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03 孤児 [KING-04]

 五人の孤児たちはひとまず城の一室に落ち着いた。

「香は彼等の言葉が分かっているのか?」
「そうでもなくて、ただ何を伝えたいのか感じてるそうよ、それに対して笑顔で答えてると話してたけど。」
「あの子にそんな能力が有るとはな、でも嘘発見器と同等の能力を備える三之助の子なら有り得なくもないか。」
「尊、彼等のコロニーはどうだった?」
「ひどかったです、畑は貧弱で、テレビ電話や端末は見つかりませんでした、一つの居住コロニーだけで自給自足を試みてきたのが失敗に終わったのではないでしょうか、鶏を見かけないのに卵の殻が有りましたので、ここからマリアさまが転送したのかもしれません、後は翔が昇と調べています。」
「罰を受けて充分な食料援助をして貰えず、そして絶望したのかな…。
 尊の感じた通り、無理心中を図ったのかもしれないね、一人が別の大人を殺し、子どもに傷を負わせた時点で罰を受けて死という可能性は否定出来ない。」
「遺体はすぐに消滅し、先に殺された大人の血だけが残されたということなのね。
 問題は子ども達だけど、言葉が通じないのは大きなハンディだわ。」
「愛と巴が彼等の言葉を分析しています、それを元に共通語を教える準備を始めています。」
「そうか、望と香が五人に付き添っている、怪我をしてる子もいるから、まずは東城家で担当だな。」
「はい、ただマリアさまから極力短期間で城から移す様に指示が有りました、城で夜を過ごす事は彼等にとってマイナスになるそうです。」
「そうか、城は特別な場所なのか…、言語に関する話はマリアさまと相談しなかったのか?」
「したのですが僕らで解決するのがベスト、翻訳機に新たな言語を追加する必要はないと。」
「そうだな、子ども達の年齢を考えると、その方が早い、尊は彼らの今後について何か考えは有るのか?」
「まずは城下町の子どもの家で暮らして貰い、僕らが交代で面倒を見ます、お泊りに来る子達も協力してくれるでしょう。」
「大人の援助はどうする?」
「通常の保育担当者を増やすか、敢えて今のままにし、おっきい子達に手伝って貰うかです。
 子ども達の中には孤児も何人かいます、彼らに手伝って貰えば、彼ら自身の成長にも繋がると思います。」
「そうだな、城の子に面倒を見て貰った子達が、今度は面倒を見る側になるというのは良い事だと思う、八重とも相談しておくよ。
 問題は共通語に馴染むまでか…。」
「巴は、彼らが口にした単語は多くないと話していました。
 それを共通語に置き換えて行けば…、後は彼らの能力次第です。
 三郎おじさん、彼らの相手を出来そうな…、そうですね、四歳以上の城の子を部屋に集め、言葉について説明しておこうと思うのですがどうでしょう?」
「そうだな、まずは彼らに城の子達を紹介しよう。」

 城の大人達は別室に集まり、モニターを通して子ども達の観察をする事にした。

「語彙が少ないから、巴の解説でなんとなく分かるわね。」
「香が修正してる、もう会話し始めてたのかな。」
「まずは名前ね、自己紹介の意味は通じたみたい。」

「城の子達は呆れるほど早く言葉を理解して行く、あっ、食事は?」
「隣の部屋に用意しておいたのだけど…、尊が食事の指示を出したわね。」
「こういう指示は尊なんだな。」
「今回の事もマリアはまず尊に伝えた、翔達は納得してるのかな。」
「大丈夫でしょ、そういった分担もマリアさまと相談したそうよ。」
「まあ特に立場の違いが有る訳でもないか。」
「向こうの大きい子が運ぶのを手伝ってるね。」
「その調子で早く馴染んでくれると良いのだが。
 香は小さい子から離れずにいる、それだけで落ち着かせているのかな。」
「用意が出来た…、いただきますは…、手を合わせた、アジア系だと思うがどこの国だかさっぱり分からない。」
「すぐに和の国の国民になるだろう。」
「日本語も教えるのか。」
「どうするかは子ども達に任せよう。」
「おいしそうに食べてるね、食べ物の名前も教えている。」
「孤児になったのだからカウンセリングの必要が有るな。」
「望達と相談するわ、でも望と香に任せておけば大丈夫かも知れないわね。」
「だな、もうすっかりお母さんをやっていないか。」
「はは、自分達が三之助にして貰って来た事をちゃんとやっているよ。」
「今回こういう出会いが有ったという事は今後も有るという事かしら。」
「可能性は否定出来ないわね、国家を成立させる事が出来なかったコロニーは他にも有るのでしょう。」
「子どもが成長してからだと厄介かもな、まあ、マリアさま次第だが。」
「こういう形で子どもが増えて行くとなると城下町の住居建設計画も見直しか。」
「いや、昇と誠が彼等のコロニーを住み易く作り直して、子ども専用の居住スペースにするそうだ。
 公園を併設して、世界中の子ども達が遊びに行ける様にしてね。
 使い方は城下町の子どもの家と似た様なものにするそうだが、ゲートを子どもの家の中に付け替える予定だとか。
 専用コロニーでは共通語しか使えないというルールにして、共通語の欠点を見つけて行きたいと話していたよ。」

