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07 絶望 [KING-04]

 新体制で保護に臨む最初の単独コロニーは大人八名子ども九名、便宜上第二コロニーと呼ぶことに。
 問題なさそうという当初の見込み通りにファーストコンタクトは上手く行き、今回は音楽村の演奏や夢の歌を聴いて貰い音楽による癒しも試みた。
 それに対し涙する人がいて、彼らの表情からも音楽の効果が確認され、今後もファーストコンタクト後のプログラムに入れて行く事にする。
 このコロニーの子は頻繁にゲートを越えてくれるが、その相手は香とゼロ年生に任せた。
 第一コロニーの子や和の国の子も遊びに来ているが、みんな香の言うことを良く聞いて慣れない子ども達と友達になろうとしてくれている。
 子ども同士言葉が通じなくても問題はなさそう。
 大人達には対面までの期間、録画映像をモニターで見て貰う時間を多く取るので、尊たちは直ぐに第三コロニー、一番小規模なコロニーにも取り組み始める事に。
 大人三名子ども一名の様子を、まずは隠しカメラ映像で見ながら…。

「第三コロニーの人達って表情が暗く感じるのだけど、元々そういう顔なのかしら?」
「どうだかね、子どもは一人だけ、あの子ではゲートを越えて貰えそうにないな。」
「子どもの行き来がないと、安心して貰うまでに時間が掛かるかもだけど、モニター映像と贈り物で何とかしよう。
 こちらに対する警戒心が薄れるまでに時間が掛かりそうなら、次の第四コロニーにもモニターを送ろうか。」
「ねえ、第一コロニーの記録映像だけでなく、第二コロニーの様子も少しずつ見て貰わない?
 場合によっては第四コロニーのも。」
「そうだな、第四コロニーは大人四名子ども二名だから規模が近い、相互に見て貰うというのも有りだね。
 自分達と同じ様なコロニーが存在すると知れば安心出来るかも知れないわ。」
「でも、自分達も見られていると知ることになるだろ、マリアさまが見守っているとは伝えられそうにないから、今は記録映像だけにした方が良いかも。」
「それもそうね、第一コロニーの映像も、対面後を中心にした方が良いかも。」
 それでも、スタッフの顔を覚えて貰え、後の作業が楽になると思うわ。」
「じゃあ、第二や第三コロニーの映像も対面以降を編集して見て貰える様にして行く、ドラマ制作チームに手伝って貰うよ。」
「翔、ドラマ制作が遅れることにはならないの?」
「いや、趣味として取り組みたい人がいて、増員を考えていたんだ。
 サンフランシスコの生産性が上がって来て、余力が有るだろ。」
「うん、作業効率の改善が進んでいるだけでなく、サンフランシスコの人達は少し若返っているみたいだね。
 国全体の雰囲気が明るくなり、リーダーは最近体が軽くなったと感じてるとか。
 僕らが保護して行くコロニーで英語を話せる人がいたら積極的に協力して行きたいと話してくれたよ。」
「それは心強いな、場合によっては単独コロニーをサンフランシスコに繋げても良いね。」
「ああ、他の国はこれから保護する国とのファーストコンタクトが始まる、応援を依頼するにしても大勢とは行かないからな。」
「じゃあ、第三コロニーとのファーストコンタクトは明日でも良いか?」
「大丈夫だ、手順は第二と同じ、但し、子どもの行き来は省略だね。」
 第三コロニーがどんな理由で今の人数になってしまったのかが気に掛かるが、問題が有ったとしても人数が少ないから何とかなる、対面時の見守り人数も少なくて良い訳だから、第四コロニーを意識してスタッフを分けても良いと思うけど。」
「そうね、じゃあ、どういう風に分ける?」
「巴がね、ずっと観察して来た結果、人それぞれ好みが違うと話していてさ。
 第一コロニーの人は、特に望の映像が好きだとか、第二コロニーの男性は愛が出て来るシーンの時に一番表情が緩んでいるとか、そんなことを基準にして担当を分けても良くないかな。」
「へ~、そんな事考えもしなかったわ、さすが巴ね。」
「では、第二、第三コロニーの人達には、見守り担当を予定しているスタッフ全員の映像を見て貰い、その表情から今後の担当を巴に判断して貰えば良いね。
 それでさ、僕らの端末には人の感情を数値化する機能が有っただろ。
 あれは表情と言葉から判断するのだけど、端末にない言語でも使えるかどうか試してみないか。」
「うん、今から取り掛かればスタッフの映像も今日中に準備出来る。
 人の感情を数値化する機能、第三コロニーではファーストコンタクトから試してみようよ。」

 すぐさま翔の指示で動き、護衛スタッフ、第一コロニースタッフ、新たに見守り担当になって貰うため巴が選んだ人達を撮影。
 一人一分程度の動画で、シンプルな自己紹介と共通語の単語説明を試みて貰った。

 翌日。
 まず、第二コロニーの人達に見せ皆で観察。
 その結果、人によって若干の差は見られたものの、端末に表示された数値は全員の好感度を高く示した。
 護衛スタッフは巴と尊が選び、第一コロニースタッフは城の子全員が好感触を持った人達だから当然と言えば当然。
 子ども達は好感度の低そうな人もサンプルに入れようと話し合ったが、その作業に取り組む前に第三コロニーとのファーストコンタクトが待っている。
 そのミッションがスタートして…。

