ある庭で [短編集-1]
桜が散り、ツツジがその主役の座をとって変わろうかという頃。
ある住宅街の一角にある邸宅、その庭でごめんねごめんねと言いながら草を抜いている少女がいた。
手の行き届いた庭で今はムラサキツツジが見ごろ。
少女の名はさつき、14才の中学生。
「そんなに謝らなくても良いのですよ。」
そんな声がさつきに届く。
さつきは周りを見回すが誰もいない。
(声がしたと思ったんだけどなぁ~。)
気を取り直して作業にもどる。
「ほんとに庭仕事が好きなのね。」
また声が。
(えっ? だ、誰かしら?)
もう一度見回すが誰もいない。
(あれっ?)
さつきは夕暮れ時の木陰で一輪の花がぼんやり光を放っているのに気付く。
(うわ~、きれい、でも不思議な花ね。)
「やっと気付いてくれたわね。」
「えっ、さっき声をかけてくださったのは…。」
「ふふ、私よ。」
「えっ? えっ? ツツジの花が話してるの?」
「ちょっと違うかな、私は、う~んとそうね、人間の言葉で言うなら精霊かな、今はこの花に宿ってるの。」
「へ~、え~とえ~と…、私はさつきって言って…、え~と…。」
「ふふ、そんなに緊張しなくても良いですよ。」
「精霊さまとお話しするなんて初めてで…。」
「そうね、あなたは初めてでも私はあなたのこと色々知ってるわよ。」
「えっ?」
「この庭は私のお気に入りだから良く来てるの、今はこのムラサキツツジに宿ってるけど、しばらく前はそこの桜や木蓮に宿っていたりしてあなたのことを見ていたのよ。」
「へ~、そうだったのですか。」
「そうそう、さっき、ごめんねって言いながら草むしりしてなかった?」
「はい、この庭を綺麗にしておくには…、自然に生きている草を抜かなくてはいけなかったりするんです。」
「そうね命を大切に思うと、ごめんねって気持ちになるのかな、でもね植物ってあなたたち人間とは全然違った考え方をしてるのよ、さつきさんは抜いた草をどうしてる?」
「お母さまに教えていただいて堆肥になるようにしています。」
「それだけで充分抜かれた子たちは喜んでいると思うわよ。
次への命へ自分が役立つのだから。」
「え? 本当ですか?」
「さつきさんが心を込めて守っている庭で他の木々の役に立てれば嬉しいかもね。」
「へ~、そう言っていただけるとなんか心が軽くなります。」
「ねえ学校でつらいことが有ったでしょう?」
「あっ、は、はい…、何もかもお見通しなんですね。」
「今日は天気が良くて気持ち良かったから、そう風に乗ってね、さつきさんが学校でどんなにしてるかなって。
そうね、ふふ授業参観してきたわ。」
「え~、何か恥ずかしいな。」
「気にしない気にしない、でね、あなたがしたことは人を思いやる正しいことなの、自信を持って。」
「そう言われても私…、気が小さいから…。」
「ふふ、驚かないでね。」
その瞬間、ぼんやり光を放っていた花から一筋の光が立ち上り、その光はさつきを優しく包み込む。
見ている人がいたら、さつきが光っている様に見えただろう。
ふと気付くと、さつきは庭で横になっていた。
(あれ? 精霊さまは? う~ん何かすごく色々なことを教えていただいた気がする…。
はは、こんなに沢山のことを教えていただいたのは初めてだわ。)
「さつき、そろそろ晩御飯にしない?」
「あっ、お母さま、え~と、う~んと…。」
「この庭に宿る精霊さまとお話ししたのでしょ。」
「うん、ということはお母さまも?」
「ふふ。」
ある住宅街の一角にある邸宅、その庭でごめんねごめんねと言いながら草を抜いている少女がいた。
手の行き届いた庭で今はムラサキツツジが見ごろ。
少女の名はさつき、14才の中学生。
「そんなに謝らなくても良いのですよ。」
そんな声がさつきに届く。
さつきは周りを見回すが誰もいない。
(声がしたと思ったんだけどなぁ~。)
気を取り直して作業にもどる。
「ほんとに庭仕事が好きなのね。」
また声が。
(えっ? だ、誰かしら?)
