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01 世界平和 [KING-04]

 サンフランシスコは老化の進んでいた三人がショック死の如く亡くなった以外は大きなトラブルなく落ち着く。
 多くの労力を費やした事は無駄にならず、彼らは過去の犯罪を忘れ、全うな一市民として世界に貢献したいと話してくれた。
 金が無いから金にまつわる犯罪は起こり得ないし、彼らは罰の存在を再認識、その言葉に嘘はないだろう。
 また、心身ともに彼らの状態が良くなって来ていると、健康面の調査を続けている三郎から報告が入り、少なくとも老化現象は止まっている様だ。
 これはコロニーDメンバーを隔離した効果だと考えられるが、三郎はリーダーグループとブラックコロニーを除くと、全体的に知的能力が低く騙され易かったのだろうとも。
 そのブラックコロニーに対して、尊はよくやってくれている。
 スコットランドのリーダー達に趣旨を説明した後、連中とモニター越しに三回の対談、始めは子どもが担当という事に腹を立てた者も、すぐにそのプライドを打ち砕かれたそうで、尊の提案を受け入れた。

「明日は尊が居住コロニーへ訪問という事だが大丈夫か?」
「ここまでの監視映像では問題ない、有るとしたら組織的ではなく個人的な攻撃だが今まで武器は確認されていない、スコットランドも警護してくれる。」
「それにしても、自暴自棄になって攻撃してくる奴がいないとは言い切れないだろ。」
「大丈夫だ、マリアも見守り、守ってくれる。」
「それでキングは落ち着いているのか。」
「いや、三之助に手伝って貰って彼等の精神分析をし尽くした結果でもある、すでに彼等は無害だと思う、このタイミングで仕事を与える事により、この世界の真の住人となれるだろう。」
「他の国民に受け入れられるだろうか。」
「その辺りは望が考えている、時間は掛かるだろうが牢獄での終身刑よりはましな形で、皆には妥協して貰えると思う。」
「何とか良い方向へ向かって欲しいものだな、ところでキング、尊が話していた居住コロニーの整理はどうなってる?」
「翔が引っ越しの希望調査を始めた。
 国を越えて気の合う人を隣人にする事で、あまり仲良くなかった人と距離を置ける様に、それに伴い人数の少ないコロニーを廃止。
 体力の衰えから労働力の問題が出ていたサンフランシスコの為、そこで働いてくれる人を集めたコロニーを作り、そのゲートをサンフランシスコに繋いだりとか考えていてね。」
「居住コロニーの再構築ということか。
 サンフランシスコでは様々な作業を通して多国籍の人達が協力し合い国家間の交流が進んだが、更にと言う事だな。」
「子ども達はそれぞれの文化を尊重しつつ、世界が一つになる事を望んでいるのよね。
 マリアさまを信仰の対象にしたのは良かったと思うわ、過去の神様たちは安らぎ以外に争いを与えて下さったけど、マリアさまは子ども達を通して、目に見える形で生活環境を改善してくれている。
 マリアさまが何時も見守って下さっていると信じられているし、私達の監視を通して小さな揉め事を減らせているからね。」
「多くの不満は解消出来ていると思うが、見てる時に口に出してくれないと分からない、拾いきれているのだろうか。」
「ならマリアさまからのお告げという事にして、不満や希望が有ったら、そうだな…、城の正面にある欅の大木に向かって声に出して願えば叶う場合も有るってどうだ?」
「そうね、でもお告げより、まずは都市伝説的に噂を広めるってどうかしら、願いが叶わなくても諦め易いでしょ。」
「そうだな、やってみるか。」

 麗子と八重は翌日、食堂でさりげなく会話。

「ねえ、欅さまってどう思う?」
「一花は信じてるみたいよ、欅さまにお願いしたから誰よりも早く子を授かったのかもって。」
「偶然かもしれないけど、ちょっぴりロマンティックよね。」
「三之助は、声に出して自分の希望を言うことは大切だって言ってた、不満を持っていても黙ってたらマリアさまに届かないって。」
「そうか、まあ私等不満もないし、願い事は世界平和だから…、でも念の為に世界平和を欅さまにお願いしておく?」
「そうね、自分の気持ちの再確認になるのかな。」

 モニターで見ていて思わず笑ってしまう程に下手な芝居だったが、それでも二人の会話は素直な数人の市民が耳にし、都市伝説を広める事に成功した。
 そして、作られた都市伝説は思わぬ情報をもたらす。

「簡単に叶えてあげられるお願いをしてくれる人がいたおかげで欅の木に話し掛ける人が増えたわね。」
「しかし内容がな、軽めのならいざ知らず、私達の子を産みたいなんてストレートなのにどう対応すれば良い?」
「彼女達の気持ちは分かるわ、独身者もいるし既婚者子持ちだって本能的に優秀な子を産みたいと思うでしょうから。」
「でも正直不倫する気は…、ひとまず独身者同士、出会いの場を作ってごまかすか?」
「そうね、国際結婚が可能な状況になって来たのだから婚活の場を企画しましょう。」
「この先不倫や離婚といった事が表面化してくるのかな。」
「どうかしら、今のところ表立っては見つけていないけど、心の中の色々な思いが判明したわね。」
「遺伝的には、我々以外との不倫はそんなに問題ないだろう、普通の子が生まれるだけだからな。
 だが我々の遺伝子が一般人と合わさったらどうだ、天才を生む家系と一般人、その中途半端な存在を生み出したら、この社会の安定を損ねる存在にならないか。」
「可能性は否定出来ないわね、子どもは増やしたいけど気を付けて、ロック。」
「はは、最高の妻がいるのに何に気を付けるんだ、それより美人揃いなんだから君達も襲われたりしないように気を付けなよ。」
「その心配はないでしょ、でも皆さんがストレスを溜めない様にイベントを増やさない?
 平和な社会を皆で維持して行こうと強調しつつ皆が楽しめる様な。」
「そうだな、そのイベントで、あまり上手くないけど歌手になりたいって人にもチャンスをあげたら良いと思う。
 趣味の幅を増やせる環境を整えれば、生活が更に豊かになる、他の国とも相談して毎月開けないかな。」
「城下町では毎日がお祭り気分だ、そう言えばミュンヘンの人が城下町に店を出したいとお願いしていた。」
「直接話してくれれば良かったのに、遠慮が有ったのかしら、城下町が賑わうのは良い事よね。」
「表向きはマリアさまからキングに話が有った事にしてすぐ相談してみるよ。」

 実現が無理なもの以外は極力願いを叶えている。
 しばらくすると神頼み的なものではなく、マリアへの願い、もしくは我々へ要望が届く手段と認識された様で、無茶なお願いは少なくなった。
 その一方で、世界平和を祈る人が増えつつある、現在への感謝の言葉と共に。
 城の象徴でもある欅の大木は、マリアを崇拝する人々にとって心の支えとなっている様だ。
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