 五人の新しい友達は世界中の子に歓迎され、共通語に慣れて行く。
 もちろん、尊達の働きかけ有っての事だ。

「孤児たちに問題はないのか?」
「今の所は大丈夫、でも、ずっと見守っていて上げないとね。」
「孤児という事を考えて何人かが育ての親を名乗り出てくれているが、城の子達は言葉の問題も有ってまだ結論を出せていない、我々で判断すべきだろうか?」
「答えが一つじゃないから難しいと言ってたわ、でも早く落ち着かせたいとも話してくれたから、私達はのんびり様子見で良いのではないかしら。」

 私もそれで良いと考えていたのだが、翌日マリアから話が有り、緊急会議を開くことになる。

「キング、重要な話とは?」
「忙しい所をすまない、マリアから今後についての相談が有った。
 まず、マリア達は先日孤児と出会った様なコロニーをまだ幾つも持っている、国の集合体を形成する要件を満たせなかった国もだ。
 だが、コロニーで生まれた長子が七歳になるまでに他のコロニーと接続出来なかったコロニー、同じく八歳になるまでに子どもが二十人を超える事無く、多国家からなる世界の一員となれなかった国は、居住者ごと破棄されるというのが、彼らの計画としてプログラムされている。
 因みに、この世界以外にも似た様な世界は幾つか有るそうだが、我々がそこと交流する事は一切出来ない、そこへも我々の食糧支援は届いていたそうだがね。
 そんな世界の中でもマリアが管理するこの世界は、最も成功したと判断され、更なる拡大を認められる事になった。
 ただ、その拡大はこの先破棄される予定だったコロニーを吸収してとなる。
 この拡大は困難を伴うだろうが、世界の維持発展の為には遺伝的要因も含めプラスになるとマリアは判断している。
 私もその判断は正しいと思うし、何と言っても、居住者ごと破棄されるというコロニーの存在を見過ごせない。
 これは、私達の世界、ここの誰から反対されようと推し進めて行かなくてはならないと考えている。」
「私は反対しないわ、反対出来る訳がないでしょ。」
「城の住人の総意なら、誰が反対しても無駄だな。
 今日まで共に歩んで来た城の仲間が人を見捨てるなんて選択肢を選ぶ訳がない、だろ?」
「マリアは子どもを守って欲しいと、大人に関しては私達の判断で決めれば良いというスタンスで、和の国へ子どもだけ移動か、親も一緒にコロニーとゲートを繋ぐか、どちらでも良いと言われた、ただ大人も一緒だとかなり人口が増える事になるそうだ。」
「子どもだけでは可哀そうだわ、保護した子達も口には出さないけど、親子でいる人達を見て寂しそうだもの。」
「望の言う通りだよ、人口が増えても大丈夫さ、今までマリアさまが転送していた余剰生産分が減っても食べてる人は同じだと思う、マリアさまが送った先で食べてるか、ここで食べてるかという事だろう、まだ生産能力にはかなりの余力が有るしな。」
「それなら、この先のスケジュールはこちらの都合に合わせてくれるそうだ、その管理をマリアは誠にお願いしたいと話してたのだが、頼めるか、誠。」
「うん…、じゃなかった、はい。」
「この事はもちろん国連の場でも相談するが、このメンバーが中心にならざるを得ないだろう。」
「これから出会う子ども達の面倒は望と香中心にお願いしたいが、良いかな。」
「はい。」
「もちろん皆でカバーする。」
「なら私は調整役になるわ、誠が動き易い様に。」
「愛がそっちを担当してくれるなら、僕はコロニーの環境改善を、昇、手伝ってくれるか。」
「うん、兄ちゃん、がんばるよ。」
「巴は僕と大人の相手をしよう、大丈夫か。」
「はい、お兄さま。」
「大人相手は大変だぞ…、そうだな二人にはこの際プリンス、プリンセスという称号を授けようか、尊、肩書を有難がる輩には効果的なんだ。」
「二人だけというのは嫌です、僕ら八人…、いえ夢や聡達僕らの妹、弟全員、同じ様にして欲しいです。」
「城の子、神の子という名称はこの世界では当たり前になっている、だが、これから出会う人達にとっては、すぐには馴染めないだろう、う~ん…、八人とも貴族階級の子弟という事にするか?」
「そうね、国連メンバーとも相談してみましょう。」
「城の子に限っては、これまで世界中の人々の為に働いて来たのだから反発もなかろう、他の国のリーダーが真似したら顰蹙を買うだろうがな。」
「特権階級として私達の存在も強調するのか?」
「新たに出会う大人達に向けてと話せば反発する人はそんなにいないと思うわ。」
「貴族となって特権を振りかざしたい訳じゃないが、この世界は民主主義とは違う。
 国民がどういった反応を示すかに興味が有るよ、絶対王政だって王が国民の幸せを真に願っていたら違ったものになっていたと思うし。」
「翔はどう思う? キングの息子だから尊はプリンスという事になるけど。」
「何か問題が有るのですか? 尊は僕らのリーダーですよ、城の子皆でこの世界を守って行くその代表です、僕らにはそれぞれ役割が有り、尊は最終判断を担当して貰っています、今まで尊の判断は間違っていません。」
「そんな風に考えていたのね、これから、もっと真面目な話をする機会を増やさないといけないのかな。」

 確かにそうだ、彼等の本心は、その天才性故に聞きにくくなっていたと思う。
 これから共に世界の為に働く過程で、また違った親子関係が構築されて行くのかもしれない。
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