
「ああ、代わりに祐樹の別荘は大きくしてゲストをしっかり持てなせる様にしよう。」
「ふふ、愛華に恨まれそうだわ。」
「ハウスキーピングとか頼めば大丈夫じゃないのか?」
「こんな田舎で働いてくれるかしら。」
「そうか…、ここの魅力をどうアピールしていけるか…、綺麗な街並み、豊かな自然とは考えているが。」
「森も随分綺麗になったし店も作るのでしょ?」
「ああ、お洒落なのをね、皆さん色々考えて下さっているんだ、兼業を前提にね、今でも居酒屋やカラオケボックスはセルフサービスだろ、ここの店ではそうも行かないが、客の状況に応じて店員の人数を調整するシステムを考えてくれているよ。」
「へ~、どんな形なの?」
「客が来なかったら店番の仕事は、掃除とか仕込みとかが中心になるが、それでも手が空いたら別の作業、逆に客が多くなったら広報部や近くの農園から応援に駆け付ける。」
「そっか、職種に拘らないのか、確かにここの規模で拘っていたら効率が悪いわね。」
「観光客が見込めるのはまだ先の事だけど、飲食店のメニューやお土産品の検討は飲み会の中心的話題になって来てるらしい、今夜は俺達も参加させて貰えるよ。」
「今までは思ってたより忙しくなって、あまり来れなかったものね。」
「収入を増やしてここへの投資に当てたかったからな。」
「ふふ、でも初期投資はそちらもそれなりの額になるのでしょ?」
「まあな。」
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