「突然現れたゲートに驚いてはいるけど…、さてモニターを背負ったウサギにはどうかな…。」
「子どもが興味を持って近付きたがってるわね。」
「さあ、僕らが手を振る映像にどういう反応をしてくれるかな。」

 恐る恐るウサギに近づき、背中に括りつけられたモニターの映像を見た彼女達は、歓喜に満ち溢れた表情に。
 モニターに映る城の子達が手を振る映像に向かって手を振ったかと思うと、モニターにキスする者も。

「凄く喜んでくれてるね。」
「端末情報では喜びが最大値になってるわ。」
「はは、見れば分かるよ、でもどうしてこんなに。」
「翔、この人達は絶望していたのだと思う、君たちはゲートが現れる前から観察していただろ。
 あの暗かった表情は、何の希望も無い状況だったからだと思う、女性三人と女の子、女の子はこの先兄弟も友達も出来ず、大人が年老いて亡くなったら独りぼっちになる運命だった。」
「そうか…。」
「ねえ、父さん、喜んでいる今なら、プロテクトが外れる苦しさを乗り越え易いという事は無いかな。」
「予備知識なしでか…。」

 それから、彼女達には用意して置いた映像を見ていて貰い、私達は急遽相談を。
 第一コロニースタッフは、喜びが苦しさをかき消すだろうと自らの経験から示唆してくれた。
 だが言葉の問題は有る。
 一通り皆の意見を聞いた後、尊は、彼女達を待たせないという選択を、そして英語で話しかける事も決めた。
 理解出来る人がいたら、その人の苦痛がとても大きくなると理解した上で。
 和の国の人達は強い苦しみを受けたが全員乗り越えられた。
 もし英語を理解出来る人がいて大きな苦痛を味わう事になったとしても、理解出来る言語で励まされたら乗り越えられるのではないか、そう判断しての決断だ。
 対面に向かうメンバーを決め、ゲートを越えるまで時間を掛けなかったのは、彼女達の喜びが薄れる前にと考えての事。
 ゲートを越える前に、モニター映像を尊、巴、香と五名のスタッフに切り替え、英語で紹介、今から訪問すると告げて、ゲートへ。

 彼女達はゲートから姿を現した八人を、少し戸惑いながらも嬉しそうに迎えた。
 そして…、三人は、第一コロニースタッフの女性達に抱きしめられると大粒の涙を、だが抱きしめているスタッフ達も涙が止まらない。
 一人の女性が英語でカタリナと名乗り話し始めたが、直ぐに苦しみ出す。
 急いで記憶プロテクトの話しをした二人のスタッフは説明しながら見守ることしか出来なかった。
 他の二人は英語が理解出来ない様で、巴と身振り手振りでコミュニケーションを。

 それから尊は次々と指示を出して行く。
 香が子どもを抱き抱え、愛がお茶を運び込み、男性スタッフ達は椅子やテーブルを持ち込み始める。
 急遽呼ばれた音楽村のメンバーが演奏を始め、夢の歌も。
 レストランのメニュー写真をモニターに表示し、食事を選んで貰いながら、お酒の注文を取る。
 彼女達はワインを選択。
 尊によって急遽決められた野外パーティー、その準備が整う頃には、英語を話せるカタリナが落ち付き始めていて、もう泣き笑いしながらおしゃべりに夢中。
 彼女は神に見捨てられた四人という言葉を何度も口にし、城の子の耳に入らない所でここの事情を教えてくれた。
 男女八人でこのコロニーが形成され、リーダーとその管理者だけがコンタクトを取れる状態になった後、しばらくして喧嘩が始まったそうだ。
 和の国三丁目でも起こった事で不思議ではない。
 ただ、運悪く、リーダーが殴られ倒れた拍子に頭を強打して死亡し消え、殴った者も苦しみながら意識を失い、そして消えたという。
 八人が揃ってから僅かな間に、彼らは二人の仲間と管理者を失ったのだ。
 個人で暮らしていた頃の管理者とは全くコンタクトが取れず、六人は途方に暮れた。
 そこから、子どもには聞かせられない様な男女の諍いが有り…。
 結局一人が身籠って間もなく、今の人数にまで減ってしまった。
 子どもが生まれてからは、子どもが希望で有ると同時に、その子の将来に希望がないという絶望感の狭間で…、それでも残った三人は喧嘩することなく細々と生きて来たという。

 カタリナの話は、どこの単独居住コロニーでも起こり得たと思う。
 八人だけの社会、その内の一人がエゴイストで有るだけでも…。
 今でこそ和の国では重要な立場に有る三丁目の連中でも、このコロニーと同じ道を歩んでいたかも知れないのだ。
 まあ、そんな込み入った話までしてくれた事で、こちらは話を進め易くなった。
 急遽開かれた屋外パーティーで、彼女達の気持ち『喜び』を持続させるという尊の判断は正解だったと思う。
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