もう一度見回すが誰もいない。
(あれっ?)
さつきは夕暮れ時の木陰で一輪の花がぼんやり光を放っているのに気付く。
(うわ~、きれい、でも不思議な花ね。)
「やっと気付いてくれたわね。」
「えっ、さっき声をかけてくださったのは…。」
「ふふ、私よ。」
「えっ? えっ? ツツジの花が話してるの?」
「ちょっと違うかな、私は、う~んとそうね、人間の言葉で言うなら精霊かな、今はこの花に宿ってるの。」
「へ~、え~とえ~と…、私はさつきって言って…、え~と…。」
「ふふ、そんなに緊張しなくても良いですよ。」
「精霊さまとお話しするなんて初めてで…。」
「そうね、あなたは初めてでも私はあなたのこと色々知ってるわよ。」
「えっ?」
「この庭は私のお気に入りだから良く来てるの、今はこのムラサキツツジに宿ってるけど、しばらく前はそこの桜や木蓮に宿っていたりしてあなたのことを見ていたのよ。」
「へ~、そうだったのですか。」
「そうそう、さっき、ごめんねって言いながら草むしりしてなかった?」
「はい、この庭を綺麗にしておくには…、自然に生きている草を抜かなくてはいけなかったりするんです。」
「そうね命を大切に思うと、ごめんねって気持ちになるのかな、でもね植物ってあなたたち人間とは全然違った考え方をしてるのよ、さつきさんは抜いた草をどうしてる?」
「お母さまに教えていただいて堆肥になるようにしています。」
「それだけで充分抜かれた子たちは喜んでいると思うわよ。
次への命へ自分が役立つのだから。」
「え? 本当ですか?」
「さつきさんが心を込めて守っている庭で他の木々の役に立てれば嬉しいかもね。」
「へ~、そう言っていただけるとなんか心が軽くなります。」
「ねえ学校でつらいことが有ったでしょう?」
「あっ、は、はい…、何もかもお見通しなんですね。」
「今日は天気が良くて気持ち良かったから、そう風に乗ってね、さつきさんが学校でどんなにしてるかなって。
そうね、ふふ授業参観してきたわ。」
「え~、何か恥ずかしいな。」
「気にしない気にしない、でね、あなたがしたことは人を思いやる正しいことなの、自信を持って。」
「そう言われても私…、気が小さいから…。」
「ふふ、驚かないでね。」
その瞬間、ぼんやり光を放っていた花から一筋の光が立ち上り、その光はさつきを優しく包み込む。
見ている人がいたら、さつきが光っている様に見えただろう。
ふと気付くと、さつきは庭で横になっていた。
(あれ? 精霊さまは? う~ん何かすごく色々なことを教えていただいた気がする…。
はは、こんなに沢山のことを教えていただいたのは初めてだわ。)
「さつき、そろそろ晩御飯にしない?」
「あっ、お母さま、え~と、う~んと…。」
「この庭に宿る精霊さまとお話ししたのでしょ。」
「うん、ということはお母さまも?」
「ふふ。」
河川敷にて [短編集-1]
「うふ、かわいいお花がいっぱいね。」
「えっ? 聡子、花なんて…。」
きちんと整備された河川敷を散歩する二人、遠くにツツジの花が見えるが、今歩いているところに目だった花はない。
「徹の目はふしあなかな~。」
「えっ?」
「しゃがむと気付くかも。」
「う、うん…、あっ、小さな花が、あ~色んな花が咲いてる…、全然気付かなかった…。」
「小さくてもかわいくて綺麗でしょ。」
「うん。」
「私も始めて気付いた時はびっくりしたのよ、小学校の教師になりたての頃かな、自然観察ってな感じの授業を企画してね、何気に何種類のお花が見つかるかな~、なんて感じでここに子ども達と一緒にきたの。
ほんとはねタンポポとか人の目に付く花しかイメージしていなかったんだけどね、子ども達は、先生かわいい花を見つけたわ、とか、これも花だよね?って感じて、すごく沢山の花を私に見せてくれたの。
堤防の上はたまに通っていたから、この河川敷は普通に見てたけど、まさかこんなに沢山の花が咲いているとは思ってもいなくて。」
「うん、俺もそうだよ、この上の堤防道路はよく使うからな。」
「そうなんだ。」
「え~と。」
「何?」
「あのさ、ちっぽけな俺だけど、俺なりに真面目に仕事してるんだ。」
「わかってるわよ。」
「こんな俺でも良かったらさ…。」
「えっ? 聡子、花なんて…。」
きちんと整備された河川敷を散歩する二人、遠くにツツジの花が見えるが、今歩いているところに目だった花はない。
「徹の目はふしあなかな~。」
「えっ?」
「しゃがむと気付くかも。」
「う、うん…、あっ、小さな花が、あ~色んな花が咲いてる…、全然気付かなかった…。」
「小さくてもかわいくて綺麗でしょ。」
「うん。」
「私も始めて気付いた時はびっくりしたのよ、小学校の教師になりたての頃かな、自然観察ってな感じの授業を企画してね、何気に何種類のお花が見つかるかな~、なんて感じでここに子ども達と一緒にきたの。
ほんとはねタンポポとか人の目に付く花しかイメージしていなかったんだけどね、子ども達は、先生かわいい花を見つけたわ、とか、これも花だよね?って感じて、すごく沢山の花を私に見せてくれたの。
堤防の上はたまに通っていたから、この河川敷は普通に見てたけど、まさかこんなに沢山の花が咲いているとは思ってもいなくて。」
「うん、俺もそうだよ、この上の堤防道路はよく使うからな。」
「そうなんだ。」
「え~と。」
「何?」
「あのさ、ちっぽけな俺だけど、俺なりに真面目に仕事してるんだ。」
「わかってるわよ。」
「こんな俺でも良かったらさ…。」
天体望遠鏡 [短編集-1]
「うわ~すごい、ねいちゃんも見てみなよ。」
「うん、あっ、ほんと綺麗ね~。」
天体望遠鏡で星を観察する子どもたちを見ながら…。
「あなた、また高い買い物して、少しは家計のことも考えてよね。」
「はは、まぁ子どもたちも喜んでるし。」
「子どもを利用してごまかす気なのね。」
「いや、そんなつもりでは…。」
「ねえねえ、お母さんも見てごらんよ。」
「はいはい、じゃあ私も。
あ~綺麗…、これが星なの?」
「バラ星雲、いっかくじゅう座にある散光星雲さ。
ハッピーバースディ。」
「えっ、あっ有難う…、でも何かごまかされ…、まぁいっか、素敵な星、これから色々見せてくれるんでしょ?」
「もちろんさ。」
地球から5000光年離れた星の住人…。
「何か見られている気がするけど。」
「気のせいだよ。」
「そうよね。」
「うん、あっ、ほんと綺麗ね~。」
天体望遠鏡で星を観察する子どもたちを見ながら…。
「あなた、また高い買い物して、少しは家計のことも考えてよね。」
「はは、まぁ子どもたちも喜んでるし。」
「子どもを利用してごまかす気なのね。」
「いや、そんなつもりでは…。」
「ねえねえ、お母さんも見てごらんよ。」
「はいはい、じゃあ私も。
あ~綺麗…、これが星なの?」
「バラ星雲、いっかくじゅう座にある散光星雲さ。
ハッピーバースディ。」
「えっ、あっ有難う…、でも何かごまかされ…、まぁいっか、素敵な星、これから色々見せてくれるんでしょ?」
「もちろんさ。」
地球から5000光年離れた星の住人…。
「何か見られている気がするけど。」
「気のせいだよ。」
「そうよね。」
時計 [短編集-1]
「父ちゃんありがとう。」
健太は小学6年生。
誕生日のこの日、父親から贈られたのは古い腕時計だ。
「どうだ、古さがかっこいいだろ。」
「うん、ちょっと重いけどこんなの持っている友達いないと思うよ。」
「手巻きだから、ほかっておいたら止まるからな。」
「あっ、そうか電池入ってないんだ。」
「当たり前だろ、そこが良いんだ。」
「え~、めんどうじゃん、どうして?」
「確かに今の時計は簡単で正確で便利さ。
でもな、ちょっと味気ない…、そうだな、この竜頭を毎日巻いていれば止まることはない筈だ。
で、竜頭を巻く時にだな、この時計を作った人のことを考えてみろ。」
「うん、りゅうずってこれのこと?」
「そうだ、そこをこんな感じで巻くんだ。
それと裏蓋は簡単にはずせるから見たくなったら開けてやるぞ。」
「こわしちゃうかも。」
「はは、そんなこと気にするな、壊れたら思いっきり分解しても良いし。」
「あ~、分解なんて面白そうだけど、なんかさ、これを作った人に悪いんじゃない。」
「はは、まぁ細かいことは気にするな、この時計の中には男のロマンがいっぱいつまっているからな。」
健太は小学6年生。
誕生日のこの日、父親から贈られたのは古い腕時計だ。
「どうだ、古さがかっこいいだろ。」
「うん、ちょっと重いけどこんなの持っている友達いないと思うよ。」
「手巻きだから、ほかっておいたら止まるからな。」
「あっ、そうか電池入ってないんだ。」
「当たり前だろ、そこが良いんだ。」
「え~、めんどうじゃん、どうして?」
「確かに今の時計は簡単で正確で便利さ。
でもな、ちょっと味気ない…、そうだな、この竜頭を毎日巻いていれば止まることはない筈だ。
で、竜頭を巻く時にだな、この時計を作った人のことを考えてみろ。」
「うん、りゅうずってこれのこと?」
「そうだ、そこをこんな感じで巻くんだ。
それと裏蓋は簡単にはずせるから見たくなったら開けてやるぞ。」
「こわしちゃうかも。」
「はは、そんなこと気にするな、壊れたら思いっきり分解しても良いし。」
「あ~、分解なんて面白そうだけど、なんかさ、これを作った人に悪いんじゃない。」
「はは、まぁ細かいことは気にするな、この時計の中には男のロマンがいっぱいつまっているからな。」
海 [短編集-1]
「う~ん、わしも、あちこち汚れてしまった。
ちょっと前まで、こんなんじゃなかったのに…。
少々のことは、わしの力でなんとかできたけど…。
なあ空よ、どう思う?」
「確かに陸地に近いところは特にお前の顔色が悪くなってるって気付いているよ。
でもな、汚れてるのはお前だけじゃないぞ俺もこの星の生き物を、後何年守れることか…。
この星のバランスがこんなに簡単に崩れるとは思ってもみなかったな。」
「うん、大地の奴は人間を減らすべきだって言いながら地震を起こしてるけど…。」
「ほんの100年もしない間にこの星はずいぶん痛んでしまったな、海…。」
「ああ。」
ちょっと前まで、こんなんじゃなかったのに…。
少々のことは、わしの力でなんとかできたけど…。
なあ空よ、どう思う?」
「確かに陸地に近いところは特にお前の顔色が悪くなってるって気付いているよ。
でもな、汚れてるのはお前だけじゃないぞ俺もこの星の生き物を、後何年守れることか…。
この星のバランスがこんなに簡単に崩れるとは思ってもみなかったな。」
「うん、大地の奴は人間を減らすべきだって言いながら地震を起こしてるけど…。」
「ほんの100年もしない間にこの星はずいぶん痛んでしまったな、海…。」
「ああ。」
柱時計 [短編集-1]
「ねえ母さん、この時計ってさ、こわれてるの?」
「そうね、たぶん普通に動くと思うわよ。」
「でも、ず~っと止まったままじゃん。」
「ねじを巻いてないからね…。」
「あっ、そうなんだ古い時計は電池じゃないんだね。」
「ふふ、この柱時計はね…、ねえ俊一は父さんのこと覚えてる?」
「うん、ちっちゃい頃肩車してもらったこととか覚えてるよ、おっきなおっきな、あっ母さん…。」
「…、この柱時計はね俊一の父さんとの想い出なの。
新婚旅行先で見つけてね、毎日のようにネジを巻かないと止まっちゃうんだけど、二人だけの頃も俊一が生まれて三人になってからも、ずっと私たちを見守っていてくれてたの。」
「ねえネジ巻いても良い?」
「…、もう少しこのままにしておいて欲しいかな、針も…。」
「5時36分って…。」
「うん…。」
「そうね、たぶん普通に動くと思うわよ。」
「でも、ず~っと止まったままじゃん。」
「ねじを巻いてないからね…。」
「あっ、そうなんだ古い時計は電池じゃないんだね。」
「ふふ、この柱時計はね…、ねえ俊一は父さんのこと覚えてる?」
「うん、ちっちゃい頃肩車してもらったこととか覚えてるよ、おっきなおっきな、あっ母さん…。」
「…、この柱時計はね俊一の父さんとの想い出なの。
新婚旅行先で見つけてね、毎日のようにネジを巻かないと止まっちゃうんだけど、二人だけの頃も俊一が生まれて三人になってからも、ずっと私たちを見守っていてくれてたの。」
「ねえネジ巻いても良い?」
「…、もう少しこのままにしておいて欲しいかな、針も…。」
「5時36分って…。」
「うん…。」
白川の [短編集-1]
「ねえ白川さんてさ不思議な人だと思わない?」
春田真紀が片桐美帆に話かける。
二人はLentoという店でバイトをしている大学3年生。
白川とはこの店のオーナーのこと。
「そうね、うちの親より年上って聞いてるけど、ぜんぜんそんな風に見えないし、白川さんから大学の方はどう? って訊かれると、ついつい色々近況報告しちゃうのよね、なんかお兄さんに話してる感じでさ。」
「聞き上手よね。」
「うん、で色々聞いて下さった後で必ず、色んな経験をして素敵な女性になって下さいね、だからな~。」
「口癖かしらね。」
「でも、白川さんから、そう言われるとがんばらなくっちゃって気になるのよ。」
「うん、自分をもっと磨かなきゃってね。」
「そういえば芸術的って言葉も良く使われるわよね。」
「はは、私たちに、芸術的に素敵な女性になって欲しいってことかな。」
「かもね。」
「なれるかなぁ~。」
「なりたいわね。」
春田真紀が片桐美帆に話かける。
二人はLentoという店でバイトをしている大学3年生。
白川とはこの店のオーナーのこと。
「そうね、うちの親より年上って聞いてるけど、ぜんぜんそんな風に見えないし、白川さんから大学の方はどう? って訊かれると、ついつい色々近況報告しちゃうのよね、なんかお兄さんに話してる感じでさ。」
「聞き上手よね。」
「うん、で色々聞いて下さった後で必ず、色んな経験をして素敵な女性になって下さいね、だからな~。」
「口癖かしらね。」
「でも、白川さんから、そう言われるとがんばらなくっちゃって気になるのよ。」
「うん、自分をもっと磨かなきゃってね。」
「そういえば芸術的って言葉も良く使われるわよね。」
「はは、私たちに、芸術的に素敵な女性になって欲しいってことかな。」
「かもね。」
「なれるかなぁ~。」
「なりたいわね。」
時間 [短編集-1]
「時間がない~!」
とにかく滝沢茂(30歳)はあせっていた。
取引先に提出しなければならない書類がなかなか完成しないのだ。
用意した筈の資料がなくなっていたり、作業中にデータの間違いを見つけて、その確認とかでずいぶん時間を使ってしまったのだ。
今は夜、他の社員はとっくに帰った後。
(まずいな~、これじゃあ約束の時間をずいぶん過ぎてしまう。
一度先延ばしをお願いしてるから、二回目というのもなぁ~。
あ~、どうしよう。)
あせっているから、ミスをして作業はさらに遅れることに。
(もうだめだ…、無理だ…。)
その時滝沢の耳に声が届いた。
「時間がないのですか?」
(えっ? だっ、誰?)
「どれぐらい時間があればゆっくり仕事ができるのですか?」
「えっと~1日くらい欲しい気分です。」
彼は声の主を確認することなく応える。
「そうですか、では、あなたに時間をあげましょう。
あなたの腕時計だけは動き続けますが、あなたにとって他の時計はすべて止まっているように見えますからね。
では、お仕事がんばってください。」
しばらくして。
(あっ、ほんとに自分の腕時計以外の時計が全部止まっている。
よく分からないけど、とりあえず仕事を終わらせるか。)
腕時計が24時間を経過して他の時計も動き出す。
そんな頃には仕事を終えてお茶を飲んでいた。
(今日はもうここで寝ていこう、帰るのにも疲れたからな。
明日朝一でこの書類を持って行けば…。)
そして朝、出勤してきた社員が声をあげる。
「あれ~! 知らないおじいさんがソファーで寝てるぞ!
滝沢に似てるけど…。」
とにかく滝沢茂(30歳)はあせっていた。
取引先に提出しなければならない書類がなかなか完成しないのだ。
用意した筈の資料がなくなっていたり、作業中にデータの間違いを見つけて、その確認とかでずいぶん時間を使ってしまったのだ。
今は夜、他の社員はとっくに帰った後。
(まずいな~、これじゃあ約束の時間をずいぶん過ぎてしまう。
一度先延ばしをお願いしてるから、二回目というのもなぁ~。
あ~、どうしよう。)
あせっているから、ミスをして作業はさらに遅れることに。
(もうだめだ…、無理だ…。)
その時滝沢の耳に声が届いた。
「時間がないのですか?」
(えっ? だっ、誰?)
「どれぐらい時間があればゆっくり仕事ができるのですか?」
「えっと~1日くらい欲しい気分です。」
彼は声の主を確認することなく応える。
「そうですか、では、あなたに時間をあげましょう。
あなたの腕時計だけは動き続けますが、あなたにとって他の時計はすべて止まっているように見えますからね。
では、お仕事がんばってください。」
しばらくして。
(あっ、ほんとに自分の腕時計以外の時計が全部止まっている。
よく分からないけど、とりあえず仕事を終わらせるか。)
腕時計が24時間を経過して他の時計も動き出す。
そんな頃には仕事を終えてお茶を飲んでいた。
(今日はもうここで寝ていこう、帰るのにも疲れたからな。
明日朝一でこの書類を持って行けば…。)
そして朝、出勤してきた社員が声をあげる。
「あれ~! 知らないおじいさんがソファーで寝てるぞ!
滝沢に似てるけど…。」
ふわふわ [短編集-1]
「あれ~? ちっちゃくて背中に羽があって…。」
ちーちゃんは海岸で遊んでいる時に、ふわふわって浮いてる不思議な妖精を見つけました。
「あらっ、私のこと見えてるの?」
「えっ?」
「ふふ、普通の人間に私の姿は見えないはずなんだけどなぁ~。」
「え~、そうなの~?」
「う~ん、あなたには特別な力があるのかしらね。」
「そんなことないよ~、この前、算数のテストでさ、30点、ママに怒られちゃったの。」
「ふふ、そんなこと関係ないわよ、大切なのは暖かい心だから。」
「ふ~ん、妖精さん? は、ここで何してるの?」
「うふ、あなたたちが楽しげに遊ぶ姿とか見てたのよ。」
「ヘ~。」
「楽しそうな人を見てると楽しくなるからね。」
「じゃあ、悲しそうな人を見たら?」
「やっぱり悲しい気持ちになるでしょ?」
「そうね…。」
「じゃあ、いっぱい遊んで楽しんでね。」
「うん。」
妖精はふわふわ~っとお空へのぼって行きました。
ちーちゃんは海岸で遊んでいる時に、ふわふわって浮いてる不思議な妖精を見つけました。
「あらっ、私のこと見えてるの?」
「えっ?」
「ふふ、普通の人間に私の姿は見えないはずなんだけどなぁ~。」
「え~、そうなの~?」
「う~ん、あなたには特別な力があるのかしらね。」
「そんなことないよ~、この前、算数のテストでさ、30点、ママに怒られちゃったの。」
「ふふ、そんなこと関係ないわよ、大切なのは暖かい心だから。」
「ふ~ん、妖精さん? は、ここで何してるの?」
「うふ、あなたたちが楽しげに遊ぶ姿とか見てたのよ。」
「ヘ~。」
「楽しそうな人を見てると楽しくなるからね。」
「じゃあ、悲しそうな人を見たら?」
「やっぱり悲しい気持ちになるでしょ?」
「そうね…。」
「じゃあ、いっぱい遊んで楽しんでね。」
「うん。」
妖精はふわふわ~っとお空へのぼって行きました。
テニス [短編集-1]
パッコ~ン。
パッコ~ン。
テニスコートには球を打ち合う音が響き渡る。
(高雄ってほんとにうまいなぁ~、バックハンドの練習したいって言ったら全部バックへ返してくれて。)
パッコ~ン。
(里香もうまくなったな、そろそろ左右にふってくかな。)
パッコ~ン。
パッコ~ン。
パッコ~ン。
(あっ、ふり始めたのね、これからがトレーニングの本番ね。)
パッコ~ン。
(里香、いいぞ。)
パッコ~ン。
(高雄の練習にもなるように目一杯左右に返さなきゃね。)
パッコ~ン。
(おっ、良いのが返ってきた、油断してたらやられるな。)
パッコ~ン。
(あれを簡単に返してくれちゃうのよね。)
パッコ~ン。
(里香って…。)
パッコ~ン…。
「ふ~、ねえ高雄、休憩にしない?」
「うん、そうだな、ずいぶん続けたから。」
汗を拭きながら。
「あのさ。」「ねえ。」
二人同時に声をあげる。
「ふふ、お先にどうぞ。」
「真面目な大切な話しがあるんだけど。」
「私もよ。」
パッコ~ン。
テニスコートには球を打ち合う音が響き渡る。
(高雄ってほんとにうまいなぁ~、バックハンドの練習したいって言ったら全部バックへ返してくれて。)
パッコ~ン。
(里香もうまくなったな、そろそろ左右にふってくかな。)
パッコ~ン。
パッコ~ン。
パッコ~ン。
(あっ、ふり始めたのね、これからがトレーニングの本番ね。)
パッコ~ン。
(里香、いいぞ。)
パッコ~ン。
(高雄の練習にもなるように目一杯左右に返さなきゃね。)
パッコ~ン。
(おっ、良いのが返ってきた、油断してたらやられるな。)
パッコ~ン。
(あれを簡単に返してくれちゃうのよね。)
パッコ~ン。
(里香って…。)
パッコ~ン…。
「ふ~、ねえ高雄、休憩にしない?」
「うん、そうだな、ずいぶん続けたから。」
汗を拭きながら。
「あのさ。」「ねえ。」
二人同時に声をあげる。
「ふふ、お先にどうぞ。」
「真面目な大切な話しがあるんだけど。」
「私もよ。」